説明

ガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜

【課題】水蒸気が含まれる混合ガスであっても特定のガス種を分離することが可能な耐水性に優れるガス分離膜用複合膜を提供する。
【解決手段】エチレン基を21〜50モル%含有するエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)およびアミン化合物(B)からなる複合膜であって、該複合膜を60℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60〜100重量%であることを特徴とするガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気の含まれる混合ガスから特定のガス種を分離するガス分離膜用複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分離膜を用いた分離技術がめざましく進展している。このような分離技術には、例えば飲料水を得るために不純物を分離するといった液体と固体の分離から、選択透過性を有する分離膜を用いて二酸化炭素と水素、あるいは二酸化炭素とメタンの分離といった気体の分離まで、種々のものが含まれる。特に、気体の分離技術は、油田のオフガスや火力発電の排ガス、天然ガスからの二酸化炭素分離などに広く応用されるので、二酸化炭素を選択的に分離する技術が精力的に検討されている。
【0003】
しかしながら、従来の高分子膜では二酸化炭素の選択性(二酸化炭素の膜透過速度/分離対象ガスの膜透過速度)が不十分で、目的とする濃度で二酸化炭素を回収することが出来なかった。そのため、二酸化炭素選択性に優れた分離膜の開発が望まれていた。このような膜を得るために、二酸化炭素に対して選択的に親和性が高い素材を用いることが提案されている。たとえば、室温で液状物質であるポリアミドアミンデンドリマーを、微多孔質の支持体に含浸させた分離膜が提案されている(非特許文献1および2)。この含浸膜の分離性能は、膜に圧力差を設けない状況では1000を超える優れた二酸化炭素選択性を示すものの、この膜に圧力を掛けると、含浸させたポリアミドアミンデンドリマーが時間と共に支持体から抜け出して、性能を維持できないため、実用に供することが困難であった。
【0004】
この問題を解決する方法として、架橋剤で架橋された吸水性高分子材料のマトリックス中に特定のアミン化合物を包含させた気体分離層を多孔質性の支持膜の表面部分に形成させた複合膜が提案されている(特許文献1)。この複合膜の分離性能は、高い選択性を有すると共に、圧力差に耐え実用に供することが可能な分離膜である。しかしながら、気体分離膜ではその分離対象となる混合ガスに水蒸気が含まれる場合が多いため、混合ガスと膜表面との親和性を発現するための適度な親水性と、一方で水蒸気に対して経時的に分離性能が低下することのない耐水性という相反する性能を持ち合わせることが要求される。前記の複合膜の分離性能は、水蒸気を含む混合ガスを用いると、包含させたアミン化合物が時間と共に複合膜から抜け出して、性能を維持できないため、実用に供することが困難であり、水蒸気が含まれる混合ガスでも使用可能な耐水性に優れる分離膜の開発が切望されていた。
【0005】
【特許文献1】特開2008−68238号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.122(2000)7594〜7595
【非特許文献2】Ind.Eng.Chem.Res.40(2001)2502〜2511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水蒸気が含まれる混合ガスであっても特定のガス種を分離することが可能な耐水性に優れるガス分離膜用複合膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、エチレン基を特定量含有するエチレン−ビニルアルコール系重合体と特定のアミン化合物からなる複合膜であって、該複合膜を一定温度の蒸留水に一定時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が特定の範囲にあることによって、高い選択性を有すると共に、水蒸気の含まれる混合ガスに耐え実用に供することが可能な耐水性に優れるガス分離膜用複合膜を得ることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち上記課題は、エチレン基を21〜50モル%含有するエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)およびアミン化合物(B)からなる複合膜であって、該複合膜を60℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60〜100重量%であることを特徴とするガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜を提供することによって解決される。
【0009】
このとき、アミン化合物(B)が、ポリアミドアミン系デンドリマーであることが好適であり、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、アミン化合物(B)および親水性高分子材料(C)からなり、かつエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)と親水性高分子材料(C)の重量割合(A)/(C)が50/50〜98/2であることが好適である。また、親水性高分子材料(C)がビニルアルコール系重合体であることが好適であり、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、アミン化合物(B)、親水性高分子材料(C)および多官能性の架橋剤(D)からなることが好適である。