説明

ガスタービンシステム

【課題】サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避し、これによって、安定して運転することができるガスタービンシステムを提供する。
【解決手段】圧縮機を有するガスタービンと、圧縮機の入口における空気の逆流を検知する逆流検知センサー5と、逆流検知センサー5の検知結果に基づいてサージ発生を予知するサージ検知器6とを備えることにより、圧縮機の入口での空気の逆流を検知することによってサージの発生を予知することが可能となるため、サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避し、これによって、安定してガスタービンを運転することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの運転を行うガスタービンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービンシステムとして、圧縮機の回転数の変動を検出することによって振動を検出し、その振動を検出することによってサージの前兆となる短い周期の振動を検出して、サージの発生を回避するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−220863号公報
【特許文献2】特開平06−017788号公報
【特許文献3】特開平07−189986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に、運転中のエンジンの振動は、燃焼、爆発による振動、動弁系や噴射弁などからの振動、補機ギア周りからの振動など、振動源が多種多様であるため、振動波形が複雑である。従って、その中から特定の振動のみを抽出するのは極めて困難である。また、過給機の回転数変動に与える因子としては、爆発による吸排気脈動や、過給圧のフィードバックによるガス流量の変動や、アクセル開度変化(加減速)に伴うエンジン回転数変化によりガス流量の変動(回転数×負荷)が挙げられ、これら全てが回転数変動に影響を及ぼしている。また、過給機は毎分数万回転という高回転数で回転しており、慣性力が大きく、僅かなガス流変化があったとしても直ちに回転数変動に結びつかない。以上より、サージの発生の前兆のなる回転数変動を検出することは極めて困難であり、上述のガスタービンでは精度よくサージの発生を検出することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避し、これによって、安定して運転することができるガスタービンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガスタービンシステムは、圧縮機を有するガスタービンと、圧縮機の入口における空気の逆流を検知する逆流検知手段と、逆流検知手段の検知結果に基づいてサージ発生を予知するサージ発生予知手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このようなガスタービンシステムによれば、逆流検知手段で圧縮機の入口での空気の逆流を検知することによってサージの発生を予知することが可能となるため、サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避し、これによって、安定してガスタービンを運転することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避し、これによって、安定してガスタービンを運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一実施形態に係るガスタービンシステムの構成を示す図である。
【図2】圧縮機の構成と逆流検知センサーの位置関係を詳細に示した断面図であり、(a)は通常運転時の様子を示し、(b)は異常時の様子を示す。
【図3】逆流検知センサーの構成を詳細に示した拡大図である。
【図4】逆流検知センサーの出力信号を示す線図であり、(a)は通常運転時の様子を示し、(b)は異常時の様子を示す。
【図5】本発明の第一実施形態に係るガスタービンシステムのサージ検知器とエンジン制御用FADECにおける制御処理を示すフローチャートである。
【図6】逆流検知センサーの出力信号の大きさと許容限界値との関係を示す線図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係るガスタービンシステムの構成を示した図であり、図2(b)に対応した図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係るガスタービンシステムの構成を示した図であり、図1に対応した図である。
【図9】正常運転時からサージが発生するまでの間の温度T1及び圧力P1,P3の変動の様子を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係るガスタービンシステムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るガスタービンシステム1の構成を示す図である。図1に示すように、ガスタービンシステム1は、空気を吸入して圧縮する圧縮機2と、燃料を吸入して圧縮空気と混合させて燃焼させる燃焼器3と、高温高圧の燃焼ガスによって回転するタービン4を備えて構成されている。吸入空気W1は、圧縮機2の入口通路から吸入されて圧縮機2の出口通路から燃焼器3へ吸入され、燃焼ガスとなってタービン4へ供給された後、タービン4の排気口から排気ガスとして排出される。ガスタービンシステム1には、更に、圧縮機2の下流側からの逆流を検知するための逆流検知センサー5と、逆流検知センサー5の検知結果に基づいてサージ発生の前兆を検知するサージ検知器6と、サージ検知器6の検知結果に基づいてサージ発生を回避するためのエンジン制御用FADEC7が設けられている。
【0012】
図2は圧縮機2の構成と逆流検知センサー5の位置関係を詳細に示した断面図である。また、図3は、逆流検知センサー5の構成を詳細に示した拡大図である。図2(a)に示されるように、圧縮機2は外壁の内部に配置されたインペラ8を有しており、逆流検知センサー5は、インペラ8の上流側の入口通路に配置されている。図3に示されるように、逆流検知センサー5は、外壁から圧縮機2の入口通路内に突出した取付ステー11と、吸入空気W1と逆流空気W2によって移動する風圧板の位置を検知するための位置センサー10とを備えて構成されており、位置センサー10の電気信号によって逆流を検知する機能を有している。より具体的には、位置センサー10は、取付ステー11から上流側へ向かって延びるガイド棒に移動可能に支持された風圧板13と、ガイド棒に取り付けられて風圧板13に下流側から弾性力を付与するスプリング12と、ガイド棒の上流側の端部に設けられて風圧板13の移動を規制するストッパー14と、風圧板13に取り付けられてサージ検知器6に対して、風圧板13の位置に応じた電気信号を送信するための信号線15とを備えて構成されている。
