説明

ガス処理装置

【課題】硫化水素を含む天然ガスを処理するガス処理設備の容器は、大型化の傾向にあることから重量の増大が問題となっており、このような容器の重量の低減を図る。
【解決手段】ガス処理装置は、天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれるガスを処理するために湿潤硫化水素環境で用いられる容器を備えている。この容器用の鋼板として降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼が用いられている。また、この容器を構成する高張力鋼の鋼板の内面には、オーステナイト系ステンレス鋼が内張りされるか、オーバーレイ溶接されている。これにより、容器内面の硫化水素による腐食を防止し、これによる原子水素発生を防止することで、水素誘起割れを防止する。さらに、高張力鋼を用いることで、容器の板厚の薄肉化を図ることにより、容器を軽量化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれているガスを処理するために湿潤硫化水素環境で使用されるガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素が含まれている天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガスの処理プロセスは数多くあり、これらの装置では、取り扱われるガスが高圧であることが多い。また、これらの装置としては、例えば、スラグキャッチャ、ガスオイルセパレータ、アミン吸収塔、再生塔など大きな重量を有する場合が多い。
【0003】
上記処理プロセスとしての硫黄回収プロセス等で使われる機器の多くは腐食代を考慮した圧力容器用鋼板(炭素鋼)で製作されるのが通常である。これは鉄と硫化水素との反応でできる硫化鉄の膜が容器の流体側(容器の内側)の鉄の表面を覆い、これがある程度腐食進行を防ぐので、上述の腐食代を十分に確保すれば、炭素鋼の長期間の使用が可能となる。
【0004】
しかし、硫化鉄ができる際に生じる原子水素は極めて微小なために炭素鋼内に入り込んで、炭素鋼を透過してしまう。炭素鋼内に入り込んだ原子水素は、例えば、後述のように炭素鋼内に形成される硫化マンガンの層を透過することができず、この層の部分に溜って分子化し、水素ガスの状態となる。この炭素鋼内に溜った水素ガスにより割れが生じる。
すなわち、上述のような硫化水素が含まれるガスを処理するプロセスで用いられる圧力容器等の容器、すなわち、湿潤硫化水素環境で使用される容器に通常の(圧力)容器用鋼板(炭層鋼)を使用すると水素誘起割れを起こすことになる。すなわちHIC(Hydrogen Induced Cracking)が生じる。基本的に炭素鋼中の非金属介在物が炭素鋼内を透過する原子水素を集積させて、HICの原因となることが知られている。
【0005】
そこで、上述の湿潤硫化水素環境では、炭素鋼として、製造時に特殊な処理をして非金属介在物の含有量を減らした耐HIC鋼を用いるのが常識となってきている(例えば、特許文献1参照)。
なお、上述の硫化マンガンの層は、炭素鋼塊を作る転炉等で不純物の硫黄を取り除くために添加したマンガンと硫黄との反応できた硫化マンガンが炭素鋼塊をローラで鋼板に引き伸ばす際に層状になって炭素鋼内に残ったものである。
【0006】
それに対して、上述の耐HIC鋼は、例えば、硫化マンガンの層がない炭素鋼であり、炭素鋼塊を作る際にカルシウムを添加して硫黄を硫化カルシウムCaSの化合物とするものである。CaSは球状で生成され、かつ、炭素鋼塊を引き伸ばして炭素鋼板とした際にも球状の状態で炭素構内に残っており、上述のように炭素鋼を原子水素が透過する際に原子水素を遮ることがなく、原子水素が炭素鋼内で分子化(ガス化)するのを防止することができる。なお、CaSも非金属介在物であり、耐HIC鋼における含有量が少ない方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−237533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、高強度の耐HIC鋼を製造するのが困難であるため、圧力容器に必要な強度を得ようとすると、圧力容器の板厚が厚くなり重量が大きくなってしまう。このような耐HIC鋼を必要とする上述の硫化水素を含むガスの処理設備を備える最近のプラントにおいては、設備が大型化の傾向にあり、これら圧力容器の重量が増加し、製作、輸送、建設においてその難しさを増してきている。
【0009】
すなわち、耐HIC鋼の高強度化が困難なことから、例えば、湿潤硫化水素環境で使用される容器では、必要な強度を得るのに十分な板厚を必要とし、このような容器が大型化した場合に、大きな重量を有するものとなってしまう。例えば、上述のガス処理装置の圧力容器であるアミン吸収塔では、高強度化されていない耐HIC鋼を用いることと、大型化により重量が1000トンを越えるものが作られるようになってきた。
【0010】
ここで、大型の圧力容器の重量が1000トンを越える場合に、以下のような問題が生じる。
