説明

ガスシールドアーク用トーチの給電部

【課題】ソリッドワイヤへの給電不良を防止しつつ、ソリッドワイヤの狙い位置ズレを抑止することができるガスシールドアーク用トーチの給電部を提供する。
【解決手段】
雄ネジ部3bが形成された筒状のチップホルダ本体3と、固定部5aが突設され、下端から上端にかけて順に、ワイヤ接触部7dと幅広部7cからなるワイヤ挿通穴7bが軸心に連通形成されたコンタクトチップ2と、幅広部7cに挿通され前記軸心から偏心した偏心部6bを有し、コンタクトチップ2の内部に取り付けられた偏心部材6と、雄ネジ部3bと螺合する雌ネジ部4c及び固定部係合部4eが形成された固定部材4とを有し、固定部5aが固定部係合部4eに係合された状態で、雌ネジ部4cが雄ネジ部3bに螺合されることにより固定部材4がチップホルダ本体3に締め付けられて、コンタクトチップ2がチップホルダ本体3に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接に用いられるトーチの給電部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のホワイトボデーや自動車部品の製造等に、MAG溶接やMIG溶接等のガスシールドアーク溶接が利用されている。ガスシールドアーク溶接に用いられるアーク溶接用トーチ50は、図5に示されるように、ソリッドワイヤが送り出される略弾丸形状のコンタクトチップ55と、このコンタクトチップ55の基部を保持する円筒形状のチップホルダ51と、コンタクトチップ55及びチップホルダ51を包容するように配設された筒状のシールドノズル52と、シールドノズル52及びチップホルダ51が取り付けられるノズルホルダ53とから構成されている。コンタクトチップ55には、ソリッドワイヤが挿通されるワイヤ挿通穴55aが連通形成されている。ガスシールドアーク溶接は、連続的に送り出されるソリッドワイヤに、コンタクトチップ55を介して大電流を流して、前記ソリッドワイヤと被溶接部材との間でアークを発生させ(放電させ)、その際に発生する熱により、前記ソリッドワイヤや被溶接部材を溶かして、被溶接部材を溶接する溶接方法である。溶接を行う際には、溶接箇所と空気とが接触することによるブローホールの発生を防止するために、チップホルダ51に形成されたガス供給口51aからCOやアルゴン等の不活性ガスを供給し、シールドノズル52の先端から溶接箇所に前記不活性ガスを供給して、溶接箇所と空気の接触を防止している。シールドノズル52は、不活性ガスの拡散を防止し、確実に溶接箇所に不活性ガスを供給するためのものである。
【0003】
ソリッドワイヤはコンタクトチップ55のワイヤ挿通穴55aと接触して溶接電流が供給されるため、ワイヤ挿通穴55aとソリッドワイヤとのクリアランスは、小さい方が好ましく、長時間アーク溶接を行い前記クリアランスが大きくなると、コンタクトチップからソリッドワイヤに通電しない時間が発生し、アークが不安定になり、溶接不良が発生してしまう。
【0004】
そこで、上記問題を解決するために、特許文献1に示されるように、コンタクトチップの内部に、ソリッドワイヤをワイヤ挿通穴に押し当てる板バネをコンタクトチップの内部に設け、確実にソリッドワイヤがワイヤ挿通穴に押し当てられるコンタクトチップが提案されている。このような特許文献1に示されるようなコンタクトチップを使用すれば、長時間アーク溶接を行ったとしても、前記板バネの付勢力により、確実にソリッドワイヤがワイヤ挿通穴に押し当てられ、ソリッドワイヤへの給電不良が発生することが無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3218340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、板バネによりソリッドワイヤをワイヤ挿通穴に押し当てるので、ソリッドワイヤがワイヤ挿通穴55aから偏心して曲がった状態で送出され、ソリッドワイヤの狙い位置がズレ、溶接位置がズレてしまう。ソリッドワイヤがトーチ57の移動方向に曲がって送給される場合には、溶接位置がズレないので問題とならないが、ソリッドワイヤがトーチ57の進行方向と直交する方向に曲がって送給される場合には、溶接位置が大きくズレてしまい、所望の位置を溶接することができないという問題があった。
