説明

ガス拡散電極を製造する方法

【課題】電気化学的性質の優れたガス拡散電極をできるだけ簡易に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】ガス拡散電極を製造する方法であって、(a)少なくとも触媒およびバインダーを含んだ粉末混合物を調製すること、(b)粉末混合物を導電性サポートに適用すること、ならびに(c)粉末混合物を導電性サポートと共に押圧することを含んで成る方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、触媒とバインダーとを少なくとも含んだ粉末混合物および導電性サポート(electrically conducting support)からガス拡散電極を製造する方法に関する。ガス拡散電極は、例えば塩化ナトリウム電解またはアルカリ燃料電池に用いるのに適している。
【0002】
発明の背景
触媒とバインダーと必要に応じて加えられる他の成分とを含んだ乾燥粉末混合物をまず圧延してシート材を形成した後、そのシート材を導電性サポートにローラーで適用することによって、ガス拡散電極を製造することは、DE3710168AおよびEP297377Aにより既知となっている。また、サポートは、その機械的機能とは別に、ガス拡散電極内に電流を運ぶ機能およびガス拡散電極から電流を運び出す機能を有している。機械的なサポートは、例えば金網または不織布または金属織布であり得る。シート材は、例えば押圧またはローラーでサポートに適用できる。
【0003】
このような製造法の不利益な点は、2つの操作工程を必要とすることであり、第1の操作工程では、触媒とバインダーと必要に応じて加えられる他の成分とを含んだ粉末混合物を押圧することによってシート材を形成し、第2の操作工程では、サポートと共にシート材を押圧する必要がある。別の不利益な点は、シート材をサポートで押圧する間、触媒活性を有するシート材が高い機械的応力を再度受けてしまうことである。高い機械的応力を再度受けると、ガス拡散電極の触媒活性層の孔が不利な影響を受け、電極の電気化学的活性が損なわれてしまう。尚、粉末混合物を液体で満たして押圧時の孔の破壊を防ぐことは、DE10130441Aより知られている。
【0004】
DE10148599Aによると、シート材の損傷を防止するためには、サポートと共にシート材を押圧する際の力を相当正確に調整しなければならず、それゆえ、最適な孔構造の形成というものは容易ではない。
【0005】
粉末混合物の押圧する際の力の大きさは、適切な機械的安定性が備わったシート材が形成されるように選択する必要がある。同様に、シート材をサポートと共に押圧する際に、シート材とサポートとの間で十分強固な結合(クランプ)がもたらされるように、力の大きさを選択しなければならない。ガス拡散電極が例えば電解セルで使用される場合、押圧力が小さすぎると、シート材がサポートから容易に分離してしまうことが考えられる。シート材がサポートから分離すると、付加的な抵抗が生じるので、電解電圧が増加する。
【0006】
従来技術の方法の別の不利益な点は、単一層のガス拡散電極しか製造できないことである。単一層のガス拡散電極は、触媒活性層を1つ有する電極を意味するものである。ガス拡散電極は、多層構造を有し得るものである(即ち複数の層を含んでいる)。多層構造の場合では、相互に異なる性質(例えば疎水性、親水性または電気的性質)を有するように各々の層が設けられ得る。従来技術の方法では、押圧によって幾つかの層を十分に強固に相互に結合させることができず、また、そのような層と導電性サポートとを十分に強固に結合できないので、多層のガス拡散電極を製造することができない。
【0007】
発明の要旨
それゆえ、本発明は、電気化学的性質の優れたガス拡散電極をできるだけ簡易に製造できる方法を提供する。本発明の製造方法では、単一層のガス拡散電極と複数層のガス拡散電極との双方を製造することができる。
【0008】
発明の詳細な説明
次に、例示を目的として本発明を説明する(尚、本発明を限定するものではない)。実施例を除いて本明細書において量、%などに用いられる全ての数字は、特に明記しない限り「約」が付記されていると理解できることに留意されたい。
【0009】
本発明では、ガス拡散電極を製造する方法であって、
(a)少なくとも触媒およびバインダーを含んだ粉末混合物を調製すること、
(b)粉末混合物を導電性サポートに適用する(または供する)こと、ならびに
(c)粉末混合物を導電性サポートと共に押圧すること
を含んで成る方法が提供される。
【0010】
本発明の方法における粉末混合物は、触媒およびバインダーおよび場合により加えられる他の成分を含んでいるが、従来技術の方法とは異なって、導電性サポートに直接的に適用された後(または供された後)、導電性サポートと共に押圧(またはプレス)される。かかる方法では、粉末混合物がサポートと共に押圧される前では、粉末混合物を押圧してシート材を形成しておらず、操作工程が1つ省かれている。