第1に、大型でかつ1000トンを越える重量を有する圧力容器を製造する設備を備えた製作工場が少なく、製作工場が限定されてしまう。この場合に、効率的な圧力容器の製造が難しくなるとともに、ガス処理装置の建設現場への輸送経路を確保するのが難しくなり、輸送にコストがかかる虞がある。
【0011】
第2に、製作工場から建設現場の設置場所に圧力容器を輸送するルート中の橋や道路が1000トン以上の重量に耐えられず、圧力容器の輸送が困難な場合が生じる。この際に、迂回ルートを通ることにより輸送が可能となる場合には、輸送期間が長くなったり、輸送コストが高くなる虞がある。
第3に、圧力容器(処理塔)を建設現場で起立させて設置する場合に、1000トン以上の重量に対応できる特殊なクレーンを必要とする。このような特殊なクレーンは、数が限られており、当該クレーンの使用可能な期間が限られたり、当該クレーンの搬送にコストがかかる虞がある。
【0012】
上述のような問題を解消する方法として、製作工場で、圧力容器全体の組立を行わず、各部分に分割された状態のままで、各部分をそれぞれ建設現場に搬送し、現地で各部分を溶接して組み立てるとともに、溶接部分の焼鈍等の処理を行い、ジンポール工法により起立させる方法がある。
しかし、実際に現地で組み立てるには、スケジュール、品質管理、コストの面で問題があり、実施が難しい。
さらに、高い強度が必要な圧力容器の更なる大型化が進んだ場合に、圧力容器に必要な板厚が耐HIC鋼からなる鋼板の製造限界を超える虞が有る。
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、湿潤硫化水素環境で用いられるガス処理装置の容器に用いられる鋼板の板厚を薄肉化して重量の低減を図ることができるガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のガス処理装置は、天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれるガスを処理するために湿潤硫化水素環境で用いられる容器を備えたガス処理装置であって、前記容器用の鋼板として降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼が用いられ、かつオーステナイト系ステンレス鋼が前記高張力鋼からなる容器内全面に内張りされていることを特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明においては、湿潤硫化水素環境で用いられる鋼板が、耐HIC鋼ではなく、降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼にオーステナイト系ステンレス鋼を内張りしたクラッド鋼により形成されるので、湿潤硫化水素環境において、容器内面の前記ステンレス鋼が硫化水素に接触することになるが、前記ステンレス鋼により硫化水素による腐食が防止される。すなわち、前記ステンレス鋼からなる容器内面に硫化水素による硫化鉄の発生が防止される。硫化鉄の発生が防止されることにより、前記容器内面での原子水素の発生も防止される。
したがって、クラッド材としてオーステナイト系ステレス鋼を用いることで、HICの発生が防止される。
そして、容器用鋼板に用いられるクラッド鋼の母材として、前記高張力鋼が用いられているので、容器の板材の板厚を耐HIC鋼を用いた場合よりも、同じ強度でも薄くすることが可能となり、強度を確保したまま容器の軽量化を図ることができる。
【0016】
請求項2に記載のガス処理装置は、天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれるガスを処理するために湿潤硫化水素環境で用いられる容器を備えたガス処理装置であって、前記容器用の鋼板として降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼が用いられ、かつオーステナイト系ステンレス鋼が前記高張力鋼からなる容器内全面にオーバーレイ溶接されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明においては、湿潤硫化水素環境で用いられる鋼板が、耐HIC鋼ではなく、降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼にオーステナイト系ステンレス鋼をオーバーレイ溶接した鋼板からなるので、請求項1に記載の場合と同様に、HICを防止しつつ、容器の鋼板の板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
軽量化を図る上では、前記ステンレス鋼をオーバーレイ溶接より内張りした方が板厚を大きく削減できて有利であるが、クラッド鋼の板厚には製造上の限界があり、サイズや必要強度等により高張力鋼の板厚が厚くなる場合には、オーバーレイ溶接を用いることで対応可能となる。
【0018】
