説明

ガスクロマトグラフ装置

【課題】充填カラム/キャピラリカラム分析が選択可能なGC装置において、オペレータが面倒な操作を行うことなく各分析に対応した適切なフィルタ時定数が設定されて良好なクロマトグラムが得られるようにする。
【解決手段】オペレータがカラムを装着して環境設定により使用する試料気化室及び検出器を選択すると(S1)、選択された試料気化室に応じて充填カラム分析/キャピラリカラム分析のいずれかが判定され(S2)、各分析に応じてフィルタ時定数のデフォルト値が定まる(S3)。フィルタ時定数がその時点での設定値と異なる場合には、ポップアップメニューで時定数変更の確認を行い(S5)、変更OKであれば環境設定で選択された検出器に関するフィルタ時定数を変更する(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフ装置に関し、更に詳しくは、分析目的等に応じて充填カラムを用いた充填カラム分析とキャピラリカラムを用いたキャピラリカラム分析とを選択的に行えるようにしたガスクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置では、分析目的や試料の種類などに応じて様々な種類のカラムが用意されているが、よく使用されるのは、比較的太径で短い(内径が2〜数mm程度で長さが0.5〜3m程度の)ガラス管内に充填剤を詰めた充填カラム(パックドカラム)と、ごく細径で長い(内径が0.5mm以下で長さが20〜数十m程度の)ガラス管の内壁に吸着剤を塗布したキャピラリカラムとである。最近ではキャピラリカラム分析がかなり増加しているが、JIS規格の標準試験法などでは充填カラム分析を基準としているものが多い。そのため、1台の装置で両カラム分析を選択的に行いたいという要望も強く、そうしたガスクロマトグラフ装置が従来より市販されている(例えば非特許文献1など参照)。
【0003】
充填カラム分析ではカラム内に流れるキャリアガス流量が大きいため、カラム入口に設けた試料気化室内で気化させた試料ガスの全量をカラムに導入して分析を行うのが一般的である。一方、キャピラリカラム分析ではカラムに流すことのできるガス流量が充填カラムに比べて遙かに小さいため、試料気化室内で気化させた試料ガスの全量をカラムに導入することが難しく、多くの場合、試料ガスのごく一部をカラムに導入し残りは廃棄するスプリット分析が行われる。こうした試料気化室の構造上の相違等のために、充填カラムとキャピラリカラムとを交換して分析を行う構成の装置では、充填カラムに対応した試料気化室とキャピラリカラムに対応した試料気化室とがそれぞれ独立に設けられており、いずれかが選択的に使用される。
【0004】
一方、ガスクロマトグラフ装置の検出器としては、水素炎イオン化検出器(FID)、炎光光度検出器(FPD)など様々な検出器が存在するが、その殆どはカラムの種類に依らずに使用することができる。但し、上述したようにキャピラリカラムと充填カラムとに流すキャリアガス流量の相違のため、キャピラリカラム分析時には検出器に導入される試料ガスのガス流量の不足を補うために、メイクアップガスが途中で追加されるといった流路構成の相違はあり得る。また、特に充填カラム分析では、試料ガスを複数に分岐して異なる種類の2つの検出器で同時に検出する構成を採る場合も場合もある。
【0005】
ところで、クロマトグラフ分析では、検出器で得られた検出信号に基づいてクロマトグラムが作成されるが、検出信号には様々な要因のノイズが重畳する。主なノイズとしては検出器や増幅器等の電子回路にて発生する固有ノイズ(例えば熱ノイズ等)や外部からの飛込みノイズ等であり、こうしたノイズは通常、観察対象であるピーク波形等に比較して周波数が高い。最近の検出器は、アナログ検出信号をA/D変換器でデジタル信号に変換した後にデジタルフィルタを通すような回路構成が採用されており、低域通過型のデジタルフィルタにより高周波ノイズを低減することができる。
【0006】
ノイズの低減効果を高めるには、デジタルフィルタの時定数を長くしてカットオフ周波数を低くするのが望ましい。しかしながら、分析対象の試料成分のピークが急峻である場合、そのピーク波形の周波数成分は比較的高いから、デジタルフィルタの時定数を長くしすぎるとピーク波形自体が鈍ってしまいS/N比を却って悪化させることになる。したがって、本来、検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数はクロマトグラムのS/N比にとって重要な条件の1つであり、従来のガスクトロマトグラフ装置でも、その値を適宜に変更できるようになっている。
【0007】
