説明

ガス警報器

【課題】電気化学式COセンサ1を用いたいガス警報器において、C0センサ1の水の凝固による断線状態に相当するセンサ異常時に、自己診断による不用意なエラー発生を防止する。
【解決手段】マイクロコンピュータ10からの指示で自己診断回路30によりCOセンサ1の自己診断を行う。温度センサ20でCOセンサ1の温度を検出する。検出温度が氷点以下の場合には自己診断を禁止し、1時間毎に温度判定を行う。COセンサ1の温度が氷点を超えたら、50時間毎に自己診断を可能にする。自己診断処理の処理周期を、温度の判定結果に応じて、マイクロコンピュータ10のタイマ10dにより設定する。温度センサ20は本体ケース内のCOセンサ1の雰囲気の温度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプロトン導電体膜を用いた電気化学式ガスセンサのように、水容器に蓄えた水の水分を利用した反応により雰囲気の対象ガス濃度を検出する電気化学式ガスセンサを備えたガス警報器に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼機器の不完全燃焼等によるCOガスを検出し警報するCO警報器のように、周辺雰囲気中のCO濃度を測定する装置として、従来から、電気化学式COセンサを内蔵したものが知られている。
【0003】
図4に断面図で示すように、この電気化学式COセンサ1は、内部に水5が収容された金属缶2の上部開口4にプロトン導電体膜3を設置して、その対極32を金属缶2内に露出させると共に、反対側の検知極31にガス吸着フィルタ8cを内蔵した金属キャップ8を重ねて金属缶2の上部開口4にかしめ固定して構成されている。
【0004】
上述した構成の電気化学式COセンサ1では、周辺雰囲気中のCOが、金属キャップ8の導入孔8aから内部に導入されて、活性炭やシリカゲル、ゼオライト等からなるガス吸着フィルタ8cや導出孔8b、そして、金属キャップ8とプロトン導電体膜3との間に介設した金属製の拡散防止板7の拡散制御孔7aを通過して検知極31に到達し、ここで、対極32側からプロトン導電体膜3に供給される金属缶2内の水5の水分を利用した酸化反応を起こして、検知極31にプロトン(2H+
)と電子(2e- )を発生させる。
【0005】
検知極31に発生した電子(2e- )はプロトン導電体膜3の内部を通過できないので検知極31に滞留し、一方、プロトン(2H+
)は、プロトン導電体膜3の内部を通過して対極32に移動し、ここで、容器2内の酸素と還元反応を起こして、対極32に水(H2 O)を生成する。
【0006】
したがって、検知極31と電気的に接続されてそのターミナルとして機能する金属キャップ8と、拡散防止板7を介して対極32と電気的に接続されてそのターミナルとして機能する金属缶2との間に負荷(図示せず)を接続すると、検知極31に滞留した電子(2e- )の対極32に向かう流れが負荷に生じ、これにより対極32から負荷を経て検知極31に向かう短絡電流の流れが生じるので、この負荷に流れる短絡電流を電流−電圧変換することで、周辺雰囲気中のCO濃度に応じた電圧値のCO濃度信号が得られる(例えば特許文献1,2)。
【0007】
また、上記同様に水容器に蓄えた水の水分を利用するガスセンサとして、2つの電極間にイオン伝導固体電解膜を備えるとともに、イオン伝導固体電解膜に一定の相対湿度を維持するように水を充填した水容器を備えたガスセンサがある(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−170101号公報
【特許文献2】特開2004−279293号公報
【特許文献3】特開2000−146908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記電気化学式COセンサは、それ自身では、周辺雰囲気中のCO濃度に応じた電圧値のCO濃度信号を生成するために外部からの電力供給を必要としないことから、電池によって長期間駆動する必要のあるCO警報器での利用に適している。その反面、COセンサ1は水5を使ってCO濃度を検出しているので、水5が蒸発などにより減少すると検知極32aに充分に水5が供給できなくなり、正確にCO濃度を検出できないという問題がある。そこで、従来、COセンサ1の充放電の特性を利用して水の減少を検出する自己診断を行うものがある。
【0010】
しかしながら、特に極低温環境において、金属缶2の上部開口4のかしめ部分等に侵入した水が凝固して膨張し、電極と導電体膜の接触が離れ、断線と同様な現象を起こすことがある。このような現象があっても低温から常温に戻ればセンサは正常に戻る。すなわち、水が十分に有るにもかかわらず自己診断でエラーとなることがある。なお、この自己診断によるエラーは水の枯渇を検出するもの、すなわち警報器の劣化を判断するものであるため、多くの警報器ではこのエラーが発生した場合には以後復帰することがなく不都合が生じる。
【0011】
