説明

カーボンファイバの製造方法、該製造方法により製造したカーボンファイバ、およびカーボンファイバ製造装置

【課題】装置として極めてシンプルでかつコンパクト等のカーボンファイバ製造装置を提供すること。
【解決手段】本カーボンファイバ製造方法は、流動触媒法によりカーボンファイバを製造する方法において、反応ガスを、屈曲した反応経路内を粘性流領域の圧力で一方向に流しながら、反応ガス成分を反応経路内を流動する触媒粒子に作用させてカーボンファイバを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応ガス中を流動する触媒粒子に該反応ガスを作用させて触媒粒子を成長核としてカーボンファイバを成長させて製造する、いわゆる流動触媒法によりカーボンファイバを製造する方法この製造方法により製造したカーボンファイバ、およびそのカーボンファイバを製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンファイバ、例えばカーボンナノチューブは、ナノオーダーで細くかつ高アスペクト比であり、電子エミッタ材料、水素吸蔵体、高容量キャパシタ材料、二次電池または燃料電池の電極材料、電磁波吸収材料、等に汎用されつつある。このようなカーボンナノチューブは、触媒粒子に反応ガスを作用させてカーボンナノチューブを成長させるようにしている(特許文献1参照)。このようなカーボンナノチューブを製造する製造装置としては、反応炉外のヒータで反応炉を加熱しつつ反応炉中に配置した基板上に反応ガスを導入することによりカーボンナノチューブを製造するようになっている。
【0003】
このような製造装置ではカーボンナノチューブを量産することには不向きであり、また、量産するには装置も大型化、複雑化してしまう。そこで本出願人は、カーボンナノチューブの量産に向いた流動触媒法に着目した。この流動触媒法は、触媒粒子を炭化水素ガス中に流動させながら触媒粒子を成長核としてカーボンナノチューブを成長させて製造するものである。
【0004】
しかしながら、従来の流動触媒法による製造装置においては、装置が大掛かりであること、いわゆるバッチ生産しないとカーボンナノチューブの製造量を制御することが難しいこと、製造したカーボンナノチューブには不純物が多く含まれ低純度であること、反応時間が長短で一定しないためにカーボンナノチューブの長さが一定せず長短混在したカーボンナノチューブが製造されてしまうこと、カーボンファイバが反応炉内で多数回衝突するため真直ぐ直線状に延びたカーボンファイバを製造し難い等の課題があった。
【特許文献1】特開2005−145743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により解決すべき課題は、触媒粒子を反応ガス中に流動させながら該触媒粒子を反応ガス成分に反応させる流動触媒法を用いてカーボンナノチューブ等のカーボンファイバを製造する方法において、装置として極めてシンプルでかつコンパクトであること、カーボンファイバの製造量の制御が容易であること、不純物が少ないカーボンファイバを製造することができること、長さがほぼ一定したカーボンファイバを量産することができること、直線状に延びたカーボンファイバを製造すること等、を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカーボンファイバ製造方法は、流動触媒法によりカーボンファイバを製造する方法において、反応ガスを、屈曲した反応経路内を粘性流領域の圧力で一方向に流しながら、反応ガス成分を反応経路内を流動する触媒粒子に作用させてカーボンファイバを製造することを特徴とする。上記粘性流領域は、クヌードセン数K(=λ/D、ただしDは反応経路の内径、λは反応ガス成分の反応経路内での平均自由行程)が1.0より小さい値でガスが流れる領域と定義することができる。好ましくは、粘性流領域はクヌードセン数Kが0.01より小さい領域である。
【0007】
反応ガスは炭化水素ガスとキャリアガスとの混合ガスである。
【0008】
屈曲の形状には限定されないが、好ましくは螺旋状である。
【0009】
本発明においては、反応経路が螺旋状等に屈曲した経路からなるので当該反応経路の経路長を長くしたとしてもこの反応経路を反応管で構成した場合そのサイズを短く小さくして装置のコンパクト化を図ることができる。
【0010】
本発明においてはまた、経路内の入口から出口までに一方向に反応ガスを流動させるので経路内の汚染を有効に防止することが可能となり、これによって高純度、高品質なカーボンファイバを製造することができる。
【0011】
本発明においてはさらに、経路内を一方向に反応ガスを流動させるので反応時間を一定に制御することができるようになり、長さがほぼ一定したカーボンファイバを量産することができる。
【0012】
