説明

ガスケットの管理方法およびガスケットの管理システム

【課題】配管接続部のガスケットをフランジから取り外すことなく、その交換時期を正確に測定することである。
【解決手段】ガスケットの管理方法について、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定するステップと、得られた複数回の測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含む構成を採用したのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、設置された配管の接続部における締結されたフランジ間に挟み込まれたガスケットについて、その交換時期を管理する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等に用いられる配管の接続部は、各配管の両端に形成されたフランジ同士を対向させ、対向するフランジ間にガスケットを挟み込み、フランジ同士をボルト等の締結部材で締結することでシールされている。
【0003】
ここでガスケットが経年により劣化すると、配管接続部から管内の溶液等が外部に漏洩して危険であるため、漏洩発生前の適当な時期に交換する必要がある。
【0004】
そのため、ガスケットの交換時期をあらかじめ定めておき、時期の到来とともに複数のガスケットをいっせいに交換することがおこなわれている。
その交換時期は、たとえば特許文献1のように、一部のガスケットをフランジから取り外してその外観、硬度、弾性係数、復元率などを測定して、その測定値から劣化の度合いを推定することで定められる。
【0005】
しかし、このような方法では、個別に見ればまだ使用に耐えるガスケットがあっても一律に交換してしまうため、交換の手間がかかりコスト的にも無駄が多い。
【0006】
また、配管接続部の解体時に、管内の溶液をふき取る作業は手間がかかり危険でもあるうえ、ガスケットの交換を終えてプラントを復旧する際には、溶液が漏洩するおそれもあり、いずれにせよ安全管理の面で問題がある。
【0007】
さらに、ガスケットをフランジから取り外すと、配管接続部に装着していた状態から性質、機能が変化してしまうため、取り外したガスケットを測定しても、装着状態における劣化の度合いを正確に測定することができない。
現実に、ほぼ同一条件のフランジに取り付けられた複数のガスケットのうちの一つを取り外して測定し、それをもとに交換時期を設定した場合、他のガスケットは、その交換時期よりも実際の寿命が長いことが多く見受けられる。
【0008】
このように、ガスケットをフランジから取り外してその劣化度を測定し、交換の時期を予測することには、解決を望まれる種々の問題が付随する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−62410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこでこの発明の解決すべき課題は、ガスケットをフランジから取り外すことなく、その劣化度を正確に測定し、その交換時期を正確に予測できるガスケットの管理方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するため、発明にかかるガスケットの管理方法について、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定するステップと、得られた複数回の測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含む構成を採用したのである。
【0012】
あるいは、発明にかかるガスケットの管理方法について、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを測定するステップと、得られた測定結果と、配管接続部のモデルを用いた実験から得られた透過波の透過速度の経時的な変化率予測式および反射波の強さの減衰係数の経時的な変化率予測式と、に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含む構成を採用したのである。
【0013】
さらに、発明にかかるガスケットの管理システムについて、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定する超音波測定手段と、前記超音波測定手段による複数回の測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出する変化率算出手段と、この算出された透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出する予測解析手段と、を備える構成を採用したのである。
【発明の効果】
【0014】
ガスケットは、通常はゴムバインダが含まれているため、その劣化につれて、弾性率が上昇するとともに密度が低下することが知られている。
そのため、ガスケットを透過する透過波の速度は劣化につれて増加し、またガスケットとフランジの境界で反射する反射波の強さも劣化につれて増加する。