本発明は、上記のような問題点に着目し、自己診断による不本意なエラー発生を防止して管理のし易いガス警報器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のガス警報器は、 水容器に蓄えた水の水分を利用した反応により雰囲気の対象ガス濃度を検出する電気化学式ガスセンサを備え、前記ガスセンサの異常を検出する自己診断機能を有するとともに、前記ガスセンサの温度を判断して前記自己診断機能の実行と該自己診断機能の禁止とを選択的に実行する機能を有し、該ガスセンサの温度が氷点以下でないと判断されたときは前記自己診断機能の実行を選択し、該ガスセンサの温度が氷点以下であると判断されたときは前記自己診断機能の禁止を選択するガス警報器であって、前記ガスセンサの温度が氷点以下であるか否かの判断を、当該ガス警報器の本体ケース内のガスセンサの雰囲気の温度を検出して判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のガス警報器によれば、ガスセンサにおける水が凝固するときは自己診断機能が禁止されるので、水の凝固による断線状態でもエラーとなることがなく、また、常温に戻って水が解ける状態では、自己診断機能により水容器中の水の枯渇を検出することができ、適正な自己診断を行うことができる。
【0014】
なお、自己診断機能を禁止しているときには、短い処理タイミングで温度判断及び自己診断の実行と禁止の選択を行うと、常温になったときにその温度変化に即座に追従して、素早く通常の自己診断機能を実行する状態に戻れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るガス警報器の要部ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態における警報監視処理のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態における自己診断処理のフローチャートである。
【図4】本発明に係る電気化学式COセンサの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係るガス警報器の要部ブロック図である。図に示すように、ガス警報器は、ガスセンサとしてのCOセンサ1、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)10、サーミスタ等の温度センサ20、自己診断回路30、増幅回路40、音声警報出力回路50及び当該ガス警報器の各部に電源を供給する電池60を備えている。なお、COセンサ1は、例えば前掲の図4に示す電気化学式センサ1であり、CO濃度に応じて発生する電流を電圧に変換して、増幅回路40を介してマイコン10に出力する。また、温度センサ20は当該ガス警報器の図示しない本体ケース内の温度を検出するものであり、その温度検出信号をマイコン10に出力する。
【0017】
マイコン10は、処理プログラムに従って各種の処理を行うCPU10aと、CPU10aが行う処理のプログラムなどを格納したROM10bと、CPU10aでの各種の処理過程で利用するワークエリア、各種データを格納するデータ記憶エリアなどを有するRAM10c、所定のレジスタに設定された時間の計測あるいは日時、時刻等を計時するためのタイマ10d等で構成されており、これらの各要素はバスラインによって接続されている。そして、マイコン10は、所定のサンプリング周期により、COセンサ1から増幅回路40を介して出力される電圧信号によりCOのガス濃度を計測し、そのガス濃度が警報設定点以上となった時に音声警報出力回路50から警報を発し、警報解除設定点以下になったときに警報を停止する。
【0018】
なお、COは、燃焼器具を正常な状態で使用しても発生することが知られており、特に、鍋、やかん等の調理器具を用いて、お湯を沸かす場合に、冷たい調理器具が暖まるまでの間にCOが発生するので、CO濃度(ガス濃度)が警報設定点を超えてもすぐには警報の発生を行わず、予め定めた遅延時間経過後も警報設定点を越えている状態が継続した場合に、警報を発生するようにしてもよい。
【0019】
自己診断回路30はマイコン10からの指示によりCOセンサ1の自己診断を実行する回路である。この自己診断回路30によるCOセンサ1の自己診断は、このCOセンサ1を一種のコンデンサとみなし、その充放電特性が水の量に応じて異なることを利用している。自己診断回路30は、COセンサ1を充電する充電回路や、充電及び放電の切換動作を行うためのトランジスタスイッチ等を備えている。そして、自己診断回路30はマイコン10からの指示により、COセンサ1に抵抗を通じて充電した後、放電し、放電電流を電圧に変換し、増幅回路40を介してマイコン10に出力する。そして、マイコン10はその放電カーブを検出する。この放電カーブは、ガスセンサ1に水が減少していない正常時と、水が減少した劣化時とでは異なっている。そこで、マイコン10は検出される放電カーブを正常時の放電カーブと比較して水の減少の有無を検知する。そして、検知結果が正常範囲内になければ劣化であると判断し、劣化が生じている場合はその旨を図示しない表示手段を使って報知する。
【0020】