請求項3に記載のガス処理装置は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記オーステナイト系ステンレス鋼の種類がJIS規格におけるSUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS304L、SUS305、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321、SUS347のいずれかであることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明においては、ニッケル:Niの含有量が6%以上、好ましくは8%以上で、クロム:Crの含有量が16%以上、好ましくは18%以上のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、湿潤硫化水素環境での硫化水素による腐食を防止し、これによりHICの発生を防止することができる。
【0020】
請求項4に記載のガス処理装置は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記高張力鋼の機械的性質としての降伏点が300N/mm2以上、900N/mm2以下で、引張強さが490N/mm2以上、1200N/mm2以下であることを特徴とする。
【0021】
高張力鋼の降伏点を300N/mm2以上とし、引張強さを490N/mm2以上とすることにより、耐HIC鋼を用いた場合よりも明らかに容器の板厚を薄肉化することができる。言い換えれば、降伏点および引っ張り強さが上述の値よりも低いと、高張力鋼にオーステナイト系ステンレス鋼の内張りもしくはオーバーレイ溶接をした場合に、耐HIC鋼との板厚の差が少なく、十分な軽量化を図ることが困難となる。
また、高張力鋼の降伏点を900N/mm2以上とし、引張強さを1200N/mm2より大きなものとすると、加工が困難になる虞がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、湿潤硫化水素環境で使用されるガス処理装置の容器の板厚を薄くして容器の軽量化を図ることができる。また、容器の軽量化により、硫化水素を含むガスを処理するガス処理装置の更なる大型化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るアミン吸収塔を示す側面図である。
【図2】アミン吸収塔の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態のアミン吸収塔を示す側面図であり、図2はアミン吸収塔の要部(ノズル部)の断面図である。
この例のガス処理装置は、例えば、天然ガスに含まれる硫化水素を除去する際のガス処理設備に設けられる容器としてのアミン吸収塔1である。
【0025】
このアミン吸収塔1は、天然ガスに含まれる硫化水素を除去するプロセスで用いられるものである。硫化水素を含む天然ガスをそのまま燃料として使用すると、燃焼生成物として亜硫酸ガスが発生し、公害の要因となってしまうので、天然ガスから硫化水素を除去する必要があり、硫化水素はアミンあるいは熱炭酸カリを用いる化学吸収(酸−アルカリ反応)酸性ガス除去プロセスで除去するのが一般的である。
【0026】
このプロセスでは、例えば、上述のアミン吸収塔1が用いられ、アミン吸収塔1の下部に原料ガスを入れ、アミン吸収塔1の塔頂部10からリーンアミン溶液(硫化水素を吸収する前の溶液)を流し、アミン吸収塔1内のトレイあるいはパッキングなどにより、原料ガス(硫化水素を含む天然ガス)とアミン溶液と向流接触(気液接触)により、硫化水素を反応吸収させることで、原料ガスから硫化水素を除去する。
【0027】
また、硫化水素を除去された原料ガスは、次の処理プロセスを行う装置に送られる。また、硫化水素を反応吸収したアミン溶液は、リッチアミン溶液(硫化水素を吸収した後の溶液)となり、アミン吸収塔1から抜き出されて熱交換器で暖められ、減圧されてアミン再生塔に送られる。このアミン再生塔の底部にはリボイラーが設置されており、リッチアミン溶液を加熱して蒸気を発生させてアミン溶液から硫化水素をストリップする。塔頂部にはコンデンサが設置されており、このコンデンサで水分が凝縮し、リフラックスとなってアミン再生塔に還流される。
【0028】
アミン再生塔でストリップされた硫化水素は排出されて硫黄回収装置等により、硫黄として回収される。
また、アミン再生塔で硫化水素が除去されたアミン溶液は、リーンアミン溶液としてアミン再生塔からアミン吸収塔1に返送される。
このようなアミン吸収塔1においては、内部が湿潤硫化水素環境となり、上述のHICの発生等の問題を生じる虞がある。
【0029】
この例のアミン吸収塔1においては、アミン吸収塔1を構成する容器用鋼板として、高張力鋼2にオーステナイト系ステンレス鋼3(以下、ステンレス鋼と省略する)を全面内張りしている。すなわち、アミン吸収塔1には、高張力鋼2とステンレス鋼3とからなるクラッド鋼4が用いられている。なお、アミン吸収塔1内部のトレイやパッキング等の内部の部材を取り付けるための内部取付金具5等は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼により形成される。また、アミン吸収塔1の配管が取り付けられる管状の部分も内部にオーステナイト系ステンレス鋼が内張りもしくはオーバーレイ溶接されている。
この例におけるクラッド鋼4は、高張力鋼2を母材とし、ステンレス鋼3をクラッド材とするものである。なお、クラッド鋼4においては、母材とクラッド材とがそれらの境界部分で冶金的に接合している。
【0030】
