説明

ガスセンサ

【課題】従来よりも単純な構造でガス検出部への水分の浸入を防止して水による異常作動を防ぐことができるガスセンサを提供すること。
【解決手段】外部からガス導入用開口部2Bを介して被検知ガスが導き入れられるガス検出室2Aを有するセンサ筐体2と、ガス検出室2A内に配置され、被検知ガスの濃度を検出するためのセンサ素子4と、ガス導入用開口部2Bに設けられたフィルタ6とを備え、フィルタ6は、防爆性および防水性を有するフィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、特に水による異常作動を防止するガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のガスセンサには、ガス検出部を収容する収容室内に液体状の水が浸入するのを防止する撥水フィルタと、収容室を加熱してガス検出部における結露を防止するヒータが備えられている構造を持つもの(特許文献1参照)や、焼結フィルタ及び撥水フィルタを重ねて設置すると共に、同様に収容室を加熱するヒータを持った構造を持つもの(特許文献2参照)等がある。
【特許文献1】特開2007−040757号公報
【特許文献2】特開2006−284498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のガスセンサの構造では、次のような問題がある。
(1)撥水フィルタとしてたとえばテフロン(登録商標)系材料による防水材料を用いた場合には、水の回り込みによる内部浸入がある。
(2)各フィルタ材料を重ねて設置すると、中間層に水分が滞留しやすいという問題がある。
(3)構成部品が多くセンサが大きくなりがちである。また、加熱機構の消費電力も大きい。
(4)防爆用金網に結露水が膜状に付着した場合、ガス検出部へのガス透過が阻害される。
【0004】
そこで本発明は、上述した課題に鑑み、従来よりも単純な構造でガス検出部への水分の浸入を防止して水による異常作動を防ぐことができるガスセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明のガスセンサは、外部からガス導入用開口部2Bを介して被検知ガスが導き入れられるガス検出室2Aを有するセンサ筐体2と、前記ガス検出室2A内に配置され、被検知ガスの濃度を検出するためのセンサ素子4と、前記ガス導入用開口部2Bに設けられたフィルタ6とを備え、前記フィルタ6は、防爆性および防水性を有するフィルタであることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の発明は、請求項1記載のガスセンサにおいて、前記フィルタ6は、メッシュ部材7と、前記メッシュ部材7の表面に成膜された疎水性膜8とからなることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項3記載の発明は、請求項1記載のガスセンサにおいて、前記フィルタ6は、メッシュ部材7と、前記メッシュ部材7の表面に成膜された親水性膜8とからなることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、前記フィルタ6に固定され、前記フィルタ6を水の蒸発温度以上に加熱するヒータ12をさらに備えていることを特徴とする。
【0009】
なお、上述の課題を解決するための手段の説明における符号は、以下の発明の実施の形態の説明における構成要素の参照符号に対応しているが、これらは、特許請求の範囲の解釈を限定するものではない。
【0010】
また、請求項における「防水性」、「疎水性」および「親水性」の意味は、以下の通りとする。すなわち、「防水性」とは、水が内部に入らないことを意味し、「疎水性」とは、物質の表面が水をはじく(水滴の接触角が大きい)性質・材質を意味し、「親水性」とは、表面に薄い水の被膜ができる(水滴の接触角が小さい)性質を意味し、ここでは、いずれも、センサ筐体2に水が付着してもガス検出室2Aへの浸入を食い止める性質をフィルタ6が有することを示している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、センサ素子を収容したガス検出室と外部との間に防爆性および防水性を有する1個のフィルタを備えているので、単純な構造でガス検出部(センサ素子)への水分の浸入を防止して水による異常作動を防ぐことができる。また、−30℃〜+120℃の環境で使用可能となる。また、湿潤雰囲気で連続しようした際でも、水分によるセンサ出力の誤動作がほとんど起きないガスセンサを得ることができる。また、ガス流路からガス検出部までの経路が短く、単純な構造であるため、小型で高速応答が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のガスセンサの実施の形態について図面を参照して説明する。なお、この実施の形態では、本発明のガスセンサとして、FC(燃料電池)搭載車両用の水素センサに適用した場合について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサの構成を示す構成図である。ガスセンサ1は、その内部空間がガス検出室2Aとなる円筒状のセンサ筐体2の一方の開口に嵌合されたベース部3に、水素ガス検出素子としてのセンサ素子4が搭載され、このセンサ素子4と電気的に接続されたリードピン5が、ベース部3を貫通して備えられている。
