説明

ガスバリアフィルムおよびその製造方法

【課題】酸素や水蒸気に対するバリア性の良好なガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】基材2と、上記基材2の少なくとも一方の面に形成され、蒸着膜からなるガスバリア層3と、上記ガスバリア層上に形成され、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有する膜からなるゾルゲルコート層4とを有することを特徴とするガスバリアフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品や医薬品等の包装材料や電子デバイス等のパッケージ材料として主に用いられるガスバリアフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリアフィルムは、主に、内容物の品質を変化させる原因となる酸素や水蒸気等の影響を防ぐために、食品や医薬品等の包装材料として用いられたり、液晶表示パネルやEL表示パネル等に形成されている素子が、酸素や水蒸気に触れて性能劣化するのを避けるために、電子デバイス等のパッケージ材料として用いられている。また、近年においては、従来ガラス等を用いていた部分にフレキシブル性や耐衝撃性を持たせる等の理由から、ガスバリアフィルムが用いられる場合もある。
【0003】
このようなガスバリアフィルムとしては、ポリ塩化ビニリデン樹脂や塩化ビニリデンと他のポリマーとの共重合体樹脂からなる基材、あるいはこれらの塩化ビニリデン系樹脂をポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂にコーティングしてガスバリア性を付与したものが、特に包装材料として広く使用されているが、焼却処理で塩素系ガスが発生するため、環境保護の点で現在、問題となっており、さらに、ガスバリア性が必ずしも十分でなく、高度なバリア性が要求される内容物には使用できないという問題があった。
【0004】
また、ガスバリアフィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)やエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)も用いられるが、これらは絶乾条件では、比較的優れたガスバリア性を示すが、水蒸気バリア性は十分でなく、また、湿度条件で酸素バリア性が悪化するため、現実的な条件では十分なガスバリア性材料とは言えない。
【0005】
そこで、高いバリア性を実現するガスバリアフィルムとして、真空蒸着法で酸化珪素等の無機酸化物を蒸着する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。このようなガスバリアフィルムは、上述したような樹脂からなるガスバリアフィルムと比較して、ガスバリア性が格段に向上する。しかしながら、このような真空蒸着法により成膜された蒸着膜は、表面にピンホールやクラック等の欠陥を有する場合が多く、このピンホールやクラック等の欠陥部分から酸素や水蒸気等のガスが抜けやすくなってしまい、結果的にガスバリアフィルムのガスバリア性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−176326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、酸素や水蒸気に対するバリア性の良好なガスバリアフィルムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、基材と、上記基材の少なくとも一方の面に形成され、蒸着膜からなるガスバリア層と、上記ガスバリア層上に形成され、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有する膜からなるゾルゲルコート層とを有することを特徴とするガスバリアフィルムを提供する。
【0009】
本発明によれば、上記ガスバリア層上に上記ゾルゲルコート層が形成されていることから、上記ガスバリア層表面にピンホールやクラック等の欠陥が生じた場合であっても、そのピンホールやクラック等をゾルゲルコート層によって埋めることができ、ガスバリア層のガスバリア性の低下を防ぐことができる。また、上記ゾルゲルコート層に糖類を含有させることにより、ガスバリア層との密着性を向上させることが可能となり、かつゾルゲルコート層に良好な成膜性・柔軟性を付与することができ、ゾルゲルコート層成膜時の乾燥による硬化収縮の際、クラック等が発生することを防ぐことが可能となる。
【0010】
上記発明においては、上記糖類の重量平均分子量が、100〜500万の範囲内であることが好ましい。これにより、上記ゾルゲルコート層を形成する際に用いられるゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度を、塗工に際して好適なものとすることができる。したがって、上記ゾルゲルコート層を塗布ムラのない均一な膜とすることが可能となり、ゾルゲルコート層とガスバリア層との密着性が向上し、ガスバリア性の良好なガスバリアフィルムとすることができる。
【0011】
また本発明においては、上記ゾルゲルコート層の膜厚が、0.01μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。上記ゾルゲルコート層の膜厚が上記範囲内であることにより、上記ゾルゲルコート層の成膜時にクラック等が発生することを効果的に防止することができ、良好なガスバリア性を維持することができるからである。また、上記ゾルゲルコート層の膜厚が上記範囲内であることにより、ゾルゲルコート層成膜の際、ゾルゲルコート層の速乾性を高めることができ、製造工程上有利となるからである。
【0012】
さらに本発明においては、上記基材と上記ガスバリア層との間にアンカー層が形成されていてもよい。これにより、上記基材と上記ガスバリア層との密着性を向上させることが可能となり、例えば本発明のガスバリアフィルムが可撓性を有する包装材に用いられた場合であっても、上記基材からガスバリア層が剥離する等の問題が生じることがなく、良好なガスバリア性を維持することが可能となるからである。
【0013】
また本発明においては、上記ゾルゲルコート層上にオーバーコート層が形成されていてもよい。上記ゾルゲルコート層上にオーバーコート層が形成されていることにより、ラミネートや印刷時に生じる熱やこすれ、引張りによるダメージの発生を防ぐことができ、また耐湿性を向上させることができるからである。
【0014】