したがって、本発明のように、透過波の透過速度の経時的な変化率、および反射波の強さの経時的な変化率が得られれば、ガスケットの劣化の進行度合いが正確にわかるため、その交換時期および余寿命を正確に予測して管理することができる。
【0015】
本発明によれば、設置したガスケットがフランジから取り外されることがないため、無駄な取り外し取り付けの手間が省かれ、安全であり、コストも抑えられる。
また、ガスケットがフランジに装着された状態のままで、劣化の進行度合いを測定するため、ガスケットをフランジから取り外す従来の方式よりも正確な交換時期および余寿命の管理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】配管接続部の模式図
【図2】実施形態の管理システムの模式図
【図3】実施形態の管理システムの処理の流れを示すブロックフロー図
【図4】測定結果の一例を示すグラフ
【図5】測定結果の一例を示すグラフ
【図6】測定結果の一例を示すグラフ
【図7】測定結果の一例を示すグラフ
【図8】管理方法の一例を示す表
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施形態について説明する。
本発明は、概略、化学プラント等に用いられる配管の接続部に超音波を発信し、その受信波を測定することで、前記接続部に用いられるガスケットの劣化度を診断し、ガスケットの交換時期を管理する方法およびシステムである。
なお、ここでの説明は例示であって、実施形態に発明の範囲は限定されることはない。
本発明の範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、特許請求の範囲に示された内容を限度として、実施形態についてのあらゆる変更が可能であり、その変更可能な形態も当然に本発明に包含されるものとする。
【0018】
図1に、実施形態の方法およびシステムが用いられる配管の接続部10を模式的に示す。
長手方向に並列する配管の対向するフランジ11同士は、ボルト13により締結されており、フランジ11間にはガスケット12が挟みこまれてシールされ、配管内部を流通する溶液等が漏洩しないようになっている。
【0019】
ここで配管の材質は特に限定されないが、通常は炭素鋼、ステンレス鋼、チタン、ニッケル合金、塩化ビニル、フッ素樹脂などであり、好ましくは炭素鋼、ステンレス鋼である。
また、フランジ11の材質も特に限定されず、配管と同じ材質であっても、異なる材質であってもよいが、同じ材質を用いることが好ましい。
なお、対向するフランジ11間で、同じ材質を用いても、違う材質を用いてもよい。
フランジ11の厚みは特に制限されないが、通常は3〜100mmであり、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mmである。
対向するフランジ11間で、厚みは同じでも、異なっていてもよい。
フランジ11同士は、通常はこの実施形態のようにボルト13(とこれに対応するナット)により締結され、その締結の本数は特に限定されないが、通常は4〜16本、好ましくは4〜6本である。
なお、フランジ11をボルト13で締結する際は、その締結箇所間で締め付けトルクが均等になるように締め付けておくのが好ましい。
締め付けトルクが均等でないと、ガスケット12の面圧が不均一となり、配管内部を流通する溶液等が漏洩するおそれがあるからである。
【0020】
ガスケット12としては、たとえば無機材とゴムバインダとの組み合わせ、樹脂材とゴムバインダとの組み合わせ、金属単体が挙げられる。
好ましくは、無機材とゴムバインダとを適宜充填材等を加えた上で混合し、加熱圧縮して製造される石綿ジョイントシートが用いられる。
ここでゴムバインダはガスケット12の弾性、復元力を維持するために用いられており、混合の割合としては、たとえば石綿が重量比で65%以上、ゴムバインダが重量比で10%以上である。
なお、ガスケット12の厚みは特に制限はないが、通常は0.5〜10mmであり、好ましくは0.5〜3mm、より好ましくは1〜1.5mmである。
また、本発明に使用できるガスケット12としては、新品のものでもよいし、既に配管の接続部に使用されたことがあるものであってもよい。
【0021】
このガスケット12は、長年使用すると劣化して密度が低下し、弾性率が上昇し、これにより配管の接続部10に漏洩が生じうるので、その前に交換する必要がある。
ところでガスケット12の劣化度合いは、設置環境等の外因に依存するためばらつきがある。
したがって、個々のガスケットについて、交換時期の正確な予測、管理が要請される。
【0022】
図2に、配管の接続部10に超音波を発信および受信する超音波測定手段としての超音波測定装置20と、これに接続された変化率算出手段および予測解析手段としてのパーソナルコンピュータ30と、からなるガスケットの管理システムを模式的に示す。
また、図3にガスケットの管理システムの処理の流れを示すブロックフローを示す。
【0023】
