説明

ガス発生低減化された熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いた成形品

【課題】 成形時および成形品の高温使用時において発生するガス量を大幅に低減可能にしたガス発生低減化熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いた成形品を提供することにある。
【解決手段】 熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して炭素数12〜50の脂肪酸の脂肪酸エステル化合物(B)を0.1〜5重量部含有し、かつ一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)0.05〜5重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物を260℃、10分間の熱処理をして発生するガス成分をガスクロマトグラフィ/質量分析装置で分析した際に、検出される炭素数12以上の脂肪酸量が、熱可塑性樹脂組成物に対して4ppm以下であることを特徴とする発生ガス低減化熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形などの成形に用いられる熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、射出成形時に熱可塑性樹脂組成物中の添加剤が一部分解するなどしてガス状物となっても、迅速に組成物中に捕捉して、成形品の外観が悪化することを防止し、表面外観に優れ、電気部品、家電製品、自動車内装部品や外装部品、住宅設備用等の分野で塗装や金属蒸着が施されるのに好適な成形品を提供できるガス発生低減化がなされた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の金属からの樹脂化の流れにおいて、安価でかつ耐熱性を求める用途には特にポリエステルやポリアミド、ポリフェニレンサルファイドなどのエンジニアリングプラスチックが用いられる。これらの溶融成形される樹脂は、樹脂内部にモノマーやオリゴマー、添加剤として使用される低分子量成分、さらには成形時に高温に曝されるために樹脂や添加剤の分解物を含み、成形時にガス状物となり、成形品の形状不良、表面外観不良、物性不良などのさまざまな問題を引き起こすことがある。また、これらのガス成分の一部は金型に付着し金型腐食や金型曇りを引き起し、連続成形性という観点でも好ましくない。さらには、成形品が自動車部品や電子部品などとして長期間高温に曝される用途においては、成形温度以下の比較的低温においてもガスが発生し、周辺部品を汚染することがある。特に、半導体部品や透明性を求める用途においては、樹脂の低ガス化は重要な課題である。
【0003】
射出成形などの溶融成形においては、滑剤、離型剤、分散剤、防曇剤、帯電防止剤、可塑剤、アンチブロッキング剤、流動性向上剤などとして、脂肪酸エステルに代表される脂肪酸エステル化合物が汎用されるため、これらからのガス発生に対する影響を考慮する必要がある。例えば、離型剤に関していえば、分子量が5000を超えるような高分子量離型剤を用いることによりガスの発生を低減させる方法があるが、離型性が不十分で、特に複雑な形状の成形品においてはこれら高分子離型剤を単独で用いることは困難である。また、高分子量であると樹脂との相溶性が低下し、成形品の外観不良や、金型の汚染などを引き起こす場合がある。
【0004】
このため、これまで汎用されているのは高級脂肪酸金属塩や高級脂肪酸エステルなどであり、これらは良好な離型性を有するものの低分子量であるため、成形時や高温保持時におけるガス状物発生の主な原因となる。低分子量脂肪酸エステル化合物を使用しても、成形品の外観不良を低減する方法として特許文献1が知られている。しかしながら、この方法では、低酸価の脂肪酸エステル化合物を使用するものであり、成形初期の成形品に対しては効果が認められても、成形時や成形品の長期高温使用時においてあらたに発生するガス状物に対しては効果がない。成形時や高温長期使用時においても、発生ガス量が低減できる樹脂組成物が望まれている。
【特許文献1】特開2001−49104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み創案されたものであり、その目的は、成形時および成形品の高温使用時において、発生するガス量を大幅に低減可能にしたガス発生低減化熱可塑性樹脂組成物、およびそれを用いた成形品を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して炭素数12〜50の脂肪酸の脂肪酸エステル化合物(B)を0.1〜5重量部含有し、かつ一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)0.05〜5重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物を260℃、10分間の熱処理をして発生するガス成分をガスクロマトグラフィ/質量分析装置で分析した際に、検出される炭素数12以上の脂肪酸量が、熱可塑性樹脂組成物に対して4ppm以下であることを特徴とする発生ガス低減化熱可塑性樹脂組成物。
