説明

ガス貯蔵媒体及びガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法

本発明は、ガスを貯蔵するための表面積を十分に確保してガス貯蔵能力の効率性を改善させることができるガス貯蔵媒体及びこれを備えたガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法を提供するためのものであって、このため、本発明は、価数変動可能な物質が互いに離隔して多層の層状構造をなし、前記物質は、化学的結合に加わらない余分な電子を含むガス貯蔵媒体及びこれを備えたガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス貯蔵媒体及びガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法に関し、より詳細には、ガスを貯蔵するための媒体及びこれを備えたガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法に関し、特に、水素貯蔵媒体及びこれを備えた水素貯蔵装置並びにその貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などのような化石燃料の使用に伴う環境汚染や地球温暖化などの問題が深刻化していることから、新しい代替燃料として水素が注目されている。水素は、地球上に存在するほぼ無限の量の水をその原料とし、エネルギー発生後には再び水に再循環するため、枯渇のおそれがない。また、水素の燃焼時、極少量の窒素酸化物を発生するだけで、その他の公害物質は発生しないという点から、クリーンエネルギーとされている。また、水素は、その状態で燃焼させると熱エネルギーとして、内燃機関を利用すると機械エネルギーとして、さらに、酸素と反応させて電気を発生する燃料電池としても使用可能なため、多様な分野のエネルギー源として使用できるという利点がある。
【0003】
しかし、水素は、上述したように、様々な利点にもかかわらず、未だその活用度は伸びていないのが現状である。その理由は、水素を高密度で安全に貯蔵することが難しいからである。これにより、水素をエネルギー源として活用するために、水素貯蔵量の画期的な増加が可能な水素貯蔵材料及びその貯蔵方法に関する研究が盛んに行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで開発されてきた水素貯蔵方法としては、液体水素貯蔵法、気体水素貯蔵法、水素吸蔵合金の形で貯蔵する方法及び炭素ナノチューブを用いる方法などが知られている。これらの方法のうち、液体水素貯蔵法及び気体水素貯蔵法は、常温において爆発の危険があり、貯蔵コストが高いという欠点があった。
【0005】
また、水素吸蔵合金の形で貯蔵する方法は、常温において比較的低い圧力で水素を安全に貯蔵することはできるが、重量が重く、水素貯蔵表面積が小さいため、商業化可能な程度の水素を貯蔵することは難しいという限界があった。
【0006】
また、炭素ナノチューブを用いる方法では、水素を貯蔵するための表面積が水素吸蔵合金の形で貯蔵する方法に比べて広くなるものの、炭素ナノチューブに使用される炭素材料が単一の原料からなり、化学的に非常に安定化しているため、水素などの気体が吸着しても容易に脱着してしまい、貯蔵量が減少するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ガスを貯蔵するための表面積を十分に確保してガス貯蔵能力の効率性を改善させることができるガス貯蔵媒体及びこれを備えたガス貯蔵装置並びにその貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための一形態に係る本発明は、価数変動可能な物質が互いに離隔して多層の層状構造をなし、前記物質は、化学的結合に加わらない余分な電子を含むガス貯蔵媒体を提供する。
【0009】
また、上記の目的を達成するための他の形態に係る本発明は、チャンバと、前記チャンバの内部に設けられたガス貯蔵媒体と、前記ガス貯蔵媒体を加熱する加熱部材と、前記ガス貯蔵媒体を冷却する冷却部材とを備え、前記ガス貯蔵媒体は、価数変動可能な物質が互いに離隔して多層の層状構造をなし、前記物質は、化学的結合に加わらない余分な電子を含むガス貯蔵装置を提供する。
【0010】
さらに、上記の目的を達成するためのさらに他の形態に係る本発明は、チャンバと、前記チャンバの内部に設けられたガス貯蔵媒体と、前記ガス貯蔵媒体を加熱する加熱部材と、前記ガス貯蔵媒体を冷却する冷却部材とを備えるガス貯蔵装置を用いたガス貯蔵方法において、前記加熱部材により前記ガス貯蔵媒体を加熱するステップと、前記ガス貯蔵媒体に貯蔵対象物質を流入させるステップと、前記冷却部材により前記ガス貯蔵媒体を冷却させ、前記貯蔵対象物質を前記ガス貯蔵媒体の内部に貯蔵するステップとを含むガス貯蔵方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1に、価数変動可能な物質が互いに離隔して層状構造をなすガス貯蔵媒体を提供し、これにより、各層間に空間を確保することで広い表面積の確保が可能なため、ガス貯蔵能力の効率性を向上させることができる。
【0012】
第2に、層状構造をなすガス貯蔵媒体において、各層間を容易に吸脱着可能な物質で予め満たした後、貯蔵しようとするガスの貯蔵時に脱着させることにより、化学的に安定化したガスを容易に貯蔵し、ガス貯蔵効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るガス貯蔵装置の一実施形態を説明するための構成図である。
【図2】図1に示したガス貯蔵媒体の拡大構成図である。
【図3】五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造を示す図である。
【図4】五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造を示す図である。
【図5】本発明に係るガス貯蔵方法の一実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図6】本発明に係るガス排出方法の一実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図7】本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造をAFM観察した結果を示す図である。
