説明

ガスセンサ制御装置及びガスセンサ制御方法

【課題】被測定ガスに含まれる煤等の有機成分によるプロテクタの目詰まりを除去し、検出素子の出力異常を防止したガスセンサ制御装置及びガスセンサ制御方法を提供する。
【解決手段】ポンプセル14を備えた検出素子10と検出素子を加熱するヒータ70とを有するガスセンサ素子200と、検出素子の先端部を取り囲み、通気孔を設けたプロテクタとを備えるガスセンサに接続され、ポンプセルの出力値を取得する出力値取得手段50と、検出素子による被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に、ヒータへ通電してガスセンサ素子を第1温度に維持するヒータ通電制御手段50と、を有するガスセンサ制御装置100であって、さらに出力値がヒータ切替閾値未満か否かを判断する出力値判断手段50を備え、出力値がヒータ切替閾値未満と判断されたとき、ヒータ通電制御手段は、ガスセンサ素子を第1温度よりも高い第2温度に維持するようにヒータを通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質体及び該固体電解質体に設けられた一対の電極を備えるポンプセルを少なくとも有するガスセンサの通電状態を制御するセンサ制御装置及びガスセンサ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサが知られている。又、自動車の排気ガス規制の強化に伴い、排気ガス中の窒素酸化物(NO)量の低減が要求されており、NO濃度を直接測定できるNOセンサが開発されている。
これらのガスセンサは、ジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質の表面に一対の電極を形成してなるセルを1つないし複数備えた検出素子とヒータとを有するガスセンサ素子を有し、セルの1つは酸素ポンプセルである。そして、酸素ポンプセルはガスセンサの測定室に酸素を汲み入れ又は汲み出し、測定室内の酸素濃度を一定に保っている。
又、ガスセンサ素子の検出素子はプロテクタで取り囲まれ、プロテクタには被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔が設けられている。
【0003】
これらのガスセンサとして、2つのセル(酸素濃度検知セル及び酸素ポンプセル)を測定室を挟むように配置し、測定室に拡散抵抗体を介して被測定ガスを導入して被測定ガスに含まれる酸素を検知する全領域空燃比センサ(以下、UEGOセンサともいう)が知られている。さらに、2つのセル(酸素濃度検知セル及び酸素ポンプセル)に加え、NOガス濃度を検知するセルを配置し、合計3つのセルを有するNOセンサも知られている。
【0004】
ところで、ガスセンサを内燃機関の吸気管や排気管に取り付けると、排気ガス(排気ガス再循環装置(EGR)により再循環される排気ガスも含む)中の煤等の有機成分によりプロテクタの通気孔が目詰まりし、プロテクタ内では酸素が欠乏して極端なリッチ雰囲気になり、異常に低いセンサ出力を示して正常な測定が行えなくなる。
このようなことから、EGRが動作しない時のガスセンサのヒータ温度を、EGR動作時のヒータ温度より高くし、プロテクタに堆積される付着物を燃焼させる技術が開発されている(特許文献1参照)。
又、機関始動直後の低温時には排気中の水分が凝縮してガスセンサ素子に付着し、この状態でヒータを加熱すると素子が破損するおそれがある。一方で、水分が蒸発するまでヒータを非通電にすると、排気中の煤がガスセンサ素子に付着する。そこで、排気通路の温度を測定し、その温度が閾値以下であれば排気通路に水分が付着しているとみなし、ヒータを低温で通電させる技術が開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−260152号公報
【特許文献2】特開2003−83152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2記載の技術の場合、EGRの動作の有無や排気通路の温度といった、プロテクタの目詰まりとは直接関係しないパラメータをもとにヒータの制御を行っており、プロテクタの目詰まりを除去する点で有効な手法とは言い難い。
