説明

ガゴメ由来免疫賦活剤およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法

【課題】 ガゴメ由来の粘性多糖類のうち、所定の条件により選択されたものを有効成分とする免疫賦活剤、およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法を提供する。
【解決手段】 ガゴメから抽出された粘性多糖類であって、水性溶媒溶液の濃度が0.05%より高く0.3%未満である粘性多糖類を有効成分とする免疫賦活剤、およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法であって、ガゴメを粉砕する粉砕工程と、粉砕したガゴメと水性溶媒とを混合して振盪することにより粘性多糖類の抽出液を得る抽出工程と、粘性多糖類から塩類を除去する塩類除去工程とを有する免疫賦活剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から抽出されて得られる粘性多糖類のうち、所定の条件により選択されたものを有効成分とする免疫賦活剤、およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)は、主として北海道沿岸の函館周辺から渡島半島東岸、松前小島、東北北部の大間岬等のごく限られた地域で生息し、水深7〜25mの岩礁上で生育する、藻体の長さが2m、幅が30cm以上にもなる多年生藻類である。葉状部に大小の凹凸状のしわが一面に形成されており、粘りの原因である粘性多糖類が藻体から多量に分泌されるという特徴を有している。この粘性多糖類は、フコイダンやラミナラン、アルギン酸等から構成されており、この粘性多糖類が健康に役立つことが昨今明らかにされ、健康食品の原材料や薬剤の有効成分として注目されている。
【0003】
例えば、WO97−026896号公報には、ガゴメ由来のフコイダンを用いたアポトーシス誘発剤が開示されている(特許文献1)。また、特開2005−231998号公報には、ガゴメ由来のフコイダンを用いた透析アミロイドーシス治療剤が開示されている(特許文献2)。
【0004】
一方、海藻から抽出した多糖類を有効成分とした免疫賦活剤が提案されている。例えば、特開平6−256208号公報には、紅藻類から抽出した酸性多糖にβ−アガラーゼを作用させて低粘性化したものを有効成分とする免疫賦活剤が開示されており(特許文献3)、特開2007−230980号公報には、メカブから多糖類抽出液を調製し、その多糖類抽出液を遠心分離して沈殿画分を抽出した免疫賦活剤が開示されている(特許文献4)。
【0005】
【特許文献1】WO97−026896号公報
【特許文献2】特開2005−231998号公報
【特許文献3】特開平6−256208号公報
【特許文献4】特開2007−230980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に開示された発明は、いずれも免疫賦活に関するものではない。また、特許文献3に開示された発明は、ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)由来の免疫賦活剤に関するものではなく、粘性多糖類の粘性を酵素処理によって低下させた免疫賦活剤に関するものである。さらに、特許文献4に開示された発明もまたガゴメ由来の免疫賦活剤ではなく、多糖類抽出液を調製・遠心分離して得られた沈殿画分を用いた免疫賦活剤に関するものである。
【0007】
一方、本願発明者等は、ガゴメから粘性多糖類を抽出して、様々なサイトカインや抗体の産生量を定量すること、およびYAC−1腫瘍細胞傷害活性を測定することによる免疫賦活効果を鋭意検討したところ、抽出条件、濃度、粘度、および反射光の光強度等により免疫賦活効果が異なることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ガゴメ由来の粘性多糖類のうち、所定の条件により選択されたものを有効成分とする免疫賦活剤、およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る免疫賦活剤の第一の態様は、ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から抽出された粘性多糖類であって、水性溶媒溶液の濃度が0.05%より高く0.3%未満である粘性多糖類を有効成分として含むものである。
【0010】
また、本発明に係る免疫賦活剤は、20℃における水の粘度の値を1とした場合の前記水性溶媒溶液の相対粘度の値が、2.5より大きく25.8より小さい値であってもよい。