本発明は、また、基材上に、蒸着法によりガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程と、上記ガスバリア層上に、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有するゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布し、ゾルゲル反応により硬化させてゾルゲルコート層を形成するゾルゲルコート層形成工程とを有するガスバリアフィルムの製造方法であって、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が、25℃において1Pa・s〜1000Pa・sの範囲内であることを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が上記範囲内であることから、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の塗工性を良好なものとすることが可能となる。したがって、塗布ムラのない均一な膜を形成することができ、酸素や水蒸気に対して良好なバリア性を有するガスバリアフィルムを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記ガスバリア層表面にピンホールやクラック等の欠陥が生じた場合であっても、そのピンホールやクラック等をゾルゲルコート層によって埋めて欠陥を補うことが可能となる。またゾルゲルコート層が糖類を含有することにより、ガスバリア層との密着性が向上し、かつ良好な成膜性・柔軟性が付与され、ゾルゲルコート層表面にクラック等が発生することを防ぐことが可能となる。したがって、ゾルゲルコート層をガスバリア層上に設けることにより、ガスバリアフィルムのガスバリア性を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のガスバリアフィルムおよびガスバリアフィルムの製造方法について詳細に説明する。
【0018】
A.ガスバリアフィルム
まず、本発明のガスバリアフィルムについて説明する。本発明のガスバリアフィルムは、基材と、上記基材の少なくとも一方の面に形成され、蒸着膜からなるガスバリア層と、上記ガスバリア層上に形成され、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有する膜からなるゾルゲルコート層とを有するものである。
【0019】
図1は、本発明のガスバリアフィルムの一例を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明のガスバリアフィルム1は、基材2と、基材2の少なくとも一方の面に形成されたガスバリア層3と、ガスバリア層3上に形成されたゾルゲルコート層4とを有するものである。
【0020】
本発明におけるガスバリア層は蒸着膜からなるものであるが、一般的に、このような蒸着膜は、その形成過程等において表面にピンホールやクラック等の欠陥が生じやすく、その欠陥から酸素や水蒸気等のガスが抜けやすくなり、ガスバリア性が低下してしまう場合があった。そこで本発明においては、このような蒸着膜からなるガスバリア層上にゾルゲル反応により形成されるゾルゲルコート層を設けることによって、ガスバリア性の低下を防止する。本発明によれば、ガスバリア層表面にピンホールやクラック等の欠陥が生じた場合であっても、ガスバリア層上にゾルゲルコート層を設けることにより、そのピンホールやクラック等をゾルゲルコート層によって埋めることができ、欠陥を補うことが可能となる。したがって、ガスバリア性の良好なガスバリアフィルムとすることができるのである。
【0021】
また、本発明においては、ゾルゲルコート層に糖類を含有させることにより、ガスバリア層との密着性を向上させることが可能となる。さらに、上記ゾルゲルコート層に糖類を含有させることにより、良好な成膜性・柔軟性を付与させることができ、ゾルゲルコート層成膜時の乾燥による硬化収縮の際、クラック等が発生することを防ぐことが可能となる。例えば、上記アルカリ金属ポリシリケートとしてリチウムポリシリケートを用いる場合、従来では、リチウムポリシリケート単体で基材上に成膜しようとすると、LiOとSiOとのモル比によっては成膜できなかったり、クラックが生じてガスバリア性が低下したりする場合があったが、本発明においては糖類を含有させることにより、成膜性および柔軟性を付与することができるので、ガスバリア性を高めることができるのである。これにより、ガスバリアフィルムに高いガスバリア性を付与することができる。
【0022】
また本発明におけるゾルゲルコート層は、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケートのいずれか一方を含有する層であることから、ゾルゲルコート層の形成に用いられるゾルゲルコート層形成用塗工液の上記ガスバリア層に対する親和性を高いものとすることができる。したがって、ゾルゲルコート層形成時のゾルゲルコート層形成用塗工液の塗工性やゾルゲルコート層の成膜性を良好なものとすることが可能である。また、上記ゾルゲルコート層とガスバリア層との密着性を向上させることもできる。
以下、このようなガスバリアフィルムの各構成について説明する。
【0023】
1.ゾルゲルコート層
本発明に用いられるゾルゲルコート層は、後述するガスバリア層上に形成され、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケートと、糖類とを含有する膜からなるものである。
【0024】
本発明に用いられる糖類としては、アミロウロン酸、セロウロン酸、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコサミン、ソルビトール、アラビノース、リボース、デオキシリボースなどの単糖類や、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、メレトース、スタキオースなどのオリゴ糖類、デンプン類、セルロース類、プルラン、デキストリン、キチン類、キトサン類などの多糖類を例示することができる。これらの中でも、アミロウロン酸、セロウロン酸等が好ましく用いられる。アミロウロン酸やセロウロン酸は、重量平均分子量が比較的高く、造膜性に優れているからである。また、アミロウロン酸やセロウロン酸を用いたゾルゲルコート層は、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステルなどの基材との密着性が高いからである。
【0025】
また本発明に用いられる糖類としては、ウロン酸残基を含む水溶性多糖類を挙げることができる。ウロン酸残基を含む水溶性多糖類としては、例えば、1種類以上のウロン酸残基からなるポリウロン酸や、ムコ多糖類のようなウロン酸残基とその他の糖残基とから構成される多糖類を挙げることができる。このウロン酸残基のカルボン酸は、カルボン酸であってもカルボン酸塩であってもよい。