また、複合膜100重量部に対する吸水量が30〜1000重量部であることも本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、水蒸気が含まれる混合ガスであっても高い選択性をもって実用に供することが可能な耐水性に優れるガス分離膜用複合膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の耐水性に優れるガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜は、エチレン基を21〜50モル%含有するエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)およびアミン化合物(B)からなる複合膜であって、該複合膜を60℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60〜100重量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明に用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)のエチレン単位の含有量は21〜50モル%である。エチレン単位の含有量が21モル%未満の場合には、複合膜の耐水性が低下して配合するアミン化合物(B)の溶出が多くなるおそれがあり、23モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましい。一方、エチレン単位の含有量が50モル%を超える場合には、アミン化合物(B)との相溶性が低下して均質な複合膜が得られないおそれがあり、47モル%以下であることが好ましく、45モル%以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明で用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)の重合度を表す指標のメルトフローレート(210℃、2160g荷重下)は、0.1〜50g/10分であることが好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分未満である場合には、複合膜を作成する際の該エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)とアミン化合物(B)からなる溶液の粘度が高くなりすぎる場合があり、作業性が低下するのみならず均質な複合膜が得られないおそれがある。メルトフローレートは、より好適には0.5g/10分以上であり、さらに好適には1g/10分以上である。一方、メルトフローレートが50g/10分を超える場合には複合膜のマトリックスを構成する機能が低下して複合膜の耐水性が低下するおそれがある。メルトフローレートは、より好適には20g/10分以下であり、さらに好適には10g/10分以下である。
【0014】
本発明で用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度は95〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が95モル%未満の場合には、複合膜の耐水性が低下するおそれがあり、96モル%以上であることがより好ましい。一方、けん化度が99.9モル%を超える場合には、製膜時の作業性が低下したり、複合膜を作成する際の該エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)とアミン化合物(B)からなる溶液の粘度安定性が低下するおそれがある。
【0015】
本発明で用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得られる。ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)は、さらに、アニオン基もしくはカチオン基を含有していてもよい。これらアニオン基もしくはカチオン基を有する単量体としては、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の中でも、入手のし易さおよび共重合性の観点から、無水マレイン酸、無水マレイン酸のハーフエステル、イタコン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライドに由来する単量体が好ましい。これらの単量体単位の含有量は、通常10モル%以下であり、0.1〜8モル%がより好ましい。
【0017】
本発明で用いられるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位以外の単量体単位を含有していても良い。このような単量体単位としては、アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、その塩またはそのエステル;イタコン酸、その塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等の単量体由来の単位が挙げられる。これらの単量体単位の含有量としては、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
次に、アミン化合物(B)について説明する。アミン化合物(B)は、分離対象のガスによって自由に選択することができる。ただし、本発明においては、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)と親和性を有することが必要であるために、水溶性もしくはアルコール可溶であること方が好ましい。本発明で用いられるアミン化合物(B)としては、注目度の高い二酸化炭素の分離を念頭において例示すれば、ポリアミドアミン系デンドリマー、その他の化合物としてモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2,3−ジアミノプロピオン酸、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンなど、1級のアミノ基を有する化合物が挙げられるが、アミノ基の数が多く二酸化炭素の吸着能力の点でポリアミドアミン系デンドリマーが好ましく用いられる。分離対象のガスによって自由に選択することができる。
【0019】
エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)とアミン化合物(B)の重量割合(A/B)には特に制限はないが、好ましくは20/80〜80/20であり、より好ましくは30/70〜60/40であり、さらに好ましくは35/65〜60/40である。
【0020】
