説明

ガスクロマトグラフ装置

【課題】装置の損傷を引き起こすことなく、キャリアガス使用量と電力消費量を十分に削減した省エネモードを実現する。
【解決手段】省エネモードの実行が指示されると(S1)、省エネモードに対応して定められている制御パラメータを用いて省エネモード移行後(温度低下時)のカラム流量が計算され、その流量が装置構成で決まる許容上限を超えている場合には(S3,S4)、カラム入口圧を下げて再指令する注意喚起を表示する(S11)。計算した流量が許容上限以内であれば、その時点の入口圧を目標とした圧力一定制御を実行する(S5、S6)。カラムオーブンのヒータオフによりカラム流量は次第に増加するが、許容上限に収まるので検出器の損傷を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフ装置に関し、さらに詳しくは、ガスクロマトグラフ装置の制御技術に関する。本発明に係るガスクロマトグラフ装置はその検出器の種類を問わないから、通常のガスクロマトグラフ装置のほかにガスクロマトグラフ質量分析計をも含む。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)は、ガスクロマトグラフ(GC)のカラムで試料中の成分を時間方向に分離し、分離された各成分を順次、質量分析計に導入して検出する。GC/MSは装置電源を投入してから分析が可能である安定状態になるまでにかなり長い時間が掛かるため、或る分析を終了した後に次の分析を行うまでに時間が空く場合でも、装置電源を落とすことは殆どなく、通電状態を保つことが一般的である。しかしながら、分析現場では、或る試料の分析終了から次の試料の分析を実行するまでに数時間〜十数時間も時間が空くことも稀ではなく、次の分析までの待機期間中に要するランニングコストをできるだけ低減することが、環境保護の観点と企業や組織内における経費節減の観点との両方から求められている。
【0003】
GC/MSの場合、上記のような待機期間中における無駄な消費は、主として、GCのカラムに流し続けられるガス(キャリアガス)の消費と、カラムオーブン等を加温したり真空チャンバを真空引きする真空ポンプを駆動したりするための電力消費と、である。即ち、GC/MSでは待機期間中にキャリアガス供給を完全に停止してしまうと、真空状態となっている質量分析計に接続されているカラム内部が真空に近い状態になり、カラム内壁に塗布してある液相が損傷を受ける等、カラムが劣化するおそれがある。そのため、待機期間中にもキャリアガス供給を停止することなく、流量を抑えながらキャリアガスを流し続ける必要がある。また、待機期間中にカラムオーブンの加熱を完全に停止してしまうと、次に分析を行う際に熱容量の大きなオーブン内壁等を加熱するのに時間が掛かるという問題がある。こうしたことから、例えば特許文献1に記載のGCでは、予めオペレータが待機期間中におけるカラムオーブン温度を室温に近い低温に、ガス流量を少量に設定しておき、デイリーシャットダウン(つまりは待機モード)が機能すると、設定されたカラムオーブン温度やガス流量になるように各部が制御されるようになっている。
【0004】
しかしながら、従来のGCでは次のような問題がある。即ち、近年のGCでは、多様な分析に対応するために、カラムにキャリアガスを供給するガス制御に、線速度一定制御モード、カラム流量一定制御モード、圧力一定制御モード等、複数のガス制御モードが用意されている。実際の分析時にはカラム温度が例えば室温程度まで下がることは想定していないため、ガス制御モードによっては、カラム温度が下がってキャリアガスの粘性が極端に低下したときに適切な制御ができなくなる場合がある。例えば線速度一定制御モードではカラムに流れるガスの線速度が一定になるようにカラム入口圧を制御するが、キャリアガスの粘性が極端に下がったときに線速度を一定に維持するにはカラム入口圧を極端に下げる必要が生じ、制御可能範囲を超えてしまう。
【0005】
特にGC/MSの場合、質量分析計に導入可能なガス流量には許容上限があるが、上記のようにガス供給制御が適切に行われなくなると、パラメータの設定状況によってはその許容上限を超える流量のガスが質量分析計に流れ込んでしまい、質量分析計に損傷を与える等の不具合が生じるおそれがある。
【0006】