図2及び図3は実施形態のガス警報器におけるCPU10aの制御プログラムの要部フローチャートであり、同図に基づいて動作を説明する。図2は警報監視処理のフローチャートであり、この警報監視処理は例えば30秒毎の所定のサンプリング周期で起動される。先ず、CPU10aは、ステップS1で温度センサ20の検出信号により温度を計測し、ステップS2でCOセンサ1の出力に基づいてガス濃度を測定し、ステップS3で所定の演算処理を行う。そして、ステップS4で警報が必要な状態か否かを判定し、必要であればステップS5で警報を出力して1回の処理を終了する。警報が必要でなければ、ステップS6で警報状態であれば警報を解除し、1回の処理を終了する。
【0021】
図3は自己診断処理のフローチャートであり、この図3の自己診断処理はタイマ10dに設定される設定時間を周期として起動される。なお、初期状態では設定時間は50時間に設定されている。先ず、ステップS11で、前記ステップS1で計測した直近の計測温度が0℃以下であるか否かを判定する。この計測温度は、前記所定のサンプリング周期により温度センサ20で計測している温度であるが、その内の直近の計測温度により判定する。計測温度が0℃以下でなければ、COセンサ1の温度が氷点以下ではないと判断し、ステップS12で、自己診断回路30に指示を出力して自己診断を行う。そして、ステップS13でタイマ10dの設定時間を50時間に設定し、1回の処理を終了する。ステップS11で、計測温度が0℃以下であれば、COセンサ1の温度が氷点以下であると判断し、ステップS14でタイマ10dの設定時間を1時間に設定し、1回の処理を終了する。
【0022】
以上のように、COセンサ1の温度が氷点以下でないと判断されるときは、当該自己診断処理が50時間毎に繰り返され、そのつど氷点以下でなければ自己診断が実行される。一方、COセンサ1の温度が氷点以下であると判断されるときは、自己診断が禁止されるとともに、当該自己診断処理(すなわち温度判定)が1時間毎に繰り返される。そして、COセンサ1の温度が氷点を超えた場合には、自己診断が実行されるとともに、その後、当該自己診断処理が50時間毎に繰り返されるように設定される。
【0023】
したがって、COセンサ1における水5が、かしめ部分等で凝固した場合、自己診断が禁止されるので、断線状態による不用意なエラーを生じることがない。なお、COセンサ1で水の凝固が発生していてCOセンサ1自体でガス濃度を検出できなくなっていたとしても、このような氷点以下の温度では、COガスの発生は考えられないので、特に問題はない。また、温度が氷点を超えれば、COセンサ1の水の凝固も解けるので、COセンサ1が正常に戻り、通常の警報及び自己診断を行うことができる。
【0024】
なお、自己診断処理は通常は50時間毎に行っているが、当該ガス警報器の出荷モード解除後や、リセット直後、あるいは電源投入直後に初期故障チェックを行い、このときにも自己診断を行うようにしている。この場合に、COセンサ1の温度が氷点以下であると判断された場合には自己診断は禁止されるが、この初期故障チェック時には自己診断が禁止されても、初期故障チェック自体は正常に終了したものとして処理する。
【0025】
以上の実施形態ではガスセンサとして、図4に示す電気化学式センサ1を例に説明したが、例えば、前記特許文献3のようなセンサなど、水容器に蓄えた水の水分を利用した反応により雰囲気の対象ガス濃度を検出する電気化学式ガスセンサに適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 電気化学式COセンサ
2 金属缶
5 水
10 マイクロコンピュータ
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d タイマ
20 温度センサ
30 自己診断回路
50 音声警報出力回路
60 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水容器に蓄えた水の水分を利用した反応により雰囲気の対象ガス濃度を検出する電気化学式ガスセンサを備え、
前記ガスセンサの異常を検出する自己診断機能を有するとともに、
前記ガスセンサの温度を判断して前記自己診断機能の実行と該自己診断機能の禁止とを選択的に実行する機能を有し、
該ガスセンサの温度が氷点以下でないと判断されたときは前記自己診断機能の実行を選択し、該ガスセンサの温度が氷点以下であると判断されたときは前記自己診断機能の禁止を選択するガス警報器であって、
前記ガスセンサの温度が氷点以下であるか否かの判断を、当該ガス警報器の本体ケース内のガスセンサの雰囲気の温度を検出して判断することを特徴とするガス警報器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−155761(P2012−155761A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109506(P2012−109506)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2006−336638(P2006−336638)の分割
【原出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】