説明

カーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法

【課題】基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ複合構造体10は、該基材1と該カーボンナノチューブ柱状構造体2との間に中間層3を備え、該中間層3を備えた基材1とカーボンナノチューブ柱状構造体2との密着力が5N/cm未満であり、該カーボンナノチューブ柱状構造体2の先端の25℃における対ガラスせん断接着力が10N/cm以上であり、該カーボンナノチューブ複合構造体10が備える該カーボンナノチューブ柱状構造体2の先端を被着体に圧着して接着した後、該中間層3を備えた基材1を剥離角度45°以上でピールすることにより、該カーボンナノチューブ柱状構造体2を凝集破壊させることなく剥離転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法に関する。詳細には、本発明は、基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブについては、その優れた熱的特性や電気的特性などから、様々な機能性材料への展開が期待されている。このため、カーボンナノチューブに関し、生産性、用途等、種々の検討がなされている。カーボンナノチューブを機能性材料として実用化させていくためには、例えば、複数のカーボンナノチューブ柱状構造体からなるカーボンナノチューブ集合体とし、その集合体の特性を向上させていくことが挙げられる。
【0003】
カーボンナノチューブ集合体の用途としては、例えば、粘着剤が挙げられる(特許文献1、特許文献2)。産業用途の粘着剤としては、種々の材料が使われているが、そのほとんどは柔軟にバルク設計された粘弾性体である。粘弾性体は、そのモジュラスの低さから被着体にぬれて馴染み、接着力を発揮する。一方、カーボンナノチューブは、その直径がナノサイズであるため、被着体の表面凹凸に追従し、ファンデルワールス力によって接着力を発揮することが明らかとなっている。
【0004】
複数のカーボンナノチューブ柱状構造体からなるカーボンナノチューブ集合体を基材上に備えたカーボンナノチューブ複合構造体は、粘着部材等の様々な用途に適用することが可能である。
【0005】
カーボンナノチューブ複合構造体は、一般に、基材上にて化学蒸着気相法(CVD法)によりカーボンナノチューブを成長形成させて製造される。化学蒸着気相法(CVD法)によるカーボンナノチューブの成長形成は一般に400〜800℃あたりの高温下で行われる。このため、基材としては、高温下でも高い耐久性を示す高耐熱性の材料が用いられる。
【0006】
上記のような高耐熱性の材料からなる基材はカーボンナノチューブとの密着力が低い。このため、カーボンナノチューブ柱状構造体は、基材から剥離して他の被着体に転写して扱うことができる。
【0007】
しかしながら、特に長尺や大面積の基材を用いている場合には、このようにカーボンナノチューブ柱状構造体を基材から剥離する際に、カーボンナノチューブ柱状構造体内において凝集破壊が起こってしまい、他の被着体へのムラのない均一な転写を行うことが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0071870号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0068195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法であって、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に且つムラがなく均一に他の被着体へ剥離転写する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の単離方法は、基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法であって、該カーボンナノチューブ複合構造体は、該基材と該カーボンナノチューブ柱状構造体との間に中間層を備え、該中間層を備えた基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との密着力が5N/cm未満であり、該カーボンナノチューブ柱状構造体の先端の25℃における対ガラスせん断接着力が10N/cm以上であり、該カーボンナノチューブ複合構造体が備える該カーボンナノチューブ柱状構造体の先端を被着体に圧着して接着した後、該中間層を備えた基材を剥離角度45°以上でピールすることにより、該カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく剥離転写する。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記基材が、融点700℃以上の金属材料からなる基材である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記金属材料が、銅、または銅を50重量%以上含む銅合金のいずれかからなる。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記中間層が無機酸化物からなる。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記中間層の厚みが10nm以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法であって、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に且つムラがなく均一に他の被着体へ剥離転写する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施形態におけるカーボンナノチューブ複合構造体の概略断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態におけるカーボンナノチューブ集合体製造装置の概略断面図である。
