説明

ガス拡散媒体及び燃料電池

【課題】コストを低減させ、プロセスを簡略化させ、又は媒体の性能を向上させるガス拡散媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】ガス拡散媒体は、樹脂粉末、結合剤材料、及び炭素繊維とグラファイト繊維とそれらの組み合わせを含んでなる繊維材料を含んでなる水性分散液を調製し、担体上に該分散物の層を形成し、該層から水を除去して繊維層を形成し、該繊維層を成形し、そして該成形層を炭化又はグラファイト化することにより作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は拡散媒体を有する燃料電池に関する。特に、本開示は燃料電池拡散媒体の製造方法、その方法により製造された拡散媒体、及びそのような拡散媒体を具備する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本項における説明は、単に本開示に関連する背景技術情報を提供するのみであり、先行技術を構成するものではない。
燃料電池は電気自動車及び他の適用のための動力源として有用である。例えば燃料電池は、触媒電極を有する膜電極アセンブリ(membrane electrode assembly, MEA)と、電極間に形成されたプロトン交換膜(proton exchange membrane, PEM)とを有する。MEA内で生じる水素と酸素との電気化学的反応に基づいて、カソード電極で水が生成する。ガス拡散媒体(gas diffusion media)は、PEM型燃料電池において重要な役割を果たす。ガス拡散媒体は、触媒電極と、反応体ガスを燃料電池へと導入する流動場との間に一般的に配置され、反応体が電極へと拡散するための経路と、生成物である水を除去するための経路と、導電性と、熱伝導性と、そして燃料電池が相応に機能するのに必要な機械的強度とを提供する。
【0003】
燃料電池の作動中、MEA内で生じた水素と酸素に関連する電気化学的反応に基づいて、カソードで水が生じる。燃料電池の効率的な作動は、系内の効率的な水制御性を提供する能力に依存する。例えば、拡散媒体は、双極板のガス流動チャネルから触媒層への反応体ガスの流れを維持する一方で、生成物である水を触媒層から除去することにより、電極がフラッディング(flooding)する(即ち、水で満たされてO2のアクセスが厳しく制限される)のを妨ぐことができる。
【0004】
燃料電池スタックは、用途の電力要求に依存して、多数の燃料電池を含有することができる。例えば、典型的な燃料電池スタックは、400個までの、そしてそれ以上の個数の、独立の燃料電池を有する。スタックにおける燃料電池はシリーズで作動するので、1つの電池における弱さ又は性能の乏しさは、スタック全体の性能の乏しさへとつながり得る。このため、スタックにおけるどの燃料電池も高い効率で作動することが望ましい。
【0005】
ガス拡散媒体の典型的な製造工程には、炭素繊維紙(carbon fiber paper)を製造し、その紙を樹脂又は樹脂とフィラーとの混合物で含浸し、含浸された紙を成形し、そして樹脂含浸炭素繊維紙を炭化又はグラファイト化することが含まれる。製紙工程と含浸工程とは連続しており、一方、成形工程、炭化工程及びグラファイト化工程はバッチ式でもよいし、連続でもよい。
【0006】
典型的な燃料電池スタックは非常に多くの個々の燃料電池を含有するので、拡散媒体を製造する方法が高度の信頼性を有することが重要である。製造方法における改良は、コストを低減させ、プロセスを簡略化させ、又は媒体の性能を向上させるために、望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、(a)繊維材料及び樹脂粉末を含む水性分散物を準備し、(b)該繊維及び樹脂粉末分散物を担体上に層状又はマット状に形成させ、(c)該層から水を除去して樹脂粉末を含む繊維層を形成させ、(d)該樹脂粉末含有繊維層を成形し、(e)該成形層を炭化又はグラファイト化する、ガス拡散媒体の製造方法を提供する。この方法は繊維マットを樹脂で含浸する工程を省略する。
