説明

ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法、ガスバリアフィルムの製造方法および電子素子の製造方法

【課題】ガスバリアフィルムの巻き癖を、そのガスバリア能を劣化させることなく、短時間で直す方法の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂から構成される支持体と、少なくとも一層の有機層および少なくとも一層の無機層を含むガスバリア層とを有し、かつ、前記支持体側を内側にした巻き癖を有するガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法であって、前記ガスバリアフィルムを支持体側の面から加熱して支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御する工程と、前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する工程を含むことを特徴とするガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法(但し、Tgは前記支持体のガラス転移温度を表す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法と、該ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を含むガスバリアフィルムの製造方法に関する。また、本発明は、前記ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を使用されたガスバリアフィルム、または前記ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたガスバリアフィルムを用いる、電子素子の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ロール状のフィルムやシートをロール状のまま保管すると、巻き癖が生じることが知られている。このような巻き癖が生じたフィルムやシートは、裁断後にも巻き癖が残ってしまい、搬送性や集積性が悪化する問題が生じたりする。従来、このような巻き癖が生じたフィルムやシートの巻き癖を直す方法として、例えば、特許文献1および2に記載の方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、加熱ローラーを用いてロール状シート体であるロール紙の巻き癖を解消する方法として、該シート体のカール情報に基づいて、加熱ローラーの加熱温度と加熱ローラー周面へのシート体のラップ時間を設定する方法が開示されている。
しかしながら、同文献には、ロール状シート体を加熱する温度が具体的には開示されていなかった上、ロール状シート体の巻き癖と同方向に加熱ローラーに巻き付けて巻き癖を解消しているために、巻き癖を直す効果が不十分であった。さらに、同文献に記載の方法では、ロール状シート体の全面を加熱ローラー周面に密着させて巻き癖を解消しており、同文献に記載されている装置の構成によれば、ロール状シート体の加熱ローラーによって加熱された側の面と反対側の面の方向に巻き付けるロールは加熱ローラーのかなり後方に配置されている。そのため、シート体は加熱された後、その加熱された側の面と反対側の面の方向に巻き付けられるまでの時間は長時間経過するような巻き癖を直す方法であった。
【0004】
特許文献2には、原反の表面に傷を付けずに原反の巻き癖を直す方法として、原反を供給するロールの巻取径に対応した温度まで加熱した後で、供給ロールの巻付方向と逆方向に原反を張力状態で巻付ける小径ローラーを巻き癖除去ローラーとして用いる方法が開示されている。また、同文献には、供給ロールの巻取径が200mmの場合の最適加熱温度として、偶然原反のポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度に対応した80℃と求めたことが開示されている。
しかしながら、同文献では、供給ロールの巻取径が異なる場合には原反のガラス転移温度よりも低い温度が最適加熱温度であることが開示されており、原反のガラス転移温度以上に加熱することが好ましいことは示唆されていない。また、同文献では、巻き癖除去ローラーが原反の全面と密着させて巻き癖を直していた。
【0005】
一方、ガスバリア層を有するガスバリアフィルムの場合、巻き癖が生じたガスバリアフィルムをそのままシート状に裁断して電子素子を含む基板などへ貼り付けるときに、巻き癖に起因して生じるカール量の大きさが問題となる。具体的には、ガスバリアフィルムを用いて電子素子などを封止するときに、そもそもガスバリアフィルムが基板などに貼り付かないといった問題や、あるいはガスバリアフィルムを基板などに貼り付けた後に経時によって基板などから剥がれてしまう故障が発生する。ガスバリアフィルムの場合はガスバリア能が基板との密着性に直接影響を受けるため、このような問題は従来のその他のフィルムの巻き癖の問題と比較して、より大きな問題となる。
【0006】
また、近年、有機ELディスプレイなどへのガスバリアフィルムの用途の拡大から、より高性能なガスバリアフィルムをより簡略な製造方法で多量に製造することが求められてきている。このような観点からも、ガスバリアフィルムの巻き癖を、そのガスバリア能を劣化させることなく、短時間で直す方法が求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−226009号公報
