説明

カーボンナノチューブ薄膜の製造方法

【課題】 使用するカーボンナノチューブが官能基を有するか否かに関わらず、均質なカーボンナノチューブ薄膜を容易に製造することが可能なカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供すること。さらに、任意の基板表面にカーボンナノチューブ薄膜を直接形成することができるカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】 カーボンナノチューブ2とイオン性液体とを含む混合液を製膜用液体4の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブ2を展開する、滴下工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜の製造方法であり、好ましくは、前記混合液の液面上に展開されたカーボンナノチューブ2の薄膜を、液面と平行方向(矢印A方向)に圧縮する圧縮工程、および/または、製膜用液体4の液面上に展開・圧縮されたカーボンナノチューブ2の薄膜を引き上げる、引上工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブが二次元状に敷き詰められた薄膜である、カーボンナノチューブ薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年に発見されたカーボンナノチューブは、炭素原子のみを構成元素とした新しい材料である。その形状は炭素原子の六員環で構成されるグラフェンシートを巻いた一次元性を有する筒状であり、グラフェンシートが1枚の構造のカーボンナノチューブは単層(シングルウォール)カーボンナノチューブ(SWNT)と、多層構造のものは多層(マルチウォール)カーボンナノチューブ(MWNT)と、それぞれ呼ばれている。
【0003】
SWNTは直径約1nm、MWNTは数十nm程度であり、従来のカーボンファイバーと呼ばれる物よりも極めて細い。カーボンナノチューブの性質は、炭素原子のみで構成される他の材料、例えば、グラファイト、アモルファスカーボン、ダイヤモンドなどとは大きく異なる。
カーボンナノチューブの電気特性は、原子配列の仕方(カイラリティー)によって金属的であったり、半導体的であったりと、多様な性質を持っている。また、機械的強度にも優れた材料であるため、様々な分野で注目を集めている材料である。
【0004】
例えばエレクトロニクスの分野では、カーボンナノチューブの特異な電気的性質を電界効果型トランジスターに利用する試みが盛んである。非特許文献1では、一本のSWNTを使って作製した電界効果型トランジスター(FET)の性能について報告されている。当該文献における測定結果では、移動度が105cm2/Vsと、シリコントランジスターを大きく凌駕する値を示した。しかしながらその製造方法は、一本一本のSWNTというナノメータースケールの物質上に電極を配置してFETを作製するという方法であるため、量産して工業利用するには不向きであるという問題があった。
【0005】
この問題を解決する一つのアプローチとしては、一本一本のナノチューブを取り扱うのではなく、バルク状態でカーボンナノチューブを取り扱うという方法が挙げられる。中でも特に、そのままでは粉末状で加工しにくいカーボンナノチューブをフィルム状にすることにより、取り扱いや加工を容易にするという手法が各種検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、シリコンウエハー上に成長させた炭化ケイ素を高温加熱処理してカーボンナノチューブに変換することでカーボンナノチューブ膜を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では基板を1700℃まで加熱する必要があり、プラスチックなどの基板を使用することができない。
【0007】
また、特許文献2には、カーボンナノチューブにアミド基を導入して可溶化し、ラングミュアー−ブロジェット(LB)法によって基板上に積層する事で、カーボンナノチューブ膜を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法でカーボンナノチューブを製膜するためには、カーボンナノチューブに官能基を導入することが必須となっている。すなわち、官能基を導入していないカーボンナノチューブの薄膜を得ることは不可能であるという問題がある。
【0008】
カーボンナノチューブに官能基を導入することなく、薄膜化する方法としては、カーボンナノチューブを溶媒に分散させて基板上にスプレーする方法が知られているが、この場合、カーボンナノチューブが凝集し易いことから良く分散させることができないため、均一な膜を形成することができない。従って、官能基を導入することなく、均一な薄膜を得るためには、カーボンナノチューブを良く分散できる溶媒が必要となっていた。
【0009】
この要求を満たす溶媒として、特許文献3に記載されているイオン性液体を挙げることができる。当該文献では、カーボンナノチューブとイオン性液体とを混合し、せん断力を加えて細分化すると、ゲル状になることが示されている。しかしながら、このゲルからカーボンナノチューブ薄膜を形成する具体的方法については記載されていない。
【0010】
【特許文献1】特開2000−109308号公報
【特許文献2】特開2002−226209号公報
【特許文献3】特開2004−142972号公報