【図8】本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質の水素貯蔵量をTGA分析した結果を示す図である。
【図9】水槽貯蔵量を測定する質量分析器を説明するための構成図である。
【図10】本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質のヘリウム貯蔵特性を示す図である。
【図11】本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質の水素貯蔵特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明の技術思想を容易に実施できる程度に詳細に説明するため、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。また、明細書全体にわたって同じ図面符号(または、参照符号)を付した部分は、同じ要素を表す。
【0015】
図1は、本発明に係るガス貯蔵装置の一実施形態を説明するための構成図で、図2は、図1に示したガス貯蔵媒体の拡大構成図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、本発明に係るガス貯蔵装置は、価数変動可能な物質101Aが互いに離隔して層状構造をなすガス貯蔵媒体101を含んでいる。このとき、物質101Aは、化学的結合に加わらない余分な電子を有していなければならない。また、ガス貯蔵媒体101間の空き空間102には、別途の支持部材(図示せず)がさらに介在し得る。
【0017】
本発明において、ガス貯蔵媒体101は、多層構造を有する物質101Aを意味する。例えば、図2に示すように、構造的に薄膜形態の構造を有する物質101Aがある場合、物質101Aの層間に空き空間101Bを有する物質を含んでいる。
【0018】
このように、図2の物質101A間の空き空間101Bは、一般的に広く知られている層状構造を有する黒鉛(graphite)のような物質にも存在するが、黒鉛の場合、炭素の結合が安定した形で存在するため、水素のような貯蔵対象物質が吸着して空き空間に貯蔵されても容易に脱着してしまうため、貯蔵媒体として機能することはできない。
【0019】
そこで、本発明で追求しようとする吸着の技術的原理は、化学的結合をなしている構造物において欠点やその他の要因によって発生する余分な電子を用いて、電気的・化学的引力により、水素を含む物質を吸着させることにある。
【0020】
一例として、バナジウムのような遷移金属が結晶をなして層状構造からなる場合、化学的結合がなされると、その層状構造に存在するバナジウムは、それらの結合が酸素とどのように結合するかによって5価または4価を有する。このようなバナジウムの価数変化により、酸素との結合がある一部分で欠点を有するとき、余分な電子は浮遊し、この電子は、外部から注入される分子または原子、すなわち、貯蔵対象物質を容易に吸着する特性を帯びるようになる。
【0021】
しかし、バナジウムの層間距離がマイクロメートルと広い場合には、存在する化学的結合が次層間に影響を与える程度に強くないため、余分な電子を有する不安定な化学的結合は、隣接する他の化学的結合と衝突して消える効果がある。それだけでなく、層間距離が広い場合、吸着する物質の吸着力よりも離脱しようとする力が強く作用して吸着力が低下してしまう。すなわち、層間に物質が吸着している場合は、両層間に与えられる引力により吸着力が高まるが、層間距離が広くなると、層間、すなわち、2つの層による引力は、略1つの層による引力に低減して吸着力が低下する。
【0022】
例えば、バナジウムのような元素は、酸素と結合をなすとき、それらの結合平衡は、Vの場合は+3価を、VOの場合は+4価を有する。また、結合によっては、Vの場合はバナジウムが+4価と+5価と任意の割合で存在する。この任意の割合で平衡をなした場合は、それらの価数変化の程度に応じて余分な電子が残留し、余分な電子が吸着する物質を引き付ける引力として作用する。
【0023】
したがって、価数変化により余分な電子を有する物質が層状構造をなすとき、貯蔵対象物質を容易に吸着させることができる。また、層状構造を有する物質間の引力によって吸着された物質は、強い化学的結合をなすものではないため、脱着も容易に生じ得る。すなわち、これらの結合は、共有結合、ファンデルワールス結合(van der waals bond)、イオン結合、水素結合、または金属結合による吸着により容易に脱着可能である。
【0024】
一方、水素を含む物質が吸着可能な空間の確保は非常に重要である。この空間の確保は、価数変動可能な物質が互いに離隔して層状構造を有するときに十分に可能であり、この空間で貯蔵対象物質がそれらの価数によって化学的結合をなす。このとき、化学的結合は、共有結合、ファンデルワールス結合、イオン結合、水素結合、または金属結合などを含んでいる。
【0025】
このように、貯蔵対象物質を貯蔵するガス貯蔵媒体101に使用される物質101Aは、多層を構成する全層が同じ物質からなるか、互いに異なる物質、例えば、2以上の物質からなり得る。このとき、物質101Aとしては、ナノワイヤ結晶質を使用することができ、このナノワイヤ結晶質は、ナノ薄膜、ペレット、バルク、またはフィルムの形態に形成され得る。また、ナノワイヤ結晶質は、500nmより小さい、好ましくは100nmより小さい少なくとも1つの断面積寸法を有し、10より大きい、好ましくは50より大きい、さらに好ましくは100より大きい縦横比(長さ:幅)を有する。
【0026】
また、ナノワイヤ結晶質は、半導体ナノ物質、遷移金属と結合した化合物、及び遷移金属酸化物からなる群から選択されたいずれか1つの物質からなり得る。このとき、前記遷移金属としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hgが使用される。例えば、前記物質が水素の場合、PtまたはPd元素と結合した化合物からなり得る。
【0027】