ところが実際には、多くのオペレータは検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数がクロマトグラムのS/N比を左右する重要な条件の1つであるという意識が乏しく、他の様々な分析条件、環境設定を変更した場合でもフィルタ時定数については変更しないのが普通である。キャピラリカラム分析専用のガスクロマトグラフ装置では、ガス流量やカラムサイズ等の分析条件を変える一方、フィルタ時定数を一定としても、それによるクロマトグラムのS/N比への影響はそれほど大きくなく、従来、あまり問題となることはなかった。
【0008】
しかしながら、充填カラム分析とキャピラリカラム分析とではクロマトグラム上に現れるピークの幅(換言すればピークの急峻さ)がかなり相違するため、それぞれの分析に適したフィルタ時定数も大きく相違する。そのため、上述したようなキャピラリカラム分析と充填カラム分析とが選択可能なガスクロマトグラフ装置においては、検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数を適切に設定しないことによって、S/N比の点で大きな損失を受けることになる。
【0009】
【非特許文献1】「これ1台でパックドカラム&キャピラリカラム測定が可能な万能GC GC-14B」,[Online],株式会社島津製作所,平成16年9月6日検索,インターネット<URL : http://www.shimadzu.co.jp/products/gc/gc14b.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、充填カラム分析、キャピラリカラム分析のいずれが選択された場合でも、分析者(オペレータ)が特に意識したり面倒な操作を行ったりすることなく、ノイズが適切に除去された良好なクロマトグラムを得ることができるガスクロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、試料気化室内で気化させた試料ガスをカラムに導入して、カラムを通過する間に試料成分を時間方向に分離させ、カラムの出口に設けた検出器で検出するガスクロマトグラフ装置であって、充填カラム分析とキャピラリカラム分析とを選択的に行うために各分析に適合した試料気化室及び検出器をそれぞれ具備するガスクロマトグラフ装置において、
a)分析の実行に先立って分析に使用する試料気化室と検出器との組み合わせをオペレータが設定するための環境設定手段と、
b)該環境設定手段により設定された試料気化室の種類に応じて充填カラム分析又はキャピラリカラム分析のいずれであるのかを識別する分析種類識別手段と、
c)該分析種類識別手段により識別された分析種類に応じて、前記環境設定手段により設定された検出器において検出信号をフィルタリング処理するデジタルフィルタの時定数を変更するフィルタ時定数変更手段と、
を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
充填カラムを使用する場合とキャピラリカラムを使用する場合とでは、カラムへの試料の導入方法や導入量等がかなり相違するため、異なる種類の試料気化室を使用する。また、キャピラリカラム分析、充填カラム分析のそれぞれにおいても分析目的等に応じて異なる種類の試料気化室を使用する場合もあり得るが、いずれにしてもキャピラリカラム分析、充填カラム分析とで試料気化室が共用されることはない。そこで、使用する試料気化室が環境設定手段により設定されたとき、分析種類識別手段は選択された試料気化室の種類に応じて充填カラム分析又はキャピラリカラム分析のいずれであるのかを識別する。フィルタ時定数変更手段はその識別結果を受けて充填カラム分析又はキャピラリカラム分析にそれぞれ適した標準的なフィルタ時定数を導出し、環境設定手段により設定された検出器が備えるデジタルフィルタのフィルタ時定数がそれと異なる場合にはフィルタ時定数を変更する。充填カラム分析とキャピラリカラム分析とにそれぞれ適した標準的なフィルタ時定数は予め定めてメモリに記憶しておけばよい。
【0013】
なお、充填カラム分析とキャピラリカラム分析とで試料気化室は必ず異なるものが使用されるから試料気化室は2つ以上設けられるが、検出器は両分析で共用が可能である場合もあるから、検出器は1つのみ設けられている場合と複数設けられている場合とが考え得る。
【0014】
具体的には、充填カラム分析よりもキャピラリカラム分析のほうがクロマトグラム上でのピークの半値幅が狭くなるため、時定数を大きくするとノイズは減少するもののピーク自体の信号レベルも低下して結果的にS/N比が悪化するおそれがある。そこで、充填カラム分析時には相対的に大きな時定数を、キャピラリカラム分析時には相対的に小さな時定数を設定するようにする。
【0015】
