説明

カーボン/シリコンカーバイド系複合材料

【課題】炭素繊維の靭性等の機械的特性を劣化させることなく、稠密性の高い耐熱性カーボン/シリコンカーバイド系複合材料を製造する。
【解決手段】シリコンカーバイド相で構成された母相と、この母相に分散された炭素繊維と、ケイ素及びこのケイ素の融点を降下させるための元素を含む共晶金属相とを含み、前記炭素繊維は、ケイ素及び前記元素の複合炭化物で形成されたカバー層で覆われているカーボン/シリコンカーバイド系複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン/シリコンカーバイド系複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、5〜10ミリメートルの短繊維状炭素繊維、リング状炭素繊維織布、もしくはフェルト状炭素繊維をポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、パラフィン、ピッチ、ポリスチレン等でコーティングした後、バインダーおよび添加剤とともに混練した後、型に入れて成形し、窒素またはアルゴンガスの雰囲気中で1100℃×11時間の焼成を行い、その表面をダイヤモンド工具にて加工し、ケイ素(Si)を含浸させることで、自動車用のブレーキロータを製造する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、0.1〜5ミリメートルの黒鉛繊維を用い、ケイ素含浸(Si含浸)で作製した材料を加圧のみのプリプレグ成形し、炭化した後、炭素源含浸および炭化を3回まで繰り返し、さらに黒鉛化させ、この塊を粉砕、配合、成形、炭化、ケイ素含浸の順で製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−522709号公報
【特許文献2】特開平10−251065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭素繊維は、一般に、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維、ピッチ繊維等の前駆体を不活性雰囲気下、例えば1200℃以上で焼成して得られる。前記炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度が高いほど、炭素繊維の弾性率は向上するため、機械的強度パラメータである弾性率を調整する目的から、1200〜2000℃で実施している。
【0006】
しかし、硬い針状の炭素繊維は高弾性率であるが、靭性もしくは柔らかさが不足する。そのため、前記硬い針状の炭素繊維は、小刻みな形状変化に追随するのは困難であり、また、垂直に近い隅を有する形状には隅で炭素繊維が折れやすくなるため不適切である。
【0007】
従来のケイ素含浸は、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度より高い1450〜1600℃で行っているため、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度が1600℃以上であれば、前記炭素繊維は前記含浸温度の影響を受けない。但し、ケイ素含浸は非常な高温であるため、1600℃という高温域では精確な数値で炉内温度を保証することができない。前記炉内温度の制御可能な温度領域として、100℃以内であれば可能である。ここで、炭素繊維の焼成温度がケイ素含浸温度より高温側で100℃以下である場合をケイ素含浸プロセス温度と呼ぶことにする。
【0008】
前記ケイ素含浸プロセス温度が1200〜1600℃で焼成して得られた炭素繊維に対して高すぎることが、本発明が解決しようとする課題に該当する。
【0009】
カーボン/シリコンカーバイド系複合材料において、柔軟性もしくは靭性が重要パラメータであって、本発明の課題である炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度が1200〜1600℃の場合、ケイ素含浸プロセス温度を前記焼成温度より低くすることで解決する。
【0010】
このように本発明者らは、ケイ素含浸の際に炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度よりも高い温度で熱履歴を与えることが炭素繊維の靭性等の機械特性を劣化させることを見出したものである。
【0011】
本発明の目的は、炭素繊維へのケイ素含浸の際の温度を炭素繊維の焼成温度以下にすることによって、炭素繊維の靭性等の機械的特性を劣化させることなく、稠密性の高いカーボン/シリコンカーバイド系複合材料を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料は、シリコンカーバイド相で構成された母相と、この母相に分散された炭素繊維と、ケイ素及びこのケイ素の融点を降下させるための元素を含む共晶金属相とを含み、前記炭素繊維は、ケイ素及び前記元素の複合炭化物で形成されたカバー層で覆われていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料は、前記母相に酸素トラップ粒子が分散していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、靭性・耐熱性が高く、かつ耐酸化性に優れたカーボン/シリコンカーバイド系複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の微細組織を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明におけるSiの低温化のための共晶金属(Al、Ti)の組成と融点(凝固点)との関係を示すグラフである。