例えば、半導体ナノ物質は、Si、Ge、Sn、Se、Te、B、C(ダイヤモンドを含む)、P、B−C、B−P(BP)、B−Si、Si−C、Si−Ge、Si−Sn及びGe−Sn、SiC、BN/BP/BAs、AlN/AlP/AlAs/AlSb、GaN/GaP/GaAs/GaSb、InN/InP/InAs/InSb、BN/BP/BAs、AlN/AlP/AlAs/AlSb、GaN/GaP/GaAs/GaSb、InN/InP/InAs/InSb、ZnO/ZnS/ZnSe/ZnTe、CdS/CdSe/CdTe、HgS/HgSe/HgTe、BeS/BeSe/BeTe/MgS/MgSe、GeS、GeSe、GeTe、SnS、SnSe、SnTe、PbO、PbS、PbSe、PbTe、CuF、CuCl、CuBr、CuI、AgF、AgCl、AgBr、AgI、BeSiN、CaCN、ZnGeP、CdSnAs、ZnSnSb、CuGeP、CuSi、(Cu、Ag)(Al、Ga、In、Ti、Fe)(S、Se、Te)、Si、Ge、Al、(Al、Ga、In)(S、Se、Te)、AlCO、またはこれらのうちの2つ以上の適切な組み合わせから選択されたいずれか1つからなり得る。
【0028】
遷移金属と結合した化合物は、Ni化合物(例えば、LaNi、MnNi、MgNi)、Ti化合物(例えば、TiMn、TiV、TiFe、TiCo、TiVCr、TiVMn)、Cu化合物(例えば、MgCu)、Zr化合物(例えば、ZrMn、ZrV)、Li化合物(例えば、LiAl)などのように、遷移金属が他の物質または遷移金属と結合して安定化する形で存在する化合物から選択されたいずれか1つからなり得る。
【0029】
遷移金属酸化物は、酸化バナジウム、例えば、VO、V、Vのような組成比を有することができ、これらの価数が余分な価数に変動可能な条件であれば何れでも使用可能である。
【0030】
PtまたはPd元素と結合した化合物は、水素と反応しやすいPtまたはPdのような元素が、遷移金属、酸素などと結合した物質との結合化合物から選択されたいずれか1つからなり得る。一例として、水素センサにおいて、PtまたはPdのような物質は、水素を吸着させて使用されるが、吸着剤として使用することはできない。しかし、これらの化合物が層状構造からなる場合は吸着が可能であり、また、遷移金属のような物質が余分な電子対を有するとき、PtまたはPdのような物質に水素のような物質が吸着するとき、吸着エネルギーを高めて脱着率を下げることができる。
【0031】
一方、上述した遷移金属化合物、遷移金属酸化物には、不純物イオンのドーピングによりそれらの構造及び価数を形成させることができ、そのドーピングは、試料の合成時にも可能であり、合成後、遷移金属イオンを用いたイオン注入工程によるドーピングも可能である。一例として、五酸化バナジウムナノワイヤの場合は、試料の合成時、それらの吸着能力を高めるために、PtまたはPdのような物質が分子形態で存在する物質を一緒に注入することにより、層状構造の層または層間にドーピングが行われるようにすることもできる。
【0032】
図3は、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造を示す図で、図4は、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造を示す図である。
例えば、図3及び図4に示すように、五酸化バナジウムナノワイヤ構造は、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201と、その間の、試料の合成時に含まれる水202とから構成されていることがわかる。このとき、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201の層間距離tは、略0.67nm程度となり、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201の厚さは、0.48nm程度となる。この五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201の層間距離tは、水202が捕集または脱着するときに調整される。ここで、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201の層間距離tは、両層においていずれも引力が作用するように近くなければならず、その距離が数百ナノメートル以上の場合は、その引力はほとんど作用しない。したがって、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201の層間距離tは、100nm以下、好ましくは0.1〜100nmに維持しなければならない。図4は、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質201が結晶をなして棒状になっていることがわかる。この棒状の結晶質が複数集まっているバルク形態は、物質を貯蔵するときに容易である。
【0033】
本発明のガス貯蔵媒体101のナノワイヤ結晶質は、その幅W及び高さ(または、厚さ)Hが数ナノメートルであり、長さLが数十マイクロメートルの形態を有するすべてのナノワイヤ結晶質を含んでいる。
【0034】
一般的な薄膜は、3次元構造の上部に蒸着される付着構造を有することから、薄膜と薄膜の間に新しい物質を貯蔵または挿入することが困難である。これに対し、その幅が数ナノメートルのナノワイヤ結晶質は、一般的な薄膜に比べて幅がはるかに狭いため、貯蔵対象物質をナノワイヤ間に吸着させようとするときに要するエネルギーは顕著に低い。
【0035】
また、本発明のガス貯蔵媒体101は、基本的に、幅及び高さが数ナノメートルのナノワイヤ結晶質からなるものに限定されず、このような幅及び高さを有するナノワイヤ結晶質をベースとして層状構造を有する薄膜形態のすべての構造を含む。このような薄膜形態は、1つの層がすべて均一に分布し、その幅が数マイクロメートルから数十ミリ、または数十センチメートルの大きさを有する薄膜をすべて含む。このとき、ナノワイヤ結晶質の幅が数ナノメートルから数十ナノメートルであり、その単結晶が数ナノメートルの高さを有するとき、水素を含む物質を貯蔵することができる。
【0036】
さらに、幅が数十ナノメートル、大きくは数十から数百センチメートルまでにわたる1つの層は、その長さも、数十ナノメートルから、大きくは数百センチメートルまで可能である。ここで、単結晶及び薄膜の厚さ、すなわち、層間距離は、数ナノメートル以下の距離を有していなければならない。この層間距離は、水素を含む物質の化学的・物理的結合が安定化する必要があるため、その距離は数ナノメートル以下でなければならない。ガス貯蔵媒体がチューブ形態、すなわち、真ん中が空いている円柱状の場合は、その引力が全体的に均一に分布するため、その直径は数百ナノメートルまで可能である。
【0037】
また、ガス貯蔵媒体101は、その構造が平板状のものに限定されず、平板状のものが湾曲した形状、または中が空いている円柱状、中が満たされている円柱状、または球状を含む大部分の構造において可能である。このとき、各構造物は、結晶化した部分がナノメートル以上の表面積を有する結晶質を含むことが好ましい。