この超音波測定装置20は、超音波の発信受信機21と、この発信受信機21に接続され、超音波の受信結果に基づいて測定をおこなうオシロスコープ付きの装置本体22と、からなる。
発信受信機21は、その発信受信端子21aから超音波を発信して反射波を同じ発信受信端子21aで受信し、かつ発信受信端子21aから超音波を発信し透過波を受信端子21bで受信する
発信受信機21の発信受信端子21aは、配管接続部10の一方フランジ11に載置され、受信端子21bは他方フランジ11に載置されている。
【0024】
図3のように、ステップS1でパーソナルコンピュータ30に測定の時期が入力されると、超音波測定装置20は、前記フランジ上の発信受信端子21aからガスケット12に向けての超音波の発信を開始する。
この超音波の周波数は特に限定されないが、通常は2〜10MHzであり、好ましくは3〜8MHz、より好ましくは4〜6MHzである。
そして、この発信波のガスケット12とフランジ11の境界で反射する反射波を同じ発信受信端子21aで受信する。
また、発信波のガスケット12およびフランジ11を透過する透過波を受信端子21bで受信する。
これを複数回繰り返し、図3のステップS2で、各回の発信波と反射波の強さの変化から減衰係数を測定し、また透過波の透過速度を測定する。
ここで、超音波の強さとは、単位面積当たりの単位時間に通過するエネルギーの強さで表され、その単位はW/mである。
【0025】
ここで減衰係数は、たとえば次式(1)を用いて定量化することができる。
A=Aexp(−αX)より、
α=−ln(A/A)/X・・・・・(1)
式(1)において、Aは発信する超音波の強さ(W/m)、Aは反射波の強さ(W/m)、Xはガスケット12の厚み(mm)、αは反射波の減衰係数(単位:無次元)である。
また、波のガスケット中の透過速度Vは、ガスケット12の厚み(距離)Xを、ガスケット12を波が透過するのに要した時間で割ることで算出できるから、たとえば次式(2)で表すことができる。
V=X/(T1−T0)−(2X/V)・・・・(2)
式(2)でT0は波の発信時間(s)を、T1は波の受信時間(s)を、Xは各フランジ11の厚み(mm)を、Vはフランジ中の透過速度(m/s)を示す。ここでは、両フランジの厚みを同じとしている。
【0026】
上述したように、ガスケット12がゴムバインダを含む場合には、経年によりガスケット12の主成分(たとえば無機材)を結合するゴムバインダが酸化および温度変化により硬化し、ガスケット12の弾性係数(Pa)が上昇する。
そして、波の透過速度は弾性係数の平方根に比例するため、透過速度は時間の経過とともに上昇することになる。
またゴムバインダの硬化により、ガスケット12内で消費される音波のエネルギーが減少し、反射波の強さが増加するため、式(1)より減衰係数は時間の経過とともに低下する。
このように、透過速度の上昇および減衰係数の低下は時間の関数となることが理解される。
【0027】
ここで透過速度および減衰係数の測定は、フランジ11の表面の一箇所で測定しても、複数個所で測定してもよい。
複数個所で測定する場合は、通常は2箇所、好ましくは4箇所測定し、その複数個所における測定値の平均値を取るものとする。
また一箇所で複数回測定する場合には、その複数回の測定値の平均値を取るものとする。
この透過速度および減衰係数の測定は、時間間隔をおいて複数回おこない、前回の測定から通常は10〜20年経過後、好ましくは5〜10年経過後に次回の測定をおこなう。
そして、測定対象となるガスケット12を交換するまで、減衰係数を測定するステップを繰り返すことで経時的な減衰係数の変化率を算出することができる。
なお、その繰り返しにおける時間の間隔は同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
この超音波測定装置20による測定の結果はパーソナルコンピュータ30に入力されて、図3のステップS3のように、透過速度および減衰係数の変化率が算出される。
引き続いて、図3のステップS4のように、その変化率とパーソナルコンピュータに記憶された劣化限界管理値に基づいてガスケット12の予測交換時期が算出される。
また、その算出結果は、たとえばパーソナルコンピュータ30のモニタに表示したり、プリントアウトしたりするなど出力できるようになっている。
なお、再度予測交換時期の算出が必要となる場合には、ステップS1に戻り、上記処理を繰り返す。
【0029】
パーソナルコンピュータ30にておこなわれる透過速度および減衰係数の変化率の算出の詳細について説明する。
本発明では、ガスケット12の余寿命を予測するため、変化率を定量化する。
定量化の方法については、特に限定されないが、測定対象であるガスケット12を交換するまでに、透過速度および減衰係数を測定するステップを繰り返すことで得られた透過速度と測定時間との関係、および減衰係数と測定時間との関係から、それぞれの近似式を作成し、変化率を算出する。
測定を複数回おこなえない段階では、測定時に得られた測定結果と、配管接続部のモデルを用いた実験から得られた経時的な透過速度および減衰係数の変化率の予測式と、に基づいて経時的な透過速度および減衰係数の変化率を算出する。
【0030】