【図3】本発明におけるSi−Al−Ti合金の微細組織を示す光学顕微鏡による画像である。
【図4】標準弾性率タイプ(HT)の炭素繊維を1200℃で加熱した後のX線回折データを示すグラフである。
【図5】標準弾性率タイプ(HT)の炭素繊維を1450℃で加熱した後のX線回折データを示すグラフである。
【図6】本発明による実施例のブレーキ用部材であるロータを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、炭素繊維を、溶融したケイ素(Si)を主成分とする共晶金属に含浸し、耐熱強度および靭性を向上させたカーボン/シリコンカーバイド系複合材料に関する。
【0017】
本発明は、母相を構成するSiC相中に、炭素繊維と、Si−Al共晶合金とを含む耐熱材料であって、このSi−Al共晶合金は融点が炭素繊維焼成温度より100℃以上低い温度であることを特徴とする。また、Si−Al共晶合金母相中にAlSi含有複合酸化物粒子(AlおよびSiを含有する複合酸化物粒子)が微細分散した構造を有することを特徴とする。
【0018】
(複合材料の概要)
図1は、本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の微細組織を模式的に示す斜視図である。
【0019】
本図に示すように、本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の微細組織は、炭素繊維11、炭化ケイ素単体で構成されたSiC相12、ケイ素と、ケイ素と共晶金属を形成する無機材料とで構成された共晶金属相13、樹脂由来の残炭成分とケイ素とが化学結合した炭化ケイ素もしくは共晶金属の炭化物(カーバイド)で構成されたカバー層14、チタン、クロム、マンガンあるいはモリブデン等とケイ素とで構成された共晶金属(TiSi等)で構成された酸素トラップ粒子15、及び複合材料の表面を覆う金属酸化物で構成された酸素バリア層16とを含む。また、炭素繊維11とカバー層14との間にはアモルファスカーボン層17が形成されている。
【0020】
ここで、酸素トラップ粒子15は、カーボン/シリコンカーバイド系複合材料に侵入して拡散してきた酸素と結合し、捕捉することにより、炭素繊維11が酸化されて消失してしまうことを防止するためのものである。また、酸素バリア層16は、カーボン/シリコンカーバイド系複合材料の外部からの酸素の侵入を遮断するためのものである。
【0021】
このカーボン/シリコンカーバイド系複合材料は、炭素繊維11を樹脂中に分散し、炭素化したカーボン複合材料に、ケイ素(Si)を主成分とする共晶金属を形成する無機材料(含浸材料)を溶融温度以上に加熱して含浸させることにより製造する。ケイ素と共晶金属を形成する無機材料には、アルミニウム、金、銀等を用いることができる。また、無機材料に第三添加元素としてチタン、クロム、マンガンあるいはモリブデン等を添加することができる。この第三添加元素の添加により、酸素トラップ粒子15を形成することができる。なお、無機材料に第三添加元素としてチタンが含まれる場合、カバー層14には炭化チタン(TiC)も形成される。また、無機材料に第三添加元素としてクロム(Cr)が含まれる場合、酸素バリア層16は、クロム酸化物を含む安定な酸化膜となる。
【0022】
さらに、ケイ素を主成分として含有する共晶金属(相)は、面心立方格子結晶を有することが望ましい。
【0023】
炭素繊維11が直接溶融したケイ素に接触して炭化ケイ素を形成すると脆化し、機械的性質が劣化する場合がある。炭素繊維11と溶融ケイ素との直接接触を防止する目的で、炭素繊維11にアモルファスカーボン層17(ガラス状炭素)を形成している。また、共晶金属相13は、10マイクロメートル以下の針状もしくは多形の微細組織としてSiC相12中に分散する。酸素トラップ粒子15は、炭素繊維11以外の領域に1マイクロメートル以下の粒子として分散する。
【0024】
(カーボン/シリコンカーバイド系複合材料の製造工程)
本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料は、炭素繊維を樹脂中に分散させ、所望の形状に加圧成形後に、不活性雰囲気下で炭素化を行った後に、1200℃以下の融点(凝固点ともいう。)を有するケイ素を含む無機材料(含浸材料)に含浸させて製造される。
【0025】
炭素繊維に炭素繊維のSiC化防止用カーボン(例えば、レゾール等の樹脂)を付着させる際には、糸紬法を用いることが好ましい。
【0026】
炭素繊維は、1200〜2400本を束ねたテープ状の束であることが好ましく、これをレゾール等の樹脂中に潜らせることにより、炭素繊維の表面に樹脂コーティングを施すことが、後の工程における炭素繊維のSiC化防止の観点で好ましい。
【0027】
樹脂コーティングを施した炭素繊維は、乾燥・硬化後、3〜12ミリメートルの短繊維に切断することが好ましい。切断した炭素繊維は、フェノール樹脂と配合し、配合組成物とする。この配合組成物を金型に投入し、プレス機で圧縮成形して繊維強化型プラスチックとする。
