説明

ガス発生器およびガス発生器用フィルタ

【課題】部品点数が少なく軽量化が図られるとともにフィルタの全領域を有効に活用することができ、またエアバッグの損傷が防止できるガス発生器を提供する。
【解決手段】ガス発生器1Aは、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなる軸方向の両端が閉塞されてなるハウジングと、イニシエータシェル10に取付けられた点火器30と、ハウジングの周壁部22を取り囲むようにハウジングの外部に配設されたフィルタ50Aとを備える。フィルタ50Aは、径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成される。フィルタ50Aの内側層は、ガス拡散領域として機能する第1開口部52を有し、フィルタ50Aの外側層は、ガス冷却領域として機能する第2開口部および間隙部を有する。また、フィルタ50Aの外側層の最外層に設けられた第2開口部は、作動ガスを外部に噴出するためのガス噴出口として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に組み込まれるガス発生器および当該ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタ(以下、単にフィルタとも称する)に関し、より特定的には、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器および当該ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニット(作動器)からの通電によって点火器(スクイブ)を発火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。なお、エアバッグ装置は、たとえば自動車のステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に装備される。
【0003】
ガス発生器には、種々の構造のものが存在するが、特にステアリングホイール等に装備される運転席側エアバッグ装置に好適に利用されるガス発生器として、いわゆるディスク型ガス発生器がある。ディスク型ガス発生器は、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有し、ハウジングの周壁部にガス噴出口が設けられるとともにハウジングの内部にガス発生剤や伝火薬、点火器、フィルタ等が収容されてなるものである。
【0004】
このうち、フィルタは、ガス発生剤が燃焼することによって生成される作動ガスを冷却するとともに、当該生成された作動ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を効果的に捕集するためのものであり、通常はガス発生剤が収容された燃焼室を取り囲むようにハウジングの内部に収容される。
【0005】
ここで、ガス発生剤を確実に燃焼させるためには、ガス発生剤を高圧環境下に置くことが必要であるため、作動時における燃焼室の内圧が適度に上昇することとなるように、ハウジングに設けられるガス噴出口の開口面積は、ある程度小さく絞ることが必要である。そのため、フィルタをハウジングの内部に収容した場合には、作動ガスの流動方向に沿ってフィルタの下流側に開口面積の小さいガス噴出口が位置することになるため、作動ガスがガス噴出口に向けて集中するようにフィルタ内を流動することになり、必ずしもフィルタの全領域を有効に活用できていない問題があった。
【0006】
また、フィルタをハウジングの内部に収容した場合には、フィルタを収容する分だけハウジングの外形が大きくなってガス発生器全体としての重量が増加してしまうといった問題や、ガス発生剤の着火の際に点火器および伝火薬にて生じる熱の一部がフィルタに吸収されて着火効率が低下してしまうといった問題も生じてしまう。
【0007】
これらの問題を解決する一つの手法として、フィルタをハウジングの外部に配設することが考えられる。たとえば、特開平9−39715号公報(特許文献1)には、ハウジングの周壁部に連通孔を設け、当該連通孔が設けられた周壁部を覆うように中空円筒状のフィルタを配置した構成のガス発生器が開示されている。ここで、当該特許文献1に開示のガス発生器においては、フィルタとして、繊維を絡み合わせてなる繊維体を数層にわたって重ね合わせたものを中心に置き、その積層繊維体の径方向内側および外側に金網を数層にわたって巻き付けてなるものが使用されており、当該フィルタの径方向外側には、さらにステンレス鋼板からなる帯状部材が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−39715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示のガス発生器においては、ハウジングの外部に配置されたフィルタが積層繊維体および金網を積層配置してなるものにて構成されているため、それ自体は作動ガスの流れを規制する機能をほとんど有しておらず、そのため効率よくフィルタを使用するために、フィルタの外表面の大部分を上記帯状部材で覆うことによって作動ガスの進路を変えて作動ガスをフィルタ中において拡散させ、これにより作動ガスを冷却することとしている。この場合には、上述した帯状部材でフィルタの外表面の大部分を覆うことが必須となり、部品点数の増加およびこれに伴う組立工数の増加が避けられないこととなってしまう。
【0010】
また、上記特許文献1に開示のガス発生器においては、上述したように、ハウジングの外部に配置されるフィルタが積層繊維体および金網を積層配置してなるものにて構成されているため、当該フィルタが比較的機械的強度の低いものとなり、ハウジングの周壁部に設けられた連通孔から放出される作動ガスの圧力によって当該フィルタが径方向外側に向けて変形するおそれが生じてしまう。そのため、この圧力によるフィルタの変形を防止すべく、上記帯状部材をフィルタの径方向外側に配置することが必須となり、その結果フィルタの外表面の多くの部分が当該帯状部材によって覆われることとなる。ここで、当該フィルタの外表面は、作動ガスを外部に噴出するためのガス噴出口として機能することになるが、当該フィルタの外表面の大部分が帯状部材によって覆われることとなるため、当該ガス噴出口として機能する部分の面積が大幅に小さくなってしまう。したがって、上記特許文献1に開示のガス発生器においても、作動ガスの流動方向に沿ってフィルタの下流側に開口面積の小さいガス噴出口が位置することになるため、フィルタ内を流動する作動ガスがフィルタの一部領域に集中してしまうことになり、必ずしもフィルタの全領域を有効に活用できているとは言えないこととなってしまう。
【0011】
加えて、上記特許文献1に開示のガス発生器においては、上述した理由により、作動ガスが局所的に高い指向性をもって噴出されることとなってしまうため、特にエアバッグの展開の初期段階においてエアバッグに局所的に高温の作動ガスが吹き付けられることによりエアバッグが損傷してしまうおそれもある。これを防止するためには、エアバッグの作動ガスが吹き付けられる部分を予め補強しておく等の対策が必要になってしまい、その結果エアバッグの部品点数の増加等にもつながってしまう。
【0012】
