説明

ガスセンサの異常診断方法

【課題】検出素子を収容するハウジング内で水蒸気が生じる等の要因で接続端子間に漏電(リーク)が生じるといったガスセンサの異常状態を、精度良く判定することが可能なガスセンサの異常診断方法を提供する。
【解決手段】酸素センサ1を異常診断回路5に接続する。そして、酸素センサ1を既知の酸素濃度にある大気雰囲気に晒す。ヒータ13の電源電位側の通電経路は、スイッチ53を介してバッテリに接続している。また、ヒータ13の基準電位側の通電経路は、開回路状態とする。よって、ヒータ13の電源電位側の通電経路を接続しても、ヒータ13には電流が流れない。ゆえに、ヒータ13の通電経路とは独立した通電経路を有する検出素子12のセンサ出力値を取得し、そのセンサ出力値が大きな値を示した(大きな変動が生じた)なら、酸素センサ1が異常状態にあるとして判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガス中の特定ガス成分の濃度に応じた検出信号を出力する検出素子を備えたガスセンサが異常状態にあるか否かを診断するガスセンサの異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ジルコニア等のセラミックスからなる固体電解質体を用い、内燃機関の排出する排気ガス中の特定ガス成分(例えば酸素など)を検出する検出素子を備えたガスセンサが知られている。このような検出素子は温度が低いと固体電解質体が活性化しないため、たとえば自動車の始動時などでは酸素濃度の検出を行える状態となるまで、排気ガスによる昇温を待つ必要があった。そこで、検出素子を加熱して速やかに昇温できるようにしたヒータを検出素子に付設ないし一体化させ、この検出素子をハウジング内に収容したガスセンサが開発されている。
【0003】
このようなガスセンサは、ECU(自動車の電子制御装置)やECUと別体に設けられたセンサ制御装置等の外部装置に接続されて使用され、検出素子やヒータに、検出用の電流や加熱用の電流が流される。ガスセンサと外部回路との接続にはリード線が用いられ、ガスセンサのハウジング内にて、リード線の末端に設けられた接続端子を介し、それぞれ独立に、検出素子やヒータに設けられた通電用の端子に電気的に接続される。そして各接続端子は、セパレータと呼ばれる絶縁部材によって互いに非接触の状態で、ハウジング内に収容されている。
【0004】
ところで、ガスセンサのハウジング内には、何らかの原因で水分が浸入してしまうことがある。例えば、リード線の内側をつたって水蒸気がハウジング内に入り込み、その水蒸気が冷却されてハウジング内に水分が浸入することもある。このような場合、ヒータの加熱や排気ガスから受ける熱によって、ハウジング内に浸入した水分が、水蒸気化することがある。すると、上記の接続端子など、ハウジング内で露出してなる部分において、ヒータ側の通電経路と検出素子側の通電経路との間で水蒸気を媒介した漏電(リーク)を生じ、検出素子からの検出信号に異常を生ずる虞がある。そこで、エンジンの冷却水温と検出信号の電圧値との関係から検出信号ひいてはガスセンサの異常状態の有無を診断できるようにした診断装置が知られている(たとえば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−115878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、診断装置によって検出信号の異常が検出されたガスセンサに対し、あらためて、異常状態の再現試験を行っても、異常状態が再現されないことがあった。これは、ハウジング内で水蒸気化した水分がヒータ等の加熱の繰り返しにより蒸発してしまい、リークの発生要因がなくなるからと考えられる。特に、特定ガス成分の濃度検出のために、ガスセンサに通気部(より詳細には、通気孔を撥水性および通気性を有するフィルタにて覆った通気部)を設け、この通気部を介して検出素子の内部に基準ガスとしての大気を取り込む構成では、水蒸気化した水分が上記通気部を介して外部に排出される傾向が生じ易い。