また、従来のGCでは待機モードにおいてもカラムオーブンの温度は設定値に維持されるようになっており、基本的に、カラムオーブンに設置されたヒータへの通電は実行される。しかしながら、近年、一層のCO2排出削減対策や経費削減が求められており、そのためには、待機モードにおいてヒータへの通電を遮断することが必須である。ところが、ヒータと送風ファンとを併設したカラムオーブンにおいて単に制御を止めて通電を停止してしまうと、場合によってはヒータの余熱によりカラムオーブン内温度が高くなりすぎ、カラムが損傷するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−304751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、或る分析が終了して次の分析を実行するまでの待機期間に、装置に損傷を与えることなくキャリアガスの使用量及び消費電力を削減することができるガスクロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、カラムオーブン内に設置されたカラムと、該カラムの入口に設けられた試料気化室と、該試料気化室へキャリアガスを送給するキャリアガス流路と、前記試料気化室から不純物ガスを排出するためのパージ流路と、前記試料気化室からキャリアガスの一部を排出するためのスプリット流路と、前記キャリアガス流路、前記パージ流路、及び前記スプリット流路を通した各ガスの流量と前記試料気化室内のガス圧とを連動して制御するものであって、ガス制御モードとして、線速度一定制御モード、カラム流量一定制御モード、及び圧力一定制御モードを切り替え可能に有するフローコントローラと、前記カラムを通過したガス中の試料成分を検出する検出部と、を具備し、試料に対する分析を実行可能な分析モードと、分析を実行しない待機モードとの少なくとも2つの動作モードを切り替え可能に有するガスクロマトグラフ装置において、
a)待機モード時に前記キャリアガス流路、及び前記パージ流路にそれぞれ最低限流す必要のあるガス流量の値を含む、待機モードに対応した制御パラメータを記憶しておく記憶手段と、
b)分析モードから待機モードへの移行時に、分析モードでのガス制御モードに拘わらずそのガス制御モードを圧力一定制御モードに変更し、その時点でのカラム入口圧を目標圧力に設定するとともに前記記憶手段に記憶されている制御パラメータを設定して前記フローコントローラを制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、待機モードへの移行前に、前記記憶手段に記憶されている制御パラメータを用い、待機モード移行後における最低のカラム内温度予測値に対応したカラム流量を推算し、その推算値を予め設定されている閾値と比較する流量判定手段と、流量推算値が閾値を超えている場合に、その時点でのカラム入口圧を下げるべく使用者に対して注意喚起を行う又は自動的にカラム入口圧を下げる圧力変更手段と、を含むことを特徴としている。
【0010】
上記「待機モード」は、装置自体への通電は継続しつつ、キャリアガスの消費量を抑制し、且つ、電力消費量も抑えることができるという点で、「省エネモード」又は「エコモード」ということができる。
【0011】
上記記憶手段に記憶される制御パラメータは、キャリアガス流路に流すガス流量(全流量)、パージ流路に流すガス流量(パージ流量)のほか、例えばスプリット比などを含む。この制御パラメータは予め定められたデフォルト値をそのまま用いることもできるが、オペレータが適宜修正・変更できるようにしてもよい。
【0012】
分析モードでは、分析の目的等に応じて、線速度一定制御モード、カラム流量一定制御モード、又は圧力一定制御モードのいずれかのガス制御モードが用いられる。本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、分析モードでいずれのガス制御モードが選択されている場合であっても、待機モードへの移行の際に、ガス制御モードは圧力一定制御モードに変更され固定される。圧力一定制御モードでは、カラム入口圧、つまりは試料気化室内のガス圧が目標圧力に維持されるように、キャリアガス流路を通したガス供給流量やスプリット流路を通したガス排気流量などが決められる。そのため、キャリアガスの粘性が極端に下がってカラムの流路抵抗が極端に小さくなった場合でも制御不能に陥ることはない。ただし、目標圧力が高いとカラム流量が大きくなるため、流量許容上限を超えた流量のキャリアガスが検出器に流れ込むおそれがある。
【0013】
そこで、流量判定手段は、待機モードへの移行前に、記憶手段に記憶されている制御パラメータを用いて、待機モード移行後における最低のカラム内温度予測値(例えば室温等)に対応したカラム流量を推算する。そして、その推算値と予め設定されている閾値とを比較し、流量推算値が閾値を超えている場合、つまり、検出器に損傷を与えるおそれがある場合には、圧力変更手段は例えば、その時点でのカラム入口圧を下げるように注意喚起の表示を行う。この表示を見たオペレータは、カラム入口圧を下げるような操作を行った上で、待機モードへの移行を再試行する。この操作により、圧力一定制御モードの目標圧力が下がるから、これに連動してカラム流量も減ることになる。それにより最終的に、カラム流量を流量許容上限以下に抑えることが可能となり、待機モードにおける検出器の損傷を回避することができる。また圧力変更手段は、オペレータの操作に依らず、自動的にカラム入口圧を下げて、その下げたカラム入口圧の下で待機モード移行後のカラム流量を再度計算するようにするとよい。
