説明

ガスバリア性ゴム状成形体およびその製造方法

【課題】本来的な特性としての伸縮変形性ないし耐衝撃性に加えて優れたガスバリア性を有するゴム状成形体(製品あるいは半製品)を提供する。
【解決手段】ある厚さを有するゴム基材と、該ゴム基材の厚さを挟む二面のうち少なくとも一面上に積層されたガスバリア層とを含み、該ガスバリア層が多価金属により化学当量基準で0〜90%中和されたカルボキシル基を有するα,β−不飽和カルボン酸のその場重合体層からなることを特徴とするガスバリア性ゴム状成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性の良好なゴム状成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム基材上に、ポリカルボン酸の多価金属架橋物を含む樹脂層を形成してなる積層フィルムが良好なガスバリア性を有することは良く知られている。一般にこのようなガスバリア性フィルムは、フィルム基材上に、ポリカルボン酸と多価金属化合物を含み、更に両者間の架橋(ゲル化)反応を緩和する薬剤、たとえばアンモニアあるいはアミン、金属アルコキシド(あるいはその加水分解(縮合)物)等を含む水性塗料組成物を塗布し、次いで加熱等によりポリカルボン酸と多価金属化合物間の架橋反応を促進させて金属架橋物を含むガスバリア性層を形成することにより製造される(例えば、特許文献1〜3。その他多数)。またポリカルボン酸と多価金属化合物間の早期ゲル化反応を防止するために、ポリカルボン酸層と多価金属化合物層を隣接するように塗布し、その後、架橋等により両層の界面近傍に金属架橋樹脂を含むガスバリア性層を形成することも知られている(特許文献1)。更に、フィルム基材上に、多価金属により中和されたα,β−不飽和カルボン酸あるいは部分中和されたα,β−不飽和カルボン酸の水溶液ないし水分散液の塗膜を形成し、これを重合することにより形成したガスバリア層を有するガスバリア性積層フィルムの製造方法も知られている(特許文献4および5)。
【0003】
このようにして形成された積層フィルム製品は、一般にガスバリア性を要求される包装材料として有用とされている(特許文献1〜5)。しかしながら、より柔軟かつ変形性の大なるガスバリア性ゴム状成形体への製品展開はなされていない。
【特許文献1】WO03/0931317A1公報
【特許文献2】特開2005−60621号公報
【特許文献3】WO2005/053954A1公報
【特許文献4】WO2005/108440A1公報
【特許文献5】WO2006/059773A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主要な目的は、柔軟かつ変形性の大なるゴム基材上に中和または非中和のα,β−不飽和カルボン酸重合体層からなるガスバリア層を形成したガスバリア性ゴム状成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明のガスバリア性ゴム状成形体は、ある厚さを有するゴム基材と、該ゴム基材の厚さを挟む二面のうち少なくとも一面上に積層されたガスバリア層とを含み、該ガスバリア層が多価金属により化学当量基準で0〜90%中和されたカルボキシル基を有するα,β−不飽和カルボン酸のその場重合体層からなることを特徴とするものである。
【0006】
本発明者らが、本発明に到達するに至った経緯について、若干付言する。
【0007】
上述したように、樹脂フィルム基材上にポリカルボン酸多価金属架橋物を含むガスバリア性樹脂層を形成してなるガスバリア性積層フィルムは良く知られている。しかし、樹脂フィルム基材の代りにゴム基材を用いたガスバリア性ゴム状成形体は、全く開発されていない。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のような要因が作用しているものと解される。(イ)最大の要因は、樹脂フィルム基材に比べて、ゴム基材が著しく大なる柔軟性および伸縮変形性を有しており、その上に形成されたポリカルボン酸多価金属架橋物からなるガスバリア層が、ゴム基材の伸縮変形に追随できず、そのガスバリア層を失うことであると解される。事実、典型的な樹脂フィルム基材である厚さ12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの引張弾性率(JIS K7100)が4000MPaであるのに対して、後記実施例1でゴム基材として用いる厚さ500μmのニトリルゴムシートのそれはわずかに6MPaであった。従って、特許文献4の表5および6においては、得られたガスバリア性積層フィルムの2%および3%延伸後の表面状態評価結果が記されているが、多くの積層フィルムにおいて、3%延伸後においては、2%延伸後に比べて、表面状態の悪化が記録されており、延伸後のガスバリア性の評価は行われていない。また3%を超える延伸倍率での評価はなされていない。(ロ)理由の第2は、ゴム基材の表面粗さRa(JIS B0601;例えば実施例1のニトリルゴムシートでRa=2.0μm)は、樹脂フィルム基材のそれ(例えばPETフィルムについて、Ra=0.02μm)に比べて著しく大であることである。これは、特許文献1〜5の実施例において示されるごとく、厚さ0.1〜1μm程度の緻密なガスバリア層をその表面に形成するに適した基材ではないと考えられたのかとも考えられる。
【0008】