(2)一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)が、熱可塑性樹脂に反応してなる(1)に記載の発生ガス低減化熱可塑性樹脂組成物。
(3)一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)が、脂肪族又は脂環族のポリカルボジイミド化合物である前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)ポリカルボジイミドの末端にイソシアネート基を有する前記(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)ポリカルボジイミド化合物が、数平均分子量が500〜10000でカルボジイミド基量が100〜10000当量/トンである前記(3)又は(4)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)熱可塑性樹脂が、ポリエステルである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7)脂肪酸エステル化合物の初期酸価が60当量/トン未満である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(8)脂肪酸エステル化合物が、1分子中に4つ以上のエステル結合を有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(9)脂肪酸エステル化合物が、ペンタエリスリトールポリアルキレート又はジペンタエリスリトールポリアルキレートである(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(10)前記(1)〜(9)のいずれかの熱可塑性樹脂組成物より得られた成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、成形時、さらには成形品が高温に長時間曝されて脂肪酸エステル分解物である低分子量カルボン酸化合物や水酸基含有化合物が発生しても、これらの化合物を迅速に組成物中に捕捉することができるため、成形時や成形品の使用時に発生して組成物外へ放出されるガス量を大幅に低減することが可能である。
このため、成形時の成形品の外観が優れるのみならず、成形品が高温環境下で長時間使用される場合においても、成形品の外観悪化を抑制することができる。
したがって、本発明の樹脂組成物は、塗装や金属蒸着が施される優れた表面外観が要求される成形品用に好適である。電気部品、家電製品、自動車内装部品や外装部品、ランプ部品、住宅設備用等の分野で好適なガス発生低減化熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマーに代表されるポリエステル、ポリアリレート、液晶性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリウレタン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6T系に代表されるポリアミド、ポリアミドイミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、各種エラストマー等が挙げられるがこれに限定されない。また、これらは単独使用だけでなく、ポリマーブレンドや共重合したものを使用しても良い。なかでも自動車や電子部品の耐熱性を必要とする用途においては、熱可塑性樹脂としてポリエステルやポリアミドが幅広く用いられる。
【0009】
ポリエステルの構成成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくはそのアルキルエステル、酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族多価カルボン酸等があげられる。
【0010】
ポリエステルのポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1、4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、1,9−ノナンジオール、2−メチルオクタンジオール、1,10−デカンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ダイマージオール、ポリカーボネートグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルグリコール等が上げられる。ポリエーテルグリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、およびそれらの共重合体、さらにはこれらアルキレングリコールにネオペンチルグリコールやビスフェノールAなどのジオール、ジフェノールなどを共重合したものもあてはまる。
【0011】