【特許文献2】特開平6−64145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が、ガスバリアフィルムの巻き癖を直すために特許文献1および2に記載の方法を検討したところ、これらの方法はガスバリアフィルムの巻き癖を直す場合に適さないことがわかった。具体的には、特許文献1に記載の方法では、温度設定範囲が明確でない上、巻き癖を直す加熱ローラーは支持体側に巻き付けているために単時間で十分に巻き癖を直す観点からは不満が残った。一方、特許文献2に記載の方法をガスバリアフィルムに適用すると、ガスバリア層の全面が巻き癖を直すローラーと直接接触してしまい、ガスバリア層が傷ついたり、ガスバリア能が劣化したりすることがわかった。また、同文献に記載の加熱温度では、巻き癖を単時間に直す観点からも不満が残ることがわかった。
【0009】
本発明の目的は、以上の問題を解決することにある。
すなわち、本発明の課題は、ガスバリアフィルムの巻き癖を、そのガスバリア能を劣化させることなく、短時間で直す方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記課題を解決することを目的に鋭意研究を行った結果、前記支持体側を内側にした巻き癖を直すためのローラーとして膜面中央部非接触ローラーを使用することでガスバリア層の劣化や傷付きを防止しつつ、更に支持体の加熱温度を特定の範囲内に制御しつつ、前記支持体の温度がTgに到達してから特定の時間内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送することにより、顕著に短時間で巻き癖を直すことできることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、以下の構成の本発明によって、上記課題は解決された。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂から構成される支持体と、少なくとも一層の有機層および少なくとも一層の無機層を含むガスバリア層とを有し、かつ、前記支持体側を内側にした巻き癖を有するガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法であって、前記ガスバリアフィルムを支持体側の面から加熱して支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御する工程と、前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する工程を含むことを特徴とするガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法(但し、Tgは前記支持体のガラス転移温度を表す。以下において同じ。)。
[2] 前記ガスバリアフィルムが、支持体の一方の面上に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層が交互に積層した構造を有することを特徴とする[1]に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
[3] 前記ガスバリアフィルムが、支持体が内側になるように巻き取られたロール状のガスバリアフィルムであることを特徴とする[1]または[2]に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
[4] 前記ガスバリアフィルムの支持体の温度を制御する工程を、非接触型加熱手段を用いて行うことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
[5] 前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー全周長の1/8以上1/2以下にわたってローラー周方向に搬送することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載の巻き癖を直す方法の後に、前記ガスバリアフィルムを巻き取らずに連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
[7] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を使用されたガスバリアフィルムまたは[6]に記載のガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたガスバリアフィルムを用いて、電子素子を封止する工程を含むことを特徴とする電子素子の製造方法。
[8] 前記電子素子が、有機EL素子であることを特徴とする[7]に記載の電子素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガスバリアフィルムの巻き癖を、そのガスバリア能を劣化させることなく、短時間で直すことができる。
ガスバリアフィルムの巻き癖を直してフラットにすることで、有機ELパネルなどの電気素子に貼り付け易くなり、封止性能を良化することができる。また、ガスバリアフィルムの巻き癖を直してフラットにすることで、有機ELパネルなどの電気素子に貼り付けるときの圧力が減らせ、ガスバリアフィルムが劣化し難くなる。これらの結果、有機ELディスプレイの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に用いられるガスバリアフィルムの代表的な構成を表す概略図である。
【図2】本発明におけるカール量の測定場所を表す概略図である。
【図3】本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法における、ガスバリアフィルムの支持体の温度を制御する位置を表す概略図である。
【図4】比較例のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。
【0015】
[ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法]