これに対し、本発明者の研究によれば、多価金属による中和度を抑制したα,β−不飽和カルボン酸のゴム基材上でのその場重合体層からなるガスバリア層は、重合後における白化も認められず、且つ10%延伸・1分間保持後−開放によりガスバリア層の密着性が損なわれないこと、およびガスバリア性の本質的な変化が認められないことで代表される良好な伸縮変形追随性を示すことが見出された(後記実施例3および6のガスバリア性ゴム状成形体におけるガスバリア層(重合体層)の延伸追随性評価試験結果参照)。これは、中和度を抑制したα,β−不飽和カルボン酸のゴム基材上でのその場重合過程で、得られた重合体の基材との密着性が改善され、またむしろゴム基材の表面粗さによるアンカリング効果が、ゴム基材の伸縮変形に対する追随性の改善に寄与しているのかとも考えられる。本発明のガスバリア性ゴム状成形体およびその製造方法は、上述の知見に基づくものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のガスバリア性ゴム状成形体を、その製造方法に沿って順次説明する。
【0010】
(ゴム基材)
本発明で用いるゴム基材は、形成すべきゴム状成形体の用途に応じた伸縮変形性を有する任意のゴム材料からなる。用途によりその要求性状は異なり得るが、代表的なものとして、例えば引張弾性率(JIS K7100)が0.1〜1000MPa、好ましくは1〜100MPa;基材としての表面平均粗さRa(JIS B0601)が0.01〜100μm、好ましくは0.02〜10μmが挙げられる。破断伸びは、用途との関連での要求特性としては、120%程度まででよいが、通常の100〜250%程度のもので差し支えない。このような特性は、通常、一般のゴム材料により満たされるものであり、公知のゴム材料を用いることができる。その具体例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロブレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0011】
ゴム基材の形状は、ガスバリア性を要求される製品ゴム状成形体の形状にほぼ対応して定まるものであり、特に制約されるものではないが、例えばシート、タイヤ、チューブまたはカップ、タンク等の中空容器あるいはこれらの前駆体(例えば接着あるいはシート成形によりこれら形状を与えるための半体あるいはシート状半製品)の形状であり得る。またゴム基材は製品成形体に要求されるガスバリア性を発現すべき方向にある厚さを有するものであり、その厚さは一般に10μm〜50mm、好ましくは100μm〜10mm程度である。
【0012】
(重合性単量体組成物)
上記ゴム基材の厚さを挟む二面のうち少なくとも一面上に、多価金属により化学当量基準で0〜90%中和されたα,β−不飽和カルボン酸を組成物の全量基準で0〜85重量%の溶媒に溶解または分散してなる重合性単量体組成物の塗膜を形成する。
【0013】
<α,β−不飽和カルボン酸>
本発明で用いる重合性単量体組成物を構成するα,β−不飽和カルボン酸としては、従来特許文献1〜5でガスバリア層を形成するために用いられていたポリカルボン酸金属架橋物のポリカルボン酸の単量体として用いられているものと同様のものであり、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでもアクリル酸または/およびメタクリル酸が好ましく、特にハンドリング性、ガスバリア性などの特性とコストの面でアクリル酸が好ましい。
【0014】
これらα,β−不飽和カルボン酸は、後述する多価金属により化学当量基準で0〜90%中和したもの(部分中和したもの)が用いられる。すなわち、中和されないα,β−不飽和カルボン酸をそのまま用いることもできる。このように中和されないα,β−不飽和カルボン酸の重合体層(後記実施例1)は、乾燥条件(相対湿度0%)であれば中和されたα,β−不飽和カルボン酸の重合体層に比べてそれ程遜色ないガスバリア性を発現し、製品ゴム状成形体の用途によっては充分有用である。しかし、湿潤雰囲気下(相対湿度40%以上)では、そのガスバリア性の低下が避け難い。従って湿潤雰囲気下でのガスバリア性が要求される用途で使用するゴム状成形体の製造のためには、多価金属により部分中和されたα,β−不飽和カルボン酸を用いることが好適である。具体例としては、多価金属により化学当量基準で10〜90%、特に45〜75%中和されたα,β−不飽和カルボン酸を用いることが好ましく、これにより耐水性の良好なガスバリア層が形成される。これは、特許文献5で用いているものとほぼ同等である。但し、多価金属によるα,β−不飽和カルボン酸の完全中和物(100%中和物)を用いると、ゴム基材上に形成される重合体層が白化し、所望のガスバリア性が得られないので避けるべきである。なお、中和されない、もしくは中和度の低い(例えば中和度が45%以下の)α,β−不飽和カルボン酸の重合体層については、重合後に、2価金属イオンおよび3価金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを付与して、ガスバリア性や耐水性を改善してもよい。
【0015】
<多価金属>
上述したα,β−不飽和カルボン酸の部分中和物を与える多価金属は、2価以上の金属である。好ましくは2価金属および3価金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であり、これらの金属は、酸性水中でイオン解離して価数に対応した2価または3価の金属イオンを与えるものである。
【0016】
多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどの周期表2A族の金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウムを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの中でも、亜鉛、カルシウム、銅、マグネシウム、アルミニウム、および鉄が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸の多価金属による部分中和物は、金属の種類によって水に対する溶解性が異なるが、溶解性の観点からは、金属種として亜鉛、カルシウムおよびマグネシウムが特に好ましい。
