説明

カーボンナノチューブ薄膜

【課題】使用環境に存在する酸素や水、二酸化炭素、各種浮遊分子等が表面に吸着しても、電荷移動を生じることなく、その分光透過率及び導電性が変化しないカーボンナノチューブ薄膜の提供。
【解決手段】金属性カーボンナノチューブ及び半導体性カーボンナノチューブとから構成され、前記金属性カーボンナノチューブの割合が95重量%以上であり、薄膜表面に電荷移動を生じる物質が吸着したことによる光透過率の変化が光透過率の初期値の5%以下であり、面抵抗の変化が初期値の30%以下であるカーボンナノチューブ薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ薄膜、光透過率の変動が小さく、面抵抗の変動が小さく、安定した導電性を有するカーボンナノチューブ薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、1991年に非特許文献1に発表された。その後、CNTのもつ良好な特性が注目された。電界効果トランジスタや、ミクロサイズの配線材料などの次世代材料として用いられるものとしてCNTに対する期待が大きい。現在使用されている、これらの材料として用いられている材料よりも優れた特性を有していることが期待される。その結果、これらの材料は、現在以上の特性が期待される潜在的な特性を有する材料として期待されるところとなり、積極的に開発が進められてきた。現在では、稀少資源であるインジウムの代替物質として、カーボンナノチューブによる透明導電膜(透明電極)の開発及びその応用に期待が持たれている。
【0003】
CNTには、そのグラフェンシートの巻き方によって、金属及び半導体性CNTが存在する。通常のCNT材料は、金属性及び半導体性CNTの混合物となっている。
CNTは、層の枚数が1層の単層CNT、2層の2層CNT、3層の3層CNT、層の数が多数ある多層CNTが知られている。
可視光を透過する透明電極としては、導電性は最外層のみの性質でほとんど決まるため、層の数が少なく光吸収の弱い単層CNT又は2層CNTが当面の目標となっている。最も望ましい電極材料は単層CNTがよい。これらCNTの合成法は、従来、化学気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法等どのいずれの方法によっても作製されてきた。これらの合成法ではいずれの方法であってもよい。
【0004】
単層CNTは、その炭素原子の結合及び並び方の相違により、半導体性CNTと金属性CNTの2種類がある。合成方法において半導体性CNTと金属性CNTが等確率で生成されとすれば、生成比は2対1とされる。従来の既存の合成法によれば、これら半導体性CNTと金属性CNTの混合物として得られ、それらは束を構成しているとされる。
この半導体性CNTと金属性CNTの混合物からなる薄膜を形成してみると、その電気伝導性は半導体性CNTと金属性CNTの双方が寄与することとなり、混合物からなる導電性は、伝導担体(キャリア)を注入させることにより大きく変化させることができることが知られている。例えば、大気中の酸素や水による正孔注入では、伝導度が高くなることが知られている。また、硫酸に含浸させることによっても、正孔を注入することができるので伝導度が高くなる。この伝導度の上昇の原因は、酸素や水、硫酸による電荷移動(キャリア注入)の結果、半導体性CNTのフェルミレベルを変化させて、電荷は価電子帯に入り、その結果、伝導度に寄与するキャリア濃度が著しく増大できる結果によるものと考えられる。
CNT薄膜を透明導電膜として使用してみると、その薄膜の導電性が環境の変化に応じて、刻々変化してしまうということは材料の特性が刻々変化することを意味し、材料を特定の目的に使用するということから考えると実用化するうえでは障害となる。前記のように変化する原因は、大気中等に存在する酸素や水、二酸化炭素、各種浮遊分子等がCNT表面へ吸着すると、電荷移動が起こり、その結果、薄膜の導電性を変化させることになり、これが薄膜の導電性が変化する原因であると考えられる。これを解決する上からは、
現状のデバイスを使用する環境から考えると、大気中に存在する酸素や水等の分子からデバイスを完全に隔離して、その結果、薄膜の導電性を特定の値に維持することは困難である。
その結果、デバイスが大気中の酸素や水等の分子を吸着しても導電性が変化しない、導電性が安定に保たれているCNT薄膜が求められている。