本発明は、上記問題を解決し、ソリッドワイヤへの給電不良を防止しつつ、ソリッドワイヤの狙い位置ズレを抑止することができるガスシールドアーク用トーチの給電部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、
ソリッドワイヤが挿通し、当該ソリッドワイヤに溶接電流を給電するガスシールドアーク溶接用トーチの給電部において、
下端部に雄ネジ部が形成され、下端に給電面が形成された筒状のチップホルダ本体と、
上端に受電面が形成された固定部が上端に突設され、下端から上端にかけて順に、ワイヤ接触部と前記ワイヤ接触部よりも幅広の幅広部からなるワイヤ挿通穴が軸心に連通形成されたコンタクトチップと、
前記幅広部に挿通され前記軸心から偏心した形状の偏心部を有し、前記コンタクトチップの内部に取り付けられた偏心部材と、
上部内周面に前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成され、前記雌ネジ部の下側に前記固定部に対応した形状の固定部係合部が形成された固定部材とを有し、
前記固定部が前記固定部係合部に係合された状態で、前記雌ネジ部が前記雄ネジ部に螺合されることにより前記固定部材が前記チップホルダ本体に締め付けられて、前記受電面が前記給電面に密接した状態で、前記コンタクトチップが前記チップホルダ本体に取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
偏心部は、曲げられた管状であることを特徴とする。
これにより、偏心部内を挿通するソリッドワイヤは、確実に偏心部ワイヤ挿通穴の軸心に対して偏心して送給されるので、ソリッドワイヤがワイヤ挿通穴のワイヤ接触部に確実に接触される。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、
コンタクトチップの固定部の下側には、前記固定部よりも幅寸法が小さい首部が形成され、
固定部材の固定部係合部の下側には、前記首部の幅寸法よりも大きく前記固定部係合部の幅寸法よりも小さい幅寸法の空間であり、固定部材の下端に開口する首部受容部が形成され、
固定部材の外周面には、固定部係合部と連通する固定部侵入口と、首部受容部に連通する首部侵入口が形成され、
コンタクトチップの固定部の外周面には、互いの平行な面取面が2つ形成され、
前記2つの面取面間寸法は、前記固定部侵入口の幅寸法よりも小さく、
前記面取面が形成されていない部分の固定部の幅寸法は、前記固定部侵入口の幅寸法よりも大きく、
前記首部の幅寸法は、前記首部侵入口の幅寸法よりも小さく構成され、
前記固定部が前記固定部係合部に係合されるとともに、前記首部が前記首部受容部に受容されて、コンタクトチップが固定部材に固定されていることを特徴とする。
これにより、コンタクトチップの固定部を、簡単に固定部侵入口から固定部係合部内に挿通させることができ、コンタクトチップを回転させるだけで、簡単に固定部を固定部係合部に係合させることが可能となるので、ガスシールドアーク溶接用トーチの給電部の組付作業が容易となる。
また、固定部係合部に係合された固定部は、固定部係合部と首部受容部の境界に形成された段差面により確実に押圧されるので、確実に受電面と給電面とが密接し、確実にチップホルダ本体からコンタクトチップに溶接電流が給電される。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、
コンタクトチップは、
固定部が形成され固定部材に固定されるチップ取付部材と、
前記チップ取付部材に取り付けられ、先端にワイヤ挿通穴の接触部が形成された交換チップとから構成されていることを特徴とする。
これにより、ワイヤ挿通穴のワイヤ接触部が摩耗した場合であっても、交換チップのみを交換すればいいので、ランニングコストを低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下端部に雄ネジ部が形成され、下端に給電面が形成された筒状のチップホルダ本体と、上端に受電面が形成された固定部が上端に突設され、下端から上端にかけて順に、ワイヤ接触部と前記ワイヤ接触部よりも幅広の幅広部からなるワイヤ挿通穴が軸心に連通形成されたコンタクトチップと、前記幅広部に挿通され前記軸心から偏心した偏心部を有し、前記コンタクトチップの内部に取り付けられた偏心部材と、上部内周面に前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成され、前記雌ネジ部の下側に前記固定部に対応した形状の固定部係合部が形成された固定部材とを有し、前記固定部が前記固定部係合部に係合された状態で、前記雌ネジ部が前記雄ネジ部に螺合されることにより前記固定部材が前記チップホルダ本体に締め付けられて、前記受電面が前記給電面に密接した状態で、前記コンタクトチップが前記チップホルダ本体に取り付けられていることを特徴とする。