【0017】
上記した多価金属により部分中和したα,β−不飽和カルボン酸は、ゴム基材上に塗布される重合性単量体組成物中に形成されればよく、そのためには、α,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩または他の多価金属化合物とを混合すればよい。α,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩以外の多価金属化合物としては、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩が挙げられる。多価金属の酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、及び酸化鉄(III)が好ましい。
【0018】
有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸塩には、例えば、ジアクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅、及びアクリル酸アルミニウムが含まれる。
【0019】
無機酸塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。多価金属のアルキルアルコキシドも多価金属化合物として使用することができる。
【0020】
<溶媒>
本発明で用いる重合性単量体組成物は、上記した多価金属で0〜90%中和したα,β−不飽和カルボン酸あるいはその前駆体を、組成物の全量基準で0〜85重量%の溶媒に溶解または分散することにより得られる。例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のように室温で液体のα,β−不飽和カルボン酸は溶媒を用いなくても塗布可能な重合性単量体組成物を与える(後記実施例1)。
【0021】
溶媒としては、水、アルコール、NMP、THF、アセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いることが好ましい。なかでも、重合性単量体組成物の塗布および重合中の環境衛生の観点で水が最も好ましく用いられる。本発明で用いる多価金属により化学当量基準で0〜90%中和したα,β−不飽和カルボン酸は、このような最も好ましい水を溶媒として得られた重合性単量体組成物のその場重合によっても白化せず良好なガスバリア層を与えるものである。
【0022】
使用する溶媒量の下限は得られる重合性単量体組成物の塗布適性によって定められ、上限は得られる重合性単量体組成物塗膜の中和度に伴う外観と溶媒除去効率等の点で定まる。85重量%を超える溶媒の使用は、生産性や成膜性を低下する場合があり、好ましくない。
【0023】
<重合開始剤>
その場重合体層を形成するために用いる重合性単量体組成物には、上記した多価金属で0〜90%中和したα,β−不飽和カルボン酸あるいはその前駆体および溶媒に加えて、重合開始剤を含有させてもよい。但し、その場重合を、電子線等のエネルギーの強い電離放射線の照射により進める場合は、省略することもできる。重合開始剤としては、光重合開始剤と熱重合開始剤とが代表的なものであり、少なくとも一方の重合開始剤を含有させることができる。熱重合開始剤には、電離放射線の照射により活性化するアゾ化合物や過酸化物も含まれる。
【0024】
塗膜に紫外線を照射する場合には、重合性単量体組成物に光重合開始剤を含有させることが好ましい。光重合開始剤は、単に光開始剤または増感剤と呼ばれることがある。光重合開始剤には、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、チオキサントン類、及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0025】
光重合開始剤の好ましい具体例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、m−クロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、4−ジアルキルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ミヒラーケトンなどのミヒラーケトン類;ベンジル、ベンジルメチルエーテルなどのベンジル類;ベンゾイン、2−メチルベンゾインなどのベンゾイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタールなどのベンジルジメチルケタール類;チオキサントンなどのチオキサントン類;プロピオフェノン、アントラキノン、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾイルベンゾエート、α−アシロキシムエステル;などのカルボニル化合物を挙げることができる。
【0026】
光重合開始剤としては、上記カルボニル化合物以外に、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサンソン、2−クロロチオキサンソンなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物;が挙げられる。
【0027】