【非特許文献1】Nature,354,56−58,1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、使用環境に存在する酸素や水、二酸化炭素、各種浮遊分子等が表面に吸着し、その結果電荷移動を生じても、その分光透過率及び導電性が変化しないCNT薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究し、以下の点を見いだして本発明を完成させた。
(1)通常のCNT材料は、金属性CNT及び半導体性CNTの混合物となっている。
(2)この内の半導体性CNTにはエネルギーギャップがあるため、そのままでは良好な導電性は得られない。その理由は、酸素や水、酸などの物質が表面に吸着すると、電荷移動を生じて、伝導度が高い状態を示すと考えられる。
(3)CNTを構成する金属性CNTにはエネルギーギャップが無く、さらにフェルミレベル近傍の状態密度がエネルギーに依存しない電子構造を取るとされる(強結合理論)。その結果、一定の伝導度を有している。
(4)伝導度を一定の範囲に保つ上からは、半導体性CNTを用いることなく、金属性CNTのみを用いて薄膜を作製すれば、得られる薄膜は他の分子や物質が金属性CNT表面に吸着して電荷移動を生じても、CNT薄膜の導電性には大きな変化が生じない。
(5)酸素や水、二酸化炭素、各種浮遊分子等が表面に吸着し、電荷移動を生じても、その分光透過率及び導電性が変化しないCNT薄膜を得ようとするのであれば、
金属性CNTのみを用いて薄膜を作製すれば、得られる薄膜は他の分子や物質が金属性CNT表面に吸着して電荷移動を生じても、CNT薄膜の導電性に大きな変化が生じないこのではなかいと考えた。
(6)そこで、金属性CNT95重量%以上好ましくは99重量%以上を含有する溶液から溶媒を除去してCNT薄膜を形成すると、酸素や水、二酸化炭素、各種浮遊分子等の物質を表面に吸着させた場合であっても、その分光透過率の変化を初期値の5%以下、導電性の面抵抗の変化を初期値の30%以下におさえることができることを見出した。この薄膜を得ることにより、発明が解決しようとする課題を解決することができた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下のことが可能となる。
(1)大気その他の環境中に含まれる分子がCNT表面に付着しても、その透明性及び導電性をほとんど変化させずに、安定した導電性を維持する導電性CNT薄膜を得ることができる。基板上にCNT薄膜を形成し、デバイスとして使用できる。
(2)硫酸のような、酸化性の強い酸に72時間含浸させても、酸に冒されて機能を失うことなく、導電特性をほとんど変えることなく、電極として機能するCNT薄膜を得ることができる。電極に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のCNT薄膜は、金属性CNTと半導体性CNTとから構成され、前記金属性CNTの割合は95重量%以上100%未満、好ましくは99重量%以上100%未満である。
CNT薄膜は基板上に形成されていてもよいし、独立して膜状体を形成していてもよい。
薄膜の厚さは膜の形成方法により適宜調製することができる。
その透明性及び導電性をほとんど変化させずに、安定した導電性を維持する導電性CNT薄膜を得ることができる。基板上にCNT薄膜を形成し、デバイスとして使用できる。
電極として機能するCNT薄膜を得ることができる。
金属性CNTは単層CNTにより構成される。
CNTの合成法は、公知の化学気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法等どの方法によっても製造することができる。
【0009】
製造方法の一例を挙げると以下の通りである。
触媒の存在下にグラファイトにレーザー光を照射してCNTを製造する方法。
平均粒径5ミクロンの高純度グラファイト粉末に、ニッケル酸化物およびコバルト酸化物の粉末をモル濃度比それぞれ0.6%、0.3%ずつ混合し、均一に混ぜ合わせたものを、フェノール樹脂でロッド状に整形固化させ、それを1200℃で2時間、不活性ガス中で焼結したものをターゲットとした。このターゲットを窒素ガス760Torrの雰囲気を満たした石英管中に置き、窒素ガスを毎分100cc程度流しながら、石英管全体を1025℃まで加熱した。ターゲット表面に450mJ/pulseのNd:YAGレーザー光を照射し、炭素およびニッケルおよびコバルトを蒸発させる。これらが電気炉内で凝集し形成された単層カーボンナノチューブが石英管内に付着したものを回収し、原料試料とする。原料試料を、過酸化水素濃度15%の水に分散し、100℃で1.5時間環流し、その後、塩酸で触媒金属を除去し、大気中で350℃まで加熱することにより残留塩酸を除去し、精製されたCNT(直径1.2±0.1nm)を得た。
【0010】