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、検出素子を収容するハウジング内で水蒸気が生じる等の要因で接続端子間に漏電(リーク)が生じるといったガスセンサの異常状態を、精度良く判定することが可能なガスセンサの異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様によれば、固体電解質体および一対の電極から構成されると共に、被検出ガス中の特定ガス成分の濃度に応じたセンサ出力値を出力する検出素子と、当該検出素子を加熱するヒータとを収容するハウジングを有するとともに、外部回路から前記検出素子および前記ヒータへの通電経路の一部を担うリード線の末端に設けられ、当該リード線と前記検出素子および前記ヒータとを接続するための接続端子を、さらに、前記ハウジング内に収容してなるガスセンサが、異常状態にあるか否かを診断するガスセンサの異常診断方法であって、前記ヒータの電源電位側の通電経路が接続され、基準電位側の通電経路が開回路状態となる第1開回路工程と、前記ガスセンサを前記特定ガス成分の濃度が既知の濃度にある雰囲気に晒すと共に、前記検出素子の一対の電極のそれぞれに対する通電経路が接続された状態で前記センサ出力値を取得する取得工程と、前記第1開回路工程の実行中に、前記取得工程にて取得される前記センサ出力値に基づいて、前記ガスセンサが異常状態にあると判定される判定工程とを有するガスセンサの異常診断方法が提供される。
【0009】
本実施態様において、ヒータの電源電位側の通電経路が接続されても、基準電位側の通電経路が開回路状態であれば、ヒータへの通電はなされない。しかし、ハウジング内に水分が浸入し、ヒータ側の通電経路と検出素子側の通電経路との間で水蒸気を媒介した漏電(リーク)が生じる状況にある場合、センサ出力値が、当該漏電がない場合とは異なる挙動を示す。つまり、ガスセンサは、特定ガス成分の濃度が既知の濃度にある雰囲気に晒していることから、その既知の濃度に対応したセンサ出力値が取得されることになるが、上記漏電が生じた場合には既知の濃度に対応したセンサ出力値とは異なる値を示すことになる。ゆえに、ヒータの基準電位側の通電経路が開回路状態である間のセンサ出力値の変動を利用することにより、ガスセンサの異常の有無を判断することができる。さらに、本発明のガスセンサの異常検出方法を、出荷後にセンサ出力値の異常が生じたとして回収されるガスセンサに対してはじめに実施すれば、ハウジング内で水蒸気化した水分が、ガスセンサの異常状態を確認するための別の試験にて蒸発してしまうのを抑えられるため、出荷後に生じた上記漏電に伴うセンサ出力値の異常状態を再現させられる可能性があり、ガスセンサの異常の特定を行うことが可能となる。
【0010】
また、本実施態様において、前記ヒータの電源電位側の通電経路が切断され、基準電位側の通電経路も開回路状態となる第2開回路工程をさらに有し、前記判定工程では、前記第1開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値と、さらに前記第2開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値との変動状態に基づいて、前記ガスセンサが異常状態にあると判定されてもよい。このように、ヒータの電源電位側の通電経路が接続されている間のセンサ出力値だけでなく、切断されている間のセンサ出力値をも異常有無の判断要素に加え、これらセンサ出力値の変動に基づきガスセンサの異常の有無の判定を行えば、その判定精度をより高めることができる。
【0011】
あるいは、本実施態様において、前記ヒータの電源電位側の通電経路が切断され、基準電位側の通電経路も開回路状態となる第2開回路工程をさらに有し、前記判定工程では、前記第1開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値と、さらに前記第2開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値との変動状態に基づいて、前記ガスセンサが、仮に、異常状態にあると仮判定されるとともに、当該仮判定が複数回なされた場合に、前記ガスセンサが異常状態にあると判定されてもよい。上記のように、ヒータの電源電位側の通電経路が接続されている間のセンサ出力値だけでなく、切断されている間のセンサ出力値をも異常有無の判断要素に加え、これらセンサ出力値の変動に基づきガスセンサの異常の有無の判定を行えば、その判定精度をより高めることができる。さらに、上記のガスセンサの異常の有無の判定を仮判定とし、仮判定を複数回行った結果に基づいてガスセンサの異常の有無を判定すれば、その判定精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】酸素センサ1の使用時における電気的な構成を概略的に示した図である。