すなわち、本発明は、被測定ガスに含まれる煤等の有機成分によるプロテクタ通気孔の目詰まりを除去し、検出素子の出力異常を防止したガスセンサ制御装置及びガスセンサ制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサ制御装置は、固体電解質体と該固体電解質体の表面に設けられた一対の電極とを有するポンプセルを備えた検出素子と、前記検出素子を加熱するヒータとを有するガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲む主体金具と、前記主体金具の先端に設置されて前記検出素子の先端部を取り囲み、被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔を設けたプロテクタを備えるガスセンサに接続され、前記ポンプセルの出力値を取得する出力値取得手段と、前記検出素子による被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に、前記ヒータへ通電して前記ガスセンサ素子を第1温度に維持するヒータ通電制御手段と、を有するガスセンサ制御装置であって、さらに前記出力値が所定のヒータ切替閾値未満か否かを判断する出力値判断手段を備え、前記出力値判断手段によって前記出力値が前記ヒータ切替閾値未満と判断されたとき、前記ヒータ通電制御手段は、前記ガスセンサ素子を前記第1温度よりも高い第2温度に維持するように前記ヒータを通電する。
このガスセンサ制御装置によれば、プロテクタの目詰まりと直接関係するパラメータであるセンサ出力(ポンプセルの出力値)の低下を検知して、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に維持される第1温度よりも高い第2温度に維持するようにヒータを通電してガスセンサ素子(プロテクタ)を加熱し、プロテクタの通気孔に詰まった有機成分を燃焼させるので、プロテクタの目詰まりを除去して検出素子の出力異常を防止することができる。
【0008】
前記第2温度に維持するように前記ヒータを通電した後に再び前記出力値が前記ヒータ切替閾値未満であると前記出力値判断手段が判断したとき、前記ヒータ通電制御手段は、所定の待ち時間待機してもよい。
このガスセンサ制御装置によれば、ヒータの高温加熱によりプロテクタが高温となってしばらく時間が経過してから、プロテクタの通気孔に付着していた煤等が剥離して目詰まりが除去される場合に、ガスセンサを再使用することができる。
【0009】
さらに、前記第2温度に維持するように前記ヒータを通電した回数をカウントし、当該カウント数が所定の故障閾値を超えたときに故障と判定する故障判定手段を備えてもよい。
このガスセンサ制御装置によれば、 プロテクタの高温加熱を何回か行った後に目詰まりが除去される場合に、ガスセンサを故障と判定せずに再使用することができる。
【0010】
本発明のガスセンサ制御方法は、固体電解質体と該固体電解質体の表面に設けられた一対の電極とを有するポンプセルを備えた検出素子と、前記検出素子を加熱するヒータとを有するガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲む主体金具と、前記主体金具の先端に設置されて前記検出素子の先端部を取り囲み、被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔を設けたプロテクタとを備えるガスセンサの制御方法であって、前記ポンプセルの出力値を取得する出力値取得過程と、前記検出素子による被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に、前記ヒータへ通電して前記ガスセンサ素子を第1温度に維持するヒータ通電制御過程と、前記出力値が所定のヒータ切替閾値未満か否かを判断する出力値判断過程と、前記出力値判断手段によって前記出力値が前記ヒータ切替閾値未満と判断されたとき、前記第1温度より高い第2温度に維持するように前記ヒータを通電するヒータ高温通電制御過程と、を有する。
このガスセンサ制御方法によっても、ヒータの高温加熱によりプロテクタが高温となってしばらく時間が経過してから、プロテクタの通気孔に付着していた煤等が剥離して目詰まりが除去される場合に、ガスセンサを再使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、被測定ガスに含まれる煤等の有機成分によるガスセンサのプロテクタの目詰まりを除去し、検出素子の出力異常を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るガスセンサ制御装置及びガスセンサ素子の構成を示すブロック図である。
