説明

ガスを吹き出す機能を有する溶融金属排出ノズル

【課題】 溶融金属排出ノズルの嵌合部に介在物等の付着を嵌合部付近の領域全体から集中的に、且つ均等に、さらには安定的にガスを供給することができるガスを吹き出す機能を有する溶融金属排出ノズルを提供し、ノズル内孔への介在物等の付着と閉塞による溶融金属流の制御性能の低下を防止すること。
【解決手段】 上ノズル10の本体を形成する耐火物構造は、内孔面1から外周方向の半径方向にかけて、内孔に面して設けられた緻密質耐火物層2と外周面に面した設けられた緻密質耐火物層3の間に形成された通気性耐火物層4の三層構造からなる。通気性耐火物層4は、ガス導入管9から導入されたガスの流通経路として機能し、ガス導入位置からストッパー5の嵌合部6まで延びて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを吹き出す機能を有するノズル、とくに、ストッパーによる溶鋼の排出開始、停止あるいは流量を制御する機構を有するタンディッシュ等のストッパーとノズルの嵌合部付近とその下方のノズルのアルミナ等の付着を防止するノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
薄板等の高級鋼として使用されるアルミキルド鋼は、鋼中のアルミニウムに起因するアルミナ等の析出物等が多く発生し、鋳造に使用するノズルへの付着や閉塞を生じ易い。とくに、溶鋼の排出開始若しくは停止または流量制御をストッパーにより行う場合には、そのストッパーとノズルとの嵌合部付近にそれらの析出物が付着し易い。
【0003】
それら析出物等は鋼中にも介在物として取り込まれることによって、鋼の品質低下や歩留まり低下等の問題を惹き起こすが、それに止まらず、ノズル等への付着や閉塞に伴い、鋳造作業に於ける排出開始若しくは停止または流量制御の安定性の低下、生産性の阻害等をも惹き起こしている。以下、鋼中のアルミニウムに起因するアルミナ等の析出物等を介在物等と称する。
【0004】
その対策の一つとして、溶融金属容器内やノズル内部へガスを吹き込むことが多く行われている。これは、主として、容器内の溶鋼中の介在物等の浮上、ノズル等の表面への介在物の接触低減や付着した介在物等の機械力学的な除去を目的とする。
【0005】
ストッパーとの嵌合部付近の介在物等の付着防止を目的とするガス吹き込みには、ガスを吹き出す機能を備えた上ノズル、いわゆるバブリング上ノズルを使用することが多い。これには、図3に示すように、ストッパー5と嵌合する上ノズル30全体を通気性耐火物4によって形成したもの、図4に示すように、上ノズル40の上部通気性耐火物4から嵌合部6付近を含む中心にガスを吹き込むもの、図5に示すように、上ノズル50の上部と下部の2箇所に通気性耐火物4からなる部分を有する構造のもの等が一般に使用されている。
【0006】
しかし、これら構造においては、ガスの吹き出し面は、その半径方向に広い面を形成しているためにガスは広い範囲に分散して放出され、また、上ノズル下方の内孔から常時ガスを吹き出す構造を有する場合にはその部分から過剰なガスが内孔に吹き出され、耐火物層各部位の放出ガス量のバランスの管理が十分にできない。そのため、最も安定的にしかも集中的にガスの吹き出しを必要とするストッパー5との嵌合部6付近の介在物等の付着や、それによるノズル閉塞に対しては有効な対策にはなっていない。
【0007】
また、上ノズル内のガス吹き出し層へのガスの供給経路は、外周等に設置した金属製ケース8と耐火物本体との間に設けた空間をガスの流通経路として利用することが殆どであるが、使用中に上ノズルが高温に曝されることによって、金属製ケースが膨張し、また、侵食等によって耐火物との間に隙間を生じて、金属製ケースと耐火物本体との間からガス漏れが発生し、とくに、使用時間が長くなってくるとその漏れが大きくなり、ストッパーとの嵌合部6付近を始めとする重要部位からのガスの吹き出しが得られなくなるという問題を生じる。
