説明

ガスバリア性に優れた熱可塑性樹脂組成物延伸体

【課題】ガスバリア性、透明性に優れたポリスチレン系樹脂組成物延伸体を提供する。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂A10〜98重量%、及び、ポリアミド系樹脂B2〜90重量%からなる熱可塑性樹脂組成物延伸体であって、該ポリアミド系樹脂の脱偏光強度法により測定した半結晶化時間は140℃で200秒以上であり、かつ、該ポリアミド系樹脂が、ジカルボン酸構成単位と70モル%以上がm−キシリレンジアミンに由来するジアミン構成単位とからなるm−キシリレン基含有ポリアミドを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物延伸体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性、透明性に優れたポリスチレン系樹脂組成物延伸体に関するものである。さらに詳しくは、ポリスチレン系樹脂に特定のポリアミドを配合してなるガスバリア性及び透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物延伸体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は、成形性、剛性、透明性に優れることから、食品用容器を中心に広く利用されている。しかし、ポリスチレン系樹脂は、ガスガスバリア性に劣るため、酸素などの影響を受けやすい内容物の保存や、高温等の環境下での保存性が要求される食品・医薬等の容器に対しては、不十分であった。そこで、例えば、スチレン系樹脂層にガスバリア性樹脂層を積層させて、ガスバリア性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。この場合、ガスバリア層を積層することによってガスバリア性は改善できるものの、スチレン系樹脂層とガスバリア性樹脂層を接着させるために二種の層間に接着性樹脂層が必要となり、複雑な多層化装置を用いなければならない問題がある。また、ポリスチレン系樹脂にポリアミドとグラフト共重合体を配合させた樹脂組成物が開示されている(特許文献2参照)が、このような組成物をシートやフィルムなどに押出成形した場合、ポリアミドが粒状に分散するため、ポリアミドの物理的遮蔽効果が小さく、ガスバリア性の向上効果は不十分である。
【0003】
これに対し、ポリスチレン系樹脂とガスバリア性樹脂からなる組成物シートを延伸させれば、ガスバリア性樹脂が偏平となるため層状に分散させることができるが、ポリアミドなどのガスバリア性樹脂は一般に結晶性を有するために延伸時の予熱によって結晶化し固化するため、延伸が極めて困難であり、またポリスチレン系樹脂とガスバリア性樹脂との屈折率差が大きいことから、混合によって濁りが生じる問題がある。さらに、ポリスチレンの延伸あるいは発泡成形は、一般に低い温度に設定するが(例えば、ポリスチレン系樹脂の発泡温度は120〜140℃)、非晶性ナイロンではガラス転移点が高いために、延伸温度が高くなる問題を有している。
【特許文献1】特開平5−293933号公報
【特許文献2】特開平2−219843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような課題を解決し、ガスバリア性、透明性に優れたポリスチレン系樹脂組成物延伸体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリスチレンに特定の半結晶化速度を有するm−キシリレン基含有ポリアミドを配合することで、ガスバリア性と透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物延伸体が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち、本発明は、ポリスチレン系樹脂A10〜98重量%、及び、ポリアミド系樹脂B2〜90重量%からなる熱可塑性樹脂組成物延伸体であって、該ポリアミド系樹脂Bの脱偏光強度法により測定した半結晶化時間は140℃で200秒以上であり、かつ、該ポリアミド系樹脂Bが、ジカルボン酸構成単位と70モル%以上がm−キシリレンジアミンに由来するジアミン構成単位とからなるm−キシリレン基含有ポリアミドを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物延伸体に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明で得られる熱可塑性樹脂組成物延伸体は、ガスバリア性や透明性に優れており、食品容器やフィルム、断熱材などの発泡体などに用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂Aとしては、スチレン系モノマーの重合体もしくはスチレン系モノマーとそれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等のアルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン、ハロゲン置換アルキルスチレン、ポリアルコキシスチレン、ポリカルボキシアルキルスチレン、ポリアルキルエーテルスチレン、ポリアルキルシリルスチレン等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチル、アクリル酸エチルまたはメタクリル酸エチル、アクリル酸ブチルまたはメタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルまたはメタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸またはメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミドのようなN−置換マレイミド等のマレイン酸またはその誘導体等から選ばれた1種以上を挙げることができる。