【0011】
本発明に係る免疫賦活剤の第二の態様は、ガゴメから抽出された粘性多糖類であって、水性溶媒溶液の粘度が2.5センチポアズより大きく25.8センチポアズより小さい粘度である粘性多糖類を有効成分として含むものである。
【0012】
また、本発明に係る免疫賦活剤は、前記粘性多糖類が30℃未満の水性溶媒で抽出されてもよく、前記粘性多糖類のpHが5以上8未満の条件下で抽出されてもよい。
【0013】
本発明に係る免疫賦活剤の第三の態様は、ガゴメから抽出された粘性多糖類であって、蛍光光度計の励起波長と蛍光波長とを350nmとして測定したアルギン酸水溶液0.1%の光強度の値を100とした場合において、水性溶媒溶液の光強度の値が600以上の値である粘性多糖類を有効成分として含むものである。
【0014】
また、本発明に係る免疫賦活剤は、前記粘性多糖類が、塩類を除去する処理がされたものであってもよい。
【0015】
一方、本発明に係る粘性多糖類の抽出方法は、ガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法であって、ガゴメを粉砕する粉砕工程と、粉砕したガゴメと水性溶媒とを混合して振盪することにより粘性多糖類の抽出液を得る抽出工程と、粘性多糖類から塩類を除去する塩類除去工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)由来の粘性多糖類のうち、所定の条件により選択されたものを有効成分とし、効果的な免疫賦活作用を有する免疫賦活剤、およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)由来免疫賦活剤およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法について、実施形態を用いて説明する。まず、本発明に係るガゴメ由来免疫賦活剤について説明する。
【0018】
本発明に係る免疫賦活剤は、ガゴメから抽出された粘性多糖類のうち、所定の条件により選択されたものを有効成分としている。本発明における「粘性多糖類」とは、水溶性溶媒を用いてガゴメから抽出される粘質物、および当該抽出された粘質物を処理したものをいい、多糖の一種であるアルギン酸やラミナラン、および硫酸多糖の一種であるフコイダン等の多糖を主な構成としている。また、ここにいう「処理」とは、一般には加工を施して性質を変えることをいうが、免疫賦活作用を損なわない態様をいい、例えば、熱処理や冷却処理、凍結処理、酸・アルカリ処理、架橋処理、固液分離処理、撹拌処理、乾燥処理、脱塩処理等であって免疫賦活作用を損なわない態様をいう。
【0019】
なお、本発明において「免疫賦活」は、「免疫刺激」、「免疫増強」、「免疫増進」、「免疫活性」、「免疫活性化」、「免疫向上」、あるいは「免疫亢進」と交換可能に用いられ、「免疫増進剤」は、「免疫刺激剤」、「免疫増強剤」、「免疫増進剤」、「免疫活性剤」、あるいは「免疫亢進剤」と交換可能に用いられる。したがって「免疫賦活作用」は、例えば、「免疫刺激作用」としても表すことができる。
【0020】
本実施形態においては、乾燥したガゴメをフードカッターにて破砕し、破砕したガゴメの25倍重量の蒸留水にこれを混合して調製した混合液を20℃条件下で24時間振盪して抽出して得た上澄みを粘性多糖類としている。
【0021】
ここで、本実施形態においては、乾燥したガゴメから粘性多糖類が抽出されているが、本発明における「ガゴメ」はこれに限定されず、収穫直後や一時保存したような生のものでもよく、一旦凍結保存されたもの等であってもよい。また、破砕のサイズは特に限定されないが、例えば、細切りサイズ(約10mm〜20mmの大きさ)や粉砕サイズ(約5mm〜10mmの大きさ)、微粉砕サイズ(1mm〜5mmの大きさ)、粉末サイズ(1mm以下の大きさ)とすることができる。本実施形態においては、1mm〜3mmの微粉砕とすることを好適としている。
【0022】
また、本実施形態においては、破砕したガゴメの25倍重量の蒸留水を用いて粘性多糖類が抽出されているが、粘性多糖類の抽出に用いられる溶媒の種類やその量は、水性溶媒であって粘性多糖類の抽出が可能な量であれば特に限定されず、適宜選択することができる。本発明における水性溶媒としては、例えば、水または水性溶剤を挙げることができ、水が好ましい。水としては、蒸留水の他、精製水、金属イオン等を除去したイオン交換水、純水、これらを滅菌処理した水等を挙げることができる。また、水性溶剤としてはアルコール類や酸、塩基等を挙げることができる。
【0023】