【0026】
このようなウロン酸残基を含む水溶性多糖類としては、例えばペクチン酸や、アルギン酸、ヒアルロン酸、またはそれらの金属塩等が挙げられる。
また、上記ウロン酸残基を含む水溶性多糖類としては、αまたはβ−グルコシド結合したグルクロン酸、またはグルクロン酸塩を含む多糖類を挙げることができる。グルクロン酸とグルコースとから構成される多糖類の場合は、多糖類中のグルクロン酸含有量が60%以上であることが好ましく、中でも90%以上であることが好ましい。
【0027】
さらに、上記ウロン酸残基を含む水溶性多糖類としては、例えばデンプンやセルロースなどの天然多糖類を酸化処理して、ピラノース環(グルコース)の第6位水酸基を選択的にカルボキシル基(またはその金属塩)へ変換させた多糖類を挙げることができる。このような多糖類としては、多糖類の総糖残基中、ウロン酸残基の含有量が酸化度60%以上の多糖類や、ほぼすべての第6位水酸基をカルボキシル基に変換したアミロウロン酸、セロウロン酸等のポリグルクロン酸、またはそれらの金属塩などが挙げられる。アミロウロン酸、セロウロン酸、またはその金属塩は、GPCで測定したプルラン換算の重合度がDPw=25以上の範囲であることが好ましく、DPw=100以上の範囲であることがさらに好ましい。これにより、結晶化度を高めることができ、耐水、耐湿性能を向上させることができるからである。
また、上記多糖類として、セルロースを酸化して、グルコピラノース環の炭素6位を選択的にカルボキシル基に変換したグルクロン酸残基とグルコース残基を構成単位とする微細セルロースを用いてもよい。この場合、上記カルボキシル基量が、セルロースを構成する単糖の全体モル数に対し、好ましくは1%以上60%以下の範囲内、さらに好ましくは1%以上30%以下の範囲内とされる。この範囲にある微細セルロースは水に不溶であるが非常によくなじみ、分散性もよい。さらに、セルロース中に元々ある水酸基よりも極性が高く、水素結合能も高いカルボキシル基を導入することにより、ガスバリアフィルムに高いガスバリア性を付与できる。
【0028】
このような糖類の重量平均分子量としては、用いる糖類の種類によって異なるものではあるが、具体的には100〜500万の範囲内であることが好ましく、特に500〜100万の範囲内、中でも500〜50万の範囲内であることが好ましい。糖類の重量平均分子量が上記範囲を超えると、ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が高くなりすぎることから、ゾルゲルコート層を形成する際、塗布ムラ等が発生し、良好なガスバリア性が得られにくくなる可能性があるからである。また、糖類の重量平均分子量が上記範囲であることにより、良好な成膜性が得られるからである。
なお、上記重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができ、東ソー(株)製高速GPC装置で、カラムは東ソー(株)TSK−gelPW(商品名)、有機溶媒はTHFを用い、流速0.5cc/minの条件で測定した値を用いることができる。
【0029】
また、このような糖類の含有量としては、ゾルゲルコート層中、0.01質量%〜50質量%の範囲内、中でも0.05質量%〜25質量%の範囲内、特に0.1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。糖類の含有量が上記範囲を超える場合、ゾルゲルコート層を形成する際、ゾルゲルコート層形成用塗工液の良好な塗工性が得られにくく、またゾルゲルコート層の成膜性が不十分となり、均一な膜を形成しにくい場合があるからである。また、糖類の含有量が上記範囲に満たない場合、良好な密着性が得られにくくなるからである。
【0030】
また、ゾルゲルコート層は、有機金属化合物の加水分解物、または、MO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケートのいずれかを含有するものである。
【0031】
なお、本発明において、「有機金属化合物の加水分解物」とは、有機金属化合物または有機金属化合物の加水分解物をいい、有機金属化合物も含まれる。
本発明に用いられる有機金属化合物の加水分解物は、特に限定されるものではないが、例えば、一般式AM(OR)n−m(式中、Aは炭素数1〜10個の炭素主鎖1種類以上で構成され、Mは金属元素、Rはアルキル基であり、nは金属元素の酸化数、mは置換数(0≦m<n)を表す)で示される有機金属化合物、または上記有機金属化合物の重合体からなることが好ましい。上記一般式で示される有機金属化合物の置換基がビニル基、エポキシ基、アルキル基、アミノ基を有してもよく、それらの有機金属化合物を1種類または、2種類以上添加することにより、各種機能、特に耐水性、耐湿性を付与することが可能となる。
【0032】
また、上記一般式で示される金属元素Mは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)とすることが好ましい。
【0033】
また、本発明に用いられるMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケートとしては、LiO・nSiO(nはモル比)で表されるリチウムシリケートを必須成分とするものである。これは、リチウムを含まない単独または複数のアルカリ金属で構成されるアルカリ金属ポリシリケートを含有する膜では、ガスバリア層と積層した場合に、高温高湿下で安定した高度なガスバリア性を達成できない場合があるからである。
本発明においては、ガスバリア層とゾルゲルコート層とを積層することにより、ガスバリア性を向上させるものであるので、ゾルゲルコート層自体はガスバリア性を有さないものであってもよい。したがって、上記アルカリ金属ポリシリケートにはリチウム以外のアルカリ金属系のシリケートが含まれていてもよく、例えばナトリウムシリケートやカリウムシリケートが含まれていてもよい。ナトリウムシリケートは安価であるのでコスト的に有利であり、カリウムシリケートは耐水性が良好である。
このアルカリ金属ポリシリケートの溶液としては、水を溶媒とした一般に水ガラス(珪酸ナトリウム水溶液の通称)として知られるアルカリシリケート水溶液が用いられる。
【0034】
上記の有機金属化合物の加水分解物またはアルカリ金属ポリシリケートと、上記糖類との配合比は、膜強度や耐水性等を考慮して適宜調整される。
【0035】
本発明においては、ゾルゲルコート層が、例えば無機層状化合物、窒素化合物などの添加剤を含有していてもよい。
【0036】