ポリエーテルグリコールの数平均分子量としては400〜10000のものが望ましい。好ましい下限は600、より好ましくは800である。さらには、ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシイソブタン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸およびその環状二量体などが上げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンナフタレートおよびこれらの共重合品、もしくは少量のイソフタル酸を共重合した結晶性ポリエステル、およびポリアリレート、PET−G(ポリエチレンテレフタレートとポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートの共重合)などの非晶性ポリエステルが好ましい。
【0012】
ポリアミドのアミン成分としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ベンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、ヘキサデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどのような芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等があげられる。
【0013】
ポリアミドの酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくは酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族多価カルボン酸等があげられる。また、ε−カプロラクタムなどのラクタム、アミノウンデカン酸やアミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などがあげられる。
特に、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカンアミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカンアミド(ナイロンPACM12)、Tgが100℃以上の透明ナイロンおよびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミドなどが好ましい。
【0014】
本発明で用いる脂肪酸エステル化合物は、滑剤、離型剤、乳化剤、分散剤、防曇剤、帯電防止剤、可塑剤、アンチブロッキング剤、流動性向上剤、潤滑油用などに用いられる脂肪酸エステル、脂環族エステル、芳香族エステル、さらにはこれらのポリエステルなど挙げられる。特に、射出成形においては、脂肪酸エステル化合物は優れた離型性を有することから幅広く利用されている。しかしながら、この離型剤からの発生ガスは非常に多く、離型剤由来のガス量を抑制することは、高品質な射出成形品を得る上で非常に重要である。
【0015】
脂肪酸エステル化合物の組成としては、例えば、ポリオール成分としては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン化合物、メタノール、イソプロピルアルコールなどに炭素数が2〜35の飽和および不飽和モノアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の炭素数2〜35の飽和および不飽和アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンソルビトール、ポリオキシエチレンビスフェノールA等が挙げられる。これらは単独、共重合、ブレンドのいずれの状態で用いても良い。中でも、多官能であり、分子量が比較的高いペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンソルビトール、グリセリン化合物が好ましい。
【0016】
また、酸成分としては、ブタン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、オクタドコサン酸(モンタン酸)などに代表される炭素数が2〜35までの飽和および不飽和脂肪酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、アジピン酸などの飽和および不飽和ポリカルボン酸などが挙げられる。これらは単独、ブレンドのいずれの状態で用いても良い。なかでも、炭素数12以上、好ましくは17以上、さらに好ましくは20以上の脂肪酸が成形用樹脂の機能性を発現させるために好ましい。炭素数が多くなるにつれ、それ自体の揮発が抑制される。さらに、本特許では炭素数12以上の脂肪酸を一層低減することを特徴としている。また、脂肪酸カルシウム塩などの金属塩を用いても良い。また、これらは、一つのエステル化合物から構成されても良いし、数種のエステル化合物を組み合わせたものでも良い。
【0017】
本発明で用いる脂肪酸エステル化合物の酸価は、60当量/トン以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/トン以下、さらに好ましくは5当量/トン以下、最も好ましくは3当量/トン以下である。本発明における酸価は、測定試料(脂肪酸エステルを含有する化合物)0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、測定試料1ton中の当量(当量/トン)である。