【図2】酸素センサ1の異常診断を行う際の電気的な接続を概略的に示した図である。
【図3】正常な酸素センサおよびハウジング内に水分が浸入した酸素センサを異常診断回路に接続し、電気炉内に投入した際のセンサ出力値を測定したグラフである。
【図4】正常な酸素センサおよびデポジットの付着した酸素センサを異常診断回路に接続し、ヒータの通電側のスイッチをON/OFFした際のセンサ出力値を測定したグラフである。
【図5】ハウジング内に水分が浸入した酸素センサを異常診断回路に接続し、ヒータの通電側のスイッチをON/OFFした際のセンサ出力値を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化したガスセンサの異常診断方法の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施の形態において異常診断が行われるガスセンサとしては、酸素センサや全領域空燃比センサ、NOxセンサ、HCセンサなど、公知のガスセンサを用いることができる。また、ガスセンサの検出素子には、加熱によって活性化する固体電解質体を用いたものを適用することができ、有底筒状をなすものや板状をなすものなど、大きさや形状については問うものではない。本実施の形態では、ガスセンサの一例として、例えば、特開2004−138599号公報に開示される酸素センサを用いるものとする。したがって、酸素センサ1の構造の詳細については説明を省略するが、概略的な構造については、図1に示す電気的な構成を参照しつつ、簡単に説明するものとする。
【0014】
図1に示す、酸素センサ1は、自身を排気ガスの流通管に取り付けるための主体金具(図示外)の内側に、有底筒状の検出素子12を保持させ、検出素子12の先端部および後端部をそれぞれ、主体金具の先端および後端から突出させた構造を有する。主体金具の後端には筒状の外筒(図示外)が取り付けられている。外筒は、主体金具とともに酸素センサ1のハウジング11を構成し、内部に検出素子12を収容して、内部と外部の雰囲気を隔てている。ハウジング11内にはヒータ13も収容され、ヒータ13は、検出素子12の筒内に配置されている。また、主体金具の先端にはガス流通孔付きのプロテクタ(図示外)が取り付けられており、検出素子12の先端部は、周囲をプロテクタに覆われて保護されている。
【0015】
検出素子12は、活性温度以上で酸素イオン導電性を示す性質を有するジルコニア製の固体電解質体を、上記のように有底筒状に形成し、その外面と内面とにそれぞれ形成した一対の多孔質電極(図示外)で固体電解質体を挟んだものである。この固体電解質体で2つの雰囲気(具体的には大気と排気ガス)を隔て、両雰囲気間で酸素分圧に差が生じたときに、固体電解質体内を酸素イオンが移動するのに伴い起電力が生ずることを利用して、排気ガス中の酸素濃度の検出が行われる。多孔質電極の一方はプロテクタ内で露出されて、ガス流通孔から導入される排気ガスに晒される。また、他方の多孔質電極は、外筒の開口からハウジング11内に導入される大気に晒される。この外筒の開口には、通気性および撥水性を有するフィルタ(図示外)が設けられ、ハウジング11内に大気を導入できるように設計されている。
【0016】
また、検出素子12は、一対の多孔質電極の一方が接続端子15に接続されており、一対の多孔質電極の他方が接続端子16に接続されている。同様に、ヒータ13の電源電位側が接続端子17に接続されており、基準電位側が接続端子18に接続されている。各接続端子15〜18はハウジング11内に収容されており、ハウジング11内に配置される絶縁性のセパレータ(図示外)によって、互いに非接触の状態に保持されている。各接続端子15〜18にはそれぞれリード線35〜38の一端側が取り付けられており、各リード線35〜38は、ハウジング11から引き出されている。そして、リード線35〜38の他端側にはコネクタ3が設けられ、各リード線35〜38は、コネクタ3の各端子31〜34に接続されている。