【図2】ガスセンサ素子の固体電解質体の内部抵抗とガスセンサ素子の温度との関係を示す図である。
【図3】通電制御処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施態様に係るガスセンサ制御装置100、及びガスセンサ制御装置100に接続されるガスセンサ素子200を示す。ガスセンサ素子200はガスセンサに組み付けられ、内燃機関を備える自動車等の排気ガス系に取り付けられている。なお、本実施例では被測定ガス中の特定ガスとして酸素を例示して説明する。
ガスセンサ制御装置100は、コントローラ50と、アナログ回路であるヒータ制御回路60とを備えている。コントローラ50は、マイクロコンピュータ、メモリ、入出力インタフェース、及びガスセンサ素子200を有するガスセンサの駆動制御を行うための電気回路等を備え、メモリに内蔵された制御プログラムにより所定の制御処理を実行し得るように構成されている。そして、コントローラ50は、ガスセンサの通電制御やヒータの通電制御を行うと共に、ガスセンサから得られる出力に基づき酸素濃度(空燃比)を検出し、その検出結果をもとにしてエンジンの空燃比フィードバック制御を含めたエンジンの駆動等の制御を行う。
【0014】
マイクロコンピュータには、公知の構成のCPU、ROM、及びRAMが搭載されている。CPUは、後述する制御を含む各種制御を実行し、ROMには、これらの各種制御を行うためのプログラムや初期値等が記憶されている。RAMには、プログラムの実行に使用される各種変数やフラグ、カウンタ等が一時的に記憶される。
上記した電気回路は、例えば特定用途向け集積回路であるASICとして構成され、検出素子10の通電制御を行うとともに、検出素子10を介して検出された酸素濃度を表す検出信号をマイクロコンピュータに出力する公知の構成をなしている。詳細は後述するが、この電気回路は、起電力セル24の一対の電極間に生ずる起電力Vsを検出し、あらかじめ定められた基準電圧(例えば450mV)との比較を行う。そして、電気回路は、この比較結果に基づき、酸素ポンプセル14の一対の電極間に流すポンプ電流(Ip電流)の向きや大きさを制御することで、酸素ポンプセル14による間隙20への酸素の汲み入れや間隙20からの酸素の汲み出しが行われるようにする。また、この電気回路は、酸素ポンプセル14に流れるIp電流を電圧変換し、酸素濃度を表す検出信号としてマイクロコンピュータに出力する。さらに、電気回路は、温度に応じて変化する検出素子10(起電力セル24)の内部抵抗Rpvs(インピーダンス)を別途検出し、マイクロコンピュータに出力する。
なお、コントローラ50が、特許請求の範囲の「出力値取得手段」、「ヒータ通電制御手段」、「出力値判断手段」、「故障判定手段」に相当する。
ている。
【0015】
ガスセンサ素子200は細長で長尺な板状をなし、被測定ガス中の酸素濃度を測定する検出素子10と、検出素子10を加熱するヒータ70とを有し、図1は、ガスセンサ素子200の長手方向と直交する断面を示している。ガスセンサ素子200は、自身の径方向周囲を主体金具(図示せず)で取り囲まれ、さらに主体金具の先端には検出素子10の先端部を囲むプロテクタ(図示せず)が設置されてガスセンサ(全領域酸素センサ)を構成している。ガスセンサからは、ガスセンサ素子200が出力する信号を取り出すための信号線が引き出されており、この信号線を介してコントローラ50及びヒータ制御回路60と電気的に接続されている。
又、プロテクタは、被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔を複数設けた有底筒状に形成された外部プロテクタと、外部プロテクタの内側に離間して配置されて同様に通気孔を複数設けた筒状の内部プロテクタとから成る公知の構成をなしている。
【0016】
