説明

ガスセンサの製造方法

【課題】 本発明はガスセンサの製造方法に関するものであり、初期のセンサ出力がドリフトすることなく長期間安定して正確な一酸化炭素の濃度を検出できるガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のガスセンサの製造方法は、固体電解質1と、一対の電極2a、2bと、ガス選択透過体7と、接合材8と、触媒3からなるガスセンサを燃焼廃ガスに相当する一酸化炭素と、酸素を含む雰囲気に曝露し、エージングするものであり、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は燃焼機器や内燃機関から排出される排ガス中に含まれる可燃性ガス、特に一酸化炭素を検出するガスセンサの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来この種のガスセンサは、特開平10−31003号公報などに記載されているようなものが一般的であった。
【0003】このガスセンサは図6に示すように酸素イオン導電性を有する固体電解質1の一方の面に形成した面積の等しい一対の電極2aおよび2bと、このうち一方の電極2aを覆うように形成した触媒3と、絶縁基板4にヒーター膜5を形成したヒーター6を備えていた。
【0004】上記構成のガスセンサを一酸化炭素などの可燃性ガスが含まれない雰囲気に配置し、固体電解質1をヒーター6により所定の動作温度に加熱すると、電極2aおよび2bの面積は等しいので、それぞれに到達する酸素の量は等しく、電極間に電位差は発生しない。このとき電極2aおよび2b上では式(1)で示した電極反応が生じ、平衡を保っている。
【0005】Oad+2e-←→O2- ・・・(1)
ここでOadは電極2aまたは2b上に吸着した酸素を示す。
【0006】次に、このガスセンサを一酸化炭素が含まれる雰囲気に配置すると、触媒3の形成されていない電極2b上では式(1)で示した電極反応に加え、式(2)で示した電極反応が生じる。
【0007】CO+Oad→CO2 ・・・(2)
一方、触媒3の形成された電極2a上では、一酸化炭素が触媒3上で二酸化炭素に酸化され、電極2aの表面まで到達しないので、式(1)で示した電極反応のみが生じる。したがって電極2aおよび2bに吸着した酸素濃度の間に差が生じ、酸素イオンが電極2aから電極2bへと固体電解質1中を伝導し、電極間に電位差が発生する。この電位差と一酸化炭素の濃度の関係はNernstの式に従い、電位差から被検出ガス中の一酸化炭素の濃度を求めていた。
【0008】
【発明の解決しようとする課題】しかしながら、この種のガスセンサを各種燃焼機器や内燃機関に搭載した場合、初期のセンサ出力が大きくドリフトして、安定するまでに何十分も要するという課題があった。
【0009】これは各種燃焼機器や内燃機関の燃焼排ガスに含まれる一酸化炭素がガスセンサの電極2aおよび2bの表面状態を初期的に変化させるためである。ガスセンサの電極2aおよび2bは通常大気中で焼成され、このとき電極2aおよび2b表面には多量の酸素が吸着する。電極2aおよび2b表面のガスが吸脱着する点をサイトと呼ぶが、サイトに吸着した酸素に気相の一酸化炭素が反応すると、サイトから酸素が脱離し、酸素が脱離したサイトには再び気相の酸素が吸着する。しかし、サイトの一部において酸素よりも一酸化炭素に対して活性なサイトがある場合、酸素が脱離した後に気相の一酸化炭素が吸着し、酸素が吸着できなくなる。したがってこうしたサイトが存在するうちはセンサ出力が安定せず、ドリフトする。
【0010】また、排ガス中には天然ガスの産地にもよるが、微量の二酸化硫黄が含まれ、例えばガス燃焼機器の排ガス中には2ppm程度の二酸化硫黄が含まれる。二酸化硫黄は一酸化炭素や酸素に比べ、白金などの貴金属に吸着するとその吸着力が強い。したがって、二酸化硫黄がガスセンサの電極2aおよび2bの表面に吸着した場合、一酸化炭素や酸素が電極2aおよび2bの表面に吸着できなくる。一旦吸着してしまった二酸化硫黄はなかなか脱離しない。いわゆる電極2aおよび2bが被毒された状態になるので、電極2aおよび2bが正確な一酸化炭素の濃度を検出できないという課題があった。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、固体電解質と、一対の電極と、ガス選択透過体と、接合材と、触媒からなるガスセンサを燃焼排ガスに相当する一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気で300〜500℃に加熱し、エージングするものである。