【0038】
上述したように、ガス貯蔵媒体101は、多層構造のナノワイヤ結晶質と、各層間に吸脱着可能な物質が化学的または物理的に結合している構造を有する。このとき、多層構造のナノワイヤ結晶質は、半導電性または導電性の結晶化した化合物が複数層積層された層状構造をなすものであって、重畳した全層は、同じ物質からなっていてもよく、互いに異なる2以上の物質からなっていてもよい。例えば、遷移金属及び水素との反応性がよいPtまたはPdのような物質が1つの化合物をなしているとき、これらの電気的特性は、導電性または半導体性を帯びるようになる。この電気的特性を有する物質を層状構造として配置すると、ガス貯蔵媒体として機能することができる。
【0039】
ナノワイヤ結晶質が平板状の薄膜からなる場合、各層間の間隔は、1nm〜100nmが好ましく、丸い形態(円形)の場合は、直径が1nm〜1μmであることが好ましい。これは、化学的・物理的引力による吸着物質の捕集吸着を効率的に維持できる距離を意味する。また、層間をなすナノワイヤ結晶質は、幅が数ナノメートルから数マイクロメートル、大きくは数十センチメートル以上も可能であり、その大きさに限定されない。また、ナノワイヤ結晶質の高さも、その大きさに限定されない。ナノワイヤ結晶質は、複数の単結晶が合わされた構造からなることも可能であり、その大きさに限定されない。このナノワイヤ結晶質構造において、層間は、物質が吸着するとき、層間距離が変化して吸着力が強化する。これにより、吸着物質が外部に離脱するという欠点が補われる。一例として、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質は、外部からガスを含む物質が吸着するとき、それら結晶質間の距離が変化する。
【0040】
一方、本発明のガス貯蔵媒体の作製方法について説明すると、次のとおりである。
ガス貯蔵媒体101は、金属酸化物、半導体酸化物、遷移金属化合物、及び遷移金属酸化物からなる群から選択されたいずれか1つを用いて形成するか、これらにイオン交換樹脂及び溶媒を追加混合して形成する。このとき、イオン交換樹脂は、金属酸化物または半導体酸化物の成長を助ける役割を果たす。また、溶媒は、ナノワイヤ結晶質間に安着し、金属酸化物結晶質、半導体酸化物結晶質、または溶媒−金属(または、半導体)酸化物結晶質を含むナノワイヤ結晶質が形成されるようにする。
【0041】
ガス貯蔵媒体101は、ゾルゲル(sol−gel)法、スパッタリング(sputtering)法または化学的物理的蒸着方法により作製することもできる。具体的には、ゾルゲル法によりすでに生成されたナノワイヤ結晶質をフィルムまたはバルク形態の構造物に作製するか、薄膜形態で直接成長させて作製する。すなわち、薄膜を一層一層積み重ねて層間に空き空間を直接形成することができ、また、層間に犠牲層を形成し、試料の作製後に除去して層間に空き空間を形成する方法も可能である。例えば、後者の場合、ガス貯蔵媒体の作製時、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜のような犠牲層を層間に形成してガス貯蔵媒体を作製した後、犠牲層をエッチング工程を用いて除去する。
【0042】
また、ガス貯蔵媒体101は、それらの凝集力、すなわち、ナノワイヤ結晶質とナノワイヤ結晶質とを凝集するとき、その凝集力を高めるために、ナノ粒子、分子またはポリマーを用いて相互間の凝集力が高められるバルク形態で作製することもできる。
【0043】
一方、多層構造のナノワイヤ結晶質は、ナノ薄膜、ペレットまたはフィルム形態などの構造をなしている。これら構造のうち、ナノ薄膜形態は、スピンコーティング、スポイトまたはピペットを用いた吸着方式、加圧して形成可能なペレット、複数層積層して形成可能なスプレー法、スピンコーティング法のうちのいずれか1つの方法によって形成する。
【0044】
具体的には、ナノワイヤ結晶質とナノワイヤ化合物が溶媒に含まれているとき、溶媒をすべて蒸発または除去した後、ナノワイヤ結晶質とナノワイヤ化合物を成型体中に入れて、加圧して、ペレット形態の構造物を作製するか、ナノワイヤ結晶質とナノワイヤ化合物が溶媒中に含まれているとき、これを、濾紙をはじめとする濾過装置を通過させて溶媒を除去する方式でフィルム形態の構造体を作製するか、またはスピンコーティング、スポイトまたはピペットを用いた吸着方式、またはスプレー法などを用いてナノ薄膜形態に形成することができる。
【0045】
スピンコーティングを用いた方法は、ナノワイヤ結晶質を、スポンジのような多孔性物質または網構造の物質にスピンコーティング方式で吸着または付着させる方法である。このとき、スピンコーティングの回数を適切に増加させて複合的な積層構造を有する薄膜を作製することができる。具体的には、多孔性物質にナノワイヤ結晶質を吸着させた後、その上部にもう一つの多孔性物質を積層させた後、再びナノワイヤ結晶質をスピンコーティングする方法によって作製する。
【0046】
スプレー法は、多孔性物質または網構造の物質にナノワイヤ結晶質をスプレー方式で噴射して薄膜を作製する方法である。このとき、スピンコーティング法と同様に、多孔性物質にナノワイヤ結晶質をスプレー方式で噴射して吸着させ、その上部にもう一つの多孔性物質を積層させた後、再びナノワイヤ結晶質をスプレー方式で噴射して作製する。
【0047】
一方、ガス貯蔵媒体101は、多層構造のナノワイヤ結晶質を安定して形成するために、隣接する層同士が支え合うようにナノワイヤ結晶質間に吸脱着可能な物質(例えば、水分子)を含むことができる。このとき、吸脱着可能な物質は、化学的結合または物理的結合によりナノワイヤ結晶質と結合する。このように、多層構造のナノワイヤ結晶質は、各層間にその他の非結晶質及び吸脱着可能な物質が結合している場合、熱処理工程によりこれらの結合を分解して吸脱着可能な物質をナノワイヤ結晶質から脱着させることができ、この吸脱着可能な物質の脱着により生成された層間の空き空間に水素を含む物質を貯蔵することができる。
【0048】
また、多層構造のナノワイヤ結晶質間に水素を含む物質がより吸着しやすくするために、ナノワイヤ結晶質の表面に表面処理を施すこともできる。このとき、表面処理は、シラン基、アミン基、またはカルボキシル基を有する分子を用いることができる。例えば、シラン基を有する分子は、APTES(aminopropyltriethoxysilane)、APTMS(aminopropyltrimethoxysilane)などを使用することができ、これらの分子は、ナノワイヤ結晶質の表面に処理され、ナノワイヤ結晶質間の引力を高めてナノワイヤ結晶質が容易に結集するように助けることにより、試料を安定して維持させる。
