説明

ガスタービン装置の改造方法

【課題】開発の最終段階であるガスタービンの試運転において、スラスト力が計画値を上回った場合、スラスト軸受は温度上昇を引き起こし、回転体としての信頼性を大きく損なう。また、組立の完了したガスタービンのスラスト力を根本から見直しを図る場合、ガスタービン全体としての設計変更が課せられ、特に、タービンの冷却翼の翼型を大幅に変更するとき、その精密鋳造だけをみても多大なコストと期間を消費することになるが、全体としての開発工程を含めて、あらゆる面で多大な損失を免れない。
【解決手段】タービンの動翼を対象に、ガスタービンの軸方向線に対する動翼の取付け角を腹側方向に傾斜させることや動翼の背側プロファイルを膨らませて最大翼厚みを増加させることによって、動翼の流出角を腹側に偏向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン装置に係り、特に、計画値を上回るスラスト力を発生した開発中のガスタービンの信頼性を向上するためのスラスト力の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンで吸込まれた空気は、圧縮機で昇圧(圧縮)、燃焼器で燃焼、タービン部以下で膨張,排気と言うサイクル過程を通過する。この時、圧縮機では吐出側から吸込み側に向かって、タービンでは流入側から排気側に向かって、それぞれ流体力が作用することになる。概念的に言えば、これら圧縮機とタービンに作用する流体力の差が、回転体へのスラスト力としてスラスト軸受で支承される。一般的に、このスラスト軸受には給油式が採用され、スラスト力の支承は勿論のこと、軸受の潤滑,軸受損失により発生した熱の除去を行い、回転体としての軸受の信頼性維持に貢献している。
【0003】
このスラスト軸受の性能向上策は、種々、検討されている。例えば、特許文献1には負荷能力を向上させ、かつ軸方向への移動量が少ない高精度なスラスト軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−172012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターボ機械のひとつであるガスタービンを目的に沿って効率的に実現するために、従来技術を参照してガスタ−ビンを構成することは有効な手段である。ところで、近年、ガスタービン設計においては、コンピュータの発達や解析ソフトの検証及び進展とともに、迅速且つ精度良く作業が進められるようになった。しかし、未だ途上であり、完成はしていない。また、ガスタービンの開発自体を、計画,基本・詳細設計,製作図作成,部品製作,組立、及び、試運転までの工程として考えれば、数年と言う期間が必要となる。ガスタービンの開発を効率よく行う上で最も基本となるのは、一つに、設計ミスの排除である。しかし、設計技術が完成されていない以上、ヒューマンエラーも含めて、設計ミスを完全に排除することは困難である。
【0006】
例えば、開発の最終段階であるガスタービンの試運転において、スラスト力が計画値を上回る場合がある。この場合、スラスト軸受は温度上昇を引き起こし、回転体としての信頼性を大きく損なうことになる。また、組立の完了したガスタービンのスラスト力を根本から見直しを図る場合、ガスタービン全体としての設計変更が課せられる。特に、タービン冷却翼の翼型を大幅に変更する必要がある場合、その精密鋳造だけをみても多大なコストと期間を消費することになり、全体としての開発工程をはじめ、あらゆる面で多大な損失を免れない。
【0007】
そこで本願発明の目的は、大幅なコストの増加や製作期間の長期化を招くことなく、計画値を上回ったスラスト力を低減することで回転体装置としての信頼性を維持する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガスタービン装置は、圧縮機,燃焼器、及び静翼と動翼を有するタービンを主構成とし、動翼を含む回転体に作用する流体力を支承するスラスト軸受を備えたガスタービンについて、前記タービンの動翼の流出角を増加させることでスラスト力を低減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大幅なコストの増加や製作期間の長期化を招くことなく、計画値を上回ったスラスト力を低減することで回転体装置としての信頼性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ガスタービンの構成を示した概念図である。
【図2】図1のA−A部を示し、スラスト軸受の詳細を示した断面図である。