【0008】
さらに、これらは通気性耐火物を内孔面にも有しており、その通気性耐火物の内孔面部分の溶損、摩耗や亀裂等が発生し易く、それらの部位へのガスの集中的な吹き出し等を来たして、目的とする部位に安定的にガスを供給できない等の問題を生じる。
【0009】
これらの対策として、図6に示すように、通気性耐火物に代えて、耐火物本体を形成する緻密質耐火物2にガス導入管9からの導入部からストッパー5との嵌合部6に至るガス導通のための貫通孔12を設け、嵌合部6近くの特定の箇所に集中的にガスを供給し、吹き出す試みもなされている。しかし、貫通孔による場合にはガスが特定の狭い部分、いわば点からしか吹き出すことができず、嵌合部の介在物等の付着領域全体の介在物等の付着あるいは閉塞対策にはなり得ない。また貫通孔への溶融金属の侵入とその固化により貫通孔自体の閉塞が生じることがある。
【0010】
これらの対策として、例えば特許文献1にはノズル上部と中間部に通気性耐火物を独立して設置し、さらにガスの供給も、内部に設置した金属管で各々独立して行うことが提案されている。
【0011】
しかし、この対策も、各々の独立した通気性耐火物内ではガスの吹き出しは不均一であり、意図した部分への吹き出しガスを集中させることが困難である上、嵌合部および内孔部が強度と耐食性に劣る通気性耐火物によって形成されているため、その部分が損傷し易い欠点がある。また、嵌合部等の損傷により、肉厚が不均一になった場合には、薄くなった部分から偏って集中的にガスが吹き出したり、亀裂を生じてその亀裂からさらに集中的にガスが吹き出し、嵌合部の必要領域全体からの均一なガスの吹き出しができなくなり、介在物等の付着を招来することになる。
【0012】
また、ノズル耐火物内部に金属管によるガスの供給経路を設けると、その管の端部の狭い部分からのみガスが吹き出し、さらに金属管自体が耐火物の亀裂等を招来する基点になる上、製造上もその製作の困難さから品質の低下やコストの上昇等の問題がある。
【0013】
また、特許文献2には、上ノズルを軸方向に3分割し、上下部に通気性耐火物を、その中間部に緻密質耐火物を設置した構造とし、上下部の通気性耐火物へのガス流通経路として、中間部の緻密質耐火物の半径方向の中間部にリング状の通気性耐火物を設置することが提案されている。
【0014】
しかし、この構造においても、依然として、通気性耐火物のガス吹き出し領域が広く、特定箇所から十分にガスを供給することができないという問題や、上下部の通気性耐火物の外周面は依然金属製のケースによるシール構造を採らざるを得ず、その部分からのガス漏れは防止できない。また、より流出抵抗の小さい金属製ケースと通気性耐火物の間からのガスの流出が多くなり、嵌合部からの十分な通気が得られないという問題、さらには嵌合部付近全体および下方内孔面が通気性耐火物であることによる損傷等とそれに起因するガス吹き出しの不均一化と不安定化等の問題が解決できない。
【0015】
また、連続鋳造用ノズルの内孔は、溶鋼の流出速度と内孔に吹き込むガス量とのバランスによっては負圧になる場合もある。このように内孔が負圧になるときには、分割したノズル部分の接合部から空気を引き込むことがある。このような空気引き込みもまた、その接合部付近とそれより下方のノズル内孔に介在物等の付着とそれによる閉塞等の問題をもたらすとともにノズル内孔の酸化、溶損、鋳片の品質低下をも生じさせる。尚、本発明に於いて接合部とは、上ノズルと下方のノズルとが接して連結する部位を総称し、平面接触であるか凹凸形の嵌合接触であるか等、特定の形に限定するものではない。
【0016】