本発明においてはさらに、反応路のガスの流れが粘性流領域であるので、層流や乱流を形成することによって反応路内壁付近の流速が低下し、これによってカーボンファイバが反応炉内壁にで衝突しなくなり直線状に延びたカーボンファイバを製造することができる。
【0013】
好ましくは上記反応経路をその長手方向に複数のゾーンにわけ、各ゾーンを個別に、圧力、導入ガスの種類、温度の1つあるいはこれらの組合わせをゾーン制御する。このゾーン制御では、明確な接合部が無い複数の構造を有するカーボンファイバを製造することができるようになる。
【0014】
カーボンファイバは、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノバンブ、グラファイトナノファイバを含むことができる。
【0015】
触媒粒子の材料は、その構成要素に炭素を含有する化合物ガスに作用する材料であれば特に限定されず、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等およびこれらの酸化物を例示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置をコンパクトにする一方で同時に反応時間の制御、カーボンファイバの成長の制御等を行い、高品質なカーボンファイバを量産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るカーボンファイバ製造方法を説明する。
【0018】
図1は実施の形態に係る製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。なお、図中では理解の都合によりカーボンファイバや触媒粒子は誇張して示されている。実施の形態のカーボンファイバ製造装置10は、キャピラリ管12と、加熱炉14と、反応ガス供給部16と、触媒粒子供給部18とを備える。
【0019】
キャピラリ管12は、管路が一方向長手に螺旋状に屈曲して延びる反応経路を構成している。このキャピラリ管12とは、触媒粒子が反応ガスに反応するための経路である。キャピラリ管12は、極細管であり、石英ガラス等のガラス製であってもよいし、反応ガスに非反応の金属製であってもよいし、エンジニアリングプラスチック等の樹脂製であってもよい。キャピラリ管12の螺旋形状や螺旋径や螺旋回数等は、反応時間、反応温度、等により実験等で適宜に決定することができる。キャピラリ管12は、管入口12aと管出口12bとを備えた両端開口となっている。キャピラリ管12は管入口12a側で反応ガスや触媒粒子の供給に便利なように広く開口することができる。管出口12b側では製造したカーボンファイバを排出のため広く開口することができる。キャピラリ管12は図外のチャンバ内部に配置することができるが、チャンバ内部に配置されなくてもよい。
【0020】
加熱炉14は、キャピラリ管12の外径側の周囲を取り囲むようにして該キャピラリ管12から所定距離隔てて配置されている。加熱炉14はキャピラリ管12を外部から加熱することにより、キャピラリ管12の管路内の雰囲気温度を所要の反応温度に制御することができるようになっている。
【0021】
反応ガス供給部16は、供給管17を介してキャピラリ管12に分岐接続され、キャピラリ管12の管路内に炭化水素ガスや水素ガス等の触媒粒子の作用等によりカーボンファイバ13を成長させるのに必要な反応ガスを供給する。反応ガスは炭化水素ガスとキャリアガスとの混合ガスである。
【0022】
触媒粒子供給部18は、供給管19を介してキャピラリ管12に分岐接続され、キャピラリ管12内部に触媒粒子13aを供給する。
【0023】
本実施の形態では、以上の構成を備えたカーボンファイバ製造装置を用いて流動触媒法によりカーボンファイバを製造するものであり、このキャピラリ管12の管路内の反応ガスの流れを粘性流領域に設定して、カーボンファイバ13を製造することを特徴としている。この場合、上記粘性流領域を、クヌードセン数K(=λ/D、ただしDはキャピラリ管12の管内径、λは反応ガス成分のキャピラリ管12の管路内での平均自由行程)が1.0より小さい値、好ましくは、クヌードセン数Kが0.01より小さい値である。
【0024】
以下、その流動触媒法を用いてカーボンファイバ13を製造する方法を説明すると、まず、キャピラリ管12の管路内に反応ガス供給部16から原料ガスとキャリアガスとの混合ガスからなる反応ガスを管入口12aから供給する。この反応ガスにおいては原料ガス濃度調整ならびに触媒粒子の供給を目的としてHeガス等のキャリアガスを導入することができる。この供給した反応ガスを、管路内を管出口12bに向けて一方向に流していく一方、この管路内に触媒粒子供給部18から触媒粒子を供給する。これによってキャピラリ管12の管路内で触媒粒子の触媒作用により触媒粒子13aを成長核としてカーボンファイバ13が成長して製造される。この場合、カーボンファイバ13は触媒粒子13aが管路内を管入口12aから管出口12bに流動する過程で触媒粒子13aに付着して成長していく。