【図3】本発明の構成を示したタービン部の断面図である。
【図4】本発明の動翼翼型の従来と改良後の比較を示す翼型の断面図である。
【図5】本発明のガスタービンを運転したときの圧力ポイントを表す説明図である。
【図6】本発明のタービン第1段に作用するスラスト力を示したタービン部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例を、図1,図2,図3,図4,図5及び、図6により説明する。各図において、同一番号は、同一の機器、或いは、部材を表す。
【0012】
図1を用いて、ガスタービンの全体構成を説明する。ガスタービン1は、主として吸込み空気を圧縮する圧縮機2、圧縮された空気を燃料とともに燃焼させ高温・高圧ガスを発生する燃焼器3、その高温・高圧ガスを膨張させるタービン4、及び、発電機5から構成され、圧縮機2とタービン4における図示しない複数の回転部材はシャフト6として一軸に連結される。また、発電機5は、シャフト6とカップリング11を介して接続されている。シャフト6は、第1のジャーナル軸受7と第2のジャーナル軸受8で支承され、第1のジャーナル軸受7の近傍には、第1のスラスト軸受9と第2のスラスト軸受10が設けられている。圧縮機2の中間段と最終段からは、それぞれ圧縮機中間段抽気経路30と圧縮機最終段抽気経路31が形成され、タービン4の後述する冷却翼に導入される。
【0013】
次に、図2を用いて図1のA−A部の詳細断面を説明する。先に述べたように、シャフト6は回転部材の集合体として定義される。圧縮機2では、圧縮機軸端シャフト19と複数枚の圧縮機ホィール20とが圧縮機スタッキングボルト21によって連結され、シャフト6を構成する部材の一つとなる。圧縮機ケーシング13に設けられた軸受ハウジング12には、第1のジャーナル軸受7,第1のスラスト軸受9、及び、第2のスラスト軸受10が納められており、圧縮機軸端シャフト19に設けられた環状突起部24には反負荷側受圧面23aと負荷側受圧面23bが形成され、その面に対向して第1のスラスト軸受9と第2のスラスト軸受10が設置される。これらの軸受には、図示していない潤滑給油装置から潤滑油が供給され、その排油は潤滑給油装置に戻る循環ラインをもつ。
【0014】
タービン側の構成を、図3によって説明する。尚、本発明の意図を明確にするために、図3にはタービン4の前段側2段部分のみを表示する。タービン4は主として、静止部材となるタービンケーシング14、このタービンケーシング14に固定される1段静翼15a,2段静翼16aと、回転部材となる第1ホィール17a,第2ホィール17bと、その中間に位置するスペーサ18,第1ホィール17aの外周端に固着される1段動翼15b,第2ホィール17bの外周端に固着される2段動翼16bとからなる。前述した圧縮機と同様に、インナーバレル25と、第1ホィール17a,第2ホィール17b、及びスペーサ18が、タービンスタッキングボルト22によって連結され、シャフト6の構成部材の一つとなる。尚、圧縮機中間段抽気経路30を径由する抽気空気は2段静翼16aに供給され、圧縮機最終段抽気経路31を径由する抽気空気は1段静翼15aに供給される。同様に、動翼にも抽気空気を供給する系統を有するが、割愛する。
【0015】
図4を用いて、本実施例の翼型について従来翼と比較して説明する。図4の翼型の断面図は、1段動翼15bの平均径断面を、従来翼を破線、改良翼を実線としてそれぞれ示したものである。先に、改良翼の翼型48を用いて、翼型の定義をしておく。翼型は、前縁径43に接する円弧となる前縁44,改良翼の背側プロファイル41a,改良翼の腹側プロファイル41b、及び、後縁径45に接する円弧となる後縁46を、連続的に接続して形状をなす。このとき、改良翼の最大翼厚み42bはΦD2として与えられる。軸方向線50に対して、主流ガスの流入する角度α1を流入角、軸方向線50に平行な補助線52に対して、主流ガスの流出する角度α2を流出角とする。一方、前縁44と後縁46に接する直線である補助線51と、補助線52のなす角度をセット角β1とする。これを参照して、従来翼の翼型47の最大翼厚み42aがΦD1として与えられるとともに、改良翼の翼型48の流出角をα2_改良、セット角をβ1_改良、従来翼の翼型47の流出角をα2_従来、セット角をβ1_従来と呼ぶことにする。
【0016】