【0012】上記発明によれば、エージングにより酸素よりも一酸化炭素に対して活性なサイトに一酸化炭素をあらかじめ吸着させ、ガスセンサの電極の初期表面状態を一酸化炭素に対して安定化させることができるので、各種燃焼機器や内燃機関の排ガス中においてセンサ出力がドリフトせず、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、請求項1記載のように酸素イオン導電性を有する固体電解質と、前記固体電解質に形成した一対の電極と、前記一対の電極を覆うように前記固体電解質に積層したガス選択透過体と、前記固体電解質と前記ガス選択透過体を接合する接合材と、前記一対の電極のうち一方の電極を覆うように前記ガス選択透過体に積層した触媒からなるガスセンサを燃焼排ガスに相当する一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気で300〜500℃に加熱し、エージングするものである。
【0014】そして、エージングにより酸素よりも一酸化炭素に対して活性なサイトに一酸化炭素をあらかじめ吸着させ、ガスセンサの電極の初期表面状態を一酸化炭素に対して安定化させることができるので、各種燃焼機器や内燃機関の排ガス中においてセンサ出力がドリフトせず、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0015】そして、実際に測定する各種燃焼機器や内燃機関の燃焼排ガスに相当する一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気でエージングするので、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0016】そして、実際に測定する排ガス雰囲気温度よりも高い300〜500℃まで加熱するので、ガスセンサを短時間でエージングすることができ、初期的安定性と耐久性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0017】そして、固体電解質に接合材を介し、電極に接してガス選択透過体を接合するので、検出に必要な一酸化炭素や酸素はガス選択透過体を通って電極に到達するが、一酸化炭素や酸素に比べ分子サイズが大きく吸着性を有する二酸化硫黄はガス選択透過体を透過し難くなるので、電極が被毒し難くなり、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0018】また、請求項2記載のように、二酸化硫黄が2ppmを越える雰囲気でエージングするものである。
【0019】そして、実際の排ガスよりも濃度の高い2ppmを越える二酸化硫黄に曝露し、エージングするので、ガス選択透過体の細孔に二酸化硫黄が吸着し、細孔径が均一になり、ガス選択透過体の二酸化硫黄に対する初期的安定性が増し、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0020】また、請求項3記載のように、絶縁基板にヒーター膜を形成したヒーターを備え、ヒーター膜に電流を流し、エージングするものである。
【0021】そして、固体電解質を動作温度に加熱するヒーターをあらかじめ使用時より高い電流で通電処理をするので、ヒーター膜の構造が安定化し、固体電解質の加熱を長期間安定して行うことができ、初期的安定性に優れ、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0022】また、請求項4記載のように、固体電解質に接合材を印刷し、前記接合材に含まれる溶剤をガス化させる前にガス選択透過体を積層するものである。
【0023】そして、接合材が十分にガス選択透過体をぬらし、固体電解質とガス選択透過体を確実に接合するので、隙間からの二酸化硫黄の流入がなくなり、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0024】また、請求項5記載のように、固体電解質にガス選択透過体を積層した後、接合材に含まれる溶剤を除去し、前記接合材に含まれるバインダーを300〜600℃でガス化させ、前記接合材に含まれるガラスを800〜1,100℃で溶融させるものである。
【0025】そして、接合材には主成分であるガラスの他に形成する際に必要な溶剤やバインダーが含まれているが、気泡や空隙の原因となる溶剤やバインダーをそれぞれがガス化する温度範囲で確実にガス化した後、ガラスを溶融するので、ガラス中に気泡が残ることがなく、固体電解質とガス選択透過体を確実に接合することができる。
【0026】そして、ガス選択透過体は1,100℃以上の高温で平均細孔径が小さくなり、ガス選択透過性が劣化するが、接合材のガラスを1,100℃以下で溶融するので、ガス選択透過体の平均細孔径を変えることなく優れたガス選択透過性を保持したまま接合することができる。
【0027】また、請求項6記載のように固体電解質にガス選択透過体を積層した後、荷重をかけながら接合材を加熱するものである。
