説明

ガス分析計用試料セル

【課題】光学窓やセルの内壁を簡単に清掃することができ、しかも、ガス入口からセル本体内に導入されたガスが滞留することなくスムーズにガス出口に流れるようにして、ガスの置換を速やかに行うことのできるガス分析計用試料セルを提供することを目的とする。
【解決手段】セルの一端に設けられたガス入口から、他端に設けられたガス出口に向けて試料ガスを流通させるガス分析計用試料セルにおいて、両側の端部にネジ部が形成された円筒形状のセル本体(11)と、赤外線透過材料よりなる光学窓(13a、13b)を保持すると共に、セル本体のねじ部(16a、16b)と螺合して、ガス入口側の端部、ガス出口側の端部を封止するように取り付けられる入口側、出口側の窓ホルダー(14a、14b)とを備えてなり、入口側の窓ホルダー(14a)にガス入口管(12a)を、出口側の窓ホルダー(14b)にガス出口管(12b)を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線がガス中を透過する際、種々のガスに固有な特定波長の光が吸収されることを利用し、ガス中に含まれる所望のガス成分の濃度を計測する赤外線ガス分析計に用いられるガス分析計用試料セルに関する。
【0002】
従来の赤外線ガス分析計30は、図4に示す様に、赤外線光源31、光チョッパ32、試料セル20(以下、「セル」ともいう)、赤外線検出器33等から構成されている。赤外線光源31から発せられた赤外光は、光チョッパ32により断続光となり試料セル20に入射する。そして、赤外光は、試料セル20内を反射し、赤外線検出器33に入射する。その際、試料セル20内に存在する測定対象成分の濃度に応じ、試料セル20内での赤外線吸収量が変化するので、その変化をマスフローセンサなどの赤外線検出器33により検出し、濃度信号(V)として出力するようにしている。
【0003】
図5に、上述のシングルビーム方式の赤外線ガス分析計30に組み込まれている試料セル20の詳細な構成を示す。
試料セル20は、赤外線などの光線を透過させるとともに、セル本体21に設けたガス入口管22aからサンプルガスを導入し、ガス出口管22bに向けてサンプルガスを流通させるものである。
【0004】
円筒形状を呈するセル本体21は、例えばステンレス鋼などの金属からなり、その両端には窓ホルダー24a,24bが嵌め込まれている。この窓ホルダー24a,24bには、赤外線透過材料で形成された光学窓23a,23bが接着されている。また、セル本体21の両側端部外周面と窓ホルダー24a,24bとの間には、Oリング25a,25bが設けられており、気密を確保している。
【0005】
このように、試料セル20は、長期間使用した場合にサンプルガス中に含まれるダストやミストなどによりセル本体21の内壁が汚れても、窓ホルダー24a,24bを取り外し、簡単に清掃することができる構造となっている。
【0006】
また、その他の赤外線ガス分析計としては、例えば、特許文献1に記載されているダブルビーム方式のものが知られている。この赤外線ガス分析計は、2つのセルを有し、第1セル及び第2セルに対し、測定対象ガスを含むサンプルガス(試料ガス)とリファレンスガス(基準ガス)とを一定の周期で交互に供給し、ガスの切換周期に対応した周波数の交流信号として出力される測定信号を演算処理することにより、セルの汚れに起因するドリフトの影響をキャンセルできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭53−166685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、赤外線ガス分析計では、赤外線検出器33の受光量が分析計の検出器感度に大きく影響するので、十分な受光量を確保できるようにセル20の内径を比較的太く(φ25程度)設定するようにしていた。このために、セル20内へのガスの導入や置換に時間が掛かり、100%応答時間も約30秒以上を要していた。
【0009】