このように本発明に係るガスクロマトグラフ装置によれば、オペレータが分析の一連の作業として行う環境設定での設定に応じて、検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数が充填カラム分析又はキャピラリカラム分析のいずれかに適した値に自動的に設定される。したがって、S/N比の良好なクロマトグラムを得るためにフィルタ時定数を変更するという意識をオペレータが持っていない場合であっても、取得されたピークの波形に大きな影響を与えずにノイズが抑制された良好なクロマトグラムを得ることができる。また、最適なフィルタ時定数はキャリアガス流量等の分析条件にも依存するため、上記のように自動的に設定されるフィルタ時定数はあくまでも平均的に良好なクロマトグラムが得られるようなデフォルト値としておき、必要に応じてオペレータがそのデフォルト値から適宜にフィルタ時定数を修正できるようにしておくとよい。
【0016】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一実施態様として、変更前のフィルタ時定数と変更後のフィルタ時定数とが異なる場合にオペレータに変更の確認を要求する確認要求手段をさらに備え、前記フィルタ時定数変更手段は、該確認要求手段の要求に応じてオペレータが変更の確認を行った場合にのみフィルタ時定数の変更を実行する構成としてもよい。この構成によれば、上述したようにオペレータが意図的にフィルタ時定数をデフォルト値から修正している場合に、オペレータが知らない間にフィルタ時定数が勝手に変更されてしまうことを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一実施例について図面を参照して説明する。図1は本実施例のガスクロマトグラフ装置の要部の全体構成図、図2はこのガスクロマトグラフ装置でキャピラリカラム分析を行う場合及び充填カラム分析を行う場合のカラム接続構成の一例を示す図である。
【0018】
カラムを内装する空間を有するカラムオーブン1にはヒータ等を含む温調部2が付設されており、この温調部2によってカラムオーブン1内は所定温度に温調される。カラムオーブン1には、第1及び第2なる2つの異なる種類の試料気化室3A、3Bが装着されるとともに、第1乃至第3なる3つの異なる種類(同一であってもよい)の検出器4A、4B、4Cが装着されている。ここでは、第1試料気化室3Aはキャピラリカラム分析用であり、具体的には、スプリット/スプリットレス注入ユニット、ダイレクト注入ユニット、オンカラム注入ユニット、PTV(Programmed Temperature Vaporizer)用注入ユニットなどである。一方、第2試料気化室3Bは充填カラム分析用であり、ここではデュアルパックド注入ユニットであるが、シングルパックド注入ユニットでもよい。検出器4A、4B、4Cは基本的には充填カラム分析とキャピラリカラム分析とのいずれにも使用できるものであるが、それぞれに専用のものであってもよい。検出器としては、水素炎イオン化検出器、熱伝導度検出器、エレクトロンキャプチャ検出器、炎光光度検出器、フレームサーミオニック検出器などが挙げられる。なお、この例では、2つの試料気化室と3つの検出器をカラムオーブン1に装着できるようにしているが、装着数はこれに限定されるものではない。
【0019】
各検出器4A、4B、4Cでは基本的に検出信号はアナログ信号として得られるが、アナログ/デジタル変換器及びデジタルフィルタ(DF)を内蔵しており、アナログ検出信号はアナログ/デジタル変換器でデジタル信号に変換された後、デジタルフィルタでフィルタリング処理されることで高周波ノイズが除去される。こうして処理されたデジタルデータがデータ処理部12へと送られ、データ処理部12でクロマトグラムが作成される。一方、制御部11は分析に際して各部の動作を制御する。制御部11及びデータ処理部12はキーボード等の操作部13や表示部14が接続されたパーソナルコンピュータ10により具現化され、パーソナルコンピュータ10にインストールした所定の制御・処理プログラムを動作させることにより、分析動作やデータ処理が達成されるようになっている。
【0020】
この装置では、分析に際してキャピラリカラム又は充填カラムをオペレータが適宜装着する。キャピラリカラム分析を行う際には、例えば図2(a)に示すように、第1試料気化室3Aと第2検出器4Bとの間にキャピラリカラム5を接続する。他方、充填カラム分析を行う際には、例えば図2(b)に示すように、第2試料気化室3Bの一方の注入口と第1検出器4Aとの間に第1充填カラム6Aを接続し、第2試料気化室3Bの他方の注入口と第3検出器4Cとの間に第1充填カラム6Aと同じ第2の充填カラム6Bを接続する。そして、両流路で差動の分析を行う。なお、この例は2つの検出器4A、4Cを並行して使用する場合であるが、必ずしもこうした構成を採るわけではない。
【0021】
