説明

ガスタービンエンジンの燃焼装置

【課題】燃料流量制御が簡素な構造で安価に行えるガスタービンエンジンの燃焼装置を提供する。
【解決手段】複合燃焼方式の燃料噴射構造を有する燃焼装置であって、拡散燃焼領域を形成する燃料噴霧部3と、予混合気燃焼領域を形成する予混合気供給部4とを有する複数の燃料噴射ユニット2と、燃料噴霧部3および予混合気供給部4に燃料を供給する燃料供給部70とを備える。燃料供給部70は、燃料噴霧部3と予混合気供給部4にそれぞれ燃料を供給するパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65と、パイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65に燃料を供給する集合燃料通路63と、集合燃料通路63とパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65との分岐部に設けられて燃料圧力に応じてパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65への燃料分配量を自動調整する燃料分配器66とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散燃焼方式と希薄予混合気燃焼方式の2系統の燃焼方式を組み合わせた複合燃焼方式の燃料噴射構造を有するガスタービンエンジンの燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンにおいては、環境保全への配慮から、燃焼により排出される排ガスの組成に関して厳しい環境基準が設けられており、窒素酸化物(以下、N0X という)などの有害物質を低減することが求められている。一方、大型のガスタービンや航空機用エンジンでは、低燃費化および高出力化の要請から、圧力比が高く設定される傾向にあり、それに伴って燃焼装置入口における高温・高圧化が進み、この燃焼装置の入口温度の高温化によって燃焼温度が高くなり易いことから、N0X をむしろ増加させる要因になることが懸念されている。
【0003】
そこで、近年では、N0X 発生量を効果的に低減できる希薄予混合気燃焼方式と、着火性能および保炎性能に優れた拡散燃焼方式の2系統の燃焼方式を組み合わせた複合燃焼方式が提案されている。希薄予混合気燃焼方式は、空気と燃料を予め混合して燃料濃度を均一化した混合気として燃焼させるため、局所的に火炎温度が高温となる燃焼領域が存在せず、かつ燃料の希薄化により全体的にも火炎温度を低くできることから、N0X 発生量を効果的に低減できる利点がある反面、大量の空気と燃料とを均一に混合することから、燃焼領域の局所燃料濃度が非常に薄くなってしまい、特に低負荷時での燃焼安定性が低下する課題がある。一方、拡散燃焼方式は、燃料と空気とを拡散・混合しながら燃焼させることから、低負荷時にも吹き消えが起こり難く、保炎性能が優れている利点がある。したがって、複合燃焼方式は、始動時および低負荷時に拡散燃焼領域により燃焼安定性を保持できるとともに、高負荷時に希薄予混合気燃焼領域によりN0X 発生量の低減を図れる。
【0004】
前記複合燃焼方式による燃焼装置は、燃焼室内に拡散燃焼方式による拡散燃焼領域を形成するように燃料を噴霧する燃料噴霧部と、前記燃焼室内に希薄予混合気燃焼方式による予混合燃焼領域を形成するように燃料と空気の予混合気を供給する予混合気供給部とを備えている。この燃焼装置は、始動時や低負荷時に燃料噴霧部のみから燃料を供給し、高負荷時に燃料噴霧部に加えて予混合気供給部からも燃料を供給するようになっている。その場合、低負荷時から高負荷時に移行する際、燃料噴霧部と予混合気供給部への燃料分配率を1対0から例えば1対9まで、安定燃焼性と低NOx化にとって適切な値を保ちながら変化させるよう制御する必要がある。
【0005】
このような複雑な制御を行うために、従来、燃料噴霧部へ燃料を供給するパイロット燃料通路と予混合気供給部へ燃料を供給するメイン燃料通路のそれぞれに流量制御弁を設け、これらをコントローラで制御していた(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−52124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように2つの燃料通路のそれぞれに流量制御弁を設けると、これら流量制御弁とコントローラがエンジン全体の重量およびコストに占める割合が、航空機用と産業用、あるいは大型機用と小型機用とで異なるものの、特に小型の航空機用ガスタービンにおいて大きくなり、その影響は無視できない。このことが、追加の燃料制御システム(流量制御弁やコントローラ)を必要とする複合燃焼方式を小型の航空機用ガスタービンに適用する妨げとなっていた。