したがって、本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたものであり、部品点数が少なく軽量化が図られるとともにフィルタの全領域を有効に活用することができ、またエアバッグの損傷が防止できるガス発生器およびガス発生器用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に基づくガス発生器は、ハウジングと、点火手段と、フィルタとを備えている。上記ハウジングは、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含む金属製の部材にて構成され、軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部と、連通孔が設けられた円筒状の周壁部とを有している。上記点火手段は、上記燃焼室に面するように上記底板部に取付けられている。上記フィルタは、上記周壁部を取り囲むように上記ハウジングの外部に配設された中空円筒状の部材からなり、金属製の板状部材を径方向に沿って積層することで当該径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成されている。上記複数の層のうちの内側層は、上記連通孔に対面する部分に設けられた第1開口部を含んでいる。上記複数の層のうちの外側層は、上記第1開口部よりも各々の開口面積が小さい複数の第2開口部および当該複数の第2開口部の各々の周縁に形成された突出部を含んでいる。上記外側層の間には、上記突出部が位置することによって上記複数の第2開口部同士を互いに連通する間隙部が設けられている。ここで、上記外側層のうちの最外層に設けられた上記複数の第2開口部は、作動ガスを外部に噴出するためのガス噴出口を構成している。
【0014】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記連通孔から放出された作動ガスを拡散させるためのガス拡散領域を上記第1開口部が主として構成し、上記ガス拡散領域にて拡散された作動ガスを冷却しつつ当該作動ガスを通過させるためのガス冷却領域を上記複数の第2開口部および上記間隙部が構成していることが好ましい。
【0015】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記フィルタが、上記内側層のうちの最内層が上記周壁部に圧入されることによって上記ハウジングに固定されていることが好ましい。
【0016】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記第1開口部が、上記板状部材を一部除去することで形成された孔であるとともに、上記第2開口部および上記突出部が、上記板状部材を塑性変形することで形成された孔および突起であることが好ましい。
【0017】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記フィルタが、単一の金属製の板状部材を巻き回すことによって構成されていることが好ましい。
【0018】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記天板部および上記底板部のうちのいずれか一方が、径方向に沿って上記周壁部よりも外側にまで達する延設部を有していることが好ましく、その場合には、上記フィルタの一方の軸方向端部が、上記延設部に当接していることが好ましい。
【0019】
上記本発明に基づくガス発生器は、上記フィルタの他方の軸方向端部に当接する押さえ部材をさらに備えていることが好ましく、その場合には、上記フィルタが、上記延設部と上記押さえ部材とによって挟持されていることが好ましい。
【0020】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記フィルタが、当該フィルタの軸方向端部を上記延設部および上記押さえ部材に当接させることで閉塞されていてもよい。
【0021】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記フィルタが、当該フィルタの軸方向端部を屈曲または湾曲させることで閉塞されていてもよい。
【0022】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記外側層のうちの最内層の、上記フィルタの径方向に沿って上記第1開口部を介して上記連通孔に対面する部分に、上記第2開口部が設けられていない隔壁部が位置していることが好ましい。
【0023】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記複数の第2開口部の各々の開口面積が、上記フィルタの径方向に沿って内側から外側に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されていることが好ましい。
【0024】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記複数の第2開口部の各々の開口面積が、上記フィルタの軸方向に沿って異なるように構成されるとともに、上記フィルタの径方向に沿って異なるように構成されていることが好ましい。
【0025】
本発明に基づくガス発生器用フィルタは、円柱状の外形を有するガス発生器のハウジングの周壁部を取り囲むように当該ハウジングの外部に配設される中空円筒状のものであって、金属製の板状部材を径方向に沿って積層することで当該径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成されている。上記複数の層のうちの内側層は、第1開口部を含んでおり、上記複数の層のうちの外側層は、上記第1開口部よりも各々の開口面積が小さい複数の第2開口部および当該複数の第2開口部の各々の周縁に形成された突出部を含んでいる。上記外側層の間には、上記突出部が位置することによって上記複数の第2開口部同士を互いに連通する間隙部が設けられている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、部品点数が少なく軽量化が図られるとともにフィルタの全領域を有効に活用することができ、またエアバッグの損傷が防止できるガス発生器およびガス発生器用フィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器およびの模式断面図である。
【図2】図1に示すフィルタの概略斜視図である。
【図3】図1に示すフィルタの模式展開図である。
【図4】図1に示すフィルタの表面部分の拡大斜視図である。
【図5】図1に示す領域Vの拡大模式断面図である。
【図6】第1変形例に係るフィルタの模式展開図である。
【図7】第2変形例に係るフィルタの模式展開図である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図である。
【図10】本発明の実施の形態4におけるガス発生器の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれる、いわゆるディスク型ガス発生器および当該ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用した場合を例示するものである。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器および当該ガス発生器に具備されたガス発生器用フィルタの構造について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に各種の構成部品が収容されている。ハウジングは、それぞれが有底筒状に形成されたイニシエータシェル10およびクロージャシェル20を組み合わせることによって形成されている。より具体的には、イニシエータシェル10は、底板部11と立設部12とを有しており、クロージャシェル20は、天板部21と周壁部22とを有しており、クロージャシェル20の開口端がイニシエータシェル10の底板部11に当接するように組み合わされることにより、その内部に各種の構成部品が収容される空間が形成されている。