金属性CNTの割合は95重量%以上、好ましくは99重量%以上である前記CNTは薄膜を得るためには、CNTを製造し、製造後の金属性CNT及び半導体性CNT混合物から前記割合の金属性CNTを得たのち、CNT薄膜を製造することが行なわれる。このためには、CNTを製造して得られる金属性CNTと半導体CNT組成物から金属性CNTを抽出分離して高濃度とすることが行なわれる。高濃度としては、95重量%以上、好ましくは99重量%以上とすることが行なわれる。
【0011】
金属性CNTの抽出方法には、以下の方法が知られており、これらの各方法を適用することができる。
半導体性CNTと金属性CNTの混合物から金属性CNTを抽出する方法には、(1)アミンを分散剤として金属性CNTのみを可溶化して分離し、可溶化した溶液から金属性CNTを取り出す方法、(2)過酸化水素を用いて半導体性CNTを酸化させて酸化物として取り出し、金属性CNTを選択的に残し、金属性CNTを分離する方法、(3)DNAを用いて金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法、(4)誘電泳動を用いて金属CNTを選択的に捕獲する方法、(5)界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法がある。
これらの方法の中では、(1)アミンを分散剤として金属性CNTのみを可溶化する方法、又は(5)界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法、さらに望ましくは、界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法によることが有効である。
【0012】
アミンを分散剤として金属性CNTのみを可溶化して分離し、可溶化した溶液から金属性CNTを取り出す方法は以下の通りである。
金属性CNTと半導体性CNTの混合物である合成後未処理のCNT粉末1mgをプロピルアミンの5.0M テトラヒドロフラン溶液10mlに入れ、室温にて二時間超音波を照射した後、遠心分離機により、45620gで12時間、遠心分離を行う。その後、遠心管の上澄みを回収することにより、金属性CNTの割合が多いCNT分散液を得る。一回の処理では金属性CNTの純度は87%程度であるので、この処理を複数回繰り返す事により、高純度の金属性CNTを得る。
【0013】
(5)界面活性剤とiodixanol分子を用いて密度勾配遠心分離で金属性CNTと半導体性CNTを分離する方法は以下の通りである。
(ア)CNT孤立分散液の調整工程
原料CNTを含むコール酸ナトリウム水溶液に、超音波(ブランソンソニファイアー450D:レベル2)をかける。その後、その溶液に対して超遠心分離操作を行い、上部の液を取り出すことにより孤立CNTの分散水溶液を得る。
(イ)金属性CNT分離用遠心管の調整工程
遠心管にコール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS、関東化学:コード37203−11、もしくはシグマアルドリッチより購入:製品コード L6026、)を混合させた溶液をiodixanol分子含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep(iodixanol60%水溶液))を用いて、濃度勾配(20−40%)をかけて配置する。この遠心管に、上記CNT孤立分散水溶液にiodixanol分子含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep(iodixanol60%水溶液))を加えて濃度調整を行ったものを配置する。
(ウ)金属性CNTの分取工程
上記調製を行なった金属性CNT分離用遠心管を遠心分離機(197000G、24時間の遠心分離。遠心分離機:日立工機製、ローター:S52−ST)にかけ、遠心管内に金属性CNTが多く存在する部分と、半導体性CNTが多く存在する部分を形成することにより、金属性CNT及び半導体性CNTの分離を行った。この遠心管内の液体を分取する事により、金属性CNTを多く含む金属性CNT分散水溶液を得る。
(エ)金属性CNTの精製工程
金属性CNTを多く含む金属性CNT分散水溶液に等量のメタノールを加え、孤立分散した金属性CNTを凝集させる。凝集させた金属性CNTを吸引濾過して取り出す。吸引ろ過して金属性CNTに含まれるiodixanol分子、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムを除去する。
【0014】
CNT薄膜の形成は以下の通りである。
基板上もしくは自立性の薄膜を形成する方法には、以下の方法がある。