【図3】ヤング率測定方法を示す概略断面図である。
【図4】体積抵抗率測定装置の概略断面図である。
【図5】本発明の単離方法における剥離の様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の単離方法で用い得る代表的なカーボンナノチューブ複合構造体の概略断面図(各構成部分を明示するために縮尺は正確に記載されていない)を示す。カーボンナノチューブ複合構造体10は、基材1と、複数のカーボンナノチューブ柱状構造体2と、中間層3を備える。
【0018】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体においては、中間層を備えた基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との密着力が5N/cm未満である。該密着力は、好ましくは0.01〜3N/cm、より好ましくは0.05〜1.5N/cmである。中間層を備えた基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との密着力が上記範囲内にあることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0019】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体において、カーボンナノチューブ柱状構造体の先端の25℃における対ガラスせん断接着力は、好ましくは10N/cm以上、より好ましくは15〜200N/cm、さらに好ましくは20〜200N/cm、特に好ましくは25〜200N/cm、最も好ましくは30〜200N/cmである。カーボンナノチューブ柱状構造体の先端の25℃における対ガラスせん断接着力が上記範囲内にあることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0020】
カーボンナノチューブ柱状構造体は、単層であっても多層であってもよい。また、カーボンナノチューブ柱状構造体の直径、比表面積、密度は、任意の適切な値に設定され得る。
【0021】
カーボンナノチューブ柱状構造体の形状としては、その横断面が任意の適切な形状を有していれば良い。例えば、その横断面が、略円形、楕円形、n角形(nは3以上の整数)等が挙げられる。
【0022】
カーボンナノチューブ柱状構造体の長さは、任意の適切な長さに設定され得る。カーボンナノチューブ柱状構造体の長さは、好ましくは300〜10000μmであり、より好ましくは400〜1000μmであり、さらに好ましくは500〜1000μmである。カーボンナノチューブ柱状構造体の長さが上記範囲内にあることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0023】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体は、その層数分布の分布幅、該層数分布の最頻値、該最頻値の相対頻度は、任意の適切な値を取り得る。ここで、層数分布の分布幅とは、カーボンナノチューブ柱状構造体の層数の最大層数と最小層数との差をいう。これらの層数や層数分布は、任意の適切な装置によって測定すれば良い。好ましくは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によって測定される。例えば、20本以上のカーボンナノチューブ柱状構造体をSEMあるいはTEMによって測定すれば良い。
【0024】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体は、例えば、下記の第1の好ましい実施形態または第2の好ましい実施形態を取り得る。
【0025】
<カーボンナノチューブ柱状構造体の第1の好ましい実施形態>
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体の第1の好ましい実施形態は、層数分布の分布幅が好ましくは10層以上であり、該層数分布の最頻値の相対頻度が好ましくは25%以下である。上記層数分布の分布幅は、より好ましくは10〜30層、さらに好ましくは10〜25層、特に好ましくは10〜20層である。上記層数分布における最大層数は、好ましくは5〜30層、より好ましくは10〜30層、さらに好ましくは15〜30層、特に好ましくは15〜25層であり、上記層数分布における最小層数は、好ましくは1〜10層、より好ましくは1〜5層である。上記層数分布の最頻値の相対頻度は、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは5〜25%、特に好ましくは10〜25%、最も好ましくは15〜25%である。上記層数分布の最頻値は、好ましくは2〜10層に存在し、より好ましくは3〜10層に存在する。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体が上記のような実施形態をとることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0026】
<カーボンナノチューブ柱状構造体の第2の好ましい実施形態>
