説明

ガス遮断器

【課題】小さな駆動エネルギーで中小電流から大電流に至るまで確実に遮断可能な、コンパクト性及び遮断性能に優れたガス遮断器を提供する。
【解決手段】逆止弁41の内周側に、円筒形状のフローガイド部46を一体的に設けた点にある。フローガイド部46は操作ロッド26の軸方向の沿面に平行に伸びて形成されており、円形平板形状の逆止弁41とは所定の曲率を持って滑らかに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的な圧縮作用とアーク熱による加熱昇圧作用を利用したガス遮断器に係り、特に、アーク熱の加熱昇圧作用により蓄圧される第2蓄圧空間のガス流の流れを効率よく制御可能なガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小電流から大電流まで遮断可能な大容量のガス遮断器が求められており、しかも、駆動エネルギーを増大させることなく、小電流から大電流に至るまで、くまなく高い遮断性能を発揮することが要求されている。そのため、このような要求に応えるべく、種々の改良がなされている。例えば、機械的な圧縮作用に加えて、アーク熱による加熱昇圧作用を利用し、消弧性ガスを昇圧させてこれをアークに吹き付けて遮断するタイプのガス遮断器が知られている。
【0003】
このタイプのガス遮断器としては、アーク熱により昇圧させる空間を、可動接触子部側と固定接触子部側の両方に配置したもの(特許文献1参照)や、ガス流の整流部材と逆止弁を組み合わせてアークに曝されていない消弧性ガスをアークに吹き付けるように構成したもの(特許文献2参照)などが提案されている。前者は、可動接触子部側の昇圧空間の縮小化を図ることで、軽量化、コンパクト化が可能である。また、後者は、アークに曝されていないことで比較的低温を維持した消弧性ガスを、アークに吹き付けることができ、遮断性能の向上が期待できる。
【0004】
以下、ガス遮断器の従来例について、図7〜図11を用いて具体的に説明する。図7は遮断動作前の投入状態を示す断面図、図8は遮断動作初期の状態を示す断面図、図9は遮断動作が進み開極後の電流ピーク付近の状態を示す断面図、図10及び図11はさらに遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図である。図10は遮断電流が大きい場合、図11は遮断電流が小さい場合に相当する。
【0005】
まず、ガス遮断器の概要について説明する。図7に示すように、任意の消弧性ガスが充填された容器(図示せず)内には、可動接触子部1として定義される第1接触子部、固定の対向接触子部2として定義される第2接触子部が、容器の中心軸上に対向して配置されている。
【0006】
なお、可動接触子部1の位置関係については、対向接触子部2側の方向を前方、その反対側を後方と定義して説明する。また、可動接触子部1及び対向接触子部2間の空間を、遮断動作時にアークの発生するアーク空間と定義し、容器内の充填ガスと同圧力である空間(単純には容器の内部空間)を充填ガス雰囲気空間14と定義する。
【0007】
対向接触子部2は、容器内に固定されており、開口部34dを設けたフランジ40と、フランジ40に固定された対向アーク接触子7と、その周囲に配置され同様にフランジ40に固定された対向通電接触子5とから構成されている。
【0008】
続いて、可動接触子部1の構成について説明する。可動接触子部1には、中空の操作ロッド26が設けられている。操作ロッド26は、図示していない駆動装置によって、その軸方向に往復運動するように構成されている。操作ロッド26の中程には、ロッド開口部34cが複数形成されている。ロッド開口部34cは、操作ロッド26の中空部と、容器内の充填ガス雰囲気空間14とを連通するためのものである。また、操作ロッド26の外周面において、ロッド開口部34cと操作ロッド26前端部との中間付近にはストッパ42が固定されている。
【0009】
操作ロッド26の前端部にはフランジ27が連結されている。フランジ27の後方にはシリンダ28が一体的に設けられている。シリンダ28の中程には隔壁35が一体的に固着されている。この隔壁35を介してシリンダ28内の空間は、前後に分割されており、前方側に熱的昇圧室31が、後方側に機械的圧縮室32が、それぞれ設けられている。
【0010】
遮断動作時にアーク空間にはアーク38が発生するが、熱的昇圧室31は、このアーク38の熱エネルギーにより高温となった熱ガスを取り込み、その加熱昇圧作用によって蓄圧される空間である。一方、機械的圧縮室32は内部に円形平板状の固定ピストン33が挿入されており、遮断動作時にこの固定ピストン33による機械的圧縮作用によって蓄圧される空間である。
【0011】
また、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32とを隔てる隔壁35には隔壁開口部34bが形成されており、この隔壁開口部34bにより、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32とが空間的に連通される。さらに隔壁開口部34bの熱的昇圧室31側には浮動の逆止弁41が設けられている。逆止弁41は円形平板形状の部材から構成されており、その動作はストッパ42と隔壁35によって制限される。