【0008】
本発明の態様では、担体は所望のメッシュを有するスクリーンである。メッシュ孔よりも大きいサイズの繊維ストランド及び樹脂粉末粒子は、保持されて繊維層を形成し、より小さい粒子もまた繊維マット中に保持される。種々の態様では、スクリーンは樹脂粉末の平均粒子サイズよりも小さいメッシュサイズを有する。ある態様では、約40ミクロンから約100ミクロンの平均粒子サイズを有する樹脂粉末が用いられる。
【0009】
本発明の方法の態様では、樹脂粉末はフェノール樹脂を含むか又はフェノール樹脂である。
本発明のある態様では、樹脂粉末は約40ミクロンから約100ミクロンの平均粒子サイズを有する。
【0010】
本発明は、本発明の方法に従って調製された拡散媒体をさらに提供する。この拡散媒体は、同じ樹脂量を有するが先行技術の方法により作製された拡散媒体と比べて、高いガス透過性を有する。理論に縛られることを望まないが、これは、個々の繊維をともに保持するための硬化中の樹脂流動性に依存する溶液含浸法に比べて、炭素紙形成中に存在するよく分散された樹脂粒子により炭素繊維又はグラファイト繊維がスポット溶接されるからであると考えられる。伝統的な含浸工程は、樹脂含浸及び硬化後に、薄くて樹脂が豊富な表面層を生じ、これは炭化/グラファイト化後に個々の繊維上で非晶質炭素表面層へと変化すると考えられ、ガス拡散媒体の表面自由エネルギーと耐久性に悪い影響を与え得る。炭素繊維上のこの表面層は本発明により回避される。
【0011】
本発明は、アノード、カソード、及びアノードとカソードの間に配置されたプロトン交換膜(proton exchange membrane, PEM)を含んでなる膜電極アセンブリ(MEA)と、MEAのカソード及びアノード側の少なくとも一方の上にある不透過性導電性膜であって、不透過性導電性膜とカソード及び/又はアノードのそれぞれとの間の流体分配チャンバー(fluid distribution chambers)をカソード及びアノードのそれぞれと共に画定する不透過性導電性膜と、そして、流体分配チャンバーの一方又は両方に配置される本発明の拡散媒体と、を含む燃料電池も提供する。拡散媒体は、好ましくは不透過性導電性膜側から電極側へと流体分配チャンバーをつなぐ。
【0012】
このプロセスの新規な炭素繊維紙製造工程は、炭素繊維紙ガス拡散媒体の製造のコストを低減し、それにより、本発明のガス拡散媒体を用いて調製された燃料電池のコストを低減させる。加えて、本発明の方法により調製された拡散媒体は、より大きな開孔構造と、改良された燃料電池性能を示す。
【0013】
本発明の説明において、「樹脂」には特定の用途に適するオリゴマー材料及びポリマー材料が含まれる。「粉末」は、粉砕された材料、破砕された材料、又は粒状化された材料をいう。「約」は、「近い」という通常の意味を有し、若しくは、値に多少の不正確さがあってもよい(おおよそ又は合理的にその値に近い)という意味を有する。数値範囲は、端の値と範囲内の各々の値、並びに端として示された2つの任意の値により形成される範囲に含まれる全ての値、として理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明プロセスのフロー図である。
【図2】図2a及び2bは、慣用的な溶液樹脂含浸法により調製された炭素繊維紙のSEM画像であり(図2a)、また、本発明の樹脂粉末ドーピング方法により調製された炭素繊維紙のSEM画像である(図2b)。
【図3】図3は、ガス拡散媒体を含む燃料電池スタックの概要図である。
【図4】図4は、処理された拡散媒体の電流電圧曲線の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
適用の更なる領域は、本説明により明らかとなるだろう。本説明、図、及び特定の実施例は、例示のみの目的を意図しており、本開示の範囲を制限することを意図していないことを理解すべきである。
【0016】