特に、ダブルビーム方式の赤外線ガス分析計にあっては、サンプルガス中に含まれるダストやミスト、および腐食成分等によるセル内面の反射率変化の影響を低減することができるという優れた特徴をもち、ガス濃度測定における長期安定性を確保できるにも関わらず、2つのセルに対してガスの置換を速やかに行うことが困難であることから、高速応答を必要とするアプリケーションには使用できず、限定的な用途にしか用いることが出来ないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、光学窓やセルの内壁を簡単に清掃することができ、しかも、ガス入口からセル本体内に導入されたガスが滞留することなくスムーズにガス出口に流れるようにして、ガスの置換を速やかに行うことのできるガス分析計用試料セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、セルの一端に設けられたガス入口から、他端に設けられたガス出口に向けて試料ガスを流通させるガス分析計用試料セルにおいて、両側の端部にねじ部が形成された円筒形状のセル本体と、測定光を透過する材料よりなる光学窓を保持すると共に、前記セル本体のねじ部と螺合して、ガス入口側の端部、ガス出口側の端部を封止するように取り付けられる入口側、出口側の窓ホルダーとを備えてなり、前記入口側の窓ホルダーに前記光学窓と近接させてガス入口管を設け、さらに、前記出口側の窓ホルダーに前記光学窓と近接させてガス出口管を設けるようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガス分析計用試料セルにおいて、前記ガス入口管が、当該ガス入口管の中心軸がセル本体の長手方向の軸心を通らないように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、入口側の窓ホルダーに光学窓と近接させてガス入口管を設け、さらに、出口側の窓ホルダーに光学窓と近接させてガス出口管を設けるようにし、ガス入口管およびガス出口管をセル本体の端面(光学窓の内面)に近接させ、ガスが滞留する原因となっていたデッドスペースを削減するようにしたので、ガスの置換を速やかに行うことが可能となり、これを組み込んだガス分析計の応答速度を向上させることが可能となる。
【0014】
請求項2の発明によれば、ガス入口管から導入されたガスが、セル内壁に沿って渦流を生じさせ、セル内に残存するガスを効率よく押し出すので、さらに応答性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるガス分析計用試料セルの一例を示す図で、(A)は一部を断面にして示す縦断面図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の動作原理を説明するための主要部について示す図で、(A)は縦断面図、(B)は側面図である。
【図3】本発明による試料セルを組み込んだ赤外線ガス分析計の応答特性を示す図である。
【図4】従来の赤外ガス分析計の概要を示す図である。
【図5】従来のガス分析計用試料セルの構成を示す図で、(A)は一部を断面にして示す縦断面図、(B)は側面図である。
【図6】従来のガス分析計用試料セルの主要部について示す図で、(A)は縦断面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明によるガス分析計用試料セルの一例を示す図である。
図に示すように、円筒形状のセル本体11の両側端部には、第1(入口側)の窓ホルダー14a、第2(出口側)の窓ホルダー14bが設けられている。第1の窓ホルダー14aは、測定光である赤外線を透過するCaF2 (フッ化カルシウム)などの材料よりなる光学窓23aを保持すると共に、その枠部内周面にはセル本体11の赤外線光源側の端部外周面に形成されたおねじ部16aと螺合するめねじ部141aが形成されており、セル本体11のガス入口側の端部を封止する。同様に、第2の窓ホルダー14bも、CaF2などの赤外線透過材料よりなる光学窓23bを保持すると共に、その枠部内周面にはセル本体11の赤外線検出器側の端部外周面に形成されたおねじ部16bと螺合するめねじ部141bが形成されており、セル本体11のガス出口側の端部を封止する。
【0017】
15a、15bは、気密を確保するためのOリングであり、それぞれ、第1の窓ホルダー14aの内周面とセル本体11の端部外周面との間、第2の窓ホルダー14aの内周面とセル本体11の端部外周面との間、に介挿されている。
【0018】
そして、第1、第2の窓ホルダー14a、14bの周壁には、貫通孔17a、17bが設けられており、それぞれ、ガス入口管12a、ガス出口管12bが嵌め込まれている。サンプルガスSあるいはリファレンスガスR(例えばN2やAir等)は、ガス入口管12aから導入され、他端に設けられたガス出口管12bに向けて流通する。
【0019】