基板には石英、ポリマー、シリコン、化合物半導体を挙げることができる。
(ア)溶媒に分散した金属性CNTを、加熱した基板上にノズルから霧状に少しずつ吹き付けて成膜する。
(イ)溶媒に分散した金属性CNTを、ニトロセルロースを成分とするメンブレンフィルターを用いて濾過し、メンブレンフィルター上に金属性CNT薄膜を形成する。メンブレンフィルターをアセトン等の溶媒に含浸させて溶解することにより除去し、残った金属性CNT薄膜を基板上に付着させて溶媒を乾燥させて基板上に金属性薄膜を形成する。金属性CNT薄膜は、真空中で250℃まで加熱後、1時間その温度を維持することにより、成膜過程で混入した溶媒や不純物を除去することができる。
(ウ)溶媒に分散した金属性CNTを、ニトロセルロースを成分とするメンブレンフィルターを用いて濾過し、メンブレンフィルター上に金属性CNT薄膜を形成する。メンブレンフィルターをアセトン等の溶媒に含浸させて溶解することにより除去し、溶媒を乾燥させて自立した薄膜を形成する。金属性CNT薄膜は、真空中で250℃まで加熱後、1時間その温度を維持することにより、成膜過程で混入した溶媒や不純物を除去することができる。
【0015】
以下に本発明を実施例により説明する。
本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
CNTの調製
平均粒径5ミクロンの高純度グラファイト粉末に、ニッケル酸化物およびコバルト酸化物の粉末をモル濃度比それぞれ0.6%、0.3%ずつ混合し、均一に混ぜ合わせたものを、フェノール樹脂でロッド状に整形固化させ、それを1200℃で2時間、不活性ガス中で焼結したものをターゲットとした。このターゲットを窒素ガス760Torrの雰囲気を満たした石英管中に置き、窒素ガスを毎分100cc程度流しながら、石英管全体を1025℃まで加熱した。ターゲット表面に450mJ/pulseのNd:YAGレーザー光を照射し、炭素およびニッケルおよびコバルトを蒸発させた。これらが電気炉内で凝集し形成された単層カーボンナノチューブが石英管内に付着したものを回収し、原料試料とした。原料試料を、過酸化水素濃度15%の水に分散し、100℃で1.5時間環流し、その後塩酸で触媒金属を除去し、大気中で350℃まで加熱する事により残留塩酸を除去し、精製されたCNT(直径1.2±0.1nm)を得た。
【実施例2】
【0017】
CNT孤立分散液の調整
30mgの上記原料CNT(直径1.2±0.1nm)を含む30mlのコール酸ナトリウム2%水溶液に超音波(ブランソンソニファイアー450D:レベル2)を4時間かけた。その後、その溶液に対して197000G15分、超遠心分離操作を行い、上部90%の液を取り出すことで孤立CNT分散水溶液を得た。
【実施例3】
【0018】
金属性CNT分離用遠心管の調整
遠心管にコール酸ナトリウム(SC、シグマアルドリッチより購入:製品コード C6445)(0.6%)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS、関東化学:コード37203−11、もしくはシグマアルドリッチより購入:製品コード L6026、)(2.4%)を混合させた溶液をiodixanol分子含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep(iodixanol60%水溶液))を用いて、濃度勾配(20−40%)をかけて配置した。この遠心管に、上記CNT孤立分散水溶液にiodixanol分子含有水溶液(第一化学薬品より購入:製品名 Optiprep(iodixanol60%水溶液))を加えて濃度調整を行ったものを配置した。
【実施例4】
【0019】
金属性CNTの分取
上記遠心管を遠心分離機(197000G、24時間の遠心分離。遠心分離機:日立工機製、ローター:S52−ST)にかけ、遠心管内に金属性CNTが多く存在する部分と、半導体性CNTが多く存在する部分を形成することにより、金属性CNT及び半導体性CNTの分離を行った。この遠心管内の液体を分取する事により、金属性CNTを多く含む金属性CNT分散水溶液(1)を得た。
【実施例5】
【0020】
金属性CNT薄膜の作製