【0014】
また本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一態様として、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶されている制御パラメータであるキャリアガス流量及びパージ流量を設定して圧力一定制御モードの制御を開始したあとに、前記カラムオーブン内の温度の低下に伴ってスプリット流量(つまりはスプリット比)を変動させるようにフローコントローラを制御する構成とすることができる。
【0015】
カラムオーブン内の温度低下に伴いカラム流路抵抗は下がるから、それに伴ってスプリット流量を増加させることにより、キャリアガス流量及びパージ流量を所定の設定値に維持したまま試料気化室内のガス圧を一定に維持することが可能となる。
【0016】
また本発明に係るガスクロマトグラフ装置において、前記カラムオーブンが、加熱用のヒータと、送風用のファンとを備える構成である場合に、前記制御手段は、待機モードへの移行に際し、カラムオーブン内の温度を所定温度まで下げたあとに前記ヒータへの通電を停止し、それから所定時間経過後に前記ファンを停止させることが好ましい。
【0017】
ヒータへの通電を停止した後にも暫くファンを作動させ続けることにより、ヒータに蓄積されていた熱が十分に発散される。そのため、ファンを停止させたあとにヒータの余熱によりカラムオーブン内の温度が上昇することを防止することができ、意図せぬ温度上昇によるカラムの損傷を回避することができる。
【0018】
また本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、分析モードから待機モードへの移行が指示されたときに、そのときの装置各部の状態を表すステータス情報や制御パラメータを記憶する復帰用情報記憶手段を備え、前記制御手段は、待機モードから分析モードに移行する際に前記復帰用情報記憶手段に記憶されているステータス情報や制御パラメータを読み込んで、待機モード移行前の装置状態に戻るように各部を制御する構成とするとよい。
【0019】
この構成によれば、待機モードを終了して分析モードに移行する際に、オペレータの煩雑な操作なしに、装置は待機モード移行前の状態に速やかに復帰する。これにより、短い待ち時間で分析を開始することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るガスクロマトグラフ装置によれば、例えば質量分析計のように流量許容上限が低い検出器が利用される場合でも、カラムオーブンへの通電の停止を伴う待機モードにおいて、カラム流量を検出器に損傷を与えない範囲に確実に抑えることができる。これにより、装置に損傷を与えることなく、キャリアガス使用量と電力消費量を十分に抑えることができる。
また、記憶手段に予め記憶されている制御パラメータを用いて分析モードから待機モードへの移行が実施されるため、オペレータが、待機モードにおける様々な条件を考慮した制御パラメータを含むメソッドを作成する面倒な作業を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例によるGC/MSの全体構成図。
【図2】本実施例のGC/MSにおける通常の分析可能状態から省エネモードへの移行時の動作のフローチャート。
【図3】本実施例のGC/MSにおける省エネモードから通常の分析可能状態への復帰時の動作のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一実施例であるGC/MSについて、添付の図面を参照して説明する。図1は本実施例によるGC/MSの全体構成図である。
【0023】
キャピラリカラムであるカラム6はカラムオーブン7内に設置され、そのカラム6の入口には試料気化室1が設けられている。試料気化室1にはキャリアガス流路2、パージ流路3、及びスプリット流路4が接続され、圧力センサ、バルブなどを含む電子式フローコントローラ5により、キャリアガス流路2を通して試料気化室1にヘリウムガス等のキャリアガスが供給され、さらにこのキャリアガスがカラム6に送られる。試料気化室1の頭部に装着されたセプタムから放出される不所望のガスはパージ流路3を通して外部へ排出される。また、スプリット分析の際には、試料気化室1に供給されたキャリアガスの一部はスプリット流路4を通して外部へ排出される。
【0024】
カラムオーブン7内にはヒータ8とモータ10により駆動されるファン9が設置され、これらを作動させることにより、カラムオーブン7内の空気は一定温度に維持される(恒温分析の場合)、又は、所定の昇温プログラムに従って昇温制御される(昇温分析の場合)。試料気化室1を通してカラム6に略一定流量でキャリアガスが供給されているときに、所定のタイミングで図示しないインジェクタから試料気化室1内に微量の液体試料が注入されると、その液体試料は短時間の間に気化し、キャリアガス流に乗ってカラム6内に導入される。カラム6を通過する間に試料に含まれる各種化合物は分離され、異なる時間遅れでもってカラム6から流出する。