【非特許文献1】T.Durkop et.al., NANO LETTER vol.4, p.35−p.39 2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、使用するカーボンナノチューブが官能基を有するか否かに関わらず、均質なカーボンナノチューブ薄膜を容易に製造することが可能なカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、任意の基板表面にカーボンナノチューブ薄膜を直接形成することができるカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち本発明は、カーボンナノチューブとイオン性液体とを含む混合液を製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開する、滴下工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜の製造方法である。
【0013】
イオン性液体は、常温・常圧で液体である塩であり、一般に良く知られているものから選択すればよい。前記混合液を得るには、選択したイオン性液体にカーボンナノチューブを加え、乳鉢等でよく混合すればよい。この混合液を水等の製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開することで、カーボンナノチューブ薄膜を形成することができる。
【0014】
前記製膜用液体としては、その表面張力が5.0×10-2N/m以上であることが好ましく、具体的な液体としては、水やグリセリンが好ましいものとして例示することができ、これらを混合しても構わない。
【0015】
本発明においては、前記滴下工程に引き続き、前記混合液の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を、液面と平行方向に圧縮する圧縮工程を含むことも好ましい態様である。圧縮工程の操作を行うことにより、カーボンナノチューブが圧縮方向と垂直の方向に配向した状態のカーボンナノチューブ薄膜を製造することができる。
【0016】
滴下工程の後(圧縮工程を含む場合にはその後)に、製膜用液体の液面上に展開(圧縮工程を含む場合には、さらに圧縮)されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げる、引上工程を含むことが好ましい。製膜用液体の液面上に展開ないし圧縮されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げることで、製造されたカーボンナノチューブ薄膜を膜として転用することが容易となる。
【0017】
このとき、基板表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成して利用したい場合には、前記引上工程の操作として、予め所望の基板の一部または全部を製膜用液体に浸漬させておき、前記基板におけるカーボンナノチューブ薄膜を形成したい面に、製膜用液体の液面上に展開ないし圧縮されたカーボンナノチューブの薄膜が当接するように、製膜用液体の液面から前記基板を引き上げることで、前記カーボンナノチューブの薄膜を引き上げる操作とすることが有効である。
【0018】
前記基板を、浸漬状態から単に引き上げるだけで、製膜用液体の液面上に展開ないし圧縮されたカーボンナノチューブの薄膜は、端部が当接する前記基板の表面に順次貼り付いて、容易に転写される。すなわち、前記引上工程の操作を上記操作とすることによって、所望の基板表面に簡便にカーボンナノチューブ薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法によれば、使用するカーボンナノチューブが官能基を有するか否かに関わらず、均質なカーボンナノチューブ薄膜を容易に製造することができる。さらに、本発明のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法によれば、任意の基板表面にカーボンナノチューブ薄膜を直接形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法は、カーボンナノチューブとイオン性液体とを含む混合液を製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開する、〔A〕滴下工程を含むことが必須であり、以降、必要に応じて、前記混合液の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を、液面と平行方向に圧縮する〔B〕圧縮工程、製膜用液体の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げる〔C〕引上工程、のいずれか、あるいは両方の工程の操作が施される。
以下、各工程に分けて、本発明を詳細に説明する。
【0021】
〔A〕滴下工程
本発明において、必須の工程である滴下工程とは、カーボンナノチューブとイオン性液体とを含む混合液を製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開する工程である。
【0022】
(カーボンナノチューブ)
一般にカーボンナノチューブとは、炭素の6角網目のグラフェンシートが、チューブの軸に平行に管を形成したものを言う。カーボンナノチューブは、さらに分類され、グラフェンシートが1枚の構造のものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、一方、多層のグラフェンシートから構成されているものは多層カーボンナノチューブと呼ばれている。どのような構造のカーボンナノチューブが得られるかは、合成方法や条件によってある程度決定される。