次に、本発明においては、抽出された粘性多糖類のうち、水性溶媒溶液とした場合の所定の濃度、相対粘度、粘度、抽出温度、抽出pH、あるいは反射光の光強度を有するものを、免疫賦活剤の有効成分として選択する。
【0024】
本発明においては、水性溶媒溶液とした場合の濃度が0.05%より高く0.3%未満である粘性多糖類を、本発明に係る免疫賦活剤の有効成分としている。ここで、本発明における「濃度」とは、粘性多糖類の水性溶媒溶液の濃度である。すなわち、本発明における濃度とは、糖濃度のみならず、粘性多糖類に含まれる多糖と、硫酸基、還元末端、および灰分等から選択される任意の混合体の濃度が含まれる。なお、本実施形態における濃度とは、粘性多糖類の水溶液の糖濃度であり、本実施形態においては、水溶液の糖濃度が0.07%〜0.29%であるものを、好適な粘性多糖類としている。
【0025】
糖濃度は必要に応じて、糖重量と水溶液の重量または容積とを基に、w/w%、w/v%で表すことができる。また糖濃度は、可溶性固形分の割合を、糖液の屈折率を基にして表したものであるBrix(w/w%)によって表すことができる。また、糖濃度の測定方法は、フェノール硫酸法、アンスロン硫酸法等により、発色した化合物の吸光度を測定することにより求めることができ、単糖類と多糖類とはいずれも任意の糖に換算して定量することができる{基礎生化学実験法 第5巻 p118(2000)}。なお、本実施形態においては、フェノール硫酸法{Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1338 (1962)}により、フコイダンを標準糖として糖濃度を測定している。
【0026】
本発明における粘性多糖類は、水性溶媒溶液の濃度に相関性のある水性溶媒溶液の相対粘度の値によっても選択することができる。すなわち、本発明においては、水性溶媒溶液の濃度が0.05%より高く0.3%未満であって、かつ20℃における水の粘度の値を1とした場合の水性溶媒溶液の相対粘度の値が、2.5より大きく25.8より小さい値のものを、本発明に係る免疫賦活剤の有効成分とすることができる。なお、本実施形態においては、水溶液の糖濃度が0.07%〜0.29%であって、かつ相対粘度の値が5.8〜20.3であるものを、より好適な粘性多糖類としている。
【0027】
本発明において、粘性多糖類の水性溶媒溶液の相対粘度は、20℃における水の粘度の値を1としているが、相対粘度の測定方法は特に限定されず、所望の粘度計や相対粘度計を用いることにより適宜測定することができる。なお、本実施形態においては、20℃の条件下、内径が0.75mmおよび1.5mmのオストワルド相対粘度計を用いて相対粘度を測定している。
【0028】
また、20℃における水の粘度は1センチポアズ(cP)であることから、本発明におおける粘性多糖類は、水性溶媒溶液とした場合の粘度が2.5センチポアズより大きく25.8センチポアズより小さい粘度であるものを、本発明に係る免疫賦活剤の有効成分とすることができる。なお、本実施形態においては、水溶液の粘度が5.8cP〜20.3cPであるものを、好適な粘性多糖類としている。
【0029】
さらに、本発明においては、30℃未満の条件下で水性溶媒により抽出された粘性多糖類、および/またはpHが5以上8未満の条件下で水性溶媒により抽出された粘性多糖類を選択することができる。30℃未満の条件下、および/またはpHが5以上8未満の条件下で抽出されることにより、粘性度の高い粘性多糖類が得られることが発明者等によって明らかにされている。本実施形態においては、4℃〜20℃の条件下、および/またはpHが5.8〜7.6の条件下で抽出された粘性多糖類が、好適な粘性多糖類として用いられ、20℃の条件下、および/またはpHが6.3〜7.4の条件下で抽出された粘性多糖類が、より好適な粘性多糖類として用いられている。
【0030】
次に、本発明における粘性多糖類は、水性溶媒溶液の反射光の光強度によって選択することができる。本発明における粘性多糖類は、粘稠性の高い複数の多糖類等が相互に絡み合って高次構造を有する複合体を形成し、この高次構造複合体が一定のサイズや密度となる場合に免疫賦活効果を発揮すると発明者等は考えている。反射光の光強度の値は一定の範囲では水性溶媒溶液の濃度に比例するが、濃度が高すぎると当該光強度の値は小さくなることが発明者等によって明らかにされている。これは、当該一定の濃度において形成される一定のサイズや密度の高次構造複合体が免疫賦活効果を有していることを示している。発明者等によれば、存在する高次構造複合体のサイズや密度が光の反射に大きく影響しており、一定の糖濃度を超える場合は高次構造複合体のサイズが大きくなりすぎてしまうことから、光の反射がうまくなされないと考えられている。
