説明

ガス分析装置

【課題】外部(大気)圧力が変化しても、測定対象ガスを正確に測定及び分析できるようにする。
【解決手段】測定対象ガスを流入出するためのガスセル1と、ガスセル1内の測定対象ガスの成分濃度を検出するためのガス検出器2と、測定対象ガスをガスセル1へ供給するための第1ポンプ3と、測定対象ガスをガスセル1から排気するための第2ポンプ4と、ガスセル1内の測定対象ガスの圧力を一定に保持するためのガスセル圧力保持手段5と、ガスセル内の測定対象ガスの流量を一定に保持するためのガスセル流量保持手段6と、外部(大気)圧力を検出するための外部圧力検出器7と、外部圧力検出器7により検出された検出値に基づいて、第1ポンプ3が供給する測定対象ガスの流量が一定になるように調整するための流入量調整手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスを分析するためのガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排出ガス試験において、従来では、建屋内でシャシダイナモメータやエンジンダイナモメータを用いた試験が行われており、例えば、日本のJC08モードや、米国のLA4モード等の試験モードがよく知られているが、車両の外部(大気)圧力の変化を考慮した排出ガス試験は行われていなかった。このように、建屋内で試験が行われる場合、外部(大気)圧力が変化しないので、従来のガス分析装置でも排出ガス濃度を精度よく測定できた。
【0003】
ところが、近年の米国及び欧州法規では車両試験について検討されており、実環境で走行する車両の排出ガスを分析する試験が注目されている。しかし、従来のガス分析装置では、車両が走行する標高の変化によって生じる外部(大気)圧力の変化に対応しておらず、排出ガス濃度を精度よく測定できない。
【0004】
従来のガス分析装置(例えば特許文献1)では、径及び長さが異なる複数の測定対象ガスの採取管を備えており、採取部における測定対象ガスの圧力が変動する場合、これらの採取管を切り替えることにより、ガス分析装置のガスセルへ流入する測定対象ガスの圧力を一定に制御する。
【0005】
さらに、従来のガス分析装置は、測定対象ガスをガス分析装置のガスセルへ供給する加圧式ポンプを備える。加圧式ポンプは、予め設定された一定の圧力に加圧してガスを供給するので、外部(大気)圧力が変化すると、供給する測定対象ガスの流量が変化する。即ち、外部(大気)圧力が高いと、加圧式ポンプの負荷が小さくなって、測定対象ガスの供給流量が多くなり、それに対し、外部(大気)圧力が低いと、加圧式ポンプの負荷が大きくなって、測定対象ガスの供給流量が少なくなる。
【0006】
このように、従来のガス分析装置では、外部(大気)圧力の変化に対応していないので、外部(大気)圧力が変化すると、ガス分析装置のガスセルへ流入する測定対象ガスの圧力及び流量が変化する。そして、測定対象ガスの圧力が変化すると、測定対象ガスの濃度が変化するので、流動する測定対象ガスを連続して分析するガス分析装置では、正確に測定対象ガスを分析できない。
【0007】
また、従来のガス分析装置では、外部(大気)圧力の変化によって、測定対象ガスの供給流量が変化するので、それに伴って、測定対象ガスの流速が変化する。測定対象ガスの流速が変化すると、ガス採取ポイント(サンプリングポイント)からガスセルまでの到達時間が変化するので、外部(大気)圧力が変化すると、時系列的に正確な測定ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−102153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、外部(大気)圧力が変化しても、測定対象ガスを正確に測定及び分析できるガス分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るガス分析装置は、
測定対象ガスを流入出するためのガスセルと、ガスセル内の測定対象ガス成分の濃度を検出するためのガス検出器と、測定対象ガスをガスセルへ供給するための第1ポンプと、測定対象ガスをガスセルから排気するための第2ポンプとを備えたガス分析装置であって、
ガスセル内の測定対象ガスの圧力を一定に保持するためのガスセル圧力保持手段と、
ガスセル内の測定対象ガスの流量を一定に保持するためのガスセル流量保持手段と、