【0008】
本発明は、拡散燃焼方式および希薄予混合気燃焼方式の2系統の燃焼方式を組み合わせた複合燃焼方式において、燃料流量制御を簡素な構造でかつ安価に実現できるガスタービンエンジンの燃焼装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るガスタービンエンジンの燃焼装置は、燃焼室内に拡散燃焼領域を形成するように燃料を噴霧する燃料噴霧部と、前記燃焼室内に予混合気燃焼領域を形成するように燃料と空気の予混合気を供給する予混合気供給部とを有する複数の燃料噴射ユニットと、前記燃料噴霧部および予混合気供給部に燃料を供給する燃料供給部とを備える。前記燃料供給部は、前記燃料噴霧部と予混合気供給部にそれぞれ燃料を供給するパイロット燃料通路およびメイン燃料通路と、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路に燃料を供給する集合燃料通路と、前記集合燃料通路とパイロット燃料通路およびメイン燃料通路との分岐部に設けられて燃料圧力に応じてパイロット燃料通路およびメイン燃料通路への燃料分配量を自動調整する燃料分配器とを有する。
【0010】
この構成によれば、集合燃料通路とパイロット燃料通路およびメイン燃料通路との分岐部に燃料分配器を設けるのみでパイロット燃料通路およびメイン燃料通路への燃料分配量が燃料圧力に応じて自動的に調整される。したがって、パイロット燃料用とメイン燃料用にそれぞれの流量調整弁を設ける必要がなくなるから、構造が簡素化され、複雑な制御回路も不要となるので、安価になる。
【0011】
本発明において、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路は前記複数の燃料噴射ユニットに燃料を供給するものであってもよい。つまり、単一の燃料分配器からパイロット燃料通路およびメイン燃料通路を通って複数の燃料噴射ユニットに燃料を供給する単一燃料分配器タイプとしてもよい。これとは異なり、前記集合燃料通路を各燃料噴射ユニットごとに1つずつ設け、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路を含む燃料マニホールドを各燃料噴射ユニットごとに独立させた複数燃料分配器タイプとすることもでき、両タイプは、燃料分配器と燃料マニホールドのそれぞれの重量とコストに関する得失を考慮して、適宜選択できる。単一燃料分配器タイプでは、燃料分配器が1つで済み、複数燃料分配器タイプでは、各燃料噴射ユニットの燃料分配器に至るまでの太い(大流量用の)集合燃料通路が一つで済む。
【0012】
本発明において、前記燃料分配器は、前記集合燃料通路からの燃料が導入される燃料入口と、パイロット燃料通路およびメイン燃料通路にそれぞれ接続されるパイロットポートおよびメインポートと、前記燃料入口の燃料圧力に応じて移動し、低燃料圧力時に前記パイロットポートのみを燃料入口に連通させ、中燃料圧力時と高燃料圧力時にパイロットポートとメインポートの両方を燃料入口に連通させる移動体とを有することが好ましい。これにより、低負荷時に対応する低燃料圧力時にはパイロットポートを通ってパイロット燃料通路へ、高負荷時に対応する高燃料圧力時および低負荷と高負荷の間の中間負荷時に対応する中燃料圧力時には、両方のポートを通って両方の燃料通路へと、それぞれ燃料が供給されるので、パイロット燃料通路およびメイン燃料通路への燃料分配が自動的に、かつ円滑に行われる。燃料流量は、通路面積が一定である場合、燃料圧力の0.5乗に比例し、燃料圧力が一定である場合、通路面積に比例する。よって、この燃料圧力に基づいて通路面積を変えることにより、負荷に対応した所要の燃料流量が得られる。この燃料分配器は複雑な制御回路で作動するものではなく、燃料圧力によって自動的に作動するものであるから、制御回路の誤作動による燃料の流量制御不良のおそれもない。
【0013】