次に、親水性高分子材料(C)について説明する。本発明に用いられる親水性高分子材料(C)としては、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)、ポリ(p−アミノスチレン)、ポリ[スチレン−co−(p−ヒドロキシスチレン)]、ポリアリルアミン、ポリビニルオキシエタノール等が挙げられるが、中でもエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)と相溶性が良好な点からビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0021】
エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)と親水性高分子材料(C)の重量割合には特に制限はないが、重量割合(A)/(C)が50/50〜98/2であることが好ましく、70/30〜98/5であることがより好ましい。重量割合(A)/(C)が50/50より小さい場合には、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)を用いる効果が小さく、耐水性が不足するおそれがある。一方、重量割合(A)/(C)が98/2より大きい場合には、親水性高分子材料(C)を用いる効果が小さくなるおそれがある。
【0022】
次に、多官能性の架橋剤(D)について説明する。本発明に用いられる架橋剤(D)は、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)同士や、あるいはエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)とアミン化合物(B)を架橋するのに用いられる架橋剤であって、特に限定されるものでなく、エポキシ基、アルデヒド基、ハロゲン原子などの官能基を2個以上有する化合物、チタン系架橋剤、ジルコニウム系架橋剤等が挙げられる。中でも、チタン系架橋剤、ジルコニウム系架橋剤、および官能基としてエポキシ基またはアルデヒド基を有する架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
エポキシ基を有する架橋剤としては、たとえば、エポキシクロロヒドリン、ジエポキシアルカン、ジエポキシアルケン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセリンジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル化合物が挙げられ、とくにエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。また、アルデヒド基を有する架橋剤としては、グルタルアルデヒド、スクシンアルデヒド、マロンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒドなどのジアルデヒド化合物が挙げられ、とくにグルタルアルデヒドが好ましい。チタン系架橋剤としては、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩など、チタンのアルコシキド系架橋剤が好ましい。また、ジルコニウム系架橋剤としては、酸塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、珪酸ジルコニウムなどが挙げられる。これらのジルコニウム化合物のなかでも水溶性のものが好ましく、塩素を持たないものがさらに好ましい。具体的には硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムが挙げられる。
【0024】
上記の多官能性の架橋剤(D)は単独で使用しても性能は発現するが、異なる系の多官能性の架橋剤(D)を2種以上混合して用いる方が効果は高い。すなわち、多官能性の架橋剤(D)が、チタン系架橋剤、ジルコニウム系架橋剤、および官能基としてエポキシ基またはアルデヒド基を有する架橋剤からなる群から選択される少なくとも2種以上であることが好適な実施態様である。
【0025】
本発明の複合膜において、該複合膜100重量部(乾燥重量)当りの吸水量は、30〜1000重量部の範囲にあることが好ましい。吸水量がこの範囲にあることにより、混合ガスに水蒸気が含まれた場合であっても適度な親和性を有することとなる。吸水量が30重量部未満であると、水蒸気の含まれる混合ガスにおいてガス分離の選択性が低下するおそれがあり、40重量部以上であることがより好ましく、50重量部以上であることがさらに好ましい。一方、吸水量が1000重量部を超えると耐水性が発現しないため、アミン化合物(B)に固有の高い分離性能が経時的に低下するおそれがあり、800重量部以下であることがより好ましく、500重量部以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明において、該複合膜を60℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率は、60〜100重量%の範囲にある。重量保持率がこの範囲にあることにより、耐水性を有し分離性能が低下することのない本発明の複合膜が得られることとなる。重量保持率が60重量%未満であると、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)マトリックスにアミン化合物(B)を固定化する目的が達成されず、アミン化合物(B)に固有の高い分離性能が得られないおそれがあるとともに耐水性が低下するおそれがあり、70重量%以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の複合膜における吸水量と重量保持率を上記の範囲になるようにするには、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)とアミン化合物(B)との種類および使用比率を適宜選択することにより行うことができる。
【0028】
多官能性の架橋剤(D)を使用する際の使用量は前記エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)100重量部に対して0.1〜70重量部であることが好ましく、0.2〜60重量部であることが更に好ましい。0.1重量部未満である場合、得られる複合膜の耐水性が充分でないおそれがあり、また、70重量部を超えるとアミン化合物(B)に固有の高い分離性能を得ることが出来ないおそれがある。
【0029】