また、ポリスチレン系樹脂Aには、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−共役ジエンブロック共重合体、スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、ABS(ゴムグラフトスチレン−アクリロニトリル共重合体)、MBS(ゴムグラフトスチレン−メタクリル酸メチル共重合体)、ゴムグラフトスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などを用いることもできる。
【0009】
本発明で用いられるポリアミド系樹脂Bは、脱偏光光度法における140℃の半結晶化時間が200秒以上、好ましくは250秒以上、さらに好ましくは300秒以上のものが用いられる。140℃の半結晶化時間が200秒未満の場合、延伸時の予熱でポリアミドの結晶化が生じ延伸が困難となる。
【0010】
前記の脱偏光光度法とは、結晶化により樹脂を透過する光が複屈折を起こす現象を利用して、光源と偏光板及び受光素子からなる装置を用いて樹脂の結晶化の進行度を測定する方法である。非晶または溶融状態の検体を結晶化させると、結晶化の進行度に比例して偏光板を透過する光量が変化する。半結晶化時間は、測定条件において変化する透過光量の半分、すなわち半分の結晶化迄にかかる時間を示し、結晶化速度の指標となる値である。
【0011】
上記半結晶化時間を有するポリアミド系樹脂Bとしては、メタキシリレンジアミンを含むジアミン成分とジカルボン酸成分を重縮合させて得られるポリアミド(メタキシリレン基含有ポリアミド)が好ましい。メタキシリレン基含有ポリアミドのジアミン構成単位の70モル%以上(100モル%を含む)はメタキシリレンジアミンに由来する。メタキシリレン基含有ポリアミドのジカルボン酸構成単位の70モル%以上(100モル%を含む)は、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸に由来することが好ましい。後述する脂肪族ポリアミドや非晶性ナイロンを併用する場合は、メタキシリレン基含有ポリアミドのジカルボン酸構成単位の70モル%以上(100モル%を含む)は、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸、または、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸に由来することが好ましい。
【0012】
前記ジアミン構成単位を形成するメタキシリレンジアミン以外のジアミンとして、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン(構造異性体を含む。)、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン(構造異性体を含む。)等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン(構造異性体を含む。)等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができる。これらは全ジアミン成分中に30モル%以下の範囲で使用することができる。
【0013】
前記炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸として、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示できるが、これら中でもアジピン酸が好ましい。
【0014】
炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸のモル比は、30:70〜95:5、好ましくは30:70〜94:6、より好ましくは40:60〜92:8、さらに好ましくは60:40〜90:10である。
イソフタル酸をこの範囲で含むことで、半結晶化に要する時間が延長され、またガスバリア性が向上する。
【0015】
本発明において、上記炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸以外に、メタキシリレン基含有ポリアミドのジカルボン酸構成単位は、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物;ナフタレンジカルボン酸(構造異性体を含む。);安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物等を全ジカルボン酸構成単位の30モル%以下の範囲で含んでいてもよい。
【0016】
重縮合により前記メタキシリレン基含有ポリアミドを得る際には、重縮合反応系に、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−エナントラクタムなどのラクタム類、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸などを、熱可塑性樹脂組成物延伸体の性能を損なわない範囲で加えても良い。
