説明

ガス分離体固定構造体およびガス分離体固定構造体の使用方法

【課題】ガス分離体とこれ固定保持する部材との接合箇所でガスの漏出が生じにくいガス分離体固定構造体およびその使用方法を提供する。
【解決手段】多孔質基体11とその表面上に設けられたガス分離膜12と有するガス分離体3と、ガス分離体3を収容する凹部24を有する収容部材21と、ガス分離体3の外周面18と側壁26との隙間28に設けられたシール部材22と、隙間28において軸20方向でシール部材22を挟み込み加圧する締付部材23と、を備え、ガス分離体3の熱膨張率に対する収容部材21の熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であるガス分離体固定構造体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離体固定構造体およびガス分離体固定構造体の使用方法に関する。例えば、水素含有ガスから水素ガスのみを選択的に分離する水素分離体を固定保持した水素分離体固定構造体およびその使用方法を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
ガス分離装置は、特定のガス成分のみを透過させる特性を有するガス分離膜を備え、多成分混合ガスから特定のガス成分のみを分離することができる。
【0003】
ガス分離装置には、ガス分離体を備えるものがある。ガス分離体には、例えば、内部に空洞部分を有し且つ端部を開口させた筒形状の多孔質基体と、この多孔質基体の外側表面を被覆するガス分離膜とを備えるものがある(例えば、特許文献1〜3)。このガス分離装置では、ガス分離体の外周面が露出する空間とガス分離体内部の空洞部分との間を、ガス分離膜がガスの自由な流通を制限するように隔てている。そのため、ガス分離体の外周面側の空間に多成分混合ガスを充填した場合、特定のガス成分のみがガス分離膜を透過してガス分離体の空洞部分に流入し、一方で残余のガス成分がそのままガス分離体の外周面側の空間に留まる。
【0004】
また、ガス分離装置は、ガス分離体に接合してガス分離体を固定保持する部材(以下、「固定部材」)を備えている。ここで、ガス分離体と固定部材との接合箇所における密閉状態が悪い場合、ガス分離体と固定部材との接合箇所の隙間からガスの漏出が生じてしまう。このようなガス漏出が生じた場合、ガス分離膜を透過した特定のガス成分に残余のガス成分が混入してしまうため、特定のガス成分を効率的に分離できなくなる。
【0005】
そこで、ガス分離体と固定部材との間をろう材やガラスによって気密に接合することや(例えば、特許文献1、2)、グランドパッキン等のシール部材を介在させてガス分離体と固定部材との間の密閉状態を高めることにより(例えば、特許文献3)、ガス分離体と固定部材との接合箇所からのガスの漏出を防止することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−163827号公報
【特許文献2】特開平7−265673号公報
【特許文献3】特開2003−126662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、ガスの透過を促進させるために高温や高圧の条件下で特定のガス成分の分離を実施した場合、ガス分離体および固定部材に熱膨張が生じることにより、ガス分離体と固定部材との密着性が不十分となり、その結果としてガス分離体と固定部材との接合箇所からのガス漏出を完全に防ぎきれない。
【0008】
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、ガス分離体とこれ固定保持する部材との接合箇所でガスの漏出が生じにくい、ガス分離体固定構造体およびガス分離体固定構造体の使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者は、ガス分離体および固定部材の熱膨張率に着目し、本発明を完成するに至った。本発明では、以下に示すガス分離体固定構造体およびガス分離体固定構造体の使用方法が提供される。
【0010】
[1] 内部に空洞部と前記空洞部を開口させる開口部とが設けられている多孔質基体と、前記多孔質基体の外側表面および内側表面のうち少なくとも一方の表面上に設けられて特定のガス成分のみを透過させるガス分離膜とを有するガス分離体と、前記ガス分離体を収容する凹部を有し、前記凹部の底壁の少なくとも一部が前記ガス分離体の前記開口部に当接されるまたは前記ガス分離体の前記開口部を挿通させると共に、前記凹部の側壁が隙間を有して前記外周面を包囲している収容部材と、前記隙間において前記ガス分離体の前記外周面と前記収容部材の前記側壁および前記底壁とに接触することにより前記隙間におけるガス流れを遮断するシール部材と、前記開口部が前記底壁に当接または挿通される方向に沿って前記底壁と共に前記シール部材を挟み込み加圧して、前記シール部材を前記外周面と前記側壁とを結ぶ方向に押し出しながら前記シール部材を前記外周面および前記側壁に圧着させる締付部材と、を備え、20〜300℃における前記多孔質基体の熱膨張率に対する前記収容部材の熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であるガス分離体固定構造体。