この対策として、ノズル接合部に高気密性のモルタルやシール材を適用し、ノズル接合部の外部を不活性ガス雰囲気に保つ方法が採られている。しかしながら、これらの対策によっても空気引き込みを完全に防止することができず、またモルタルやシール材のセット作業が煩雑になる、高価なシール材を使用する必要がある、さらには、外部を不活性ガス雰囲気に保つ場合にはガスを大量に吹き付け続ける必要があること等からノズルや溶鋼が冷却される、大量のガス消費でコスト高となる等の問題がある。
【特許文献1】特開平6−297118号公報
【特許文献2】実開平3−14056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、介在物等の付着ないし閉塞を防止するためのガスを吹き出す機能を有する溶融金属排出ノズル、とくに、ストッパーとの嵌合部にガスを吹き出す機能を有する上ノズルにおいて、その嵌合部付近と上ノズル以下のノズル内孔への介在物等の付着とそれに起因する閉塞による溶融金属流の制御性能の低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
ガスを吹き出す機能を有する溶融金属排出ノズル、とくに、ストッパーとの嵌合部にガスを吹き出す機能を有する上ノズルにおいて、その嵌合部付近に介在物等が集中的に付着して閉塞に至ることが多いこと、また、その嵌合部付近以外にも、上ノズルの下部付近およびそれより下方のノズル内孔にもその嵌合部付近とは別に介在物等の付着が発生することがあること、および、これらの介在物付着と閉塞が溶融金属流の制御性能を大幅に低下させることに着目した。
【0019】
そして、ストッパーと上ノズルとの嵌合部付近の介在物の付着と閉塞の問題を解決するには、第1に、嵌合部付近の一定の範囲の領域に集中的に、且つ、その嵌合部の領域全体から均等にガスを吹き出すことが必要であること、第2に、ガスの吹き出しに際しては、漏れや目的とする領域以外の部分からの流出等による変動をなくして安定的に供給すること、第3に、ガスの不均一な吹き出しを招来する、耐火物への損傷や亀裂を生じさせないことが必要であることを認識した。
【0020】
さらには、上ノズルの下部付近およびそれより下方のノズルの内孔部の介在物等の付着と閉塞の問題を解決するには、上ノズルと下方のノズルとの接合部からの空気の内孔への侵入を防止することが必要であるという認識を得た。
【0021】
本発明の溶融金属排出ノズルは、これらの必要性の認識に基づいて解決手段を完成したもので、ノズル本体を構成する耐火物構造を少なくともガス導入部からガス吹き出し面までの軸方向の間を、内孔側と外周側に配置した緻密質耐火物層と、この両緻密質耐火物層の間に配置した通気性耐火物層からなる、半径方向の多層構造とし、ノズル上端付近の通気性耐火物層表面およびノズル下端付近の通気性耐火物層表面の中のいずれか、または、両方からガスを吹き出す機能を具備せしめたことを特徴とする。
【0022】
また、上記の半径方向の中間に設置した通気性耐火物層自体がその上方または下方のガスの吹き出し面へのガスの流通経路としての機能をも兼ね、そして、この通気性耐火物に接する内孔側と外周側に、ガス吹き出し面まで連続して設置した緻密質耐火物層に、ガス漏れ防止のためのシール用の構造体としての機能をも具備せしめたことを特徴とする。
【0023】
両緻密質耐火物層の間に配置した通気性耐火物層からなる多層構造を同心円の筒状耐火物の複数の層状構造とすることが、他の多角形等の応力集中点となりやすい部分を有する形状よりも、これらノズル耐火物の損傷の防止効果は大きく好ましい。
【0024】
また、両緻密質耐火物層の間に配置した通気性耐火物層は、ノズルの半径方向断面部分の中央付近、すなわちほぼストッパーとの嵌合部の接点を内孔側の基点として、外周側への肉厚を有する。
【0025】
さらに、通気性耐火物層の厚みを下方で小さくしたり、または、材質の通気特性を調整して、下方の通気特性を上方よりも低くすること等により、上下部の流量を調整することも可能であり、上下部の間にさらに緻密質耐火物層を介して上下独立してガスを供給することも可能である。