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法は、熱可塑性樹脂から構成される支持体と、少なくとも一層の有機層および少なくとも一層の無機層を含むガスバリア層とを有し、かつ、前記支持体側を内側にした巻き癖を有するガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法であって、前記ガスバリアフィルムを支持体側の面から加熱して支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御する工程と、前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法について、詳細に説明する。
【0016】
(ガスバリアフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂から構成される支持体と、少なくとも一層の有機層および少なくとも一層の無機層を含むガスバリア層とを有し、かつ、前記支持体側を内側にした巻き癖を有する。
本発明の方法では、前記ガスバリアフィルムは、支持体の一方の面上に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層が交互に積層した構造を有することが、より好ましい。前記ガスバリアフィルムは、前記ガスバリア層がさらにその他の有機層を含む態様も好ましい。前記ガスバリアフィルムの代表的な好ましい態様を図1に示す。
【0017】
本発明におけるガスバリアフィルムは、特開2009−094051号公報の段落番号0011〜0030の記載に従って構成することができる。
【0018】
本発明の方法では、前記ガスバリアフィルムは前記支持体側を内側にした巻き癖を有する。ここで、本明細書中、「巻き癖」とは、ロール状フィルムを巻き戻して元に戻らずカールすることを言う。
このような巻き癖の強さについては、そのカール量を定量的に測定することで評価することができる。ここで、本明細書中におけるカール量とは、A4サイズに切り出したフィルムを平台上に置き、その浮き上がり量のことを言う。図2に、カール量の測定方法を表す概略図を記載した。
このようなカール量はノギスを用いて測定することができる。なお、カール量がプラスの値であることは、成膜面を上にして凹を表し、カール量がマイナスの値であることは、成膜面を上にして凸を表す。
【0019】
本発明の方法に用いられる前記ガスバリアフィルムは前記支持体側を内側にした巻き癖を有するものであればよく、ロール状に巻き取られた状態から直接供給されたガスバリアフィルムであっても、一度ロール状に巻き取られた後に巻き戻した(フィルム状に広げられた)後のガスバリアフィルムであっても本発明の方法に用いることができる。
【0020】
本発明の方法では前記ガスバリアフィルムは、支持体が内側になるように巻き取られたロール状のガスバリアフィルムであることが、工程をより簡略化できる観点から、より好ましい。また、ガスバリアフィルムをロール状に巻き取って保管する場合は、バリア性能維持の観点から、支持体が内側になるように巻き取ることが一般的である。
【0021】
(加熱工程)
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法は、前記ガスバリアフィルムを支持体側の面から加熱して支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御する工程を含む。このようにガスバリアフィルムの支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御するように加熱することで、短時間で巻き癖を除去できるという利点がある。
前記支持体の温度は、Tg+5〜Tg+35℃に制御されることが好ましく、Tg+10〜Tg+30℃に制御されることが特に好ましい。
【0022】
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法は、前記ガスバリアフィルムの支持体の温度を制御する工程を、非接触型加熱手段を用いて行うことが、前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させやすくする観点から、好ましい。
前記非接触型加熱手段である前記ガスバリアフィルムの支持体の温度を制御するとしては、例えば、ヒーターを用いて温風をあてる抵抗加熱方法や、赤外線加熱方法、誘導加熱方法などを挙げることができ、本発明では、抵抗加熱方法を用いた。
【0023】
(膜面中央部非接触ローラーに接触させる工程)
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法は、前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する工程を含む。このようにガスバリアフィルムの支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送することで、短時間で巻き癖を除去できるという利点がある。なお、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部が膜面中央部非接触ローラーに接触したと同時にガスバリアフィルムの支持体の温度がTgに到達する場合は、本発明に含まれない。
ガスバリアフィルムの支持体の温度Tgに到達してから前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部が膜面中央部非接触ローラーに接触するまでの時間は、0.1〜0.7秒以内であることが好ましく、0.1〜0.5秒以内であることがより好ましい。また、ガスバリアフィルムの搬送速度は2〜15m/minであることが好ましく、4〜13m/minであることがより好ましい。
【0024】
本明細書中、前記膜面中央部非接触ローラーとは、成膜面にあたる中央部が非接触であり、端部は接触するという構成を有するローラーのことを言い、段差ローラーや段差付きローラーと呼ばれることもある。本発明の方法では、このような構成のローラーを用いることで、ガスバリアフィルムの支持体とは逆側に形成されているガスバリア層と接触する部分を、該ガスバリア層の一部とすることができ、ガスバリア層全体に傷が生じたりすることを防ぐことができる。