外部(大気)圧力を検出するための外部圧力検出器と、
外部圧力検出器により検出された検出値に基づいて、第1ポンプが供給する測定対象ガスの流量が一定になるように調整するための流入量調整手段と、
を備える。
【0011】
好ましくは、
流入量調整手段は、測定対象ガスの流量を調整するための調整弁と、検出値に基づいて調整弁の開度を制御するための制御手段とからなり、
調整弁は、第1ポンプの流入側に設けられている。
【0012】
好ましくは、
ガスセル圧力保持手段は、ガスセル内の圧力を一定に保持する背圧弁と、背圧弁に接続された分岐管とからなり、
分岐管は、流入側分岐点が第1ポンプとガスセルとの間に設けられ、流出側分岐点がガスセルと第2ポンプとの間に設けられている。
【0013】
好ましくは、
ガスセル流量保持手段は、ガスセルと第2ポンプとの間に設けられている。
【発明の効果】
【0014】
上記の通り、本発明に係るガス分析装置は、ガスセル内の測定対象ガスの圧力が一定になるように制御するためのガスセル圧力保持手段と、ガスセル内の測定対象ガスの流量が一定になるように制御するためのガスセル流量保持手段とを備える。従って、外部(大気)圧力が変化しても、ガスセル圧力保持手段及びガスセル流量保持手段によって、ガスセル内の圧力及び流量が一定に保持されるので、ガスセル内の測定対象ガスの濃度が一定に保持される。これによって、本発明のガス分析装置は、外部(大気)圧力が変化しても、ガスセル内の測定対象ガスを精度よく正確に測定及び分析できる。
【0015】
さらに、本発明に係るガス分析装置は、外部(大気)圧力を検出するための外部圧力検出器と、外部圧力検出器により検出された検出値に基づいて、第1ポンプが供給する測定対象ガスの流量が一定になるように調整するための流入量調整手段とを備える。従って、外部(大気)圧力が変化しても、外部圧力検出器及び流入量調整手段によって、第1ポンプによって供給される測定対象ガスの流量が一定になるので、供給される測定対象ガスの流速が一定に保持される。これによって、本発明のガス分析装置は、外部(大気)圧力が変化しても、ガス採取ポイント(サンプリングポイント)からガスセルまでの到達時間を一定にできるので、時系列的に正確な測定及び分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るガス分析装置を示す流路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係るガス分析装置を説明する。
【0018】
[構成]
ガス分析装置は、ガスセル1を備え、ガスセル1内に測定対象ガスが流出入する。ガス分析装置は、ガス検出器2を備える。ガス検出器2は、ガスセル1内に流出入する測定対象ガス(サンプルガス)に含まれる成分濃度を測定する。
測定対象ガスは、例えば、自動車の排気ガスや外気などであって、硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、シアン化水素、アンモニアなどの成分濃度を測定する。
ガス検出器2は、例えば、フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)、非分散赤外線検出器(NDIR)、化学発光検出器(CLD)、磁気式検出器(PMG)、水素炎イオン検出機(FID)、炎光光度法(FPD)、量子カスケードレーザー法検出器(QCL DET)、質量分析計(MS)、キャビティリングダウン分光計(CRDS)、マイクロ波吸収検出器などである。
【0019】
ガス分析装置は、測定対象ガスをガスセル2へ供給するための供給管30と、測定対象ガスをガスセル2から排気するための排気管31とを備える。供給管30は、その流入端P1が、例えば自動車の排気系に接続され、測定対象ガスを採取するサンプリングポイントとなる。排気管31は、その流出端P4が外気側に向けられる。
【0020】
ガス分析装置は、測定対象ガスをガスセル1へ供給するための加圧式の第1ポンプ3を備える。第1ポンプ3は、供給管30に設けられており、サンプリングポイントP1とガスセル1との間に配置される。第1ポンプ3は、予め設定された一定の圧力に加圧して測定対象ガスを供給する。そのため、外部(大気)圧力が高い場合は、第1ポンプ3に対する負荷は小さくなり、外部(大気)圧力が低い場合は、第1ポンプ3に対する負荷は大きくなる。
【0021】