【0011】
[2] 前記シール部材が、前記締付部材と前記底壁に挟み込まれ加圧されて、非弾性変形しながら前記外周面および前記側壁に圧着する前記[1]に記載のガス分離体固定構造体。
【0012】
[3] 前記シール部材が、ヤング率0.1〜2.0GPaの環形状のグランドパッキンである前記[1]又は[2]に記載のガス分離体固定構造体。
【0013】
[4] 前記シール部材が、膨張黒鉛を主成分とする材質からなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のガス分離体固定構造体。
【0014】
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のガス分離体固定構造体を用いて、100〜650℃の温度でガス分離を行うガス分離体固定構造体の使用方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス分離体固定構造体およびガス分離体固定構造体の使用方法は、ガス分離体とこれを固定保持する部材との接合箇所においてガスの漏出が生じにくいため、多成分混合ガス中に含まれる特定のガス成分の選択的な分離を効率良く実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガス分離体固定構造体の一実施形態の縦断面図である。
【図2】図1中のA−A’での横断面図である。
【図3】本発明のガス分離体固定構造体のうち、複数の空洞部を備える一実施形態の縦断面図である。
【図4】図3中のB−B’での横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
1.ガス分離体固定構造体:
図1は、本発明の技術的範囲に属するガス分離体固定構造体1の縦断面図を表す。これらの図を参照し述べると、本発明のガス分離体固定構造体1は、ガス分離体3と、収容部材21と、ガス分離体3と収容部材21との間の隙間28に充填されているシール部材22と、収容部材21と共にシール部材22を挟み込み加圧して隙間28の密閉性を高める締付部材23とを備えている。本発明のガス分離体固定構造体1では、ガス分離体3が、収容部材21、シール部材22、および締付部材23によって固定されている。
【0019】
ガス分離体3は、多孔質基体11と、特定のガス成分を透過させることが可能なガス分離膜12とを備えている。
【0020】
多孔質基体11は、内部に1つ以上の空洞部13を有し、空洞部13を開口させる開口部19が設けられている。図1に示す多孔質基体11は、内部に1つの空洞部13を有し、この空洞部13が軸20に沿った両端(端部14)で開口している。よって、この多孔質基体11は、2つの開口部19を有している。
【0021】
ガス分離膜12は、多孔質基体11における外側表面15と内側表面16のうち少なくとも一方の表面上に設けられている。ここで内側表面16とは、空洞部13に面した表面である。図1に示す多孔質基体11では、外側表面15にガス分離膜12が設けられている。
【0022】
ガス分離膜12としては、水素選択透過性金属膜、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜などを使用することができる。水素選択透過性金属膜とは、水素選択透過性金属[例えば、パラジウム(Pd)やパラジウム合金]が水素を溶解する性質を利用した膜である。ゼオライト膜とは、DDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライトに代表される結晶構造中の細孔を利用してガス分離を行う膜である。また、シリカ膜または炭素膜も材料中に形成される細孔を利用してガス分離を行う膜である。
【0023】
ガス分離膜12の膜厚は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。ガス分離膜12の膜厚が0.1μm以上であることにより、ガス分離性能を十分なものとでき、一方で、同膜厚が20μm以下であることにより、ガス分離膜12はガス透過性能を十分に発揮できる薄さを備えたものになる。また、ガス分離膜12の膜厚は、多孔質基体11の厚さに比して十分薄いため、ガス分離体3の熱膨張率は多孔質基体11の熱膨張率で代用することができる。
【0024】