本発明に用いられる前記膜面中央部非接触ローラーとしては、本発明の趣旨に反しない限り特に制限はないが、例えば、特開2009−179853号公報に記載の段差付きローラーを用いることができる。
前記膜面中央部非接触ローラーが接触するガスバリア層の部分は、ガスバリアフィルム搬送方向に対して平行な位置であることが好ましく、前記ガスバリアフィルムがシート状(長方形状)で搬送されるときのフィルム両端部であることが、ガスバリア層と膜面中央部非接触ローラーが接触する面積が少なくなる観点から好ましい。
【0025】
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法は、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー全周長の1/6以上1/2未満にわたってローラー周方向に搬送する工程を含むことが、十分に巻き癖を解消する観点から、好ましい。前記巻き癖を有するガスバリアフィルムを、前記膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する長さは、ローラー全周長の1/8以上1/2以下であることが好ましく、1/6.5以上1/2.3以下であることがより好ましく、1/5以上1/2.5以下であることがさらにより好ましく、ローラー全周長の1/4以上1/3未満であることが特に好ましい。なお本願明細書では、ガスバリアフィルムを膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する長さのローラー全周長に対する割合をラップ角という(後掲の表1参照)。本発明で用いる膜面中央部非接触ローラーの直径は、30〜300mmであることが好ましく、45〜210mmであることがより好ましい。 本発明の巻き癖を直す方法の後に、前記ガスバリアフィルムを巻き取らずに連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成することが、好ましい。
【0026】
本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を実施した、巻き癖が直ったガスバリアフィルムは、連続してそのまま他の部材と貼り合わせる等してもよいし、巻き癖が再度発生しない期間程度であれば再び巻き取ってから使用することもできる。
【0027】
[ガスバリアフィルムの製造方法]
本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、本発明の巻き癖を直す方法の後に、前記ガスバリアフィルムを巻き取らずに連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成することを特徴とする。本発明の巻き癖を直す方法の後に、前記ガスバリアフィルムを巻き取らずに連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成することで、工程が短縮でき傷付き等でのバリア性損傷が防げるという利点がある。
前記接着剤としては、ヒートシール剤、感熱性接着剤、感圧性接着剤、感光性接着剤などが挙げられる。本発明における接着剤層は、支持体およびガスバリア層と、被接着体(例えば電気素子パネル)との接着を行うためのものである。
【0028】
[電子素子の製造方法]
本発明の電子素子の製造方法は、本発明のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を使用されたガスバリアフィルムまたは本発明のガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたガスバリアフィルムを用いて、電子素子を封止する工程を含む。
【0029】
(電子素子)
本発明における電子素子としては、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等を挙げることができる。
本発明における電気素子とは、電圧印加等の電気的変化を素子にインプットとして加えることにより発光、電気抵抗値変化、色相変化、分子配向変化等をアウトプットとして発現する素子、あるいは、光照射、エネルギー線照射、圧力印加、熱印加などの環境変化を素子にインプットとして加えることにより発電、電気抵抗値変化などの電気的変化をアウトプットとして発現する素子のことを言う。本発明の電子素子の製造方法は、特に、常温常圧下において使用した場合にも、水や酸素等により経年劣化し得る電子素子を含む電子素子パネルに対し適用されることが好ましい。本発明の電子素子の好ましい例としては、具体的には、光電変換素子が挙げられ、発光素子または発電素子がより好ましく、有機EL素子、液晶表示素子、太陽電池、電子ペーパー、ディスプレイパネル、タッチパネル等がさらに好ましい。前記光電変換素子の他に本発明の電子素子としては、例えば、薄膜トランジスタなどを挙げることができる。
【0030】
(有機EL素子)
本発明では、電子素子が、有機EL素子であることがより好ましい。
ガスバリアフィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0031】
(液晶表示素子)
液晶表示素子としては、特開2009−172993号公報の段落番号0044の記載を参酌することができる。
【0032】
(太陽電池)
本発明におけるガスバリアフィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明におけるガスバリアフィルムは、接着層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明におけるガスバリアフィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0033】