検出素子10は、酸素ポンプセル14及び起電力セル24の2つのセルを有し、酸素ポンプセル14、多孔質拡散層18、起電力セル24及びアルミナを主体とする補強板30をこの順で積層することにより構成されている。酸素ポンプセル14は、酸素イオン伝導性の固体電解質体である安定化又は部分安定化ジルコニア(ZrO2)と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された多孔質電極12、16とを有している。そして、酸素ポンプセル14は、外部から間隙(測定室)20内に酸素を汲み入れ、あるいは間隙20から外部へ酸素を汲み出す。このとき、被測定ガスに晒される表面側の多孔質電極12は、Ip電流(多孔質電極12、16間に流れる電流、特許請求の範囲の「出力値」に相当)を流すためにIp+電圧が印加されるのでIp+電極として参照する。また裏面側の多孔質電極16は、Ip電流を流すためにIp−電圧が印加されるのでIp−電極として参照する。
なお、多孔質電極12の表面がセラミックスからなる多孔質性の保護層に覆われ、排気ガスに含まれるシリコン等の被毒成分から保護されている。
【0017】
起電力セル24も同様に安定化又は部分安定化ジルコニア(ZrO2 )からなる固体電解質体と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された多孔質電極22、28とを有している。酸素ポンプセル14と起電力セル24との間には、多孔質拡散層18により包囲された間隙(測定室)20が形成されている。そして、間隙20は、多孔質拡散層18を介して被測定ガス雰囲気と連通されている。
間隙20側に配設された多孔質電極22は、起電力セル24の起電力のマイナス電圧が生じるためVs−電極として参照し、また基準酸素室26側に配設された多孔質電極28は、起電力セル24の起電力のプラス電圧が生じるためVs+電極として参照する。基準酸素室26の基準酸素は多孔質電極22から一定量の酸素を多孔質電極28にポンピングすることにより生成する。
なお、多孔質電極12、16が特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0018】
ここで、被測定ガスの酸素濃度と間隙20の酸素濃度との差に応じた酸素が、多孔質拡散層18を介して間隙20側に拡散して行く。間隙20内の雰囲気が理論空燃比に保たれるとき、ほぼ酸素濃度が一定に保たれている基準酸素室26との間の酸素濃度差により、起電力セル24のVs+電極28とVs−電極22との間には、約450mVの電位差が生じる。このため、コントローラ50は、酸素ポンプセル14に流す電流Ipを、上記起電力セル24の起電圧Vsが450mVとなるように調整することで、間隙20への酸素の汲み入れや間隙20からの酸素の汲み出しを調整して間隙20内の雰囲気を理論空燃比に保ち、この理論空燃比に保つための酸素ポンプセルのポンプ電流Ipに基づき、被測定ガス中の酸素濃度を測定する。
具体的には、間隙20内に流入した被測定ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであった場合、排気ガス中の酸素濃度が薄いため、外部から間隙20内に酸素を汲み入れるように、ポンプ電流Ipが制御される。一方、間隙20内に流入した排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンであった場合、排気ガス中には多くの酸素が存在するため、間隙20から外部へ酸素を汲み出すように、ポンプ電流Ipが制御される。
【0019】
一方、ヒータ70は、セラミック系接合剤を介して検出素子10の固体電解質体14側の外層に取り付けられている。ヒータ70は、絶縁材料であるアルミナ等のセラミックの内部に、白金を主体とする発熱抵抗体であるヒータ配線72を埋設してなる。
ここで、ジルコニアからなる固体電解質体は、常温では絶縁性を示すが高温環境下(例えば、750℃以上)では活性化されて酸素イオン導電性を示すことが知られている。そこで、ヒータ70により、固体電解質体14,24を加熱して活性化させ、酸素ポンプセル14による酸素の汲み入れ及び汲み出し、並びに起電力セル24による酸素濃度の測定といった、検出素子10による被測定ガス中の酸素濃度の検出動作を行えるようにしている。具体的には、コントローラ50により検出素子10の温度を測定し、ヒータ制御回路60はこの温度が目標値を保つようにヒータ70へ電力を供給する。
【0020】
なお、公知のように固体電解質体の内部抵抗は温度によって変化するので、コントローラ50は固体電解質体の内部抵抗、即ち起電力セル24の内部抵抗Rpvsを測定し、内部抵抗Rpvsと検出素子10の温度との関係(例えば、図2)から検出素子10(ガスセンサ素子200)の温度を算出する。