【0017】
このような構成の酸素センサ1は、自動車に組み付けられた際に、コネクタ3を介してセンサ制御装置4に接続されて、使用される。センサ制御装置4は、ヒータ13に対する通電の制御を行うヒータ制御部42と、検出素子12の出力を検出する検出部41を有する。ヒータ制御部42はバッテリに接続されており、バッテリ電圧をヒータ13の電源電位側に印加するため、リード線47を介してコネクタ3の端子33に接続されている。そしてヒータ13の基準電位側に接続されるコネクタ3の端子34は、リード線48を介し、センサ制御装置4の基準電位に接続されている。
【0018】
また、検出部41は、リード線45,46を介してコネクタ3の端子31,32に接続されている。上記したように、端子31,32は検出素子12の一対の多孔質電極が接続されており、検出部41では、検出素子12の両端の電位差を取得することができる。そして、検出素子12の多孔質電極の他方に接続される端子32には、リード線46を介し、センサ制御装置4の基準電位が接続されている。なお、センサ制御装置4は図示しないマイクロコンピュータに接続されており、このマイクロコンピュータはセンサ制御装置4にて取得されたセンサ出力値を入力することで、空燃比フィードバック制御を行うために必要な酸素濃度、ひいては空燃比を算出する。
【0019】
次に、酸素センサ1に接続する異常診断回路5について説明する。酸素センサ1の異常診断を行うにあたり、酸素センサ1には、センサ制御装置4に接続するコネクタ3を用いて、異常診断回路5が接続される。異常診断回路5には、コネクタ3の端子31〜33にそれぞれ接続されるリード線55〜57が設けられている。コネクタ3の端子33は、リード線57を介して異常診断回路5のスイッチ53に接続されており、さらにスイッチ53を介してバッテリに接続されている。そして、スイッチ53のON/OFFによって、ヒータ13の電源電位側へのバッテリ電圧の印加を行えるようになっている。
【0020】
また、コネクタ3の端子31,32は、それぞれリード線55,56を介して異常診断回路5の検出抵抗51の両端に接続されている。検出抵抗51の両端にはさらに電圧計52が接続されている。さらに、端子32は、リード線56を介して異常診断回路5の基準電位に接続されている。そして、端子34には何も接続されず、ゆえに、ヒータ13の基準電位側の通電経路は開回路状態となっている。
【0021】
次に、異常診断回路5によって酸素センサ1の異常診断を行う方法について、以下の実施例により説明する。
【実施例1】
【0022】
酸素センサ1の異常診断を行うにあたり、まず、通常の製造工程にしたがって酸素センサ1を2つ作製し、そのうちの一方を、酸素センサ1の正常品のサンプル1とした。もう一方の酸素センサ1は、外筒の開口に設けたフィルタを破り、さらに、加湿器で湿度を十分に高めた湿潤雰囲気中に24時間放置して、ハウジング11内に敢えて水分を浸入させ、出力異常(接続端子間にて漏電)を生ずる虞のある状態にし、これをサンプル2とした。次に、サンプル1,2をそれぞれ異常診断回路5に接続した。上記したように、異常診断回路5はコネクタ3の端子34との接続がなく、ヒータ13の基準電位側の通電経路は開放され、開回路状態となる。この状態で、各サンプル1,2を、500℃に加熱した酸素濃度が既知の雰囲気(具体的には、大気雰囲気)に晒された電気炉6内に投入するとともに、スイッチ53をONにして、ヒータ13の電源電位側を12.5Vのバッテリに接続した(第1開回路工程)。電気炉6への投入後、電圧計52で検出素子12の出力する電圧値(以下、「センサ出力値」ともいう。)を測定(取得)した(取得工程)。さらに95秒後には、スイッチ53をOFFにした(第2開回路工程)。なお、センサ出力値の測定は、サンプル1,2を電気炉6へ投入してから約200秒間、行った。測定結果を図3のグラフに示す。
【0023】