無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいう。無機層状化合物は酸素や水蒸気等のガスの透過を遮ることができるため、ゾルゲルコート層が無機層状化合物を含有する場合、ゾルゲルコート層内では、無機層状化合物を避けるようにガスが通り抜けることになり、ガスバリア性を高めることができる。この無機層状化合物としては、例えばカオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等の粘土鉱物を挙げることができる。一般的には、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等を挙げることができ、これらの中でも、ゾルゲルコート層を形成する際に用いられるゾルゲルコート層形成用塗工液中での安定性や、塗工性等の点から好ましいものとしてモンモリロナイトを挙げることができる。
上記ゾルゲルコート層に無機層状化合物を含有させる場合、無機層状化合物と糖類との重量比を1:99〜99:1の範囲内とすることができる。
【0037】
また、ゾルゲルコート層が窒素化合物を含有する場合には、ゾルゲルコート層の緻密化を促進させることができる。窒素化合物としては、有機金属化合物の加水分解物やアルカリ金属ポリシリケートとの相溶性、柔軟性を考慮して、アミノ基含有シランカップリング剤を含むアミン類が好ましく用いられる。アミノ基含有シランカップリング剤を含むアミン類をゾルゲルコート層に含有させることにより、水蒸気に対して高いバリア性を実現することができるからである。
【0038】
さらに、上記アルカリ金属ポリシリケートを用いる場合には、ゾルゲルコート層が、添加剤として有機ケイ素化合物を含有していてもよい。有機ケイ素化合物は、成膜性や密着性を改善したり、ゾルゲルコート層のクラックの発生を防ぐことができるからである。有機ケイ素化合物としては、特にメトキシ基やエトキシ基など炭素数1〜3の低級アルコキシル基をもつもの、アルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン末端の加水分解性をもつものが好ましく用いられる。このような有機ケイ素化合物は、上記アルカリ金属ポリシリケートとの相溶性や分散性が良好であるからである。
【0039】
ここで、このようなゾルゲルコート層の膜厚は、0.01μm〜50μmの範囲内とすることが好ましく、中でも0.1μm〜10μmの範囲内、特に0.5μm〜5μmの範囲内であることが好ましい。これにより、上記ゾルゲルコート層成膜時の乾燥による硬化収縮の際、クラック等が発生することを防止することができ、ガスバリア性の低下を抑制することができる。また、ゾルゲルコート層の膜厚が上記範囲内であることにより、上記ゾルゲルコート層の速乾性を高めることができ、製造工程上有利となる。さらに、上記ガスバリア層の膜厚が上記範囲内であれば、上記ガスバリア層のピンホールやクラック等を埋めて欠陥を補うことは十分に可能であるからである。
【0040】
なお、ゾルゲルコート層の形成方法については、後述する「B.ガスバリアフィルムの製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0041】
2.ガスバリア層
本発明に用いられるガスバリア層は、ガスバリア性を付与するために基材上に形成された蒸着膜であれば特に限定されるものはなく、透明膜であっても、不透明膜であってもよい。
【0042】
蒸着膜を透明膜とする場合の材料としては、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化チタン等を挙げることができる。
また、酸化ケイ素からなる蒸着膜は、主たる構成要素であるケイ素および酸素の他に、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム等の金属や、炭素、ホウ素、窒素、フッ素等の非金属元素を含んでいてもよい。
一方、不透明膜とする場合の材料としては、アルミニウム、チタン、シリコン等を挙げることができる。
【0043】
本発明においては、上記の材料の中でも、酸化ケイ素が好ましく用いられる。酸化ケイ素を用いて成膜された蒸着膜は、ゾルゲルコート層、および基材や後述するアンカー層との密着性が良好であるからである。
【0044】
上記ガスバリア層は、単一層であってもよく、バリア性を向上させるために複数積層してもよい。また、積層する場合の組み合わせとしては、同種、異種を問わない。
【0045】
また、ガスバリア層は、後述する基材の少なくとも一方の面に形成されるものであり、基材の片方の面に形成されるものであってもよく、また基材の両面に形成されるものであってもよい。
【0046】
このようなガスバリア層の膜厚は、水蒸気や酸素に対するバリア性を有するような膜厚あれば特に限定されるものではなく、上述した材料により適宜選択される。通常は5nm〜5000nmの範囲内であり、好ましくは50nm〜1000nmの範囲内、特に100nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。また、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を用いた場合は、10nm〜300nmの範囲内であることがより好ましい。ガスバリア層の膜厚が薄すぎるとバリア性の低下が見られ、一方、ガスバリア層の膜厚が厚すぎるとガスバリア層形成時にクラック等が入る可能性があるからである。
【0047】
上記ガスバリア層は、例えばスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)や、化学的気相成長法(CVD)などにより形成することができる。これらの中でも、ガスバリア層形成時における基材および後述するアンカー層への熱の影響を比較的少なくすることができ、生産速度が速く、均一な薄膜を得やすい点では、化学的気相成長法(CVD)が好ましい。
【0048】
3.基材
本発明に用いられる基材は、上述した蒸着膜からなるガスバリア層を保持することができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的に使用されている種々のシート状またはフィルム状の基材を、本発明のガスバリアフィルムの用途に応じて適宜選択して使用することができる。
【0049】
このような基材としては、例えば紙、板紙やポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル等あるいはこれらの高分子の共重合体を使用することができる。なお、上記プラスチック材料については、延伸、未延伸のどちらでもよく、また機械強度や寸法安定性を有するものがよい。
【0050】