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体の第2の好ましい実施形態は、層数分布の最頻値が好ましくは層数10層以下に存在し、該最頻値の相対頻度が好ましくは30%以上である。上記層数分布の最頻値は、より好ましくは9層以下に存在し、さらに好ましくは1〜9層に存在し、特に好ましくは2〜8層に存在し、最も好ましくは3〜8層に存在する。上記層数分布における最大層数は、好ましくは1〜20層、より好ましくは2〜15層、さらに好ましくは3〜10層である。上記層数分布における最小層数は、好ましくは1〜10層、より好ましくは1〜5層である。上記層数分布の最頻値の相対頻度は、より好ましくは30〜100%、さらに好ましくは30〜90%、特に好ましくは30〜80%、最も好ましくは30〜70%である。上記層数分布の最頻値は、好ましくは1〜10層に存在し、より好ましくは2〜8層に存在し、さらに好ましくは2〜6層に存在する。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体が上記のような実施形態をとることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0027】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材は、高耐熱性の材料からなる基材であれば、任意の適切な基材を採用し得る。例えば、無機材料からなる基材、金属材料からなる基材が挙げられる。好ましくは、金属材料からなる基材であり、より好ましくは、融点700℃以上の金属材料からなる基材であり、さらに好ましくは、銅、または銅を50重量%以上含む銅合金のいずれかからなる基材である。
【0028】
上記無機材料としては、例えば、グラファイトが挙げられる。
【0029】
上記融点700℃以上の金属材料としては、例えば、銅、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛、錫、シリコン、マンガン、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、銀、コバルト、黄銅、白銅、青銅、洋白、コバール合金、インバー(Ni36Fe64)、エリンバー(Ni36Fe52Co12)、ステンレスなどが挙げられる。
【0030】
上記銅を50重量%以上含む銅合金としては、銅を50重量%以上含むものであれば、本発明の効果を発現できる範囲内で任意の適切な他の金属を含み得る。このような他の金属としては、例えば、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛、錫、シリコン、マンガン、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、銀、コバルトなどが挙げられる。上記銅合金の具体例としては、例えば、黄銅、白銅、青銅、洋白、コバール合金などが挙げられる。
【0031】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材のヤング率は、好ましくは250GPa以下であり、より好ましくは1〜200GPaであり、さらに好ましくは10〜150GPaである。
【0032】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材のヤング率が250GPa以下であれば、優れた柔軟性を有することができる。
【0033】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材は、熱伝導率が、好ましくは1〜5000W/mK以上であり、より好ましくは10〜4000W/mKであり、さらに好ましくは50〜3000W/mKであり、特に好ましくは150〜3000W/mKである。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材の熱伝導率が上記範囲内にあることにより、より優れた熱伝導率を発現できるカーボンナノチューブ複合構造体を提供することができる。
【0034】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材は、導電率が、好ましくは1.0×10−1・Ω−1以上であり、より好ましくは1.0×10〜50×10−1・Ω−1であり、さらに好ましくは1.0×10〜20×10−1・Ω−1であり、特に好ましくは1.0×10〜10×10−1・Ω−1である。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材の導電率が上記範囲内にあることにより、より優れた導電率を発現できるカーボンナノチューブ複合構造体を提供することができる。
【0035】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材の厚みは、目的に応じて、任意の適切な厚みを採用し得る。好ましくは200μm以下であり、より好ましくは0.01〜200μmであり、さらに好ましくは0.1〜100μmであり、特に好ましくは1〜100μmである。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる基材の厚みを上記範囲内とすることにより、より優れた柔軟性を有するカーボンナノチューブ複合構造体を提供することができる。