さらに、このようにして算出された変化率とパーソナルコンピュータ30に記憶された劣化限界管理値とから、ガスケット12の交換時期を予測するステップについて説明する。
ここで、劣化限界管理値とは、ガスケット12が漏洩を開始する透過速度および減衰係数の値をいい、実験等の適宜手段によりあらかじめ定められている。
その定め方は、特に限定されないが、たとえば実験装置としての配管接続部のモデルを準備し、そのモデルに用いるガスケットとしてあらかじめ加熱により強制劣化させたガスケットを選択する。
そしてこのモデルを実際のプラント等と同じ運転状態において、その配管を流通する内容液等が漏洩を開始した時点での透過速度および減衰係数を測定し、これを劣化限界管理値とする。
【0031】
そして、たとえば測定時点での時間および減衰係数と、算出された減衰係数の変化率と、から減衰係数を時間tの減少関数α(t)として近似し、このα(t)が劣化限界管理値以下となるときの時間t1がガスケット12の予測交換時期、換言すれば余寿命の基準時間となる。
同様に、測定時点での時間および透過速度と、算出された透過速度の変化率と、から透過速度を時間tの増加関数V(t)として近似し、このV(t)が劣化限界管理値以上となるときの時間t2がガスケットの予測交換時期、換言すれば余寿命の基準時間となる。
これら透過速度と減衰係数の2つの観点から求められた基準時間t1、t2によって、正確なガスケット12の交換時期、余寿命の予測が可能となる。
また、これらとある測定時点での減衰係数および透過速度と劣化限界管理値との比較を組み合わせることで、さらに正確にガスケット12の交換時期の予測、管理を行うことができる。
【0032】
以上の実施形態では、変化率算出手段および予測解析手段としてパーソナルコンピュータ30を用いたが、専用の計算装置を用いてもよい。
また、以上の実施形態では超音波測定装置20として、透過波と反射波の双方を受信測定するものを用いたが、透過波受信用測定装置と、反射波受信用測定装置とを別体に構成してもよい。
【0033】
さらに、以上の実施形態では、測定された透過波の透過速度および反射波の減衰係数から、自動的に変化率、予測交換時期が算出できるように構成しているが、たとえば超音波測定装置20とパーソナルコンピュータ30とが接続されておらず、超音波測定装置20で測定した値を、パーソナルコンピュータ30に手動で入力して、予測交換時期等を算出してもよい。
【0034】
この発明を方法的観点からみれば、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定するステップと、得られた測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含むガスケットの管理方法であることが理解される。
あるいは、締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを測定するステップと、得られた測定結果と、配管接続部のモデルを用いた実験から得られた透過波の透過速度の経時的な変化率予測式および反射波の強さの減衰係数についての経時的な変化率予測式と、に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含むガスケットの管理方法であることが理解される。
【実施例】
【0035】
さらに、実施例を挙げてこの発明の内容を一層明確にする。
【0036】
ガスケット12として、バルカー株式会社社製の石綿ジョイントシートガスケット#1500ACを採用して、前記のように複数回測定をおこなった結果を図4に示す。
図4に示すグラフの縦軸は減衰係数α(1/mm)であり、横軸は時間t(年)であり、図中にプロットされた○が測定の結果を示す。
この結果から減衰係数αは、時間tの関数として、図4の直線に示すように、また次式(3)に示すように近似することができる。
α=−1.7・10−5・t+0.016・・・・・(3)
【0037】
一方、複数の配管接続部10について、減衰係数αと、ガスケットに漏洩が発生しているか否かを測定、調査したところ図5のような結果となった。
図5の○は漏洩がないことを、●は漏洩が発生していることを示す。
このことから、図中の鎖線で示すように、減衰係数αが0.01を上回ると漏洩の可能性が非常に低く、αが0.01を下回ると、漏洩発生の可能性が非常に高いことがわかる。
したがって、この0.01を劣化限界管理値として、減衰係数αとの大小を比較することでガスケットの交換時期tを予測管理することが可能となる。
【0038】
ここでガスケット12として、バルカー株式会社社製の石綿ジョイントシートガスケット#1500ACを採用して、前記のように複数回測定をおこなった結果を図6に示す。
図6に示すグラフの縦軸はガスケット中の波の透過速度V(m/s)であり、横軸は時間t(年)であり、図中にプロットされた○が測定の結果を示す。
この結果から透過速度Vは、時間tの関数として、図6の曲線に示すように、また次式(4)に示すように近似することができる。
V=88.3・ln(t/1.5)+1230・・・・・(4)
【0039】