【0031】
なお、本実施形態においては、蛍光光度計の励起波長と蛍光波長とを350nmとして水溶液の光強度の値を測定し、アルギン酸水溶液0.1%の光強度の値を100とした場合に、水溶液の光強度の値が約600〜900の値である粘性多糖類を好適な粘性多糖類とし、当該水溶液の光強度の値が約710〜900の値である粘性多糖類をより好適な粘性多糖類としている。
【0032】
さらに、本発明における粘性多糖類は、塩類を除去する処理がされたものを選択することができる。本発明における「塩類」には、いわゆる塩化ナトリウムのみならず、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の無機塩や、無機質(ミネラル)、微量元素が含まれる。また、本発明において、「除去する処理」には、すべてを取り除く行為のみならず、少なくともその一部を取り除く行為が含まれる。
【0033】
本発明において、塩類を除去する処理は特に限定されないが、例えば、透析膜、限外濾過膜、脱塩用カラム等を用いた透析や電気透析、吸引濾過や限外濾過、あるいはイオン交換樹脂を用いて行う等、当業者に公知の任意の物理的または化学的方法・手段を挙げることができる。本実施形態においては、セルロースチューブ透析膜を用いた透析により、塩類を除去する処理がなされている。透析により塩類が除かれると、電荷バランスが変化して分子構造が広がり、その結果、巨大構造が形成され、粘度が上昇すると発明者等によって考えられている。
【0034】
次に、本発明に係るガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法について説明する。本発明に係るガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法は、
(i)ガゴメを粉砕する粉砕工程
(ii)粉砕したガゴメと水性溶媒とを混合して振盪することにより粘性多糖類の抽出液を得る抽出工程
(iii)粘性多糖類から塩類を除去する塩類除去工程
以上(i)〜(iii)の工程を有している。
【0035】
本発明に係るガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法は、以上(i)〜(iii)の工程を有していれば、他の任意の工程を有してもよく、例えば、加熱工程や冷却工程、凍結工程、酸・アルカリ添加工程、架橋工程、固液分離工程、撹拌工程、乾燥工程、脱塩工程等、当業者に公知の任意の工程を有してもよい。本実施形態においては、フードカッターが用いられているが、本発明における「粉砕」は、これに限られず、当業者に公知の任意の手段を挙げることができる。
【0036】
ここで、本発明における「振盪」とは、一般にはふるい動かすことをいうが、これに限られず、「撹拌」の意味を含む趣旨である。すなわち本発明においては、所望の振盪機器を用いることができるほか、マグネティックスターラーやメカニカルスターラー等の撹拌機器を用いることもできる。なお、本実施形態においては、恒温振盪培養器を用いて振盪を行っている。
【0037】
以下、本発明に係る免疫賦活剤およびガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法の実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例1】
【0038】
《抽出条件の検討》
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から高粘度の粘性多糖類を抽出するために、抽出温度、時間、およびpHの検討を行いつつ、粘性多糖類の濃度と粘度との関係について検討を行った。
【0039】
(1)温度および時間の検討
まず、乾燥したガゴメをフードカッターで微粉砕して1mm〜3mmに小片化し、25倍重量の蒸留水に懸濁した。この懸濁液を4〜100℃の温度条件下、1時間〜24時間100rpm/分で、恒温振盪培養器(TAITEC)を用いて振盪することによって粘性多糖類を抽出し、その上澄みの粘度を測定した。抽出温度は4,10,20,30,40,60,80,100℃の8段階で行った。粘度測定は、オストワルド粘度計(管内径0.75mmまたは1.5mm;柴田化学)を用いて20℃の浴槽中で各々6回測定し、水に対する相対粘度の平均値を算出した。その結果を図1(a)に示し、これをグラフ化したものを図1(b)に示す。
【0040】
図1(a)および(b)に示すように、20℃の温度条件下で12時間〜24時間抽出を行った場合に、粘性多糖類抽出液の上澄みの粘度が最も高くなることが明らかとなった。