【0011】
粉末混合物には、少なくとも触媒およびバインダーが含まれる。触媒は、金属、金属化合物、非金属化合物、またはそれらの混合物であってもよい。触媒は、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)またはそれらの混合物であってよい。バインダーは好ましくはポリマーであって、より好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。酸化銀(I)を70〜95重量%、粉末形態の銀金属を0〜15重量%、および、PTFEを3〜15重量%含む粉末混合物を用いることが好ましい。また、用いられる粉末混合物は、例えばDE10130441Aで既知となっているような混合物(即ち、銀などの触媒をPTFE基板上に沈積させた混合物)であってよい。
【0012】
粉末混合物は、他の成分、例えばフィラー(粉末ニッケル金属、ラネーニッケル、ラネー銀またはそれらの混合物を含んでいるフィラー)を付加的に含んでいてもよい。
【0013】
触媒およびバインダーを含んでいる粉末混合物が、サポートに適用されてサポートと共に押圧されると、ガス拡散電極の電気化学的活性層が形成されることになる。
【0014】
上記(a)の粉末混合物の調製は、粉末状の触媒、バインダーおよび場合により加えられる他の成分(または必要に応じて加えられる他の成分)を混合することによって行われる。かかる混合は、攪拌翼などの混合要素が迅速に回転する混合デバイスで行うことが好ましい。10〜30m/sの速度または4000〜8000rpmの速度で混合要素を回転させて、粉末混合物成分を混合することが好ましい。かかる混合デバイスにおいて触媒(例えば酸化銀(I))がバインダーとしてのPTFEと混合される場合では、PTFEが糸状に取り出され、触媒のバインダーとして機能する。混合後、粉末混合物がふるい(sieve)にかけられることが好ましい。メッシュサイズが0.1〜1.5mm、より好ましくは0.2〜1.2mmを有した金網(gauze)又はそれと同様の物を備えたふるいデバイスでふるいを実施することが好ましい。
【0015】
本発明の別の態様において、混合デバイスで触媒とバインダーとを混合した後、粉末混合物を、例えばローラーで押圧して圧密する。このようにして形成される「かさぶた状のもの(scab)」は、その後、混合要素が回転する混合デバイスで処理され再び粉末状にする。これによって、サイズの大きい材料が減じられ、流動性が向上することになる。このような操作(即ち、混合デバイスで粉末混合物の成分を混合すること、粉末混合物を圧密すること、そして、混合デバイスで再度混合すること)は、数回繰り返して行うことができる。
【0016】
混合要素が回転する混合デバイスで混合を実施すると、粉末混合物に対してエネルギーが供給されるので、粉末混合物が相当に加熱されることになる。混合に際して粉末混合物が過度に加熱されると、ガス拡散電極の電気化学的活性が損なわれてしまうので(即ち、電解操作の間で電圧が増加してしまうので)、混合に際して粉末混合物が過度に加熱されないようにする必要があることが判った。つまり、好ましくは35〜80℃の温度、より好ましくは40〜55℃の温度で混合を実施する。このような温度は、混合時に冷却することによって達成することができ、例えば、液体窒素または他の不活性な熱吸収物質等のクーラントを加えることによって達成することができる。考えられる別の温度制御法は、混合を一時的に中断して粉末混合物を冷却することである。
【0017】
本発明の方法の別の態様では、触媒として酸化銀(I)を用いて粉末混合物を調製する場合、そのような調製の間(即ち、混合操作、ふるい操作および場合により行われる圧密操作の間)で室温が好ましくは14〜23℃、より好ましくは16〜20℃であって、相対湿度が好ましくは30〜60%、より好ましくは35〜55%であると、ガス拡散電極の電気化学的活性にとって有利となる。尚、温度および相対湿度が高いと、電解操作の間でガス拡散電極の電気化学的活性が損なわれてしまうことになる。
【0018】
粉末混合物を調製する工程(a)の後に行われる工程(b)では、粉末混合物を、導電性サポートに適用する(または供給する)。導電性サポートは、金網(gauze)、不織布、発泡体(もしくはフォーム)、織布、網状物(もしくはネット)またはエキスパンデッドメタル(expanded metal)などであってよい。サポートは、好ましくは金属であり、好ましくはニッケル、銀または銀メッキされたニッケルである。サポートは、単一の層または複数の層から成るものであってよい。複数層から成るサポートは、2またはそれ以上の金網、不織布、発泡体、織布、網状物またはエキスパンデッドメタルなどが相互に重なっているものであってよい。例えば、サポートは、種々の厚さ、多孔質または種々のメッシュサイズであってよい。例えば焼結または溶接によって、2又はそれ以上の金網、不織布、発泡体、織布、網状物またはエキスパンデッドメタル等を一体的に結合させてもよい。0.05〜0.4mmのワイヤー直径、より好ましくは0.1〜0.30mmのワイヤー直径を有し、0.2〜1.2mmのメッシュサイズを有したニッケル網を用いることが好ましい。