脂肪酸エステルを含有する化合物の場合、酸価の大部分はエステル化合物の構成成分である酸成分の遊離物である可能性が高く、酸価が60当量/トンを超えると、射出成形時や、その後の高温での環境下において遊離の酸が揮発しガスとなり、金型汚染や周辺の部材を汚染する可能性がある。酸価の低減手法においては、脂肪酸エステル化合物の作製時に反応時間を長くする、または反応後に未反応物を溶剤や真空により除去する、または水酸基以外で酸と反応する化合物を添加することにより遊離の酸をトラップする手法などが挙げられる。
【0018】
本発明で用いる脂肪酸エステル化合物の数平均分子量としては、好ましくは500以上10000以下である。より好ましくは1000以上3000以下である。ここでいう数平均分子量は、脂肪酸エステル化合物の構造式から理論的に算出した値であり、遊離酸成分、遊離ポリオール成分は含まない。また、脂肪酸エステル化合物が数種含まれる場合は、それらの平均値を指す。分子数平均分子量が500未満であると、エステルを含む化合物自体が揮発しやすくなるため好ましくない。また数平均分子量が5000を超えると、化合物のモビリティーの低下から離型性等の機能が発現しなかったり、熱可塑性樹脂との相溶性が低下しブリード等の問題が生じることがある。
脂肪酸エステル化合物の融点としては、特に制限されないが、取り扱いやすさから、30℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。この融点は、示唆走査熱量計を用い20℃/分で昇温した際に得られる融解ピークのピークトップから求めた値である。
【0019】
以上の観点から鋭意に検討した結果、本発明で用いる脂肪酸エステル化合物中の主成分としては、ジペンタエリスリトールペンタアルキレートもしくはジペンタエリスリトールヘキサアルキレートであることが好ましい。さらに具体的にはジペンタエリスリトールペンタステアレートもしくはジペンタエリスリトールヘキサステアレートが最も好ましい。なお、ここでいう主成分とは、エステル化合物中で、重量で最も多く含まれるエステル化合物を指す。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、260℃10分間の熱処理で発生するガス成分に含まれる炭素数12以上の脂肪酸量が樹脂量に対し4ppm以下である。260℃10分間のガス成分の分析はガスクロマトグラフィー/質量分析装置を用い以下のような条件で測定を行なった。測定は、GLチューブ空管(内径4mm:GLサイエンス社製)に、石英ウールと試料5〜10mgを入れ、加熱発生ガス濃縮導入装置(TCT CP−4020:GLサイエンス社製)にセットした。チューブ管を260℃で10分間加熱し、Heパージにて発生ガスをGC/MS(HP−6890/HP−5973:Agilent社製)へ導入した。GC/MS測定は、HP−1MSカラム(長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm:Agilent製)を使用し、オーブン温度プログラムは50℃(2分間保持)−280℃(10分間保持)、15℃/分とした。また、Tenax−TAを充填したGLチューブ(内径3mm:GLサイエンス社製)に真空瓶で希釈したトルエンを添加し、試料と同様に測定することで検量線を作成した。検出成分は全てトルエン換算にて定量を行なった。ガス量の比較には、脂肪酸エステル化合物由来と考えられる炭素数12以上の脂肪酸の和より行なった。炭素数12以上の脂肪酸を含むガスは冷却される際、結晶化し、射出成形において金型等を汚染しやすい。また、炭素数12以上の脂肪酸は、界面活性剤として働きやすく、金属やガラス、防曇処理されたプラスチック成形品に付着した場合、表面を疎水化し、油等の付着を促進する場合がある。したがって炭素数12以上の脂肪酸を低減することは、射出成形時の金型汚染およびその後の高温使用時における周辺汚染の低減に非常に有効である。
【0021】
本発明は、さらに一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物を含有させることにより、低ガス化が促進される。本発明における一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物とは、脂肪酸エステルの分解時に生じるカルボン酸化合物や水酸基含有化合物を捕捉する特性を発揮できる化合物である。
脂肪酸エステル化合物の分解により生じる脂肪酸などの遊離のカルボン酸化合物および水酸基含有化合物はガスの発生に大きく影響することから、添加する化合物としては、カルボン酸および水酸基と速やかに反応する化合物が好ましい。これらを添加する主目的は、脂肪酸エステル化合物中に含まれる遊離酸や遊離水酸基含有化合物、後の熱処理過程や高温下使用時で発生した遊離酸や遊離水酸基含有化合物を即座に補足し、揮発を防ぐことである。特に、遊離カルボン酸は、比較的低温で揮発し、かつその揮発物が結晶化し、最終製品の外観を損なうことが多いことから、遊離カルボン酸の捕捉は極めて重要である。カルボン酸と反応する官能基としては、グリシジル基、オキサゾリン基、オキセタン基、カルボジイミド基などが挙げられる。しかし、一般のグリシジル基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、オキセタン基含有化合物は反応が速やかでなく、また、水酸基と反応する官能基との共存が困難な場合もあり、さらには化合物自体の揮発が激しいため今回の目的のためへの使用は困難な場合が多い。一方、カルボジイミド化合物はグリシジル基、オキサゾリン基、オキセタン基に比べ反応が速やかであり、遊離カルボン酸を捕捉のための使用に非常に好ましい。水酸基と反応する官能基としては、カルボン酸と反応する官能基とは異なるものであり、例えばイソシアネート基、酸無水物基等が挙げられるが、反応性の観点からイソシアネート基が特に好ましい。鋭意に検討した結果、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物としては、一分子中にカルボジイミド基とイソシアネート基を有する化合物が最も好ましい。