これらの光重合開始剤は、重合性単量体組成物中に、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の割合で添加する。ベンゾフェノンなどの水素引抜き型の光重合開始剤を使用すると、α,β−不飽和カルボン酸の一部が、ゴム基材にグラフトして、層間密着性を一層高めることができる。光重合開始剤とともに、その他の増感剤、光安定剤などの汎用の添加剤を添加してもよい。
【0028】
塗膜を加熱して、熱重合を行う場合には、熱解離して開始剤としての機能を発揮する熱重合開始剤を使用することが好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;2,2′−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(メチルイソブチレート)、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾ系重合開始剤;tert−アルキルヒドロパーオキサイドなどのヒドロパーオキサイド;ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシブチレートなどの過酸化物;が含まれる。熱重合開始剤を使用する場合には、重合性単量体組成物中に、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の割合で添加する。
【0029】
本発明で使用する重合性単量体組成物には、α,β−不飽和カルボン酸の重合と多価金属イオンによるイオン架橋反応を阻害しない範囲内において、必要に応じて、増粘剤、無機層状化合物、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、熱安定剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、着色剤、アンチブロッキング剤、多官能モノマーなどを含有させることができる。
【0030】
α,β−不飽和カルボン酸については、必要に応じて多価金属による化学当量基準での中和度0〜90%の一部(たとえば化学当量基準で、2〜40%程度)を1価金属による中和物で置き換えることができる。1価金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムが用いられ、特にナトリウム、カリウムが好ましい。中和のため、組成物中には、これら1価金属を、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、有機酸塩等として添加しても良い。これら1価金属によるα,β−不飽和カルボン酸の中和物を含めることにより、得られるガスバリア層のガスバリア性を更に向上させることもできる。
【0031】
(塗工および重合)
ゴム基材の少なくとも一面上に、重合性単量体組成物を塗布するには、該基材の被塗布面上にスプレー法、ディッピング法、コーターを用いた塗布法、印刷機による印刷法など任意の塗工法を、基材被塗布面の形状に応じて利用することができる。コーターや印刷機を用いて塗布する場合には、例えば、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター;リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーターなどの各種方式を採用することができる。
【0032】
このようにして、ゴム基材の少なくとも一面上に重合性単量体組成物を塗布して、塗膜を形成した後、該塗膜の溶媒を実質的に乾燥させることなく、湿潤状態を保持した塗膜に、電離放射線の照射及び/または加熱処理を行うことにより、部分中和α,β−不飽和カルボン酸単量体が重合して、部分中和ポリカルボン酸重合体を含むその場重合体層(ガスバリア層)が形成される。
【0033】
ゴム基材への重合性単量体組成物の塗工に先立って、ゴム基材の被塗布面上に、必要に応じて主として得られる重合体層のゴム基材との密着性向上のためにエッチング、コロナ放電、プラズマ処理、電子線照射あるいはプライマー塗布などの表面処理を行うこともできる。またプライマー塗布は、ゴム基材表面の過剰な粗さを調整する意味でも有効な場合がある。
【0034】
ゴム基材の表面平均粗さRaが0.1〜10μm程度であることを考慮して、その場重合体層(と必要に応じて設けられるプライマー層との合計)の厚さは、従来のポリカルボン酸多価金属架橋物によるガスバリア層の通常の厚さよりは厚く、0.1〜50μm、特に0.5〜20μmとすることが好ましい。
【0035】
重合性単量体組成物の湿潤状態の塗膜に照射する電離放射線としては、紫外線、電子線(ベータ線)、ガンマ線、アルファ線が好ましく、紫外線及び電子線がより好ましい。電離放射線を照射するには、それぞれの線源を発生する装置を使用する。電子線を照射するには、通常20〜2000kVの電子線加速器から取り出される加速電子線を利用する。加速電子線の照射線量は、通常1〜300kGy、好ましくは5〜200kGyである。電子線は、加速電圧によって被照射体に対する浸透する深さが変化する。加速電圧が高いほど、電子線は深く浸透する。電子線を用いると、ゴム基材に対するα,β−不飽和カルボン酸のグラフト反応により、ゴム基材とその場重合体層との間の密着性を改善することができる。
【0036】
紫外線を照射するには、殺菌灯、紫外用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極ランプなどのUV照射装置を用いて、200〜400nmの波長領域を含む光を照射する。UV照射装置のランプ出力は、発光長1cm当りの出力ワット数(W/cm)で表示する。単位長当りのワット数が大きくなれば、発生する紫外強度が大きくなる。ランプ出力は、通常30〜300W/cmの範囲から選択される。発光長は、通常40〜2500mmの範囲から選ばれる。
