説明

ガスケット構造体及びその製造方法

【課題】ガスケットがハウジング側から脱落する危険性が無く、組み付け工数が少なく、信頼性が高いガスケット構造体を安価に提供できることを目的とするものである。
【解決手段】ゴム状弾性材製ガスケットを固着する熱可塑性樹脂材製のハウジングに設けた突起の先端が、超音波溶着、振動溶着等の溶融手段により係止用の拡張部が形成されたものであって、前記ガスケットが前記拡張部を包み込む様に一体成形されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケット構造体及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、樹脂材製のハウジングにゴム状弾性材製ガスケットを容易且つ確実に固着出来るガスケット構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材製の、エンジン用カムカバー、燃料電池、電子機器等のハウジング間の間隙を密封するために、この間隙にゴム状弾性材製のガスケットが使用されている。
そして、このガスケットを樹脂材製の一方のハウジングに保持する方法として、各種の方策が提案されている。
その一つの方策が、ハウジングに設けた溝に、単体で成形したガスケットを組み込む方法である(特許文献1)。
【0003】
しかし、この方法は、ガスケットをハウジング側に設けた溝にはめ込む手間が掛かるばかりでなく、はめ込んだ後に、ガスケットが溝から抜け落ちる問題を惹起した。
この為、ガスケットが溝の側面と接触する箇所に、特殊な抜け止め用突起を設ける態様が提案されたが(特許文献1)、十分満足出来るものではなかった。
【0004】
そこで、近年は、図9及び図10に示す様に、組み付け工数の低減や信頼性アップを目的に、ハウジングにガスケットを一体化する傾向がある。
また、射出成形が可能なゴム材料が多くなってきた関係から、ハウジングとガスケットとの一体化が進んできている。
しかし、樹脂材製のハウジング200とゴム状弾性材製ガスケット100との接合方法には課題であり、予めハウジング200側に接着処理を施したり、ガスケット100のゴム材料を選択接着性にしたりするなどの工夫が必要であった。
また、図10に示す様に、樹脂材製のハウジング200に設けた溝220にゴム状弾性材製ガスケット100を接合させる態様とすることで、更に両者の接着強度を増大させる態様が提案されたが、図9のものに比べ、製造コストが更に嵩んだ。
【0005】
特に、接着処理には、塗布工程が必要となるばかりで無く、乾燥や高温処理など時間を要する場合が多く、生産コストのアップに繋がる問題があった。
また、選択接着ゴムを使用した場合、ハウジングの材質とゴムの材質との組み合わせに制限が発生し、使用用途によっては対応できない問題があった。
【0006】
他の方策として、ハウジングの溝形状をアリ溝形状にして(特許文献2)、物理的にガスケットが溝から脱落しない形状にする手法も考えられるが、ハウジングの溝をアリ溝形状とすることは、成形が困難で事実上不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−243762号公報
【特許文献2】実用新案登録第3090150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ガスケットがハウジング側から脱落する危険性が無く、組み付け工数が少なく、信頼性が高いガスケット構造体を安価に提供できることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明にあっては、ゴム状弾性材製ガスケットを固着する熱可塑性樹脂材製のハウジングに設けた突起の先端に溶融により係止用の拡張部が形成されたものであって、前記ガスケットが前記拡張部を包み込む様に一体成形されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するために本発明にあっては、ゴム状弾性材製ガスケットを固着する樹脂材製のハウジングに突起を設ける工程と、
前記突起の先端を溶融することにより係止用の拡張部を形成する工程と、
前記拡張部を包み込む様に前記ゴム状弾性材製ガスケットを形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明のガスケット構造体によれば、ガスケットがハウジング側から脱落する危険性が無く、組み付け工数が少なく、信頼性が高いガスケット構造体を安価に提供出来る。
また、請求項2記載の発明のガスケット構造体によれば、ガスケットの全領域において、ガスケットがハウジング側から脱落する危険性を回避出来る。
【0012】
更に、請求項3記載の発明のガスケット構造体によれば、信頼性が高いガスケット構造体を、より安価に提供出来る。
更に、請求項4記載の発明のガスケット構造体によれば、ガスケットがハウジング側から脱落する危険性を、より確実に阻止することが出来る。
【0013】
更に、請求項5記載の発明のガスケット構造体の製造方法によれば、信頼性が高いガスケット構造体を安価に提供出来る。
更に、請求項6記載の発明のガスケット構造体の製造方法によれば、ハウジングに対する熱的悪影響を最小限に留め、短時間に溶融処理が出来る。
【0014】
更に、請求項7記載の発明のガスケット構造体の製造方法によれば、ウジングに対する熱的悪影響を最小限に留め、短時間に溶融処理が出来ると共に、所定の拡張部を容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の形態のガスケット構造体の断面図。
【図2】第1の形態のガスケット構造体の樹脂材製のハウジングに突起を設けた断面図。
【図3】図2の樹脂材製のハウジングの突起先端を溶融して拡張部を設けた断面図。
【図4】図3のハウジングにガスケットを一体成形している断面図。
【図5】本発明に係る第2の形態のガスケット構造体の断面図。
【図6】第2の形態のガスケット構造体の樹脂材製のハウジングに突起を設けた断面図。
【図7】図6の樹脂材製のハウジングの突起先端を溶融して拡張部を設けた断面図。
【図8】図7のハウジングにガスケットを一体成形している断面図。
【図9】従来技術に係るガスケット構造体の断面図。
【図10】他の従来技術に係るガスケット構造体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係る第1の形態のガスケット構造体は、図1に示す様に、ゴム状弾性材製ガスケット1を固着する熱可塑性樹脂材製のハウジング2に設けた突起21の先端211に溶融により係止用の拡張部212が形成されたものであって、このガスケット1が拡張部212を包み込む様に一体成形されている。