【0031】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、いずれもステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成される。より具体的には、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、それぞれ一枚の板状または一片のブロック状の金属部材から、各部分に相当する金型等を使用して鍛造加工、絞り加工、プレス加工等を組み合わせることによって加圧流動の繰り返しによって成形される。また、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20の接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用される。
【0032】
イニシエータシェル10の底板部11の略中央部には、保持部13が形成されている。この保持部13は、点火器30が挿入されることで当該点火器30を保持するための部位である。具体的には、保持部13に設けられた開口に点火器30の端子ピン32が挿通するように点火器30が保持部13にイニシエータシェル10の内側から取付けられ、この状態において保持部13の先端に設けられたかしめ部14aを点火器30側に向けてかしめることにより、点火器30がイニシエータシェル10の保持部13にかしめ固定されている。なお、ハウジングの外部に露出するように配置された端子ピン32には、点火器30とコントロールユニットとを結線するためのハーネスのコネクタ(図示せず)が接続される。
【0033】
イニシエータシェル10の底板部11は、ハウジングの径方向に沿ってクロージャシェル20の周壁部22よりも外側にまで達する延設部11aを有している。延設部11aは、後述するフィルタ50Aの軸方向端部を当て留めすることで当該フィルタ50Aの位置決めを行なうための部位である。また、延設部11aの径方向外側の端部からは、上述した立設部12が連続して設けられている。立設部12は、ハウジングをエアバッグ装置のリテーナ等に固定するための部位である。
【0034】
点火器30は、火炎を発生させるための点火装置であり、点火部31と上述の端子ピン32とを含んでいる。点火部31は、その内部に、作動時において着火する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。端子ピン32は、点火薬を着火させるために点火部31に接続されている。
【0035】
より詳細には、点火器30は、一対の端子ピン32が挿通されてこれを保持する基部と、基部上に取付けられたスクイブカップとを備えており、スクイブカップ内に挿入された端子ピン32の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するようにスクイブカップ内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。スクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0036】
衝突を検知した際には、端子ピン32を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器30が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
【0037】
点火器30と保持部13との間には、シール部材33が介在されている。シール部材33は、点火器30と保持部13との間に生じる隙間を気密に封止することによって後述する伝火室35を密閉するためのものであり、点火器30を保持部13にかしめ固定する際に上記隙間に挿入される。シール部材33としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等を利用することが好適である。なお、別途、シール部材33が介装される部分に液状のシール剤を塗布しておけば、さらに伝火室35の密閉性を高めることができる。
【0038】
イニシエータシェル10の保持部13には、点火器30を覆うようにエンハンサカップ34が固定されている。エンハンサカップ34は、有底筒状の形状を有しており、その内部に伝火薬36が収容された伝火室35を含んでいる。エンハンサカップ34は、伝火室35と後述する燃焼室40とを区画するための部材である。
【0039】
エンハンサカップ34は、点火器30が作動することによって伝火薬36が着火された場合に伝火室35内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴ってその一部が破裂または溶融するものであり、たとえばアルミニウムやアルミニウム合金等のプレス成形品にて構成される。エンハンサカップ34は、その開口端側にフランジ部34aを有しており、保持部13に設けられたかしめ部14bによって当該フランジ部34aがかしめられることにより、エンハンサカップ34が保持部13に固定されている。
【0040】
伝火室35に充填された伝火薬36は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬36としては、後述するガス発生剤41を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬36は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0041】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、上述した点火器30および伝火薬36がガス発生剤41を燃焼させるための点火手段に相当する。
【0042】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のエンハンサカップ34が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤41が収容される燃焼室40が位置している。より具体的には、上述のエンハンサカップ34は、ハウジングの内部に形成された燃焼室40内に突出して配置されており、このエンハンサカップ34の頂壁部の外表面に面する部分および側壁部の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室40として構成されている。
【0043】
ガス発生剤41は、点火器30によって点火された伝火薬36が燃焼することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させるものである。ガス発生剤41は、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ストロンチウム、塩基性硝酸銅等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0044】