一方、複数の配管接続部10について、ガスケット中の透過速度Vと、ガスケット12に漏洩が発生しているか否かを測定、調査したところ図7のような結果となった。
図7の○は漏洩がないことを、●は漏洩が発生していることを示す。
このことから、図中の鎖線で示すように、透過速度Vが2500を上回ると漏洩の可能性が非常に高く、Vが2500を下回ると、漏洩発生の可能性が非常に低いことがわかる。
したがって、この2500を劣化限界管理値として、透過速度Vとの大小を比較することでガスケット12の交換時期tを予測管理することが可能である。
【0040】
たとえば図8のように、減衰係数αおよび透過速度Vのいずれもが劣化限界管理値を超えない場合には、ガスケット12の使用を継続し、いずれもが劣化限界管理値を超える場合にはガスケット12を交換する。
そして、減衰係数αが劣化限界管理値を超えず、透過速度Vが劣化限界管理値を超える場合には「使用注意」、減衰係数αが劣化限界管理値を超え、透過速度Vが劣化限界管理値を超えない場合には「交換推奨」というように、ガスケットの交換時期の正確な予測、およびきめの細かい管理が実現できる。
【0041】
もちろん、状況に応じて、反射波減衰係数αが劣化限界管理値を超えず、透過速度Vが劣化限界管理値を超える場合を「交換推奨」とし、反射波減衰係数αが劣化限界管理値を超え、透過速度Vが劣化限界管理値を超えない場合を「使用注意」としてもよい。
【0042】
なお、ここで示した予測式(3)、(4)はあくまでも一例であり、ガスケットの種類、材質等によって変わりうる。
また、現在ガスケットの交換を検討している配管接続部についての測定値が(α、t)である場合には、この測定値と予測式(3)の時間tに関する傾き(αの変化率)とから、減衰係数のついてのより正確な次の予測式を求めることもできる。
α=−1.7・10−5・t+(α+1.7・10−5
同様に、配管接続部についての測定値が(V、t)である場合には、この測定値と予測式(4)の時間tに関する傾き(Vの変化率)とから、透過速度についてのより正確な次の予測式を求めることもできる。
V=88.3・ln(t/1.5)+(V−88.3・ln(t/1.5))
測定値が複数ある場合には、さらに正確な予測式が作成できることが理解される。
この予測式は、実際に設置された配管接続部を測定することで作成してもよいし、実験室に配管接続部のモデルを製作し、そのモデルを測定することで作成してもよい。
なおモデルを測定する際には、加熱装置等で短時間に強制劣化させると、短時間で予測式を作成することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 配管接続部
11 フランジ
12 ガスケット
13 ボルト
20 超音波測定装置
21 発信受信機
21a 発信受信端子
21b 受信端子
22 装置本体
30 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定するステップと、
得られた複数回の測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、
前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含むガスケットの管理方法。
【請求項2】
締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを測定するステップと、
得られた測定結果と、配管接続部のモデルを用いた実験から得られた透過波の透過速度の経時的な変化率予測式および反射波の強さの減衰係数の経時的な変化率予測式と、に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出するステップと、
前記透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出するステップと、を含むガスケットの管理方法。
【請求項3】
締結された対向するフランジ間にガスケットが挟み込まれた配管接続部に対して、前記フランジ表面からガスケットに向けて超音波を複数回発信し、フランジ間を透過する前記超音波の透過波およびフランジとガスケットの境界で反射する前記超音波の反射波を受信して、透過波の透過速度および反射波の強さを複数回測定する超音波測定手段と、
前記超音波測定手段による複数回の測定結果に基づいて、経時的な透過波の透過速度の変化率と、経時的な反射波の強さの減衰係数の変化率と、を算出する変化率算出手段と、
この算出された透過速度の変化率および減衰係数の変化率と、あらかじめ定められた透過速度および減衰係数の劣化限界管理値に基づいてガスケットの予測交換時期を算出する予測解析手段と、を備えるガスケットの管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196834(P2010−196834A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43746(P2009−43746)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】