【0025】
カラム6の出口には検出器として質量分析計11が接続されており、質量分析計11に導入された化合物分子(又は原子)はイオン化部111でイオン化され、質量分離部112で質量電荷比(m/z)に応じて分離されてイオン検出器113により検出される。イオン化部111、質量分離部112、イオン検出器113などが内装されたチャンバの内部は、真空ポンプ12により真空雰囲気に維持される。イオン検出器113による検出信号はA/D変換器(ADC)15でデジタルデータに変換され、パーソナルコンピュータ(PC)20により実現される機能ブロックであるデータ処理部21に送られる。データ処理部21は時間経過に伴って順次得られる検出データに基づいてクロマトグラム(トータルイオンクロマトグラムやマスクロマトグラム)を作成し、さらに所定の波形処理を実行することで定性分析や定量分析を遂行する。
【0026】
分析制御部16はPC20により実現される機能ブロックである通常制御部22の指示の下に、電子式フローコントローラ5、ヒータ8、モータ10、質量分析計11の各部などをそれぞれ制御し、これにより目的とするGC/MS分析動作を達成する。PC20には、ユーザ(分析者)が各種の指示を与えたり条件を設定したりするための入力部30と、分析結果などを表示するための表示部31とが接続されている。また、本実施例のGC/MSでは、後述するような特徴的な制御を実施するために、PC20により実現される機能ブロックである省エネモード制御部23、復帰時情報記憶部24、省エネモード時制御情報記憶部25を備える。
【0027】
次に、本実施例のGC/MSにおいて、省エネモード制御部23が中心となって実行される、通常の分析可能状態(本発明における「分析モード」に相当)から省エネモード(本発明における「待機モード」に相当)への移行時の動作、及び省エネモードから通常の分析可能状態への復帰時の動作、について詳しく説明する。図2は通常の分析可能状態から省エネモードへの移行時の動作のフローチャートである。
【0028】
省エネモード時制御情報記憶部25には省エネモード時の各部の制御パラメータが記憶される。制御パラメータは、キャリアガス流路2を通したガス供給流量である全流量、パージ流路3を通したガス排出流量であるパージ流量、スプリット比、カラム6のサイズ(長さ、内径、液相の膜厚等)、カラムオーブン温度などのほか、カラム流量の最大許容値である流量許容上限なども含む。この流量許容上限値は通常、装置の構成により決まるものであり、GC/MSでは質量分析計に導入可能なガス流量が少ないため、質量分析計の構成(例えば真空ポンプ12の排気性能等)により決まるのが一般的である。全流量やパージ流量については、最低限流すべき流量がデフォルト値で設定されている。
【0029】
例えばオペレータが入力部30で所定の操作を行うことにより、又は予め決められたシーケンスに従って自動的に、省エネモードの実行指令が省エネモード制御部23に与えられると(ステップS1)、省エネモード制御部23はその時点での最新の装置の状態(ステータス)と設定されている各種制御パラメータを取得する。そして、それらを復帰時用情報として復帰時情報記憶部24に格納する(ステップS2)。
【0030】
次に省エネモード制御部23は、ステップS2で取得したステータスや省エネモード時制御情報記憶部25に記憶されている制御パラメータを利用して、省エネモードを実行した際のカラム流量Qを計算する(ステップS3)。ここで利用されるステータスは例えばカラム入口圧等であり、同じく利用される制御パラメータは、例えばカラムオーブン温度、カラム6のサイズ等である。このステップS3で計算されるカラム流量Qは、その時点で設定されている条件の下で省エネモードを実行した場合に見込まれるカラム流量である。
【0031】
次に、ステップS3で計算により求まったカラム流量Qと省エネモード時制御情報記憶部25に記憶されている流量許容上限値Pとを比較し、QがP以下であるか否かを判定する(ステップS4)。カラム流量Qが流量許容上限値Pを超えている場合、その状態で省エネモードを実行すると、質量分析計11のイオン化部111に過剰な量のキャリアガスが流れ込み、装置の損傷を引き起こすおそれがある。そこで、ステップS4でNoと判定された場合には、省エネモード制御部23はその時点でのカラム入口圧を下げた上で省エネモードの実行指令を再度行うように注意喚起の表示を表示部31の画面上に出力する(ステップS11)。この表示が出た場合、オペレータはカラム入口圧(試料気化室1内のガス圧)の圧力設定値を適宜に下げた上で省エネモードの実行を再度指示する(ステップS12)。これによりステップS1に戻る。
【0032】