ガス発生剤41の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤41の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤41の形状の他にもガス発生剤41の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0045】
燃焼室40のイニシエータシェル10側の端部には、燃焼室40に収容されたガス発生剤41に接触するようにクッション材42が配置されている。クッション材42は、成形体からなるガス発生剤41が振動等によって破砕されることを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体や発泡シリコン等が利用される。
【0046】
燃焼室40に対面する部分のクロージャシェル20の周壁部22には、燃焼室40にて生成された作動ガスをハウジングの外部に放出するための複数の連通孔23が設けられている。当該複数の連通孔23は、ガス発生剤41を確実に燃焼させるため、作動時において燃焼室40の内圧が適度に上昇することとなるように、比較的その開口面積が小さく絞られて形成されたものであり、たとえばクロージャシェル20の軸方向の中央部において周方向に沿って点列状に一列設けられている。
【0047】
クロージャシェル20の周壁部22の燃焼室40側に位置する面には、上記連通孔23を閉塞するようにシール部材24が貼付されている。このシール部材24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、非作動時において燃焼室40の気密性が確保されるとともに、作動時においてシール部材24が破れることで燃焼室40が外部に連通することになる。
【0048】
ハウジングの外部であってクロージャシェル20の周壁部22を取り囲む空間には、当該周壁部22に沿ってフィルタ50Aが配置されている。フィルタ50Aは、全体として中空円筒状の形状を有しており、ハウジングと同軸上に配置されている。フィルタ50Aとしては、複数の孔が形成された金属製の板状部材を径方向に積層したもの(一般にフックフィルタと称される)が利用され、金属製の板状部材としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
【0049】
より詳細には、フィルタ50Aは、後述する第1開口部52、第2開口部53および突出部53a(突出部53aについては図1中において図示を省略)が設けられた筒状部51を有しており、その内部にさらに間隙部54を有している。フィルタ50Aは、燃焼室40にて生成された作動ガスがこのフィルタ50A中を通過する際に、作動ガスが有する高温の熱を奪い取ることによって作動ガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、作動ガス中に含まれる残渣等を除去する除去手段としても機能する。なお、フィルタ50Aの具体的な構造については、後述することとする。
【0050】
次に、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aの作動時における動作について説明する。
【0051】
本実施の形態におけるガス発生器1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器30が作動する。伝火室35に収容された伝火薬36は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬36の燃焼により、エンハンサカップ34内の圧力が高まるとその圧力または熱によってエンハンサカップ34が破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室40に流れ込む。
【0052】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室40に収容されたガス発生剤41が着火されて燃焼し、燃焼室40にて多量の作動ガスが生成される。燃焼室40にて生成された作動ガスは、クロージャシェル20の周壁部22に設けられた連通孔23を介してハウジングの外部へと放出される。連通孔23から放出された作動ガスは、フィルタ50Aの内部に流入して当該フィルタ50A中を通過し、その際フィルタ50Aによって熱が奪われて冷却されるとともに作動ガス中に含まれる残渣等がフィルタ50Aによって除去される。フィルタ50Aを通過した作動ガスは、フィルタ50Aの外周面から噴出され、当該フィルタ50Aから噴出された作動ガスがガス発生器1Aに隣接して設けられたバッグの内部に導入されることにより、バッグが膨張および展開する。
【0053】
図2は、図1に示すフィルタの概略斜視図であり、図3は、図1に示すフィルタの模式展開図である。また、図4は、図1に示すフィルタの表面部分の拡大斜視図であり、図5は、図1に示す領域Vの拡大模式断面図である。次に、これら図2ないし図5を参照して、本実施の形態におけるガス発生器のフィルタの詳細な構造について説明する。
【0054】
図2に示すように、フィルタ50Aは、単一の金属製の板状部材を巻き回すことで径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成されており、全体として中空円筒状の形状を有している。フィルタ50Aは、円筒状に形成された筒状部51と、筒状部51の軸方向における上端を外側に向けて湾曲させることで形成された上端側閉塞部55と、筒状部51の軸方向における下端を外側に湾曲させることで形成された下端側閉塞部56とを含んでいる。
【0055】
より詳細には、図3に示すように、長尺状の金属製の板状部材の長手方向の一方端(図3における左側の端部)が内側に位置し、かつ他方端(図3における右側の端部)が外側に位置することとなるように、上記金属製の板状部材が渦巻状に巻き回され、上記一方端寄りの部分と上記他方端寄りの部分とが重なる接合しろ部分において各層を溶接等を行なうことにより、中空円筒状のフィルタ50Aが形成されている。図示するフィルタ50Aにあっては、図2に示すように、接合しろとなる部分を除き、金属製の板状部材が5周にわたって巻き回されることにより、合計で5層の筒状部51が設けられている。
【0056】
図2に示すように、上端側閉塞部55および下端側閉塞部56は、上述した5層の筒状部51の軸方向端部のそれぞれが互いに接触するように湾曲させることで構成されている(図1参照)。これら上端側閉塞部55および下端側閉塞部56は、後述するフィルタ50Aの内部に設けられた間隙部54が筒状部51の軸方向端部において外部と連通することを防止するための部位である。このように、上端側閉塞部55および下端側閉塞部56をフィルタ50Aに設けることにより、作動ガスが十分にフィルタ50Aにおいて冷却されずにまたスラグが十分に除去されずにエアバッグに向けて噴出されることが防止できる。なお、上端側閉塞部55および下端側閉塞部56は、金属製の板状部材を巻き回した後にプレス加工の一種である曲げ加工を筒状部51の上端および下端に施すことで形成されていてもよいし、巻き回し前の金属製の板状部材の上端(図3における上側の端部)および下端(図3における下側の端部)に曲げ加工を予め施しておき、巻き回し時においてこれら上端および下端がそれぞれ互いに接触するようにすることで形成されていてもよい。
【0057】