【0037】
湿潤状態の塗膜を加熱してその場重合体層を形成するには、塗膜を通常50〜250℃、好ましくは60〜220℃、より好ましくは70〜200℃の温度に加熱する。加熱手段としては、加熱ヒータを用いて塗膜を加熱する方法、塗膜を温度制御した加熱炉を通過させる方法などが挙げられる。加熱時間は、通常1分〜24時間、好ましくは1分〜12時間、より好ましくは5〜120分間である。加熱温度が低いほど、加熱時間を長くし、加熱温度が高いほど、加熱時間を短くすることが、その場重合体層のガスバリア性の観点から好ましい。
【0038】
その場重合体層を形成するに際し、酸素による重合禁止効果を除去する必要がある場合には、電離放射線の照射及び/または加熱処理を、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸素による重合禁止効果を除去するには、基材上に形成した湿潤状態の塗膜の表面を他の基材(被覆材)で被覆することが好ましい。被覆材として用いる他の基材としては、光線透過性の樹脂製カバーフィルム、ガラス板、紙、アルミニウム箔などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
光透過性の樹脂製カバーフィルムとしては、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムなどが好ましく用いられる。ここで、光線透過性とは、紫外線などの電離放射線を透過できる性質を意味しており、光線透過率の程度は問わない。目視で透明または半透明なプラスチックフィルムであれば、一般に、光線透過性の樹脂製カバーフィルムとして使用することができる。電離放射線として電子線を用いる場合には、加速電子線が透過する電離放射線透過性基材を用いればよく、基材の種類は、光線透過性の樹脂製カバーフィルムなどの透明または半透明の基材に限定されない。前記工程によって、ゴム基材とその他基材(被覆材)との間に、湿潤状態の塗膜を保持しながら、該湿潤状態の塗膜に、電離放射線の照射および/または加熱による処理を行うことにより、「ゴム基材/重合体層/基材」の層構成を持つゴム状成形体を得ることができる。更に、その他基材(被覆材)を剥離する工程を付加することで、「ゴム基材/重合体層」の層構成を持つゴム状成形体を得ることもできる。
【0040】
(金属付与処理)
中和しないあるいは中和度の低いα,β−不飽和カルボン酸を用いてその場重合体層を形成した場合には、重合後に金属イオンを溶解した、例えば水溶液を塗布することにより、ポリカルボン酸の中和度を高め、ガスバリア性を向上させることができる。金属イオンとしては、2価以上の金属イオン、好ましくは、ガスバリア性の観点から、2価金属イオンまたは3価金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを用いることができる。更に必要に応じて、1価金属イオンを併用することもできる。これら金属イオン種、あるいはこれら金属イオンを与える金属化合物種については、α,β−不飽和カルボン酸の中和のために用いるものとして上記したものを適宜選択することができる。
【0041】
(熱処理)
電離放射線の照射および/または加熱によりその場重合体層を形成した場合、および上記の重合後金属付与を行った場合には、熱処理により残留溶媒を除去することにより、ガスバリア性の一層の向上が得られる。このための熱処理は、ゴム基材上にその場重合体層が形成された成形体を、例えば50〜220℃で1分間〜24時間保持することにより行われる。
【0042】
(ゴム状成形体)
かくして得られた本発明のゴム状成形体は、例えば温度30℃、相対湿度0%の乾燥条件で測定した酸素透過度が100×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下で代表されるガスバリア性を有する。また化学当量基準で10〜90%の中和度のα,β−不飽和カルボン酸を用いた場合には、同乾燥条件下で90×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のガスバリア性が得られ、更に化学当量基準で45〜75%の中和度のα,β−不飽和カルボン酸を用いた場合には、例えば温度30℃および相対湿度80%の高湿条件下での酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下で代表される耐水性あるガスバリア性が得られる。
【0043】
本発明のガスバリア性ゴム状成形体は、上述した優れたガスバリア性および特徴的な伸縮変形性ないしは耐衝撃性を利用して、空気圧保持性の要求されるタイヤあるいはそのチューブ、酸素の透過流入および引火性揮発ガスの透過流出防止が要求されるガソリンタンク、内容物の品質劣化の防止のための酸素透過防止の要求に加えて特に耐衝撃性の要求される食器容器、炭酸飲料容器等の製品あるいは、その成形前駆体(半製品)として用いられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を、製造例(実施例、比較例、参考例)により、更に具体的に説明する。なお、本明細書中に記載の物性は、以下の方法による測定値に基づく。
【0045】
<酸素透過度>
ゴム状成形体の酸素透過度(ゴム基材の酸素透過度は充分に大きいため、重合体層の酸素透過度と実質的に一致していると評価される)は、モダンコントロール(Modern Control)社製の酸素透過度試験器「Oxtran2/20」を用いて、温度30℃及び相対湿度0%(あるいは80%)の条件下で測定した。測定方法は、ASTM D3985−81(JIS K7126のB法に相当)に従って行った。測定値の単位はcm(STP)/(m・s・MPa)である。「STP」は、酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。