上記金属性CNT分散水溶液(1)に等量のメタノール(和光純薬:特級)を加え、孤立分散した金属性CNTを凝集させた後、ポアサイズ10ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過し、金属性CNT分散水溶液(1)に含まれるiodixanol分子、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムを除去した。フィルター上に残された金属性CNTを再度メタノールに分散し、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205W 200W型超音波洗浄機)にて分散後、ポアサイズ1ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過した。フィルター上に残された金属性CNTをTriton X−100(関東化学より購入)0.5%水溶液に入れ、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて1時間分散し、金属性CNT分散水溶液(2)を作製した。この金属性CNT分散水溶液(2)をポアサイズ0.22ミクロンのセルロース混合エステル製のメンブレンフィルター(ミリポア GSWP02400)にて吸引濾過し、フィルター表面に金属性CNT薄膜を形成した。さらに純水(ミリポア ミリQ Gradient)を薄膜上から注ぎながら吸引濾過を継続し、Triton X―100を洗い流した後、室温にて乾燥させた。セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターに付着した金属性CNT薄膜をアセトン(和光純薬製:特級)中に石英板と共に入れ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターをアセトンに溶解させて除去することにより、石英基板上に金属性CNT薄膜を形成した。金属性CNT薄膜を形成した石英基板をさらに新しいアセトンに2度含浸させ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターの残存物を完全に溶解除去し、石英基板上に金属性CNT薄膜を得た。金属性CNT薄膜を1×10―6Torrに真空排気した石英管に入れ、250℃に加熱して1時間保持して乾燥し、金属性CNT薄膜試料を得た。
【0021】
比較例1
参照用CNT薄膜の作製
本発明の金属性CNT薄膜と通常の処理によるCNT薄膜と比較するため、参照用CNT薄膜を作製した。
上記孤立CNT分散水溶液に等量のメタノール(和光純薬:特級)を加え、孤立分散したCNTを凝集させた後、ポアサイズ10ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過し、孤立CNT分散水溶液に含まれるコール酸ナトリウムを除去した。フィルター上に残された参照用CNTを再度メタノールに分散し、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて分散後、ポアサイズ1ミクロンのフィルター(ミリポア オムニポアメンブレン)により吸引濾過した。フィルター上に残された参照用CNTをTriton X−100(関東化学より購入)0.5%水溶液に入れ、バス型超音波槽(シャープ製 UT−205H 200W型超音波洗浄機)にて1時間分散し、参照用CNT分散水溶液を作製した。この参照用CNT分散水溶液をポアサイズ0.22ミクロンのセルロース混合エステル製のメンブレンフィルター(ミリポア GSWP02400)にて吸引濾過し、フィルター表面に参照用CNT薄膜を形成した。さらに純水(ミリポア ミリQ Gradient)を薄膜上から注ぎながら吸引濾過を継続し、Triton X―100を洗い流した後、室温にて乾燥させた。セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターに付着したCNT薄膜をアセトン(和光純薬製:特級)中に石英板と共に入れ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターをアセトンに溶解させて除去することにより、石英基板上に参照用CNT薄膜を形成した。参照用CNT薄膜を形成した石英基板をさらに新しいアセトンに2度含浸させ、セルロース混合エステル製のメンブレンフィルターの残存物を完全に溶解除去し、石英基板上に参照用CNT薄膜を得た。参照用CNT薄膜を1×10―6Torrに真空排気した石英管に入れ、250℃に加熱して1時間保持して乾燥し、参照用CNT薄膜試料を得た。
【実施例6】
【0022】
金属性CNT薄膜中の金属性CNT含有率の評価
上記金属CNT薄膜と参照用CNT薄膜の吸光度スペクトルを分光光度計(島津製作所:Solid Spec―3700DUV)にて測定した(図1)。
図1は金属性CNT薄膜(実線)及び参照用CNT薄膜(破線)の吸光度スペクトルを示している。