また、カルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを一分子中に含有させる目的は、これら官能基が熱可塑性樹脂及び脂肪酸エステル分解物の両方への反応が容易となり、分子量の大きい熱可塑性樹脂と分解物が反応性化合物で繋がることで、脂肪酸エステル分解物の揮発を大幅に低減することが可能であるためである。したがって、熱可塑性樹脂としては、カルボン酸を含有するものが好ましく、特にポリエステルやポリアミドが好ましい。これらの樹脂の場合、加水分解抑制、増粘などの効果も付与でき、樹脂組成物としての加工性向上、耐久性向上などの効果を発現させることも可能である。
【0022】
本発明で用いられるカルボジイミド基を含有する化合物としては、特に限定されないが、脂肪族系カルボジイミド、脂環族系カルボジイミド、芳香族系カルボジイミドおよびこれらの共重合物を使用できる。例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミドなどのモノカルボジイミド、一分子内に−N=C=N−の構造を2つ以上有するポリカルボジイミド、末端にイソシアネート基を有するモノカルボジイミド、末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド等が上げられる。ポリカルボジイミドは、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により作製される公知のものを使用できる(米国特許第2941956号、特公昭47−3279号公報、J.Org.Chem.,28,2069〜2075(1963)、Chemical Review 1981、Vol.81,No.4,619〜621参照)。
【0023】
本発明で用いられるジイソシアネートとしては、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−ジイソシアネートなどを単独または二種以上を共重合させ使用することが出来る。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入しても良い。さらに末端のイソシアネートを一部もしくは全部を封鎖させることにより重合度の制御および、末端イソシアネートを封鎖できる。末端封鎖剤としては、フェニルイソシアネート、トリスイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物、−OH基、−COOH基、−SH基、−NH−R(Rは水素原子またはアルキル基)などを有する化合物を用いることが出来る。末端のイソシアネートを全部封鎖した場合は、イソシアネート基とは異なる水酸基反応性基を導入する必要がある。市販の製品として、ラインケミー(株)製のスタバックゾールシリーズ、日清紡(株)製のカルボイライトシリーズ、三井武田ケミカル社製のコスモネートLK、コスモネートLL、BASF INOAC ポリウレタン社製のルプラネートMM−103等が挙げられる。なかでも、炭素数12以上の脂肪酸との相溶性の観点から、脂肪族もしくは脂環族構造からなるポリカルボジイミドを使用することが好ましい。芳香族系ポリカルボジイミドであると、炭素数12以上の脂肪酸との相溶性が悪く、カルボジイミド基と脂肪酸が効率よく反応できず効果が低減する。
【0024】
一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物としては揮発性の観点から高分子量がよく、数平均分子量として200以上、好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上である。また、カルボン酸反応性基数についても特に限定されないが、反応性の観点から100当量/トン以上が好ましく、より好ましくは500当量/トン以上、さらに好ましくは1000当量/トン以上である。水酸基反応性基としては、1当量/トンである。
【0025】