高張力鋼としては、その機械的性質としての降伏点が300N/mm2以上、900N/mm2以下で、引張強さが490N/mm2以上、1200N/mm2以下となっている。
高張力鋼2において、降伏点が300N/mm2以上で引張強さが490N/mm2以上となっていれば、例えば、耐HIC鋼で容器を形成した場合の容器の板厚に対して、上述のクラッド鋼からなる容器の板厚を有意に薄くすることが可能となる。
【0031】
逆に、高張力鋼2において、降伏点が300N/mm2より小さく、引張強さが490N/mm2より小さい場合には、耐HIC鋼製の容器との板厚の差を大きくできず、特にステンレス鋼が内張りされることから、板厚の薄肉化による軽量化が十分に行えない。
また、高張力鋼の降伏点を900N/mm2以上とし、引張強さを1200N/mm2より大きなものとすると、加工が困難になりコストが増大する。
【0032】
グラッド鋼における母材としての高張力鋼2の厚さは、圧力容器で要求される圧力や、圧力容器のサイズ等によって決定されるものであるが、後述のように、耐HIC鋼で170mmから200mm程度の厚みが必要とされる場合に、例えば、降伏点が450N/mm2で、引張強さが590N/mm2の高張力鋼を用いた場合には、その厚みが例えば110mmから140mm程度となる。
【0033】
クラッド鋼におけるクラッド材としてのオーステナイト系ステンレス鋼としては、以下のJIS規格のものを好適に用いることができる。
・SUS301:Ni(6〜8%)、Cr(16〜18%)
・SUS302:Ni(8〜10%)、Cr(17〜19%)
・SUS303:Ni(8〜10%)、Cr(17〜19%)、Mo(0.60%以下の添加ができる)
・SUS304、SUS304L:Ni(8〜10.5%)、Cr(18〜20%)
・SUS305:Ni(10.5〜13%)、Cr(17〜19%)
・SUS316、SUS316L:Ni(10〜14%)、Cr(16〜18%)、Mo(2〜3%)
・SUS317:Ni(11〜15%)、Cr(18〜20%)、Mo(3〜4%)
・SUS321:Ni(8〜10.5%)、Cr(18〜20%)、Ti(1〜2%)
・SUS347:Ni(8〜10.5%)、Cr(18〜20%)、Nb(1〜2%)
【0034】
また、クラッド材としてのステンレス鋼の厚みは、例えば、2〜4mm程度あれば、十分に腐食の防止を図り、HICの発生を防止することができる。
また、ガス処理装置において、湿潤硫化水素環境となる部分については、容器部分以外でも、全て上述のクラッド鋼4を用いるか、ステンレス鋼をオーバーレイ溶接したものを用いるか、耐HIC鋼等のHICの発生が抑制される部材を用いることが好ましく、さらに大型の容器で重量が大きくなる部分に対しては、クラッド鋼4やオーバーレイ溶接したものを用いる必要がある。
【0035】
以下に、耐HIC鋼により構築されるアミン吸収塔1と、この例のクラッド鋼4で構築されるアミン吸収塔1における板厚、重量等の設計値を計算により求めた。
この際の設計基準としてASME(American Society of Mechanical Engineers) Section viii Division 2(2007)を適用した。
また、設計条件として、硫化水素を除去すべき天然ガスのガス組成を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
設計条件としての天然ガス流量は、1500MMSCFD(million standard cubic feet per day:100万標準立方フィート/日)とした。
耐HIC鋼としては、表2に示される機械的性質を有するものを用い、同様に、高張力鋼としては、表2に示される機械的性質を有するものを用いた。また、ステンレス鋼としては、SUS304を用いた。
【0038】
【表2】

【0039】
アミン吸収塔1については、略半球状の塔頂部10と、同様に略半球状の塔底部11と、これら塔頂部10と塔底部11との間の円筒部12とにおいて、それぞれの板厚を上述の設計基準に基づいて算出した。なお、耐HIC鋼のアミン吸収塔1においては、合計板厚から腐食代を除いた部分を計算板厚として表2に示した。また、クラッド鋼4からなるアミン吸収塔1においては、高張力鋼の計算板厚にステンレス鋼のライニング厚みを加えたものを合計板厚とした。
【0040】
また、アミン吸収塔1のサイズは、上述の天然ガス流量に対応するものとして、塔内径を6500mmとし、塔の円筒部12の高さを35mとした。なお、表2におけるTLは、タンジェントラインであり、半球状部分と円筒部分との境界を示し、TL−TLが塔頂部10と塔底部11を除く円筒部12の長さとなる。
また、アミン吸収塔1における設計温度を100℃とし、設計圧力を80barとした。
表2の計算結果に示されるように円筒部で耐HIC鋼の腐食代を含む合計板厚が168mmとなるのに対して、クラッド鋼では合計板厚が108mmとなる。同様に塔頂部および塔底部では、耐HIC鋼の腐食代を含む合計板厚が87mmとなるのに対して、クラッド鋼では合計板厚が56mmとなる。
【0041】
すなわち、高張力鋼2とステンレス鋼3からなるクラッド鋼4を用いることで、湿潤硫化水素環境で用いられるガス処理装置の容器の板厚の薄肉化を図ることができる。