本発明において、前記パイロットポートは、前記低燃料圧力時と中燃料圧力時に燃料入口に連通する第1ポートと、中燃料圧力時と高燃料圧力時に燃料入口に連通する第2ポートとを有することが好ましい。これにより、パイロット燃料通路への燃料の供給は、低負荷時から中負荷時にかけて、第1ポートから第2ポートへと徐々に移行しながら行われるので、第1ポートを閉止したのち第2ポートを開放する場合とは異なり、燃料供給量を円滑に低減させることができる。
【0014】
本発明において、前記パイロットポート、メインポートおよび燃料入口がハウジングに設けられ、前記移動体が前記ハウジングに収納されたピストンであることが好ましい。これにより、ハウジングがシリンダの役割を担って、燃料入口の燃料圧力に応じてピストンがハウジング内を移動するという単純な構成となるから、燃料分配器の構造が簡略化される。
【0015】
また、本発明において、前記集合燃料通路に燃焼装置全体の燃料を制御する全体燃料流量制御弁が設けられていることが好ましい。これにより、一つの全体燃料流量制御弁によって燃焼装置全体に必要な燃料を制御できるので、パイロット燃料通路とメイン燃料通路のそれぞれに流量制御弁を設ける従来の場合と比べて、構造が簡素化され、制御も容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガスタービンエンジンの燃焼装置によれば、集合燃料通路とパイロット燃料通路およびメイン燃料通路との分岐部に燃料分配器を設けるのみで、パイロット燃料通路およびメイン燃料通路への燃料分配量が燃料圧力に応じて自動的に調整される。したがって、パイロット燃料通路とメイン燃料通路のそれぞれに流量制御弁を設ける必要がなくなるから、構造が簡素化され、複雑な制御回路も不要となるので、燃焼装置が安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るガスタービンエンジンの燃焼装置を構成する燃焼器1の頭部を示している。この燃焼器1は、ガスタービンエンジンの図示しない圧縮機から供給される圧縮空気に燃料を混合して生成した混合気を燃焼させて、その燃焼により発生する高温・高圧の燃焼ガスをタービンに送ってタービンを駆動するものである。
【0018】
燃焼器1はアニュラー型であり、環状のアウタケーシング7の内側に環状のインナケーシング8が同心状に配置されて、環状の内部空間を有する燃焼装置ハウジング6を構成している。この燃焼装置ハウジング6の環状の内部空間には、環状のアウタライナ10の内側に環状のインナライナ11が同心状に配置されてなる燃焼筒9が、燃焼装置ハウジング6と同心円状に配置されている。燃焼筒9は内部に環状の燃焼室12が形成されており、この燃焼筒9の頂壁9aに、燃焼室12内に燃料を噴射する複数(この実施形態では14個)の燃料噴射ユニット2が、燃焼筒9と同心の単一の円上に等間隔に配設されている。各燃料噴射ユニット2は、燃料噴霧部(パイロット燃料噴射ノズル)3と、この燃料噴霧部3の外周を囲むように燃料噴霧部3と同心状に設けられた予混合気供給部(メイン燃料噴射ノズル)4とを備えている。燃料噴霧部3および予混合気供給部4の詳細については後述する。
【0019】
アウタケーシング7およびアウタライナ10を貫通して、着火を行うための2つの点火栓13が、燃焼筒9の径方向を向き、かつ先端が燃料噴射ユニット2に相対向する配置で設けられている。したがって、この燃焼器1では、2つの点火栓13に対向する2つの燃料噴射ユニット2からの可燃混合気が先ず着火され、この燃焼による火炎が、隣接する各燃料噴射ユニット2からの可燃混合気に次々に火移りしながら伝播して、全ての燃料噴射ユニット2からの可燃混合気に着火される。
【0020】
図2は図1のII−II線に沿った拡大縦断面図である。前記燃焼装置ハウジング6の環状の内部空間には、圧縮機から送給される圧縮空気CAが環状のプレディフューザ通路14を介して導入され、この導入された圧縮空気CAは、燃料噴射ユニット2に供給されるとともに、燃焼筒9のアウタライナ10およびインナライナ11にそれぞれ複数形成された空気導入口17から燃焼室12内に供給される。前記燃料噴霧部3に拡散燃焼のための燃料を供給する第1燃料供給系統F1および前記予混合気供給部4に希薄予混合燃焼のための燃料を供給する第2燃料供給系統F2をそれぞれ形成する燃料配管ユニット18が、アウタケーシング7に支持され、燃焼筒9の基部19に接続されている。燃料噴射ユニット2はその外周部に設けたフランジ5Aと、アウタライナ10に設けた支持体5Bとを介してアウタライナ10に支持され、このアウタライナ10が、ライナ固定ピンPでアウタケーシング7に支持されている。燃焼筒9の下流端部にはタービンの第1段ノズルTNが接続される。