【0025】
そして、実施の形態では、キャピラリ管12を一方向長手に螺旋状に屈曲させていることにより、キャピラリ管12はその全体が加熱炉14と対向する配置長さであるが、非常に長い反応経路を確保することができる。そのため、装置としてはシンプルでコンパクトであるが、カーボンファイバ13を製造させるのに十分な長さを確保することができる。また、キャピラリ管12の管入口12aで触媒粒子の供給量や反応ガスの供給量を制御してカーボンファイバの製造量を制御することが可能であるからバッチ生産する必要がない。さらに、キャピラリ管12の管路内を一方向にのみ反応ガス、触媒粒子が通過するので、不純物が管路内に滞留しにくく、したがって、管路内が汚染されずに反応させることができるので高純度なカーボンファイバ13を製造することができる。さらには、キャピラリ管12の管路内を触媒粒子が管入口12aから供給されてから管出口12bから排出されるまでの時間を反応ガスの流速制御で制御することができるので、触媒粒子による反応時間を容易にかつ高精度に一定に管理することができ、結果として、長さがほぼ一定したカーボンファイバ13を量産することができる。
【0026】
そして、本実施の形態では、キャピラリ管12の管路内の反応ガスの流れを粘性流領域に設定しているので、キャピラリ管12が螺旋状に屈曲していても、カーボンファイバ13の成長点である触媒粒子13aがキャピラリ管12の管路の内壁と衝突しなくなり、カーボンファイバ13を直線状に成長させて製造することができるようになる。
【0027】
図2は本発明の他の実施の形態に係るカーボンファイバ製造装置10を示す。図1と対応する部分には同一の符号を付し同一の符号に係る部分の説明は省略する。この実施の形態では、加熱炉14がキャピラリ管12の内径側に配置されている。この加熱炉14の配置形態では、図1と比較して明らかであるように、装置をよりコンパクト化することができる。
【0028】
図3は本発明のさらに他の実施の形態に係るカーボンファイバ製造装置10を示す。図1と対応する部分には同一の符号を付し同一の符号に係る部分の説明は省略する。この実施の形態では、キャピラリ管12を長手方向に複数の、例えば3つの加熱制御ゾーン12a,12b,12c(実施の形態では説明の都合3つのゾーンであるが、これに限定されない。以下でも同様である。)にわけており、各加熱制御ゾーン12a,12b,12c毎に加熱炉14a,14b,14cを個別配置し、各加熱制御ゾーン12a,12b,12cを個別にゾーン加熱制御するゾーン制御部を備えたものである。このようなゾーン制御部を備えたことにより、種々の物性を備えたカーボンファイバを製造することができるようになる。
【0029】
図4は本発明のさらに他の実施の形態に係るカーボンファイバ製造装置を示す。図1と対応する部分には同一の符号を付し同一の符号に係る部分の説明は省略する。この実施の形態では、キャピラリ管12を長手方向に複数の、例えば3つのガス導入ゾーンにわけ、各ガス導入ゾーン毎に3つの反応ガス供給部20a,20b,20cを供給制御弁21a,21b,21c付きの供給管22a,22b,22cを介して接続し、この反応ガス供給部20a,20b,20cから別の種類の反応ガスを供給するゾーン制御部を備えたものである。このようなゾーン制御部によりキャピラリ管12内のガスをその種類を変えて途中供給することにより、種々の物性を備えたカーボンファイバを製造することができるようになる。
【0030】
図5は本発明のさらに他の実施の形態に係るカーボンファイバ製造装置を示す。図1と対応する部分には同一の符号を付し同一の符号に係る部分の説明は省略する。この実施の形態では、キャピラリ管12を長手方向に複数の、例えば3つの圧力制御ゾーンにわけ、各圧力制御ゾーン毎に、圧力調整弁25a,25b,25c付きの圧力調整管22a,22b,22cの一端側をキャピラリ管12に、他端側を圧力調整部24a,24b,24cにそれぞれ接続したゾーン制御部を備えたものである。このゾーン制御部により、キャピラリ管12内部の圧力をゾーン制御可能としている。このようにキャピラリ管12の管路内の圧力を途中で変えることができるようにしたことにより、種々の物性を備えたカーボンファイバを製造することができるようになる。
【0031】
以上の図3ないし図5の1つあるいはこれらの組合わせでゾーン制御してカーボンファイバを製造する場合、明確な接合部が無い複数の構造を備えたカーボンファイバを製造することができる。例えば、キャピラリ管12の管路を3つのゾーンにわけ、それぞれのゾーン制御により、第1のゾーンではナノチューブ構造の製造に対応した圧力、ガス、温度をゾーン制御して例えばマルチウォールナノチューブ構造を成長させ、次いで第2のゾーンではナノコーン構造の製造に対応した圧力、ガス、温度をゾーン制御してナノコーンを成長させ、次いで第3のゾーンではグラファイトの製造に対応した圧力、ガス、温度をゾーン制御してグラファイトを成長させることにより、物性が異なる3つの明確な接合部が無い連続した構造を有するカーボンファイバを製造することができる。