そして、Erection重量(建てた際の重量)では、耐HIC鋼の吸収塔が1230トンであるのに対して、高張力鋼およびステンレス鋼からなるクラッド鋼の場合に801トンとなり、35%程度の重量の削減を行うことが可能となっている。
【0042】
すなわち、アミン吸収塔1の重量の低減を図ることができ、製造から搬送して設置するまでの重量物を取り扱うことにより生じる問題を軽減することが可能となるとともに、コストの低減を図ることができる。特に容器の重量が1000トンを越えることにより深刻化する問題を1000トン以下として解消することができる。
【0043】
上記実施の形態では、湿潤硫化水素環境で用いられるガス処理設備の容器の容器用鋼板として、高張力鋼にオーステナイト系ステンレス鋼を内張りしたクラッド鋼4の鋼板を用いたが、高張力鋼に前記ステンレス鋼をオーバーレイ溶接(肉盛溶接)した鋼板を用いてもよい。なお、オーバーレイ溶接は、自動溶接により行われ、例えば、円筒状に形成された高張力鋼からなる鋼板の内周面に自動溶接機によりオーバーレイ溶接により前記ステンレス鋼の層が形成される。
【0044】
なお、オーバーレイ溶接では、5〜15mm程度、通常10mm程度の厚みで、ステンレス鋼の層が形成される。上述の内張りの場合よりもステンレス鋼部分の厚みが厚くなる。
また、オーバーレイ溶接は、高張力鋼の厚みが厚くなっても問題なく、高張力鋼にステンレス鋼をオーバーレイさせることができるが、上述のクラッド鋼4の場合に、高張力鋼の板厚が厚くなると、グラッド材を母材に接合することが困難となる。
【0045】
したがて、例えば、容器サイズや容器の内外の圧力差等に基づいて、高張力鋼の厚みが厚くなる場合、例えば、上述の板厚を計算で求めた場合の条件より、高張力鋼の厚みが厚くなる条件で、高張力鋼の板厚が例えば150mmを越え、さらに厚くなるような場合に適している。なお、高張力鋼の板厚が150mmを越えてもクラッド鋼4を製造可能ならば、クラッド鋼4で対応してもよい。
【0046】
また、高張力鋼の内側にオーバーレイ溶接で、ステンレス鋼の層を形成する場合も、基本的な容器の構造は、例えば、図1、図2に示す構造と同様となり、高張力鋼の内側にオーステナイト系ステンレス鋼を内張りするか、オーバーレイ溶接するかの違いとなる。
そして、オーバーレイ溶接の場合も内張りの場合とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
また、本発明が適用されるのは上記例のアミン吸収塔1に限られるものではなく、上述の天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素を含むガスを処理するために内部が湿潤硫化水素環境となるガス処理装置の各種容器に適用することが可能であり、アミン再生塔、スラグキャッチャ、ガスオイルセパレータ等の容器に適用可能であり、特に、大型で強度的に板厚が厚くなってしまう容器に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 アミン吸収塔
2 高張力鋼
3 オーステナイト系ステンレス鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれるガスを処理するために湿潤硫化水素環境で用いられる容器を備えたガス処理装置であって、
前記容器用の鋼板として降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼が用いられ、かつオーステナイト系ステンレス鋼が前記高張力鋼からなる容器内全面に内張りされていることを特徴とするガス処理装置。
【請求項2】
天然ガス、石油随伴ガス、石油精製ガス等の硫化水素が含まれるガスを処理するために湿潤硫化水素環境で用いられる容器を備えたガス処理装置であって、
前記容器用の鋼板として降伏点が300N/mm2以上の高張力鋼が用いられ、かつオーステナイト系ステンレス鋼が前記高張力鋼からなる容器内全面にオーバーレイ溶接されていることを特徴とするガス処理装置。
【請求項3】
前記オーステナイト系ステンレス鋼の種類がJIS規格におけるSUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS304L、SUS305、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321、SUS347のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス処理装置。
【請求項4】
前記高張力鋼の機械的性質としての降伏点が300N/mm2以上、900N/mm2以下で、引張強さが490N/mm2以上、1200N/mm2以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガス処理装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−6502(P2011−6502A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148349(P2009−148349)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】