【0012】
また、機械的圧縮室32内の固定ピストン33は、その内周面で操作ロッド26の外周面に対して摺動すると共に、その外周面でシリンダ28の内周面に対して摺動するように構成されている。この場合、固定ピストン33は、その後方に一体的に設けられて軸方向に伸びるピストン支持部33bによって、図示していない容器内に固定されている。さらに、固定ピストン33にはピストン開口部34eが形成されており、ピストン開口部34eにはバネ45で閉方向に蓄勢された放圧弁44が設けられている。
【0013】
ところで、フランジ27の前方には、中空かつ指状の可動アーク接触子6が連結されている。可動アーク接触子6は、対向接触子部2側の対向アーク接触子7と接離自在に配置される。また、フランジ27において可動アーク接触子6の外周基部に相当する部分にはフランジ開口穴34aが形成されている。
【0014】
さらに、このフランジ開口穴34aの外周部分で、且つ前記可動アーク接触子6を包囲するようにして、スロート部9を有する絶縁ノズル8と、可動通電接触子4とが配置されている。可動通電接触子4は、対向接触子部2側の対向通電接触子5と接離自在に配置されている。
【0015】
なお、可動アーク接触子6と絶縁ノズル8との間には、フランジ27のフランジ開口穴34aから連続して、ガス流路11が形成されている。このガス流路11は、熱的昇圧室31の内部空間とアーク空間とを接続する部分である。
【0016】
以上の構成を有するガス遮断器は、次のようにして遮断動作を実施する。遮断動作が開始すると、図7に示した状態から図8に移行する。すなわち、操作ロッド26が後方に移動し、操作ロッド26を含む可動接触子部1が一体的に移動する。これにより、容器内に固定された固定ピストン33に対し、操作ロッド26とシリンダ28が一体的に移動することになり、シリンダ28と固定ピストン33が相対移動して、シリンダ28内部後方に形成された機械的圧縮室32が圧縮される。
【0017】
図8に示した遮断動作の開始時点では、隔壁35の開口部34bに取り付けられた逆止弁41は、浮動なので、慣性力により可動接触子部1とは一体的に動作しない。つまり、逆止弁41は相対的には前方に移動したことになり、ストッパ42に当接して止まる。
【0018】
この前方への移動により逆止弁41が開き、隔壁35の隔壁開口部34bは開状態となる。さらに、機械的圧縮室32が昇圧しているため、機械的圧縮室32内から低温高密度のガス流39aが流れることになり、このガス流39aは機械的圧縮室32側から開口部34bを経て、熱的昇圧室31へと供給される。
【0019】
次に、図9に示すように遮断動作が進行し、対向アーク接触子7と可動アーク接触子6が開離すると、両アーク接触子7、6間のアーク空間にアーク38が発生する。この時、アーク38により、アーク空間は高温高圧の状態にある。このため、アーク空間は熱的昇圧室31よりも圧力が上昇し、絶縁ノズル8のスロート部9からガス流路11及びフランジ27の開口部34aを経て熱的昇圧室31へと流れる、高温のガス流39bが生じる。これにより、アーク38の熱エネルギーの一部が熱的昇圧室31に取り込まれることになる。
【0020】
特に、大電流を遮断する場合にはアーク空間は高温となり、例えばアーク38の電流が50kAの場合、その温度は容易に10000K以上に達する。このため、熱的昇圧室31は著しく昇圧し、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の間に、逆差圧が発生して熱的昇圧室31の方が機械的圧縮室32よりも圧力が大きくなる。したがって、隔壁35の隔壁開口部34bに取り付けられた逆止弁41には、後方への力が作用し、逆止弁41は後方に移動して閉塞し、隔壁35の隔壁開口部34bは閉状態となる。
【0021】
なお、このような大電流遮断時と比べて、中小電流遮断時(例えば20kA以下)では、熱的昇圧室31に急速な昇圧は起こらない。そのため、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の圧力は比較的均衡した状態をとることになり、逆止弁41の動作は、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32との圧力状態によって変化する。
【0022】
さらにストロークが進み、図10及び図11に示すように電流零点に達すると、アーク38は減衰する。そして、残留アークプラズマ状態となり、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、絶縁ノズル8のスロート部9は十分に開口する。このとき、熱的昇圧室31内のガスはガス流39cとなり、熱的昇圧室31からフランジ27の開口部34aを経てガス流路11に向かって流れる。
【0023】