【0023】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでも、グラフェンシートが二層以上の多層カーボンナノチューブでも構わない。いずれのカーボンナノチューブを用いるか、あるいは双方を混合するかは、形成されるカーボンナノチューブ薄膜の用途により、あるいはコストを考慮して、適宜、選択すればよい。
【0024】
また、単層カーボンナノチューブの変種であるカーボンナノホーン(一方の端部から他方の端部まで連続的に拡径しているホーン型のもの)、カーボンナノコイル(全体としてスパイラル状をしているコイル型のもの)、カーボンナノビーズ(中心にチューブを有し、これがアモルファスカーボン等からなる球状のビーズを貫通した形状のもの)、カップスタック型カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンやアモルファスカーボンで外周を覆われたカーボンナノチューブ等、厳密にチューブ形状をしていないものも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0025】
さらに、カーボンナノチューブ中に金属等が内包されている金属内包カーボンナノチューブ、フラーレンまたは金属内包フラーレンがカーボンナノチューブ中に内包されるピーポッドカーボンナノチューブ等、何らかの物質をカーボンナノチューブ中に内包したカーボンナノチューブも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0026】
以上のように、本発明においては、一般的なカーボンナノチューブのほか、その変種や、種々の修飾が為されたカーボンナノチューブ等、いずれの形態のカーボンナノチューブでも問題なく使用することができる。したがって、本発明における「カーボンナノチューブ」には、これらのものが全て、その概念に含まれる。
これらカーボンナノチューブの合成は、従来から公知のアーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD法のいずれの方法によっても行うことができ、本発明においては制限されない。これらのうち、高純度なカーボンナノチューブが合成できるとの観点からは、磁場中でのアーク放電法が好ましい。
【0027】
用いられるカーボンナノチューブの直径としては、0.3nm以上100nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの直径が、当該範囲を超えると、合成が困難であり、コストの点で好ましくない。カーボンナノチューブの直径のより好ましい上限としては、30nm以下である。
一方、一般的にカーボンナノチューブの直径の下限としては、その構造から見て、0.3nm程度であるが、あまりに細すぎると合成時の収率が低くなる点で好ましくない場合もあるため、1nm以上とすることがより好ましく、10nm以上とすることがさらに好ましい。
【0028】
用いられるカーボンナノチューブの長さとしては、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの長さが、当該範囲をはずれると、合成が困難、もしくは、合成に特殊な方法が必要となりコストの点で好ましくない。カーボンナノチューブの長さの上限としては、10μm以下であることがより好ましく、下限としては、1μm以上であることがより好ましい。
【0029】
使用しようとするカーボンナノチューブの純度が高く無い場合には、後述する混合液の調製前に、予めカーボンナノチューブを精製して、純度を高めておくことが望ましい(精製工程)。本発明においてカーボンナノチューブの純度は、高ければ高いほど好ましいが、具体的には90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。カーボンナノチューブの精製方法に特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。
【0030】
本発明には、官能基を有するカーボンナノチューブを用いることもできる。かかるカーボンナノチューブに付加可能な官能基としては、具体的には例えば、−COOH、−NH2、−OH、−CHO等の親水性の官能基や、−COOR(Rは炭化水素)、−SiR3(Rは炭化水素)等の疎水性の官能基が挙げられる。
これら官能基の導入方法としては、公知の手法を用いればよく、例えば、特表2002−503204号公報に記載の方法により、カーボンナノチューブに官能基を導入することができる。
【0031】
(イオン性液体)
本発明において、イオン性液体(ionic liquid)とは、よく知られているように、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称され、イオンのみから構成されているにもかかわらず常温・常圧で液体として存在し、有機カチオンと無機アニオンから構成される液体のことを言う。1992年に大気中で安定な有機カチオンと無機アニオンとから構成されるイオン性液体が見いだされて以来、大きな注目を集めている物質である。このイオン性液体は、熱および化学的安定性に優れ、不燃性、不揮発性などの特徴を有する。本発明において、イオン性液体は、一般に良く知られているものから選択すればよい。
【0032】
本発明に好適なイオン性液体としては、下記一般式(1)〜一般式(4)で表されるカチオン(より好ましくは、第4級アンモニウムイオン)と、陰イオン(X-)とから成るものを例示的に列挙することができる。
【0033】
一般式(1)
【化1】

【0034】
一般式(2)
【化2】

【0035】
一般式(3)
【化3】

【0036】
一般式(4)
【化4】

【0037】