図3に示すように、正常品のサンプル1は、スイッチ53の操作の有無にかかわらず、センサ出力値がほぼ0Vであった。つまり、スイッチ53がONとなり、ヒータ13の電源電位側の通電経路が接続されている間のセンサ出力値に、変動はみられなかった。ヒータ13と検出素子12の通電経路が互いに独立していることと、電気炉6内が大気雰囲気であるため、検出素子12の固体電解質体で隔てた雰囲気間で酸素分圧の差がほとんど生じなかったことによる。一方、不具合品のサンプル2では、電気炉6への投入後に測定されたセンサ出力値は、約5Vを示した。このとき、スイッチ53はONであり、さらに時間の経過に伴い、測定される電圧値が約6Vに上昇したが、スイッチ53をOFFにして以降は、ほぼ0Vのセンサ出力値が測定された。実使用時において検出素子12において生ずる起電力は酸素濃度が薄い空燃比がリッチの雰囲気にて約0.9Vであることから、それよりも大きな電圧が測定されることは、ヒータ13に印加されたバッテリ電圧が、漏電などの要因により、検出素子12に印加され、その分圧がセンサ出力値として測定された状況が考えられる。スイッチ53をOFFにするとセンサ出力値がほぼ0Vとなったことからも、バッテリ電圧の漏電が思料される。なお、サンプル2のセンサ出力値が約5Vから約6Vに上昇したのは、電気炉6で熱せられた検出素子12の固体電解質体が活性化し、酸素イオンが移動可能となって電流が流れるようになったことによる。
【実施例2】
【0024】
こうした漏電の発生要因について更なる考察を行うため、評価を行った。実施例1と同様に通常の製造工程にしたがって酸素センサ1を3つ作成し、1つを試験用のエンジンの排気管に取り付け、1000時間の走行試験後に回収し、これをサンプル3とした。また、残る2つの酸素センサ1は、実施例1と同様に加湿器による湿潤雰囲気中でハウジング11内に水分を浸入させて、それぞれサンプル4,5とした。そして上記のサンプル1と、サンプル3〜5を、それぞれ異常診断回路5に接続し、酸素濃度が既知である大気雰囲気中で任意のタイミングにスイッチ53のON/OFFを繰り返し行いつつ、スイッチ53のON時とOFF時とでセンサ出力値の測定を行った(約200秒間行った)。サンプル1,3の測定結果を図4のグラフに示し、サンプル4,5の測定結果を図5のグラフに示す。
【0025】
サンプル1は、特に不具合のない酸素センサ1の正常品のサンプルであり、図4に示すように、スイッチ53のON/OFFが繰り返されても、センサ出力値がほぼ0Vに維持された。つまり、スイッチ53がONとなり、ヒータ13の電源電位側の通電経路が接続されている間のセンサ出力値に、変動はみられなかった。また、サンプル3では、スイッチ53のON/OFFに応じてセンサ出力値が直ちに変動を示す、ということはなく、ほぼ0Vに維持されていたが、わずかながら、時間の経過に伴い電圧値が上昇する現象がみられた。この現象は、サンプル3の検出素子12の表面に付着した排気ガス中のデポジット(燃料灰分やオイル成分など被毒性の付着物質など)が、ヒータ13の加熱に伴い、多孔質電極の表面上で焼却されたことで生じたと考えられる。デポジットが燃える際に周囲の酸素を奪うため、若干の酸素濃度勾配が生じ、固体電解質体内を電流が流れるので、センサ出力値の上昇がみられるのである。
【0026】
一方、ハウジング11内に水分の浸入したサンプル4,5は、図5に示すように、スイッチ53をONにしているときに、センサ出力値が大きな値を示した。換言すれば、サンプル4,5は、スイッチ53をONにしているときのセンサ出力値と、スイッチ53をOFFにしているときのセンサ出力値とに、図3とは異なる大きな変動が生じた。具体的にみられた現象は、以下の通りである。図5に示すように、サンプル4,5のセンサ出力値は、いずれも、測定を開始した直後には、ほぼ0Vであり、スイッチ53がONである間のセンサ出力値は、時間の経過に伴い上昇していった。スイッチ53がOFFとなれば、センサ出力値は、ほぼ0を示した。測定開始から約70〜80秒後にセンサ出力値が約2Vに達すると、それ以上の上昇はみられなくなったが、スイッチ53をOFFにしたときに、センサ出力値が負の値を示した。測定開始から約120秒が経過して以降は、時間の経過に伴ってセンサ出力値が減少していった。
【0027】