【0028】
この繊維強化型プラスチックを窒素雰囲気中で900℃まで加熱し、フェノール樹脂を炭素化してカーボン複合材料を得る。このカーボン複合材料を真空脱気後に、窒素もしくはアルゴンの雰囲気中で1150℃を上限として加熱し、最終的な炭素化を行う。本炭素化のプロセスにより、カーボン/カーボンの複合材料が得られる。このとき、樹脂の熱分解によって体積が収縮し、数パーセントの空隙が形成される。
【0029】
つぎに、カーボン/カーボン複合材料の上に直径1〜3ミリメートルの粒状もしくは長さ10〜30ミリメートルの塊状のSi共晶合金(ケイ素を含む無機材料とも呼ぶ。)を、前記カーボン/カーボン複合材料の上面に敷き詰めるように配置し、真空中で1150℃を上限として反応焼結して本願発明のカーボン/シリコンカーバイド複合材料を得ることができる。この際、前記炭素化によって形成された空隙を通じて液状Siが浸透していく過程で、Siとカーボンとが高温反応で化学的に結合することによって母相はシリコンカーバイド相となる。
【0030】
これにより、炭素繊維の靭性等の機械的特性を劣化させることなく、気孔率を10%以下に抑えた、稠密性の高い耐熱性カーボン/シリコンカーバイド系複合材料を得ることができる。
【0031】
カーボン/シリコンカーバイド系複合材料の中の炭素繊維長さは、長ければ長いほど機械的性質が優れる傾向があるが、繊維の均一分散を妨げるようになり、材料強度の均一性が徐々に損なわれる場合がある。そのため、平均繊維長さが3〜12ミリメートルであることが好ましい。
【0032】
炭素繊維の長さが3ミリメートルより短い場合は、炭素繊維の引き抜き長さが十分ではなく、材料強度が低下する場合がある。この場合の炭素繊維の引き抜き長さは、本願発明のカーボン/シリコンカーバイド複合材料が破壊するときに強度指標となる、炭素繊維のプルアウトと呼ばれる引き抜き現象において重要なものである。
【0033】
一方、炭素繊維の長さが12ミリメートルを超えると、繊維の高充填が必要な場合には、繊維同士が絡みやすくなり、繊維が均一に分散しずらい場合がある。この場合、材料強度などの機械的性質が均一でなくなるため、強度のバラツキがでることがある。
【0034】
炭素繊維の長さが3〜12ミリメートルの場合、前記プルアウト時の炭素繊維の引き抜き長さも十分であり、炭素繊維同士の絡みつきもほとんど無いため、強度の均一性も確保できる。
【0035】
また、共晶金属を構成するケイ素の融点を降下させるための元素(アルミニウム(Al)等)の添加量を大きくすると、ケイ素を含む無機材料の融点は著しく低下する。上記元素がアルミニウムの場合、過剰なアルミニウムの添加は耐熱性を損なうことがあり、添加量は50wt%以下であることが好ましい。
【0036】
ケイ素を含む無機材料の含浸は、炭素繊維の焼成温度より50℃低い温度を上限とした。以下、炭素繊維にケイ素を含む無機材料を含浸する際の温度をケイ素含浸温度と呼ぶことにする。
【0037】
図2は、本発明におけるケイ素(Si)の低温化のための共晶金属(Al、Ti)の組成と融点(凝固点)との関係を示すグラフである。
【0038】
本図に示すように、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度が1400℃であれば、ケイ素含浸温度は1350℃を上限とすることが好ましい。純ケイ素(Si)の融点は1410〜1430℃であるため、1350℃まで融点を降下させる必要がある。その場合、ケイ素へのアルミニウム添加量は約15wt%になる。また、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度が1200℃であれば、ケイ素含浸温度は1150℃が上限となる。その場合は、1150℃まで融点を降下させる必要がある。したがって、アルミニウム添加量は約40wt%になる。
【0039】
(ケイ素の低温化に使用する共晶金属)
図2に示すように、ケイ素の低温化は、合金化する(無機混合材料とする)ことによってケイ素の融点を降下させる金属を選択する必要がある。これは、2種類以上の金属を合金にした場合に、前記金属添加量の増加に伴って、前記合金の融点が降下していくタイプであり、共晶型合金と呼ばれる。
【0040】
ケイ素に混合することにより共晶型合金を形成する金属はアルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)などであり、カーボン/シリコンカーバイド系複合材料を構造材料などの大型部材に適用する場合は、Alが好ましい。
【0041】
第三添加元素として、耐酸化性に優れる観点から、クロム(Cr)もしくはチタン(Ti)を用いることが好ましいが、CrはSiと共晶金属を形成しない元素である。また、Tiは中間に融点が1540℃のチタンシリサイド(TiSi)が存在し、このチタンシリサイドとケイ素も共晶金属を形成する。
【0042】
チタンシリサイドを用いる利点は、前記カーボン/カーボン複合材料中に残留する酸素によるSiとカーボンの反応阻害を取り除くことができることである。CrおよびTiは、酸素との親和力が強く、酸化物を形成することで前記残留酸素を取り除くため、母相のSiC形成を容易にすることができる。そのため、未反応Siやカーボンを形成することなく、高温化学反応によって全体にムラなくSiCが形成される。このとき形成された酸化物は、アルミナとの複合酸化物として母相中に析出する。これは、酸素トラップ粒子として微細組織中に観察される。