ガス分離体3では、分離する特定のガス成分の種類に応じてガス分離膜12の種類を選択することができる。また、ガス分離膜12の製法に応じて、あるいはガス分離膜12の性能を引き出せるように、多孔質基体11の形状、材質、および細孔の特性などを選択することができる。
【0025】
収容部材21は、ガス分離体3を収容する凹部24を有する。凹部24は、底壁25と側壁26とから構成されている。底壁25の少なくとも一部は、ガス分離体3の開口部19に当接されている、または、ガス分離体3の開口部19を挿通させている。図1のガス分離体固定構造体1では、底壁25がガス分離体3の開口部19に当接している。
【0026】
ガス分離体3中の1個の空洞部13に複数個の開口部19が存在する場合、各開口部19に1個ずつ収容部材21を設けることができる。この場合、複数個の収容部材21のうち少なくとも1個の収容部材21では、底壁25に流通穴30を設けることにより、ガス分離体3の空洞部13内にガスを流入させるまたは空洞部13内のガスを排出させるようにするとよい。
【0027】
図1のガス分離体固定構造体1では、ガス分離体3の開口部19aに対して収容部材21が設けられ、開口部19bに対して収容部材21bが設けられている。収容部材21aは、底壁25に流通穴30が設けられていることにより、空洞部13とガス分離体3の外部との間でのガスの流通を可能にしている。一方で、収容部材21bは、開口部19bを介して空洞部13と外部とが通じないように、底壁25には流通穴30が設けられていない。
【0028】
図2は、図1中のA−A’での横断面図を表す。側壁26は、ガス分離体3の外周面18に対して隙間を有しながら、外周面18の外側で、ガス分離体3を中心に一周するように包囲している。
【0029】
シール部材22は、ガス分離体3の外周面18と収容部材21の側壁26との間の隙間28において、外周面18、側壁26、および底壁25に接触している。そして、シール部材22は、外周面18および側壁26に密着することにより、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xに交わる断面からみて、隙間28を開口部19の中心に対して一周にわたり塞いでいる(図2)。これにより、隙間28におけるガスの流れが、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xにおいて遮断される(図1)。
【0030】
多孔質基体11の外側表面15にガス分離膜12が設けられている場合には、ガス分離体3の外周面18のうちでシール部材22と接触する部分は、ガス分離膜12、または、ガラスなどの気密性の高い材料に覆われていることが好ましい。これにより、ガス分離体3の外周面18とシール部材22との間の気密性を一層高めることができる。
【0031】
図1を参照しつつ、多成分混合ガスをガス分離体3の外周面18に曝した場合について説明する。多成分混合ガスが外周面18に沿って隙間28に流入しても、この隙間28に流入した多成分混合ガスはシール部材22から底壁25側には漏れ出していくことができない。そのため、外周面18から空洞部13に至るガスの流れは、特定のガス成分のみに許されているガス分離膜12を透過する経路に限定される。この結果、多成分混合ガス中の特定のガス成分がガス分離体3の空洞部13に濃縮される。
【0032】
シール部材22は、1個単独で使用したり、または、複数個を積層させて使用したりすることができる。また、シール部材22のシール性能を向上させるという観点からは、締付部材23に近い部分または遠い部分などに別種のアダプターパッキンやスペーサーリングなどの補助部材を使用することにより、シール部材22への応力伝達の効率的を高めることがよい。ただし、補助部材自体はガスの漏出を防止する効果が低いため、本明細書のいうシール部材22には上記の補助部材が含まれてないものとする。
【0033】
締付部材23は、ガス分離体3の外周面18と側壁26との隙間28において、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xに沿って底壁25と共にシール部材22を挟み込み加圧する。シール部材22は、この加圧によって外周面18と側壁25とを結ぶ方向、言い換えると、前記方向Xに交わる方向に膨らむ。この結果、シール部材22がガス分離体3の外周面18および側壁26に圧着する。これにより、ガス分離体3の外周面18とシール部材22との間の気密性および収容部材21の側壁26とシール部材22との間の気密性を一層高めることができる。
【0034】
また、本発明のガス分離体固定構造体1は、20〜300℃における多孔質基体11の熱膨張率に対する収容部材21の熱膨張率の比(=収容部材21の熱膨張率/多孔質基体11の熱膨張率)が0.55以上0.95以下であることを特徴とする。また、後述する熱膨張率の比によってもたらされる作用を一層確かなものとする観点からは、上記の20〜300℃における熱膨張率の比は、0.55以上0.90以下であることが更に好ましく、0.55以上0.80以下であることが特に好ましい。