このため、固定部材をチップホルダ本体に対して緩める方向に回転させて、コンタクトチップを回転させることにより、偏心部材の偏心部の偏心方向を変化させることができ、ソリッドワイヤの狙い位置ズレを抑止することが可能となる。
また、偏心部材の偏心部により、ワイヤはワイヤ挿通穴に対して偏心して送給され、ワイヤはワイヤ接触部に確実に接触するので、ソリッドワイヤへの給電不良が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガスシールドアーク溶接用トーチの給電部の組図である。
【図2】本発明のガスシールドアーク溶接用トーチの給電部の部品図である。
【図3】固定部材及びチップ取付部材の外観図である。
【図4】コンタクトチップの別例の説明図である。
【図5】従来のアーク溶接用トーチの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態を示す。図1の左半分は、ガスシールドアーク溶接用トーチの給電部10(以下単に給電部10と略す)の要部の外観図であり、図1の右半分は給電部10の要部の断面図である。また、図2の左半分は、給電部10を構成する部品の外観図であり、図1の右半分は給電部10を構成する部品の断面図である。本発明の給電部10は、チップホルダ1、コンタクトチップ2、偏心部材6とから構成されている。
【0014】
図1や図2に示されるように、チップホルダ1は、チップホルダ本体3と固定部材4とから構成されている。チップホルダ本体3及び固定部材4は、強靱で導電性に優れたベリリウム銅やクロム銅等の銅合金で構成されている。図2に示されるように、チップホルダ本体3は、略円筒形状である。チップホルダ本体3の上部の外周には、ネジ山が螺刻されて、ノズルホルダ取付部3aが形成されている。ノズルホルダ取付部3aには、ノズルホルダ53(図5に示す)が取り付けられる。チップホルダ本体3の下端部の外周には、ネジ山が螺刻されて、雄ネジ部3bが形成されている。チップホルダ本体3の下端には、チップホルダ本体3の長手方向(軸方向)と直交する平面である給電面3cが形成されている。チップホルダ本体3の下部の外周面には、チップホルダ本体3の内部に連通するガス供給口3dが連通形成されている。チップホルダ本体3の内部を、COやアルゴン等の不活性ガスが流通して、当該不活性ガスが、ガス供給口3dからシールドノズル52(図5に示す)内に供給されるようになっている。
【0015】
図3に示されるように、固定部材4は略円筒形状である。なお、図3の(B)は、図3の(A)を90°回転させた方向から見たA−A矢視図である。また、図3の(D)は、図3の(C)を90°回転させた方向から見たB−B矢視図である。図3の(A)に示されるように、固定部材4の上部内周面には、チップホルダ本体3の雄ネジ部3bと螺合する雌ネジ部4cが螺刻されている。固定部材4の雌ネジ部4cの下方には、後述するチップ取付部材5の固定部5aに対応した形状の空間である固定部係合部4eが形成されている。本実施形態では、固定部係合部4eは、円柱形状の空間となっている。固定部材4の中間部分の外周面には、固定部係合部4eと連通する固定部侵入口4aが形成されている。固定部材4の固定部係合部4eの下側には、固定部係合部4eと連通し、固定部材4の下端に開口する首部受容部4fが形成されている。首部受容部4fは、後述するチップ取付部材5の首部5bの幅寸法よりも大きく、固定部係合部4eの幅寸法よりも小さい幅寸法の空間である。本実施形態では、首部受容部4fは、円柱形状の空間である。固定部材4の外周面には、首部受容部4fと連通する首部侵入口4bが形成されている。首部受容部4fの内径は、固定部係合部4eの内径よりも小さくなっている。このため、固定部係合部4eと首部受容部4fの境界には段差面4gが形成されている。固定部材4の上部には、ローレット加工等により形成された滑り止め加工部4dが形成されている。
【0016】