外部(大気)圧力が変化して、第1ポンプ3に対する負荷が変化することによって生じる、供給される測定対象ガスの流量の変化を防止するために、ガス分析装置は、外部圧力検出器7及び流入量調整手段8,9を備える。
【0022】
外部圧力検出器7は、ガス分析装置の外部(大気)圧力の変化、例えば、大気や自動車の排気系からの排気ガス、供給管30のサンプリングポイントP1などの圧力の変化を経時的に測定する検出器である。即ち、外部圧力検出器7は、供給される測定対象ガスの圧力に影響を及ぼす外部(大気)圧力の変化を測定する。
【0023】
流入量調整手段8,9は、外部圧力検出器7によって検出された検出値に基づいて、第1ポンプ3によって供給される測定対象ガスの流量が一定になるように調整する。本実施形態においては、流入量調整手段8,9は、測定対象ガスの流量を調整するための調整弁8と、外部圧力検出器7の検出値に基づいて調整弁8の開度を制御するための制御手段9とを備える。
なお、外部圧力検出器7及び流入量調整手段8,9は、マスフローコントローラなど一体型でもよく、圧力を検知してバルブの開度を調整できるものであればよい。
【0024】
調整弁8は、供給管30に設けられており、サンプリングポイントP1と第1ポンプ3との間、もしくは、第1ポンプ3の出口付近に配置される。即ち、調整弁8は、第1ポンプ3の流入側または排出側に配置される。制御手段9は、外部圧力検出器7の検出値に対応する調整弁8の開度が記憶され、供給される測定対象ガスの流量が一定になるように設定されている。即ち、外部(大気)圧力が高い場合は、第1ポンプ3の負荷が小さくなって、供給される測定対象ガスの流量が増加するので、制御手段9は、調整弁8の開度を小さくして、測定対象ガスの流量を一定にする。また、外部(大気)圧力が低い場合は、第1ポンプ3の負荷が大きくなって、供給される測定対象ガスの流量が減少するので、制御手段9は、調整弁8の開度を大きくして、測定対象ガスの流量を一定にする。
【0025】
ガス分析装置は、ガスセル1内の測定対象ガスの圧力を一定に保持するガスセル圧力保持手段5と、ガスセル1内の測定対象ガスの流量を一定に保持するガスセル流量保持手段6とを備える。
【0026】
本実施形態では、ガスセル圧力保持手段5は、ガスセル1内の圧力を一定にする背圧弁5と、背圧弁5に接続された分岐管32とを備える。分岐管32は、供給管30と排気管31との間に接続される。即ち、分岐管32は、流入側分岐点P2が供給管30の第1ポンプ3とガスセル1との間に配置され、流出側分岐点P3が排気管31のガスセル1と第2ポンプ4との間に配置される。背圧弁5を所定の圧力に調整することで、ガスセル1の流入側において、測定対象ガスの圧力を所定値に保持できる。これによって、ガスセル1内の測定対象ガスの圧力を一定に保持できる。
なお、背圧弁5の代わりに、背圧レギュレータや比例制御バルブなどでもよい。
【0027】
ガスセル流量保持手段6は、マスフローコントローラやバルブなどからなる。ガスセル流量保持手段6は、ガスセル1と流出側分岐点P3との間に配置される。これによって、ガスセル1内の測定対象ガスの流量を一定に保持できる。
【0028】
ガス分析装置は、測定対象ガスをガスセル1から排気するための減圧式の第2ポンプ4を備える。第2ポンプ4は、排気管31に設けられており、流出側分岐点P3と流出端P4との間に配置される。第2ポンプ4は、その入口圧力が第1ポンプ3の出口圧力より常に減圧になるように予め設定され、測定対象ガスを吸引して排気する。
【0029】
外部(大気)圧力が変化すると、第2ポンプ4の負荷が変化してポンプ入口圧力も変化するが、本発明のガス分析装置は、ガスセル圧力保持手段5でガスセル1の入口側を一定圧力に保持し、ガスセル流量保持手段6でガスセル1の下流側を一定流量に保持しているので、ガスセル1内の測定対象ガスの圧力及び流量は変化しない。
【0030】
また、流入量調整手段8が、流入側分岐点P2における測定対象ガスの流量を一定にするので、背圧弁5の負荷が小さくなり、圧力調整の応答を良くできる。
【0031】
[動作]
次に、本発明に係るガス分析装置の動作例について説明する。
例えば、第1ポンプ3で供給される測定対象ガスの流入量が10L/minになるように流入量調整手段8を設定し、ガスセル1内の測定対象ガスの圧力が900hPaになるようにガスセル圧力保持手段5を設定し、ガスセル1内の測定対象ガスの流量が7L/minになるようにガスセル流量保持手段6を設定する。