また、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物の添加量に関しては、反応性により異なるが、系の安定性から熱可塑性樹脂に対し0.05重量%以上5重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以上1重量%以下である。0.05重量%未満であると、脂肪酸エステル分解物の捕捉能が十分でなく、一方5重量%を超えると、官能基が過剰であり熱可塑性樹脂がゲル化する可能性がある。理論的には、脂肪酸エステル化合物の分解物を捕捉すればよいわけであるから、脂肪酸エステル化合物のエステル基量A(当量/トン)、その添加量B部、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物の官能基量の和C(当量/トン)、その添加量D部とした時に、100>C×D/A×B>0.1であることが好ましい。C×D/A×B<0.1であると、脂肪酸エステル化合物に対し反応性化合物が少なすぎるため、脂肪酸エステル化合物から発生する遊離酸と十分に反応が進まず、ガス発生の抑制効果が現れない。一方、C×D/A×B>100であると、過剰な反応性化合物が熱可塑性樹脂中に含まれるため、熱安定性の低下などを引き起こす。以上の観点から、脂肪酸エステル分解物の捕捉速度が速く、高分子量体であるポリカルボジイミドが最も好ましく、特に取り扱いやすさの点から数平均分子量が500〜10000でカルボジイミド基量が100〜10000当量/トンであるものが好ましい。
【0026】
本発明における樹脂組成物には、補強繊維、ウィスカー、発泡剤、着色材、離型剤、フィラー、衝撃改良剤、安定剤、難燃剤等を添加したものを用いてもよい。
補強繊維としては、カーボンファイバー、ガラスファイバー、金属ファイバー、セラミックファイバー、有機繊維などがあげられる。補強繊維の添加により、接合時の樹脂のそりが低減し、良好な接合を得ることができる。
着色剤としては、カーボンブラック、酸化チタンやその他顔料や染料が挙げられる。
離型剤としては、アマイド系離型剤、パラフィン系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤などが挙げられる。
フィラーとしては、補強用フィラーや導電性フィラー、磁性フィラー、難燃フィラー、熱伝導フィラーなどがあげられる。具体的にはガラスビーズ、ガラスフレーク、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
衝撃改良剤しては、各種エラストマー、ゴム、コアシェル粒子などが挙げられる。これらは、熱可塑性樹脂との相溶性を高めるために、酸変性処理をしていても構わない。
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤、金属不活性化剤などが挙げられる。
難燃剤としては例えば、ペンタジブロモトルエン、臭素化フェニルメタクリル酸エステル、2,4−ジブロモフェノール等の臭素系難燃剤や臭素系難燃助剤である三酸化アンチモンやリン酸エステル、リン酸アミド、有機フォスフィンオキサイド等の有機リン系難燃剤や赤燐やポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水和金属系難燃剤、その他無機系難燃剤等が挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用ではなく、数種を組み合わせて用いても良い。
【0027】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂、脂肪酸エステル化合物及びその他の添加剤を単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて溶融混錬するか、または、熱可塑性樹脂を有機溶剤、または水を溶媒として容器内で攪拌し、溶液、または分散体とする方法が挙げられる。溶融混錬等による混合の場合、引き続き造粒工程によりペレット化するか、もしくは直接被着材に塗布することが可能である。また、攪拌による溶液、分散体を製造した場合も直接被着体に塗布することができる。このうち最も好ましい製造装置は、二軸スクリュー方式による押出し機である。
【0028】
本発明は、これら樹脂組成物を用い射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形などにより得られた成形品を含む。なかでも、射出成形への利用が好ましい。射出成形は、樹脂組成物と金型との接触時間が長く、また、成形品がさまざまな環境で使用される可能性が高いためガスによる不良の低減が顕著に現れる。また、得られた射出成形品は、高温環境下でもガスの発生が少なく、周辺部材の汚染を防ぐことが可能である。さらに、ガスによる表面不良が発生しないため、成形品の表面は極めて平滑であり、成形品表面にアルミニュウム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類やSiO、TiO、ZrO、Alなどの酸化物などの蒸着を行なった場合、きわめて良好な外観を得ることができる。
使用用途としては、例えば、自動車用途では、リフレクター材やエクステンション材などのランプ周辺、エンジン周り、内装材などで耐フォギング性能の改善が可能であり、電子材料ではシリコンウェハーへの汚染低減が可能である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明の樹脂組成物について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
実施例中に単に部とあるのは重量部を示す。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0030】
(1)260℃10分間の熱処理中の発生ガスに含まれる炭素数12以上の脂肪酸量の測定:
炭素数12以上の脂肪酸量の測定にはガスクロマトグラフィー/質量分析装置(GC/MS)より求めた。条件は以下の通りである。GLチューブ空管(内径4mm:GLサイエンス社製)に、石英ウールと試料5〜10mgを入れ、加熱発生ガス濃縮導入装置(TCT CP−4020:GLサイエンス社製)にセットした。チューブ管を260℃で10分間加熱し、Heパージにて発生ガスをGC/MS(HP−6890/HP−5973:Agilent社製)へ導入した。GC/MS測定は、HP−1MSカラム(長さ30m、内径0.25mm、膜厚1.0μm:Agilent製)を使用し、オーブン温度プログラムは50℃(2分間保持)−280℃(10分間保持)、15℃/分とした。また、Tenax−TAを充填したGLチューブ(内径3mm:GLサイエンス社製)に真空瓶で希釈したトルエンを添加し、試料と同様に測定することで検量線を作成した。検出成分は全てトルエン換算にて定量を行なった。ガス量の比較には、脂肪酸エステル化合物由来と考えられる炭素数12以上の脂肪酸の和と分析装置内に仕込んだ樹脂量から揮発脂肪酸量を求めた。
【0031】
(2)酸価:
測定試料(脂肪酸エステル化合物もしくは樹脂組成物)0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、試料1ton中の当量(当量/トン)より求めた。
(3)熱重量分析(TGA):
熱重量減少率を測定するために、熱質量分析装置EXSTAR6000(セイコーインスツルメント社製)を使用した。測定は、サンプル10mgをアルミパン中に入れ、窒素雰囲気下で10℃/分の速度で450℃まで昇温した。
【0032】
(4)脂肪酸エステル化合物:
表1に示した化合物を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
〔実施例1、比較例1〕
ポリブチレンテレフタレート(東洋紡績社製GT−430)98.2部、表1中Aに示すペンタエリスリトールテトラアルキレート(酸価2当量/トン、アルキレートの主炭素数=18)0.5部、カルボジライトLA−1(末端にイソシアネート基を有する脂環族ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド基量4050当量/トン、日清紡社製)1.0部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部を予め混合させ、同方向2軸押出機を用い、シリンダー温度240℃でコンパウンドを行ない、得られたストランドは水冷し、ペレット化した。その後、130℃で4時間乾燥したものを、射出成形機EC100(東芝機械社製)を用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、サイクルタイム40秒で、100mm×100mm×3mm厚みの平板を射出成形し、そこから切り出したサンプルからガス量の測定を行なった。得られた測定結果を表2に示した。
なお、比較のために、実施例1と同様にポリカルボジイミド化合物を配合しないことだけが異なるペレット(比較例1)を得て、実施例1と同様にガス量の測定を行なった。得られた測定結果を表3に示した。
実施例1のGC/MSによる炭素数12以上の脂肪酸揮発量測定では検出されず、活性水素基反応性化合物を含まない比較例1と比較し極めてガス量の少ない結果が得られた。
【0035】
[実施例2〜6、比較例2〜11]
実施例2〜6は、実施例1で使用された脂肪酸エステル化合物Aを表1中のBからFのいずれかに変更し、実施例1と同様の手法でコンパウンドからガス量の測定まで行なった。得られた測定結果を表2に示した。
比較例2〜6は、それぞれ実施例2〜6と同種の脂肪酸エステルを含有するものの反応性化合物を含まない場合であり、その測定結果を表3に示した。同種の脂肪酸エステルで比較した場合、実施例のように反応性化合物を含有させることで、極めてガス量を少なくできることが理解できる。
比較例7〜10は、一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを同時に含まない化合物に変更した場合であるが、実施例と比較し高いガス量を示した。また、比較例11では、芳香族系ポリカルボジイミドを用いた結果をしたが、低ガス化効果はあるものの脂肪族ポリカルボジイミドや脂環族ポリカルボジイミドと比べ、低ガス化の効果は小さかった
【0036】
[実施例7]
ナイロン6(東洋紡績社製T−800)98.2部、表1中Aに示すジペンタエリスリトールテトラアルキレート(酸価56当量/トン、アルキレートの主炭素数=18)0.5部、カルボジライトLA−1を1部、酸化防止剤としてイルガノックス245(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.3部を予め混合させ、同方向2軸押出機を用い、シリンダー温度240℃でコンパウンドを行ない、得られたストランドは水冷し、ペレット化した。その後、100℃で8時間乾燥し前記の形状に射出成形し、ガス量の測定を行なった。その結果を表2の実施例7に示した。GC/MSによる炭素数12以上の脂肪酸揮発量測定ではGC/MSによる脂肪酸揮発量測定では検出されず、反応性化合物を含まない比較例12と比較し極めてガス量の少ない結果が認められた。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