【0028】そして、荷重をかけながら接合材を加熱するので、接合材を介して固体電解質とガス選択透過体をより強固に接合することができる。
【0029】また、請求項7記載のように、接合材に含まれるガラスの転移点が500℃を越えるものである。
【0030】そして、転移点を越えるとガラスの熱膨張係数は大きく変化するが、ガスセンサの動作温度範囲である300〜500℃よりも高い転移点を有するガラスを用いるので、熱膨張率の差により生ずる歪みでガスセンサが破壊されることなく、長期間安定して固体電解質とガス選択透過体の接合を維持することができる。
【0031】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。なお従来例と同一符号のものは同一構造を有し、一部説明を省略する。
【0032】図1は本発明の実施例におけるガスセンサの組立図である。
【0033】図1において1は酸素イオン導電性の固体電解質である。固体電解質1の一方の面に電極2aおよび2bが形成されており、電極2aおよび2bを覆うようにガス選択透過体7が接合材8を介して積層されている。そして、電極2aを覆うようにガス選択透過体7の外側に一酸化炭素を酸化する触媒3が積層されている。また、絶縁基板4はその一方の面に固体電解質1を加熱するためのヒーター膜5が形成され、他方の面で固体電解質1の電極2aおよび2bが形成されていない面と接合されている。
【0034】次に、ガスセンサの製造方法について具体的に説明する。
【0035】固体電解質1としては一般にアルカリ土類元素や希土類元素を添加して安定化させたジルコニアやセリアなどがよく知られているが、本実施例では酸素イオン導電性のよいイットリアを8モル%添加した安定化ジルコニア基板を使用した。
【0036】また、電極2aおよび2bとしては貴金属である白金や、パラジウムおよびロジウムなどが知られているが、本実施例では酸素の吸脱着特性の優れた白金電極を使用した。
【0037】まず、表面を研磨した面積5.0×5.0mm2、板厚0.35mmの固体電解質1をアセトンなどの有機溶剤で超音波をかけながら洗浄、脱脂した。そして、固体電解質1の一方の面に面積がいずれも4.0×1.5mm2である電極2aおよび2bのパターンをスクリーン印刷し、150℃で30分間加熱した。そして、電気炉を用い大気中において1,300℃で1時間焼成した。電極2aおよび2bの膜厚はいずれも約10μmで、多孔質であった。
【0038】次に、ガス選択透過体7の製造方法について説明する。
【0039】ガス選択透体7として面積4×5mm2、板厚0.50mmで、平均細孔径が約1μm以下の多孔性セラミック基板を使用した。しかしこの細孔径ではガスの選択透過性は得られないので、細孔内にゾル−ゲル法により薄膜を形成し、細孔制御を行った。具体的には、多孔性セラミック基板をゾルコート液に浸漬し、一定速度で引き上げた後、焼成した。このとき細孔内でゲル化が起こり、細孔表面に均一な被膜が形成され、浸漬時間および浸漬回数を調節することにより、細孔径が20〜500Åのガス選択透過体7を得た。
【0040】本実施例によればガスは基本的にKnudsen拡散により細孔内部表面を吸着しながら拡散する。このときガスの透過係数比は分子量と絶対温度の積の平方根に反比例する。ところで、排ガス中に含まれる二酸化硫黄は酸素や一酸化炭素に比べ、分子量が大きく、吸着性がある。したがって二酸化硫黄はガス選択透過体7の細孔内を透過し難くなり、電極2aおよび2bに到達する量が減少し、電極2aおよび2bが被毒し難くなる。
【0041】次に、固体電解質1に形成した電極2aおよび2bの周りに熱膨張係数が10×10-6/℃で転移点が500℃を越えるガラスを主成分とする接合材8を印刷し、接合材8に含まれる溶剤がガス化する前に、ガス選択透過体7を積層し150℃で30分間加熱した後、荷重をかけながら焼成炉を用い約400℃で60分間加熱し、950℃で20分間加熱した。
【0042】本実施例は、接合材8に含まれる溶剤がガス化する前にガス選択透過体7を積層することにより、接合材8が十分にガス選択透過体7をぬらすので、固体電解質1とガス選択透過体7を確実に接合することができ、隙間からの二酸化硫黄の流入を防ぎ、ガスセンサとしての耐久性を向上することができる。
【0043】また、接合材8に含まれ気泡や空隙の原因となる溶剤やバインダーを確実にガス化した後、ガラスを溶融するので、ガラス中に気泡が残ることなく、固体電解質1とガス選択透過体7を確実に接合することができる。
【0044】接合材8含まれるバインダーは300〜500℃でガス化する。300℃以下では完全にガス化せず、500℃以上では接合材8の表面がガラスで覆われてしまい、内部にバインダーが残ってしまう。