図2に示されるように、本実施形態のコンタクトチップ2は、チップ取付部材5、交換チップ7とから構成されている。チップ取付部材5、交換チップ7は、強靱で導電性に優れたベリリウム銅やクロム銅等の銅合金で構成されている。
【0017】
チップ取付部材5は、図2や図3の(A)、(B)に示されるように、略円柱形状である。チップ取付部材5の上端から下端に、固定部5a、首部5b、取付部5cが一体に形成されている。言い換えると、固定部5aは、チップ取付部材5の上端に突設されている。固定部5aは略円柱形状である。固定部5aの上端には、チップ取付部材5の長手方向(軸方向)と直交する面である受電面5gが形成されている。固定部5aの外周面には、面取除去加工により形成された面取面5dが形成されている。面取面5dは、固定部5aの外周面に2つ形成され、2つの面取面5dは互いに平行な面となっている。図3の(A)に示されるように、2つの面取面5d間の寸法bは、固定部材4の固定部侵入口4aの開口部の幅寸法aよりも小さくなっている。また、固定部5aの長さ寸法は、固定部材4の固定部侵入口4aの開口部の長さ寸法よりも小さくなっている。このため、図3の(C)に示されるように、チップ取付部材5の固定部5aは固定部材4の固定部侵入口4aに侵入可能となっている。図3の(B)に示されるように、固定部5aの面取面5dが形成されていない部分の幅寸法cは、固定部材4の固定部侵入口4aの開口部の幅寸法aよりも大きくなっている。なお、固定部係合部4eの内径は、固定部5aの面取面5dが形成されていない部分の幅寸法cよりも僅かに大きくなっている。固定部5aの下側は、固定部5aの幅寸法よりも小さい首部5bとなっている。首部5bの寸法は、固定部材4の首部侵入口4bの幅寸法よりも小さくなっているので、首部5bは首部侵入口4bに侵入可能となっている。取付部5cの内周面には、ネジ溝が螺刻されてチップ取付部材5eが形成されている。チップ取付部材5上部の軸心には偏心部材取付穴5hが形成されている。チップ取付部材5の偏心部材取付穴5hの下側には、偏心部材取付穴5hと連通し、チップ取付部材5の下端に開放するチップ取付ネジ穴5eが螺刻されている。チップ取付部材5の下端には、チップ取付部材5の長手方向(軸方向)と直交する面である給電面5fが形成されている。
【0018】
偏心部材6は、筒状の取付部6aと、この取付部6aから下方に伸びる偏心部6bとから構成されている。本実施形態では、偏心部6bは円管の途中部分若しくは先端部分を曲げたものである。図3の(A)や(B)に示されるように、取付部6aがチップ取付部材5の偏心部材取付穴5hに挿通されて取り付けられ、偏心部材6がチップ取付部材5(コンタクトチップ2)内に取り付けられている。
【0019】
交換チップ7は、先細り形状の略砲弾形状となっていて、上端に取付部7aが形成されている。取付部7aには、チップ取付部材5のチップ取付ネジ穴5eと螺合するネジ山が螺刻されている。交換チップ7の軸心には、ワイヤ挿通穴7bが連通形成されている。ワイヤ挿通穴7bの下側は、ワイヤ接触部7dとなっている。ワイヤ挿通穴7b(ワイヤ接触部7d)の上側は、幅広部7cとなっている。ワイヤ接触部7dの内径は、挿通するソリッドワイヤ99(以下単にワイヤ99と略す)の外径よりも僅かに大きくなっていて、このワイヤ接触部7dにワイヤ99が接触して、ワイヤ99に溶接電流が給電されるようになっている。幅広部7cの内径は、ワイヤ接触部7dの内径よりも大きくなっている。また、幅広部7cの内径は、偏心部材6の偏心部6bの幅寸法よりも大きくなっていて、偏心部6bが幅広部7c内に侵入可能となっている。取付部7aの基端には、交換チップ7の長手方向(軸方向)と直交する平面である受電面7eが形成されている。
【0020】
次に、給電部10の組み立て手順について説明する。まず、図3の(C)に示されるように、チップ取付部材5の固定部5aを固定部材4の固定部侵入口4aから固定部係合部4eに侵入させるとともに、首部5bを首部侵入口4bから首部受容部4fに受容させる。次に、図3の(D)に示されるように、チップ取付部材5を、固定部材4に対して回転させると、面取面5dが形成されていない部分の固定部5aの幅寸法cは、固定部材4の固定部侵入口4aの開口部の幅寸法aよりも大きくなっているので、固定部5aが固定部係合部4eに係合し、チップ取付部材5が固定部材4から脱落しない。この状態(図3の(D)に示される状態)で、固定部材4の雌ネジ部4cを、チップホルダ本体3の雄ネジ部3bに完全に螺合させて、固定部材4をチップホルダ本体3に締め付ける。