【0019】
導電性サポートに粉末混合物を適用する工程(b)は、粉末混合物を散布(sprinkle)して行うことが好ましい。粉末混合物は、例えばふるいを通すことによってサポート上に散布できる。フレーム状の型板(frame−like template)をサポートの上に置くことが特に有利である。かかる型板はサポートを包含するように選択されるものである。別法にて、サポートよりも面積が小さい型板を選択することができる。サポートよりも面積が小さい型板の場合では、粉末混合物をサポート上に散布してサポートで粉末混合物を押圧した後でも、サポートのエッジ部分には電気化学的活性コーティングが存在しない。サポートに適用される粉末混合物の量に合わせて、型板の厚さを選択することができる。型板は粉末混合物で充填されることになる。余分な粉体(または粉末)は、ストリッパー(又はかす取り部材、stripper)で除去することができる。余分な粉体が除去された後、型板は取り除かれる。
【0020】
引き続いて、粉末混合物をサポートと共に押圧する。かかる押圧は、特にローラー(好ましくは一対のローラー)を用いて行うことができる。しかしながら、実質的にフラットなベース上に1つのローラーを用いて、ローラーまたはベースのいずれかを動かすことによっても押圧を実施できる。また、プレスラム(pressure ram)を用いることによっても押圧を行うことができる。押圧力は、好ましくは0.01〜7kN/cmである。
【0021】
例えばDE10148599Aに記載されているような従来技術の方法(またはプロセス)とは違って、本発明の方法で行う押圧は、材料、ローラーの表面粗さ、および、押圧に用いられるローラーの直径とは独立している。
【0022】
本発明の方法の別の有利な点は、単層のガス拡散電極のみならず複数層のガス拡散電極も製造できることである。複数層のガス拡散電極を製造するために、種々の組成および種々の性質の粉末混合物が層状に導電性サポートに適用される。本発明の方法では、種々の粉末混合物層を個々にサポートと共に押圧するのではなく、種々の粉末混合物層をまず連続してサポートに適用した後、1つの工程にて種々の粉末混合物層をサポートと共に一体的に押圧する。例えば、バインダー含量(特にPTFE含量)を電気化学的活性層よりも多く含んだ粉末混合物層を適用することができる。10〜50%のPTFE含量を有する粉末混合物層は、ガス拡散層として機能し得る。また、PTFEの層をガス拡散層として適用してもよい。例えば、PTFE含量の多い層を、ボトム層(または底層)としてサポートに直接的に適用することができる。種々の組成から成る他の層を適用して、ガス拡散電極を製造してもよい。複数層のガス拡散電極の場合、所望の物理的性質および/または化学的性質を特別に調整することが可能である。そのような所望の物理的性質および/または化学的性質としては、層の疎水性または親水性、電気導電率(または電気導電度)およびガス透過率を特に挙げることができる。このようにして、例えば、各々の層ごとに性質の程度(または度合い)を増加させたり減少させたりして性質について勾配を形成できる。
【0023】
サポートに適用される粉末混合物の量および押圧力によって、ガス拡散電極の個々の層の厚さを調整することができる。例えばサポートに設けた型板の厚さによって、適用される粉末混合物の量を調整して、粉末混合物をサポート上に散布することができる。例えばDE10148599Aに記載されているような従来技術の方法と比べて、本発明の方法の利点は、ローラー直径、ローラー間の隙間、ロック力および周辺速度などのローラー・パラメーターとは独立して、サポート上の電気化学的コーティングの厚さを調整できることである。
【0024】
粉末混合物がサポートと共に押圧される際に加えられる力を0.01〜7kN/cmの範囲で最小限にするために、粉末混合物に対して、粉末形態の銀、またはフレーク形態もしくはスケール形態などの銀を加えてもよい。特に有利には、粒径が50μm未満の粉末形態の銀が加えられる。粉末混合物に含まれる銀フレークの量が、15重量%以下であることが好ましい。種々の銀粉末の混合物を加えて、電気化学的活性を増加させることができる。電気化学的活性の増加は、より低い電解電圧で観察される。例えば流動性または電極の機械的性質の点で粉末混合物の性質に悪影響を与えることなく、例えば導電率または電気化学的活性等の電極の電気化学的性質を向上させるような種類の銀粉末を使用することが特に有利である。