【0021】
前記燃料噴霧部3は燃料噴射ユニット2の中央部に設けられている。この燃料噴霧部3は、燃料ノズル31と拡散ノズル32と内外二重のスワーラ33とを有し、第1燃料供給系統F1からの拡散燃焼用の燃料Fを燃料ノズル31から噴射して、スワーラ33を通過した圧縮空気CAにより微粒子化したのち、拡散ノズル32を経て燃焼室12内に噴霧されて、拡散燃焼領域50を形成する。
【0022】
燃料噴霧部3の外周を囲む形で、環状の前記予混合気供給部4が設けられている。この予混合気供給部4は、周方向に等間隔で配置された燃料ノズル41と予混合通路42と、内外二重のスワーラ43とを有し、第2燃料供給系統F2からの予混合燃焼用燃料Fを燃料ノズル41から予混合通路42内に噴射し、スワーラ43を通過した圧縮空気CAと混合されて予混合気を生成し、これを燃焼室12内に噴射して予混合燃焼領域51を形成する。
【0023】
燃料噴霧部3には、全負荷領域において第1燃料供給系統F1から燃料Fが供給される。予混合気供給部4には、全負荷に対し例えば70%以上の高負荷時、および高負荷時と低負荷時の間にある、例えば全負荷の40〜70%の中負荷時において、第2燃料供給系統F2から燃料Fが供給される。なお、予混合気供給部4は、全負荷に対し40%以下の低負荷時において、燃料Fが供給されないことから、スワーラ43を通して圧縮空気CAのみを燃焼室12に供給する。
【0024】
つぎに、前記ガスタービンエンジンの燃焼装置における燃料制御系統について、図3を参照しながら説明する。同図に示すように、燃焼器1の各燃料噴射ユニット2に対して、燃料制御系統の共通のパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65が接続され、パイロット燃料通路64とメイン燃料通路65の各上流端が集合燃料通路63に接続されている。集合燃料通路63には燃料ポンプ60と全体流量制御弁62が設けられており、全体流量制御弁62が燃料コントローラ61によって制御される。前記燃料ポンプ60により燃料Fが集合燃料通路63内に送給されるとともに、外部のスロットルレバーの操作などによる出力指令信号を受けた燃料コントローラ61によって全体流量制御弁62の開度が設定され、全体流量制御弁62により、集合燃料通路63からパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65へと、燃焼器1全体に必要な燃料が供給される。
【0025】
集合燃料通路63とパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65との分岐部に燃料分配器66が設けられている。前記パイロット燃料通路64はさらに複数(14本)に分岐し、分岐した各分岐通路64aが、14個の燃料噴射ユニット2における燃料噴霧部3への燃料供給系統F1にそれぞれ連通している。同様に、前記メイン燃料通路65もさらに複数に分岐(14本)してこれらの分岐通路65aが、14個の燃料噴射ユニット2における予混合気供給部4への第2燃料供給系統F2にそれぞれ接続されている。このメイン燃料通路65には、一定以下のエンジン負荷のとき、つまり、ガスタービンエンジンの始動時を含む低負荷時に同通路65を遮断する遮断弁67が設けられ、メイン燃料通路65を確実に閉止するようになっている。これにより、低負荷時には燃料噴霧部3による拡散燃焼のみを行わせて、着火性や保炎性を含む燃焼の安定性を確保している。ただし、燃料分配器66におけるシール機能が十分であれば、メイン燃料通路65を確実に閉止できるので、遮断弁67を設けなくてもよい。
【0026】
図4は起動前の燃料分配器66を模式的に示す縦断面図である。同図に示すように、この燃料分配器66はシリンダ型であり、シリンダを形成するハウジング71の中空部に円柱状のピストンからなる移動体72が挿入され、中空部に装着されたばね体73により、図4の右方向へばね力が付加されている。ハウジング71には移動体72と同心状に、集合燃料通路63から燃料Fが導入される燃料入口75が形成され、ハウジング71の周壁にパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65にそれぞれ接続されるパイロットポート76およびメインポート77が形成されている。移動体72の中心部には、常時燃料入口75に連通する有底の中央通路80が形成され、周壁に、中央通路に連通して径方向に延び、移動体72の外周面に開口するパイロット用通路81とメイン用通路82が形成されている。