【0041】
(2)pHの検討
次に、フードカッターを用いて1〜3mmのサイズに微粉砕した乾燥ガゴメを、25倍重量の蒸留水に懸濁後、0.1NのHCl水溶液または0.1NのNaOH水溶液を加えることによりpHを3.8〜9.4に調製した。このpH調製懸濁液を20℃の温度条件下、24時間100rpm/分で、恒温振盪培養器(TAITEC)を用いて振盪して粘性多糖類を抽出し、その上澄みの粘度を測定した。粘度の測定および算出は、(1)と同様に行った。また、当該上澄み中の糖濃度はフェノール硫酸法{Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1338 (1962)}を用いて測定した。その結果を図2(a)に示し、pHと相対粘度との関係を図2(b)に示す。
【0042】
図2(a)および(b)に示すように、pHを7.1の条件下にて抽出を行った場合に、粘性多糖類抽出液の上澄みの粘度が最も高くなることが明らかとなった。
【0043】
(3)糖濃度と粘度との関係
前記(1)および(2)と同様の方法で、温度30℃未満でpH5.8の条件下で抽出された粘性多糖類の抽出液を用いて、含有する粘性多糖類の糖濃度(%)を測定し、相対粘度との関係を調べた。その結果を図3に示す。
【0044】
図3に示すように、抽出液の糖濃度が0.07%〜0.29%である場合に、相対粘度は5.8〜20.3の値となった。そして、糖濃度が高くなるにつれて相対粘度も高くなる傾向が明らかとなった。
【実施例2】
【0045】
《粘性多糖抽出液の成分解析》
フードカッターを用いて1〜3mmのサイズに微粉砕した乾燥ガゴメを、25倍重量の蒸留水に懸濁後、20℃の温度条件下、24時間100rpm/分で、恒温振盪培養器(TAITEC)を用いて振盪して粘性多糖類を抽出し、吸引濾過により濾液とガゴメ残渣とに固液分離した。この濾液をさらに1500rpmで20分間遠心して沈殿物を除去して上清を得た。得られた上清25mLをセルロースチューブ透析膜(平面幅32mm,直径20mm,壁厚0.0305mm,透過分子量約14000以下;三光純薬)に供し、1.25Lの蒸留水を外液として、スターラーで撹拌しながら透析処理を行った。透析処理は、透析開始から各々3時間後、6時間後、12時間後に外液を交換し、24時間経過するまで行った。透析処理後の溶液を凍結乾燥し、滅菌蒸留水を加えて一晩静置して溶解させたものを粘性多糖類抽出液(GE)とした。一方、透析処理後の溶液を60℃で1時間加熱処理をした後、凍結乾燥し、滅菌蒸留水を加えて一晩静置して溶解させたものを粘性低下液(GH)とした。
【0046】
上記透析処理後の溶液(抽出液)の粘度と、上記透析処理後の溶液を凍結乾燥したもの(凍結乾燥品)に含まれる全糖量、構成する各多糖量、硫酸基、還元末端、および灰分との定量を行った。粘度および全糖量は実施例1と同様に行った。また、各多糖量の定量は、Nishideらの手法(Nishide, E.; Yoshihara, M.; Kato, T.; Hakone, T.; Kamata, Y.; Anzai, H.; Uchida, N. Fractionation of laminaran and fucoidan by DEAE-sephadex column chromatography. Bull. Coll. Agr. & Vet. Med., Nihon Univ. 1994, 51, 103-107)に従って各々分離した後、フェノール硫酸法{Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1338 (1962)}により行った。さらに、硫酸基の定量は、ロジゾン酸法(Terho, T. T.; Hartiala, K. Method for determination of the sulfate content of glycosaminoglycans. Anal Biochem. 1971, 41, 471-476.)により行い、還元末端の定量は、ソムギー・ネルソン法(Somogyi, M. Note on sugar determination. J Biol Chem. 1952, 195, 19-23.)により行い、灰分の定量は、直接灰化法(550℃灰化法)により行った。その結果を図4に示す。
【0047】
図4に示すように、GE中には多糖としてフコイダン、ラミナラン、アルギン酸を含んでいることが示された。また、GHの相対粘度はGEに比べて非常に低い値が示され、60℃で1時間の加熱処理を行うことにより、抽出液の粘性が低下することが明らかとなった。