図2、図3および図5に示すように、図示するフィルタ50Aにあっては、これら5層の筒状部51のうち、径方向内側に位置する第1層L1および第2層L2が内側層に相当し、当該内側層である第1層L1および第2層L2を除く第3層ないし第5層L3〜L5が、径方向外側に位置する外側層に相当する。なお、外側層である第3層ないし第5層L3〜L5のうち、最も径方向外側に位置する第5層L5が、最外層に相当する。
【0058】
図2および図3に示すように、筒状部51の第1層L1および第2層L2には、複数の第1開口部52が設けられている。当該複数の第1開口部52は、金属製の板状部材を一部除去することで形成された孔であることが好ましく、たとえば金属製の板状部材にプレス加工の一種であるピアシング加工(孔抜き加工)を施すことで形成される。これら複数の第1開口部52の各々は、軸方向に沿って延びるスリット状の孔として形成されており、図5に示すように、フィルタ50Aをハウジングに固定した後においてクロージャシェル20の周壁部22に設けられた複数の連通孔23にそれぞれ対面する位置に設けられている。
【0059】
一方、図2ないし図4に示すように、筒状部51の第3層ないし第5層L3〜L5には、それぞれ複数の第2開口部53および当該複数の開口部53の周縁に位置する突出部53aが設けられている。なお、図2においては、突出部53aの図示を省略している。当該複数の第2開口部53および突出部53aは、金属製の板状部材を塑性変形することで形成された孔および突起であることが好ましく、たとえば金属製の板状部材にプレス加工の一種であるバーリング加工(孔の周囲に立ち上がり部分が形成されるようにするプレス加工)を施すことで形成される。これら複数の第2開口部53の各々は、上述した複数の第1開口部52の各々よりも開口面積が小さい孔として行列状に整列して設けられている。これら複数の第2開口部53および突出部53aは、第3層ないし第5層L3〜L5のそれぞれにおいて筒状部51の全面にわたって実質的に均等に設けられている。
【0060】
ここで、突出部53aは、上述したバーリング加工の際に形成される金属製の板状部材の立ち上がり部分にて構成されるものであり、当該突出部53aは、フィルタ50Aの内側に向けて突出している。図4に示す如くの形状の突出部53aを形成するためには、押し型として角錐状または円錐状のピンを用いることが好適である。また、必要に応じてバーリング加工後にローラを用いて突出部53aを圧延することにより、複数の突出部53aの高さを所定の高さにすべて調節することとしてもよい。なお、突出部53aの突出方向としては、上述した内側向けのみに限定されるものではなく、外側向けのみであってもよいし、内側向けと外側向けとが混在していてもよい。
【0061】
上述したように、フィルタ50Aの内側層(すなわち、第1層L1および第2層L2)は、金属製の板状部材のうちの、第1開口部52が設けられた部分を巻き回すことによって形成されている(図3参照)。ここで、図5に示すように、フィルタ50Aに設けられた第1開口部52は、クロージャシェル20の周壁部22に設けられた連通孔23に対面して配置されるとともに、比較的大きな開口面積を有する孔として形成されている。したがって、内側層に設けられた第1開口部52は、連通孔23から放出された作動ガスをフィルタ50Aの軸方向および周方向を含むクロージャシェル20の周壁部22の外周面に沿って拡散させるためのガス拡散領域としての機能を主として発揮することになる。なお、第1開口部52は、上述したガス拡散領域としての機能に加え、ガスを冷却させる機能やスラグを捕集する機能も同時に発揮することになる。
【0062】
ここで、フィルタ50Aにあっては、金属製の板状部材を巻き回した後において、第2層L2の筒状部51(すなわち第2層L2の第1開口部52が設けられていない部分)によって第1層L1の第1開口部52が閉塞されないように構成されていることが好ましい。これは、第2層L2の筒状部51によって第1層L1の第1開口部52の多くの部分が閉塞された場合には、上述したガス拡散機能が大幅に弱められてしまうためであり、その結果としてバーストを引き起こしてしまう危険性もあるためである。
【0063】
一方、上述したように、フィルタ50Aの外側層(すなわち、第3層ないし第5層L3〜L5)は、金属製の板状部材のうちの、周縁に突出部53aが形成された複数の開口部53が設けられた部分を巻き回すことによって形成されている(図3参照)。ここで、図5に示すように、フィルタ50Aに設けられた突出部53aは、積層された外側層を互いに所定の距離をもって対向配置させるためのスペーサとしての機能を果たすため、外側層の内部には、所定の大きさの間隙部54が形成されることになる。また、フィルタ50Aに設けられた第2開口部53は、外側層の全面にわたって多数設けられるとともに、比較的小さな開口面積を有する孔として形成されている。したがって、外側層に設けられた第2開口部53は、間隙部54を介して互いに連通することになり、これら第2開口部53および間隙部54は、作動ガスが流動するための迷路化された流路となる。そのため、第2開口部53および間隙部54は、上述したガス拡散領域にて拡散された作動ガスを冷却しつつ当該作動ガスを通過させるためのガス冷却領域としての機能を主として発揮することになる。なお、第2開口部53および間隙部54は、上述したガス冷却領域としての機能に加え、ガスを拡散させる機能やスラグを捕集する機能も同時に発揮することになる。
【0064】
ここで、外側層のうちの任意の層と当該任意の層に隣接する層との間において、第2開口部53が設けられた領域同士が対向して配置される箇所は少ないことが好ましく、対向している箇所が存在していないとなお好ましい。これは、第2開口部53が設けられた領域同士が対向して配置されていない箇所においては、径方向に流動する作動ガスを軸方向および周方向に向けて流動するように変えることができ、その結果、軸方向および周方向における作動ガスの拡散性を高めることができるためである。したがって、第2開口部53が設けられた領域同士が対向して配置される箇所が増えた場合には、軸方向および周方向における作動ガスの拡散性が低下してしまうため、当該箇所は、可能な限り少なくするか、あるいは無くしてしまうことが好ましい。
【0065】
また、上述したように、フィルタ50Aの最外層(すなわち、第5層L5)は、金属製の板状部材のうちの、周縁に突出部53aが形成された複数の開口部53が設けられた部分を巻き回すことによって形成されている(図3参照)。ここで、図5に示すように、最外層に設けられた第2開口部53は、最外層の全面にわたって多数設けられるとともに、比較的小さな開口面積を有する孔として形成されている。したがって、最外層に設けられた第2開口部53は、上述したガス冷却領域にて冷却された作動ガスをフィルタ50Aの外周面から外側に向けて噴出するためのガス噴出口としての機能を主として発揮することになる。ここで、上述したように、フィルタ50Aの最外層には全面にわたって多数の第2開口部53が設けられているため、作動ガスがこの最外層に設けられた多数の第2開口部53の一部に集中して噴出されることが防止可能となる。したがって、当該構成を採用することにより、エアバッグに損傷を与えることが未然に防止できることになる。
【0066】
なお、図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、フィルタ50Aの内側層のうちの最内層である第1層L1がクロージャシェル20の周壁部22に圧入されることで、ハウジングにフィルタ50Aが固定されている。このように圧入を利用すれば、容易にフィルタ50Aをハウジングに固定することが可能になる。