【0026】
通気性耐火物層のノズル軸方向の長さは、ガスの吹き出しを上方のみからまたは上方と下方の両方から行う場合等、またガス導入口の設置位置等の状況に応じて、任意の長さに設置できる。
【0027】
そして、通気性耐火物層はガス吹き出しのためのガス流通経路を形成し、通気性耐火物層の上方端面は、ストッパーと上ノズルとの嵌合部に面してガスを吹き出す面を形成する。ガスの吹き出しをこの通気性耐火物の上方端面にて行うことにより、貫通孔のいわば点による局部的な部位からではなく、特定された面の領域全体から均一にガスを吹き出すことを可能とする。
【0028】
また、この上方端面を、ストッパーと上ノズルとの嵌合部に面してガスを吹き出す面を形成し、ガス吹き出し範囲をストッパーとの嵌合部の最も介在物等の付着ないし閉塞が発生し易い比較的狭い特定の領域に限定的に設定することで、その介在物等の付着ないし閉塞を効果的に防止することが可能となる。
【0029】
通気性耐火物層の内孔側と外周側に接して設置した緻密質耐火物層は、ガスシール機能と共に、ノズルとしての強度を高めてストッパーとの嵌合部の機械力学的な損傷の防止、並びに、耐食性、耐摩耗性および耐スポーリング性の向上にも寄与する。これにより、通気性耐火物層への外部からのガス導入箇所以外に、金属製の管や金属製のケースでのガス流通経路やガスシール面を設置する必要がなくなり、それらの膨張や侵食等に起因する耐火物の損傷やガス漏れが防止でき、安定的にガスを上方あるいは下方へ供給することが可能となる。
【0030】
この通気性耐火物層と緻密質耐火物層からなる多層構造の耐火物は、境界部分がない一体的な構造とすることができ、分割や接合等の複雑な構造を必要としない。また従来のようなガス吹き出し部分とガス流通部分等での分割や接合等の複雑な構造も必要としない。これによって、境界部分からのガス漏れ等もなく、ガス供給の均一性や安定性が高くなる。またこのように簡素な構造でノズルの製造も容易であること等から、製品としてのノズルの欠陥や不良が発生する確率も小さい等の利点がある。
【0031】
ストッパーによる溶鋼流の制御動作と溶鋼流に伴う上ノズルにかかる機械的衝撃や圧力を、両緻密質耐火物層の中、内孔側の緻密質耐火物層が受けることで、通気性耐火物層への負荷を大きく軽減する。そして、内孔側全面を緻密質耐火物層によって形成することによって、溶融金属流や介在物等の異物に対するノズル内孔面の耐食性、耐摩耗性をも向上させるとともに、内孔側の耐火物が薄くなっても、その部分からガスが漏れ出すことがなく、使用時間の経過に伴う漸増的な上端部からのガス吹き出し量の減少等も大幅に改善できる。
【0032】
外周側の緻密質耐火物層は、通気性耐火物層をその外周全体から拘束して受け止めることで、上記の衝撃や圧力で通気性耐火物層等が外部に押し広げられて割れることを防止する。
【0033】
さらに、緻密質耐火物を内外の層状に設置することで、半径方向に一体の厚みである場合よりも各層を薄く形成でき、これによって各層内の内孔側と外周側の温度差と膨張差が小さくなり、それに中間層の通気性耐火物の応力吸収能と各層間の応力緩和機能も加わり、熱衝撃に対する抵抗性が高まる。
【0034】
本発明のノズルは、ノズル上部のストッパーとの嵌合部付近からガスを集中的にまた均一且つ安定的に吹き出すことで、ストッパーと上ノズルとの嵌合構造への介在物等の付着さらにはこれによるノズル孔の閉塞を防止できる。
【0035】