【実施例3】
【0048】
《マウスを用いた免疫賦活作用の検討》
マウスを用いてガゴメから抽出した粘性多糖類の免疫賦活作用について検討を行った。
まず、マウスは6週齢オスのC57BL/6Cr(三協ラボサービス)を使用し、群分けを行った。試験構成群は、コントロール群,GE10,GE30,GE100,GH10,GH30,GH100の計7群を設定し、各群につき5匹のマウスを用いた。実施例2で得られたGEを滅菌蒸留水にて各々1,3,10mg/mLに調製し、これら水溶液を被検物質としてGE10,GE30,GE100の3群に投与した。一方、実施例2で得られたGHを滅菌蒸留水にて各々1,3,10mg/mLに調製し、これら水溶液を被検物質としてGH10、GH30、GH100の3群に投与した。コントロール群には滅菌蒸留水を投与した。
【0049】
試験方法は、群分けを行った日を0日とし、翌日から1日1回ゾンデを用いて被検物質または滅菌蒸留水を、各々10mL/kgを14日間連日経口投与した。投与期間中は毎日体重を測定した。また、投与最終日の14日目には糞便を採取し、投与最終日の翌日の15日目にはマウスの解剖を行った。解剖は、まずマウスを炭酸ガスで屠殺し、後大静脈から全採血を行った後、脾臓を摘出した。なお、動物実験は、「国立大学法人北海道大学動物実験に関する規程」に準じて実施した。
【0050】
前記で得られたデータおよびサンプルを用いて、免疫賦活作用について調べた。なお、データ解析は、得られた数値に基づいて、各群における平均値および標準偏差を算出した。各群間の統計解析はExcel(登録商標;Microsoft)を用いてT検定を行い、コントロール群との平均値を比較することにより被検物質の効果を評価した。有意水準は危険率5%および1%とし、各々「*」および「**」で示す。
【0051】
(1)体重
試験期間中における各群の体重推移を図5(a)〜(g)に示し、投与最終日の14日目には各群の体重の平均値を算出し、データ解析を行った。その結果を図6(a)に示し、これをグラフ化したものを図6(b)に示す。図5(a)〜(g)に示すように、全ての群において各個体の体重差は認められなかった。また、図6(a)および(b)に示すように、コントロール群と比較して、GEまたはGHの投与群の全てにおいて、有意差は認められなかった。
【0052】
(2)脾臓重量
摘出した脾臓重量を測定し、データ解析を行った。その結果を図7(a)に示し、これをグラフ化したものを図7(b)に示す。
【0053】
その結果、コントロール群と比較して、GE30において、脾臓重量値が有意に高い値を示し(p<0.01)、脾臓が巨大化していることが明らかとなった。
【0054】
(3)脾臓細胞によるサイトカインおよび抗体産生量
摘出した脾臓の脾臓細胞より産生されたサイトカインおよび免疫グロブリンの量をELISA法で定量した。測定方法は、摘出した脾臓から細胞懸濁液(2.8×10cells/mL)を調製し、培養プレートに分注した後、コンカナバリンA(ConA)を最終濃度1μg/mLとなるよう添加し、培養温度37℃、CO濃度5%の条件下で、サイトカインについては3日間、免疫グロブリンについては5日間、各々培養することにより、脾臓細胞より産生された培養上清を得た。そして、サンドイッチ酵素免疫測定(サンドイッチELISA)法により、培養上清中のサイトカイン(IFN−γ,IL−12,IL−18,IL−6)濃度および免疫グロブリン(IgA,IgM)濃度を測定した。その結果を図8(a)〜(g)に示す。
【0055】
その結果、コントロール群と比較して、GE30では、IFN−γ,IL−12,IL−18,IL−6,IgA,IgMのすべての値が有意に高い値を示し(p<0.05)、サイトカインおよび抗体の産生を促進することが明らかとなった。
【0056】
(4)YAC−1腫瘍細胞傷害活性
摘出した脾臓からよりナチュラル・キラー(NK)細胞を単離し、YAC−1を標的細胞とした腫瘍細胞傷害活性をNK活性として測定した。すなわち、摘出した脾臓からNK細胞を単離した後、6.25×10cells/mLの濃度に調製し、これをエフェクター細胞(E)とした。一方、YAC−1細胞(大日本住友製薬)を2.5×10cells/mL、5×10cells/mL、1×106cells/mLの濃度に調製し、これを標的細胞(T)とした。EとTとの細胞数の比を100:1,50:1,25:1で混合し播種した96ウェルプレートを37℃(5%CO)で22時間培養した。この96ウェルプレートをWST−1試薬(タカラバイオ)で2時間染色した後、マイクロプレートリーダー(コロナ)を用いて450nmの吸光値を測定した。なお、YAC−1細胞に対する傷害活性は次式により求めた。