(電子ペーパー)
本発明におけるガスバリアフィルムは、電子ペーパーにも用いることができる。電子ペーパーは反射型電子ディスプレイであり、高精細且つ高コントラスト比を実現することが可能である。
電子ペーパーは、基板上にディスプレイ媒体および該ディスプレイ媒体を駆動するTFTを有する。ディスプレイ媒体としては、従来知られているいかなるディスプレイ媒体でも用いることができる。電気泳動方式、電子粉粒体飛翔方式、荷電トナー方式、エレクトロクロミック方式等のいずれのディスプレイ媒体であっても好ましく用いられるが、電気泳動方式のディスプレイ媒体がより好ましく、なかでもマイクロカプセル型電気泳動方式のディスプレイ媒体が特に好ましい。電気泳動方式のディスプレイ媒体は、複数のカプセルを含むディスプレイ媒体であり、該複数のカプセルのそれぞれが懸濁流体内で移動可能な少なくとも1つの粒子を含む。ここでいう少なくとも1つの粒子は、電気泳動粒子または回転ボールであることが好ましい。また、電気泳動方式のディスプレイ媒体は、第1の面および該第1の面と対向する第2の面を有し、該第1および該第2の面の内の1つの面を介して観察イメージを表示する。
また、基板上に設けられるTFTは、少なくともゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極及びドレイン電極を有し、活性層とソース電極の間か活性層とドレイン電極の間の少なくとも一方に、電気的に接続する抵抗層をさらに有する。電子ペーパーは、電圧印加により光の濃淡を生じる。
【0034】
高精細なカラー表示の電子ディスプレイを製造する場合は、アライメント精度を確保するためにカラーフィルター上にTFTを形成することが好ましい。ただし、電流効率が低い通常のTFTで必要な駆動電流を得ようとしてもダウンサイジングに限界があるため、ディスプレイ媒体の高精細化に伴って画素内のTFTが占める面積が大きくなってしまう。画素内のTFTが占める面積が大きくなると、開口率が低下しコントラスト比が低下する。このため、透明なアモルファスIGZO型TFTを用いても、光透過率は100%にはならず、コントラストの低下は避けられない。そこで、例えば特開2009−021554号公報に記載されるようなTFTを用いることにより、画素内のTFTの占める面積を小さくして、開口率とコントラスト比を高くすることができる。また、この種のTFTをカラーフィルター上に直接形成すれば、高精細化も達成することができる。
【0035】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5-127822号公報、特開2002-48913号公報等に記載のタッチパネル等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0037】
[製造例1]
ガスバリアフィルムの作成
特開2009−094051号公報の段落番号0050〜0058の記載に準じて、支持体として膜厚100μmのPENフィルムを用い、その上に有機層0.5μm、無機層50nm、有機層0.5μmをこの順に積層したガスバリア層を積層しガスバリアフィルムを作成した。なお、用いたPENフィルムのTgは120℃であった。
【0038】
ガスバリアフィルムの巻き取りおよび保管
作成したガスバリアフィルムを、支持体が内側になるように300m巻き取った。
その後、25℃の環境下で、30日間保管した。
【0039】
[実施例1]
(ガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法)
保管されたロール状のガスバリアフィルムについて、図3の構成の巻き癖解消装置を用いて、保管時に生じた巻き癖方向とは逆方向に膜面中央部非接触ローラーに巻き付けて、巻き癖を直した。
ここで、図3の装置における膜面中央部非接触ローラーは直径100mmであり、加熱手段として抵抗加熱方法を用いて支持体側からガスバリアフィルムを加熱して支持体が下記表1に記載の加熱温度となるように制御し、搬送速度5m/分とした。なお、支持体の加熱温度は赤外線放射温度計によって測定した。また、ガスバリアフィルムは、前記膜面中央部非接触ローラーの全周長の約1/4を少し超える長さにわたってローラー方向に搬送された。また、支持体温度がTg以上に到達してから前記膜面中央部非接触ローラーに接触するまでの時間を下記表1に記載した。
【0040】
(接着剤層の形成)
巻き癖を直したガスバリアフィルムを巻き取らずに、連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成した。具体的には、接着剤(ダイゾーニチモリ(株)製、商品名エポテック310)を用い、バリアフィルム上に塗布することによってガスバリアフィルム上に接着剤層を形成した。
【0041】
(有機EL素子の製造)
有機EL素子は、特開2009−094051号公報の段落番号0059の記載に従って、段落番号0063の試料No212に記載の有機EL素子(封止されていない状態)を作成した。
この有機EL素子に、実施例1で巻き癖を直して接着剤層を形成したガスバリアフィルムの貼り合せを行い、65℃3時間加熱硬化した。
【0042】
(カール量の測定)
実施例1の方法で巻き癖を直したフィルムを、接着剤層を形成する前にラインから外し、カール量を、ノギスを用いて測定し、得られた結果を下記表1に記載した。−10mm〜10mmが実用範囲であり、−5mm〜5mmの範囲内が好ましい。
【0043】
(MOCON法による水蒸気透過率(バリア性)の測定)
水蒸気透過率測定器(MOCON社製、PERMATRAN−W3/31)を用いて、40℃/相対湿度90%における水蒸気透過率を測定し、得られた結果を下記表1に記載した。この測定の検出限界値は0.005g/m2/dayである。
○:0.005g/m2/day未満。
×:0.005g/m2/day以上。
【0044】
[実施例2および3、比較例1、3および4]