改良翼の最大翼厚みは、背側プロファイル41aのみを膨らませる方向に修正した上で、ΦD1<ΦD2の関係にある。改良翼の背側プロファイル41aによる改良翼の最大翼厚み42bの増加は、改良翼の背側プロファイル41aを、図面上で右側に膨らませることになり、後縁46との接続において勾配がきつくなることから、流出角が図面上で時計回りに約1度偏向する。また、改良翼の翼型48は、従来翼の翼型47に対して腹側プロファイル41b方向(図面上、時計回り)に約1度回転させることで、β1_改良>β1_従来となる。これにより、単純に、流出角も図面上で時計方向に1度偏向させる。これらの結果、改良翼の翼型48の流出角α2_改良は、α2_従来に対して合計約2度の偏向をさせたことになる。
【0017】
このように構成された本実施例において、ガスタービン1の運転とともに圧縮機2と燃焼器3で発生する高温高圧の作動ガスは、全圧が約1.6MPa、温度が1300℃程度で、タービン4の1段静翼15a,1段動翼15bをはじめとする、各段でタービン仕事をしながら、圧力,温度を低下させ、約600℃で最終段動翼(図示せず)を流出する。このとき、シャフト6に接続された発電機5が回転して電力を得る。
【0018】
タービン翼は、高温のガスに晒されるため、圧縮機2で得られる高圧空気の一部を抽気し、圧縮機中間段抽気経路30,圧縮機最終段抽気経路31を径由して、それぞれ、2段静翼16a,1段静翼15aに導入され、作動ガス温度以下に冷却される。なお、動翼についての説明は、割愛する。
【0019】
このときの、ガスタービン1の各ポイントでの圧力を、全圧基準で図5を用いて説明すると、圧縮機2の圧縮機吸込みポイントP0圧力は大気圧であり、圧縮機吐出ポイントP1圧力が最大の約1.6MPaとなる。タービン入口圧力ポイントP2は、燃焼器3での圧力損失によって約1.52MPaまで低下し、その後のタービン仕事によって、更に低下した後、タービン出口圧力ポイントP3は約0.11MPaとなる。最終的に、この排気ガスは煙突によって大気開放されるため排気圧力ポイントP4は、圧縮機吸込みポイントP0圧力と同じ大気圧に戻ることになる。この圧力分布は、圧縮機吐出までが単調増加,排気までが単調減少となり、概略的に言えば、最大圧力となるP1ポイントを中心にして、図5を参照して、圧縮機側に向かう(図面左方向)流体力と、タービン側に向かう(図面右方向)流体力が発生し、その差がスラスト力として作用するため、シャフト6は軸方向に移動することになる。このシャフト6の軸方向移動は、第1のスラスト軸受9、或いは、第2のスラスト軸受10で支承されることになる。軸受には、図示しない潤滑油系統からの潤滑油が供給されており、支承に伴う摩擦熱はこの潤滑油によって回収されるため、軸受の温度上昇は抑制されるのが通常である。
【0020】
本発明とスラスト力に関して、図6を用いてタービン4の初段を対象に説明する。1段静翼入口60の圧力は、P2ポイントとなる作動ガスの全圧約1.52MPaである。ここまで、便宜的に、全圧で説明したが、スラスト力の評価は静圧が基準となる。従来翼では、1段動翼入口61で約1.0MPa、1段動翼出口62で約0.82MPaとなる。これらの圧力が回転体である1段動翼15bと第1ホィール17aに、図中の矢印63と矢印64に示すように作用する。このとき、タービンの第1段では、1段動翼入口61の圧力が掛かる1段動翼15bと第1ホィール17aの軸方向受圧面積(図示せず)に、その圧力を乗じた流体力が図面の右方向に作用し、反対に、1段動翼出口62の圧力が掛かる1段動翼15bと第1ホィール17aの軸方向受圧面積(図示せず)に、その圧力を乗じた流体力が図面の左方向に作用することになり、その差がタービンの第1段に作用するスラスト力となる。このスラスト力を各段毎に合算すると、前述したタービン側に向かうスラスト力となる。同様に、圧縮機側にも適用すれば、圧縮機側吸込み側に向かうスラスト力となる。さらに、その総和が、シャフト6に作用するスラスト力として、スラスト軸受で支承されることになる。従来翼では、総和となるスラスト力が、圧縮機側に大きく向かうため、第2のスラスト軸受10が支承するとともに、軸受面圧は、5MPa程度となり、排油温度の上昇が生じる。
【0021】
上記で説明したように、スラスト力の総和は、各段間での圧力と、その軸方向受圧面積によって決まるが、シャフト6を同一形状とすれば、各段間圧力のみの関数として、スラスト力が決定される。1段動翼入口61と1段動翼出口62の圧力は、各段間での仕事配分(反動度)によって変化する。ところで、改良翼では、流出角が、α2_従来に比較して、約2度の偏向を果たしたことから、反動度が増え、分担する仕事量が増加することになり、1段動翼出口62での約0.82MPaの圧力に変化はないが、1段動翼入口61で約1.05MPa程度まで上昇することになる。その結果、1段動翼15bと第1ホィール17aに関して言えば、タービンの排気側へ向かうスラスト力が大きくなり、総和として、スラスト力が、圧縮機の吸込み側に向かうことは同じであるが、第2のスラスト軸受10が負担する荷重は低減する。このとき、軸受面圧は、3MPa程度となり、排油温度の上昇が抑制可能となる。