(次式)
%(細胞傷害活性)=[1−{(E・T共培養の吸光値−E培養の吸光値)/(T培養の吸光値)}]×100
得られた数値に基づいて各々データ解析し、その結果を各々図9(a)〜(c)に示し、これを各々グラフ化したものを図10(a)〜(c)に示す。
【0057】
その結果、E:Tの比100:1に場合には、コントロール群と比較して、GE30おいてNK細胞活性の有意な亢進が認められた(p<0.05)。
【実施例4】
【0058】
《粘度測定》
前記実施例3で投与した被検物質(投与液)の粘度を各々測定した。粘度測定は、実施例1で用いた方法にて6回測定を行った。各群における個々の相対粘度を図11(a)〜(f)に示し、6回の測定データの平均値を図12に示す。
【0059】
その結果、GE、GHのいずれにおいても、濃度が増加するに伴って相対粘度の値が大きくなることが明らかとなった。
【実施例5】
【0060】
《光強度測定》
(1)投与液の測定
前記実施例3で投与した被検物質(投与液)の構造の特徴を調べるために、蛍光光度計を用いた反射光の光強度の測定を行った。実施例3で投与した被検物質を測定サンプルとし、精製アルギン酸(Sigma)を1,3,10mg/mLに調製しもの、およびカルボキシメチルセルロース(CMC;関東化学)を10mg/mLに調製したものを対照サンプルとした。CMCは滅菌蒸留水に溶解し、精製アルギン酸は12%炭酸ナトリウム水溶液に溶解して用いた。0.6mLの各サンプルを蛍光光度計に供し、蛍光波長と励起波長とを共に350nmとして、反応光の光強度を測定した。測定後、アルギン酸0.1%水溶液の光強度を100として各光強度を算出した。その結果を図13(a)に示し、これをグラフ化したものを図13(b)に示す。
【0061】
図13(a)および(b)に示すように、GE30において著しく高い光強度が検出された。前記実施例3において、GE30に有意な免疫賦活作用が認められたことから、3mg/mLのGEには免疫賦活に亢進的に作用する特異的な構造を有していることが示唆された。また、GH30はGE30に比べて光強度が36.3%低下していた。これは、前記実施例4において、GH30はGE30に比べて粘度の低下が認められており、熱処理により糖分子の高次構造が崩壊していることが示唆された。なお、10mg/mLのアルギン酸における光強度が高い値を示しているのは、分子構造の中心に金属イオン塩が存在することで、架橋結合によって大きなクラスターが形成されるためであると考えられる。
【0062】
(2)GEの濃度検討
GEを滅菌蒸留水にて1,2,3,5,10mg/mLに調製したサンプルを、各々GE10,GE20,GE30,GE50,GE100とし、前記(1)と同様に反射光の光強度の測定を行った。サンプル調製および測定を各々4回行った。その結果を図14(a)に示し、これをグラフ化したものを図14(b)に示す。
【0063】
その結果、GE30,GE50,GE100における光強度は600以上の値を示し、GE30,GE50では、光強度は700以上の高い値を示すことが明らかとなった。
【0064】
以上のような本実施例によれば、ガゴメ由来の粘性多糖類は、特定の粘度または特定の測定による反射率を有することにより、脾臓細胞におけるサイトカイン産生、抗体産生、およびYAC−1腫瘍細胞傷害活性を促進し、図15に示すような免疫応答に作用していることが示唆される。
【0065】
また、本実施形態においては、水を溶媒として免疫賦活亢進作用に有効なガゴメ由来の粘性多糖類を抽出しており、この粘性多糖類の水性溶液の適度な粘稠性と免疫賦活作用とを利用して、とろみを有する機能性食品の開発が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1(1)において、抽出温度および抽出時間の検討結果を示す図である。(a)は測定した個々の相対粘度を示す図表であり、(b)は(a)をグラフ化した図である。
【図2】実施例1(2)において、抽出pHの検討結果を示す図である。(a)は測定した個々の相対粘度を示す図表および抽出液中の糖濃度を示す図表であり、(b)は(a)のpHと相対粘度との関係をグラフ化した図である。
【図3】実施例1(3)において、糖濃度と粘度との関係示す図である。
【図4】実施例2において、粘性多糖抽出液の成分解析の結果を示す図である。
【図5】実施例3(1)において、各群の体重推移を示した図である。(a)〜(g)は、各々コントロール群,GE10群,GE30群,GE100群,GH10群,GH30群,GH100群の体重推移を示す。