【0032】
これにより、外部(大気)圧力が変化しても、供給されるガスの流量が常に10L/minに制御され、ガスセル1内に7L/minのガスが流れ、分岐管32に3L/minのガスが流れる。従って、供給されるガスの流量、ガスセル1内の圧力及び流量が一定に保持される。
【0033】
上記の通り、本発明のガス分析装置は、外部(大気)圧力が変化しても、ガスセル圧力保持手段5及びガスセル流量保持手段6によって、ガスセル1内の圧力及び流量が変化しないので、測定対象ガスの成分濃度を精度よく測定できる。従って、ガス分析装置を車載分析計として車両に搭載し、大気圧が変化する高低差のある道路を走行しながらでも、大気や排気ガスの成分濃度を精度よく正確に測定できる。
【0034】
さらに、本発明のガス分析装置は、外部(大気)圧力が変化しても、外部圧力検出器7及び流入量調整手段8,9によって、第1ポンプ3が供給する測定対象ガスの流量が一定になるので、測定対象ガスの流速が一定に保持される。従って、ガス分析装置を車載分析計として車両に搭載し、大気圧が変化する道路を走行しながらでも、サンプリングポイントP1からガスセル1(流入側分岐点P2)までの到達時間を一定にできるので、時系列的に正確な測定及び分析ができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ガスセル
2 ガス検出器
3 第1ポンプ
4 第2ポンプ
5 背圧弁(ガスセル圧力保持手段)
6 ガスセル流量保持手段
7 外部圧力検出器
8 調整弁
9 制御手段
30 供給管
31 排気管
32 分岐管
P1 サンプリングポイント
P2 流入側分岐点
P3 流出側分岐点
P4 流出端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスを流入出するためのガスセルと、前記ガスセル内の前記測定対象ガスの成分濃度を検出するためのガス検出器と、前記測定対象ガスを前記ガスセルへ供給するための第1ポンプと、前記測定対象ガスを前記ガスセルから排気するための第2ポンプとを備えたガス分析装置であって、
前記ガスセル内の前記測定対象ガスの圧力を一定に保持するためのガスセル圧力保持手段と、
前記ガスセル内の前記測定対象ガスの流量を一定に保持するためのガスセル流量保持手段と、
外部圧力を検出するための外部圧力検出器と、
前記外部圧力検出器により検出された検出値に基づいて、前記第1ポンプが供給する前記測定対象ガスの流量が一定になるように調整するための流入量調整手段と、
を備えることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記流入量調整手段は、前記測定対象ガスの流量を調整するための調整弁と、前記検出値に基づいて前記調整弁の開度を制御するための制御手段とからなり、
前記調整弁は、前記第1ポンプの流入側、もしくは、排出側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記ガスセル圧力保持手段は、前記ガスセル内の圧力を一定に保持する背圧弁と、前記背圧弁に接続された分岐管とからなり、
前記分岐管は、流入側分岐点が前記第1ポンプと前記ガスセルとの間に設けられ、流出側分岐点が前記ガスセルと前記第2ポンプとの間に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記ガスセル流量保持手段は、前記ガスセルと前記第2ポンプとの間に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス分析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−32959(P2013−32959A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168911(P2011−168911)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【特許番号】特許第4925489号(P4925489)
【特許公報発行日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(594207610)株式会社ベスト測器 (13)
【Fターム(参考)】