【0043】
図3は、本発明におけるSi−Al−Ti合金の微細組織を示す光学顕微鏡による画像である。
【0044】
本図は、Si−Al−Ti合金の写真である。
【0045】
本図において、SiC相12に覆われた共晶金属相13、及び共晶金属相13に覆われた酸素トラップ粒子15を観察することができる。共晶金属相13の中には、AlSi含有複合酸化物粒子(AlおよびSiを含有する複合酸化物粒子)が微細分散している。
【0046】
(複合材料に使用する炭素繊維)
炭素繊維には、PAN(ポリアクリロニトリル)系およびピッチ系がある。炭素繊維の選択は、引張強度と引張弾性率とのバランスから選択される。弾性率と強度とはほぼ比例関係にあるが、バラツキが大きく、その範囲も炭素繊維のタイプごとに異なっている。PAN系では、標準弾性率タイプ(HT)、中弾性率タイプ(IM)および高弾性タイプ(HM)があり、ピッチ系では、低弾性率タイプおよび超高弾性率タイプがある。
【0047】
PAN系炭素繊維を用いて検討を行ったところ、HTは1200℃で焼成されており、前記範囲は引張強度が2.5〜5.0GPa、引張弾性率が200〜280GPa、IMは1500℃で焼成されており、前記範囲は引張強度が3.5〜7.0GPa、引張弾性率が280〜350GPa、およびHMは2000℃以上で焼成されており、前記範囲は引張強度が2.5〜5.0GPa、引張弾性率が350〜600GPaであった。機械的性質に優れる炭素繊維ほど高い強度を示した。炭素繊維における機械的性質の向上は、炭素繊維の焼成温度の違いによるところが大きい。焼成温度が2000℃以上であるHMはケイ素含浸プロセス温度より十分大きいため、本発明に該当しないが、HTおよびIMは本発明に該当し、ケイ素含浸プロセス温度はそれぞれ1100℃以下および1300℃以下であることが望ましく、それを実現させるためには、ケイ素に対して融点を効果的に下げるAlを添加して、ケイ素含浸プロセス温度を下げる必要がある。したがって、この場合にはケイ素を含む無機材料のAl添加量は20〜50wt%が望ましい。
【0048】
(炭素繊維の劣化現象)
炭素繊維にHTを用いて1450℃でケイ素を含む無機材料を含浸したときの強度を検討した。引張試験の破面にプルアウトした炭素繊維がほとんどなく、脆化した可能性があった。脆化とは、炭素繊維が炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度以上に加熱された場合、炭素の結合がグラファイト結合に変化することによって、弾性率が向上し高弾性化すると同時に、炭素結合時に結合していた水素および窒素などの元素との結合を切り離すために生じる原子位置の空洞化(以下、空隙形成と呼ぶ)が同時進行する現象である。
【0049】
高弾性化することは炭素繊維が硬くなることであり、それは同時に脆くなることである。特に、空隙形成は炭素繊維に対して切り欠き効果を与えるため、引張試験によって前記無機材料中に発生するクラック進展時に、炭素繊維の切り欠き部が容易に破壊してクラックを進展させるため、強度因子である炭素繊維のプルアウトをしなくなる。この結果は、前記引張試験の破面にプルアウトした炭素繊維の本数がほとんどないことから、容易に類推できる。
【0050】
要約すれば、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度よりケイ素含浸プロセス温度が高い場合には、前記炭素繊維中の炭素結合がグラファイト結合に変化しながら、同時に空隙形成をする。言い換えれば、炭素繊維自身が硬くなると同時にその表面に切り欠きを形成しながら脆化してゆく。したがって、炭素繊維のグラファイト結合の増加を調べることにより脆化を評価できる。
【0051】
グラファイト結合の増加は、X線回折により容易に評価できる。X線回折では炭素結合は非晶質であるため、特定のブラッグ角における格子面間隔を持たず、ブロードなプロファイルを示すが、グラファイト結合は0.34nmの格子面間隔を有するため、ブラッグ角はこの格子面間隔に対応した特定のピークをプロファイル中に示す。炭素繊維の脆化は、ケイ素含浸プロセス温度を模擬した熱履歴を前記炭素繊維に与えることで、グラファイト結合の増加を評価すればよい。
【0052】
そこで、炭素繊維の脆化機構を調べることにした。図4および5は、その結果である。
【0053】
図4は、標準弾性率タイプ(HT)の炭素繊維を1200℃に加熱した後のX線回折データを示すグラフであり、図5は、標準弾性率タイプ(HT)の炭素繊維を1450℃に加熱した後のX線回折データを示すグラフである。
【0054】
これらの図が示すように、1200℃に加熱した場合と1450℃に加熱した場合の繊維の結晶状態を示すX線回折結果を比較すると、加熱温度の上昇とともにピークの広がりが狭くなり、その位置がシフトしており、緩い非晶質の炭素結合が、0.34nmの格子面間隔を有するグラファイトの量が増加していることがわかる。したがって、HTが焼成温度1200℃を超えた1450℃でSi含浸させたため、HTのグラファイト化が開始し、硬化したことが脆化につながったと考えられる。
【0055】
図6は、本発明による実施例を示すブレーキ用部材であるロータ(ディスク)の斜視図である。
【0056】
ブレーキ用のロータにおいては、高度の耐熱性や耐摩耗性が要求される。
【0057】