【0049】
さらに、ナノワイヤ結晶質の表面を表面処理する方法のほか、吸着力を増大させるために、ナノワイヤ結晶質を形成する工程時に追加する溶媒に、表面積の大きい物質を混合することもできる。このとき、表面積の大きい物質は、その大きさが数ナノメートルから数千マイクロメートルの表面積を有する物質、例えば、1nm〜10000μmの表面積を有する物質であって、これらの物質には、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリエチレンのようなポリマー、炭素ナノチューブ、導電性及び非導電性ナノワイヤ、及びペンタセン、ナフタレンのような有機物などのナノドット形態などが含まれる。これら物質がナノワイヤ結晶質の合成時に溶媒に混合されると、合成されたナノワイヤ結晶質の凝集力及び表面積が増加し、貯蔵対象物質の貯蔵容量を増加させることができる。
【0050】
例えば、ポリピロールを使用する場合、ポリピロールは、電気化学的方法を用いてナノサイズの物質を作製できるため、ポリピロールの合成時にナノワイヤを注入して合成すると、ナノワイヤ−ポリピロール化合物が結晶化してナノワイヤ結晶質間の凝集力が強くなり、これにより、貯蔵対象物質が一旦吸着したときには、ポリピロールの表面張力により物質の脱着が困難になる。
【0051】
一方、図1に示すように、本発明の実施形態に係るガス貯蔵装置は、加熱部材105をさらに備える。加熱部材105は、ガス貯蔵媒体101の下部に配置され、価数変動可能な物質101A、例えば、ナノワイヤ結晶質から吸脱着可能な物質(または、水素を含む貯蔵物質)を脱着させるための熱を加える。
【0052】
ナノワイヤ結晶質と吸脱着可能な物質との結合は、加熱部材105から加えられる熱によって解除される。すなわち、ナノワイヤ結晶質に熱を加えると、ナノワイヤ結晶質は振動し、このナノワイヤ結晶質の振動によりナノワイヤ結晶質の引力が解除され、結局、ナノワイヤ結晶質と吸脱着可能な物質との間の結合が解除されるようになる。このように吸脱着可能な物質がナノワイヤ結晶質から脱着するときに発生する表面積は、全ナノワイヤ結晶質の表面積と同等になり、この空き空間に貯蔵対象物質、例えば、水素を含む物質を貯蔵することができる。
【0053】
また、本発明に係るガス貯蔵装置の一実施形態は、冷却部材106をさらに備えている。冷却部材106は、水素を含む物質をナノワイヤ結晶質に吸着させるために、ガス貯蔵媒体101を冷却させる。ガス貯蔵媒体101は、冷却部材106により冷却され、層間距離が狭くなる。結局、水素を含む物質の分子間距離を最小化して吸着が起きやすくする。
【0054】
さらに、ガス貯蔵媒体101を保護すると共に、ガス貯蔵媒体101に水素を含む物質を流入または排出させるチャンバ104をさらに備える。このとき、チャンバ104には、上述したように、ガス貯蔵媒体101に吸脱着可能な物質または水素を含む物質を流入させる流入口104Aと、ガス貯蔵媒体101から脱着した物質を排出する排出口104Bとが設けられる。このとき、チャンバ104には、流入口104Aと排出口104Bとが1つに統合され、1つのみが設けられていてもよい。
【0055】
また、ガス貯蔵媒体101の多層構造のナノワイヤ結晶質を支持する支持部材103をさらに備えることもできる。このとき、支持部材103は、3次元構造の多角形、例えば、三角形、四角形、正方形、五角形、八角形などに形成するか、円筒状のチャンバ形態に形成することができる。このような支持部材103は、チャンバ104の内部に設置され、ナノワイヤ結晶質が露出するように上部が穿孔されてチャンバ104の流入口104Aと排出口104Bとに連通する。
【0056】
具体的には、本発明に係るガス貯蔵装置の一実施形態の動作について説明すると、次のとおりである。
まず、加熱部材105によりガス貯蔵媒体101の内部温度を上昇させ、ガス貯蔵媒体101の層間距離を最大限に広げる。その後、加圧して、外部からチャンバ104の流入口104Aを介してガス貯蔵媒体101にガスを流入させ、1気圧以上の高圧を加える。次いで、冷却部材106によりガス貯蔵媒体101の内部を冷却させながら、加熱部材105の動作を停止させる。このとき、温度が徐々に低下している間、ガス貯蔵媒体101の内部圧力をそのまま維持させ、貯蔵対象物質の分子間距離を最小化して吸着が起きやすくする。これにより、水素を含む物質をガス貯蔵媒体101に貯蔵する。その後、加熱部材105によりガス貯蔵媒体101を加熱すると、ガス貯蔵媒体101の内部に吸着している物質または貯蔵されている物質を排出させる。
【0057】
一方、図2に示すように、ガス貯蔵媒体101には、多層構造の価数変動可能な物質101A、例えば、ナノワイヤ結晶質の各層間に吸脱着可能な物質が含まれる空き空間101Bが設けられる。空き空間101Bは、試料の合成時、すでに吸脱着可能な物質がナノワイヤ結晶質と物理的結合または化学的結合をなして結合され得、また、ガス貯蔵媒体101の作製時において空いた構造として存在し得る。
【0058】
すなわち、ガス貯蔵媒体101の作製時、吸脱着可能な物質がナノワイヤ結晶質と結合して層間に吸着している場合、これらの結合は、ガス貯蔵媒体101を加温しながら、高い圧力で真空状態を形成するとき、ナノワイヤ結晶質間の熱エネルギーの増加によるナノワイヤ結晶質の熱膨張または熱エネルギーの増加により、多層構造のナノワイヤ結晶質の間が遠くなり、吸着されていた物質の熱エネルギーによる運動エネルギーの増加により分離される。
【0059】
したがって、ナノワイヤ結晶質の層間に吸着された物質を外部に排出し、その空き空間に水素を含む物質、例えば、水素分子、酸素分子、窒素分子、ヘリウム分子などの気体、または数ナノメートルの大きさ、すなわち、ナノワイヤ結晶質間の距離より小さいかまたは若干大きい物質を貯蔵することができる。このとき、結晶質間の距離より若干大きい物質が吸着可能な理由は、高温熱処理時にナノワイヤ結晶質が熱振動するようになり、2つの結晶質間の距離が若干より遠くなるからである。また、水素を含む物質を貯蔵した後、その層間距離は若干変化することもある。
【0060】
以下、多層構造のナノワイヤ結晶質間に吸着されていた物質を除去した後、その間に貯蔵対象物質を貯蔵する貯蔵方法及び排出方法について説明する。