【0013】
正常運転時においては、図2(a)に示すように風圧板13は吸入空気W1とスプリング12からの弾性力のみが付与されるため、その位置は一定に保たれる。従って、逆流検知センサー5の出力も図4(a)に示すように一定に保たれる(ただし、吸入空気の圧力の変動によって出力は上下に変動する)。一方、異常時、すなわちサージ発生の前兆時においては、圧縮空気が散発的に逆流し始め、図2(b)に示すように風圧板13は吸入空気W1と弾性力に加えて逆流空気W2からの圧力も受けることによって、断続的に上流側へ移動する。従って、逆流検知センサー5の出力は図4(b)に示すように、空気の逆流が発生した時点で局所的に低下する。逆流し始めにおいては低周波の波形が観察され、次第に頻度と大きさが大きくなってゆき大きなサージへと発展していく。
【0014】
図1に戻り、サージ検知器6は、逆流検知センサー5からの電気信号を読み取って処理する機能と、処理した信号を判別してサージ発生を予知する機能を有している。サージ検知器6は、サージ発生領域を予めマップ化して記憶しており、このマップと電気信号を比べることによってサージ発生を予知することができる。また、エンジン制御用FADEC7は、サージ発生の予知が行われた場合は、燃料供給部へ信号を送信することで燃料流量を減量させ、エンジン回転数を低下させ、あるいは、圧力比を低下させることによってサージの発生を回避するための制御処理を行う機能を有している。
【0015】
次に、図5を参照して、本実施形態に係るガスタービンシステム1の動作について説明する。図5は、本発明の第一実施形態に係るガスタービンシステム1のサージ検知器6とエンジン制御用FADEC7における制御処理を示すフローチャートである。
【0016】
図5に示すように、まずシステムの初期化がなされ(ステップS100)、エンジンパラメータの読み込みが行われる(ステップS200)。次に、逆流検知センサー5からの出力信号の読み込みが行われると共に出力信号の処理がおこなわれる(ステップS300)。
【0017】
S300で読み込んだ出力信号に基づいてサージ判定処理を行う(ステップS400)。具体的には、S300で読み込んだ出力信号から波形の大きさPを取得して、そのPと予め設定した許容限界値P1とを比較することによって判定する。許容限界値P1は予め実験を行うことによって設定する。図6に示すように、Pが許容限界値P1より大きくなると、サージの発生を予知すると共に、サージの発生を回避するための処理が実行される(ステップS410)。S410が実行されると、S200へ移行して再びS200〜S400の処理が実行される。S400においてPが許容限界値P1以下であると判定されると、サージは発生しないものとして、図5の処理が終了する。
【0018】
以上によって、サージの発生を精度よく予知すると共に、そのサージの発生を早い段階で回避することができる。これによって、ガスタービンを安定して運転することができる。
【0019】
[第二実施形態]
図7は、本発明の第二実施形態に係るガスタービンシステムの構成を示した図であり、図2(b)に対応した図である。第二実施形態に係るガスタービンシステムは、風圧板による位置センサーを用いた逆流検知センサーに代えて温度センサーを用いた逆流検知センサーを適用している点で、第一実施形態に係るガスタービンシステム1と主に相違している。具体的には、逆流検知センサー20は、圧縮機2の入口通路に高速応答型の赤外線型温度センサーを設けることによって構成されている。
【0020】
逆流空気W2の温度は、通常の吸入空気W1の温度(大気温度)に比べてかなり高温となるため(200〜300℃)、僅かな逆流であっても温度センサーで瞬時に検知することが可能であり、これによって、精度よくサージの発生を予知することができる。
【0021】
[第三実施形態]
図8は、本発明の第三実施形態に係るガスタービンシステム100の構成を示した図であり、図1に対応した図である。第三実施形態に係るガスタービンシステム100は、圧縮機2の圧力と温度に基づいてサージの発生を予知する点で、第一実施形態に係るガスタービンシステム1と主に相違している。
【0022】
具体的には、ガスタービンシステム100では、逆流検知センサーに代えて、圧縮機2の入口に温度センサー31と圧力センサー32が設けられると共に、圧縮機2の出口に圧力センサー33が設けられている。温度センサー31は圧縮機2の入口の温度T1を検出してサージ検知器6に出力し、圧力センサー32は圧縮機2の入口の圧力P1を検出してサージ検知器6に出力し、圧力センサー33は圧縮機2の出口の圧力P3を検出してサージ検知器6に出力する。
【0023】
次に、図9を参照してサージ発生の予知方法について説明する。図9は、正常運転時からサージが発生するまでの間の温度T1及び圧力P1,P3の変動の様子を示す線図である。図9に示すように、正常運転時においては温度T1、圧力P1,P3ともに低周波の変動を行う。圧力P1,P3には、例えばインペラの枚数に伴う吸気脈動波形が乗っている。サージの発生の前兆としては、逆流空気が発生することによってインペラの出口(デヒューザ)で剥離が起こり、通路抵抗が増してチョークする。このため、空気が下流側へ流れ難くなって出口側の圧力P3が低下し、吸気慣性効果により圧縮された空気が上流に戻されて入口側の圧力P1が上昇する。初期の段階では逆流の発生頻度が低く低周波の圧力変動が起こり(図9における予知区間)、サージに近づくと頻度が増える。そして、最終段階では大きな逆流が発生し、圧力P1には局所的に上昇する波形WP1が生じ、圧力P3には局所的に減少する波形WP3が生じる。温度T1についても高温(200〜300℃)の逆流空気が発生することで入口側の温度が局所的に上昇する波形WT1が生じる。以上によって、低周波の圧力変動や温度変動を組み合わせて観察することによって、精度のよいサージの発生の予知が可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1,100…ガスタービンシステム、2…圧縮機、5,20,31,32,33…逆流検知センサー(逆流検知手段)、6…サージ検知器(サージ発生予知手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機を有するガスタービンと、
前記圧縮機の入口における空気の逆流を検知する逆流検知手段と、
前記逆流検知手段の検知結果に基づいてサージ発生を予知するサージ発生予知手段と、を備えることを特徴とするガスタービンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−163962(P2010−163962A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6760(P2009−6760)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】