【0046】
<表面粗さ>
超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE社製「VK−8500」)を用いて、基材の表面平滑性について評価した。評価方法は、JIS B0601に従い、表面平均粗さRaを測定した。
【0047】
以下の記載において、配合比に関する「部」および「%」は重量基準とする。中和度(%)は化学当量基準とする。
【0048】
(塗工液の調製)
塗工液(重合性単量体組成物)の調製に用いた薬剤(不飽和カルボン酸、多価金属化合物および開始剤)のうち、ジアクリル酸Zn(多価金属化合物)がAldorich社製であるのを除き、他の薬剤は和光純薬(株)製である。
【0049】
[例1]
アクリル酸をそのまま塗工液No.1とした。
【0050】
[例2]
アクリル酸2.50部、酸化亜鉛0.50部、水酸化ナトリウム0.14部およびベンゾフェノン0.20部を蒸留水1.50部に溶解して塗工液No.2を得た。
【0051】
[例3]
アクリル酸3.00部、酸化亜鉛1.00部を蒸留水2.50部に溶解して塗工液No.3を得た。
【0052】
[例4]
アクリル酸3.00部、炭酸カルシウム0.60部を蒸留水4.50部に溶解して、塗工液No.4を得た。
【0053】
[例5]
アクリル酸0.50部、ジアクリル酸亜鉛1.50部、過硫酸アンモニウム0.10部を蒸留水1.80部に溶解して塗工液No.5を得た。
【0054】
[例6]
メタクリル酸3.00部および酸化マグネシウム0.55部を蒸留水2.30部に溶解して、塗工液No.6を得た。
【0055】
[例50]
ジアクリル酸亜鉛1.50部を蒸留水2.50部に溶解して塗工液No.50を得た。
【0056】
上記で得られた塗工液の概略組成を次表1にまとめて記す。
【表1】

【0057】
(ガスバリア性ゴム状成形体の製造例)
上記塗工液の各種を、後記表2〜3に示す各種ゴム基材上に塗布し、UV照射または電子線(EB)照射、および必要により熱処理を行い、ガスバリア性ゴム状成形体を得た。記号で示した各種基材の内容は以下の通りである。
【0058】
<ゴム基材>
・NBR#500:厚さ500μmのニトリルゴムシート(入間川ゴム(株)製「ニトリルゴムIN−80」;引張弾性率(JIS K7113)=6MPa、表面平均粗さRa(JIS B0601)=2μm)
・CR#1000:厚さ1mmのクロロプレンゴムシート(入間川ゴム(株)製「クロロプレンゴムNEO−180」)
・EPDM#500:厚さ500μmのエチレン−プロピレンゴムシート(入間川ゴム(株)製「エチレンプロピレンゴムEP−5065」)
・Si#300:厚さ300μmのシリコーンゴムシート(入間川ゴム(株)製「シリコーンゴムIS−825」)
・F#500:厚さ500μmのフッ素ゴムシート(入間川ゴム(株)製「フッ素ゴムJF−900」)
・U#1000:厚さ1mmのウレタンゴムシート(入間川ゴム(株)製の「ウレタンゴムIUC−749」)
・BR#1000:厚さ1mmのブチルゴムシート(クレハエラストマー(株)製「VB260N」)
・SBR#1000:厚さ1mmのスチレン−ブタジエンゴムシート(クレハエラストマー(株)製「GB450A」)
【0059】
<被覆基材>
・ONy#15:内面コロナ処理した厚さ15μmの二軸延伸6ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製「エムブレムONBC」)
・OPP#20:片面コロナ処理した厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東レ(株)製「レレファンBO」)
・PET#12:厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製「E5100」;引張弾性率(JIS K7100)=4000MPa;表面平均粗さRa=0.02μm)
【0060】
(UV照射−熱処理による製造例)
[実施例1]
上記例1で調製した塗工液No.1をNBR#500(厚さ500μmのニトリルゴムシート)上に、卓上バーコーター(RK Print-Coat Instruments社製「K303PROOFER」を用いて湿潤塗布量が24g/mとなるように塗工し、塗工後速やかに湿潤状態の塗膜の上からUV照射装置(GS YUASA(株)製「COMPACT UV CONVEYOR CSOT-40」)を用いてランプ出力120W/cm、搬送速度5m/分、ランプ高さ24cmの条件で紫外線(UV光)を照射して、塗膜の重合を行った。
【0061】
上記処理を行ったゴムシートを、ギアオーブン中で120℃、5分間の条件で熱処理してゴム状成形体を得た後、酸素透過度を測定した。層構成の概要、UV照射条件、熱処理条件および測定した酸素透過度を下記実施例および比較例とともにまとめて後記表2に示す。
【0062】
[実施例2〜5および比較例1〜2]
ゴム基材、塗工液、湿潤塗布量、被覆基材、UV照射条件および熱処理条件を表2に記すように変更する以外は、実施例1と同様にして、ゴム状成形体を得た。なお、実施例2および5についてはUV照射後の熱処理を省略した。また実施例3〜5については、塗工液層を表2に示す被覆基材2により被覆した後、ランプ出力を120W/cmから160W/cmに増大して、UV照射を行った。実施例1〜5では、透明な重合体塗工膜が形成されていたが、比較例2の重合体層は白化していた。
【0063】
【表2】

【0064】