この基材としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を含有したものを使用することができる。また、表面に、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理等の表面改質を行い、その表面に形成される被膜との密着性を向上させたものも使用することができる。
【0051】
基材の厚さとしては、特に制限を受けるものではなく、本発明のガスバリアフィルムの用途や、ガスバリア層以外にも他の層を積層する等の層構成等に応じて異なるものであるが、実用的には3〜200μmの範囲で、価格面や用途によっては3〜30μmとすることがより好ましい。特に包装用途では、12μm程度とする場合が多い。
【0052】
4.アンカー層
本発明のガスバリアフィルムは、例えば図2に示すように、基材2とガスバリア層3との間にアンカー層6が形成されていてもよい。このようにアンカー層が形成されていることにより、上記基材と上記ガスバリア層との密着性を向上させることが可能となり、例えば本発明のガスバリアフィルムが可撓性を有する包装材に用いられた場合であっても、ガスバリア層が剥離する等の問題が生じることがなく、良好なガスバリア性を維持することが可能となる。
後述するようにガスバリア層とゾルゲルコート層とを交互に繰り返し積層する場合には、積層されたガスバリア層およびゾルゲルコート層のうち最も基材側に形成されている層と基材との間にアンカー層が形成される。
【0053】
上記アンカー層に用いられる材料としては、ポリエチレンイミンやその誘導体、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレア系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系エマルジョン、界面活性剤などを含んだものを用いることができる。また、イソシアネート化合物やイソシアネート化合物とアクリル樹脂との混合物なども用いることができる。
【0054】
本発明においては、上記アンカー層に用いられる材料として、上述した中でも耐アルカリ性に優れた、ウレタン結合、ウレア結合を含んでいるものとすることが好ましい。
【0055】
上記アンカー層を設ける場合の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。これらの塗工方式を用いて基材上に塗布する。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射など、特に限定しない。
【0056】
5.オーバーコート層
本発明のガスバリアフィルムは、例えば図2に示すように、ゾルゲルコート層4上にオーバーコート層7が形成されていてもよい。このようにオーバーコート層を形成することで、ラミネートや印刷の時に生じる熱やこすれ、引っ張りによるダメージ(クラック)の発現を、オーバーコート層がクッション代わりになることにより防ぎ、また耐湿性を向上させることが可能となる。
後述するようにガスバリア層とゾルゲルコート層とを交互に繰り返し積層する場合には、ガスバリア層およびゾルゲルコート層が積層された最表面にオーバーコート層が形成される。
【0057】
上記オーバーコート層の材料としては、耐アルカリ性に優れた、ウレタン結合、ウレア結合を含んでいるものとすることができ、具体的にはイソシアネート化合物やイソシアネート化合物とアクリル樹脂との混合物などを挙げることができる。
【0058】
このような材料を用いてオーバーコート層を形成する場合の形成方法としては、上述したアンカー層と同様の形成方法を用いることができる。
【0059】
上記オーバーコート層の厚みとしては、厚さが0.001μm以下では密着性や被膜形成性が得られず、1μm以上では不経済であるため好ましくない。一般的には0.1μm〜1μmの範囲が実用的で好ましい。
【0060】
6.その他の層
本発明のガスバリアフィルムは、上述した各層以外にも他の層が設けられていてもよく、例えば印刷層やヒートシール層等が設けられていてもよい。
【0061】
印刷層は、本発明のガスバリアフィルムを包装袋などとして実用的に用いるために形成されるものであり、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系等の従来から公知に用いられているインキバインダー樹脂に各種顔料、耐候顔料及び可塑剤、乾燥剤、安定剤等の添加剤などが添加されてなるインキにより構成される層で、文字、絵柄等が形成されている。形成方法としては、例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、グラビアコート等の周知の塗布方式を用いることができる。厚さは、0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択される。
【0062】
また印刷層を積層する時に多色の印刷機を用いる場合、先にゾルゲルコート層および/またはオーバーコート層を設けた後そのまま同じ印刷機を用いて印刷層を設けてもよい。
【0063】
またヒートシール層は、本発明のガスバリアフィルムを袋状包装体とする場合の接着部等に利用されるものであり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びそれらの金属架橋物等の樹脂が用いられる。厚さは目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。
【0064】
ヒートシール層の形成方法としては、上述樹脂からなるフィルム状のものを2液硬化型ウレタン系接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法、無溶剤接着剤を用いて貼り合わせるノンソルベントドライラミネート法、上述した樹脂を加熱溶融させカーテン状に押し出し貼り合わせるエキストルージョンラミネート法等いずれも公知の積層方法により形成することができる。
【0065】
7.ガスバリアフィルム
本発明においては、ガスバリア層の直上にゾルゲルコート層を設けることにより、良好なガスバリア性が得られるので、基材側から、ガスバリア層およびゾルゲルコート層の二層が直接積層されていればよく、例えばガスバリア層とゾルゲルコート層とが交互に繰り返し積層されていてもよい。
【0066】
例えば図3に示すように、基材2側からガスバリア層3、ゾルゲルコート層4、ガスバリア層3の順に積層された3層構成であってもよい。このような3層構成とすることにより、基材上に形成されたガスバリア層のピンホールやクラック等がその上に形成されたゾルゲルコート層により補われるとともに、さらにゾルゲルコート層上にガスバリア層が形成されるので、ガスバリアフィルムのガスバリア性を高めることが可能となるからである。
【0067】