【0067】
また、図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、フィルタ50Aの一方の軸方向端部である下端側閉塞部56が、ハウジングの延設部11aに当て留めされて当接している。このように構成すれば、フィルタ50Aのハウジングに対する固定の際にハウジングの軸方向の位置決めが容易に行なえることになる。
【0068】
加えて、図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、フィルタ50Aがクロージャシェル20の周壁部22と隙間なく配設され、かつフィルタ50Aの上端側閉塞部55および下端側閉塞部56によってフィルタ50Aの軸方向端部が閉塞されているため、フィルタをハウジングの内部に配設した場合に、フィルタとハウジングとの間の隙間からフィルタを経由せずに外部に放出されてしまう作動ガスの流れを抑制するための、いわゆるバイパス防止部材を設ける必要がなくなり、ガス発生器の構成が簡素化して部品点数が削減できる効果も得られる。
【0069】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aおよび当該ガス発生器1Aに具備されたガス発生器用フィルタ50Aとすることにより、作動時においてハウジングに設けられた連通孔23から放出された作動ガスは、上記第1開口部52によって構成されたガス拡散領域、上記第2開口部53および間隙部54によって構成されたガス冷却領域、上記最外層に位置する第2開口部53によって構成されたガス噴出口の順でフィルタ50Aの内部を流動することになる。したがって、フィルタ50Aに流入した作動ガスがフィルタ50Aの内部において効果的に拡散されることになり、フィルタ50Aのほぼ全領域を有効に活用して作動ガスの冷却および残渣等の除去が行なえるとともに、フィルタ50Aの外周面のほぼ全域から作動ガスを放射状に外部に向けて噴出することが可能になり、エアバッグのスムーズな展開とエアバッグの損傷の防止が図られることになる。
【0070】
ここで、ハウジングの外部に配設されるフィルタとして、金属線材や金属網材を押し固めたり積層したりしたものを使用した場合には、作動ガスが十分に拡散することなく排出されることになるため、スラグ捕集機能やガス冷却機能を十分に発揮できないおそれやエアバッグにダメージを与えてしまうおそれも生じる。これに対し、本実施の形態におけるガス発生器1Aおよび当該ガス発生器1Aに具備されたガス発生器用フィルタ50Aにあっては、上述した如くの金属製の板状部材を径方向に積層することで構成されたフィルタ50Aを使用しているため、作動ガスの十分な拡散がなされることになり、スラグ捕集機能やガス冷却機能が十分に発揮されるとともに、エアバッグがダメージを受けることも抑制することができる。
【0071】
また、本実施の形態におけるガス発生器1Aおよび当該ガス発生器1Aに具備されたガス発生器用フィルタ50Aとすることにより、フィルタ50Aをハウジングの外部に配設することで、その分だけハウジングの外形が小さくなってガス発生器全体としての軽量化が可能になるとともに、ガス発生剤41の着火の際に点火器30および伝火薬36にて生じる熱がフィルタ50Aに吸収されて着火効率が低下してしまうこともなくなる。さらには、ガス発生剤41の着火効率が向上するため、伝火薬36の量を減らすことも可能になり、エンハンサカップ34を小型化することが可能となってガス発生器の小型軽量化を図ることも可能になる。
【0072】
したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Aおよび当該ガス発生器1Aに具備されたガス発生器用フィルタ50Aとすることにより、部品点数が少なく軽量化が図られるとともにフィルタ50Aの全領域を有効に活用することができ、またエアバッグの損傷が防止できるガス発生器およびガス発生器用フィルタとすることができる。
【0073】
なお、図3に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aおよび当該ガス発生器1Aに具備されたガス発生器用フィルタ50Aにあっては、フィルタ50Aの外側層に設けられた第2開口部53の各々の開口面積が、フィルタ50Aの径方向に沿って内側から外側に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されている。このように構成すれば、作動ガスがフィルタ50Aを通過する際に作動ガス中に含まれる残渣等をより効果的に除去することが可能になる。
【0074】
また、図6および図7は、本実施の形態に基づいた第1変形例および第2変形例に係るフィルタの模式展開図である。
【0075】
図6に示すように、第1変形例に係るフィルタ50Bにあっては、フィルタ50Aの内側層に設けられた第1開口部52が、単一の切欠き部によって構成されている。当該切欠き部からなる第1開口部52は、金属製の板状部材を一部除去することで形成された孔であることが好ましく、たとえば金属製の板状部材にプレス加工の一種であるノッチング加工(切欠き加工)を施すことで形成される。当該切欠き部からなる第1開口部52は、周方向に沿って延びるスリット状の孔として形成されており、フィルタ50Aをハウジングに固定した後においてクロージャシェル20の周壁部22に設けられた複数の連通孔23に対面する位置に設けられている。
【0076】
また、第1変形例に係るフィルタ50Bにあっては、フィルタ50Bの外側層に設けられた複数の第2開口部53の各々の開口面積が、フィルタ50Bの軸方向に沿って異なるように構成されるとともに、フィルタ50Bの径方向に沿って異なるように構成されている。より詳細には、第3層L3および第5層L5においては、フィルタ50Bの軸方向の中央部から上端部および下端部側に向かうにつれて第2開口部53の開口面積が徐々に大きくなるように構成され、第4層L4においては、フィルタ50Bの軸方向の中央部から上端部および下端部側に向かうにつれて第2開口部53の開口面積が徐々に小さくなるように構成されている。
【0077】
このように構成すれば、フィルタ50Bの内側層において作動ガスがより効果的に拡散されるようになるとともに、フィルタ50Bの外側層において作動ガスが軸方向に対してよりジグザク状に流動するようになるため、フィルタ50Bの内部を内側から外側に向けて流れる作動ガスをより効果的に拡散させることが可能になり、フィルタ50Bの全領域をより有効に活用することができるようになる。
【0078】
一方、図7に示すように第2変形例に係るフィルタ50Cにあっては、上記フィルタ50Bにおいて、外側層の最内層である第3層L3の、フィルタ50Cの径方向に沿って第1開口部52を介して連通孔23に対面する部分に、第2開口部53が設けられていない隔壁部57が位置している。
【0079】
このように構成すれば、連通孔23から放出された作動ガスの多くが当該隔壁部57に吹き付けられてより効果的に作動ガスが第1開口部52にて構成されたガス拡散領域において拡散されるようになるとともに、当該隔壁部57において残渣等を効果的に捕集することができるようになる。
【0080】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。以下においては、この図8を参照して、本実施の形態におけるガス発生器の構造について説明する。なお、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0081】