本発明の耐水性に優れるガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜を得る点から、該複合膜の熱処理は重要である。熱処理によるエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)の結晶化を促進することで架橋のような効果を発現することができる。熱処理の温度としては、60〜200℃が好ましく、90〜180℃が更に好ましい。60℃未満である場合、熱処理の効果が不十分となるおそれがある。200℃を超えるとエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)やアミン化合物(B)が分解する場合があり好ましくない。熱処理の時間としては条件や設備によって異なるために特に制限はないが、1秒から1時間の範囲にあることが好ましい。1秒未満である場合、熱処理の効果が不十分となるおそれがある。1時間を超えると工業的な実施に難があるのみならず、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)やアミン化合物(B)が分解する場合があり好ましくない。
【0030】
本発明の耐水性に優れるエチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜は、水蒸気の含まれる混合ガスに耐え実用に供することが可能なガス分離膜に好適に使用される。ガス分離膜は支持膜と本発明の複合膜から構成され、公知の支持膜の表面に本発明の複合膜が形成される。支持膜を構成する疎水性高分子としては従来公知の膜形成用の樹脂が使用できる。かかる疎水性樹脂としては、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル等が例示できる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例中で特に断りのない限り、「%」および「部」はそれぞれ「重量%」および「重量部」を意味する。
【0032】
[複合膜の耐水性評価]
シート状物の吸水量、重量保持率はそれぞれ次式で求めた。
吸水量(部)=[(W1/W2)−1]×100
重量保持率(%)={1−[(W3−W2)/W3]}×100
上記の式において、記号は下記の意味を有する。
W1:膨潤後の試料の重量
W2:膨潤後さらに乾燥した後の試料重量
W3:膨潤前の試料重量
【0033】
合成例1
[エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体の合成例]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル56kgおよびメタノール5.8kgを仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が6.0kg/cmになるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液50mLを注入し、重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を7.0kg/cmに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を170mL/hrで連続添加した。6時間後に重合率が40%に達したところで冷却して重合を停止した。反応槽を解放して脱エチレンしたあと窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、ポリ酢酸ビニル(以下、PVAcと略記する。)のメタノール溶液とした。20%に調整した該溶液にモル比(NaOHのモル数/ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位のモル数)0.05のNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。得られたPVA(PVA−1)のけん化度は98.6モル%であった。
【0034】
重合後、未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたPVAcのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、60℃で減圧乾燥して精製PVAcを得た。該PVAcのアルカリ消費量を測定して求めたエチレン変性量は5.5モル%であった。上記のPVAcのメタノール溶液をアルカリモル比0.2でけん化した後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで乾燥して精製PVAを得た。常法のJIS K6726に準じて、該PVAの平均重合度を測定したところ1680であった。
【0035】
実施例1
エバールF101B(エチレン32mol%、メルトインデックス3.8g/10min、けん化度99.7mol%、株式会社クラレ製)を水/イソプロピルアルコール=40/60の溶液に徐々に加え、スラリー状態となったところで95℃まで加熱し、3重量%の水溶液を作製した。その水溶液100重量部に対し、アミン化合物(B)としてPAMAMデンドリマー(表面基:−CONHCHCHNH、表面基の数:4個)の20%メタノール溶液(アルドリッチ社製)15重量部を攪拌しながら徐々に加えて調整した。この溶液を流延し、60℃で乾燥して厚さ100μmのシート状物を得た。得られたシート状物を枠に固定して熱風乾燥機で120℃、10分間熱処理をした。この熱処理したシート状物を温水(60℃)に3時間浸漬した後、吸水量および重量保持率を測定した。シート状物の吸水量は160重量部、重量保持率は79%であり、しっかりとした皮膜状態を維持していた。結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
分子量50万のキトサン(商品名:キトサンH、キミカ株式会社製)/分子量5万のキトサン(商品名:キトサンLL、キミカ株式会社製)=100/10の混合キトサンを酢酸2重量%水溶液に徐々に加え、60分攪拌して0.5重量%のキトサン溶液を調製した。その後、1.0μmのろ紙でろ過したキトサンの酢酸水溶液100重量部に対し、架橋剤(D)としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)(東京化成工業株式会社製)を20重量部攪拌しながら徐々に加えて調整した。この溶液を流延し、20℃で乾燥して厚さ100μmのシート状物を得た。得られたシート状物を枠に固定して大過剰の0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬した。引き続き、蒸留水とエタノール1:1の混合溶媒に60分間浸漬した後に、60℃で8時間乾燥した。