【0045】また、接合材8に含まれるガラスは800〜1,100℃で溶融するが、800℃以下ではガラスの結晶化が不十分で、白く濁り、1,100℃以上ではガラスのパターンが崩れ、電極2aおよび2b上に流れ込み、センサ出力が大きく変化する。
【0046】また、ガス選択透過体7は1,100℃以上の高温で平均細孔径が小さくなり、ガス選択透過性が変化するが、接合材8のガラスを1,100℃以下で溶融するので、ガス選択透過体7の平均細孔径を変えることなく優れたガス選択透過性を保持したまま接合することができる。
【0047】また、荷重をかけながらガラスを焼成するので、接合材8を介して固体電解質1とガス選択透過体7をより強固に確実に接合することができる。
【0048】また、接合材8に含まれるガラスの熱膨張係数は固体電解質1およびガス選択透過体8のそれと同じで10×10-6/℃で、本発明のガスセンサの動作温度範囲は300〜500℃であるが、この動作温度よりも高い転移点を有するガラスを用いるので、この温度範囲においてガラスの熱膨張率の大きな変化がなく、歪みでガスセンサが破壊されたり、接合面が剥離することなく、接合材8を介しての固体電解質1とガス選択透過体7の接合を長期間にわたって安定に維持することができる。
【0049】次に、電極2aおよび2bのリード取り出し部に直径0.1mmの白金線を白金ペーストで接続し、乾燥後、焼成した。さらに補強するためにその上からガラスペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。
【0050】そして、電極2aを覆うようにガス選択透過体7の外側に触媒3を積層した。次に触媒3の製造方法について説明する。触媒3を担持する担体としてステンレスからなる繊維をシート状にしたものを用い、この繊維にアルミナゾルやコロイダルシリカなどの無機系結合材を担持した後、白金やパラジウムなどの貴金属から成る酸化触媒を担持し、焼成した。
【0051】次にヒーター6の製造方法について説明する。絶縁基板4としては絶縁性に優れたアルミナ基板を使用した。また、ヒーター膜5としてはヒーター特性の優れた白金を使用した。
【0052】まず、表面を研磨した面積5.0×5.0mm2、板厚0.32mmの絶縁基板4をアセトンなどの有機溶剤で超音波をかけながら洗浄、脱脂した。そして、絶縁基板4の一方の面にヒーター膜5のパターンをスクリーン印刷し、150℃で30分間加熱した。そして、電気炉を用い大気中において1,000℃で1時間焼成した。次に、ヒーター膜5のリード取り出し部に直径0.1mmの白金線を白金ペーストで接続し、乾燥後、焼成した。さらに補強するためにその上からガラスペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。
【0053】そして、絶縁基板4のヒーター膜5の形成されていない面と、固体電解質1の電極2aおよび2bが形成されていない面を合わせて無機系接着剤で接合した。
【0054】次に、上記のようにして製造したガスセンサを一酸化炭素が1,000ppmと酸素が20%および二酸化硫黄が20ppm含まれる雰囲気に曝露し、さらに雰囲気の温度を500℃に保持した。またヒーター6に実際使用時に流す電流よりも大きい電流を流した。この状態で約24時間放置し、ガスセンサをエージングした。
【0055】エージングにより酸素よりも一酸化炭素に対して活性なサイトに一酸化炭素をあらかじめ吸着させ、ガスセンサの電極2aおよび2bの初期表面状態を一酸化炭素に対して安定化させることができるので、各種燃焼機器や内燃機関の排ガス中においてセンサ出力がドリフトせず、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0056】また、実際に測定する排ガス中に含まれる成分のガス濃度を考慮した一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気でエージングするので、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0057】また、実際の排ガス温度(50〜250℃)よりも高い温度(300〜500℃)に加熱するので、ガスセンサを短時間でエージングすることができ、初期的安定性と耐久性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0058】また、実際の排ガスよりも濃度の高い二酸化硫黄に曝露し、エージングするので、ガス選択透過体7の細孔に二酸化硫黄が吸着し、細孔径が均一になり、ガス選択透過体7の二酸化硫黄に対する初期的安定性が増し、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0059】また、同時に固体電解質1を動作温度に加熱するヒーター6をあらかじめ使用時より大きい電流で通電処理をするので、初期的安定性に優れ、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0060】このようにエージングをして得られたガスセンサの基本特性を調べるため、ガスセンサを被検出ガス中に配置し、ヒーター6により動作温度450℃まで加熱した。ガスセンサの動作温度は、固体電解質1の酸素イオン導電性が得られ、かつ触媒3の一酸化炭素を酸化するのに十分な触媒活性が得られる温度である。このときの被検出ガスの流量は約185cm/minであった。