上記一般式(1)において、R1は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、特に炭素数1のメチル基が好ましい。また、R2は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を表し、特に水素原子が好ましい。
上記一般式(1)〜(4)において、R3〜R6は炭素数20以下のアルキル基、または、エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が20以下のアルキル基を表す。
なお、一般式(1)において、R1とR3とは同一ではないことが好ましい。
上記一般式(3)〜(4)において、xおよびyは1〜4の間の整数である。
【0038】
これらカチオンに対するカウンターイオンとしての陰イオン(X-)には、例えば、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ビス(トリフロロメチルスルホニル)イミド酸、過塩素酸、トリス(トリフロロメチルスルホニル)炭素酸、トリフロロメタンスルホン酸、ジシアンアミド、トリフロロ酢酸又は有機カルボン酸またはハロゲンの各イオンを例示することができる。
なお、本発明においては、例えば、関東化学株式会社製のイオン性液体等、イオン性液体として上市されているものを問題なく用いることができる。
【0039】
イオン性液体は、使用するカーボンナノチューブの種類に応じて適宜選択する。例えば、使用するカーボンナノチューブが−COOH、−NH2、−OH、−CHO等の親水性の官能基を有する場合には、親水性のイオン性液体を組み合わせるのがよい。一方、使用するカーボンナノチューブが官能基を有さない場合、並びに、−COOR(Rは炭化水素)、−SiR3(Rは炭化水素)等の疎水性の官能基を有する場合には、疎水性のイオン性液体を組み合わせるのがよい。
【0040】
(イオン性液体−カーボンナノチューブ混合液の調製)
前記カーボンナノチューブとイオン性液体とを混合することで、カーボンナノチューブ薄膜製造に使用するイオン−カーボンナノチューブ混合液(以下、単に「混合液」という場合がある。)が調製される(混合工程)。
【0041】
かかる混合の際には、せん断力を加えることが望ましい。この操作では、カーボンナノチューブ一本一本の間にイオン性液体が配位し、カーボンナノチューブ同士をカチオン−パイ相互作用により結びつけることが報告されている(特許文献3)。そのため、本発明のようにイオン性液体を分散媒とした場合、混合液中のカーボンナノチューブ一本一本を完全に独立状態で存在させることはできず、カーボンナノチューブのバンドルが存在することになる。特にこのバンドルは、用いるカーボンナノチューブがSWNTである場合、並びに、MWNTであっても細径で柔軟性がある場合に生じ易い。
【0042】
具体的には例えば、前記イオン性液体と前記カーボンナノチューブとを乳鉢に入れ、乳棒でせん断力を加え良く混合する。15分ほど混合するとイオン性液体にカーボンナノチューブが良く分散した混合液を得ることができる。
当該混合液の調製方法としては、特に限定されるものではなく、前記イオン性液体に良好に前記カーボンナノチューブが分散した状態となるように両者を混合・分散し得る方法であれば、如何なる方法であっても採用することができる。
【0043】
当該混合液中の具体的なカーボンナノチューブの割合としては、一概には言えないが、イオン性液体質量に対し0.001〜5g/g程度の範囲から選択され、0.005〜1g/g程度の範囲が好ましく、0.01〜0.05g/g程度の範囲がより好ましい。
【0044】
(滴下・展開)
以上のようにして得られたイオン性液体−カーボンナノチューブ混合液を製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開することで、当該液面上にカーボンナノチューブ薄膜が形成される。
使用可能な製膜用液体(展開液体、展開溶液)としては、比較的表面張力の大きな液体が好ましく、具体的には、表面張力が5.0×10-2N/m以上であることが好ましく、6.0×10-2N/m以上であることがより好ましく、水および/またはグリセリンが特に好ましい。
【0045】
製膜用液体の液面への前記混合液の滴下量としては、特に制限があるわけではなく、当該混合液中のカーボンナノチューブ濃度、使用しているカーボンナノチューブの種類(SWNTとMWNTとの別、官能基の有無・種類等)、カーボンナノチューブの径・長さ、カーボンナノチューブの純度等に応じて適宜調整してやればよい。また、後工程としての圧縮工程の有無によっても、適切な滴下量の範囲が異なってくるので、その点についても適宜考慮することが好ましい。なお、そもそも単分子膜を形成しようとするものではないため(因みに、単分子膜を形成することは実質的に困難)、カーボンナノチューブの絶対的な理論上の滴下量が存在するわけでも無い。
【0046】
製膜用液体の液面への前記混合液の滴下方法としては、特に制限は無いが、前記混合溶液中のカーボンナノチューブが液面上に良好に展開されるように、例えばピペットやビュレット等を用いて静かに滴下することが望ましい。
当該滴下工程の操作のみで、製膜用液体の液面上にカーボンナノチューブ薄膜を容易に製造することができる。
【0047】
〔B〕圧縮工程
上記滴下工程の操作に引き続いて圧縮工程の操作を施すことで、カーボンナノチューブが一方向に良く揃った(配向した)カーボンナノチューブ薄膜(配向膜)を得ることもできる。ここで、本発明において、圧縮工程とは、前記混合液の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を、液面と平行方向に圧縮する工程である。
【0048】