ガス拡散媒体は繊維と樹脂粉末から作成される。樹脂粉末は、ガス拡散媒体前駆体へと組込まれるときには溶媒和されていない。樹脂粉末は、その粉末形態において組込まれており、炭化又はグラファイト化されてガス拡散媒体前駆体からガス拡散媒体を形成する前に溶融させてもよく、少なくとも部分的に硬化させてもよい。
【0017】
図1はガス拡散媒体を製造する発明のプロセス100を示す。工程110において、炭素及び/又はグラファイト繊維、樹脂粉末、及び結合剤材料の分散物が形成される。ある態様では、分散物は、ポリアクリロニトリル繊維を炭化し次いで所望の長さに刻むことにより得られる炭素繊維を含む。多様な態様では、炭素繊維は約5〜約10ミクロンの直径と、約5mm〜約10mmの長さを有する。グラファイト繊維もまた用いることができる。
【0018】
炭素繊維又はグラファイト繊維の適切な例には、ポリアクリロニトリルの炭化又はグラファイト化繊維、アクリロニトリル(特に少なくとも90質量%のアクリロニトリルモノマーを含むもの)、セルロース、レーヨン、ピッチ(pitch)、及びフェノール樹脂(phenolics)のコポリマーが含まれるがこれらに限定されない。
【0019】
ポリアクリロニトリル(PAN)繊維は通常、溶媒スピニング法(solvent spinning process)を用いてPANポリマーから製造される。12〜14ミクロンの直径を有するフィラメントは典型的に、燃料電池拡散媒体のための炭素繊維又はグラファイト繊維を調製するために用いられる。PAN繊維は、約230℃で空気中で安定化でき、次いで炭化されて所望の長さへと刻まれる。炭化は、窒素下で約1200〜1350℃で行うことができ、少なくとも95質量%の炭素分を有する炭素繊維を生成する。炭化トウ(tow)は、約3〜約12mmの長さへと刻んでもよい。
【0020】
一方法において、刻まれた炭素繊維及び/又はグラファイト繊維は、次いで、水、樹脂粉末、及び結合剤材料と混合され、水性分散物を形成する。結合剤材料は好ましくは、分散物から形成される炭素繊維紙が破損せずに更なる加工を受けることができるように、炭素繊維紙へ構造的一体性を付与するために用いられる。適切な結合剤材料の例には、これらに限定されないが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び他のそのような水に分散可能なポリマーが含まれる。
【0021】
樹脂粉末は、任意の炭素質樹脂又は炭素質粉末であることができる。適切な例には、フェノール樹脂、メラミン樹脂及び尿素樹脂のようなアミノ樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、アクリルポリマー、フェノキシ樹脂、エポキシ修飾ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、テフロンTMのようなフルオロカーボンポリマー、シアネート樹脂、これら及び/又は他のポリマー若しくは樹脂の組み合わせが含まれるがこれらに限定されない。ある態様では、樹脂粉末は熱硬化性であり、自己架橋性であるか、架橋剤で架橋するか、又は酸化硬化性である。特定の態様では、樹脂粉末はフェノール樹脂を含む。他の樹脂も使用可能だが、フェノール樹脂はその高い炭素収率(初期質量の50%)及び低コストの点から好ましい。選択される樹脂は、分散物が形成される温度で固体でなければならず、水に溶けてはならず、粉末形態で用いられる。ある態様では、約40ミクロン〜約100ミクロンの平均粒子サイズを有する樹脂粉末の使用が望ましい。分散物がメッシュスクリーン上に層を形成するとき、水と、スクリーンのメッシュよりも小さいサイズを有する樹脂粉末粒子の一部は、スクリーンを通過する。メッシュ孔よりも大きなサイズの繊維及び樹脂粉末は、保持されて繊維層を形成する。スクリーンメッシュよりも小さい粒子もまた繊維層に捕らえられ得る。スクリーンは樹脂粉末の平均粒子サイズよりも小さいメッシュサイズを有する。例えば、300メッシュ〜100メッシュのスクリーンを選択することができる。
【0022】
分散物は、樹脂粉末と炭素繊維及び/又はグラファイト繊維との合計質量に基づいて、約40〜80質量%、好ましくは約60〜約75質量%の樹脂粉末を含んでもよい。