また、例えば図4に示すように、基材2側からゾルゲルコート層4、ガスバリア層3、ゾルゲルコート層4の順に積層された3層構成であってもよい。本発明におけるゾルゲルコート層は、糖類を含有していることから、上述したような層構成とすることにより、基材とガスバリア層との密着性を向上させることができ、良好なガスバリア性を得ることができる。ここで、一般的に、柔軟性等が高い基材上に直接、蒸着膜を形成すると、蒸着膜にクラック等が生じやすい場合がある。また一般に、ゾルゲルコート層は、蒸着膜よりも軟らかく、柔軟性等が高い基材よりも硬い場合が多い。このため、上述したように基材上にゾルゲルコート層を積層することにより、蒸着膜を形成する面の硬さが増し、蒸着膜を形成するのに適した硬さとすることができる。したがって、上述したような構成とすることにより、ゾルゲルコート層上にガスバリアを形成する際、ガスバリア層にクラックが発生することを防ぐことが可能となる。
【0068】
さらに、例えば図5に示すように、基材2側からガスバリア層3、ゾルゲルコート層4、ガスバリア層3、ゾルゲルコート層4の順に積層された4層構成であってもよく、またこれ以上であってもよい。これにより、さらに優れたバリア性が得られるからである。
【0069】
このようにガスバリア層とゾルゲルコート層とを交互に繰り返し積層する場合には層間の密着性が良好であるので、従来のようにガスバリア性を高めるためにガスバリア層を厚くまたは重ねて形成する場合とは異なり、剥離や亀裂が生じにくいという利点を有する。また、本発明においては、ガスバリア層とゾルゲルコート層とを直接積層させることにより、ガスバリア性が向上するため、各層の厚みを厚くする必要がなく、ガスバリア層とゾルゲルコート層とを交互に繰り返し積層して多層構造としたとしても、ガスバリアフィルム全体の厚みを抑えることできる。
ガスバリア層とゾルゲルコート層とを重ねて設ける場合には、2層以上であればよいが、ガスバリアフィルムの全体の厚みを考慮すると8層程度までとすることが好ましい。
【0070】
本発明のガスバリアフィルムのガスバリア性としては、酸素透過率(OTR)が1cc/m/day/atm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5cc/m/day/atm以下、特に0.1cc/m/day/atm以下であることが好ましい。また、水蒸気透過率(WVTR)が1g/m/day以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/m/day以下、特に0.1g/m/day以下であることが好ましい。
なお、上記酸素透過率は、測定温度23℃、湿度90%Rhの条件下で、酸素ガス透過率測定装置(モダンコントロール(株)製、OX−TRAN 2/20:商品名)を用いて測定した値である。また、上記水蒸気透過率は、測定温度37.8℃、湿度100%Rhの条件下で、水蒸気透過率測定装置(モダンコントロール(株)製、PERMATRAN−W 3/31:商品名)を用いて測定した値である。
【0071】
本発明のガスバリアフィルムは、内容物の品質を変化させる原因となる酸素と水蒸気をほとんど透過させないので、高いガスバリア性が要求される用途、例えば食品や医薬品等の包装材料や電子デバイス等のパッケージ材料用に好ましく用いることができる。また、その高度なガスバリア性および耐衝撃性を共に有する点から、例えば各種ディスプレイ用の基材として用いることが可能である。また、太陽電池のカバーフィルム等にも用いることができる。
【0072】
B.ガスバリアフィルムの製造方法
次に、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について説明する。本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、基材上に、蒸着法によりガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程と、上記ガスバリア層上に、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有するゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布し、ゾルゲル反応により硬化させてゾルゲルコート層を形成するゾルゲルコート層形成工程とを有するガスバリアフィルムの製造方法であって、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が、25℃において1Pa・s〜1000Pa・sの範囲内であることを特徴とするものである。
【0073】
一般に、基材上にゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布する際、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が高すぎると、塗布ムラが発生しやすく、均一な膜を形成することが困難となってしまう。そこで本発明においては、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度を上記範囲内とする。これにより、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の塗工性を良好なものとすることが可能となる。したがって、塗布ムラのない均一な膜を形成することができ、酸素や水蒸気に対して良好なバリア性を有するガスバリアフィルムを得ることが可能となるのである。
【0074】
なお、ガスバリア層形成工程については、上述した「A.ガスバリアフィルム」のガスバリア層の項にガスバリア層の形成方法について記載したので、ここでの説明は省略する。以下、ゾルゲルコート層形成工程について説明する。
【0075】
1.ゾルゲルコート層形成工程
本発明におけるゾルゲルコート層形成工程は、基材上に形成されたガスバリア層上に、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有するゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布し、ゾルゲル反応により硬化させてゾルゲルコート層を形成する工程である。
【0076】
本発明においては、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が、25℃において1Pa・s〜1000Pa・sの範囲内であり、中でも5Pa・s〜800Pa・sの範囲内、特に10Pa・s〜500Pa・sの範囲内であることが好ましい。ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が上記範囲を超えると、塗工性に問題が生じることから、均一な膜が形成しにくくなり、良好なガスバリア性を有するガスバリアフィルムが得られない場合があるからである。一方、ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が上記範囲に満たないと、形成されたゾルゲルコート層とガスバリア層との密着性の向上が期待できない可能性があるからである。