ところが、上ノズルの下方およびそれより下方のノズルの内孔部に介在物等が付着し、ノズル孔の閉塞に至る場合がある。これは、内孔が負圧になることによる上ノズルと下方のノズルとの接合部からの空気の引き込みがその一因である。とくに、ストッパーとの嵌合部付近に集中的にガスを吹き出すことで、内孔側に入るガス量が少なくなって、注湯速度と内孔径およびガス量の相互のバランス等によっては、下方の内孔が負圧になって空気を引き込む可能性および侵入した空気が上ノズル下部付近とその下方で渦等の複雑な状態でノズルの内孔および溶融金属と接触する可能性が高まる。内孔に侵入した空気に含まれる酸素は溶鋼中に含まれる金属Alを酸化してAlを析出し、それがノズル内孔に付着し、或いは核となって介在物等のクラスターの生成および付着を促進する。また、ノズル耐火物の中に含まれる炭素等をも酸化して耐火物の損傷を来たし、さらに酸素と溶鋼との反応により生成したFeOやFe等が耐火物構成成分と反応して低融物を生成し、耐火物の反応溶損等をも招来する。
【0036】
本発明のノズルは、ノズル上部のストッパーとの嵌合部付近からガスを集中的にまた均一且つ安定的に吹き出すことで、ストッパーと上ノズルとの嵌合構造への介在物等の付着さらにはこれによるノズル孔の閉塞を防止できるとともに、多層構造の中間層である通気性耐火物を上ノズルの下端面まで設置し、その下端面からもガスを吹き出す機能を付与することができる。
【0037】
上ノズルと下方のノズルとの接合部にも常時ガスを供給することで、この接合部付近の雰囲気を常に、不活性ガス等の酸素を含まないガスによる正圧状態に保つことができる。これにより接合部付近の内孔が負圧になっている場合、また接合部に亀裂等の隙間が発生している場合等に空気の代わりにガスが内孔に引き込まれることになり、空気の内孔への侵入を防止する。尚、このように接合面を常時ガスによって加圧した状態であっても、接合面のモルタルやシール材の破壊を来すことはない。
【0038】
通気性耐火物層の上端面あるいは下端面からガスを均一に供給するためには、通気性耐火物層の下方外周、緻密質耐火物との間に、ガス導入部から繋がる空間であるガスプール、いわゆるヘッダを設けることが好ましい。空間であるガスプール、いわゆるヘッダは、ガス導入部付近の通気性耐火物の周囲で、ガスの圧力を均一化し、さらにガスを全体に均一に拡散させることに寄与する。また、多層構造の耐火物の外面には、上記のガス導入管の固定および耐火物を最外部から拘束して保護するための金属製のケースを設置することが好ましい。
【0039】
本発明において、通気性耐火物とは、耐火物に一般的に使用される耐火原料からなる耐火物の中、とくに、ガスの通気性を高めるために、その構成材料や物性をガスの流通に適するように、また溶鋼攪拌に対し高い抵抗性を有するように調整した耐火物をいう。その構成材料は、アルミナクリンカー等の溶鋼およびスラグ等に対する耐食性や耐摩耗性に優れる耐火原料を使用することが好ましく、その指標として、例えば組成はAlとして60質量%以上、物性は通気率がJIS R 2115の測定方法による値が0.05cm・cm/cm・mmHO・sec程度以上であることが好ましく、1.00cm・cm/cm・mmHO・sec程度以上であることがさらに好ましい。
【0040】
また、緻密質耐火物とは、耐火物に一般的に使用される耐火原料からなる耐火物の内、特に強度、溶鋼やスラグ等に対する耐食性、耐摩耗性および溶鋼攪拌に対し高い抵抗性を有するように、さらにガスのシール性が必要なことから、ガスが流通しにくいように調整した耐火物をいう。その構成材料は、アルミナクリンカー等の溶鋼およびスラグ等に対する耐食性や耐摩耗性に優れる耐火原料を使用することが好ましく、その指標として、例えば組成はAlとして60質量%以上、物性は通気率が0.03cm・cm/cm・mmHO・sec程度以下であることが好ましく、0.01cm・cm/cm・mmHO・sec程度以下であることがさらに好ましい。
【0041】
さらに、通気性耐火物層と緻密質耐火物層の通気率の程度は、厳格に上記数値に適合するものに限定する必要はなく、通気性耐火物と緻密質耐火物とを同時に使用する条件下、その両者間に相対的な通気特性の違いがあって、通気性耐火物からガスの殆どが放出され、緻密質耐火物からはガスが殆ど出ないような組み合わせであればよい。強度等の他の物性についても相対的に決定して差し支えない。