【0017】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドは、メタキシリレンジアミンを70モル%以上(100モル%を含む)含むジアミン成分と、好ましくは炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸を合計で70モル%以上(100モル%を含む)含むジカルボン酸成分とを溶融重縮合して製造され、その製造方法は特に限定されるものではなく、常圧溶融重合法、加圧溶融重合法などの従来公知の方法、重合条件により製造される。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸、あるいは、メタキシリレンジアミン、アジピン酸およびイソフタル酸からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を取り除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸、または、アジピン酸とイソフタル酸混合物に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を固化させる事の無いように、メタキシリレンジアミンを連続的に加えて、その間の反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点以上となるように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0018】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドは、さらに加熱処理し、溶融粘度を増大させるのが好ましい。加熱処理する方法として、例えば、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは減圧下において、水の存在下で緩やかに加熱し、融着を回避しつつ結晶化させた後、更に加熱処理を行う方法;溝型攪拌加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、結晶化させた後、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法;溝型攪拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて加熱処理を行う方法などが挙げられる。中でも、回分式加熱装置を用いて、結晶化ならびに加熱処理を行う方法が好ましい。処理条件としては、溶融重合で得られたポリアミド(I)に対して1〜30重量%の水の存在下、かつ、0.5〜4時間かけて70から120℃まで昇温することにより結晶化し、次いで、不活性ガス雰囲気中または減圧下で、ポリアミド(I)の融点−50℃〜ポリアミド(I)の融点−10℃の温度で1〜12時間加熱処理する条件が好ましい。
【0019】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドの相対粘度(96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/100mlの条件下で測定)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.5以上である。上限値は4であるのが好ましい。相対粘度が上記範囲内であると成形性が良好である。
【0020】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドの融点は160℃〜235℃の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは170〜230℃、さらに好ましくは180〜225℃である。メタキシリレン基含有ポリアミドの融点をポリスチレン系樹脂Aの溶融温度に近づけることにより、樹脂劣化による臭気及び着色を抑えることが可能となる。
【0021】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドのガラス転移点は75〜120℃の範囲であることが好ましく、80〜120℃の範囲であることがより好ましく、85〜110℃の範囲がさらに好ましい。ポリアミドのガラス転移点が120℃以下であると、延伸成形が容易となり、また75℃以上とすることで高温下でのガスバリア性に優れたものが得られる。
【0022】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドは、末端アミノ基濃度40μ当量/g未満、好ましくは10〜30μ当量/g、さらに好ましくは、カルボキシル基濃度40〜100μ当量/g以上のものが好ましく用いられる。末端基が上記範囲内であると、得られる延伸体が黄色に着色するのを防ぐことができる。