又、内部抵抗Rpvs は次のように測定することができる。まず、起電力セル24に所定方向の測定電流(既知)を所定期間供給し、この測定電流の供給前後に発生する起電力セル24の電位差ΔVsを測定する。そして、この測定した電位差ΔVsを既知である測定電流値で割ることにより、起電力セル24の内部抵抗Rpvs を算出する。
【0021】
そして、ヒータ制御回路60がヒータ70のヒータ配線72の両端に接続され、ヒータ配線72の一端をバッテリ(図示せず)に電気的に接続させると共に、ヒータ配線72の他端をグランド電位に電気的に接続させる構成をなしている。このヒータ制御回路60は、バッテリとヒータ配線72の一端との間に配置されると共に、ヒータ配線72への通電をPWM制御(パルス幅変調制御)するためのスイッチング素子(図示せず)を備えている。そして、ヒータ配線72の両端に印加する電圧の電圧波形のデューティ比はコントローラ50において算出される。
具体的なデューティ比の算出にあたっては、コントローラ50は、内部抵抗Rpvsが目標の抵抗値(以下、適宜「目標Rpvs」と称する)となるようにデューティ比を演算し、スイッチング素子のオン、オフ制御を行うことで、デューティ比に応じた電圧(実効電圧)がヒータ配線72に印加され、ヒータ70の通電制御が行われる。例えば、図2の例では、目標Rpvsが75Ω(ガスセンサ素子200の温度が800℃に相当)に設定され、この設定値になるようにヒータ配線72に電圧が印加される。この目標Rpvsのもとで、上記した検出素子10による被測定ガス中の酸素濃度の検出動作が行われることとなる。なお、目標Rpvsが75Ω時のガスセンサ素子200の温度が特許請求の範囲の「第1温度」に相当する。
なお、本発明において、内部抵抗Rpvsと検出素子10の温度が図2の具体的な値に限定されないことはいうまでもない。
【0022】
次に、本発明の特徴部分である、プロテクタの目詰まりを除去するためのコントローラ50によるヒータ通電制御処理について、図3を参照して説明する。図3は、ヒータ通電制御処理のフローチャートである。
ここで、既に述べたように、排気ガス(排気ガス再循環装置(EGR)により再循環される排気ガスも含む)中の煤等の有機成分がプロテクタの通気孔を目詰まりさせると、プロテクタ内の検出素子10の雰囲気の酸素が欠乏して極端なリッチ雰囲気になり、異常に低いセンサ出力を示す。
このようなことから、本発明では、センサ出力(酸素ポンプセル14のIp電流)が所定のヒータ切替閾値以下になったとき、センサ出力が低くなってプロテクタの通気孔が目詰まりしたと判断している。
【0023】
図3に示すように、ヒータ通電制御処理を実行するプログラムは、自動車がキーオンされてコントローラ50の駆動が開始すると、内燃機関を制御するための他のプログラムと共に、CPUによって実行される。まず、イニシャライズ(初期化)が実施され、RAM上にヒータ通電制御プログラムで使用されるフラグや変数、カウンタ等の領域の確保、リセット、初期値の設定等が行われる。また、経過時間に応じた判断処理において利用されるカウンタがスタートされる。さらに、後述するガスセンサの故障判定処理を行うために用い、プロテクタの目詰まりを除去するために第2温度に維持するようにヒータ70を通電した回数を示すカウンタ(高温通電回数カウンタ)nを0にリセットする。
【0024】
次に、コントローラ50は、酸素ポンプセル14のIp電流が所定のヒータ切替閾値A未満であるか否かを判断する(ステップS2)。このヒータ切替閾値Aは、プロテクタが目詰まりしていない通常の状態での検出動作で検出されるIp電流の最小値よりも小さい値とする。
ステップS2で「Yes」の場合、コントローラ50は、プロテクタが目詰まりしてセンサ出力が異常を示したとみなし、第1温度よりも高い第2温度に維持するようにヒータの高温加熱を開始する(ステップS4)。例えば図2の例では、検出動作時の目標Rpvsは75Ω(ガスセンサ素子200の温度が第1温度の800℃に相当)であるのに対し、目標Rpvsは50Ωに切替設定され、このときのガスセンサ素子200の温度は900℃(第2温度に相当)と、第1温度の800℃を超える高温になる。そして、ステップS4が続いている間、ガスセンサ素子200及びこれを取り囲むプロテクタが高温となり、プロテクタの通気孔に詰まった煤等の付着物が燃焼し、目詰まりが除去される。