例えば図2(a)に示す状態で、図示しないマイクロシリンジにより第1試料気化室3A中に試料液が注入されると、試料液は短時間で気化してキャリアガス流に乗ってキャピラリカラム5中に導入される。試料ガスがキャピラリカラム5を通過する間に該ガスに含まれる試料成分は時間方向に分離されてキャピラリカラム5から流出する。例えば第2検出器4Bが水素炎イオン化検出器である場合には、キャピラリカラム5から流出した試料ガスにメイクアップガスと水素ガスとが混合されてノズル先端で燃焼される。また、ノズル先端に形成された水素炎フレームを取り囲むように空気が流される。水素炎フレーム中に特定の試料成分が混入するとイオンが発生するので、このイオンを電極で捕集してイオン電流を検出することによりその成分を検出する。この検出信号が上述したようにデジタル信号に変換されフィルタリングされた後にデータ処理部12へと送られ、クロマトグラムが作成される。
【0022】
次に、本実施例のガスクロマトグラフ装置の特徴である、検出器4A、4B、4Cに内蔵されたデジタルフィルタのフィルタ時定数の自動設定処理について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0023】
分析に先立って上述の如くオペレータはカラム(キャピラリカラム5又は充填カラム6A、6B)を装着するが、その後、操作部13により分析の環境設定を実行する。環境設定では、分析に使用する試料気化室と検出器とを選択する(ステップS1)。例えば、図2(a)の場合には、試料気化室として第1試料気化室3A、検出器として第2検出器4Bを選択する。また、 図2(b)の場合には、試料気化室として第2試料気化室3B、検出器として第1検出器4A及び第3検出器4Cの2つを選択する。この設定が確定すると、制御部11は試料気化室の選択に応じてキャピラリカラム分析と充填カラム分析のいずれが実行されるのかを判定する(ステップS2)。
【0024】
そして、その分析の種類に応じて検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数T1を決定する(ステップS3)。具体的にここでは、充填カラム分析の場合にはフィルタ時定数を1000msとし、キャピラリカラム分析の場合にはフィルタ時定数を200msとするようになっている。それぞれのフィルタ時定数は、標準的な分析条件の下で分析が実行された場合に、試料成分のピーク波形に殆ど影響を与えることなく高周波ノイズをできるだけ除去できるように設定された値である。最も良好なクロマトグラムを作成するために適したフィルタ時定数は分析の種類だけでなくガス流量等の分析条件にも依存するため、上記のフィルタ時定数は必ずしもそのときの分析条件に対して最適であるとは限らない。しかしながら、分析条件の細かい相違よりも分析の種類の相違による影響のほうが格段に大きいため、キャピラリカラム分析/充填カラム分析のそれぞれについて標準的なフィルタ時定数を定めておけば、フィルタ時定数を1つに固定する(又は変更しない)場合に比べて遙かに良好なクロマトグラムを得ることができる。
【0025】
フィルタ時定数のデフォルト値T1が決まったならば、環境設定で選択された検出器におけるその時点でのフィルタ時定数がT1と異なるか否かをチェックする(ステップS4)。もし、フィルタ時定数が同じであれば時定数変更の必要はないから、ステップS8へと進む。他方、フィルタ時定数が異なっていた場合には、時定数変更の確認表示をポップアップメニューとして表示部14の画面上に出す(ステップS5)。オペレータはこの表示を見て、時定数変更を許可する場合には変更OKの指示を与える(ステップS6で「YES」)。例えば、ポップアップメニューにおいて変更OKかという問いに対し「はい」及び「いいえ」ボタンが用意されていれば、「はい」ボタンをクリック操作することで変更OKの指示を与える。変更OKの指示があった場合には、選択された検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数をそのデフォルト値T1に変更する(ステップS7)。もし、図2(b)の場合のように2つの検出器が選択されているときには、その2つの検出器ともにそれぞれのデジタルフィルタのフィルタ時定数をT1に変更する。
【0026】
なお、上記のように自動的に変更されるフィルタ時定数はあくまでもデフォルト値であるから、上記のような変更後にオペレータが手動でフィルタ時定数を修正するのは任意である。
【0027】
上記のようなフィルタ時定数の自動設定処理の後に分析が開始されると、制御部11は環境設定で選択された試料気化室と検出器とを対象として制御動作を実行する。即ち、上記環境設定はもともと分析時の制御対象を確定するために行うものであるが、本実施例のガスクロマトグラフ装置ではその環境設定での選択を利用してキャピラリカラム分析/充填カラム分析の種類を判断し、それに応じて使用する検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数をその分析種類に適した値に変更するようにしている。したがって、基本的にはオペレータがフィルタ時定数を変更するという意識がなくても、上記手順に従って所定の操作を行うことにより、フィルタ時定数を適切な値、つまり良好なクロマトグラムが作成できるような条件に切り換えることができる。