分散物が結合剤材料を含むときは、分散物は層又はマットへ、若しくは製紙技術を用いて紙へと形成することができる。分散物は、湿式法及び慣用的な製紙設備を用いて、樹脂粉末で充填された炭素繊維紙へと形成されてもよい。そのようなプロセスにおいて、分散物は「ヘッドボックス」へと供給されて、そこで分散物は真空乾燥機を具備する回転多孔性ドラム又はワイヤースクリーンへと落下して水が除去される。形成されるウェブ(網状物)をドラム又はスクリーンから剥がし、通常は炉又は大きな直径の高温の回転ドラムにおいて完全に乾燥させる。
【0023】
拡散媒体を製造する慣用的な方法では、製紙プロセス又はマット製造プロセスの後に、有機溶媒中の樹脂を炭素繊維マトリクス中へと導入する含浸工程を行わなければならない。本発明は、炭素繊維紙又は炭素繊維マットが既にその中に分散されている樹脂粉末とともに形成されるので、この工程を必要としない。これは実質的に、従来の方法と比べて、時間、コスト、排出物、及び設備の必要性を低減させる。
【0024】
樹脂粉末を含有する炭素繊維紙又はマットを次いで酸素雰囲気下で加熱して、少なくとも部分的に樹脂を硬化させる(Bステージングと呼ばれる)。Bステージング後の重合の度合いは、その後に続く成形工程中に樹脂流がほとんどなくなるようにすれば十分である。分散物は樹脂粉末を含有するので、乾燥工程及びBステージング工程は単一プロセス工程にまとめてもよい。
【0025】
Bステージングの後、紙又はマットにドーピングされた樹脂粒子は連続的に成形されてもよいし、その後に続く成形工程のために約1平方メートルまでの個別のシートへとダイでカットされてもよい。紙又はマットにドーピングされた樹脂粒子は、工程130において所望の厚さ及び構造へと成形され、次いで工程140において炭化又はグラファイト化されて、ガス拡散媒体が提供される。一般に、結合剤材料は、炭化工程及びグラファイト化工程中に完全に焼失する。
【0026】
Bステージング工程は、成形工程に組込まれてもよい。この態様において、樹脂粉末を含有する炭素繊維紙又はマットを、制御された傾斜プロファイルを有する温度で成形して樹脂を完全に硬化させる。
【0027】
図1に示される方法の工程130において、炭素繊維紙又はマットにドーピングされた樹脂粒子を加圧下で加熱することにより、圧縮成形して完全に硬化させる。最適温度及び最適圧力は、例えば、特定の選択された樹脂粉末に依存する。典型的なフェノール樹脂は、例えば、約400〜550kPaの加圧下で、175℃又はそれ以上の温度で完全に硬化させることができる。バッチプロセスについて、紙又はマット(予め切断されているもの)は、それらの間のシリコンコーティング分離紙とともに所望の間隔で積み重ねられて、成形品に所望の層(ply)を与える。このスタックを所与の圧力又は厚さで成形することにより、成形紙にとって望ましい厚さ又は密度を得ることができる。続く成形、後硬化(「Cステージング」)を高温(例えば200℃かそれ以上)下で大気中で行い、次工程の炭化の前に樹脂を確実に完全に硬化させ又は架橋させてもよい。
【0028】
続く工程140で、成形紙又はマットを炭化又はグラファイト化する。グラファイト化は、酸素のない環境下でマットが2000℃以上に加熱された時に起こり、繊維物理構造の変化を引き起こす。非晶質炭素は結晶質のラメラグラファイトへと変化し、非晶質炭素繊維と比べて高い引っ張り係数と高い導電性及び熱伝導性と、高い密度及び化学物質耐性とをもたらす。複合材料の樹脂部分はグラファイト化せず、非晶質炭素として残る。
【0029】
炭化及びグラファイト化は、連続で行ってもよいし、水平又は垂直バッチ炉においてシートを積み重ねることにより行ってもよい。不活性雰囲気下(例えば窒素下又はアルゴン下)でスタックを加熱する。複合材料は、連続サイクルで同じ炉内で、炭化(1200〜2000℃)してからグラファイト化(2000℃以上)するのが好ましい。
【0030】