【0035】
上記の20〜300℃における熱膨張率の比とは、20〜300℃の温度域の中の各温度における、対象となる2つの物体の間の熱膨張率の比をいう。ここでいう物体の温度T℃(但しT℃は20℃以上300℃以下)における熱膨張率とは、物体が、(T−0.5)℃のときに長さLT−0.5℃、(T+0.5)℃のときの長さLT+0.5℃の場合に、式:(LT+0.5℃−LT−0.5℃)/(LT−0.5℃×1)、によって算出される値である。熱膨張率は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて測定される物体の熱膨張量の値より算出することができる。なお、熱機械分析装置の測定方式は、プローブを用いた接触方式、レーザーを用いた非接触方式のうちのいずれでもよい。
【0036】
本発明のガス分離体固定構造体1は、上記の熱膨張率の比が0.95以下であることにより、高温(100〜650℃)でのガスの分離時において、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xに交わる断面からみた場合の(図2参照)、開口部19の中心17から半径方向R外側に向かうガス分離体3の熱膨張による体積増加が、側壁26の熱膨張により生じる前記半径方向R外側への凹部24の拡張よりも有意に大きくなる。この熱膨張により、前記半径方向Rに沿った隙間28の幅は、常温時に比べて高温時の方が狭まる。そのため、シール部材22が常温時においてガス分離体3の外周面18および収容部材21の側壁26と十分に密着していると、ガスの分離を行う高温時には、シール部材22が外周面18および側壁26に対して常温時よりも一層大きな圧力で押しつけられるようになる。すなわち、シール部材22と外周面18との気密性およびシール部材22と側壁26との気密性は、高温時に一層高められる。したがって、本発明のガス分離体固定構造体1は、ガスの分離を高温で実施する場合には、ガス分離体3とシール部材22との接触箇所におけるガス漏出や収容部材21とシール部材22との接触箇所におけるガス漏出が極めて生じにくくなる。
【0037】
本発明のガス分離体固定構造体1は、ガス分離膜12を透過した特定のガス成分に対してガス分離膜12を透過せずに別経路で流れてきた残余のガス成分が混入しにくくなっている。そのため、特に高性能のガス分離体3を備える場合には、このガス分離体3の高い性能を十分に引き出すことを可能にする。
【0038】
また、本発明のガス分離体固定構造体1は、上記の熱膨張率の比が0.95以下であることによって、ガス分離体3の固定がシール部材22からの外周面18および側壁26への圧力のみにより可能な場合もある。このような場合には、ガス分離体3の一部を収容部材21の底壁25に当接させなくても、ガス分離体3を固定することができる。また、このような場合、ガス分離体3のぐらつきなどを抑える観点から、ガス分離体3の開口部19を底壁25に挿通させることが好ましい。
【0039】
本発明のガス分離体固定構造体1は、上記の熱膨張率の比が0.55以上であることによって、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xに交わる断面からみた場合の(図2参照)、開口部19の中心17から半径方向R外側に向かうガス分離体3の熱膨張による体積増加が、側壁26に囲まれる凹部24の前記半径方向R外側に向かう拡張よりも過度に大きくならない。したがって、本発明のガス分離体固定構造体1は、前記半径方向Rに沿った隙間28の幅が高温時においても狭くなり過ぎず、シール部材22に過度の圧縮が生じない。そのため、シール部材22が過度の圧縮によって強い反発力を生じることがなくなり、その結果として、シール部材22の反発力によってガス分離体3を破損させることもなくなる。
【0040】
なお、本発明のガス分離体固定構造体1では、加圧されることによって変形しうる、つまり適度な柔軟性を有するシール部材22が外周面18および側壁26に圧着することによって気密性を保持しているため、20〜300℃における上記の熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であれば、高温(100〜650℃)でのガスの分離時においても、固定箇所におけるガス漏出やガス分離体3の破損を抑制することが可能となる。
【0041】