【0032】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々な変更ないしは変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は実施の形態の製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は他の実施の形態の製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。
【図3】図3はさらに他の実施の形態の製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。
【図4】図4はさらに他の実施の形態の製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。
【図5】図5はさらに他の実施の形態の製造方法の実施に用いるカーボンファイバ製造装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 カーボンファイバ製造装置
12 キャピラリ管(反応管)
12a 管入口
12b 管出口
13 カーボンファイバ
13a 触媒粒子
14 加熱炉
16 反応ガス供給部
18 触媒粒子供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動触媒法によりカーボンファイバを製造する方法において、反応ガスを屈曲した反応経路内に粘性流領域で一方向に流しながら、反応ガス成分を、反応経路内を流動する触媒粒子に作用させてカーボンファイバを製造する、ことを特徴とするカーボンファイバの製造方法。
【請求項2】
上記屈曲の形状を螺旋状とする、ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバの製造方法。
【請求項3】
上記粘性流領域は、クヌードセン数K(=λ/D、ただしDは反応経路の内径、λは反応ガス成分の反応経路内での平均自由行程)が1.0より小さい値でガスが流れる領域である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンファイバの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法により製造されたものでほぼ直線状に長い構造を有する、ことを特徴とするカーボンファイバ。
【請求項5】
上記反応経路をその長手方向に複数のゾーンにわけ、各ゾーンを個別に、圧力、導入ガスの種類、温度の1つあるいはこれらの組合わせでゾーン制御する、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカーボンファイバの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のカーボンファイバ製造方法により製造されたもので明確な接合部が無い複数の構造を有する、ことを特徴とするカーボンファイバ。
【請求項7】
流動触媒法によりカーボンファイバを製造する装置において、屈曲した少なくとも1つの管路と、反応ガスを上記管路内に粘性流領域で一方向に流す反応ガス供給部と、当該管路内に触媒粒子を供給する触媒粒子供給部とを備える、ことを特徴とするカーボンファイバ製造装置。
【請求項8】
上記反応経路が一方向長手の螺旋状に延びる管路である、ことを特徴とする請求項7に記載のカーボンファイバ製造装置。
【請求項9】
上記粘性流領域は、クヌードセン数K(=λ/D、ただしDは反応経路の内径、λは反応ガス成分の反応経路内での平均自由行程)が1.0より小さい値でガスが流れる領域である、ことを特徴とする請求項7または8に記載のカーボンファイバ製造装置。
【請求項10】
上記反応経路をその長手方向に複数のゾーンにわけ、各ゾーンを個別に、圧力、導入ガスの種類、温度の1つあるいはこれらの組合わせでゾーン制御するゾーン制御部を有する、ことを特徴とする請求項9に記載のカーボンファイバ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−126313(P2007−126313A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318797(P2005−318797)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】