実施例1と同様に、検出素子12において生ずる起電力が約0.9Vであることから、ヒータ13に印加されたバッテリ電圧が、検出素子12にも印加された状況が考えられる。ヒータ13の基準電位側の通電経路が開放されていることや、スイッチ53のON/OFFに応じてセンサ出力値に変動がみられたことからも、十分に思料されることである。しかし、測定開始直後において、スイッチ53がONであってもセンサ出力値がほぼ0Vであったことから、ヒータ13や検出素子12の通電経路上において、例えば回路異常等により、常時、短絡が生じている状態にあるとは考えにくい。
【0028】
ところで、ハウジング11内において、ヒータ13の通電経路上で電気的に露出されている部分は接続端子17,18のみであり、検出素子12についても同様に、接続端子15,16のみが電気的に露出されている。例えば、漏電によってヒータ13に電流が流れればヒータ13が発熱し、その際に、例えばハウジング11内に浸入し、水滴状態で内壁等に付着している水分があれば、ヒータ13の加熱によって水蒸気化しうる。時間の経過に伴ってセンサ出力値が上昇する傾向を示すのは、こうして発生する水蒸気が、接続端子15〜18間に充満し、漏電を媒介しているからと考えられる。例えば、図2において、ヒータ13の接続端子17と検出素子12の接続端子15との間の絶縁抵抗R1や、接続端子18と接続端子15との間の絶縁抵抗R2が、水蒸気を媒介することによって低下すれば、漏電を生ずる虞がある。もちろん、抵抗値R1,R2は、接続端子15〜18間の距離や互いの配置、水蒸気の発生具合や発生密度など、主種の要因によって変化しうる。ゆえに、水蒸気の発生に伴うセンサ出力値の変動が生じた場合、その変動の大きさや変動の状況は抵抗値R1,R2によってサンプルごとに異なる場合がある。しかし、酸素センサ1を本実施の形態の異常診断回路5に接続し、スイッチ53をONにしている間にセンサ出力値が大きな値を示した(換言すれば、センサ出力値が既知の酸素濃度に対応した値とは大きく異なる値を示した)のであれば、少なくとも漏電が生じたとみなすことができるので、酸素センサ1が異常状態にあると判定してもよい(判定工程)。さらに、スイッチ53をOFFにしている間のセンサ出力値にも注目し、スイッチ53をONにしている間と、OFFにしている間とでセンサ出力値が異なる変動を示すのであれば、酸素センサ1が異常状態にあると判定してもよい。このようにすれば、異常診断の精度をより高めることができる。
【0029】
判定は、利用者がスイッチ53の操作を行い、電圧計52による測定結果がスイッチ53の操作に応じた変動を示すか否かを基準に行えばよい。異常状態の有無の判定は、スイッチ53のON/OFFを1回行い、ONにしている間のセンサ出力値とOFFにしている間のセンサ出力値との変動に基づいて仮判定を行い、複数回分の仮判定の結果をもって、酸素センサ1が異常状態にあるかを判定すれば、判定結果の確実性を高めることができる。もちろん、スイッチ53のON/OFF操作を1回だけ行い、ON時のセンサ出力値とOFFにしている間のセンサ出力値との変動に基づいて酸素センサ1が異常状態にあるかを判定してもよく、このようにすれば、簡易で且つ素早く、判定結果を得ることができる。
【0030】
なお、図5のグラフにおいて、スイッチ53がOFFのときにセンサ出力値が負の値を示したのは、水蒸気の発生によって検出素子12の一方の多孔質電極の周囲の酸素濃度が上昇するため、酸素濃度勾配に応じて固体電解質体内を電流が流れることによる。そして、測定開始から約120秒が経過して以降、センサ出力値が減少したのは、水分が蒸発して、ハウジング11内で漏電を媒介できるだけの水分量がなくなったためと考えられる。
【0031】
このように、異常診断回路5を用いれば酸素センサ1の異常状態の有無を容易に診断することができるが、出力異常を生じた全ての酸素センサ1に対して異常状態を確認することができない場合もある。これは上記実施例2において説明したように、ハウジング11内に浸入した水分が酸素センサ1に出力異常を生じさせても、その後も酸素センサ1が使用され高温環境下に晒されると、水分が蒸発してハウジング11内からフィルタを介して外部に出てしまい、出力異常を再現できなくなることによる。ただし、この異常診断回路5を用いた異常状態の有無の診断を、例えば、出荷後にセンサ出力値の異常(高出力異常)が生じたとして回収されるガスセンサに対して真っ先に実施すれば、ハウジング内で水蒸気化した水分が、ガスセンサの異常状態を確認するための別の試験などにて蒸発してしまうのを抑えられるため、出荷後に水分を介した接続端子間の漏電に伴うセンサ出力値の異常状態を再現させられる可能性が高く、ガスセンサの異常の特定が行える。その意味からも本発明のガスセンサ(酸素センサ1)の異常診断方法は有益である。