【0022】
以上に説明したガスタービン装置において、ガスタービンの軸方向線に対する前記動翼のセット角を、腹側プロファイル方向に傾斜させるとともに、動翼の背側プロファイルを膨らむ方向に変更して最大翼厚みを増加することにより、動翼流出角を、動翼の背側プロファイル側に偏向させ、タービン初段の反動度、即ち、段間の静圧を変化させることで、段で発生するスラスト力を調整することが可能となるので、スラスト軸受に負荷されるスラスト力を低減でき、信頼性の高いガスタービンを提供できる。また、タービン動翼は中子を用いた精密鋳造により製作されるものであるが、背側プロファイルの増加側の変更は、既存の中子を削り込む修正であり、流用可能となるため、大幅なコストの増加や、製作期間の長期化を回避することができる。
【0023】
本実施例では、初段を例に説明したが、限定されるものではなく、他段に適用しても、同様の効果が得られ、信頼性の高いガスタービン装置が期待できる。
【0024】
尚、動翼流出角の変化は、後段側の2段静翼へのインシデンス角を増加することになり損失増加の要因になるが、静翼はインシデンス特性の優れた鈍頭翼を採用することで対処が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明は、産業用や発電用等のガスタービンに適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ガスタービン
2 圧縮機
4 タービン
6 シャフト
9 第1のスラスト軸受
10 第2のスラスト軸受
15b 1段動翼
41a 改良翼の背側プロファイル
41b 改良翼の腹側プロファイル
42b 改良翼の最大翼厚み
α2 流出角
β1 セット角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、
該圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、
該燃焼器で生成した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、
前記圧縮機と前記タービンとを連結するシャフトと、
該シャフトを支承するジャーナル軸受とスラスト軸受とを有するガスタービン装置の改造方法において、
前記シャフトに作用するスラスト力に基づいてタービンの動翼の流出角を設定することを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記ガスタービンの軸方向線に対する前記動翼のセット角を変化させることで前記動翼の流出角を変化させることを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記動翼の最大翼厚みを変化させることで前記動翼の流出角を変化させることを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記最大翼厚みの変化を前記動翼の腹側プロファイルよりも大きな背側プロファイルの変更で実施することを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記最大翼厚みの変化を前記動翼の背側プロファイルの変更のみで実施することを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項6】
請求項2に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記動翼のセット角の変更と前記動翼の翼型プロファイルの変更を併用することで前記動翼の流出角を変化させるとともに、それぞれの流出角への偏向量を同等とし、且つそれぞれの偏向量を1deg以下とすることを特徴とするガスタービン装置の改造方法。
【請求項7】
請求項2から請求項6のうち、いずれか一項に記載のガスタービン装置の改造方法において、前記動翼の流出角の偏向を、前記動翼の腹側プロファイル方向とすることを特徴とするガスタービン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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