【0042】
通気性耐火物としてはガスの流通および放出機能、すなわち高い通気特性とガス放出部付近の溶融金属流による耐摩耗性や保形能等に優れた特性を、緻密質耐火物にあってはガスのシール機能、すなわち低い通気特性と溶鋼およびスラグ等に対する耐食性や耐摩耗性に優れ特性を有するものであれば、両耐火物共に、Al質以外にも、Al−SiO質、ZrO質、Al−SiO−ZrO質、Al−MgO質、MgO質等とし、また、これら成分からなる原料を単独または複数組み合わせて使用することができ、さらに、これらに黒鉛その他の炭素系、SiC、BC、BN等の炭化物、硼化物、窒化物等の非酸化物系の原料、Si、Al等の金属の原料等をも組み合わせることができる。また、耐火組成物間の結合形態も粒子間の焼結、炭素結合等さまざまな形態を採ることが可能であり、とくに限定されない。
【0043】
本発明のノズルは、従来の一般的な成形枠内への装填方法や成型方法等を、多層構造を得るための調整や組み合わせ等に適用することで製造することができる。例えば、空間を各層用に区切った成型用の枠内にそれぞれの耐火物はい土を上方から設定の高さで装填し、はい土の装填後に区切りに用いた資材を取り除き、上方からまたは外周からプレスで一体成形する方法、各層毎に成形した筒状の耐火物をそれぞれ階層的に内部に組み込んで接着する方法等、適宜な製法を採り得る。
【発明の効果】
【0044】
本発明のノズルを使用することにより、特にストッパーとの嵌合部を有するガスを吹き出す機能を有する上ノズルに於いて、その嵌合部付近の特定の領域全体から集中的且つ均一にガスを供給することができる。またノズル内部のガス流通経路を上部のガス吹き出し用の通気耐火物自体とし、さらにその内孔側および外周側に隣接する緻密質耐火物層にシール機能をも担わせることにより、長時間にわたる使用下でもガス漏れを防止することができ、安定的にガスを供給しつつ、意図する重要な部分からのみ集中的にガスを吹き出し続けることができる。
【0045】
また、緻密質耐火物をストッパーとの嵌合部付近を含む内孔側と外周側に多層構造で設けることにより、ノズルの機械力学的な破壊やスポーリング等による損傷、溶鋼やスラグ等による侵食、摩耗等に対する抵抗性を大きく高めることができ、その結果、上ノズル先端部等の各耐火物層の亀裂や損傷に起因するガス吹き出しの不均一化や不安定化を抑制できる。
【0046】
さらに、該ノズルとその下方のノズルとの接合部からの空気の侵入に起因する、該ノズル下部付近およびその下方の耐火物製ノズル内孔への介在物の付着と閉塞、並びにそれら耐火物の内孔等の酸化や溶損等による損傷も、本発明の、上ノズル下端からもガスを吹き出す機能により、防止することができる。
【0047】
これらにより、ノズル内孔への介在物等の付着とそれに伴う閉塞を防止することができ、湯面変動や途中交換等の少ない安定的な操業が可能となり、鋼の生産性の向上や品質向上にも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明を上ノズルに適用した実施例によって実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0049】
図1は、上端のみからガスを吹き出す機能を有する上ノズル10を軸方向断面によって示す図である。
【0050】
同図において、本発明の上ノズル10の本体を形成する耐火物構造は、内孔面1から外周方向の半径方向に、内孔に面して設けられた緻密質耐火物層2と外周面に面して設けられた緻密質耐火物層3の間に形成された通気性耐火物層4の三層構造からなる。
【0051】