【0061】図2にヒーターに電流を流しはじめてからの大気中におけるセンサ出力の経時変化を示す。本実施例を比較するため、一酸化炭素などの含まれる雰囲気であらかじめ前処理を行わず、ヒーターの通電処理も行わなかったガスセンサを同様にして評価を行った。図2より本実施例は、比較例に比べてヒーター通電してからの安定時間が非常に短く、その90%応答時間は90秒以下であった。また比較例のゼロ点が経過時間とともに徐々に減少しているのに対し、本実施例のゼロ点は極めて安定していた。このことは、あらかじめ一酸化炭素や酸素および二酸化硫黄中でエージングすることおよびヒーターの通電処理をすることがガスセンサの初期的安定性を向上させることを示している。
【0062】次に、一酸化炭素の濃度特性を図3に示す。図3よりセンサ出力は一酸化炭素の濃度の対数に比例しており、Nernstの式に従っていることが判った。被検出ガス中に1,000ppmの一酸化炭素が含まれるとき、電位差は約8.5mVであった。このときの一酸化炭素に対する90%応答時間は約40秒であった。
【0063】次に、このガスセンサの二酸化硫黄に対する影響を調べた。図4に二酸化硫黄の濃度特性を示す。比較例として、接合材8を300〜600℃で熱処理する工程を省き、一気に950℃まで昇温し、ガラスを溶融させたガスセンサを同じように評価した。一酸化炭素を1,000ppm含む雰囲気において、比較例のセンサ出力は二酸化硫黄の濃度とともに増加したのに対し、本実施例のセンサ出力の増加はわずかであった。これは比較例は接合材8に含まれるバインダーが完全にガス化せず、固体電解質1とガス選択透過体7の隙間に気泡や空隙が形成され、二酸化硫黄がこの隙間から流入するためにセンサ出力が増加したためである。一方本実施例は接合材8に含まれるバインダーを確実にガス化させてからガラスを溶融したので、隙間から流入する二酸化硫黄を減少させることができた。
【0064】次にこのガスセンサの二酸化硫黄に対する耐久性を調べた。1,000ppmの一酸化炭素と空気の混合ガス中に100ppmの二酸化硫黄を添加したときの電極2aおよび2b間に生じるセンサ出力の経時変化を図5R>5に示した。図5より二酸化硫黄の有無に関わらず、センサ出力はほぼ一定であり、二酸化硫黄による影響はなかった。実際の排ガス中に含まれる二酸化硫黄の濃度は2ppm程度であり、これに対して約50倍の濃度の加速試験において安定したセンサ出力が得られていることから本実施例のガスセンサは二酸化硫黄に対する耐久性に優れていることが判った。
【0065】したがって、このガスセンサを燃焼機器あるいは内燃機関などに搭載し、排気ガス中の一酸化炭素の濃度を監視することにより、一酸化炭素の発生量が許容値を越えたとき強制的に燃焼を停止させたり、一酸化炭素の許容濃度範囲内で燃焼効率が最大となるように制御することができ、燃焼機器あるいは内燃機関などの安全性を向上させるだけでなく、省エネをも図ることができる。
【0066】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように本発明のガスセンサの製造方法によれば、以下の効果が得られる。
【0067】(1)エージングにより酸素よりも一酸化炭素に対して活性なサイトに一酸化炭素をあらかじめ吸着させ、ガスセンサの電極の初期表面状態を一酸化炭素に対して安定化させることができるので、各種燃焼機器や内燃機関の排ガス中においてセンサ出力がドリフトせず、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0068】(2)実際に測定する各種燃焼機器や内燃機関の燃焼排ガスに相当する一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気でエージングするので、初期的安定性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0069】(3)実際に測定する排ガス雰囲気温度よりも高い300〜500℃まで加熱するので、ガスセンサを短時間でエージングすることができ、初期的安定性と耐久性に優れたガスセンサを得ることができる。