ガス流39cは、ガス流路11を通過してアーク空間に達し、そこから対向アーク接触子7に向かって流れるガス流39fと、操作ロッド26の中空部に入り、操作ロッド26のロッド開口部34cに向かって流れるガス流39gとに分かれる。これらの2方向のガス流39f、39gによって、アーク38は相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。なお、操作ロッド26の開口部34cを通過したガス流39eは、充填ガス雰囲気空間14へと流れ出る(図10及び図11に図示)。
【0024】
ここで、大電流遮断時で電流零点に至った状態を図10に示す。大電流遮断時では、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32に比べて圧力が高い状態にあり、隔壁35に取り付けられた逆止弁41は閉状態である。一方、固定ピストン33に設けられた放圧弁44は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により開状態となる。したがって、ガス流39dは、機械的圧縮室32から充填ガス雰囲気空間14へと抜ける。これにより、機械的圧縮室32の過剰圧力が遮断動作を妨害する反力になることを回避できる。
【0025】
また、中小電流遮断時で電流零点に至った状態を図11に示す。中小電流遮断時では、熱的昇圧室31の圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回る。そのため、逆止弁41は再度、開状態となり、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へのガス流39aが発生する。
【0026】
以上のようなガス遮断器においては、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32が相補的に作用している。すなわち、中小電流遮断時のようにアークエネルギーが小さい場合、熱的昇圧室31では大きな圧力上昇が期待できないので、機械的圧縮室32からガス流39aを供給し、熱的昇圧室31の圧力上昇を補うことができる。
【0027】
一方、強力な吹付けが必要な大電流遮断時には、アークエネルギーが大きいので、強力なガス流39bがアーク空間から熱的昇圧室31へと供給され、熱的昇圧室31の圧力が極めて高くなる。この際、熱的昇圧室31は逆止弁41により、機械的圧縮室32から切り離されるため、熱的昇圧室31は高効率で昇圧することが可能である。そして、残留アークプラズマ状態となり、絶縁ノズル8のスロート部9が十分に開口すると、強力なガス流39cが熱的昇圧室31からガス流路11を経てアーク空間へと流れ、確実に電流を遮断することができる。
【0028】
なお、大電流遮断時では、逆止弁41が閉じることにより機械的圧縮室32へのアークエネルギーの流入が抑制されるため、機械圧縮室32の昇圧もある程度抑制されることになり、遮断動作を妨害する反力を抑えることができる。また、熱的昇圧室31においては、構成部材に作用する圧力は相殺されるため、遮断動作を妨げることはない。
【特許文献1】特開2001−67996号公報
【特許文献2】特開2003−317584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、以上のような従来のガス遮断器には次に示す問題点があった。すなわち、中小電流遮断時のように熱的昇圧室31の圧力上昇が充分ではない場合、機械的昇圧室32から熱的昇圧室31へガス流39aを供給しようとするが、この際、熱的昇圧室31に入ったガス流39aは、熱的昇圧室31を通過していく過程で熱的昇圧室31内部で拡散し、徐々に圧力が低下していく。したがって、熱的昇圧室31からガス流路11を経てアーク空間へと流れるガス流39cも圧力が低下することになり、アーク38に吹付けられるガス流39f、39gの吹付け圧力は弱くなる。
【0030】
すなわち、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へ流れ込んだ後、ガス流39aは、熱的昇圧室31内で拡散し、効率よくガス流路11へと到達することができなかった。これは、機械的圧縮の視点から見ると、熱的昇圧室31が機械的圧縮室32のデッドボリュームとして存在することになり、中小電流遮断時の吹付け圧力低下を招くことになった。
【0031】
そこで従来では、中小電流遮断時に十分な吹付け圧力を得るためには、機械的圧縮室32の断面積を大きくするか、熱的昇圧室31の体積を小さく構成することが考えられていた。しかしながら、機械的圧縮室32の断面積を大きくする場合には、駆動エネルギーが大きくなるといった新たな問題が生じる。
【0032】
一方、熱的昇圧室31の体積を小さくする場合には、中小電流に対する遮断性能は向上するが、その反面、大電流遮断時には圧力が上昇し過ぎて、熱的昇圧室31から流れ出るガス量が多くなる点が問題となる。すなわち、熱的昇圧室31からのガス流出量が増大すれば、熱的昇圧室31から短時間でガスが流れ出てしまうからである。特に、アーク38の発生時間が長い場合には熱的昇圧室31のガス密度および圧力が低下することになり、かえって遮断性能が低下する可能性があった。