さらに、多孔質基体11の熱膨張率に対する収容部材21の熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であることによってもたらされる上述の作用を一層確かなものとする観点からは、20℃から650℃までの、多孔質基体11の平均熱膨張率に対する収容部材21の平均熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であることが好ましい。物体の20℃から650℃までの平均熱膨張率とは、物体が20℃のときの長さL20℃、物体が650℃のときの長さL650℃のときに、式:(L650℃−L20℃)/(L20℃×630)、にて算出される値である。平均熱膨張率は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて測定される物体の熱膨張量の値より算出することができる。
【0042】
締付部材23と収容部材21の熱膨張率の比については特に限定されないが、シール部材22と締付部材23との密着性およびシール部材22と収容部材21との密着性を共に高める観点から、締付部材23と収容部材21の熱膨張率は略同一であることが好ましい。
【0043】
シール部材22は、締付部材23と底壁25に挟み込まれ加圧されて、非弾性変形しながら側壁26および外周面18に圧着することが好ましい。このシール部材22は、締付部材22と底壁25によって挟み込み加圧される際に、弾性変形する加圧領域よりもさらに大きな圧力にて加圧されることにより非弾性変形する。この非弾性変形によって、シール部材22と外周面18との密着性およびシール部材22と側壁26との密着性がより向上し、ガス漏出量が極めて微量またはゼロ(全く無し)にまで抑制される。シール部材22として複数個の部材を使用する場合は、1個以上のシール部材22が非弾性変形をしていればよい。なお、非弾性変形とは弾性変形以外の変形をいい、例えば塑性変形やクリープ変形が非弾性変形に含まれる。
【0044】
締付部材22と底壁25によって挟み込み加圧された際の、シール部材22の非弾性変形の有無については、一旦組み立てたガス分離体固定構造体1から締付部材23を取り外した後の、シール部材22の変形量を測定することによって判断することができる。
【0045】
シール部材22は、環状のグランドパッキンであることが好ましい。環状のグランドパッキンは、開口部19が底壁25に当接または挿通される方向Xに交わる断面からみて(図2参照)、開口部19の中心17からの各方位において、中心17から半径方向R内側に向かってほぼ同じ大きさの力でガス分離体3を締め付けるため、ガス漏出を一層生じにくくすることができる。また、環状のグランドパッキンでは、締付部材23および底壁25からの締め付けにより加えられた力が、ガス分離体3を締め付ける力へと変換しやすく、またこのガス分離体3を締め付ける力が開口部19の中心17からの各方位に均等に分散する。そのため、ガス分離体3がシール部材22(環状グランドパッキン)によって局所的に強く圧迫されることも無くなり、ガス分離体3の破損を確実に低減することができる。
【0046】
シール部材22のヤング率は、0.1〜2.0GPaであることが好ましく、0.2〜1.5GPaであることが更に好ましい。シール部材22のヤング率が0.1GPa以上であることにより、シール部材22の変形量が適度に抑えられ、ガス分離体3および収容部材21とシール部材22の気密性を確実に高く保つことができる。また、シール部材22のヤング率が2.0GPa以下であることにより、シール部材22を非弾性変形させた際にガス分離体3を破損させることなく、ガス分離体3とシール部材22の気密性および収容部材21とシール部材22との気密性を確実に高く保つことができる。なお、シール部材22のヤング率は、シール部材22が弾性変形する応力範囲内における、応力ひずみ曲線の直線部の傾きから求めることができる。
【0047】
シール部材22は、膨張黒鉛を主成分とする材質からなることが好ましい。膨張黒鉛を主成分とする材質からなるシール部材22は、膨張黒鉛に特有な高耐熱性、高耐圧性が付加されており、その結果として、シール部材22とガス分離体3の外周面18との気密性およびシール部材22と収容部材21の側壁26との気密性を一層確実に確保することができる。
【0048】
膨張黒鉛を主成分とする材質からなるシール部材22には、ガス分離体3の外周面18および収容部材21の側壁26に接触する部分が膨張黒鉛からなる部材であり、内部が金属などの剛性の高い材質によって補強されている形態のものも含まれる。このような形態のシール部材22は、内部の剛性の高い部材が膨張黒鉛からなる部材を外周面18および側壁26に向かって強く圧迫するようにできるため、シール部材22と外周面18との密着性およびシール部材22と側壁26との密着性をより一層高めることができる。
【0049】
収容部材21および締付部材23は、図1に示すように、互いの接触部分にねじ溝27を形成して螺合させることにより、シール部材22の締め付けを強化させ、この締め付け状態をそのまま保持させることを可能にするものであることが好ましい。
【0050】