図8に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Bは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aが具備していたフィルタと同様のフィルタ50Aを備えている。一方、ガス発生器1Bのクロージャシェル20の周壁部22には、軸方向に沿って複数の連通孔23が設けられている。より詳細には、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aにおいては、軸方向の中央部に周方向に沿って複数の連通孔23が一列に整列して設けられていたが、本実施の形態におけるガス発生器1Bにおいては、軸方向の中央部近傍に周方向に沿って複数の連通孔23が二列に整列して設けられている。
【0082】
このように構成した場合には、燃焼室40から連通孔23を介して放出される作動ガスが、フィルタ50Aの軸方向の2箇所においてフィルタ50Aに導入されることになるため、より効果的に作動ガスをフィルタ50Aの内部において拡散させることが可能になる。したがって、部品点数が少なく軽量化が図られるとともにフィルタ50Aの全領域をより有効に活用することができ、またエアバッグの損傷が防止できるガス発生器とすることができる。
【0083】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図である。以下においては、この図9を参照して、本実施の形態におけるガス発生器の構造について説明する。なお、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0084】
図9に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Cは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aが具備していたフィルタと同様のフィルタ50Aを備えている。一方、本実施の形態におけるガス発生器1Cのクロージャシェル20の周壁部22の所定位置には、環状の形状を有する押さえ部材25が取付けられており、当該押さえ部材25にフィルタ50Aの軸方向端部である上端側閉塞部55が当接している。
【0085】
より具体的には、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aにおいては、フィルタ50Aがクロージャシェル20の周壁部22に圧入されることによってのみハウジングに固定されていたが、本実施の形態におけるガス発生器1Cにおいては、フィルタ50Aがクロージャシェル20の周壁部22に圧入されるとともに、イニシエータシェル10に設けられた延設部11aと押さえ部材25とによって軸方向に沿って挟持されて固定されている。なお、押さえ部材25としては、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されることが好ましく、好適にはクロージャシェル20に溶接により固定される。
【0086】
このように構成した場合には、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aとした場合に得られる効果と同様の効果が得られるのみならず、フィルタ50Aをより強固にハウジングに固定することが可能になる。
【0087】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4におけるガス発生器の模式断面図である。以下においては、この図10を参照して、本実施の形態におけるガス発生器および当該ガス発生器に具備されたガス発生器用フィルタの構造について説明する。なお、上述した実施の形態3におけるガス発生器1Cおよび当該ガス発生器1Cに具備されたガス発生器用フィルタ50Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0088】
図10に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Dは、上述した実施の形態3におけるガス発生器1Cと同様に、クロージャシェル20の周壁部22の所定位置に取付けられた環状の形状を有する押さえ部材25を備えている。一方、本実施の形態におけるガス発生器1Dは、上述した実施の形態3におけるガス発生器1Dが具備していたフィルタ50Aとは異なるフィルタ50Dを備えている。
【0089】
フィルタ50Dは、上述した実施の形態3におけるガス発生器1Dが具備していたフィルタ50Aとは異なり、円筒状に形成された筒状部51のみを含んでいる。筒状部51の上端部58および下端部59は、フィルタ50Dを軸方向に沿ってイニシエータシェル10の延設部11aと押さえ部材25とによって挟持する際に当該イニシエータシェル10の延設部11aと押さえ部材25とにそれぞれ圧接触する部位である。
【0090】
このように構成した場合には、フィルタ50Dの軸方向端部を予め閉塞しておく処理を行なうことが不要となり、イニシエータシェル10に設けられた延設部11aと押さえ部材25とによってフィルタ50Dが挟持された状態を維持しつつ、押さえ部材25をクロージャシェル20に固定することにより、フィルタ50Dの軸方向端部の閉塞処理が行なえる。すなわち、上記構成を採用することにより、フィルタ50Dの軸方向端部が、イニシエータシェル10の延設部11aおよび押さえ部材25に当接することで閉塞されることになり、これによってフィルタ50Dの内部に設けられた間隙部54が筒状部51の軸方向端部において外部と連通することが防止されることになる。
【0091】
したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Dおよび当該ガス発生器1Dに具備されるガス発生器用フィルタ50Dとした場合にも、上述した実施の形態3におけるガス発生器1Cおよび当該ガス発生器1Cに具備されるガス発生器用フィルタ50Aとした場合に得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0092】
上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、フィルタの内側層が2層にて構成されるとともに、フィルタの外側層が3層にて構成した場合を例示して説明を行なったが、内側層および外側層の数は、これに限定されるものではない。すなわち、内側層は、1層にて構成してもよいし、3層以上の複数の層にて構成してもよい。内側層の数を増やせば、ガス拡散領域が増えることになり、したがって、ガス拡散機能を高めることが可能になる。この場合にも、内側層に設けられた第1開口部が他の内側層の筒状部によって閉塞されてしまった場合には、ガス拡散機能が低下してしまうことになるため、当該第1開口部のより多くが閉塞されないように構成することが好ましい。また、外側層は、2層または4層以上の層にて構成してもよい。
【0093】
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、単一の金属製の板状部材を巻き回すことで積層体からなるフィルタが構成された場合を例示して説明を行なったが、フィルタの構成は、当該構成に限定されるものではない。すなわち、それぞれの層が別々の金属製の板状部材にて構成されてこれを組み合わせることで積層体からなるフィルタが構成されてもよいし、複数の層の一部が単一の金属製の板状部材巻き回すことで形成されるとともに、残る層が別の単一の金属製の板状部材巻き回すことで形成され、これらが組み合わされることで積層体からなるフィルタが構成されてもよい。