【0036】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる中間層としては、任意の適切な材料を採用し得る。好ましくは、無機酸化物である。このような無機酸化物としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、シリカ−アルミナ(SiO−Al)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、マグネシア(MgO)などが挙げられる。このような無機酸化物は1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0037】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる中間層の厚みは、好ましくは10nm以上、より好ましくは10nm〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmである。本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる中間層の厚みを上記範囲内とすることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。
【0038】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体に含まれる中間層の製造方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、基材上にスパッタによって薄膜を形成する方法が挙げられる。
【0039】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体は、好ましくは、基材の表面に中間層を形成し、該中間層上に触媒層を形成し、化学蒸着気相法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)によって該触媒層上にカーボンナノチューブを成長させて得られる。
【0040】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体を製造する際に用い得る装置としては、任意の適切な装置を採用し得る。例えば、熱CVD装置としては、図2に示すような、筒型の反応容器を抵抗加熱式の電気管状炉で囲んで構成されたホットウォール型などが挙げられる。その場合、反応容器としては、例えば、耐熱性の石英管などが好ましく用いられる。
【0041】
中間層上に触媒層を形成する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、金属触媒をEB(電子ビーム)、スパッタなどにより蒸着する方法、金属触媒微粒子の懸濁液を基板上に塗布する方法などが挙げられる。
【0042】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体を製造する際において用い得る触媒(触媒層の材料)としては、任意の適切な触媒を用い得る。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、金、白金、銀、銅などの金属触媒が挙げられる。
【0043】
上記触媒層の厚みは、好ましくは0.01〜20nm、より好ましくは0.1〜10nm、さらに好ましくは0.1〜5nm、特に好ましくは1〜3nmである。上記触媒層の厚みが上記範囲内にあることによって、複数のカーボンナノチューブ柱状構造体と基材との密着力を、より十分に発現することができる。
【0044】
本発明の単離方法で用い得るカーボンナノチューブ複合構造体を製造する際において用い得る、カーボンナノチューブの原料となる炭素源としては、任意の適切な炭素源を用い得る。例えば、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素;メタノール、エタノールなどのアルコール;などが挙げられる。
【0045】
本発明の単離方法は、基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法であって、上記で説明したカーボンナノチューブ複合構造体を用い、該カーボンナノチューブ複合構造体が備える該カーボンナノチューブ柱状構造体の先端を被着体に圧着して接着した後、該中間層を備えた基材を剥離角度45°以上でピールすることにより、該カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく剥離転写する。
【0046】
カーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体の先端を被着体に圧着して接着する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、被着体上に、カーボンナノチューブ複合構造体を、該カーボンナノチューブ複合構造体が備えるカーボンナノチューブ柱状構造体の先端が下向きになるようにして配置して、圧着して接着する方法が挙げられる。
【0047】
圧着する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、自重のみで圧着させる方法や、ローラー等を用いて外力によって圧着させる方法が挙げられる。
【0048】
被着体としては、カーボンナノチューブ柱状構造体が転写できるものであれば、任意の適切な材料を採用し得る。
【0049】
ピールの方法としては、被着体とカーボンナノチューブ複合構造体の接着によって得られる積層物から、中間層を備えた基材をピールして、カーボンナノチューブ柱状構造体が転写された被着体を得るようにする。
【0050】
本発明の単離方法においては、ピールの剥離角度を45°以上とする。該剥離角度は、好ましくは45°〜180°、より好ましくは60°〜180°、さらに好ましくは90°〜180°である。ピールの剥離角度を上記範囲内とすることにより、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に他の被着体へ剥離転写し得る。なお、本発明にいう剥離角度とは、ピールする際の、基材と被着体とのなす角度をいう。
【0051】