図1に、当該圧縮工程の操作を施すのに適した装置の一例を表す模式平面図を、図2にそのB−B矢視断面図をそれぞれ示す。
図1および図2において、10は水槽を表し、中には製膜用液体4が液面WLの高さまで満たされている。当該液面WLを矩形に仕切るように枠組み12が組まれており、その内部に、枠組み12の一辺の液面WLにおける長さと略同一長さのフロート6が液面WLに浮かべられている。ただし、フロート6が矢印A方向から見てT字型をしているため、図1においては、フロート6が枠組み12からはみ出しているように見えるが、液面WLにおいては、フロート6が枠組み12の内側に嵌合した状態となっている。なお、フロート6は、必ずしも液面WLに浮かべられた状態になっている必要はなく、少なくとも液面WLに存在していれば足り、下端部が製膜用液体4に浸漬された状態となっていても構わない。
【0049】
この状態の図1および図2に示された装置における、枠組み12およびフロート6により囲まれた広い領域の液面WLに、既述の如きイオン性液体−カーボンナノチューブ混合液を滴下し、展開させる。図1および図2は、イオン性液体−カーボンナノチューブ混合液を滴下し、展開させた状態を示すものであり、当該イオン性液体−カーボンナノチューブ混合液中のカーボンナノチューブの分散状態を符号2により模式的に表している。
【0050】
次に、製膜用液体4の液面WL上に展開されたカーボンナノチューブ2の薄膜を、一般的なラングミュアー−ブロジェット法と同様、矢印A方向(液面と平行方向)にフロート6を移動させて、圧縮する。この操作により、カーボンナノチューブが圧縮方向(矢印A方向)に対して略垂直方向に揃う。
図3は、図1および図2に示された装置における圧縮工程の操作が終了した状態を示す模式平面図であり、図4はそのB'−B'矢視断面図である。各符号は、図1および図2において同一の符号が付された部材ないし矢印と同様である。図1に示されるように製膜用液体4の液面WL上でランダムな方向に向いていたカーボンナノチューブ2が、圧縮工程の操作を施すことにより、図3に示されるように所定の方向に配向する様子がわかる。
また、当該圧縮工程の操作を施すことにより、カーボンナノチューブの配向の他、カーボンナノチューブ相互間の間隙を小さくすることができると言う作用もある。カーボンナノチューブ相互間の間隙を小さくすることで、緻密なカーボンナノチューブ薄膜を形成することができる。
【0051】
圧縮工程における圧縮比(滴下・展開させる製膜用液体の液面の当初の面積S1に対する圧縮後の当該液面の面積S2の割合S1/S2を指す。)としては、混合溶液の滴下量、混合液中のカーボンナノチューブ濃度、使用しているカーボンナノチューブの種類(SWNTとMWNTとの別、官能基の有無・種類等)、カーボンナノチューブの径・長さ、カーボンナノチューブの純度等により一概に言えない。
【0052】
圧縮比が小さいと、圧縮したことによる効果(カーボンナノチューブの配向ならびに緻密化)を発現させることがほとんどできない。一方、圧縮比が過剰に大きいと、カーボンナノチューブの層が歪んだり多層化したりして、膜の平滑性が損なわれる場合がある。ただし、後者の場合、カーボンナノチューブ薄膜の厚膜化を図ることができ、新たな用途に展開できる可能性がある。
【0053】
〔C〕引上工程
以上説明した滴下工程や圧縮工程の操作が終了した段階では、カーボンナノチューブ薄膜は製膜用液体の液面上に存在している状態である。当該カーボンナノチューブ薄膜を利用するためには、これを採取しなければならない。
採取方法としては、製膜用液体を蒸発させたり、転写すべき基板等の対象物を液面に直接接触させたり等、いずれの方法によっても構わないが、引上工程による操作で採取することが好ましい。
【0054】
本発明において、引上工程とは、既述の滴下工程あるいは圧縮工程の後に施される操作であって、製膜用液体の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げることを言う。
具体的な引き上げの操作としては、単に液面上のカーボンナノチューブを掬い上げる操作でも構わないが、より簡便には、予め所望の基板の一部または全部を製膜用液体に浸漬させておき、前記基板におけるカーボンナノチューブ薄膜を形成したい面に、製膜用液体の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜が当接するように、製膜用液体の液面から前記基板を引き上げることで、前記カーボンナノチューブの薄膜を引き上げる操作とすることが好ましい。
【0055】
図5は、引上工程による操作を行うために、予め基板8の一部を製膜用液体4に浸漬させておき、そこにイオン性液体−カーボンナノチューブ混合液を滴下し、展開させた状態を示す模式平面図である。各符号は、図1および図2において同一の符号が付された部材ないし矢印と同様である。当該図5においても、既述の図1および図3と同様、イオン性液体−カーボンナノチューブ混合液中のカーボンナノチューブの分散状態を符号2により模式的に表している。
図6は、図5のC−C矢視断面図である。ただし、製膜用液体4の液面WL上に展開されたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ薄膜2'として描かれている。
【0056】
この状態から、基板8を垂直(矢印D方向)に引き上げると、図7に示されるように、カーボンナノチューブ薄膜2'が当接している端部が順次基板8の表面に貼り付いて、カーボンナノチューブ薄膜2'が基板8表面に転写される。なお、図7は、図6の状態から基板を引き上げている状態を示す断面図である。
【0057】