通気性耐火物層4の半径方向は、基本的にはストッパー5の嵌合部6の耐火物構造との接点7をその内孔側の基点とし、それから外周に向けての半径方向に、介在物等の付着等が見られるストッパー5との嵌合部6の外周側端部71までの範囲、または、ストッパー制御に影響する部分、すなわち付着がストッパー制御に影響しない部分を除いて、閉塞現象を生じる部分までをその厚みとして形成したものである。
【0052】
この基点と厚みは、操業上の設備や鋳造条件・方法、鋼の諸特性等の様々な条件に応じて個別に変動させることが望ましい。例えば、その外周位置は、必ずしも従来ノズルを使用した場合に介在物等の付着が観られる範囲全てを覆うような位置までにする必要はなく、同様に、基点となる位置も必ずしもストッパーとの嵌合部の接点と同一位置である必要はない。換言すると、介在物等の付着や閉塞の態様は、ストッパーや上ノズルの形状やそれら相互の関係等の構造上または溶鋼の引き抜き速度やストッパー開度その他の操業上の諸条件若しくは鋼の性質等によって変動するので、それら個別の条件に応じてストッパーとの嵌合部付近を中心に、適宜範囲の拡大または縮減が可能であり望ましい。
【0053】
通気性耐火物層4は、ガス導入管9から導入されたガスの流通経路として機能し、ガス導入位置からストッパー5の嵌合部6まで延びて形成されている。ガス導入管9の位置は、ノズルの外部の耐火物羽口や鉄皮等との位置関係を考慮すると共に、ストッパーとの嵌合部にかかる外力等の影響が及ばない、あるいは外力等の影響が破壊等を生じない程度に小さくなる下方位置に設置することが望ましい。
【0054】
この通気性耐火物層4の上端の半径方向の形状は、上端のガスを吹き出す領域と同じ円筒状形状に形成されている。
【0055】
この通気性耐火物層4を挟んで形成された内孔に面して設けられた緻密質耐火物層2と外周面に面して設けられた緻密質耐火物層3とは下方で一体化している。
【0056】
金属製ケース8は、耐火物外周部の保護と、ガス導入管等をノズル本体耐火物に過度な負荷をかけずに固定する機能を有するものである。
【表1】

【0057】
表1は、図1に示す本発明の実施例のノズルを実操業に供してノズル閉塞の発生頻度を比較例と対比して示す。比較例は図6に示す構造のノズルを使用した。
【0058】
耐火物としては、表1に示すものを使用し、実施例のノズルは、上端部の全耐火物肉厚は50mm、その内通気性耐火物層の厚みは10mmであり、上端部の全耐火物肉厚の約20%とした。
【0059】
これらノズルを、共にストッパー制御のタンディッシュの上ノズルとして供し、その鋳造中のノズル閉塞の発生頻度を比較した。
【0060】
試験時の条件は、タンディシュは40トン、鋼種はアルミキルド鋼、鋳造時間は600分で、当該上ノズルからのガス流量は10〜15Nリットル/分、ストッパー先端からのガス流量は5〜10Nリットル/分である。
【0061】
なお、ノズル閉塞の判定は、操業上規定されている、溶鋼流量が一定の限度を下まわったときをノズル閉塞発生とみなし、そのノズル閉塞の頻度の評価は、取鍋1鍋の溶鋼注入分を1chとして、その1ch内に1度以上前記のノズル閉塞が発生した場合を発生ch数1とし、それを一定期間の鋳造全ch数に対する百分率で評価した。その数値が低い方がノズル閉塞の発生が少ないことを示す。
【0062】
その結果、本発明のノズルの閉塞発生の頻度は0.2%で、比較例の3.5%に対し大幅に低下し、ノズル閉塞防止の効果が確認できた。さらにノズルへの供給ガスの背圧の低下も殆ど観られず、ガスの漏れが殆どないことが確認された。また、使用後のノズル上部には、鋳造中に発生したと思われるような亀裂や偏った損傷等も観られなかった。
【0063】
これに対して、比較例の場合は、閉塞発生頻度は、本発明の15倍以上の3.5にも達した。
【実施例2】
【0064】
この実施例は、図2に示すように、上記実施例1において上ノズルの下方位置からも付着防止用ガスを吹き出すようにした上ノズル20の例を示す。
【0065】