【0094】
また、上述した本発明の実施の形態1ないし3においては、フィルタの軸方向端部を湾曲させることで当該軸方向端部を閉塞した場合を例示して説明を行なったが、当該軸方向端部を屈曲させることで当該軸方向端部を閉塞させることも当然に可能である。
【0095】
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、本発明をいわゆるディスク型ガス発生器に適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない。
【0096】
加えて、以上において説明した本発明の実施の形態1ないし4におけるガス発生器および当該ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタの特徴的な構成は、装置構成上、許容される範囲で当然に相互に組み合わせることが可能である。
【0097】
このように、今回開示した上記各実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0098】
1A〜1D ガス発生器、10 イニシエータシェル、11 底板部、11a 延設部、12 立設部、13 保持部、14a,14b かしめ部、20 クロージャシェル、21 天板部、22 周壁部、23 連通孔、24 シール部材、25 押さえ部材、30 点火器、31 点火部、32 端子ピン、33 シール部材、34 エンハンサカップ、34a フランジ部、35 伝火室、36 伝火薬、40 燃焼室、41 ガス発生剤、42 クッション材、50A〜50D フィルタ、51 筒状部、52 第1開口部、53 第2開口部、53a 突出部、54 間隙部、55 上端側閉塞部、56 下端側閉塞部、57 隔壁部、58 上端部、59 下端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部と、連通孔が設けられた円筒状の周壁部とによって構成され、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含む金属製のハウジングと、
前記燃焼室に面するように前記底板部に取付けられた点火手段と、
前記周壁部を取り囲むように前記ハウジングの外部に配設された中空円筒状のフィルタとを備え、
前記フィルタは、金属製の板状部材を径方向に沿って積層することで当該径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成され、
前記複数の層のうちの内側層は、前記連通孔に対面する部分に設けられた第1開口部を含み、
前記複数の層のうちの外側層は、前記第1開口部よりも各々の開口面積が小さい複数の第2開口部および当該複数の第2開口部の各々の周縁に形成された突出部を含み、
前記外側層の間には、前記突出部が位置することによって前記複数の第2開口部同士を互いに連通する間隙部が設けられ、
前記外側層のうちの最外層に設けられた前記複数の第2開口部は、作動ガスを外部に噴出するためのガス噴出口を構成している、ガス発生器。
【請求項2】
前記第1開口部は、前記連通孔から放出された作動ガスを拡散させるためのガス拡散領域を構成し、
前記複数の第2開口部および前記間隙部は、前記ガス拡散領域にて拡散された作動ガスを冷却しつつ当該作動ガスを通過させるためのガス冷却領域を構成している、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記フィルタは、前記内側層のうちの最内層が前記周壁部に圧入されることによって前記ハウジングに固定されている、請求項1または2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記第1開口部は、前記板状部材を一部除去することで形成された孔であり、
前記第2開口部および前記突出部は、前記板状部材を塑性変形することで形成された孔および突起である、請求項1から3のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項5】
前記フィルタは、単一の金属製の板状部材を巻き回すことによって構成されている、請求項1から4のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項6】
前記天板部および前記底板部のうちのいずれか一方が、径方向に沿って前記周壁部よりも外側にまで達する延設部を有し、
前記フィルタの一方の軸方向端部が、前記延設部に当接している、請求項1から5のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項7】
前記フィルタの他方の軸方向端部に当接する押さえ部材をさらに備え、
前記フィルタが、前記延設部と前記押さえ部材とによって挟持されている、請求項6に記載のガス発生器。
【請求項8】
前記フィルタは、当該フィルタの軸方向端部を前記延設部および前記押さえ部材に当接させることで閉塞されている、請求項7に記載のガス発生器。
【請求項9】
前記フィルタは、当該フィルタの軸方向端部を屈曲または湾曲させることで閉塞されている、請求項1から7のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項10】
前記外側層のうちの最内層の、前記フィルタの径方向に沿って前記第1開口部を介して前記連通孔に対面する部分に、前記第2開口部が設けられていない隔壁部が位置している、請求項1から9のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項11】
前記複数の第2開口部の各々の開口面積が、前記フィルタの径方向に沿って内側から外側に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されている、請求項1から10のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項12】
前記複数の第2開口部の各々の開口面積が、前記フィルタの軸方向に沿って異なるように構成されるとともに、前記フィルタの径方向に沿って異なるように構成されている、請求項1から10のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項13】
円柱状の外形を有するガス発生器のハウジングの周壁部を取り囲むように当該ハウジングの外部に配設される中空円筒状のガス発生器用フィルタであって、
金属製の板状部材を径方向に沿って積層することで当該径方向に沿って位置する複数の層を有する積層体にて構成され、
前記複数の層のうちの内側層は、第1開口部を含み、
前記複数の層のうちの外側層は、前記第1開口部よりも各々の開口面積が小さい複数の第2開口部および当該複数の第2開口部の各々の周縁に形成された突出部を含み、
前記外側層の間には、前記突出部が位置することによって前記複数の第2開口部同士を互いに連通する間隙部が設けられている、ガス発生器用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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