【0027】
前記パイロットポート76は、低燃料圧力時と中燃料圧力時に燃料入口75に連通する第1ポート76aと、中燃料圧力時と高燃料圧力時に燃料入口75に連通する第2ポート76bとを有する。これら第1ポート76aと第2ポート76bとでは、燃料入口75と連通時、第1ポート76aからより多くの燃料がパイロット燃料通路64に供給されるように、第2ポート76bよりも第1ポート76aの通路面積の方が大きくなるように設定されている。つまり、第1ポート76aと第2ポート76bのオリフィスを異なるサイズに設定している。一般に、燃料流量は、通路面積が一定である場合、燃料圧力の0.5乗に比例し、燃料圧力が一定である場合、通路面積に比例する。よって、この燃料圧力に基づいて通路面積を変えることにより、負荷に対応した所要の燃料流量が得られる。
【0028】
また、移動体72をピストンとし、ハウジング71をシリンダとすることで、ピストン72がハウジング71内を移動するという単純な構成となるから、燃料分配器66の構造が簡略化される。前記ばね体73は、図4に示す起動前にはパイロットポート76およびメインポート77の両方がピストン72により遮断されて燃料入口75と非連通となり、パイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65に燃料Fが供給されないようにばね力が設定されている。
【0029】
上記構成のガスタービンエンジンの燃焼装置の動作について説明する。図3に示す燃焼装置は、作動時に燃料Fが燃料ポンプ60から集合燃料通路63に導入され、全体流量制御弁62により流量が調整されたのち、燃料分配器66を経て、パイロット燃料通路64とメイン燃料通路65に分配され、各燃料噴射ユニット2の燃料噴霧部3と予混合気供給部4とに個々に供給される。したがって、パイロット燃料通路64とメイン燃料通路65は、すべての燃料噴射ユニット2に対して、共通の通路となっている。始動時を含む低負荷(低燃料圧力)時には遮断弁67が閉止されており、燃料分配器66は図5に示す状態になる。
【0030】
図5において、燃料入口75からハウジング71内に導入される燃料Fの圧力は低負荷時に対応した低燃料圧力であり、この燃料圧力により移動体72が図4のばね体73のばね圧に抗して左側へ移動し、図5に示すように、パイロットポート76の第1ポート76aのみが、パイロット用通路81および中央通路80を介して燃料入口75に連通する。これにより、この第1ポート76aからパイロット燃料通路64を経て供給された燃料Fにより、図3に示す燃料噴射ユニット2において燃料噴霧部3による拡散燃焼のみが行われ、着火性や保炎性に優れた安定燃焼が確保される。このときの燃料流量は図8に示す低負荷(低燃料圧力)領域Z1における曲線Aを描くように流量制御される。この低負荷領域Z1は規定の30%MTO(Max Take Off:最大離陸出力)を含んでいる。図8において、横軸は、図4の燃料入口75の圧力と、図2の燃焼室12内の圧力、詳しくは、燃料噴霧部3の出口EXの圧力との差圧(エンジン負荷に対応)を示し、縦軸は燃料Fの流量を示す。
【0031】
つづいて、燃料圧力が中負荷に対応した中燃料圧力になると、図6に示すように、移動体72がさらに左側へ移動し、パイロットポート76の第1ポート76aに加え、第2ポート76bも、パイロット用通路81および中央通路80を介して燃料入口75に連通し、メインポート77もメイン用通路82および中央通路80を介して燃料入口75に連通する。したがって、図3に示す燃料噴射ユニット2にはパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65の両方から燃料Fが供給されることになり、燃料噴霧部3による拡散燃焼と、予混合気供給部4による予混合気燃焼とが合わせて行われる。このとき、燃料流量は移動体72の左方への移動につれて、太い第1ポート76aへの供給量が減少し、細い第2ポート76bとメインポート77への供給量が増大する。
【0032】