ディスク101の平面部102は、本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料で構成されている。穴104は、ディスク101の回転時に遠心力により空気を流通させてディスク101を冷却するためのものである。また、ディスク101の内側の環状部103にはボルト用穴105が設けてあり、ディスク101の回転軸にディスク101を固定することができるようになっている。
【0058】
本発明のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料は、用途として、上記のロータに限定されるものではなく、他のブレーキ用部材、耐熱性パネル、ヒートシンクなどにも適用することができる。
【0059】
本発明によれば、炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度がSi−Al共晶の溶融温度より高温であるため、炭素繊維がグラファイト化することによる脆化を防止することが可能になり、炭素繊維の靭性を低下することを防止できる。
【0060】
また、本発明によれば、材料の表面にアルミニウム酸化物の酸化膜を形成するために、炭素繊維が酸化されるのを防止する効果があり、高温酸化による炭素繊維の劣化を防止することができる。また、クロム(Cr)を第三元素として添加することにより、表面に安定なクロム酸化膜を形成させることが可能となるため、耐酸化性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0061】
11:炭素繊維、12:SiC相、13:共晶金属相、14:カバー層、15:酸素トラップ粒子、16:酸素バリア層、17:アモルファスカーボン層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンカーバイド相で構成された母相と、この母相に分散された炭素繊維と、ケイ素及びこのケイ素の融点を降下させるための元素を含む共晶金属相とを含み、前記炭素繊維は、ケイ素及び前記元素の複合炭化物で形成されたカバー層で覆われていることを特徴とするカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項2】
前記母相に酸素トラップ粒子が分散していることを特徴とする請求項1記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項3】
前記炭素繊維と前記カバー層との間に、アモルファスカーボン層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項4】
前記元素がアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項5】
前記カバー層が炭化チタンを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項6】
前記母相の表面にクロム酸化膜で構成された酸素バリア層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項7】
前記共晶金属相の融点が前記炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度より低いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項8】
前記共晶金属相が面心立方格子結晶を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料を用いたことを特徴とするブレーキ用部材。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料を用いたことを特徴とする耐熱性パネル。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料を用いたことを特徴とするヒートシンク。
【請求項12】
シリコンカーバイド相で構成された母相と、この母相に分散された炭素繊維と、ケイ素及びこのケイ素の融点を降下させるための元素を含む共晶金属相とを含むカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の製造方法であって、前記炭素繊維を樹脂中に分散させて加圧成形した後、加熱して前記樹脂を炭素化したカーボン複合材料を形成する工程と、前記共晶金属相を形成する無機材料を前記炭素繊維を製造する際の前駆体の焼成温度よりも低い温度で融解し、前記カーボン複合材料に前記無機材料を含浸させる工程とを有することを特徴とするカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記元素がアルミニウムであることを特徴とする請求項12記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記無機材料にクロム又はチタンの少なくとも一種類が含まれていることを特徴とする請求項12又は13に記載のカーボン/シリコンカーバイド系複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11922(P2011−11922A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154761(P2009−154761)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】