すると、図1に示されるように、チップホルダ本体3の給電部3cと、チップ取付部材5の受電部5gとが密接して、チップホルダ本体3からチップ取付部材5へ導電可能な状態となる。固定部係合部4eに係合された固定部5aは、固定部係合部4eと首部受容部4fの境界に形成された段差面4gにより確実に押圧されるので、確実に受電面5gと給電面3cとが密接する。この状態で、交換チップ7の取付部7aをチップ取付部材5のチップ取付ネジ穴5eに完全に螺合させて、交換チップ7をチップ取付部材5に取り付けて、組み立てが完了する。この状態では、チップ取付部材5の給電部5fと、交換チップ7の受電部7eとが密接して、チップ取付部材5から交換チップ7へ導電可能な状態となる。また、この状態では、偏心部材6の偏心部6bが、交換チップ7のワイヤ挿通穴7bの幅広部7cへ挿通した状態となっている。この状態では、偏心部6bは、交換チップ7(ワイヤ挿通穴7b)の軸心から偏心している。
【0021】
チップホルダ本体3から、交換チップ7のワイヤ挿通穴7bにワイヤ99を挿通させると、図1に示されるように、偏心部材6の偏心部6bを挿通するワイヤ99がワイヤ挿通穴7bの軸心に対して偏心する。このため、ワイヤ99はワイヤ挿通穴7dに対して偏心して送給され、ワイヤ99はワイヤ接触部7dに確実に接触する。このため、ワイヤ99のワイヤ接触部7dへの接触不良の起因する溶接不良を防止することが可能となる。また、ワイヤ99との摩擦により、ワイヤ挿通穴7bの接触部7bが摩耗して、穴の形状が拡がった場合であっても、ワイヤ99は、偏心部6bによりワイヤ挿通穴7bの軸心に対して偏心して送給されるので、ワイヤ99がワイヤ挿通穴7bのワイヤ接触部7dに確実に接触する。
【0022】
固定部材4をチップホルダ本体3に対して緩める方向に回転させると、チップホルダ本体3の給電部3cがチップ取付部材5の受電部5gから離間し、チップ取付部材5がチップホルダ本体3に対して回転自在な状態となる。チップ取付部材5を回転させたうえ固定部材4をチップホルダ本体3に締め付けると、チップ取付部材5に取り付けられている偏心部材6の偏心部6bの偏心方向が変化する。ユーザは、チップ取付部材5を回転させて、偏心部6bの偏心方向を所望の方向に偏心させることにより、ガスシールドアーク溶接用トーチの移動方向にワイヤ99が曲がるように調整して、ワイヤ99の狙い位置ズレを抑止することが可能となる。なお、本実施形態では、固定部材4の外周面に滑り止め加工部4dが形成されているので、ユーザは容易に固定部材4を緩める方向に回転させることができる。なお、本実施形態では、コンタクトチップ2を、チップ取付部材5と交換チップ7の2体構造としたので、ワイヤ挿通穴7bのワイヤ接触部7dが摩耗した場合であっても、交換チップ7のみを交換すればいいので、ランニングコストを低減させることが可能となる。
【0023】
以上説明した実施形態では、コンタクトチップ2は、チップ取付部材5と交換チップ7とからなる2体構造であるが、図4に示されるように、一体構造のコンタクトチップ12であっても差し支えない。このコンタクトチップ12には、基端から先端にかけて軸心を連通するワイヤ挿通穴12aが連通形成されている。コンタクトチップ12先端側のワイヤ挿通穴12aは、ワイヤ接触部12bとなっていて、コンタクトチップ12基端側のワイヤ挿通穴12aは、ワイヤ接触部12bよりも幅広(内径が大きい)幅広部12cとなっている。偏心部6bの先端がコンタクトチップ12の先端側に向いた状態で、偏心部6bが幅広部12c内に挿通し、取付部6aが幅広部12cと嵌合して、偏心部材6がコンタクトチップ12内に取り付けられている。
【0024】
以上説明した実施形態では、偏心部材6の偏心部6bは円管が曲げられて形成されたものであるが、四角管等の管状の部材が曲げられた偏心部、或いは、先端若しくは途中部分が曲げられた板状の偏心部であっても差し支えない。
【0025】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うガスシールドアーク溶接用トーチの給電部もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0026】
1 チップホルダ
2 コンタクトチップ
3 チップホルダ本体
3a ノズルホルダ取付部
3b 雄ネジ部