【0023】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドには、溶融成形時の加工安定性を高めるため、あるいは該ポリアミドの着色を防止するためにリン化合物が含まれていても良い。リン化合物としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むリン化合物が好適に使用され、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のリン酸塩、次亜リン酸塩、亜リン酸塩が挙げられ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の次亜リン酸塩を使用したものがポリアミドの着色防止効果に特に優れるため好ましく用いられる。該ポリアミド中のリン化合物の濃度は、リン原子として1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、更に好ましくは200ppm以下であることが望ましい。なお、本発明で用いるポリアミドには上記のリン化合物の他に本発明の効果を損なわない範囲で滑剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤等を加えることもできるが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合しても良い。
【0024】
前記メタキシリレン基含有ポリアミドは、使用する前に水分率が0.10%以下、好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下になるよう乾燥することが望ましい。水分率が0.10%より低いと、溶融混合時にポリアミドから発生する水分によって気泡が生じることを防ぐことができる。ポリアミドを乾燥する場合は、公知の方法により行うことができる。例えば、ポリアミドを真空ポンプ付きの加熱可能なタンブラー(回転式真空槽)中や減圧乾燥機中に仕込み、減圧下でポリマーの融点以下、好ましくは160℃以下の温度で加熱して乾燥する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、ポリアミド系樹脂Bとしては、前記メタキシリレン基含有ポリアミドにナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−12、ナイロン−66、ナイロン−46、ナイロン−610、ナイロン−612、ナイロン666等の脂肪族ポリアミドやナイロン−6I、ナイロン−6T、ナイロン−6IT等の非晶性ナイロンを、例えば押出機などを用いて混合させたものを用いることが好ましい。
この場合、ポリアミド系樹脂Bは、メタキシリレン基含有ポリアミド30〜98重量%と脂肪族ポリアミドおよび/または非晶性ナイロン2〜70重量%からなることが好ましい。より好ましくは、メタキシリレン基含有ポリアミド40〜98重量%と脂肪族ポリアミドおよび/または非晶性ナイロン2〜60重量%、さらに好ましくは、メタキシリレン基含有ポリアミド50〜98重量%と脂肪族ポリアミドおよび/または非晶性ナイロン2〜50重量%、特に好ましくはメタキシリレン基含有ポリアミド60〜98重量%と脂肪族ポリアミドおよび/または非晶性ナイロン2〜40重量%である。脂肪族ポリアミドと非晶性ナイロンの混合割合は任意である。
【0026】
本発明では、ポリスチレン系樹脂A10〜98重量%、ポリアミド系樹脂B2〜90重量%の配合割合(合計は100重量%)である。配合割合がこの範囲を越える場合、ガスバリア性向上効果が不十分であったり、発泡する際の発泡倍率が低下する等の不具合を生じる。配合割合は、好ましくは、ポリスチレン系樹脂A15〜95重量%、ポリアミド系樹脂B5〜85重量%、さらに好ましくは、ポリスチレン系樹脂A20〜90重量%、ポリアミド系樹脂B10〜80重量%である。
【0027】
ポリスチレン系樹脂Aおよびポリアミド系樹脂Bに加えて、熱可塑性樹脂組成物は、さらにポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エラストマー、カルボン酸またはその無水物で変性された相溶化剤などを含むことができる。
【0028】
さらに必要に応じて、熱可塑性樹脂組成物に可塑剤、熱安定剤、導電性付与剤、帯電防止剤、離型剤、防曇剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、高級脂肪酸等の分散剤、タルク等の無機充填剤、シリコーン等を添加することができる。
【0029】
本発明の延伸体は、上記ポリスチレン系樹脂Aおよびポリアミド系樹脂Bを含む熱可塑性樹脂組成物を延伸成形することにより製造できる。該延伸体の製造方法は、押出機等により溶融した樹脂組成物を、サーキュラーダイ、Tダイ等を用いて押出成形し、さらに二軸延伸装置等で延伸する方法や、発泡剤共存下、サーキュラーダイやTダイ等から押出し発泡体を得る方法が挙げられる。
発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤、アゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤が挙げられる。上記した発泡剤は、2種以上を混合して使用することが可能である。これらのうち、特にポリスチレン系樹脂との相溶性、発泡効率の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とするみかけ密度に応じて調整する。また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調整する。通常、発泡剤としてイソブタンとノルマルブタンとのブタン混合物等の有機系物理発泡剤を用いた場合、有機系物理発泡剤は0.5〜10重量%、好ましくは、1〜8重量%である。