図5は、本発明に係るガス貯蔵方法の一実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。図1及び図5に示すように、ガス貯蔵媒体101を作製した後、ガス貯蔵媒体101を加熱部材105及び冷却部材106の内部に接するようにチャンバ104内に設置する。
【0061】
まず、排出弁(図示せず)を用いて排出口104Bを開放してガス貯蔵装置のチャンバ104の内部を真空状態にしつつ、加熱部材105によりガス貯蔵媒体101を加熱し、ナノワイヤ結晶質間に吸着されていた物質をすべて除去する(S51)。
【0062】
次いで、排出口104Bを閉鎖し、温度が高い状態において、流入弁(図示せず)を用いて流入口104Aを開放して貯蔵対象物質をチャンバ104の内部に流入させる(S52)。このとき、気圧は、大気圧より高く、かつ、注入量に応じて圧力を調整することができる。
【0063】
次いで、流入口104Aを開放して加圧する状態において、温度を徐々に低下させて貯蔵対象物質をナノワイヤ結晶質の間に容易に安着させる(S53)。このとき、加熱部材105を停止させ、冷却部材106を用いて温度を徐々に低下させる。温度の低下に伴い吸着量が増加し、このとき、低下する圧力を外部から補充し続ける。
【0064】
この過程により、貯蔵対象物質がガス貯蔵媒体101に貯蔵される。
前記貯蔵対象物質の貯蔵方法において、ガス貯蔵媒体101の内部温度は、常温(21〜23℃)でも貯蔵対象物質、例えば、水素の貯蔵が可能であるが、水素を高温で吸着させてから温度を低下させると、吸着効果が増加し、温度を4.2K℃、好ましくは液体窒素温度(77K)まで低下させると、水素がより効果的にナノワイヤ結晶質に吸着し、加圧状態において極低温、すなわち、液体窒素温度以下に低下させると、水素貯蔵量をより増加させることができる。これにより、ステップS52の前に、ガス貯蔵媒体101の内部を常温及び液体窒素温度を含む極低温まで冷却するステップをさらに追加することにより、水素注入量を増加させることができる。
【0065】
また、ステップS51において、加熱処理及び真空処理方法は併用するかまたは個々の方法によりナノワイヤ結晶質に吸着した物質を脱着させることもできるが、真空処理を加熱処理と共に行うことにより、ナノワイヤ結晶質に吸着した物質の脱着をより効果的にすることができる。
【0066】
このとき、加熱処理は、ガス貯蔵媒体101の下部に設置された加熱部材105を用い、このときの温度範囲は、ナノワイヤ結晶質が溶けない範囲内で広範囲に適用可能である。このように、加熱部材105を用いてガス貯蔵媒体101を加熱処理すると共に、ナノワイヤ結晶質が含まれているガス貯蔵媒体101の空間を真空状態にすると、ナノワイヤ結晶質間の距離がより広くなり、より効率的な貯蔵空間を確保することができる。このとき、必要な真空度は高ければ高いほどよい。好ましくは、圧力は、1〜700atmの範囲または支持部材103が耐えられる限界圧力まで適用可能である。
【0067】
一方、図6に示すように、ナノワイヤ結晶質から吸着物質を排出する方法は、次のとおりである。
図6は、本発明に係るガス排出方法の一実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。図6を参照すると、加熱部材105により物質が吸着しているナノワイヤ結晶質に熱を加えて内部温度を上昇させた後、排出弁を開放して排出口104Bを介してナノワイヤ結晶質から脱着した物質を排出する(S61、S62)。このとき、物質が全体的に吸着する濃度より高い段階、すなわち、飽和段階以上では、温度を上昇させなくても排出させることができる。
【0068】
以下では、実験例により本発明の実施形態をより詳細に説明する。
[実験例]
<バナジウムナノワイヤ結晶質構造の観察>
図7は、本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質構造をAFM観察した結果を示す図で、作製されたガス貯蔵媒体の構造をAFM(Atomic Force Microscope)観察し、その結果を示している。
【0069】
図7に示すように、作製されたバナジウムナノワイヤ結晶質は網状に形成されており、個々のバナジウムナノワイヤ結晶質は、長さがマイクロメートル以上の線状に形成されていることがわかる。このとき、形成されたナノワイヤ結晶質の幅は、数ナノメートルから数十ナノメートルであり、高さは数ナノメートルから数十ナノメートル、また、長さは数マイクロメートルから数十マイクロメートルを有する直方体の構造を有する。
【0070】
<バナジウムナノワイヤ結晶質の貯蔵量の測定>
図8は、本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質の水素貯蔵量をTGA分析した結果を示す図で、実験例で作製されたガス貯蔵媒体を含むガス貯蔵装置の水素貯蔵量を分析するために、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis、TGA)を用いて実験を行い、その結果を示している。このとき、実験方法は、温度による重量(重量比)の変化を測定して試料の組成分析及び熱安定性に関する情報を提供し、本実験では、水素が貯蔵されていない状態において、水素の貯蔵量が最大どれくらいの重量%(W%)になるかを知るために、水素を貯蔵する前に、吸脱着可能な物質で満たされていたガス貯蔵媒体の質量と、吸脱着可能な物質がすべて除去されたときのガス貯蔵媒体の質量とを比較して水素の最大貯蔵量を測定した。
【0071】
図8に示すように、バナジウムナノワイヤ結晶質が含まれていた溶媒をすべて除去した状態において、バナジウムナノワイヤ結晶質をTGA分析器に挿入して、温度を0℃から徐々に上げて700℃まで上昇させた結果、バナジウムナノワイヤ結晶質の質量は500℃付近で最初の100重量%から75重量%まで減少していることがわかる。これは、バナジウムナノワイヤ結晶質に吸着していた水がすべて流出し、バナジウムナノワイヤ結晶質のみが存在するときの質量がガス貯蔵媒体の最初の質量の75重量%ということを意味し、この結果は、水素をガス貯蔵媒体の質量の最大25重量%まで貯蔵できることを表す。
【0072】
一方、ガス貯蔵媒体に貯蔵された水素貯蔵量を測定する方法は、種々知られている。ここでは、質量分析器、すなわち、QCM(Quartz Crystal Microvalance)質量分析器を用いて水素貯蔵量を測定した。QCM質量分析器の構成は、図9に示されている。
【0073】