【0014】
センサ筐体2は、その内側のほぼ中間に突出した部分で形成された段部2aと、段部2aの根本部分につながる小径部2bと、小径部2bからセンサ筐体2の他方の開口(ガス導入用開口部)2Bに至って形成された大径部2cとを有する。
【0015】
センサ筐体2の段部2aには、防爆性および防水性を有するフィルタ6が配置されている。フィルタ6は、小径部2bに圧入されるドーナツ状のフィルタ抑え9と、大径部2cに圧入されるドーナツ状のフィルタ抑え10とで、段部2aに押し付けられて固定されている。
【0016】
上述の構成のガスセンサ1のセンサ筐体2は、燃料電池から排出される排ガスが流れる配管20に設けられた円筒状のセンサ取付部20aに装着され固定されている。
【0017】
フィルタ6は、熱伝導性のメッシュ部材としての防爆用の金網7と、この金網7の両面に成膜されたゼオライト8とからなる。金網7は、SUS(ステンレススチール)製金網であり、たとえば SUS304 100メッシュ品が使用されている。ゼオライト8は、たとえば、疎水性の性質を持ったゼオライトであるシリカライトが用いられ、金網7を基材として水熱合成などの成膜方法で成膜される。これにより、金網7の空隙部(穴)は、ゼオライト8によって完全に被覆される。
【0018】
図2は、金網7にゼオライト8を成膜したフィルタ6を示し、(A)は拡大図、(B)は(A)における白ヌキ四角で囲んだ部分のさらなる拡大図である。図2(A)においては、白ヌキ楕円で囲んだ部分に、露出した金網7が見えている。図2から、金網7のメッシュの細孔部もゼオライト8によって被覆されていることが分かる。ゼオライト8は、疎水性かつ結晶性多孔質の材料であるから、排ガスに含まれる水素は、その細孔を通過することができるが、排ガスに含まれる水滴は、ゼオライト8の疎水性により通過できない。したがって、金網7に疎水性膜であるゼオライト8を成膜したフィルタ6は、防爆性と防水性を持つフィルタとして作用する。
【0019】
センサ素子4は、リードピン5を介してガス濃度検出回路(図示しない)に電気的に接続されていると共に、フィルタ6を介して配管20のガス流路に連通するガス検出室に露出されている。センサ素子4は、白金等で構成された測温抵抗体であり、通電電流により自己発熱する。
【0020】
上述の構成のガスセンサ1において、センサ素子4は、配管20からフィルタ6のゼオライト8および金網7を通過した排ガス中に水素ガス(被検知ガス)が存在する場合、水素ガスの濃度に応じて熱伝導率が変わり、自己発熱した測温抵抗体から奪われる熱量が変化する。センサ素子4の測温抵抗体から熱が奪われることにより、温度が下がり、抵抗値も下がる。ガス濃度検出回路は、センサ素子4の測温抵抗体の抵抗値の変化を計測することにより、水素ガスの濃度を検出することができる。
【0021】
また、排ガス中に含まれる水滴は、フィルタ6のゼオライト8によってガス検出室内への浸入が妨げられ、センサ素子4の水による異常作動を引き起こすことはない。
【0022】
このように、本発明のガスセンサによれば、金網7にゼオライト8が成膜されたフィルタ6を備えているので、防爆性および防水性を有する1個のフィルタ6という単純な構造で、ガス検出部(センサ素子)への水分の浸入を防止して水による異常作動を防ぐことができる。また、本発明のガスセンサは、−30℃〜+120℃の環境で使用可能となる。また、湿潤雰囲気で連続使用した際でも、水分によるセンサ出力の誤動作がほとんど起きないガスセンサを得ることができる。また、ガス流路からガス検出部までの経路が短く、単純な構造であるため、小型で高速応答が可能である。
【0023】
(第2の実施形態)本発明の第2の実施形態では、上述の第1の実施形態の構成に加えて、フィルタ6を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする。
【0024】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの構成を示す構成図である。図3において、フィルタ6のゼオライト8の表面には、ヒータ12が、熱伝導率の高い熱伝導性樹脂11で接着、固定されている。熱伝導性樹脂11は、たとえば、株式会社スリーボンドから市販されている低硬化収縮一液性エポキシ配合樹脂「ThreeBond 2270C」等が使用される。また、ヒータ12は、自己発熱すると共にその抵抗値が温度により変化する白金等の測温抵抗体で構成されている。
【0025】
図3に示すように、ヒータ12は、ヒータ制御手段としての定温度制御回路13に接続されており、その制御により、発熱温度が水の蒸発温度すなわち100℃、またはそれ以上の一定温度になるように加熱される。
【0026】
