説明

ガスレーザ発振器

【課題】 小型軽量かつ安価で気密構造を必要とせず、また放電電極容器が破損しにくく取り扱いが容易であり、放電電極容器内部での水漏れや結露を防止した放電電極を備えたレーザ発振器を得る。
【解決手段】 放電箱12は、放電電極2が設けられた面だけに破損しやすい無機絶縁物を配置し、その他の面は破損しにくい無機金属で構成されているため、組立の際には放電電極2の面だけを注意すればよく、取り扱いが容易となる。また、絶縁物16を放電箱12の内部に充填することで、放電箱12の内部と外部に大きな圧力差が生じないため、容器11には厚みの薄い無期金属の板材を用いても強度を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電励起式ガスレーザ発振器に用いられる放電電極の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放電励起式ガスレーザ装置の放電電極は、金属電極がシリコンゴムなどの有機絶縁物からなる放電制限材によって覆われた構造であった(例えば、特許文献1参照)。また、容器によって筐体内のレーザ媒質ガスと区切られた大気雰囲気中に導電体電極を設置し、その容器を筐体に対して真空タイトに構成された放電電極もあった(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−283782号公報
【特許文献2】特開2002−261356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の放電励起式ガスレーザ発振器において、シリコンゴムなどの有機絶縁物からなる放電制限材は、放電に伴って発生する紫外線や反応性の高い活性ガスにより分解劣化され、この分解した汚染物がレーザ媒質ガスの劣化、およびミラーの汚染を招く。従来の放電電極において、無機質絶縁物によりシリコンゴムなどの有機絶縁物からなる放電制限材を覆うように構成することで、放電に伴って発生した紫外線や反応性の高い活性ガスによる放電制限材の分解劣化を抑制している。しかしながら、無機質絶縁物は割れなどの破損が発生しやすいことから、その取扱いには注意を要する。また、割れが発生すると、その隙間から紫外線や活性ガスが照射、侵入し、放電制限材を分解劣化してしまう。
【0005】
また、特許文献2に示される放電電極では、容器の内部が筐体のレーザ媒質ガス雰囲気と区切られた大気雰囲気となるように構成されている。例えば炭酸ガスレーザの場合、筐体内のレーザガス圧力は通常7kPa〜33kPa程度であり、大気圧101.325kPaとの圧力差に耐えうる強度が容器には必要となる。このため、容器は強度を確保するために肉厚なものとなり放電電極の大型化、重量化を招き、また高価なものとなってしまう。また、容器と誘電体との接合に気密構造を必要とするため、構造が複雑になり、製造不良により筐体内のレーザガス雰囲気中に大気が流入するという問題があった。また、放電電極に冷却手段を設けた際には、その冷却手段からの水漏れや夏場のような高温多湿の環境下では、その冷却手段が大気雰囲気と接するため放電電極内部で結露が起こり、放電電極内部で放電が発生し、電極内部の配水管がダメージを受け更なる水漏れを誘発し冷却不足となり、絶縁基台が割れる等の破損に至る危険があった。
【0006】
本発明は上記したような従来のものの欠点を除去するためになされたもので、小型軽量かつ安価で気密構造を必要とせず、また放電電極容器が破損しにくく取り扱いが容易である放電電極を備えたガスレーザ発振器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るガスレーザ発振器においては、放電箱を放電電極が設けられた面だけに破損しやすい無機絶縁物を配置し、その他の面は破損しにくい無機金属で構成し、さらに絶縁物を放電箱の内部に充填したものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、放電箱を放電電極が設けられた面だけに破損しやすい無機絶縁物を配置し、その他の面は破損しにくい無機金属で構成することにより取り扱いが容易となる。また、絶縁物を放電箱の内部に充填することにより、気密構造を必要とせず小型軽量かつ安価な放電電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1を示すガスレーザ発振器の構成を表す図である。
【図2】この発明の実施の形態1を示すガスレーザ発振器の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1であるガスレーザ発振器の放電電極の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1を示すガスレーザ発振器の断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2であるガスレーザ発振器の放電電極の断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2の他の例であるガスレーザ発振器の放電電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1におけるレーザ発振器の構成を示すものである。図1において、1は筐体、2は放電電極である。3は放電空隙、4はCO、CO2、O2、N2、Heガス等を含むレーザ媒質ガス、5は送風機である。6および7はレーザ光を発振増幅するためのそれぞれ全反射鏡および部分反射鏡、8は1対の放電電極2の間に高周波高電圧を供給する電源である。