なお、ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度は、B型粘度計(山一電機製visco−mate modelDD−1)を用いて、温度25℃で測定した値を用いることができる。
【0077】
また、上記ゾルゲルコート層形成用塗工液は、上記有機金属化合物の加水分解物または上記アルカリ金属ポリシリケート、および上記糖類を含有するものであり、これらを溶媒で希釈して調製されるものである。このような溶媒としては、例えば、水;イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;あるいはこれらの混合物等が好適に用いられる。
【0078】
上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の固形分濃度は、粘度が上記範囲内となるように調製される。上記ゾルゲルコート層形成用塗工液の固形分濃度として具体的には、0.01質量%〜50質量%の範囲内、中でも0.05質量%〜25質量%の範囲内、特に0.1質量%〜10質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0079】
さらに、本発明のゾルゲルコート層形成用塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、カップリング剤等を含有していてもよい。
【0080】
上記ゾルゲルコート層形成用塗工液を調製する際には、例えば糖類の水溶液とアルカリシリケート水溶液とを混合したり、糖類の水溶液と有機金属化合物とを混合したり、糖類の水溶液と有機金属化合物をあらかじめ加水分解させたものとを混合したりすることができる。
【0081】
ゾルゲルコート層形成用塗工液の塗布方法としては、ガスバリア層上に塗布可能であれば特に限定されないが、例えばバーコート、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。上述した中でも、例えばフィルム状の基材に塗布する場合においては、バーコート、グラビアコート、ダイコート、グラビアオフセット法が好適に用いられ、特に生産効率およびコスト面を考慮すると、グラビアコートが好適に用いられる。
【0082】
上記ゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布した後は、ゾルゲル反応による脱水重縮合によって硬化させて、成膜する。塗布されたゾルゲルコート層形成用塗工液は、加熱乾燥することによって硬化させることができる。このようなゾルゲルコート層形成用塗工液の加熱乾燥方法としては、基材上に塗布したゾルゲルコート層形成用塗工液を硬化させることが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等を用いる方法を挙げることができる。
また、この際の温度としては、ゾルゲルコート層形成用塗工液を硬化させることができる温度であれば特に限定されるものではなく、加熱乾燥方法、溶媒の種類、および用いるアルカリ金属ポリシリケート等のゾルゲル反応成分の種類や含有量等によって異なるが、通常80℃〜200℃程度、好ましくは100℃〜150℃の範囲内である。また、加熱時間としては、上記と同様にゾルゲルコート層形成用塗工液を硬化させることができる時間であれば特に限定されるものではなく、加熱乾燥方法、溶媒の種類、および用いるアルカリ金属ポリシリケート等のゾルゲル反応成分の種類や含有量等によって異なるが、1分〜120分程度で設定することができ、好ましくは5分〜60分の範囲内である。
このような反応条件でゾルゲルコート層形成用塗工液を硬化させることにより、ゾルゲルコート層を形成することができる。
【0083】
なお、上記有機金属化合物の加水分解物、アルカリ金属ポリシリケート、および糖類については、上述した「A.ガスバリアフィルム」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0084】
2.その他の工程
本発明においては、上記ガスバリア層形成工程およびゾルゲルコート層形成工程を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、基材上にアンカー層を形成するアンカー層形成工程や、上記ゾルゲルコート層上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成工程等、必要に応じて適宜他の工程を有していてもよい。
【0085】
このようなアンカー層形成工程およびオーバーコート層形成工程については、上述した「A.ガスバリアフィルム」の項にアンカー層の形成方法およびオーバーコート層の形成方法を記載したので、ここでの説明は省略する。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0087】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0088】
(ゾルゲルコート溶液の調製)
固形分10wt%に調整したリチウムシリケート水溶液(LiO・nSiO、n=約5mol比)10gに、テトラエチルオルソシリケート(Si(OC:TEOSと略記)8.3g(0.04mol)と、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(チッソ製 サイラーエースS530)9.9g(0.04mol)と、0.1Nの塩酸18gとを加え18時間攪拌し、ゾルゲルコート溶液を調製した。
(糖類溶液の調製)
アミロウロン酸の5%水溶液を調製し、糖類溶液とした。
【0089】
[実施例1]
(ガスバリア層形成工程)
基材として、2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製、エンブレットPET12、厚み12μm)を用いた。次に、巻き取り式の真空蒸着装置を用い、チャンバーの到達真空度が3.0×10−5torr(4.0×10−3Pa)になるまで排気した後、酸素ガスをコーティングドラムの近傍に、チャンバー内の圧力を3.0×10−4torr(4.0×10−2Pa)に保って導入し、蒸発源の一酸化ケイ素をピアス型電子銃により、約10kwの電力で加熱して蒸着させ、コーティングドラム上を120m/minの速度で走行するポリエステルフィルム上に、厚みが500Åの酸化ケイ素のガスバリア層を形成した。
(ゾルゲルコート層形成工程)