金属性CNT薄膜における波長600nmの金属性CNT固有の光吸収と波長1500nmの半導体性CNT固有の光吸収の強度を参照用CNTにおける波長600nmの金属性CNT固有の光吸収と波長1500nmの半導体性CNT固有の光吸収の強度と比較することにより、金属性CNT薄膜に含まれる金属性CNTの割合は約99%、半導体性CNTの割合は約1%である事を得た。具体的には、270nmの吸収は、炭素原子の総量によって決定される吸収であることから、270nmの吸収ピーク強度で金属性CNT薄膜の吸収スペクトルと参照用CNT薄膜の吸収スペクトルを規格化した。この状態で、金属性CNT由来の600nmの吸収強度を金属性CNT薄膜と参照用CNT薄膜の間で比較すると、参照用CNT薄膜に含まれる金属性CNTの割合は約20%で、残りの半導体性CNTの割合が約80%であることがわかった。参照用CNT薄膜の1500nmの半導体性CNT由来の吸収強度と600nmの金属性CNT由来の吸収強度の比と、金属性CNT薄膜の1500nmの半導体性CNT由来の吸収強度と600nmの金属性CNT由来の吸収強度の比を比較すると、金属性CNT薄膜では参照用CNT薄膜の500倍になっていることがわかった。参照用CNT薄膜に含まれる金属性CNTの割合が20%であることから、金属性CNT薄膜に含まれる金属性CNTの割合は99%であることが得られた。
【実施例7】
【0023】
可視光領域の光透過率(初期値)の測定
上記金属CNT薄膜と参照用CNT薄膜の分光透過率を分光光度計(島津製作所:Solid Spec―3700DUV)にて測定した(図2)。
左図は金属性CNT薄膜の成膜直後(太実線)、硫酸含浸後(細実線)、成膜後11日間大気暴露(太破線)の可視光領域の分光透過スペクトルである。
右図は参照CNT薄膜の成膜直後(太実線)、硫酸含浸後(細実線)、成膜後11日間大気暴露(太破線)の可視光領域の分光透過スペクトルである。
その結果、波長500nmにおける金属CNT薄膜の透過率は57%、参照用CNT薄膜の透過率は39%であった。
【実施例8】
【0024】
面抵抗(初期値)の測定
上記金属CNT薄膜と参照用CNT薄膜の面抵抗を面抵抗計(ダイアインスツルメンツ ロレスタEP)により4探針プローブ(PSPプローブ)で測定した。その結果、金属CNT薄膜の面抵抗は0.92 kΩ/□であった。一方、参照用CNT薄膜の面抵抗は6.2 kΩ/□であった。
【実施例9】
【0025】
面抵抗の経時劣化の評価
CNT薄膜の面抵抗の経時劣化(大気暴露)を調べるため、成膜後11日間室温の大気に暴露したCNT薄膜の面抵抗の値を測定した。金属CNT薄膜の作製後11日後の面抵抗は0.88 kΩ/□、参照用CNT薄膜の作製後11日後の面抵抗は7.1 kΩ/□であった。金属CNT薄膜では約5%の面抵抗の減少、参照用CNT薄膜では約14%の面抵抗の上昇が観測され、金属CNT薄膜の面抵抗変動は参照用CNT薄膜の面抵抗変動よりも小さいことが示された。
【実施例10】
【0026】
分光透過率の経時劣化の評価
CNT薄膜の分光透過率の経時劣化を調べるため、成膜から11日後の分光透過率を測定した。図2参照。金属CNT薄膜の作製後11日後の波長500 nmにおける透過率は57%、参照用CNT薄膜の作製後11日後の500 nmにおける透過率は37%であった。金属CNT薄膜の透過率の変動は0%、参照用CNT薄膜の透過率の変動は5%であり、金属CNT薄膜の透過率の経時変動が参照用CNT薄膜よりも小さいことが示された。
【実施例11】
【0027】
硫酸ドープによる面抵抗変動の評価
環境中の浮遊分子付着によるCNT薄膜の特性変動の加速実験のため、金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜に硫酸を含浸させ、面抵抗の変動を調べた。金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜表面に硫酸(和光純薬:特級純度95%)を滴下し、そのまま密閉して3日間保った。その後、金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜表面の硫酸を純水にて洗い流し、余分な硫酸を除去後乾燥し、硫酸ドープ試料を得た。硫酸ドープした金属CNT薄膜の面抵抗は、0.65 kΩ/□であり、硫酸ドープした参照用CNT薄膜の面抵抗は0.99 kΩ/□であった。初期値と比較すると、金属CNT薄膜では約30%の面抵抗減少、参照用CNT薄膜では、約84%の面抵抗減少であった。硫酸ドープによる面抵抗の変化において、金属CNT薄膜の方が参照用CNT薄膜に比べて変動が小さいことが示された。
【実施例12】
【0028】
硫酸ドープによる分光透過率変動の評価