上記表2を見れば明らかなように、塗工液を使用せずにUV照射を行った比較例1に比べて、塗工液のその場重合体層によるガスバリア層を形成させた実施例1〜5のゴム状成形体は、顕著なガスバリア性の向上(酸素透過度の低下)が得られている。また中和度100%のZn中和アクリル酸重合体層が形成された比較例2のゴム状成形体は中和度0〜90%の中和(メタ)アクリル酸重合体層が形成された本発明のゴム状成形体に比べて、重合体層の白化の影響でガスバリア性が一桁低いことが分る。
【0065】
(EB照射−熱処理による製造例)
[実施例6]
上記例1で調製した塗工液No.1を実施例1と同じ卓上バーコーターを用いて、NBR#500(厚さ500μmのニトリルゴムシート)上に湿潤塗布量が12g/mとなるように塗工した。塗工後、速やかにONy#15(厚さ15μmの二軸延伸6ナイロンフィルム)を湿潤状態の塗膜表面に被せて、ゴム基材/塗膜/ONyの層構成を有する積層体を得た。次いで被覆基材(ONy)側から、トレー搬送コンベア方式のEB照射装置(岩崎電気(株)製「CB250/15/180L」)を用いて加速電圧150kV、搬送速度10m/分、照射線量50kGyの条件で電子線(EB)を照射して、塗膜の重合を行った。
【0066】
上記処理を行ったゴムシートを、ギアオーブン中で180℃、60分間の条件で熱処理してゴム状成形体を得た後、酸素透過度を測定した。層構成の概要、EB照射条件、熱処理条件および酸素透過度を下記実施例および比較例とともにまとめて後記表3に示す。
【0067】
[実施例7〜10および比較例1〜2]
ゴム基材、塗工液、湿潤塗布量、被覆基材、EB照射および熱処理条件を表3に記すように変更する以外は、実施例1と同様にして、ゴム状成形体を得た。なお、実施例7,9および10ではEB照射後の熱処理を、また実施例8〜10については塗膜表面への被覆基材による被覆を、それぞれ省略した。実施例6〜10では、透明な重合体層が形成されていたが、比較例4の重合体層は白化していた。
【0068】
【表3】

【0069】
(加熱による製造例)
[実施例11]
上記例5で調製した塗工液No.5を実施例1と同じ卓上バーコーターを用いて、SBR#1000(厚さ1mmのスチレン−ブタジエンゴムシート)上に湿潤塗布量が24g/mとなるように塗工した。塗工後、速やかに厚さ50μmのAl箔を湿潤状態の塗膜表面に被せて、ゴム基材/塗膜/Alの層構成を有する積層体を得た。次いでこの積層体をギアオーブン中に入れ、180℃、120分間の条件で加熱して塗膜の重合を行った後、Al箔を剥離して、本発明によるゴム状成形体を得、実施例1と同様に測定して、17×10−4[cm(STP)/(m・s・MPa)]の酸素透過度を得た。概要を便宜的に上記表3に付記する。
【0070】
(ガスバリア性ゴム状成形体の延伸追随性)
上記実施例3および6で得られたゴム状成形体を、それぞれ引張圧縮試験機((株)エー・アンド・ディ製「テンシロンRCT−1210A」)を用いて、引張速度300/分で1軸方向10%延伸し、この状態で1分間保持した後、引張力を開放した。この引張延伸後のゴム状成形体について、外観(重合体層の剥れ)および酸素透過度を評価した。
【0071】
その結果、実施例3および6のゴム状成形体については、いずれも重合体層の剥れは認められず、それぞれ4×10−4および73×10−4[cm(STP)/(m・s・MPa)]の酸素透過度を示し、引張延伸試験前の3×10−4および75×10−4[cm(STP)/(m・s・MPa)]とほぼ同等の酸素透過度を示すことが確認された。
【0072】
[実施例12]
[ゴム組成物A]
下記の配合に従い、硫黄、酸化亜鉛を混練りしてマスターバッチを作製した後、8インチロールにてマスターバッチと硫黄、酸化亜鉛を混練りしたゴム組成物Aを得て、乗用車用空気入りタイヤ195/65R15(すなわち、断面幅195mm、扁平率(高さ/幅)65%のラジアル(R)タイヤで、リム径15incn)を作製した。
【0073】
ゴム組成物A(配合単位:重量部)
天然ゴム(テックビーハング社製「RSS#3」) 40
BR−IIR(JSR(株)製「Bromobutyl 2244」) 60
HAF(三菱化学(株)製「ダイヤブラックH」) 50
オイル(日本サン石油(株)製「SUNPAR2280」) 10
ステアリン酸(和光純薬製) 2
酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」) 3
硫黄(和光純薬製) 1
【0074】
[ガスバリア性ゴム状成形体(タイヤ)の製造]
上記例1で得られた塗工液No.1を、タイヤの内部にスプレーガンを用いて湿潤塗量が約15g/mとなるように塗工し、UV照射装置(「ハンディ・キュアラブ」)を用いて、照射量が大略600W・sec/cmとなるように紫外線を湿潤状態の塗膜に照射し、ガスバリア層を形成させたタイヤを得た。
【0075】
[評価]
上記で得られたガスバリア層を形成させたタイヤとガスバリア層を形成させていない(ガスバリア層形成のための塗工液の塗工およびUV照射を行っていない)タイヤを、それぞれ初期内圧200kPaで100km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付けて、10000km走行を実施した。これら2種のタイヤによる走行試験後、さらにそれぞれ3カ月放置した後、それぞれの内圧を測定し、下式により内圧保持性係数を求めたところ、0.4の値が得られた。これはガスバリア層を形成させていないタイヤに比べてガスバリア層を形成させたタイヤの内圧低下率が4割に低下し、タイヤの内圧保持性が向上したことを示す。
【0076】
[数1]
内圧保持性係数=(200−a)/(200−b)
a:ガスバリア層を形成させたタイヤの走行試験および3カ月放置後の内圧