一方、ステップS4でYesと判定された場合、省エネモード制御部23はそのときの試料気化室1のガス制御モードが線速度一定制御モードやカラム流量一定制御モードであったとしても圧力一定制御モードに変更し、そのときの試料気化室1内のガス圧を圧力一定の目標圧力に設定し、圧力一定制御を開始する(ステップS5)。そして、その状態で省エネモード時制御情報記憶部25に記憶されている制御パラメータ中の全流量及びパージ流量の設定値を目標とした制御を行うように、分析制御部16を介して電子式フローコントローラ5に指示を与える(ステップS6)。これにより、試料気化室1内のガス圧が略一定に維持される。
【0033】
その後、省エネモードに対応したカラムオーブン温度が室温である場合には、省エネモード制御部23は分析制御部16を介して、カラムオーブン7内の温度を所定温度まで下げた後にヒータ8をオフする(ステップS7)。このときの所定温度はカラム6が損傷を受けない温度とされ、例えば50℃とすることができる。そして、その時点から所定時間(例えば15秒)が経過するまで待ち(ステップS8)、ファン9を停止させるべくモータ10の駆動を停止し(ステップS9)、さらに質量分析計11のチャンバ内部の真空度を検出する図示しないイオンゲージをオフする(ステップS10)。
【0034】
なお、ファン9の停止と同時に、イオンゲージをオフしてもよい。また、省エネモード中にも質量分析計11のチャンバ内部を真空雰囲気に維持する必要があるものの、その真空度は分析時よりも悪くても構わない。そこで、ファン9の停止と同時に、真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)12の回転数を下げるようにして、該ポンプ12での電力消費量を減らすようにしてもよい。
【0035】
いずれにしても上記のような一連の処理で省エネモードへの移行が完了する。なお、PC20がこのGC/MSのためのみに使用されている場合には、GC/MSの各部が省エネモードに移行した後に、PC20自体が省電力モードに移行する、具体的には例えばスタンバイ状態に移行したり表示画面のみをセーブモードにしたりするようにしてもよい。
【0036】
以上のように、省エネモードに移行する前に省エネモードの状態でカラム流量が流量許容上限値を超えないか否かをチェックしており、さらにはキャリアガスの制御を圧力一定制御に切り替えている。カラムオーブン温度が下がるに従ってキャリアガスの粘性が低下すると、カラム流量が次第に増加する。全流量とパージ流量とは一定に維持されるから、スプリット流量が次第に減ることにより、カラム流量の増加はまかなわれる。カラム流量は増加するものの、カラムオーブン温度が室温まで下がった状態でもカラム流量は流量許容上限値を超えない。したがって、質量分析計11の損傷を回避することができる。
【0037】
また、カラムオーブン7のヒータ8のオフから時間的に遅延させてファン9をオフすることにより、ヒータ8の余熱によるカラムオーブン7内温度の再上昇を回避することができる。それにより、カラム6の熱損傷を防止しながら、分析待機時における消費電力の削減が可能となる。
【0038】
図3は、省エネモードから通常の分析可能状態への復帰時の動作のフローチャートである。例えば分析を実行するためにオペレータが入力部30で所定の操作を行うと、省エネモードの解除指令が省エネモード制御部23に与えられる(ステップS21)。省エネモード制御部23は、復帰時情報記憶部24に記憶しておいた省エネモード移行直前の装置のステータス及び制御パラメータを読み出して通常制御部22に与える(ステップS22)。
【0039】
通常制御部22は読み込んだ装置ステータス及び制御パラメータに従ってGC/MSの各部の制御を開始する(ステップS23)。例えば、カラムオーブン7の温度を元の温度に戻すためにヒータ8への通電を開始するとともにモータ10への通電を開始してファン9を作動させる。また、省エネモード移行前にガス制御モードが流量一定制御モードや線速度一定制御モードであった場合には、圧力一定制御モードを脱して上記各ガス制御モードへと復帰する。これにより迅速に省エネモード移行前の装置の状態に復帰し(ステップS24)、その状態から分析を実行することが可能となる。
【0040】
上記実施例では、ステップS11でカラム入口圧を下げるように注意喚起表示を行い、ステップS12でオペレータがカラム入口圧を下げる操作を行うようにしていたが、例えば、予め決められた圧力だけ自動的にカラム入口圧を下げてステップS1に戻るようにしてもよい。これによれば、いちいちオペレータがカラム入口圧の設定値を変更する必要がなく、オペレータの負担が軽減される。但し、その場合でも、カラム入口圧を自動的に下げたことをオペレータに通知する表示を行うことが好ましい。
【0041】