環境中の浮遊分子付着によるCNT薄膜の特性変動の加速実験のため、金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜に硫酸を含浸させ、分光透過率の変動を調べた。金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜表面に硫酸(和光純薬:特級純度95%)を滴下し、そのまま密閉して3日間保った。その後、金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜表面の硫酸を純水にて洗い流し、余分な硫酸を除去後乾燥し、硫酸ドープ試料を得た。硫酸ドープした金属CNT薄膜の500 nmにおける透過率は57%、硫酸ドープした参照用CNT薄膜の500 nmにおける透過率は35%であった。初期値と比較すると、金属CNT薄膜の透過率の変動は約0%、参照用CNT薄膜の透過率の変動は約10%であった。金属CNT薄膜において、可視光の範囲で最も変動の大きな波長(610nm)においても硫酸ドープによる透過率の初期値に対する変動は約5%であり、金属CNT薄膜の方が参照用CNT薄膜に比べて硫酸ドープによる分光透過率の変動が小さい事が示された。
【実施例13】
【0029】
大気暴露による面抵抗の変動の評価
大気暴露の効果を評価するため、金属CNT薄膜及び参照用CNT薄膜作製後、11日間大気に暴露した試料の面抵抗を真空中で測定し、真空排気する前の面抵抗値と比較する事により、表面に吸着した分子が面抵抗に与える影響を調べた。作製後11日間大気中に暴露した金属CNT薄膜の真空排気する前の面抵抗は0.88 kΩ/□であった。ロータリーポンプで10分間真空排気した後に、真空中で測定した金属CNT薄膜の面抵抗は0.88 kΩ/□であった。作製後11日大気中に暴露した参照用CNT薄膜の真空排気する前の面抵抗は7.1 kΩ/□であった。ロータリーポンプで10分間真空排気した後に、真空中で測定した参照用CNT薄膜の面抵抗は7.4 kΩ/□であった。11日間大気に暴露した金属CNT薄膜の真空排気による面抵抗変動は約0%、11日間大気に暴露した参照用CNT薄膜の真空排気による面抵抗変動は約4%であり、金属CNT薄膜の面抵抗に与える大気暴露の効果は、参照用CNT薄膜よりも小さいことが示された。
以上の結果、金属性CNT薄膜は、参照用CNT薄膜に比べて面抵抗の値が初期値において非常に小さいだけでなく、金属性CNT薄膜は参照用CNT薄膜に比べて面抵抗の経時変化、大気暴露による変化、硫酸ドープによる変化が小さい事が明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】金属性CNT薄膜(実線)及び参照用CNT薄膜(破線)の吸光度スペクトル。
【図2】左図:金属性CNT薄膜の成膜直後(太実線)、硫酸含浸後(細実線)、成膜後11日間大気暴露(太破線)の可視光領域の分光透過スペクトル。右図:参照CNT薄膜の成膜直後(太実線)、硫酸含浸後(細実線)、成膜後11日間大気暴露(太破線)の可視光領域の分光透過スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを備え、前記金属性カーボンナノチューブの割合が95%以上好ましくは99%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項2】
金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを備え、かつ電荷移動を生じる物質が表面に吸着した際の光透過率の変化が初期値の5%以下、及び面抵抗の変化が初期値の30%以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項3】
金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを備え、前記金属性カーボンナノチューブの割合が99%以上であり、かつ電荷移動を生じる物質が表面に吸着した際の光透過率の変化が初期値の5%以下、及び面抵抗の変化が初期値の30%以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ薄膜を備える透明導電膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−18947(P2009−18947A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180598(P2007−180598)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】