図2a及び2bは、慣用的な溶液樹脂含浸法により調製された炭素繊維紙(図2a)と、本発明の樹脂粉末ドーピング法により調製された炭素繊維紙(図2b)とのSEM画像である。図に見られるように、本発明の方法は、より開けた、均一な構造を与える。さらに、従来の樹脂溶液含浸法は、個々の繊維の表面上に、薄い炭化樹脂フィルム層を残すと考えられる。この非晶質表面層は本発明の方法では回避され、元の炭素繊維表面の大部分が露出したまま残される。一方、繊維紙の溶液含浸により作製された先行技術の製品は、非晶質炭素フィルムで完全に又はほぼ完全にコーティングされている繊維をもたらす。炭素繊維表面の露出は、先行技術の非晶質炭素フィルムコーティング製品に対して、熱及び電気の両方の伝導性と、表面エネルギーを改良する。
【0031】
多様な態様において、本発明の拡散媒体には、水輸送を向上させるための表面コーティングが拡散媒体全体に付与される。拡散媒体の処理の非限定的な例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理及び、炭素粉末とフルオロポリマーとの混合物を含有する微孔層(microporous layer, MPL)コーティングが含まれる。一態様では、微孔層は、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及びPTFE分散物を含むペーストで拡散媒体をコーティングし、ペーストを含有する拡散媒体を焼結することにより形成される。
【0032】
拡散媒体は燃料電池を作成するために用いられる。燃料電池スタックは複数の燃料電池を含有し、個々の電池の数はその用途に要求される電力と電圧に依存する。自動車用途では、典型的な燃料電池スタックは50又はそれを越える個々の燃料電池を有し、400、500、又はそれ以上まで含むこともできる。様々な用途における電力要求は、個々の燃料電池スタックを含む多くのモジュールを提供することによって満たすこともできる。モジュールは、シリーズで動作するようにデザインされ、十分な電力を提供し、入手可能なパッケージ内に収まる大きさにされる。
【0033】
図3は、典型的な複数電池スタックの構成の詳細を示す拡大図であり、明確にするためにただ2つの電池のみを示す。双極燃料電池スタック2は、導電性燃料分配要素8、以下双極板8と呼ぶ、により、互いに分離された膜電極アセンブリ(MEA)4及び6の対を有する。MEA4及び6と双極板8とは、板又は端板10及び12と、端部接触要素14及び16とを締め付けるステンレス鋼の間にともに積み重ねられる。端部接触要素14及び16ならびに双極板8の両側の作動面は、燃料及び酸化体ガス(即ち、水素及び酸素)をMEA4及び6へと分配するための複数の溝又はチャネル18、20、22及び24のそれぞれの流動場を有する。非伝導性ガスケット26、28、30及び32は、燃料電池スタックの複数の成分間の密封と電気絶縁性を提供する。本発明のガス拡散媒体34、36、38、及び40は、MEA4及び6の電極面に対して押し付けられる。端部接触要素14及び16は、拡散媒体34及び40のそれぞれに対して押し付けられ、一方、双極板8はMEA4のアノード面上の拡散媒体36と、MEA6のカソード面上の拡散媒体38に対して押し付けられる。適切な供給配管42により貯蔵タンク46から燃料電池のカソード側に酸素が供給され、一方、適切な供給配管44により貯蔵タンク48から燃料電池のアノード側に水素が供給される。あるいは、大気が(例えばコンプレッサ又はブロワーから)酸素源としてカソード側へ供給されてもよく、そして水素がメタノール又はガソリン改質器からアノード側へ供給されてもよい。MEA4及び6の水素側と酸素側の両者のための排気配管(示していない)もまた提供されるだろう。液体冷却剤を双極板8と端板14及び16に供給するために、更なる配管50、52、及び54も提供される。冷却剤双極板8及び端板14、16からの冷却剤を排出するための適切な配管も供給されるが、図には示していない。
【0034】
個々の燃料電池は電極間に配置されたプロトン交換膜を有する。電極はアノード及びカソードであり、水素と、酸素を含有する酸化体ガスとを含む燃料からの水の生成を行う際に用いられる。多様な態様では、電極は炭素担持粒子を含有し、炭素担持粒子上にはより小さな触媒粒子(例えば白金)が配置され、ならびに電極層内のプロトンを結合させ伝導させるために用いられるポリマー電解質が配置されている。適切な電極は商業的に入手可能であり、カソード及びアノードは、同じ材料から製造してもよい。電極は拡散媒体として働く炭素布又は炭素紙のような、多孔性で導電性の材料に接触する。