図9は、水槽貯蔵量を測定する質量分析器を説明するための構成図である。図9に示すように、QCM質量分析器は、2つの電極301、303と、電極301、303間に介在する水晶(quartz)振動子302とを備える。その動作原理は、次のとおりである。両側の電極301、303に交流電圧(AC)を印加して水晶振動子302を振動させ、これにより共鳴が起きる振動数を決定する原理からなる。ここで、水晶振動子302の共鳴振動数は9MHzであり、その振動数で水晶振動子302上に質量のある物質を載せると、固有の共鳴振動数が変化する。このとき、共鳴振動数の変化量は、質量の変化と密接な関係を有する。すなわち、Dm=−1.068Df(ng)で表される。「1.068」は、使用している水晶の特性に関係する定数であり、単位は、ナノグラムで表される。
【0074】
このような質量分析器に貯蔵量を分析しようとするガス貯蔵媒体103を載せて、振動子を用いて振動を与え、それらの応答特性を測定する。このように作製された質量分析器を加熱及び冷却させることができ、チャンバ内に配置して、外部でそれらの特性を測定する。このとき、周波数が低くなると、質量が増加することを意味し、周波数が高くなると、質量が減少することを意味する。
【0075】
[ヘリウム貯蔵量の分析]
図10は、本発明の実験例による五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質のヘリウム貯蔵特性を示す図で、ヘリウム貯蔵量を分析したグラフであって、X軸は時間、Y軸は周波数である。
【0076】
図10に示すように、「領域I」では、温度を395Kに上昇させながら、真空を10−5torrまで維持した。真空と温度を加えたとき、次第に振動数が高くなり、質量が減少していることがわかる。これは、バナジウムナノワイヤ結晶質間の、試料の作製時に含まれていた水が流出し、質量が減少することを意味する。「領域II」では、温度をそのまま維持した状態で、圧力を11.2atmに上昇させた。圧力の上昇により、ヘリウムが、水の流出した空間に吸着し、ヘリウムの質量が次第に増加し、振動数が次第に減少していることがわかる。「領域III」では、圧力を11.2atmにそのまま維持した状態で、温度を295Kに低下させた。温度が徐々に低下するにつれ、周波数はさらに低くなり、吸着するヘリウムの量がより多くなることがわかる。結果として、前述した振動数と質量との関係を利用して、バナジウムナノワイヤ結晶質の質量と、その内部に貯蔵されたヘリウムの量とを質量比で示した値は、略3.5768wt%になることがわかった。これは、まず、QCM質量分析器のみを用いて圧力及び温度に対する補正を行うことによって得られた値である。
【0077】
[水素貯蔵量の分析]
図11は、本発明に係るガス貯蔵装置の一実施形態を説明するための構成図で、図2は、図1に示したガス貯蔵媒体の拡大構成図で、水素貯蔵量を分析したグラフであって、X軸は時間、Y軸は周波数である。
【0078】
図11に示すように、「領域I」では、ヘリウム貯蔵量の分析と同様の方法を用いて、温度を295Kに上昇させながら、圧力を10atmに維持した。「領域II」では、温度を295Kに維持した状態で、圧力を20atmまで上昇させた。これは、純粋な振動数の変化のみを示したものである。すなわち、ヘリウム貯蔵量の分析と同様に、QCM質量分析器を用いて同一の圧力と温度における初期の振動数の変化をまず測定した後、質量のある物質を載せたときに変化する振動数を測定する。その後、初期振動数と質量のある物質を載せたときに変化する振動数間の差を用いて質量を算定した。この実験から得られた水素の貯蔵量は、略1.611wt%になることがわかった。
【0079】
しかし、図11からも明らかなように、振動数は次第に減少し、圧力も20atmと比較的低い圧力を使用し、温度も常温で、条件が劣悪な状態でも水素が貯蔵されていることがわかった。これは、結果として、圧力を高め、温度を液体窒素温度まで低下させると、はるかに多い水素が貯蔵できることを意味する。
【0080】
本発明の技術思想は、好ましい実施形態で具体的に記述されたが、上記実施形態は、それを説明するためのものであって、それを制限するためのものではないことに留意しなければならない。特に、本発明は、五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質を具体例として説明したが、本発明のガス貯蔵媒体は五酸化バナジウムナノワイヤ結晶質のみに限定されない。上述したように、遷移金属とその他の金属及び元素との結合により形成された貯蔵媒体、これらの結晶質からなるバルク形態の貯蔵媒体、PtまたはPdと化学的に結合する化合物はすべて含み、単にこれらの結晶が、多層構造、すなわち、各層間に空間を確保できる構造ではすべて成り立つ。また、試料の合成時に排出されやすい物質を含む構造も可能であり、合成後に除去される構造も可能である。また、本発明は、この技術分野における通常の専門家であれば、本発明の技術思想の範囲内で多様な実施形態が可能であることを理解することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
価数変動可能な物質が互いに離隔して多層の層状構造をなし、前記物質は、化学的結合に加わらない余分な電子を含むことを特徴とするガス貯蔵媒体。
【請求項2】
前記層状構造において、各層間には、吸脱着可能な物質が分子形態で前記価数変動可能な物質と化学的または物理的に結合していることを特徴とする請求項1に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項3】
前記層状構造において、各層が、互いに同じ物質からなるか、互いに異なる物質からなることを特徴とする請求項1に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項4】
前記層状構造において、各層間が、0.1〜100nm離隔していることを特徴とする請求項1に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項5】
前記物質が、ナノワイヤ結晶質からなることを特徴とする請求項1に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項6】
前記層状構造において、各層間の空間には、前記ナノワイヤ結晶質と貯蔵対象物質とが化学的結合によって結合する構造で貯蔵されることを特徴とする請求項5に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項7】