支持体温度を下記表1に記載の温度となるように加熱手段の加熱を変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例を行った。
【0045】
[比較例2]
巻き癖解消装置を通過させず、加熱もせずに、保管されたロール状のガスバリアフィルムを巻き戻し、比較例2を行った。
【0046】
[比較例5]
膜面中央部非接触ローラーの代わりに、膜面接触ローラー(全面接触ローラー)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例5を行った。
【0047】
[比較例6〜8]
巻き癖解消装置の構成を装置1から、それぞれ図4の(1)〜(3)に記載の構成の装置2〜4に代えた以外は実施例1と同様にして、比較例6〜8を行った。比較例6〜8で用いた装置2〜4の構成の場合、支持体温度がTg以上に到達したのは、膜面中央部非接触ローラーに接触する前ではないこと、すなわち膜面中央部非接触ローラーに接触した後であることを確認した。この膜面中央部非接触ローラーに接触してから、支持体温度がTg以上に到達するまでの時間を測定し、下記表1中の比較例6〜8の欄にそれぞれ測定した値にマイナスを付して記載した。なお、図4の(1)および(2)では、矢印が主として加熱手段によって加熱される位置を表し、図4の(3)は、膜面中央部非接触ローラー自体を加熱してガスバリアフィルムを支持体とは反対側から加熱したものである。
【0048】
[実施例4、5、および比較例9]
搬送速度を下記表1に記載の速度となるように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例を行った。
【0049】
[実施例6]
搬送速度を下記表1に記載の速度となるように変更した以外は実施例3と同様にして行った。
【0050】
[実施例7、9および10]
膜面中央部非接触ローラーの直径を下記表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例を行った。
【0051】
[実施例8]
膜面中央部非接触ローラーの直径を下記表1に記載のように変更した以外は実施例4と同様にして行った。
【0052】
[実施例11〜14]
ラップ角を下記表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、実施例および比較例の結果を比較すると、本発明の方法によってガスバリアフィルムの巻き癖を、そのガスバリア能を劣化させることなく、短時間で直すことができることがわかった。
なお、比較例5では、さらにガスバリア層に目視にて発見できる程度の大きな傷も発生していた。
【符号の説明】
【0055】
1 支持体
2 有機層
3 無機層
4 ガスバリア層
5 ガスバリアフィルム
6 加熱手段
7 膜面中央部非接触ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から構成される支持体と、少なくとも一層の有機層および少なくとも一層の無機層を含むガスバリア層とを有し、かつ、前記支持体側を内側にした巻き癖を有するガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法であって、
前記ガスバリアフィルムを支持体側の面から加熱して支持体の温度をTg〜Tg+40℃に制御する工程と、
前記支持体の温度がTgに到達してから1秒以内に、前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー周方向に搬送する工程を含むことを特徴とするガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法(但し、Tgは前記支持体のガラス転移温度を表す。)。
【請求項2】
前記ガスバリアフィルムが、支持体の一方の面上に少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層が交互に積層した構造を有することを特徴とする請求項1に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
【請求項3】
前記ガスバリアフィルムが、支持体が内側になるように巻き取られたロール状のガスバリアフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
【請求項4】
前記ガスバリアフィルムの支持体の温度を制御する工程を、非接触型加熱手段を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
【請求項5】
前記ガスバリアフィルムのガスバリア層の一部を膜面中央部非接触ローラーに接触させながらローラー全周長の1/8以上1/2以下にわたってローラー周方向に搬送することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の巻き癖を直す方法の後に、前記ガスバリアフィルムを巻き取らずに連続して該ガスバリアフィルム上に接着剤層を形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの巻き癖を直す方法を使用されたガスバリアフィルムまたは請求項6に記載のガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたガスバリアフィルムを用いて、電子素子を封止する工程を含むことを特徴とする電子素子の製造方法。
【請求項8】
前記電子素子が、有機EL素子であることを特徴とする請求項7に記載の電子素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−79301(P2011−79301A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195499(P2010−195499)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】