上記例においては、基板8の片面にカーボンナノチューブ薄膜2'を形成する態様を挙げて説明したが、例えば、基板8全体を完全に製膜用液体4に浸漬させておき、液面WL上に展開されたカーボンナノチューブ薄膜2'の略中央から垂直に引き上げれば、基板8の両面にカーボンナノチューブ薄膜2'を形成することができる。当該方法によれば、カーボンナノチューブ薄膜を所望の基板表面に容易に形成することができる。
また、引上工程による操作の前に、圧縮工程の操作を施すこととすれば、カーボンナノチューブが略平行に配向したカーボンナノチューブ薄膜を所望の基板表面に容易に形成することができる。
【0058】
図8は、予め基板8の一部を製膜用液体4に浸漬させておいて、滴下工程並びに圧縮工程の操作を施した後の状態(図3と同様の状態)を示す模式平面図である。各符号は、図1ないし図6において同一の符号が付された部材ないし矢印と同様である。当該図8においても、既述の図1、図3ならびに図5と同様、イオン性液体−カーボンナノチューブ混合液中のカーボンナノチューブの分散状態を符号2により模式的に表している。
図9は、図8のC−C矢視断面図である。ただし、製膜用液体4の液面WL上に展開されたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ薄膜2'として描かれている。
【0059】
この状態で垂直方向(矢印D方向)に基板8を引き上げると、カーボンナノチューブが配向したカーボンナノチューブ薄膜2'が基板8表面に転写され、容易に形成される。
なお、基板の引き上げ方向は、図6ないし図7においては、垂直方向としているが、必ずしも垂直方向である必要は無い。引き上げと共に、基板表面が順次液表面から表出するようにして、液面上に展開(ないし圧縮)されているカーボンナノチューブ薄膜が順次転写されるように引き上げればよい。
【0060】
基板表面に転写されたカーボンナノチューブ薄膜は、そのまま放置しておいても(いわゆる風乾であっても)じきに製膜用溶液が乾燥し、安定した層が形成されるが、必要に応じて、熱風乾燥やオーブン乾燥を行っても構わない。
ここで用いる基板には特に制限はなく、ガラス、石英、Siウエハー、ポリマーフィルム等を、目的ないし用途に応じて適宜選択して用いればよい。
【0061】
本発明により得られるカーボンナノチューブ薄膜は、極めて平滑で均質である。例えば、カーボンナノチューブを水などの分散媒に分散した単なるカーボンナノチューブの分散液により、基板表面に塗布して形成される塗膜では、決して達し得ない平滑性並びに均一性のカーボンナノチューブ薄膜が形成される。しかも、圧縮工程の操作を加えることにより、カーボンナノチューブが配向したカーボンナノチューブ薄膜を得ることも容易である。
【0062】
原料となるカーボンナノチューブには、一般にアモルファスカーボン等の不純物が含まれ、精製操作を施してもなかなか完全には除去しきれない。圧縮工程による操作により、カーボンナノチューブ相互間を限界まで近接させることができるが、不純物としての粒子の存在により、当該粒子に阻害され、圧縮比を高めてもそれ以上緊密にはできなくなることもある。また、不純物としての当該粒子の存在は、その量もさることながら、その大きさが、各種用途における目的の性能発現の阻害要因として注目される。
そのため、当該不純物の粒子の径としては、できる限り小さいことが好ましく、具体的には、500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0063】
既述の如く、滴下・展開前の混合液の状態において、カーボンナノチューブは複数本がバンドルして、ある程度の太さになっている場合があり、当該状態となった混合液を用いて本発明の製造方法によりカーボンナノチューブ薄膜を形成すると、得られるカーボンナノチューブ薄膜中におけるカーボンナノチューブが、相互にバンドルした状態を含むものとなる。
【0064】
イオン性液体は水等の製膜用液体に対して馴染みが良好であり、たとえ疎水性のイオン性液体を混合液に用いたとしても、滴下工程で該混合液を滴下すると、該混合液から製膜用液体に前記イオン性液体が、徐々にないしどんどん溶け込み、液面上に残るのはカーボンナノチューブが主になっていく。ただし、あまりに長い時間液面上に放置しておくと、イオン性液体に引き摺られてカーボンナノチューブも製膜用液体中に移行してしまうため、様子を見ながら、適当な時間で、引上工程による操作を施すことが望ましい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1・・・SWNT+疎水性イオン性液体;圧縮あり)
(i)精製工程
単層カーボンナノチューブ粉末(純度40%、Aldrich製)を予めふるい(孔径125μm)にかけて、粗大化した凝集体を取り除いたもの(個数平均直径1.5nm、個数平均長さ2μm)30mgを、マッフル炉を用いて450℃で15分間加熱し、カーボンナノチューブ以外の炭素物質を除いた。残った粉末15mgを5N塩酸{濃塩酸(35質量%水溶液、関東化学(株)製)を純水で2倍に希釈したもの}10mlに4時間沈めておくことにより、触媒金属を溶解させた。
【0066】
この溶液をろ過して沈殿物を回収した。回収した沈殿物に対して、上記「加熱〜塩酸に沈める」という工程をさらに3回繰り返して精製を行った。その際、加熱の条件は、「450℃で15分間」から、「450℃で20分間」、「450℃で30分間」、「550℃で60分間」と段階的に強めていった。
【0067】
精製後のカーボンナノチューブは、精製前(原料)と比べ、純度が大幅に向上していることが確認された(具体的には、純度90%以上と推定される。)。なお、最終的に得られた、精製されたカーボンナノチューブは、原料の5%程度の質量(1〜2mg)であった。
上記操作を、新たな原料(単層カーボンナノチューブ粉末)を用いて複数回繰り返すことで、高純度の単層カーボンナノチューブ粉末15mg以上を得た。