【0035】
図4は、50cm2単一燃料電池からの試験データを示す。全てのケースにおいて、本発明の拡散媒体と参照拡散媒体を、拡散媒体の水制御性要求が最も厳密である燃料電池のカソード側上に用いた。7質量%のポリテトラフルオロエチレンで処理された慣用的な拡散媒体(Toray TGP H-060)をアノード拡散媒体として用いた。燃料電池性能試験は、270キロパスカル(kPa)の絶対圧力、60℃のセル温度、60℃のアノード及びカソード両者の露点、電流引き込み(current draw)に基づく化学量論要求の2倍の水素アノード流、及び、ガス出口で約307%の相対湿度(RH)をもたらす化学量論要求の2倍の空気カソード流下で行われた。この試験では、燃料電池のカソード側の上に用いた試験用拡散媒体について、液状の水の制御性の効率を比較した。比較曲線C1は、7wt%PTFEで処理されたToray 060炭素繊維紙についての電流対セル電圧をプロットする。比較曲線C2は、Toray 060炭素繊維紙についての結果であるが、触媒層に対して配置された約1.1mg/cm2の微孔層(MPL)コーティングで被覆したものの結果である。MPLコーティングは、炭素繊維紙上にペーストをロッドコーティングすることにより調製した。ペーストは2.4gのアセチレンブラック、1.33gの60%PTFE分散物、31.5mLのイソプロパノール、及び37mLの脱イオン水を含んでいた。次いで、ペーストを含む炭素紙を、380℃で20分間加熱することにより焼結する。本発明の曲線E1及びE2は、Sigrafil C-30炭素繊維と120メッシュRutger-Plenco 12114樹脂粉末とを用いて本発明に従って調製された炭素繊維紙についての電流対セル電圧を示す。この樹脂結合炭素繊維紙は、炭化の前に約66質量%の樹脂を含む。炭化された樹脂に対する炭素繊維の質量比は、炭化後で約1:1である。E1の実施例はPTFE処理(7wt.%)されており、E2の実施例はPTFE(7wt%)処理とともにさらに触媒層に対して配置されたMPLコーティングを有する。MPLコーティングは前記の通りに調製して、基板上に1.15mg/cm2の固形分が装填された。
【0036】
図4の曲線は本発明の拡散媒体の実施例E1及びE2が、高湿度条件下で、Toray拡散媒体に対して、有意に改良された水制御性効率を提供することを示している。適切な乾燥操作条件下でも更に試験を行ったが、本発明試料と比較試料との間に性能の差は見られなかった。
【0037】
本発明の説明は例示の性質のみを有し、かくして本発明の趣旨から逸脱しない変形は本発明の範囲内であることが意図される。そのような変形は本発明の精神及び範囲から逸脱したものとみなされるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散媒体を製造する方法であって、
樹脂粉末、結合剤材料、及び炭素繊維とグラファイト繊維とそれらの組み合わせを含んでなる繊維材料、を含有する水性分散物を調製すること;
該分散物の層を担体上に形成すること、
該層から水を除去して繊維層を形成すること、
該繊維層を成形すること、及び
該成形された層を炭化又はグラファイト化すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
成形する前に、繊維層を少なくとも部分的に硬化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水を除去することと、少なくとも部分的に硬化させることとが一緒に行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
樹脂粉末がフェノール樹脂を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