したがって、パイロット燃料通路64に供給される燃料Fは、図8の中負荷領域Z2における曲線A1で示すように、差圧の増大、つまり負荷の増大とともに減少していき、メイン燃料通路65に供給される燃料の流量が、曲線Bのように増大している。同負荷領域Z2における曲線Cで示す全体の燃料流量は、曲線A1と曲線Bの合算量(A1+B)となり、この合算量は図3の全体流量制御弁62により設定される。ここで、パイロット燃料通路64への燃料の供給は、低負荷領域Z1から中負荷領域Z2にかけて、第1ポート76aから第2ポート76bへと徐々に移行しながら行われるので、第1ポート76aを閉止したのち第2ポート76bを開放する場合のように、低負荷領域Z1と中負荷領域Z2との境界Mで燃料流量の不連続が見られず、パイロット燃料通路64の燃料流量を円滑に低減させることができる。
【0033】
さらに、燃料圧力が高負荷に対応した高燃料圧力時になると、図7に示すように、移動体72がさらに左側へ移動し、メインポート77は燃料入口75と最大の連通面積で連通する一方で、第1ポート76aに比べて、通路面積が小さい第2ポート76bのみがパイロット用通路81に連通する。このとき、第2ポート76bからパイロット燃料通路64に供給される燃料流量と、メインポート77からメイン燃料通路65に供給される燃料流量との比が1:9になるように、第2ポート76bおよびメインポート77の通路面積が設定されている。こうして、図8の高負荷領域Z3において、パイロット燃料通路64の流量が曲線A2で示すように、全燃料流量の1割に抑えられ、メイン燃料通路65の流量が曲線B1で示すように、全燃料流量の9割に達している。同負荷領域Z3における曲線Dで示す全燃料流量は曲線A2と曲線B1の合算量(A2+B1)となる。この負荷領域Z3は、規定の85%MTOを含んでいる。この状態で、高負荷領域Z3では、主に予混合気燃焼が行われて低NOx化を実現しつつ、副次的に拡散燃焼が行われて安定燃焼性が確保される。
【0034】
このように、図3の集合燃料通路63とパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65との分岐部に設けた燃料分配器66により、パイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65への燃料分配量が燃料圧力、すなわち、エンジン負荷に応じて自動的に調整され、燃焼器1において適切な拡散燃焼および予混合気燃焼を行わせることができる。しかも、パイロット燃料通路64とメイン燃料通路65のそれぞれに流量調整弁を設ける必要がなくなるから、構造が簡素化され、安価となる。また、燃料分配器66は複雑な制御回路で作動するものではなく、燃料圧力によってのみ作動するものであるから、安価に製造でき、制御回路の誤作動による燃料の流量制御不良のおそれもない。
【0035】
図9は、本発明の第2実施形態に係る燃料制御系統を示す系統図である。この実施形態では、集合燃料通路63は各燃料噴射ユニット2まで延長されており、各燃料噴射ユニット2に燃料分配器66が1つずつ設けられている。したがって、前記パイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65は各燃料噴射ユニット2ごとに独立している。燃料分配器66は、例えば図10に示すように、各燃料噴射ユニット2の燃料配管ユニット18に内蔵される。これにより、各燃料噴射ユニット2に至るまで、太い1本の集合燃料通路63で足りるから、第1実施形態のようにパイロット燃料通路64およびメイン燃料通路65の2本を用いるのと比べ、燃料噴射ユニット2に至るまでの配管作業が容易となる。この第2実施形態のその他の動作および作用は第1実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガスタービンエンジンの燃焼装置を示す概略正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った拡大縦断面図である。
【図3】燃料制御系統を示す系統図である。
【図4】起動前の燃料分配器を模式的に示す縦断面図である。
【図5】始動時ないし低負荷時の燃料分配器を模式的に示す縦断面図である。
【図6】中負荷時の燃料分配器を模式的に示す縦断面図である。
【図7】高負荷時の燃料分配器を模式的に示す縦断面図である。
【図8】燃料分配器における燃料圧力変動にともなう流量変動を示す曲線である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る燃料制御系統を示す系統図である。