【0068】
(ii)混合工程
上記精製工程で得られた単層カーボンナノチューブ粉末を10mg秤量し、疎水性のイオン性液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイト(関東化学製)1gに加え、乳鉢で15分間混合した。
【0069】
(iii)製膜工程
上記混合工程で得られた混合液1μlを枠組みおよびフロートで仕切られた水面(面積:125cm2)上に滴下し、展開した(滴下工程)。
その後、一般的なラングミュアー−ブロジェット法と同様にして、水面上に展開されたカーボンナノチューブをフロートで、幅25cmから3cmまで圧縮(圧縮比:25/3=8.3)した(圧縮工程)。
【0070】
予め浸漬しておいたガラス基板を水面に対して垂直に引き上げることでカーボンナノチューブ薄膜をガラス基板に転写した(引上工程)。そのまま風乾させて、ガラス基板の表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成した。
このようにして得られたガラス基板表面のカーボンナノチューブ薄膜を走査型電子顕微鏡(30000倍)で観察したところ、図10に示すように基板一面にカーボンナノチューブ薄膜が形成されていることが確認できた。また、カーボンナノチューブが圧縮方向に垂直に揃っていることや、カーボンナノチューブのバンドルが形成されていることも確認できた。
【0071】
なお、走査型電子顕微鏡観察には、日立製作所製走査型電子顕微鏡S?4500を使用した。また、写真の倍率は、写真の引き伸ばしの程度により、多少の誤差が生じている(以上、他の走査型電子顕微鏡観察においても同様。)。
最後に、触針式の表面粗さ計で、カーボンナノチューブ薄膜のエッジを走査することにより膜厚を測定したところ、約100nmの均一な薄膜であることが確認された。
【0072】
(実施例2・・・カルボキシル基を有するSWNT+親水性イオン性液体;圧縮あり)
(i)カルボキシル基の付加・・・カーボンナノチューブカルボン酸の合成
単層カーボンナノチューブ粉末(純度40%以上、Aldrich製)を、実施例1と同様の精製工程で精製して、高純度の単層カーボンナノチューブ粉末(具体的には、純度90%以上と推定される。)30mg以上を得た。
【0073】
得られた単層カーボンナノチューブ粉末を30mg秤量し、濃硝酸(60質量%水溶液、関東化学製)20mlに加え、120℃の条件で還流を5時間行い、カーボンナノチューブカルボン酸を合成した。
溶液の温度を室温に戻したのち、5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した。回収した沈殿物を純水10mlに分散させて、再び5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した(以上で、洗浄操作1回)。この洗浄操作をさらに5回繰り返し、最後に沈殿物を回収した。
【0074】
(ii)混合工程
上記工程で得られたカーボンナノチューブカルボン酸を10mg秤量し、親水性のイオン性液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(関東化学製)1gに加え、乳鉢で15分間混合した。
【0075】
(iii)製膜工程
上記混合工程で得られた混合液1μlを枠組みおよびフロートで仕切られた水面(面積:125cm2)上に滴下し、展開した(滴下工程)。
その後、一般的なラングミュアー−ブロジェット法と同様にして、水面上に展開されたカーボンナノチューブをフロートで、幅25cmから3cmまで圧縮(圧縮比:25/3=8.3)した(圧縮工程)。
【0076】
予め浸漬しておいたガラス基板を水面に対して垂直に引き上げることでカーボンナノチューブ薄膜をガラス基板に転写した(引上工程)。そのまま風乾させて、ガラス基板の表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成した。
このようにして得られたガラス基板表面のカーボンナノチューブ薄膜を実施例1と同様にして、走査型電子顕微鏡観察を行い、表面粗さ計で膜厚を測定した。その結果、実施例1と同様、基板一面に膜厚約100nmの均一なカーボンナノチューブ薄膜が形成されていることが確認できた。
【0077】
(実施例3・・・MWNT+疎水性イオン性液体;圧縮なし)
(i)混合工程
多層カーボンナノチューブ粉末(純度95%、Aldrich製)10mgを、疎水性イオン性液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイト(関東化学製)1gに加え、乳鉢で15分間混合した。
【0078】
(ii)製膜工程
上記混合工程で得られた混合液1μlを枠組みで仕切られた水面(面積:125cm2)上に滴下し、展開した(滴下工程)。
予め浸漬しておいたガラス基板を水面に対して垂直に引き上げることでカーボンナノチューブ薄膜をガラス基板に転写した(引上工程)。そのまま風乾させて、ガラス基板の表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成した。
このようにして得られたガラス基板表面のカーボンナノチューブ薄膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、図11に示すように基板一面にカーボンナノチューブ薄膜が形成されていることが確認できた。
【0079】
(実施例4・・・SWNT+疎水性イオン性液体;圧縮なし)
(i)混合工程
実施例1の精製工程で精製された単層カーボンナノチューブ10mgを、疎水性のイオン性液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェイト(関東化学製)1gに加え、乳鉢で15分間混合した。