樹脂粉末が約40ミクロン〜約100ミクロンの平均粒子サイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
樹脂粉末がフェノール樹脂を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
繊維マットが炭化前に約40〜約80質量%の樹脂粉末である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
担体がスクリーンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
スクリーンが樹脂粉末の平均粒子サイズよりも小さいメッシュサイズを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法で製造した拡散媒体。
【請求項11】
請求項7に記載の方法で製造した拡散媒体。
【請求項12】
アノード及びカソード電極と、該アノード及びカソード間に配置されたプロトン交換膜とを含む膜電極アセンブリ;
膜電極アセンブリの少なくとも一方の電極側の上にあり、該電極とともに不透過性導電性膜と電極との間の流体分配チャンバーを画定する、不透過性導電性膜;及び、
該流体分配チャンバー内に配置された請求項1に記載の方法で製造した拡散媒体
を含んでなる燃料電池。
【請求項13】
拡散媒体が、流体分配チャンバーを、不透過性導電性膜側から電極側へとつなぐ、請求項12に記載の燃料電池。
【請求項14】
請求項12に記載の燃料電池を複数含む、燃料電池スタック。
【請求項15】
炭化された材料又はグラファイト化された材料に接着された繊維材料を含んでなる拡散媒体であって、炭素繊維表面の大部分が暴露されている拡散媒体。
【請求項16】
繊維材料が炭素繊維である請求項15に記載の拡散媒体。
【請求項17】
アノード及びカソード電極と、該アノード及びカソード間に配置されたプロトン交換膜とを含む膜電極アセンブリ;
膜電極アセンブリの少なくとも一方の電極側の上にあり、該電極とともに不透過性導電性膜と電極との間の流体分配チャンバーを画定する、不透過性導電性膜;及び、
該流体分配チャンバー内に配置された請求項15に記載の拡散媒体
を含んでなる燃料電池。
【請求項18】
拡散媒体が、流体分配チャンバーを、不透過性導電性膜側から電極側へとつなぐ、請求項17に記載の燃料電池。
【請求項19】
請求項17に記載の燃料電池を複数含む、燃料電池スタック。
【請求項20】
樹脂粉末及び繊維で調製された拡散媒体であって、調製中に該樹脂粉末が溶媒和しない、拡散媒体。
【請求項21】
繊維材料が炭素繊維である、請求項20に記載の拡散媒体。
【請求項22】
アノード及びカソード電極と、該アノード及びカソード間に配置されたプロトン交換膜とを含む膜電極アセンブリ;
膜電極アセンブリの少なくとも一方の電極側の上にあり、該電極とともに不透過性導電性膜と電極との間の流体分配チャンバーを画定する、不透過性導電性膜;及び、
該流体分配チャンバー内に配置された請求項20に記載の拡散媒体
を含んでなる燃料電池。
【請求項23】
拡散媒体が、流体分配チャンバーを、不透過性導電性膜側から電極側へとつなぐ、請求項22に記載の燃料電池。
【請求項24】
請求項22に記載の燃料電池を複数含む、燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−192653(P2011−192653A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−107226(P2011−107226)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【分割の表示】特願2007−68234(P2007−68234)の分割
【原出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(505212049)ジーエム・グローバル・テクノロジー・オペレーションズ・インコーポレーテッド (221)
【出願人】(507086343)
【Fターム(参考)】