図4に示すように、定温度制御回路13は、ヒータ12の抵抗Rhと共にブリッジを構成する抵抗R1,R2,Rtと、反転入力端子および非反転入力端子がブリッジに接続されたオペアンプOPとを有するヒータ抵抗測定手段としてのヒータ抵抗測定回路MCと、オペアンプOPの出力端子に抵抗R3を介してベースが接続され、電源Vccにエミッタが接続され、ブリッジにコレクタが接続されたヒータ電流制御手段としてのpnp型トランジスタQ1とから構成されている。定温度制御回路13は、ブリッジにより、予め設定された、水の蒸発温度以上の一定温度時に、ヒータ12の抵抗値Rhが(Rt×R2/R1)に等しい一定値になるように、ヒータ12に流れるヒータ電流を制御する。
【0027】
このような構成において、フィルタ6は、センサ素子4の動作時、ヒータ12により水の蒸発温度100℃以上の一定温度に加熱されるため、フィルタ6のゼオライト8に付着した水滴は短時間で乾燥する。
【0028】
このように、第2の実施形態によれば、定温度制御回路13の制御によるヒータ12の発熱によって、フィルタ6を水の蒸発温度以上の一定温度に加熱することができ、センサ休止時にフィルタ6に付着した水滴を、少ない消費電力で短時間に乾燥させることができるため、ゼオライト8による水分除去効果が長期間にわたって持続するため、ヒータ12がない第1の実施形態よりも水分除去効果が高くなる。
【0029】
以上の通り、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、種々の変形、応用が可能である。
【0030】
例えば、上述の実施形態では、ゼオライト8として、疎水性の性質を持ったゼオライトであるシリカライトが用いられているが、これに代えて、親水性の性質を持ったLTA(Linde Type A)型ゼオライト等の親水性膜を成膜しても良い。この場合も、排ガスに含まれる水素は、金網7に成膜されたLTA型ゼオライトの細孔を通過することができるが、排ガスに含まれる水滴は、LTA型ゼオライトの親水性により通過できない。したがって、金網7の表面に親水性膜であるLTA型ゼオライトを成膜したフィルタ6は、防爆性と防水性を持つフィルタとして作用する。
【0031】
また、上述の実施形態では、水素センサに適用した場合について説明したが、本発明は、これに限らず、水分の浸入とガス検出部への接触が問題とされるVOCセンサやCOセンサ等の他のガスセンサにも適用可能である。また、本発明は、FC(燃料電池)搭載車両の配管中水素濃度を計測する水素センサのみならず、多量の水蒸気が発生する定置式を含む他の燃料電池システムにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサの構成を示す略断面図である。(第1の実施形態)
【図2】図1のガスセンサにおける金網にゼオライトを成膜したフィルタを示し、(A)は拡大図、(B)は(A)における白ヌキ四角で囲んだ部分のさらなる拡大図である。(第1の実施形態)
【図3】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの構成を示す図である。(第2の実施形態)
【図4】図3における定温度制御回路の構成を示す回路図である。(第2の実施形態)
【符号の説明】
【0033】
1 ガスセンサ
2 センサ筐体
2A ガス検出室
2B ガス導入用開口部
4 センサ素子
6 フィルタ
7 金網(メッシュ部材)
8 ゼオライト(疎水性膜、親水性膜)
12 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からガス導入用開口部を介して被検知ガスが導き入れられるガス検出室を有するセンサ筐体と、
前記ガス検出室内に配置され、被検知ガスの濃度を検出するためのセンサ素子と、
前記ガス導入用開口部に設けられたフィルタとを備え、
前記フィルタは、防爆性および防水性を有するフィルタである
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記フィルタは、メッシュ部材と、前記メッシュ部材の表面に成膜された疎水性膜とからなることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記フィルタは、メッシュ部材と、前記メッシュ部材の表面に成膜された親水性膜とからなることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記フィルタに固定され、前記フィルタを水の蒸発温度以上に加熱するヒータをさらに備えていることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−91305(P2010−91305A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259075(P2008−259075)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願[平成19年度、経済産業省(地域新生コンソーシアム研究開発事業)/「燃料電池自動車用MEMS湿潤水素センサシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願]
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391002203)新東北化学工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】