【0011】
図1において、筺体1内にはレーザ媒質ガス4が充填されており、筐体1内に収容される送風機5によって同様に収容される1対の放電電極2の間を通るように循環されている。1対の放電電極2間には交流電圧を印加することによって放電が発生し、レーザ媒質ガス4を励起し、反転分布を生成する。このようにして反転分布が発生したレーザ媒質ガス4は光を発生し、全反射鏡6および部分反射鏡7によって反射、増幅される。これらの全反射鏡6や部分反射鏡7からなる共振ミラー間で増幅された光L1は、部分反射鏡7からレーザ発振器外部にレーザ光L2として取り出される。放電電極2間で励起され高温となつたレーザ媒質ガス4は、図示していない熱交換器を通過する間に冷却され再び放電電極間へと循環される。
【0012】
図2は、図1におけるレーザ発振器のA−A断面図である。図2において、9は鉄や銅などの導電体電極であり、10は板形状の誘電体で主としてセラミックスなどを用いる。導電体電極9はろう付け等によって誘電体10の一方の面に接合され、放電電極2を構成する。11は、アルミ、鉄、ステンレスなど外部からの衝撃に対して割れなどを起しにくい無機金属で構成される容器である。この容器11の開口面に、放電電極2の導電体電極9が接続された面が向かい合うように配置される。これにより、容器11により放電電極2の導電体電極9が接続された面が覆われるように構成され、放電箱12を構成する。このように構成された1組の放電箱12は図2に示すように、放電電極2が向かい合うように配置されると共に、放電電極2が向かい合う側の面は誘電体10により構成され、それ以外の面は無機金属で構成されている。
【0013】
更に、放電箱12の内部、すなわち容器11と放電電極2によって囲まれた空間には絶縁物16が充填される。絶縁物16は、空間に充填する必要があるため、型による成形が容易である樹脂を用いるのがよい。なお、樹脂には熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2種類が存在するが、熱硬化性樹脂を用いるのが、より望ましい。熱硬化性樹脂は、加熱もしくは2種混合により硬化する樹脂であるが、硬化以前は常温で液体であり、型へ流し込んで硬化させる作業においては、製造が容易となる。一方、熱可塑性樹脂は、加熱することで軟化し冷却して硬化させるため、型へ流し込むには射出成形機等の設備が必要となり、製造の容易性からは熱硬化性樹脂より劣る。熱硬化性樹脂としては、例えば液体状の2つの樹脂材料を適当な分量で混合することによって硬化するシリコーンゴム等が例としてあげられる。この場合、樹脂を放電箱12内に充填するのは容易であるが、隙間や気泡を発生させないように注意する必要がある。隙間や気泡が放電箱12内に存在すると、筐体1内を真空状態にしたときに破裂等が発生する恐れがあるためである。
【0014】
図3は、放電箱12における誘電体10と容器11の接続方法を示した図である。図3において、誘電体10の周辺部は、容器11の端部と押さえ部材19との間に挟み込まれる形で保持される。また、押さえ部材19は、例えばネジにより容器11の端部に締結される。これにより、破損しやすい誘電体10の端部を直接ネジ止めする等局所的に圧力を加えずに済み、誘電体10の破損を防止することができる。
【0015】
図4は、図1におけるレーザ発振器のA−A以外の断面図であり、放電電極2への電力の供給の様子を示したのものである。図4において、13は給電線であり、放電電極2に接続され、容器11の内部を通り、容器11と筐体1間に配置されたベローズ14を介して、筐体1の開口15から図1で示した電源8に配線されている。ベローズ7の内部については、絶縁物16を充填してもよいし、図4に示したように絶縁物16を充填せず筐体1の外部とつながった大気雰囲気としてもよい。ただし、ベローズ7内部を大気雰囲気とした場合、ベローズ7内部と外部に大きな圧力差が生じるので、ベローズ7は圧力差に耐えられる強度が必要となる。一方、ベローズ7内部を絶縁物16で充填した場合、充填する絶縁物16が必要になるが、ベローズ7内部と外部に大きな圧力差が生じ無いので、ベローズ7は内部を大気雰囲気とするほどの強度は必要ない。
【0016】
このように構成されたガスレーザ発振器においては、放電箱12は、放電電極2が設けられた面だけに破損しやすい無機絶縁物を配置し、その他の面は破損しにくい無機金属で構成されているため、組立の際には放電電極2の面だけを注意すればよく、取り扱いが容易となる。また、絶縁物16を放電箱12の内部に充填することで、放電箱12の内部と外部に大きな圧力差が生じないため、容器11には厚みの薄い無機金属の板材を用いても強度を確保できる。これにより、小型軽量かつ安価で気密構造を必要とせず、また放電電極容器が破損しにくく取り扱いが容易な放電電極が得られる。
【0017】
なお、絶縁物16に発泡樹脂を用いることで、より軽量にすることもできる。また、容器11に用いる無機金属は、レーザガス雰囲気中に暴露されるため、錆びたり腐食したりしないものが望ましく、例えばステンレスやアルミが好ましい材質である。
【0018】
実施の形態2.