前記化学的結合が、イオン結合、金属結合、及びファンデルワールス結合のうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項6に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項8】
前記ナノワイヤ結晶質が、半導体ナノ物質、遷移金属と結合した化合物、及び遷移金属酸化物からなる群から選択されたいずれか1つで形成されることを特徴とする請求項5に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項9】
前記遷移金属が、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHgからなる群から選択されたいずれか1つであることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項10】
前記遷移金属と結合した化合物が、LaNi、MmNi、MgNi、TiMn、TiV、TiFe、TiCo、TiVCr、TiVMn、MgCu、ZrMn、ZrV、及びLiAlからなる群から選択されたいずれか1つであることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項11】
前記遷移金属酸化物が、酸化バナジウムであることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項12】
前記酸化バナジウムが、VO、V、及びVからなる群から選択されたいずれか1つであることを特徴とする請求項11に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項13】
前記ナノワイヤ結晶質が、試料の合成時または合成後に、イオン注入によりイオンがドーピングされていることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項14】
前記イオンが、遷移金属から選択されたいずれか1つを使用することを特徴とする請求項13に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項15】
前記ナノワイヤ結晶質が、イオン交換樹脂及び溶媒をさらに追加して形成されることを特徴とする請求項8に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項16】
前記溶媒には、表面積1nm〜10000μmの物質が混合されていることを特徴とする請求項15に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項17】
前記溶媒には、炭素ナノチューブ、導電性ナノワイヤ、非導電性ナノワイヤ、及び有機物からなる群から選択されたいずれか1つのナノドット形態の物質が混合されていることを特徴とする請求項15に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項18】
前記溶媒には、ポリピロール、ポリアセチレン、及びポリエチレンからなる群から選択されたいずれか1つまたは少なくとも2つ以上のポリマーが混合されていることを特徴とする請求項15に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項19】
前記ナノワイヤ結晶質が、ナノ薄膜、ペレット、バルク、及びフィルム形態からなる群から選択されたいずれか1つの形態を有することを特徴とする請求項5に記載のガス貯蔵媒体。
【請求項20】
チャンバと、
前記チャンバの内部に設けられたガス貯蔵媒体と、
前記ガス貯蔵媒体を加熱する加熱部材と、
前記ガス貯蔵媒体を冷却する冷却部材とを備え、
前記ガス貯蔵媒体は、価数変動可能な物質が互いに離隔して多層の層状構造をなし、前記物質は、化学的結合に加わらない余分な電子を含むことを特徴とするガス貯蔵装置。
【請求項21】
前記チャンバが、
前記ガス貯蔵媒体に貯蔵対象物質が流入する流入口と、
前記ガス貯蔵媒体から前記貯蔵対象物質が排出される排出口とを備え、
前記ガス貯蔵媒体は、前記価数変動可能な物質を支持する支持部材をさらに備えることを特徴とする請求項20に記載のガス貯蔵装置。
【請求項22】
チャンバと、前記チャンバの内部に設けられたガス貯蔵媒体と、前記ガス貯蔵媒体を加熱する加熱部材と、前記ガス貯蔵媒体を冷却する冷却部材とを備えるガス貯蔵装置を用いたガス貯蔵方法において、
前記加熱部材により前記ガス貯蔵媒体を加熱するステップと、
前記ガス貯蔵媒体に貯蔵対象物質を流入させるステップと、
前記冷却部材により前記ガス貯蔵媒体を冷却させ、前記貯蔵対象物質を前記ガス貯蔵媒体の内部に貯蔵するステップとを含むことを特徴とするガス貯蔵方法。
【請求項23】
前記ガス貯蔵媒体に貯蔵対象物質を流入させるステップの前、
前記ガス貯蔵媒体を常温まで冷却させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項22に記載のガス貯蔵方法。
【請求項24】
前記ガス貯蔵媒体を加熱するステップにおいては、前記ガス貯蔵媒体の内部を真空状態に維持させ、
前記加熱部材により前記ガス貯蔵媒体を加熱するステップにおいては、前記ガス貯蔵媒体の内部に吸着している物質が脱着するように前記ガス貯蔵媒体が加熱されることを特徴とする請求項22に記載のガス貯蔵方法。
【請求項25】
前記ガス貯蔵媒体から脱着した物質を前記チャンバの外部に排出させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項22に記載のガス貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−511850(P2010−511850A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540161(P2009−540161)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006310
【国際公開番号】WO2008/069590
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(596180076)韓國電子通信研究院 (733)
【氏名又は名称原語表記】Electronics and Telecommunications Research Institute
【住所又は居所原語表記】161 Kajong−dong, Yusong−gu, Taejon korea
【Fターム(参考)】