また、ガスケット1には、相手ハウジング2との密封性を高める為に、先端が尖ったリップ部11が形成されている。
【0017】
ハウジング2に使用される熱可塑性樹脂は、熱を加えると変形しやすくなる樹脂で、分子は長い鎖のような形をしていて、加熱により成形できる樹脂材である。
熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(アクリル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PA(ナイロン/ポリアミド)、PC(ポリカーボネイト)、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられる。
【0018】
ガスケット1に使用される材料は、ゴム状弾性を備えたゴム材である。
ゴム材としては、ニトリルゴム、アクリルゴム、EPDM、CR、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられる。
【0019】
また、ハウジング2に設けた突起21の先端211を溶融する手段は、熱ごて、遠赤外線加熱、超音波溶着、振動溶着等、熱可塑性樹脂の一部を溶融できるものであれば使用できるが、局部的に溶融できること、及び短時間で処理が出来ることから、超音波溶着、若しくは振動溶着が好ましい。
【0020】
この様に、ハウジング2に設けた突起21の先端211を溶融することにより、拡張部212が形成されるため、拡張部212の角部が丸く形成できる。
この為、機械切削により成形した際に、不可避的に発生する尖った角部が、拡張部212に存在しない為、ガスケット1に応力が加わった際にも、拡張部212の角部によりガスケット1が損傷を受けることが無い。
【0021】
また、拡張部212は、突起21の先端211の全体に渡って形成してもよいが、ガスケット1がハウジング2側から脱落する危険性少ない場合は、拡張部212を、突起21の先端211の一部分に形成する態様であってもよい。
【0022】
本発明に係る第1の形態のガスケット構造体は、以下の工程により製造される。
最初に、図2に示す様に、ゴム状弾性材製ガスケット1を固着する樹脂材製のハウジング2に、突起21を設ける形に成形する。
ついで、図3に示す様に、突起21の先端211を溶融することにより係止用の拡張部212を形成する。
ついで、図4に示す様に、成形金型3を用いて、拡張部212を包み込む様にゴム状弾性材製ガスケット1を形成する。
最後に、成形金型3より、ガスケット構造体を離型することにより、図1に示すガスケット構造体が得られる。
【0023】
ついで、本発明に係る第2の形態のガスケット構造体につき、図5乃至図8に基づき説明する。
先に説明した第1の形態のガスケット構造体と相違する点は、図5に示す様に突起21が、ハウジング2に設けた溝22内に存在することである。
このため、第1の形態のガスケット構造体に比べ、ガスケット1がハウジング2側から脱落することを、更に確実に阻止出来る。
特に、本発明に係るガスケット構造体は、ハウジング2に設けた突起21の先端211を溶融することにより、拡張部212を簡単に形成出来るため、突起21が、ハウジング2に設けた溝22内に存在する態様において、特に有効である。
【0024】
本発明に係る第2の形態のガスケット構造体は、以下の工程により製造される。
最初に、図6に示す様に、ゴム状弾性材製ガスケット1を固着する樹脂材製のハウジング2に設けた溝22内に、突起21を設ける形に成形する。
ついで、図7に示す様に、突起21の先端211を溶融することにより係止用の拡張部212を形成する。
つで、図8に示す様に、成形金型3を用いて、拡張部212を包み込む様に、溝22内にゴム状弾性材製ガスケット1を形成する。
最後に、成形金型3より、ガスケット構造体を離型することにより、図5に示すガスケット構造体が得られる。
【0025】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係るガスケット構造体は、電子機器の防水、エンジン用カムカバーの防水等に使用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 ガスケット
2 ハウジング
3 成形金型
11 リップ部
21 突起
211先端
212拡張部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性材製ガスケット(1)を固着する熱可塑性樹脂材製のハウジング(2)に設けた突起(21)の先端(211)に溶融により係止用の拡張部(212)が形成されたものであって、前記ガスケット(1)が前記拡張部(212)を包み込む様に一体成形されていることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項2】
前記拡張部(212)が、前記突起(21)の前記先端(211)の全体に渡って形成されていることを特徴とする請求項1記載のガスケット構造体。
【請求項3】
前記拡張部(212)が、前記突起(21)の前記先端(211)の一部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載のガスケット構造体。
【請求項4】
前記突起(21)が、前記ハウジング(2)に設けた溝(22)内に存在することを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載のガスケット構造体。
【請求項5】
ゴム状弾性材製ガスケット(1)を固着する樹脂材製のハウジング(2)に突起(21)を設ける工程と、
前記突起(21)の先端(211)を溶融することにより係止用の拡張部(212)を形成する工程と、
前記拡張部(212)を包み込む様に前記ゴム状弾性材製ガスケット(1)を形成する工程と、を有することを特徴とするガスケット構造体の製造方法。
【請求項6】
前記突起(21)の先端(211)の溶融が、超音波溶融方法により行われることを特徴とする請求項5記載のガスケット構造体の製造方法。
【請求項7】
前記突起(21)の先端(211)の溶融が、振動溶着方法により行われることを特徴とする請求項5記載のガスケット構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−47488(P2011−47488A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197720(P2009−197720)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】