一方、ステップS2で「No」の場合、コントローラ50は、高温通電回数カウンタnを0にリセットし(ステップS20)、通常制御へ移行する(ステップS22)。通常制御では、ガスセンサ素子20の温度が第1温度を維持するようにヒータ70が制御される。
【0025】
ステップS4に続いて、コントローラ50は、ステップS4の開始時を基準とした時間tが、ヒータの高温加熱を続ける時間として設定された継続時間B(例えば、5分間)を過ぎたか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6で「No」であれば、コントローラ50はS6に戻ってヒータの高温加熱を継続する。ステップS6で「Yes」であれば、コントローラ50は、ヒータの高温加熱を終了する(ステップS8)。
ステップS8に続いて、ステップS10でコントローラ50は、酸素ポンプセル14のIp電流が所定のヒータ切替閾値A未満であるか否かを再び判断する(ステップS10)。ステップS10で「No」であれば、コントローラ50は、プロテクタの目詰まりが除去されたとみなし、ステップS20に移行する。
【0026】
一方、ステップS10で「Yes」であれば、コントローラ50は、プロテクタの目詰まりが除去されなかったとみなし、ステップS10の開始時を基準とした時間tが、設定された待ち時間Cを過ぎたか否かを判定する(ステップS12)。この待ち時間Cを設けた理由は、ヒータの高温加熱によりプロテクタが高温となってしばらく時間が経過してから、プロテクタの通気孔に付着していた煤等が剥離して目詰まりが除去されることがあるからである。
そして、ステップS12で「No」であれば、コントローラ50はS12に戻って待ち時間Cの待機を継続する。ステップS12で「Yes」であれば、コントローラ50は、酸素ポンプセル14のIp電流が所定の閾値A未満であるか否かを再び判断する(ステップS13)。
【0027】
ステップS13で「No」であれば、コントローラ50は、プロテクタの目詰まりが除去されたとみなし、ステップS20に移行する。
一方、ステップS13で「Yes」であれば、コントローラ50は、プロテクタの目詰まりが除去されなかったとみなし、高温通電回数カウンタnをインクリメントし(ステップS14)、
その後にn>5か否かを判定する(ステップS16)。ステップS16の「5」は故障閾値であり、S16でYESであれば、コントローラ50は高温通電を所定回数(5回)繰り返してもプロテクタの目詰まりが除去されなかったとみなして、ガスセンサが故障したと判定する(ステップS18)。ステップS18では、例えばセンサ故障ランプを点灯させる等の処理を行う。
一方、ステップS18でNOであれば、故障であると判定せずにS2へ戻る。
【0028】
なお、特許請求の範囲の「出力値取得過程」は、ガスセンサが駆動している間、一定タイミングで実行される。又、「ヒータ通電制御過程」は、検出素子10による被測定ガス中の酸素濃度の検出動作中、常に実行される。そして、ステップS2、S4がそれぞれ特許請求の範囲の「出力値判断過程」、「ヒータ高温通電制御過程」に相当する。
【0029】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るガスセンサ制御装置100によれば、プロテクタの目詰まりと直接関係するパラメータであるセンサ出力(酸素ポンプセル14のIp電流)の低下を検知して、第1温度よりも高い第2温度に維持するようにヒータを通電してガスセンサ素子(プロテクタ)を加熱し、プロテクタの通気孔に詰まった有機成分を燃焼させるので、プロテクタの目詰まりを除去して検出素子の出力異常を防止することができる。
又、ステップS12で待ち時間Cを設けると、ヒータの高温加熱によりプロテクタが高温となってしばらく時間が経過してから、プロテクタの通気孔に付着していた煤等が剥離して目詰まりが除去される場合に、ガスセンサを再使用することができる。
又、ステップS16で高温通電回数カウンタと故障閾値を比較して故障判定を行うと、プロテクタの高温加熱を何回か行った後に目詰まりが除去される場合に、ガスセンサを故障と判定せずに再使用することができる。
【0030】