図5および図6は、本発明の実施の形態2を示す放電電極の断面図であり、実施の形態1に係るガスレーザ発振器よりも放電電極の冷却性を向上させたものである。以下、実施の形態1と異なる部分につき説明する。
【0019】
図5において、17は冷却管で、銅等の金属あるいは合成樹脂からなり、その内部に冷却用媒体である水や窒素ガス等を流すことが可能な構造、例えば図5に示したような孔20を有する。冷却管17は、実施の形態1と同様に放電箱12に充填する絶縁物16で固定されている。また、冷却管17は絶縁物16で覆われるため、絶縁物16がシール材として働き、冷却用媒質として水を使用した場合には冷却管17からの水漏れを防ぐこともでき、放電箱12の内部で結露が発生することもなく、放電箱12の内部での水漏れや結露による放電電極の破損を防ぐことができる。
【0020】
図5では、冷却管17を絶縁物16にて固定したが、冷却管17をより導電対電極9に密着させるため、図6に示したように固定部材18を用いて放電箱12内で冷却管17を固定しても良い。ここで、固定部材18は、機械的特性すなわち引張り強さや伸びおよび剛性等が優れていて、耐熱温度が高く、電気絶縁性が高いものが望ましく、例えばポリオキシメチレン(ポリアセタール)やポリブチレンテレフタレート樹脂からなるものである。また、固定部材18の形状は、図6においては断面形状が台形をしているが、冷却管17を固定できるならば、その形は適宜決定すればよい。
【0021】
固定部材18の作用は、冷却管17と導電対電極9との密着性を良化することであり、これにより、図5に示した絶縁物16で冷却管17を固定する場合に比べて、取付作業やコストの増加が発生するが、冷却効率を更に向上することができる。固定部材18と容器11との間には、実施の形態1と同様に絶縁物16が充填されるので、図5の構成と同様に、放電箱12の内部での水漏れや結露による放電電極の破損を防ぐこともできる。
【0022】
なお、図5および図6において冷却管は1本のみ示しているが、多数存在する場合においても同様に、絶縁物16もしくは固定部材18で固定すればよい。また、絶縁物16や固定部材18に熱伝達性の優れた樹脂(放熱用のシリコーンゴム等)を用いることで、冷却効率を向上させることができ、冷却管の小型化や冷却用媒質の使用量を削減することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 筐体
2 放電電極
4 レーザ媒質ガス
9 導電体電極
10 誘電体
11 容器
12 放電箱
16 絶縁物
17 冷却管
18 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の放電電極の間にレーザガスを流し、前記放電電極間に高電圧を印加して前記放電電極の間で放電を発生させ、前記レーザガスを励起してレーザ発振を行うガスレーザ発振器において、
前記放電電極は、前記高電圧を印加する導体電極と、前記導体電極を一方の面に接合された板形状の誘電体とからなり、前記誘電体の前記導体電極が接合されていない側の面を向かい合うように配置され
前記放電電極の導体電極が接合された側の面を覆う無機金属からなる容器を備え、
前記放電電極と前記容器とから囲まれる空間に絶縁物を充填したガスレーザ発振器。
【請求項2】
前記絶縁物が樹脂である請求項1に記載のガスレーザ発振器。
【請求項3】
前記樹脂が熱硬化性樹脂である請求項2に記載のガスレーザ発振器。
【請求項4】
前記樹脂が発泡樹脂である請求項2に記載のガスレーザ発振器。
【請求項5】
前記容器がステンレスもしくはアルミからなる請求項1乃至4に記載のガスレーザ発振器。
【請求項6】
前記導体電極を冷却する冷却管を備え、この冷却管の位置決めを前記絶縁物によって行う請求項1乃至5いずれかに記載のガスレーザ発振器。
【請求項7】
前記レーザガスを封入し前記放電電極および容器を収納する筐体と、この筐体と前記容器の間に設けられ、前記導体電極と電源とをつなぐ電線を内部に配線すると共に、内部に前記絶縁物を充填したベローズを備えた請求項1乃至6いずれかに記載のガスレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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