【図6】実施例3(1)において、投与最終日の各群における体重の平均値を示す図である。(a)は測定した個々の体重を示す図表であり、(b)は(a)をグラフ化した図である。
【図7】実施例3(3)において、摘出した脾臓重量を示す図である。(a)は測定した個々の脾臓重量を示す図表であり、(b)は(a)をグラフ化した図である。
【図8】実施例3(4)において、脾臓細胞のサイトカインおよび抗体産生量を測定した結果を示す図である。(a)〜(g)は、各々IFN−γ,IL−12,IL−18,IL−6,IgA,IgMの産生量を示す。
【図9】実施例3(5)において、YAC−1腫瘍細胞傷害活性の測定結果を示す図表である。(a)〜(c)は、各々EとTの細胞数の比を25対1,50対1,100対1とした時の測定結果を示す。
【図10】実施例3(5)において、YAC−1腫瘍細胞傷害活性の測定結果をグラフ化した図である。(a)〜(c)は、各々EとTの細胞数の比を25対1,50対1,100対1とした時の測定結果を示す。
【図11】実施例4において、粘度測定した個々の数値を示す図である。
【図12】実施例4において、粘度測定した個々の数値から算出した平均値を示す図である。
【図13】実施例5(1)において、光強度を測定した結果を示す図である。(a)は測定した個々の光強度を示す図表であり、(b)は(a)をグラフ化した図である。
【図14】実施例5(2)において、光強度を測定した結果を示す図である。(a)は測定した個々の光強度を示す図表であり、(b)は(a)をグラフ化した図である。
【図15】ガゴメ由来の粘性多糖類が作用すると考えられる免疫応答について示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から抽出された粘性多糖類であって、水性溶媒溶液の濃度が0.05%より高く0.3%未満である粘性多糖類を有効成分として含む免疫賦活剤。
【請求項2】
請求項1において、20℃における水の粘度の値を1とした場合の前記水性溶媒溶液の相対粘度の値が2.5より大きく25.8より小さい値である免疫賦活剤。
【請求項3】
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から抽出された粘性多糖類であって、水性溶媒溶液の粘度が2.5センチポアズより大きく25.8センチポアズより小さい粘度である粘性多糖類を有効成分として含む免疫賦活剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記粘性多糖類が30℃未満の水性溶媒で抽出された免疫賦活剤。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記粘性多糖類のpHが5以上8未満の条件下で抽出された免疫賦活剤。
【請求項6】
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)から抽出された粘性多糖類であって、蛍光光度計の励起波長と蛍光波長とを350nmとして測定したアルギン酸水溶液0.1%の光強度の値を100とした場合において、水性溶媒溶液の光強度の値が600以上の値である粘性多糖類を有効成分として含む免疫賦活剤。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかにおいて、前記粘性多糖類が、塩類を除去する処理がされたものである免疫賦活剤。
【請求項8】
ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)由来の粘性多糖類の抽出方法であって、
ガゴメを粉砕する粉砕工程と、
粉砕したガゴメと水性溶媒とを混合して振盪することにより粘性多糖類の抽出液を得る抽出工程と、
粘性多糖類から塩類を除去する塩類除去工程と
を有するガゴメ由来の粘性多糖類の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−227618(P2009−227618A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76101(P2008−76101)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月25日 2007(平成19)年度日本水産学会秋季大会 国立大学法人北海道大学大学院水産科学研究院発行の「2007年(平成19年)度日本水産学会秋季大会(日本農学大会水産部会)講演要旨集」に発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】