本発明の単離方法によれば、小面積の基材を用いた場合だけでなく長尺や大面積の基材を用いた場合であっても、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に且つムラがなく均一に他の被着体へ剥離転写し得る。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は重量(質量)基準である。
【0053】
≪基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との密着力の測定方法≫
ガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)に、1cm単位面積に切り出したカーボンナノチューブ複合構造体における複数のカーボンナノチューブ柱状構造体の先端が接触するように載置し、5kgのローラーを一往復させてカーボンナノチューブの先端をガラスに圧着した。その後、30分間放置した。引張り試験機(Instron Tensil Tester)で25℃にて引張速度50mm/minにて引張り、剥離面が中間層を備えた基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との界面であることを確認後、単位面積当たりのせん断接着力を求めた。
【0054】
≪ヤング率の測定≫
図3に示すような両端支持の板状試料(d×b×Lmm)の中央部に荷重(PN)をかけたときに生じるたわみ(hmm)を差動トランスにて検出し、ヤング率E(N/m)を下記式から算出した。
E=(1/4)(L/(d・b))(P/h)×10
【0055】
≪熱伝導率の評価≫
(株)リガク社製の「LE/TCM−FA8510B」装置を用い、レーザーフラッシュ法にて、測定項目として熱拡散率(t1/2法)および比熱(外挿法)を採用し、測定温度25℃での基材の熱伝導率を測定した。
【0056】
≪導電性の評価≫
導電性の評価として、体積抵抗率を測定した。図4に示す装置を用い、垂直方向の体積抵抗率を測定した。すなわち、基材を10mmφ、厚み35μmに切り出し、該基材の両末端を導電性のゴム電極(Ag含有、体積抵抗率=5.07×10−3Ωcm)で挟み込み、上側のゴム電極上にSUSの重り(65g)を載置し、電圧(1.0V)をかけ、電流量から体積抵抗率(ρV)を求めた(体積抵抗率ρV(Ωcm)=〔電圧(V)/電流(A)〕×〔面積(cm)/厚み(cm)〕)。測定した体積抵抗率(ρV)の逆数を導電性とした。
【0057】
≪剥離転写の評価≫
ガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)に、20mm×50mm面積のカーボンナノチューブ複合構造体における複数のカーボンナノチューブ柱状構造体の先端が接触するように載置し、5kgのローラーを一往復させてカーボンナノチューブの先端をガラスに圧着した。その後、30分間放置した。基材を所定の剥離角度でピールし、基材のみを除いて、ガラス/カーボンナノチューブの構造とした。そのときの転写状態を評価した。
【0058】
〔実施例1〕
銅基材(日鉱金属社製、JTCS、厚み35μm)上にスパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)によりAl薄膜(厚み20nm)を形成した。このAl薄膜上に、スパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)にてさらにFe薄膜(厚み1nm)を蒸着させて触媒層を形成した。
次に、触媒層付銅基材をカットして、30mmφの石英管内に載置し、水分350ppmに保ったヘリウム/水素(120/80sccm)混合ガスを石英管内に30分間流して、管内を置換した。その後、電気管状炉を用いて管内を765℃まで35分間で段階的に昇温させ、765℃にて安定させた。765℃にて10分間放置後、温度を保持したまま、ヘリウム/水素/エチレン(105/80/15sccm、水分率350ppm)混合ガスを管内に充填させ、30分間放置してカーボンナノチューブを基材上に成長させ、カーボンナノチューブ複合構造体(1)を得た。
得られたカーボンナノチューブ複合構造体(1)中のカーボンナノチューブ柱状構造体(1)は、長さが750μm、層数分布の最頻値が層数2層に存在し、該最頻値の相対頻度が65%であった。
図5に示すように、被着体としてのガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)上に、カーボンナノチューブ複合構造体(1)を、カーボンナノチューブ柱状構造体(1)の先端が下向きになるようにして配置して、5kgローラーで圧着して接着した。次に、中間層を備えた基材を剥離角度45°でピールした。
結果を表1にまとめた。
【0059】
〔実施例2〕
黄銅基材(日鉱金属社製、C2680、厚み35μm、銅:亜鉛=66:34(重量比))上にスパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)によりAl薄膜(厚み15nm)を形成した以外は、実施例1と同様に行い、カーボンナノチューブ複合構造体(2)を得た。
得られたカーボンナノチューブ複合構造体(2)中のカーボンナノチューブ柱状構造体(2)は、長さが710μm、層数分布の最頻値が層数2層に存在し、該最頻値の相対頻度が68%であった。
図5に示すように、被着体としてのガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)上に、カーボンナノチューブ複合構造体(2)を、カーボンナノチューブ柱状構造体(2)の先端が下向きになるようにして配置して、5kgローラーで圧着して接着した。次に、中間層を備えた基材を剥離角度90°でピールした。
結果を表1にまとめた。
【0060】
〔実施例3〕