【0028】
上記のように検出器のデジタルフィルタのフィルタ時定数をキャピラリカラム分析と充填カラム分析とで切り換えることの効果を、実測したクロマトグラムで示したのが図4である。図4は充填カラム分析で取得されたクロマトグラムの一例であり、(a)はフィルタ時定数をキャピラリカラム分析のデフォルト値である200msに設定した場合、(b)はフィルタ時定数を充填カラム分析のデフォルト値である1000msに設定した場合である。即ち、本実施例のガスクロマトグラフ装置によれば、充填カラム分析を行う際に、オペレータが特に意識してデジタルフィルタのフィルタ時定数を設定したり変更したりしなくとも、フィルタ時定数は1000msのデフォルト値に自動的に設定され、図4(b)に示すように高周波ノイズが十分に抑制されたクロマトグラムを得ることができる。
【0029】
図5は図4のクロマトグラムのピーク面積及びMDQ指標値の計算結果を示す図である。なお、参考までにフィルタ時定数が500msである場合についても計算している。これから明らかなように、充填カラム分析に対して時定数を1000msに設定することにより、キャピラリカラム分析用の時定数200msに設定された場合と比べて、ピーク面積は殆ど変化しないのに対してMDQは大幅に減少している。MDQが小さいほどS/N比は高くなるから、これによってクロマトグラムのS/N比が向上して高感度の分析が可能となることが分かる。逆にキャピラリカラム分析時に時定数を1000msに設定するとノイズが減少するのみならずピーク面積(及びピーク高さ)が減ってしまうが、時定数を200msとすることによってピーク面積が減らさずにノイズを抑制することができる。
【0030】
なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加等を行っても本願請求項に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例によるガスクロマトグラフ装置の要部の全体構成図。
【図2】本実施例によるガスクロマトグラフ装置においてキャピラリカラム分析を行う場合及び充填カラム分析を行う場合のカラムの接続構成の一例を示す図。
【図3】本実施例によるガスクロマトグラフ装置において検出器に内蔵されたデジタルフィルタのフィルタ時定数の自動設定処理の手順及び動作を示すフローチャート。
【図4】充填カラム分析で取得されたクロマトグラムの一例であり、(a)はフィルタ時定数をキャピラリカラム分析のデフォルト値である200msに設定した場合、(b)はフィルタ時定数を充填カラム分析のデフォルト値である1000msに設定した場合。
【図5】フィルタ時定数を変更した場合のピーク面積とMDQ指標値との算出結果を示す図。
【符号の説明】
【0032】
1…カラムオーブン
2…温調部
3A、3B…試料気化室
4A、4B、4C…検出器
5…キャピラリカラム
6…充填カラム
10…パーソナルコンピュータ
11…制御部
12…データ処理部
13…操作部
14…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料気化室内で気化させた試料ガスをカラムに導入して、カラムを通過する間に試料成分を時間方向に分離させ、カラムの出口に設けた検出器で検出するガスクロマトグラフ装置であって、充填カラム分析とキャピラリカラム分析とを選択的に行うために各分析に適合した試料気化室及び検出器をそれぞれ具備するガスクロマトグラフ装置において、
a)分析の実行に先立って分析に使用する試料気化室と検出器との組み合わせをオペレータが設定するための環境設定手段と、
b)該環境設定手段により設定された試料気化室の種類に応じて充填カラム分析又はキャピラリカラム分析のいずれであるのかを識別する分析種類識別手段と、
c)該分析種類識別手段により識別された分析種類に応じて、前記環境設定手段により設定された検出器において検出信号をフィルタリング処理するデジタルフィルタの時定数を変更するフィルタ時定数変更手段と、
を備えることを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】
変更前のフィルタ時定数と変更後のフィルタ時定数とが異なる場合にオペレータに変更の確認を要求する確認要求手段をさらに備え、前記フィルタ時定数変更手段は、該確認要求手段の要求に応じてオペレータが変更の確認を行った場合にのみフィルタ時定数の変更を実行することを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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