【図10】図9における燃料噴射ユニットの要部を拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 燃焼器
2 燃料噴射ユニット
3 燃料噴霧部
4 予混合気供給部
12 燃焼室
62 全体流量制御弁
63 集合燃料通路
64 パイロット燃料通路
65 メイン燃料通路
66 燃料分配器
67 遮断弁
70 燃料供給部
71 ハウジング(シリンダ)
72 移動体(ピストン)
75 燃料入口
76 パイロットポート
76a 第1ポート
76b 第2ポート
77 メインポート
F 燃料
Z1 低負荷ゾーン
Z2 中負荷ゾーン
Z3 高負荷ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に拡散燃焼領域を形成するように燃料を噴霧する燃料噴霧部と、前記燃焼室内に予混合気燃焼領域を形成するように燃料と空気の予混合気を供給する予混合気供給部とを有する複数の燃料噴射ユニットと、
前記燃料噴霧部および予混合気供給部に燃料を供給する燃料供給部とを備え、
前記燃料供給部は、
前記燃料噴霧部と予混合気供給部にそれぞれ燃料を供給するパイロット燃料通路およびメイン燃料通路と、
前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路に燃料を供給する集合燃料通路と、
前記集合燃料通路とパイロット燃料通路およびメイン燃料通路との分岐部に設けられて燃料圧力に応じてパイロット燃料通路およびメイン燃料通路への燃料分配量を自動調整する燃料分配器とを有する、
ガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項2】
請求項1において、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路は前記複数の燃料噴射ユニットに燃料を供給するガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項3】
請求項1において、前記燃料分配器は各燃料噴射ユニットごとに1つずつ設けられ、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路は各燃料噴射ユニットごとに独立しているガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記燃料分配器は、前記集合燃料通路からの燃料が導入される燃料入口と、前記パイロット燃料通路およびメイン燃料通路にそれぞれ接続されるパイロットポートおよびメインポートと、前記燃料入口の燃料圧力に応じて移動し、低燃料圧力時に前記パイロットポートのみを燃料入口に連通させ、中燃料圧力時および高燃料圧力時にパイロットポートとメインポートの両方を燃料入口に連通させる移動体とを有するガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項5】
請求項4において、前記パイロットポートは、前記低燃料圧力時と中燃料圧力時に燃料入口に連通する第1ポートと、中燃料圧力時と高燃料圧力時に燃料入口に連通する第2ポートとを有するガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項6】
請求項4または5において、前記パイロットポート、メインポートおよび燃料入口がハウジングに設けられ、前記移動体が前記ハウジングに収納されたピストンであるガスタービンエンジンの燃焼装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、前記集合燃料通路に燃焼装置全体の燃料を制御する全体燃料流量制御弁が設けられているガスタービンエンジンの燃焼装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−255897(P2008−255897A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99589(P2007−99589)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「課題設定型産業技術開発費助成金」環境適応型小型航空機用エンジン研究開発プロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)