b:ガスバリア層を形成させないタイヤの走行試験および3カ月放置後の内圧
【0077】
[実施例13]
実施例12で作製したガスバリア層を形成させたタイヤの被覆重合体層に酢酸亜鉛水溶液(濃度5重量%)をスプレーガンで塗布した後、水洗し、ガスバリア層であるカルボン酸重合体の中和度を更に高める処理を行ったタイヤを得た。このタイヤの内圧保持性係数は、0.1となり、酢酸亜鉛水溶液処理により内圧保持特性の向上が認められた。
【0078】
[実施例14]
上記例1で得られた塗工液No.1に換えて、上記例5で得られた塗工液No.5を用いたことを除いて、実施例12と同様にガスバリア層を形成させたタイヤを作製した。このタイヤの内圧保持性係数は0.1となり、実施例12よりも向上した内圧保持性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上述したように、本発明によれば、本来的な特性としての伸縮変形性ないし耐衝撃性に加えて優れたガスバリア性を有するゴム状成形体(製品あるいは半製品)ならびにその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある厚さを有するゴム基材と、該ゴム基材の厚さを挟む二面のうち少なくとも一面上に積層されたガスバリア層とを含み、該ガスバリア層が多価金属により化学当量基準で0〜90%中和されたカルボキシル基を有するα,β−不飽和カルボン酸のその場重合体層からなることを特徴とするガスバリア性ゴム状成形体。
【請求項2】
前記α,β−不飽和カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のゴム状成形体。
【請求項3】
前記多価金属が2価イオンまたは3価イオンを与える金属である請求項1または2に記載のゴム状成形体。
【請求項4】
前記ゴム基材が天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロブレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる請求項1〜3のいずれかに記載のゴム状成形体。
【請求項5】
ゴム基材の形状が、シート、タイヤ、チューブまたはカップ、タンク等の中空容器、あるいはこれらの前駆体形状である請求項1〜4のいずれかに記載のゴム状成形体。
【請求項6】
温度30℃、相対湿度0%の乾燥条件下で測定した酸素透過度が100×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下である請求項1〜5のいずれかに記載のゴム状成形体。
【請求項7】
ある厚さを有するゴム基材の厚さを挟む二面のうち少なくとも一面上に、多価金属により化学当量基準で0〜90%中和されたα,β−不飽和カルボン酸を組成物の全量基準で0〜85重量%の溶媒に溶解または分散してなる重合性単量体組成物の塗膜を形成し、その場で重合してガスバリア層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性ゴム状成形体の製造方法。
【請求項8】
該α,β−不飽和カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和カルボン酸である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
多価金属が、2価金属または3価金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
該重合性単量体組成物の溶媒が水、アルコール、NMP、THF、アセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記重合性単量体組成物が、光重合開始剤および熱重合開始剤の少なくとも一方を更に含有するものである請求項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記ゴム基材が、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
その場重合処理が、湿潤状態の塗膜に対する電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による処理である請求項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
湿潤状態の塗膜を、フィルム状基材で被覆してから重合処理を行う請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
電離放射線が、紫外線、電子線、ガンマ線、またはアルファ線である請求項13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ガスバリア層に、更に2価金属イオンおよび3価金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを付与する工程を含む請求項7〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
ゴム基材の形状が、シート、タイヤ、チューブまたはカップ、タンク等の中空容器、あるいはこれらの前駆体形状である請求項7〜16のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−44207(P2008−44207A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220988(P2006−220988)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】