この場合も図1に示す実施例の場合と同様に、ノズル本体を形成する耐火物構造は、内孔面1から外周方向の半径方向にかけて、内孔に面して設けられた緻密質耐火物層2と外周面に面して設けられた緻密質耐火物層3の間に挟まれて形成された通気性耐火物層4の三層構造からなる。
【0066】
この例の場合は、図2に示すように、ガス流通路を形成する通気性耐火物層4は、ガス導入管9によるガス導入位置から上方のみならず、下方にも延長されて、その下方端面は下方ノズルとの接合箇所11に開口し、この開口から下方ノズルとの接合箇所11にガスを吹き出す構造に形成されている。
【0067】
この実施例の場合には、通気性耐火物層4の上下方向の通気特性のバランスと、緻密質耐火物2と3の強度、耐食性、耐摩耗性等の特性とともにガスシール性を考慮して、その機能を調整する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の溶融金属排出ノズルは、ストッパーとの嵌合部を有するガスを吹き出す機能を有する上ノズルを含む、取鍋その他の窯炉や連続鋳造用ノズル等の溶融金属排出処理のためのノズル全般に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例に係る上端付近からのみガスを吹き出す構造のノズルとストッパーとの嵌合部の軸方向の断面を示す。
【図2】本発明の実施例に係る上端付近と下端からガスを吹き出す構造のノズルとストッパーの軸方向の断面を示す。
【図3】従来の、全体に通気性耐火物を適用した方式のノズルとストッパーの軸方向の断面を示す。
【図4】従来の、上端付近の全域に通気性耐火物を適用した方式のノズルとストッパーの軸方向の断面を示す。
【図5】従来の、上端付近および下方の全域に通気性耐火物を適用した方式のノズルとストッパーの軸方向の断面を示す。
【図6】従来の、貫通孔方式のノズルとストッパーの軸方向の断面を示す。
【符号の説明】
【0070】
1 内孔面
2、3 緻密質耐火物層
4 通気性耐火物層
5 ストッパー
6 ストッパーとの嵌合部
7 嵌合部の接点 71 嵌合部の外周側端部
8 金属製ケース
9 ガス導入管
10、20 本発明の実施例に係る上ノズル
11 下方ノズルとの接合部
12 貫通孔
30、40、50 従来の上ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体を構成する耐火物構造を、少なくともガス導入部からガス吹き出し面までの間を、内孔側と外周側に配置した緻密質耐火物層と、この両緻密質耐火物層の間に配置した通気性耐火物層からなる多層構造とし、
ノズル上端付近の通気性耐火物層表面およびノズル下端付近の通気性耐火物層表面の中のいずれか、または、両方からガスを吹き出す機能を有する溶融金属排出ノズル。
【請求項2】
多層構造をなす耐火物の中の通気性耐火物層をガス吹き出しのためのガス流通経路とした請求項1に記載の溶融金属排出ノズル。
【請求項3】
溶融金属排出ノズルが連続鋳造用の上ノズルであって、
ガス吹き出しのための流通経路である通気性耐火物層の上方端面がストッパーと上ノズルとの嵌合部に面してガスを吹き出す面を形成している請求項1または請求項2に記載の溶融金属排出ノズル。
【請求項4】
ガス吹き出しのためのガス流通経路である通気性耐火物層の下方先端面が下方ノズルとの接合部に面してガス吹き出し面を形成している請求項1から請求項3の中のいずれかに記載の溶融金属排出ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−61943(P2006−61943A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247397(P2004−247397)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】