【0070】(4)固体電解質に接合材を介し、電極に接してガス選択透過体を接合するので、検出に必要な一酸化炭素や酸素はガス選択透過体を通って電極に到達するが、一酸化炭素や酸素に比べ分子サイズが大きく吸着性を有する二酸化硫黄はガス選択透過体を透過し難くなるので、電極が被毒し難くなり、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0071】(5)実際の排ガスよりも濃度の高い2ppmを越えるの二酸化硫黄に曝露し、エージングするので、ガス選択透過体の細孔に二酸化硫黄が吸着し、初期の細孔分布が均一化し、ガス選択透過体の二酸化硫黄に対する初期的安定性が増し、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0072】(6)固体電解質を動作温度に加熱するヒーターをあらかじめ使用時より高い電流で通電処理をするので、ヒーター膜の構造が安定化し、固体電解質の加熱を長期間安定して行うことができ、初期的安定性に優れ、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0073】(7)接合材が十分にガス選択透過体をぬらし、固体電解質とガス選択透過体を確実に接合するので、隙間からの二酸化硫黄の流入がなくなり、耐久性の高いガスセンサを得ることができる。
【0074】(8)接合材には主成分であるガラスの他に形成する際に必要な溶剤やバインダーが含まれているが、気泡や空隙の原因となる溶剤やバインダーをそれぞれがガス化する温度範囲で確実にガス化した後、ガラスを溶融するので、ガラス中に気泡が残ることがなく、固体電解質とガス選択透過体を確実に接合することができる。
【0075】(9)ガス選択透過体は1,100℃以上の高温で平均細孔径が小さくなり、ガス選択透過性が劣化するが、接合材のガラスを1,100℃以下で溶融するので、ガス選択透過体の平均細孔径を変えることなく優れたガス選択透過性を保持したまま接合することができる。
【0076】(10)荷重をかけながら接合材を加熱するので、接合材を介して固体電解質とガス選択透過体をより強固に接合することができる。
【0077】(11)転移点を越えるとガラスの熱膨張係数は大きく変化するが、ガスセンサの動作温度範囲である300〜500℃よりも高い転移点を有するガラスを用いるので、熱膨張率の差により生ずる歪みでガスセンサが破壊されることなく、長期間安定して固体電解質とガス選択透過体の接合を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるガスセンサの組立図
【図2】同ガスセンサのゼロ点安定性を示す図
【図3】同ガスセンサの一酸化炭素濃度特性を示す図
【図4】同ガスセンサの二酸化硫黄濃度特性を示す図
【図5】同ガスセンサの二酸化硫黄耐久性を示す図
【図6】従来のガスセンサの組立図
【符号の説明】
1 固体電解質
2a、2b 電極
3 触媒
4 絶縁基板
5 ヒーター膜
6 ヒーター
7 ガス選択透過体
8 接合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】酸素イオン導電性を有する固体電解質と、前記固体電解質に形成した一対の電極と、前記一対の電極を覆うように前記固体電解質に積層したガス選択透過体と、前記固体電解質と前記ガス選択透過体を接合する接合材と、前記一対の電極のうち一方の電極を覆うように前記ガス選択透過体に積層した触媒からなるガスセンサを燃焼排ガスに相当する一酸化炭素と、酸素が含まれる雰囲気で300〜500℃に加熱し、エージングするガスセンサの製造方法。
【請求項2】二酸化硫黄が2ppmを越える雰囲気でエージングする請求項1記載のガスセンサの製造方法。
【請求項3】絶縁基板にヒーター膜を形成したヒーターを備え、ヒーター膜に電流を流し、エージングする請求項1記載のガスセンサの製造方法。
【請求項4】固体電解質に接合材を印刷し、前記接合材に含まれる溶剤をガス化させる前にガス選択透過体を積層する請求項1記載のガスセンサの製造方法。
【請求項5】固体電解質にガス選択透過体を積層した後、接合材に含まれる溶剤を除去し、前記接合材に含まれるバインダーを300〜600℃でガス化させ、前記接合材に含まれるガラスを800〜1,100℃で溶融させる請求項1記載のガスセンサの製造方法。
【請求項6】固体電解質にガス選択透過体を積層した後、荷重をかけながら接合材を加熱する請求項1記載のガスセンサの製造方法。
【請求項7】接合材に含まれるガラスの転移点が500℃を越える請求項1記載のガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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