延伸温度は、120℃〜140℃の温度で行うことが好ましく、この範囲内であると、ポリスチレン系樹脂Aが十分配向する。延伸倍率(面積比)は、5倍以上、好ましくは6倍以上(縦2.5倍、横2.5倍)、さらに好ましくは9倍以上(縦3倍、横3倍)である。延伸倍率が上記範囲内であると、ガスバリア性能が十分となる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物延伸体では、ポリアミド系樹脂Bの扁平粒子がポリスチレン系樹脂A中に層状に分散していることが好ましい。図1では、扁平粒子の分散状態を簡略化して示した。すなわち、扁平粒子の形状、大きさ、分散密度等は実際のものとは異なる。図1に示したように, 延伸体1の厚さ方向には必ず少なくとも1つの扁平粒子2が存在する。すなわち, 本発明によれば, 延伸体1の任意のTD方向断面において, 厚さ方向に延びる任意の直線は少なくとも1つの扁平粒子2と交差する分散状態がえられる。任意のMD方向断面においても同様である。この分散状態により, 本発明の延伸体は優れたガスバリア性を示す。本発明の特徴を満たさない場合, 厚さ方向に延びる直線が分散したポリアミド系樹脂と交差しない分散状態が得られたり, ポリアミド系樹脂粒子が扁平にならずに, 粒状に分散し, 高いガスバリア性が達成されない。
【0031】
このようにして得られた熱可塑性樹脂組成物延伸体は、食品容器やフィルム、断熱材などの発泡体などに用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明する。尚、実施例等において、熱可塑性樹脂組成物延伸体の評価方法は、下記の方法によった。
(1)半結晶化時間
脱偏光光度法により測定した。
使用したポリマー結晶化速度測定装置は、(株)コタキ製作所製、型式:MK701であり以下の条件で測定した。
試料溶融温度:260℃
試料溶融時間:5分
結晶化浴温度:140℃
(2)ガラス転移点
(株)島津製作所製熱流束示差走査熱量計DSC−50により以下の条件にて測定した。
標準物質:α−アルミナ
試料量:10mg
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:25〜300℃
雰囲気:窒素ガス 30ml/分
(3)延伸性
二軸延伸機で延伸を行った際の状態を観察した。
○:延伸可能、×:延伸中に破断
(4)全光線透過率、曇価
延伸フィルムについて日本電色工業(株)製、色差・濁度測定器COH−300Aを使用し、ASTM D1003に準じてフィルムの曇価を測定した。
(5)酸素ガスガスバリア性
23℃、延伸フィルム内部の相対湿度60%、外部の相対湿度60%の雰囲気下にてASTM D3985に準じて酸素透過率を測定した。測定は、モダンコントロールズ社製、OX-TRAN 10/50Aを使用した。
(6)分散状態
延伸フィルムの断面を切り出し、ヨードチンキでポリアミドを染色させた後、顕微鏡で分散状態を観察した。
【0033】
<参考例1>
攪拌機、分縮器、冷却器、滴下槽、および窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの50L反応缶にアジピン酸14.2kg(97.1mol)とイソフタル酸1.0kg(6.2mol)秤量して仕込み、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下に160℃で溶融アジピン酸とイソフタル酸からなる均一なスラリーにした。これに、メタキシリレンジアミン14.0kg(102.6mol)を撹拌下に1時間を要して滴下した。この間、内温は連続的に247℃まで上昇させた。メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は、分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を260℃まで昇温し、1時間反応を継続した。得られたポリマーは反応缶下部のノズルからストランドとして取り出し、水冷した後ペレット形状に切断し、ポリアミド1を得た。
次に、このペレットをステンレス製の回転ドラム式の加熱装置に仕込み、10rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から150℃まで昇温した。反応系内温度が150℃に達した時点で1torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を110分間で210℃まで昇温した。系内温度が210℃に達した時点から、同温度にて180分間、反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出し、ポリアミドB1(半結晶化時間:225秒、ガラス転移点:90℃)を得た。
【0034】
<実施例1、2>
ポリスチレン(PSジャパン(株)製“G9401”、以下「ポリスチレンA1」と称す)とポリアミドB1を表1に示す割合で混合した後、滞留部を有する37mm二軸押出機に供給した。シリンダー温度250℃、スクリュー回転数100回転で溶融混練を行い、溶融ストランドを冷却エアーにて冷却、固化した後、ペレタイズした。
上記で得られたペレットをシリンダー径20mmのTダイ付き二軸押出機に供給した。シリンダー温度250℃、スクリュー回転数80rpmの条件で溶融混練を行った後、Tダイを通じてシート状物を押出し、0.7m/minの速度で引き取りながら80℃の冷却ロール上で固化し、厚み180ミクロンのシートを得た。
得られたシートを10cm角に切り出し、二軸延伸装置にて、予熱140℃、60秒、同時延伸速度3m/min、延伸倍率9倍(縦3倍×横3倍)の条件下で、厚み20ミクロンの延伸フィルムを作製した。得られた延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
【0035】
<参考例2>