従来のセルでは、図6に示すように、ガス入口管22aがセル本体に設けられ、セルの端面となる光学窓23aから離れて取り付けられていたので、光学窓23aの近傍部分ににデッドスペースが生じやすい。すなわち、ガス入口管22aからセル本体21内に導入されたサンプルガスSあるいはリファレンスガスRは、図6中で示すように、矢印52のようにガス出口側に向かうものもあるが、矢印51で示すように光学窓側に向かって流れるものもある。その結果、セル本体21に導入されたガスがデッドスペースに滞留してしまい、サンプルガスSとリファレンスガスRとの置換が速やかに行われなくなり、所謂ガスの置換効率の低下が生じ、ガス分析の応答速度が遅くなっていた。
【0020】
これに対し、本発明による試料セル10では、図2に示すように、ガス入口管12a を窓ホルダー14aに設け、ガス入口管12aを出来るだけセル本体11の端面側に近づけ、赤外線光源側の光学窓23aの近傍部分に生じていたデッドスペースを削減するようにしている。同様に、ガス出口管12b も、窓ホルダー14bに設けるようにし、赤外線検出器側の光学窓23bの近傍部分に生じていたデッドスペースについても削減するようにしている。従って、セル本体11内に導入されたガスは、セル本体11内に滞留することなく、矢印61のようにガス出口管12bへ向けてスムーズに流れるようになる。
【0021】
本実施形態では、内径14mm、長さ250mmの本体セル11を用いている。また、ガス入口管12a、ガス出口管12bの内径は2.5mmである。この場合、ガス入口管12aの中心軸と光学窓13a内面との距離、及びガス出口管12bの中心軸と光学窓13bとの距離は3mm以下となるように設定するのが望ましい。
【0022】
さらに、本発明による試料セル10では、特に、セル本体11と直交するガス入口管12aが、セル本体11の長手方向の軸心を含む平面Z1と所定の距離をおいた平行平面Z2内にガス入口管12aの中心軸が位置するように配置されている。このように、ガス入口管12aを、その中心軸がセル本体11の長手方向の軸心を通らないように配置することにより、ガス入口管12aから導入されたガスが、断面円形状を呈するセルの内壁面に沿って螺旋状に移動する渦流61を生じさせ、ガス置換前のセル本体内11に残存するサンプルガスSまたはリファレンスガスRを効率的に押し出すこととなり、より一層応答性が改善される。
【0023】
図3は、本実施形態に係る試料セル10を組み込んだ赤外線ガス分析計と、従来セルを組み込んだ赤外線ガス分析計との応答特性に関する比較データを示す図である。図3に示すように、本実施形態によれば、従来セルと比較した場合、100%応答時間が約1/2に短縮され応答特性に著しい効果があることが確認されている。セル径やセル長を好適に選定することで、従来数十秒の応答時間を要していたサンプルガスの置換が数秒程度まで大幅に短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
10:試料セル
11:セル本体
12a:ガス入口管
12b:ガス出口管
13a、13b:光学窓(赤外線透過窓)
14a:第1(入口側)の窓ホルダー
14b:第2(出口側)の窓ホルダー
16a、16b:ねじ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルの一端に設けられたガス入口から、他端に設けられたガス出口に向けて試料ガスを流通させるガス分析計用試料セルにおいて、
両側の端部にねじ部が形成された円筒形状のセル本体と、
測定光を透過する材料よりなる光学窓を保持すると共に、前記セル本体のねじ部と螺合して、ガス入口側の端部、ガス出口側の端部を封止するように取り付けられる入口側、出口側の窓ホルダーとを備えてなり、
前記入口側の窓ホルダーに前記光学窓と近接させてガス入口管を設け、さらに、前記出口側の窓ホルダーに前記光学窓と近接させてガス出口管を設けるようにしたことを特徴とするガス分析計用試料セル。
【請求項2】
請求項1に記載のガス分析計用試料セルにおいて、
前記ガス入口管は、当該ガス入口管の中心軸がセル本体の長手方向の軸心を通らないように配置されている、ことを特徴とするガス分析計用試料セル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42341(P2012−42341A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183848(P2010−183848)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】