ゾルゲルコート溶液および糖類溶液を、重量比5:5で混合し、ゾルゲルコート層形成用塗工液を調製した。このゾルゲルコート層形成用塗工液を上記ガスバリア層上に、乾燥後の膜の厚みが約1μmとなるようにバーコーティングし、100℃で30分間熱処理してゾルゲルコート層を形成し、ガスバリアフィルムを得た。
【0090】
[実施例2]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、ゾルゲルコート溶液および糖類溶液の重量比を2:8としたこと以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア層上にゾルゲルコート層を形成し、ガスバリアフィルムを得た。
【0091】
[実施例3]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、ゾルゲルコート溶液および糖類溶液の重量比を8:2としたこと以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア層上にゾルゲルコート層を形成し、ガスバリアフィルムを得た。
【0092】
[実施例4]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、実施例1と同様にゾルゲルコート層形成用塗工液を調製した。このゾルゲルコート層形成用塗工液を上記ガスバリア層上に、乾燥後の膜の厚みが約0.01μmとなるようにバーコーティングしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。
【0093】
[実施例5]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、実施例1と同様にゾルゲルコート層形成用塗工液を調製した。このゾルゲルコート層形成用塗工液を上記ガスバリア層上に、乾燥後の膜の厚みが約20μmとなるようにバーコーティングしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。
【0094】
[比較例1]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、糖類溶液のみを用いてゾルゲルコート層形成用塗工液を調製し、実施例1と同様にして、ガスバリア層上にゾルゲルコート層を形成し、ガスバリアフィルムを得た。
【0095】
[比較例2]
実施例1と同様にして、基材上にガスバリア層を形成した。
次に、ゾルゲルコート溶液のみを用いてゾルゲルコート層形成用塗工液を調製し、実施例1と同様にして、ガスバリア層上にゾルゲルコート層を形成し、ガスバリアフィルムを得た。
【0096】
[評価]
得られたガスバリアフィルムの特性を評価した結果を下記表1に示す。酸素透過率および水蒸気透過率は、上述した方法により測定した。また、全光線透過率は、日本電色社製 ヘイズメーターNDH2000を用いて測定した値の平均値とした。
【0097】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明のガスバリアフィルムの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明のガスバリアフィルムの他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のガスバリアフィルムの他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のガスバリアフィルムの他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明のガスバリアフィルムの他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 … ガスバリアフィルム
2 … 基材
3 … ガスバリア層
4 … ゾルゲルコート層
6 … アンカー層
7 … オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成され、蒸着膜からなるガスバリア層と、前記ガスバリア層上に形成され、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有する膜からなるゾルゲルコート層とを有することを特徴とするガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記糖類の重量平均分子量が、100〜500万の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記ゾルゲルコート層の膜厚が、0.01μm〜50μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記基材と前記ガスバリア層との間にアンカー層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの請求項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記ゾルゲルコート層上にオーバーコート層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかの請求項に記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
基材上に、蒸着法によりガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程と、
前記ガスバリア層上に、有機金属化合物の加水分解物またはMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1〜20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケート、および糖類を含有するゾルゲルコート層形成用塗工液を塗布し、ゾルゲル反応により硬化させてゾルゲルコート層を形成するゾルゲルコート層形成工程と
を有するガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記ゾルゲルコート層形成用塗工液の粘度が、25℃において1Pa・s〜1000Pa・sの範囲内であることを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98654(P2007−98654A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288809(P2005−288809)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】