図1に示す締付部材23は、中心部分にガス分離体3の外周面18に接触しない程度にガス分離体3を挿通することができる環形状を有し、側壁26に接触する外側面にねじ溝27が形成されている。この形態の締付部材23は、ガス分離体3を中心として一周するようにシール部材22に接触し、ガス分離体3を中心とする周方向の各部で均等にシール部材22を締め付ける。そのため、シール部材22を局所的に強く圧縮したことに起因した、シール部材22のめくれや、シール部材22の局所的な圧迫によるガス分離体3の破損を生じにくい。
【0051】
上記の環状の締付部材23は、高温においても、ガス分離体3を挿通させる穴を形成する内壁面31と、ガス分離体3とが接触しないことが好ましい。環状の締付部材23の内壁面31がガス分離体3に接触しなくすることにより、薄いガス分離膜2が多孔質基体11の外側表面15に設けられた場合でも、この薄いガス分離膜12が破損しにくくなる。
【0052】
図3は、本発明の技術的範囲に属する他のガス分離体固定構造体1の縦断面図を表す。本ガス分離体固定構造体1では、ガス分離体3は軸20方向に沿って複数の空洞部13が貫通しているレンコン状の多孔質基体11を有している。この多孔質基体11には、空洞部13に面した内側表面16にガス分離膜12が設けられている。また、端部14では、被覆部材41が先端部の外側表面15全体および側方の外側表面15の一部に設けられている。
【0053】
被覆部材41は、ガスが多孔質基体11の側方の外側表面15から多孔質基体11の内部に流入し、先端部の外側表面15から多孔質基体11の外部へと通り抜けていくことを阻むことができるように設けられている。これにより、ガスはガス分離膜12を透過しなければガス分離体3の外周面18側と空洞部13との間を流通することが困難になる。被覆部材41は、ガスの漏出をより効果に防ぐことができる観点から、ガラスなどの気密性の高い材料から形成されていることが好ましい。
【0054】
2.ガス分離構造体の使用方法:
上記のガス分離体固定構造体1の使用温度は、使用するガス分離膜や分離を行うガスの種類などによって、適当な値に設定することができる。ガス分離体固定構造体1の使用温度は100〜650℃であることが好ましく、300〜600℃であることが更に好ましい。ガス分離体固定構造体1の使用温度が100℃以上であることにより、ガスの透過を促進させる効果を確実に発現させることができる。一方、ガス分離体固定構造体1の使用温度が650℃以下であることにより、シール部材22の劣化の進行を確実に抑えることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
外径30mm、長さ500mmの袋管形状の多孔質ジルコニア支持体を作製した。このジルコニア支持体の熱膨張率を測定した結果、20〜300℃における平均熱膨張率は10.5×10−6/℃であった。この支持体上に、水素分離膜として、めっき法によりPd−Ag合金膜を作製した。なお、PdとAgとの割合は、Pd80部に対して、Ag20部となるように調節した。この水素分離体の開口端を45−Ni合金(Ni45質量%、Fe55質量%)製の固定部材(フランジ)と膨張黒鉛製のグランドパッキン(シール部材)を用いて接合し、水素分離体固定構造体を作製した。なお、接合後のシール部材は、非弾性変形していることを確認した(表1)。45−Ni合金の20〜300℃における平均熱膨張率は、7.7×10−6/℃であった。
【0057】
(実施例2)
50−Ni合金(Ni50質量%、Fe50質量%)製の固定部材(フランジ)を用いた以外は、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。50−Ni合金の20〜300℃における平均熱膨張率は9.9×10−6/℃であった。
【0058】
(実施例3)
支持体として多孔質アルミナを使用し、42−Ni合金(Ni42質量%、Fe58質量%)製の固定部材(フランジ)を用いた以外は、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。作製した多孔質アルミナの20〜300℃における平均熱膨張率は7.8×10−6/℃であった。42−Ni合金の20〜300℃における平均熱膨張率は4.6×10−6/℃であった。
【0059】
(実施例4)
グランドパッキンが非弾性変形しない応力で接合した以外は(表1)、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。
【0060】
(比較例1)
ステンレス(SUS316)製の固定部材(フランジ)を使用した以外は、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。ステンレス(SUS316)の20〜300℃における平均熱膨張率は16.2×10−6/℃であった。
【0061】
(比較例2)