【0025】
本発明の方法によって製造されたガス拡散電極は、陽極としてガス拡散電極を用いる塩化ナトリウム溶液の電気分解に使用するのに特に適当である。陽極としてガス拡散電極を用いて塩化ナトリウム溶液を電気分解する方法は、例えばDE4444114Aにより知られている。
【0026】
実施例
Eichrichから市販されている型式R02のミキサー(混合要素として星状攪拌機を備えているミキサー)において6000rpmの回転速度でもって、7重量%のPTFE粉体、88重量%の酸化銀(I)および5重量%のフェロ(Ferro)から市販のタイプ331の銀粉体から成る3.5kgの粉末混合物を混合した。混合に際しては、混合操作を一時的に中断して粉末混合物を冷却することによって、粉末混合物の温度が55℃を越えないようにした。全部で3回混合を実施した。混合後、ローラープレスを用いて0.6kN/cmの力で粉末混合物を圧密した。それによって得られる「かさぶた状のもの」を、Eichrichミキサーを用いた3つの混合プロセスでもって再度混合に付した(混合温度が55℃を越えないように混合に付した)。その混合後、1.0mmのメッシュサイズのシーブ(又はふるい)に粉末混合物を通した。シーブを通した粉末混合物を導電性サポートに供した。サポートとしては、ワイヤー厚さが0.14mmでメッシュサイズが0.5mmのニッケル網を用いた。粉末混合物の適用は、2mm厚さの型板を用いて行った(メッシュサイズ1.0mmのシーブを用いて粉末混合物を適用した)。型板厚さよりもはみ出した余分な粉体は、ストリッパーを用いて除去した。型板を取り除いた後、ローラープレスを用いることによって、適用された粉末混合物と共にサポートを0.5kN/cmの力で押圧した。そして、得られたガス拡散電極をローラーから取り出した。
【0027】
このようにして製造したガス拡散電極を、塩化ナトリウム溶液の電気分解に用いた。4kA/mの電流密度、90℃の電解液温度(または電解質温度)、32重量%の塩化ナトリウム濃度に対して、電解槽電圧は2.10Vであった。
【0028】
例示すべく本発明を詳細に説明してきたが、そのような詳細な説明は単に例示を目的としているにすぎず、特許請求の範囲に限定され得ることを除いては、本発明の概念および範囲から逸脱することなく当業者が変更を加えることができることを理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散電極を製造する方法であって、
(a)少なくとも触媒およびバインダーを含む粉末混合物を調製すること、
(b)粉末混合物を導電性サポートに適用すること、ならびに
(c)粉末混合物を導電性サポートと共に押圧すること
を含んで成る方法。
【請求項2】
約0.01〜約7kN/cmの力でもって押圧する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ローラーによって押圧する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
散布することによって粉末混合物を適用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
約4000〜約8000rpmまたは約10〜約30m/sの速度で回転要素が回転するミキサーにて触媒とバインダーと場合により加えられる他の成分とを混合することによって、粉末混合物を調製する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
35〜80℃の温度で混合を実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
触媒が酸化銀(I)を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
バインダーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
粉末混合物が、粒径が50μm未満の粉末形態の銀を付加的に含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
導電性サポートが、金網、不織布、発泡体、織布、網状物およびエキスパンデッドメタルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
エキスパンデッドメタルが、ニッケル、銀または銀メッキされたニッケルのいずれかである、請求項10に記載の方法。

【公開番号】特開2006−328534(P2006−328534A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−139995(P2006−139995)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】