なお、本発明は上記各実施の形態に限られず、各種の変形が可能なことは言うまでもない。本実施の形態の全領域空燃比センサ10は、酸素ポンプセル14と、酸素濃度検出セルである起電力セル24とを備えた2セル式のガスセンサであるが、その他のタイプのガスセンサ(1セルタイプの酸素センサや3セルタイプのNOxセンサなど)に対し、本発明を適用してもよい。
プロテクタについても、二重プロテクタに限らず、一重のプロテクタであってもよい。
また、本実施の形態ではASICをコントローラ50に組み込んだ構成としたが、コントローラ50とは別体にセンサ駆動回路を設けてもよい。ヒータ制御回路60についても同様であり、コントローラ50に組み込んでもよいし、あるいはヒータ制御装置として単体に設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10 検出素子
14 ポンプセル(固体電解質体)
12,16 一対の電極
50 コントローラ(出力値取得手段、ヒータ通電制御手段、出力値判断手段、故障判定手段)
60 ヒータ制御回路
70 ヒータ
100 センサ制御装置
200 ガスセンサ素子
C 待ち時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と該固体電解質体の表面に設けられた一対の電極とを有するポンプセルを備えた検出素子と、前記検出素子を加熱するヒータとを有するガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲む主体金具と、前記主体金具の先端に設置されて前記検出素子の先端部を取り囲み、被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔を設けたプロテクタとを備えるガスセンサに接続され、
前記ポンプセルの出力値を取得する出力値取得手段と、
前記検出素子による被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に、前記ヒータへ通電して前記ガスセンサ素子を第1温度に維持するヒータ通電制御手段と、
を有するガスセンサ制御装置であって、
さらに前記出力値が所定のヒータ切替閾値未満か否かを判断する出力値判断手段を備え、
前記出力値判断手段によって前記出力値が前記ヒータ切替閾値未満と判断されたとき、前記ヒータ通電制御手段は、前記ガスセンサ素子を前記第1温度よりも高い第2温度に維持するように前記ヒータを通電するガスセンサ制御装置。
【請求項2】
前記第2温度に維持するように前記ヒータを通電した後に再び前記出力値が前記閾値未満であると前記出力値判断手段が判断したとき、前記ヒータ通電制御手段は、所定の待ち時間待機する請求項1記載のガスセンサ制御装置。
【請求項3】
さらに、前記第2温度に維持するように前記ヒータを通電した回数をカウントし、当該カウント数が所定の故障閾値を超えたときに故障と判定する故障判定手段を備えた請求項1又は2記載のガスセンサ制御装置。
【請求項4】
固体電解質体と該固体電解質体の表面に設けられた一対の電極とを有するポンプセルを備えた検出素子と、前記検出素子を加熱するヒータとを有するガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子の径方向周囲を取り囲む主体金具と、前記主体金具の先端に設置されて前記検出素子の先端部を取り囲み、被測定ガスを自身の内部に出入させる通気孔を設けたプロテクタとを備えるガスセンサの制御方法であって、
前記ポンプセルの出力値を取得する出力値取得過程と、
前記検出素子による被測定ガス中の特定ガス濃度の検出時に、前記ヒータへ通電して前記ガスセンサ素子を第1温度に維持するヒータ通電制御過程と、
前記出力値が所定のヒータ切替閾値未満か否かを判断する出力値判断過程と、
前記出力値判断手段によって前記出力値が前記閾値未満と判断されたとき、前記第1温度より高い第2温度に維持するように前記ヒータを通電するヒータ高温通電制御過程と、を有するガスセンサ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64604(P2013−64604A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201847(P2011−201847)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】