【0032】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、各種の変形が可能である。本実施の形態の異常診断方法では、異常診断対象の酸素センサ1を異常診断回路5に接続し、電圧計52の測定結果を参照しつつスイッチ53の操作を行った際のセンサ出力値に基づいて(より具体的には、センサ出力値が、あらかじめ測定された正常時のセンサ出力値とは異なる変動を示した場合に)異常状態にあると判定した。例えば、異常診断回路5にマイクロコンピュータを組み込み、制御プログラムによりスイッチ53のON/OFFが行われるように制御するとともに、電圧計52により測定されたセンサ出力値が変動を示した際の変動幅が所定の閾値よりも大きい場合に、酸素センサ1が異常状態にあると判定してもよい。また、酸素センサ1の異常診断にあたっては、大気雰囲気に限らず、酸素濃度が既知の濃度にある雰囲気に酸素センサ1を晒して実行すればよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ガスセンサ
11 ハウジング
12 検出素子
13 ヒータ
15〜18 接続端子
35〜38 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体および一対の電極から構成されると共に、被検出ガス中の特定ガス成分の濃度に応じたセンサ出力値を出力する検出素子と、当該検出素子を加熱するヒータとを収容するハウジングを有するとともに、外部回路から前記検出素子および前記ヒータへの通電経路の一部を担うリード線の末端に設けられ、当該リード線と前記検出素子および前記ヒータとを接続するための接続端子を、さらに、前記ハウジング内に収容してなるガスセンサが、異常状態にあるか否かを診断するガスセンサの異常診断方法であって、
前記ヒータの電源電位側の通電経路が接続され、基準電位側の通電経路が開回路状態となる第1開回路工程と、
前記ガスセンサを前記特定ガス成分の濃度が既知の濃度にある雰囲気に晒すと共に、前記検出素子の一対の電極のそれぞれに対する通電経路が接続された状態で前記センサ出力値を取得する取得工程と、
前記第1開回路工程の実行中に、前記取得工程にて取得される前記センサ出力値に基づいて、前記ガスセンサが異常状態にあると判定される判定工程と
を有することを特徴とするガスセンサの異常診断方法。
【請求項2】
前記ヒータの電源電位側の通電経路が切断され、基準電位側の通電経路も開回路状態となる第2開回路工程をさらに有し、
前記判定工程では、前記第1開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値と、さらに前記第2開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値との変動状態に基づいて、前記ガスセンサが異常状態にあると判定されることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの異常診断方法。
【請求項3】
前記ヒータの電源電位側の通電経路が切断され、基準電位側の通電経路も開回路状態となる第2開回路工程をさらに有し、
前記判定工程では、前記第1開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値と、さらに前記第2開回路工程の実行中に前記取得工程にて取得される前記センサ出力値との変動状態に基づいて、前記ガスセンサが、仮に、異常状態にあると仮判定されるとともに、当該仮判定が複数回なされた場合に、前記ガスセンサが異常状態にあると判定されることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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