脂肪酸エステル分解物であるカルボン酸化合物や水酸基含有化合物が反応性化合物と反応していることはNMRより確認可能であったが、反応性化合物の低ガス化への効果をより明確にするために、以下の確認実験を実施した。
すなわち、脂肪酸エステル単独、および脂肪酸エステル95部に反応性化合物(カルボジライトLA−1を使用)5部を混合させたものをそれぞれ熱処理し、脂肪酸エステル化合物が反応性化合物の有無でガス発生にどのように影響しているか確認した。
すなわち、評価方法としては、30mlのガラス瓶に評価サンプル10gを入れ、容器上部をアルミ箔で覆ったのち、180℃のオーブンで24時間熱処理した。次いで、熱処理物中の遊離脂肪酸量を測定するために酸価を測定し、揮発性ガス量を比較するために熱質量分析によって、熱重量減少が1%になる温度(℃)を求めた。その評価結果を表4に示した。
なお、参考例1は脂肪酸エステルにカルボジライトLA−1を配合し180℃で24時間熱処理したものの評価結果、参考例2は、脂肪酸エステル単独を180℃で24時間熱処理したものの評価結果、参考例3は、初期の脂肪酸エステル単独(熱処理前)での評価結果である。
【0040】
【表4】

【0041】
参考例2の反応性化合物を含まない場合、熱処理によって脂肪酸エステルは分解し、熱処理前(参考例3)に比べ酸価の増加、1%重量減少温度の低下が顕著である。
一方、参考例1の反応性化合物を含む場合は、熱処理前(参考例3)に比べても酸価が減少し、1%重量減少温度が上昇している。このことは、反応性化合物が脂肪酸エステル化合物の分解によって生じた遊離脂肪酸と迅速に反応していること、しかもこの状態が長期間にわたって保持できることを示している。
したがって、反応性化合物を脂肪酸エステル化合物含有樹脂組成物中に含有させることによって、脂肪酸エステルの化合物の分解物を捕捉し、脂肪酸エステル化合物含有樹脂組成物の低ガス化、実質上の熱安定化を実現していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の樹脂組成物は、脂肪酸エステル化合物を含有していても、成形時や成形品の使用時に発生して組成物外へ放出されるガス量を大幅に低減することが可能であるため、優れた表面外観及びその長期保持性が要求される塗装や金属蒸着が施されるに成形品用に好適であり、電気部品、家電製品、自動車内装部品や外装部品、住宅設備用等の分野で好適に利用でき、産業上、寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して炭素数12〜50の脂肪酸の脂肪酸エステル化合物(B)を0.1〜5重量部含有し、かつ一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)0.05〜5重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物を260℃、10分間の熱処理をして発生するガス成分をガスクロマトグラフィ/質量分析装置で分析した際に、検出される炭素数12以上の脂肪酸量が、熱可塑性樹脂組成物に対して4ppm以下であることを特徴とする発生ガス低減化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)が、熱可塑性樹脂に反応してなる請求項1に記載の発生ガス低減化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
一分子中にカルボン酸基反応性基と水酸基反応性基とを有する化合物(C)が、脂肪族又は脂環族のポリカルボジイミド化合物である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカルボジイミドの末端にイソシアネート基を有する請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカルボジイミド化合物が、数平均分子量が500〜10000でカルボジイミド基量が100〜10000当量/トンである請求項3又は4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリエステルである請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸エステル化合物の初期酸価が60当量/トン未満である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
脂肪酸エステル化合物が、1分子中に4つ以上のエステル結合を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
脂肪酸エステル化合物が、ペンタエリスリトールポリアルキレート又はジペンタエリスリトールポリアルキレートである請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの熱可塑性樹脂組成物より得られた成形品。

【公開番号】特開2009−298827(P2009−298827A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151412(P2008−151412)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】