支持体として多孔質アルミナ(20〜300℃における平均熱膨張率7.8×10−6/℃)を使用した以外は、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。
【0062】
(比較例3)
42−Ni合金(Ni42質量%、Fe58質量%)製の固定部材(フランジ)を用いた以外は、実施例1と同様にして水素分離体固定構造体を作製した。
【0063】
(評価)
実施例1〜4、比較例1〜3の水素分離体を用いて耐熱試験を行った。水素分離体を耐圧容器中に配設し、水素分離膜からのHeリーク量の測定を行った。その後、耐圧容器を加熱することによって、水素分離体を窒素雰囲気中で500℃まで昇温した後に水素分離膜からのHeリーク量の測定を行った。Heリーク量を表1に示す。500℃ではガスの熱膨張のため、25℃の場合と比較してHeリーク量は0.386倍になる。そこで、温度変化によるHeリーク量の変化を考慮し、500℃でのHeリーク量に2.59(=1/0.386)をかけた値を用いてHeリーク量の変化率を求めた。表1に示されたように、実施例1〜4ではHeリーク量の変化率が1.3以下であった。特に、実施例1〜3では500℃で水素分離膜からのHeリーク量が減少した。対して、比較例1、2ではHeリーク量が2倍以上に増加したことが分かる。また、比較例3では昇温によって水素分離体にクラックが発生したため、500℃でのHeリーク量を測定することができなかった。なお、耐熱試験前後において、Pd−Ag合金膜からのHeリーク量は、接合箇所からのHeリーク量に比べて十分少ないことを確認している。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、多成分混合ガスから特定のガス成分のみを選択的に分離するガス分離体を固定保持したガス分離体固定構造体として利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1:ガス分離体固定構造体、3:ガス分離体、11:多孔質基体、12:ガス分離膜、13:空洞部、14:端部、15:外側表面、16:内側表面、17:中心、18:外周面、19,19a,19b:開口部、20:軸、21,21a,21b:収容部材、22:シール部材、23:締付部材、24:凹部、25:底壁、26:側壁、27:ねじ溝、28:隙間、30:流通穴、31:内壁面、41:被覆部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞部と前記空洞部を開口させる開口部とが設けられている多孔質基体と、前記多孔質基体の外側表面および内側表面のうち少なくとも一方の表面上に設けられて特定のガス成分のみを透過させるガス分離膜とを有するガス分離体と、
前記ガス分離体を収容する凹部を有し、前記凹部の底壁の少なくとも一部が前記ガス分離体の前記開口部に当接されるまたは前記ガス分離体の前記開口部を挿通させると共に、前記凹部の側壁が隙間を有して前記外周面を包囲している収容部材と、
前記隙間において前記ガス分離体の前記外周面と前記収容部材の前記側壁および前記底壁とに接触することにより前記隙間におけるガス流れを遮断するシール部材と、
前記開口部が前記底壁に当接または挿通される方向に沿って前記底壁と共に前記シール部材を挟み込み加圧して、前記シール部材を前記外周面と前記側壁とを結ぶ方向に押し出しながら前記シール部材を前記外周面および前記側壁に圧着させる締付部材と、を備え、
20〜300℃における前記多孔質基体の熱膨張率に対する前記収容部材の熱膨張率の比が0.55以上0.95以下であるガス分離体固定構造体。
【請求項2】
前記シール部材が、前記締付部材と前記底壁に挟み込まれ加圧されて、非弾性変形しながら前記外周面および前記側壁に圧着する請求項1に記載のガス分離体固定構造体。
【請求項3】
前記シール部材が、ヤング率0.1〜2.0GPaの環形状のグランドパッキンである請求項1又は2に記載のガス分離体固定構造体。
【請求項4】
前記シール部材が、膨張黒鉛を主成分とする材質からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス分離体固定構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガス分離体固定構造体を用いて、100〜650℃の温度でガス分離を行うガス分離体固定構造体の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−189335(P2011−189335A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253475(P2010−253475)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】