【0037】
さらに、得た枠に固定された乾燥シート状物を、アミン化合物(B)として実施例1で使用されたものと同じPAMAMデンドリマーの20%メタノール溶液(アルドリッチ社製)を水で2倍希釈した大過剰の溶液中に30分間浸漬した。その後60℃で8時間乾燥した。重量測定から該シート状物には、キトサン100重量部に対してPAMAMデンドリマーは100重量部包含されていた。さらに、120℃、10分間熱処理をした。この熱処理したシート状物を温水(60℃)に3時間浸漬した後、吸水量および重量保持率を測定した。シート状物の吸水量は170重量部、重量保持率は36%であり、皮膜状態はしっかりとしていたが、重量保持率は低いものであった。結果を表1に示す。
【0038】
比較例2
比較例1で用いた架橋剤(D)であるEGDGEに代えて、グルタルアルデヒド(GA;和光純薬製)を3重量部用いた以外は、比較例1と同様にして熱処理したシート状物を得た。重量保持率は低いものであった。結果を表1に示す。
【0039】
実施例2〜4、比較例3〜4
実施例1で用いたエチレン−ビニルアルコール系重合体の種類を表1に示すものに代えた以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例5〜7
実施例1で用いたエバールF101Bを使用して、親水性高分子(C)として合成例1で得られたPVA−1、合成例1と同様にして合成したPVA−2、およびPVA−205(株式会社クラレ製)を用いて(A)/(C)の重量割合およびシートの熱処理温度を表1に示すものに代えた以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0041】
実施例8〜12
実施例2で使用したエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、実施例5および6で用いた親水性高分子(C)を使用して、(A)/(C)の重量割合を表1に示すものに代えた以外は、実施例5と同様に行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例13〜14
架橋剤(D)を新たに加えて、エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、親水性高分子(C)および架橋剤(D)の重量割合を表1に示すものに代えた以外は、実施例8と同様に行った。重量保持率が高く耐水性が向上していた。結果を表1に示す。
【0043】
実施例15〜16
架橋剤を2種類使用する以外は、実施例13および14と同様に行って熱処理したシート状物を得た。得られたシート状物を枠に固定してグルタルアルデヒドと等量の硫酸水溶液に60℃で10分間浸漬した。引き続き、蒸留水とエタノール1:1の混合溶媒に60分間浸漬した後に、60℃で8時間乾燥した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例5
エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)を使用せずに、アミン化合物(B)としてPAMAMデンドリマー、親水性高分子(C)としてPVA−120、および架橋剤(D)としてグルタルアルデヒドを用いて表1に示される重量割合で実施例15と同様に行った。得られたシートを60℃の温水に浸漬したところシートは溶解した。
【0045】
比較例6
実施例1のエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、アミン化合物(B)の重量割合(A/B)を表1に示すものに代えた以外は、実施例1と同様に行った。重量保持率が49%に低下した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン基を21〜50モル%含有するエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)およびアミン化合物(B)からなる複合膜であって、該複合膜を60℃の蒸留水に3時間浸漬させた時の該複合膜の重量保持率が60〜100重量%であることを特徴とするガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜。
【請求項2】
アミン化合物(B)が、ポリアミドアミン系デンドリマーである請求項1に記載のガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜。
【請求項3】
エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、アミン化合物(B)および親水性高分子材料(C)からなり、かつエチレン−ビニルアルコール系重合体(A)と親水性高分子材料(C)の重量割合(A)/(C)が50/50〜98/2である請求項1または2に記載のガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系複合膜。
【請求項4】
親水性高分子材料(C)がビニルアルコール系重合体である請求項3に記載のガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系複合膜。
【請求項5】
エチレン−ビニルアルコール系重合体(A)、アミン化合物(B)、親水性高分子材料(C)および多官能性の架橋剤(D)からなる請求項3または4に記載のガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系重合体複合膜。
【請求項6】
複合膜100重量部に対する吸水量が30〜1000重量部である請求項1〜5のいずれかに記載のガス分離膜用エチレン−ビニルアルコール系複合膜。


【公開番号】特開2010−155207(P2010−155207A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334853(P2008−334853)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】