ポリメタキシリレンアジパミド(三菱ガス化学製“MXナイロンS6007”、半結晶化時間:30秒、ガラス転移点:85℃、以下「ポリアミドB2」と称す)90重量%と、ナイロン−6IT(三菱エンジニアリングプラスチックス製非晶性ナイロン“ノバミッドX21”、ガラス転移点:125℃)10重量%とを混合した後、滞留部を有する37mm二軸押出機に供給した。シリンダー温度300℃、スクリュー回転数100回転、吐出量6kg/hrで溶融混練を行い、溶融ストランドを冷却エアーにて冷却、固化した後、ペレタイズし、ポリアミドB3(半結晶化時間:350秒、ガラス転移点:89℃)を得た。
【0036】
<実施例3>
ポリアミドB1の代わりに、上記で得られたポリアミドB3を用いた以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0037】
<参考例3>
ポリアミド1を60重量%、ナイロン−6ITを30重量%、ナイロン6(宇部興産株式会社製“UBEナイロン 1015B”、ガラス転移点:48℃)10重量%とを混合した後、滞留部を有する37mm二軸押出機に供給した。シリンダー温度310℃、スクリュー回転数100回転、吐出量6kg/hrで溶融混練を行い、溶融ストランドを冷却エアーにて冷却、固化した後、ペレタイズし、ポリアミドB4(半結晶化時間:1900秒、ガラス転移点:92℃)を得た。
【0038】
<実施例4>
ポリスチレンA1を90重量%、ポリアミドB4を10重量%とし、延伸倍率を4倍(縦2倍×横2倍)にした以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0039】
<実施例5>
延伸倍率を6倍(縦2.5倍×横2.5倍)にした以外は、実施例4と同様にして延伸フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0040】
<実施例6>
延伸倍率を9倍(縦3倍×横3倍)にした以外は、実施例4と同様にして延伸フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0041】
<比較例1>
ポリアミドB1の代わりに、ポリアミドB2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。延伸時に破断し、延伸フィルムは得られなかった。結果を表3に示す。
【0042】
<比較例2>
ポリスチレンA1のみを用いた以外は、実施例1と同様にて延伸フィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0043】
<比較例3>
ポリアミドB1の代わりに、ナイロン6を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。延伸時に破断し、延伸フィルムは得られなかった。結果を表3に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂組成物延伸体のTD断面の模式図であり、ポリアミド系樹脂Bが層状に分散した状態を示す。
【符号の説明】
【0048】
1:熱可塑性樹脂組成物延伸体
2:ポリアミド系樹脂B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂A10〜98重量%、及び、ポリアミド系樹脂B2〜90重量%からなる熱可塑性樹脂組成物延伸体であって、該ポリアミド系樹脂の脱偏光強度法により測定した半結晶化時間は140℃で200秒以上であり、かつ、該ポリアミド系樹脂が、ジカルボン酸構成単位と70モル%以上がm−キシリレンジアミンに由来するジアミン構成単位とからなるm−キシリレン基含有ポリアミドを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物延伸体。
【請求項2】
前記ジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20の脂肪族直鎖α,ω−ジカルボン酸とイソフタル酸に由来する請求項1に記載の延伸体。
【請求項3】
前記脂肪族直鎖α,ω−ジカルボン酸とイソフタル酸のモル比率が30:70〜95:5である請求項2に記載の延伸体。
【請求項4】
前記ポリアミド系樹脂Bが、m−キシリレン基含有ポリアミド30〜98重量%と脂肪族ポリアミドおよび/または非晶性ナイロン2〜70重量%からなる請求項1記載の延伸体。
【請求項5】
前記m−キシリレン基含有ポリアミドのジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20の脂肪族直鎖α,ω−ジカルボン酸に由来する請求項4に記載の延伸体。
【請求項6】
前記m−キシリレン基含有ポリアミドのジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20の脂肪族直鎖α,ω−ジカルボン酸とイソフタル酸に由来し、かつ、該脂肪族直鎖α,ω−ジカルボン酸とイソフタル酸のモル比率が30:70〜95:5である請求項4に記載の延伸体。
【請求項7】
前記ポリアミド系樹脂Bが延伸体中に層状に分散している請求項1記載の延伸体。
【請求項8】
延伸倍率が面積比で5倍以上である請求項1記載の延伸体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1782(P2009−1782A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127857(P2008−127857)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】