SUS304(森松工業社製、厚み35μm)上にスパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)によりAl薄膜(厚み20nm)を形成した以外は、実施例1と同様に行い、カーボンナノチューブ複合構造体(3)を得た。
得られたカーボンナノチューブ複合構造体(3)中のカーボンナノチューブ柱状構造体(3)は、長さが640μm、層数分布の最頻値が層数2層に存在し、該最頻値の相対頻度が60%であった。
図5に示すように、被着体としてのガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)上に、カーボンナノチューブ複合構造体(3)を、カーボンナノチューブ柱状構造体(3)の先端が下向きになるようにして配置して、5kgローラーで圧着して接着した。次に、中間層を備えた基材を剥離角度90°でピールした。
結果を表1にまとめた。
【0061】
〔比較例1〕
剥離角度を45°から20°に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
結果を表1にまとめた。
【0062】
〔比較例2〕
基材をシリコンウェハ(KST製、厚み525μm)とした以外は実施例2と同様に行い、カーボンナノチューブ複合構造体(C2)を得た。
得られたカーボンナノチューブ複合構造体(C2)中のカーボンナノチューブ柱状構造体(C2)は、長さが750μm、層数分布の最頻値が層数2層に存在し、該最頻値の相対頻度が71%であった。
図5に示すように、被着体としてのガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)上に、カーボンナノチューブ複合構造体(C2)を、カーボンナノチューブ柱状構造体(C2)の先端が下向きになるようにして配置して、5kgローラーで圧着して接着した。次に、中間層を備えた基材を剥離角度30°でピールした。
結果を表1にまとめた。
【0063】
〔比較例3〕
銅基材(日鉱金属社製、JTCS、厚み35μm)上にスパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)によりAl薄膜(厚み3nm)を形成した以外は、実施例1と同様に行い、カーボンナノチューブ複合構造体(C3)を得た。
得られたカーボンナノチューブ複合構造体(C3)中のカーボンナノチューブ柱状構造体(C3)は、長さが680μm、層数分布の最頻値が層数2層に存在し、該最頻値の相対頻度が63%であった。
図5に示すように、被着体としてのガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)上に、カーボンナノチューブ複合構造体(C3)を、カーボンナノチューブ柱状構造体(C3)の先端が下向きになるようにして配置して、5kgローラーで圧着して接着した。次に、中間層を備えた基材を剥離角度90°でピールした。
結果を表1にまとめた。
【0064】
〔比較例4〕
剥離角度を90°から30°に変更した以外は、実施例3と同様に行った。
結果を表1にまとめた。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果が示すように、本発明の単離方法によれば、カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく容易に且つムラがなく均一に他の被着体へ剥離転写することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の単離方法は、粘着シート、粘着フィルムなどの粘着部材の製造において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 基材
2 カーボンナノチューブ柱状構造体
3 中間層
10 カーボンナノチューブ複合構造体
20 被着体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に複数のカーボンナノチューブ柱状構造体を備えたカーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法であって、
該カーボンナノチューブ複合構造体は、該基材と該カーボンナノチューブ柱状構造体との間に中間層を備え、該中間層を備えた基材とカーボンナノチューブ柱状構造体との密着力が5N/cm未満であり、該カーボンナノチューブ柱状構造体の先端の25℃における対ガラスせん断接着力が10N/cm以上であり、
該カーボンナノチューブ複合構造体が備える該カーボンナノチューブ柱状構造体の先端を被着体に圧着して接着した後、該中間層を備えた基材を剥離角度45°以上でピールすることにより、該カーボンナノチューブ柱状構造体を凝集破壊させることなく剥離転写する、
カーボンナノチューブ複合構造体からのカーボンナノチューブ柱状構造体の単離方法。
【請求項2】
前記基材が、融点700℃以上の金属材料からなる基材である、請求項1に記載の単離方法。
【請求項3】
前記金属材料が、銅、または銅を50重量%以上含む銅合金のいずれかからなる、請求項2に記載の単離方法。
【請求項4】
前記中間層が無機酸化物からなる、請求項1から3までのいずれかに記載の単離方法。
【請求項5】
前記中間層の厚みが10nm以上である、請求項1から4までのいずれかに記載の単離方法。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132075(P2011−132075A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293889(P2009−293889)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【復代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
【Fターム(参考)】