3c 給電面
3d ガス供給口
4 固定部材
4a 固定部侵入口
4b 挿通口
4c 雌ネジ部
4d 滑り止め加工部
4e 固定部係合部
4f 首部受容部
4g 段差面
5 チップ取付部材
5a 固定部
5b 首部
5c 取付部
5d 面取面
5e チップ取付ネジ穴
5f 給電面
5g 受電面
5h 偏心部材取付穴
6 偏心部材
6a 取付部
6b 偏心部
7 交換チップ
7a 取付部
7b ワイヤ挿通穴
7c 幅広部
7d ワイヤ接触部
7e 受電面
10 ガスシールドアーク溶接用トーチの給電部
12 コンタクトチップ(別例)
12a ワイヤ挿通穴
12b ワイヤ接触部
12c 幅広部
50 ガスシールドアーク溶接用トーチ
51 チップホルダ
51a ガス供給口
52 シールドノズル
53 ノズルホルダ
55 コンタクトチップ
55a ワイヤ挿通穴
99 ソリッドワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリッドワイヤが挿通し、当該ソリッドワイヤに溶接電流を給電するガスシールドアーク溶接用トーチの給電部において、
下端部に雄ネジ部が形成され、下端に給電面が形成された筒状のチップホルダ本体と、
上端に受電面が形成された固定部が上端に突設され、下端から上端にかけて順に、ワイヤ接触部と前記ワイヤ接触部よりも幅広の幅広部からなるワイヤ挿通穴が軸心に連通形成されたコンタクトチップと、
前記幅広部に挿通され前記軸心から偏心した形状の偏心部を有し、前記コンタクトチップの内部に取り付けられた偏心部材と、
上部内周面に前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成され、前記雌ネジ部の下側に前記固定部に対応した形状の固定部係合部が形成された固定部材とを有し、
前記固定部が前記固定部係合部に係合された状態で、前記雌ネジ部が前記雄ネジ部に螺合されることにより前記固定部材が前記チップホルダ本体に締め付けられて、前記受電面が前記給電面に密接した状態で、前記コンタクトチップが前記チップホルダ本体に取り付けられていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用トーチの給電部。
【請求項2】
偏心部は、曲げられた管状であることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用トーチの給電部。
【請求項3】
コンタクトチップの固定部の下側には、前記固定部よりも幅寸法が小さい首部が形成され、
固定部材の固定部係合部の下側には、前記首部の幅寸法よりも大きく前記固定部係合部の幅寸法よりも小さい幅寸法の空間であり、固定部材の下端に開口する首部受容部が形成され、
固定部材の外周面には、固定部係合部と連通する固定部侵入口と、首部受容部に連通する首部侵入口が形成され、
コンタクトチップの固定部の外周面には、互いの平行な面取面が2つ形成され、
前記2つの面取面間寸法は、前記固定部侵入口の幅寸法よりも小さく、
前記面取面が形成されていない部分の固定部の幅寸法は、前記固定部侵入口の幅寸法よりも大きく、
前記首部の幅寸法は、前記首部侵入口の幅寸法よりも小さく構成され、
前記固定部が前記固定部係合部に係合されるとともに、前記首部が前記首部受容部に受容されて、コンタクトチップが固定部材に固定されていることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のガスシールドアーク溶接用トーチの給電部。
【請求項4】
コンタクトチップは、
固定部が形成され固定部材に固定されるチップ取付部材と、
前記チップ取付部材に取り付けられ、先端にワイヤ挿通穴の接触部が形成された交換チップとから構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接用トーチの給電部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−235343(P2011−235343A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110987(P2010−110987)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(392014760)新光機器株式会社 (50)
【Fターム(参考)】