また上記実施例では、質量分析計11のイオン化部111に1本のカラムが接続されているだけであるが、例えば特開2006−162515号公報に記載のようなGC/MSでは、併設された複数本のカラムの末端が質量分析計のイオン化部に接続される。こうした構成では、複数本のカラムのそれぞれからキャリアガスがイオン化部に流れ込むため、それらの総量が質量分析計の構成で決まる許容上限値以内に収まるようにする必要がある。そこで、こうした場合には、それら複数本のカラムのカラム流量を合計して流量許容上限値と比較し、省エネモードに対して設定された各種パラメータが適切であるか否かを判定するとよい。
【0042】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0043】
1…試料気化室
2…キャリアガス流路
3…パージ流路
4…スプリット流路
5…電子式フローコントローラ
6…カラム
7…カラムオーブン
8…ヒータ
9…ファン
10…モータ
11…質量分析計
111…イオン化部
112…質量分離部
113…イオン検出器
12…真空ポンプ
15…A/D変換器(ADC)
16…分析制御部
20…パーソナルコンピュータ(PC)
21…データ処理部
22…通常制御部
23…省エネモード制御部
24…復帰時情報記憶部
25…省エネモード時制御情報記憶部
30…入力部
31…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムオーブン内に設置されたカラムと、該カラムの入口に設けられた試料気化室と、該試料気化室へキャリアガスを送給するキャリアガス流路と、前記試料気化室から不純物ガスを排出するためのパージ流路と、前記試料気化室からキャリアガスの一部を排出するためのスプリット流路と、前記キャリアガス流路、前記パージ流路、及び前記スプリット流路を通した各ガスの流量と前記試料気化室内のガス圧とを連動して制御するものであって、ガス制御モードとして、線速度一定制御モード、カラム流量一定制御モード、及び圧力一定制御モードを切り替え可能に有するフローコントローラと、前記カラムを通過したガス中の試料成分を検出する検出部と、を具備し、試料に対する分析を実行可能な分析モードと、分析を実行しない待機モードとの少なくとも2つの動作モードを切り替え可能に有するガスクロマトグラフ装置において、
a)待機モード時に前記キャリアガス流路、及び前記パージ流路にそれぞれ最低限流す必要のあるガス流量の値を含む、待機モードに対応した制御パラメータを記憶しておく記憶手段と、
b)分析モードから待機モードへの移行時に、分析モードでのガス制御モードに拘わらずそのガス制御モードを圧力一定制御モードに変更し、その時点でのカラム入口圧を目標圧力に設定するとともに前記記憶手段に記憶されている制御パラメータを設定して前記フローコントローラを制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、待機モードへの移行前に、前記記憶手段に記憶されている制御パラメータを用い、待機モード移行後における最低のカラム内温度予測値に対応したカラム流量を推算し、その推算値を予め設定されている閾値と比較する流量判定手段と、流量推算値が閾値を超えている場合に、その時点でのカラム入口圧を下げるべく使用者に対して注意喚起を行う又は自動的にカラム入口圧を下げる圧力変更手段と、を含むことを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガスクロマトグラフ装置であって、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶されている制御パラメータであるキャリアガス流量及びパージ流量を設定して圧力一定制御モードの制御を開始したあとに、前記カラムオーブン内の温度の低下に伴ってスプリット流量を変動させるようにフローコントローラを制御することを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のガスクロマトグラフ装置であって、
前記カラムオーブンは、加熱用のヒータと、送風用のファンとを備え、
前記制御手段は、待機モードへの移行に際し、カラムオーブン内の温度を所定温度まで下げたあとに前記ヒータへの通電を停止し、それから所定時間経過後に前記ファンを停止させることを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のガスクロマトグラフ装置であって、
分析モードから待機モードへの移行が指示されたときに、そのときの装置各部の状態を表すステータス情報や制御パラメータを記憶する復帰用情報記憶手段を備え、
前記制御手段は、待機モードから分析モードに移行する際に前記復帰用情報記憶手段に記憶されているステータス情報や制御パラメータを読み込んで、待機モード移行前の装置状態に戻るように各部を制御することを特徴とするガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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