【0080】
(ii)製膜工程
上記混合工程で得られた混合液1μlを枠組みで仕切られた水面(面積:125cm2)上に滴下し、展開した(滴下工程)。
予め浸漬しておいたガラス基板を水面に対して垂直に引き上げることでカーボンナノチューブ薄膜をガラス基板に転写した(引上工程)。そのまま風乾させて、ガラス基板の表面にカーボンナノチューブ薄膜を形成した。
このようにして得られたガラス基板表面のカーボンナノチューブ薄膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、図12に示すように基板一面にカーボンナノチューブ薄膜が形成されていることが確認できた。
【0081】
(比較例1)
実施例1と同様にしてカーボンナノチューブとイオン性液体の混合液を得た。この混合液1μlを、それぞれエタノール、アセトン、ヘキサンの液面上に滴下した。しかしながら、いずれの場合も液面にカーボンナノチューブは展開されず薄膜を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】圧縮工程の操作を施すのに適した装置の一例を表す模式平面図である。
【図2】図1のB−B矢視断面図である。
【図3】図1および図2に示された装置における圧縮工程の操作が終了した状態を示す平面図である。
【図4】図3のB'−B'矢視断面図である。
【図5】予め基板の一部を製膜用液体に浸漬させておき、そこにイオン性液体−カーボンナノチューブ混合液を滴下し、展開させた状態を示す模式平面図である。
【図6】図5のC−C矢視断面図である。
【図7】図6の状態から、基板を垂直に引き上げた状態を示す模式断面図である。
【図8】予め基板の一部を製膜用液体に浸漬させておいて、滴下工程並びに圧縮工程の操作を施した後の状態を示す模式平面図である。
【図9】図8のC−C矢視断面図である。
【図10】実施例1で製造されたSWNTによるカーボンナノチューブ薄膜(圧縮工程あり)の走査型電子顕微鏡写真(30000倍)である。
【図11】実施例3で製造されたMWNTによるカーボンナノチューブ薄膜(圧縮工程なし)の走査型電子顕微鏡写真(30000倍)である。
【図12】実施例4で製造されたSWNTによるカーボンナノチューブ薄膜(圧縮工程なし)の走査型電子顕微鏡写真(30000倍)である。
【符号の説明】
【0083】
2:カーボンナノチューブ、 2':カーボンナノチューブ薄膜、 4:製膜用液体、 6:フロート、 8:基板、 10:水槽、 12:枠組み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブとイオン性液体とを含む混合液を製膜用液体の液面に滴下し、当該液面上にカーボンナノチューブを展開する、滴下工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記製膜用液体の表面張力が、5.0×10-2N/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記製膜用液体が、水および/またはグリセリンであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記滴下工程に引き続き、前記混合液の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を、液面と平行方向に圧縮する圧縮工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項5】
滴下工程の後に、製膜用液体の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げる、引上工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項6】
圧縮工程の後に、製膜用液体の液面上に展開・圧縮されたカーボンナノチューブの薄膜を引き上げる、引上工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記引上工程の操作が、予め所望の基板の一部または全部を製膜用液体に浸漬させておき、前記基板におけるカーボンナノチューブ薄膜を形成したい面に、製膜用液体の液面上に展開されたカーボンナノチューブの薄膜が当接するように、製膜用液体の液面から前記基板を引き上げることで、前記カーボンナノチューブの薄膜を引き上げる操作であることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記引上工程の操作が、予め所望の基板の一部または全部を製膜用液体に浸漬させておき、前記基板におけるカーボンナノチューブ薄膜を形成したい面に、製膜用液体の液面上に展開・圧縮されたカーボンナノチューブの薄膜が当接するように、製膜用液体の液面から前記基板を引き上げることで、前記カーボンナノチューブの薄膜を引き上げる操作であることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項9】
得られるカーボンナノチューブ薄膜中におけるカーボンナノチューブが、相互にバンドルした状態を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−176362(P2006−176362A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371532(P2004−371532)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】