【0033】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、小さな駆動エネルギーで中小電流から大電流に至るまで確実に遮断可能な、コンパクト性及び遮断性能に優れたガス遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上述した目的を達成するために、本発明は、消弧性ガスが充填された密閉容器内の中心軸上には、それぞれ通電接触子及びアーク接触子を有する第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部及び第2接触子部の各アーク接触子は、通常運転時は互いに接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するように構成され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、その内部にはアーク消弧用のガス流を発生させる蓄圧空間が形成され、さらに前記蓄圧空間内のガス流をアークに吹き付ける絶縁ノズルが設置され、前記蓄圧空間には、遮断動作過程において、機械的圧縮作用により蓄圧される第1蓄圧空間と、前記アーク空間と連通してそこから取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される第2蓄圧空間とが、隔壁を介して設けられ、前記隔壁には隣接する前記第1蓄圧空間及び前記第2蓄圧空間同士を接続する隔壁開口部が形成され、前記隔壁開口部には該隔壁開口部の閉塞及び開放を行う逆止弁が取り付けられ、前記絶縁ノズルの内部には、前記第2蓄圧空間と前記アーク空間とを空間的に接続するガス通路が設けられたガス遮断器において、前記隔壁開口部近傍には、該隔壁開口部を経て前記第1蓄圧空間から前記第2蓄圧空間へ流入したガス流が前記ガス通路に向かって流れるように、前記ガス流を方向付けるフローガイド部が設置されたことを特徴としている。
【0035】
このような構成を有する本発明においては、逆止弁が開いて、隔壁開口部が開状態にある時、第1蓄圧空間から第2蓄圧空間に入ってきた低温高密度のガス流を、フローガイド部が、絶縁ノズルのガス通路に向かって滑らかに誘導することができる。そのため、ガス流は第2蓄圧空間内部で四方に拡散することがなく、効率よくガス流路へと到達可能である。したがって、第1蓄圧空間から第2蓄圧空間を経て絶縁ノズルに至るまで、低温高密度を維持した状態でガスを流すことができ、加熱昇圧作用が小さい中小電流遮断時であっても、高い吹付け圧力を確保することができる。
【0036】
また、遮断動作の進行中、アークが生じてアーク空間の圧力が第2蓄圧空間より上昇すると、アーク空間の高温ガスがガス流路を経て第2蓄圧空間に流入するが、このとき、開口部近傍のフローガイド部は、第1及び第2の蓄圧空間を隔てる隔壁の開口部近傍にあるので、アーク空間及びガス流路からは十分に離れている。
【0037】
そのため、アーク空間側から第2蓄圧空間へ流入する高温ガスに対しては、フローガイド部がその流れを誘導するといったことがなく、第2蓄圧空間内に存在していた低温ガスと、アーク空間側からの高温ガスとの撹拌、混合を、フローガイド部が妨害することがない。
【0038】
つまり、アーク空間からの高温ガスを第2蓄圧空間内に取り入れる際、第2蓄圧空間内の低温ガスとの撹拌、混合を確実に進めることができ、高温ガスが第2蓄圧空間内のガス温度上昇に過剰に寄与することがない。したがって、加熱昇圧作用が大きい大電流遮断時であっても、第2蓄圧空間内の温度は過度に上昇することがなく、アークへ吹き付ける際のガス流温度が低温を維持することを妨げない。したがって、フローガイド部を設置した場合でも、大電流遮断時の遮断性能を、従来と同等の優れたレベルに保つことが可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明のガス遮断器によれば、隔壁開口部近傍にフローガイド部を設置して、第1蓄圧空間から第2蓄圧空間に流入したガス流を、絶縁ノズルのガス通路に向かって方向付けることにより、第2蓄圧空間内部での拡散を防いで低温高密度のガス流をガス流路へ確実に到達させることができるため、加熱昇圧作用が小さい中小電流遮断時でも高い吹付け圧力を確保可能であり、中小電流から大電流に至るまで、小さな駆動エネルギーで優れた遮断性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下には、本発明に係るガス遮断器の複数の実施形態について、図1〜図6を参照して具体的に説明する。なお、下記の実施形態において、図7〜図11に示した前記従来例と同一の部材に関しては同一符号を付して説明は省略する。また、可動接触子部1及び対向接触子部2の位置関係の定義についても同様であって、対向接触子部2側の方向を前方、その反対側を後方とする。
【0041】
(1)第1の実施形態
[構成]
本発明に係る第1の実施形態に関して、図1〜図3を参照して具体的に説明する。図1〜図3は第1の実施形態を適用したガス遮断器の断面図であり、遮断動作が進み電流零点に至った状態を示している。図1は大電流遮断時、図2は中小電流遮断時に対応しており、図3は図2の拡大図を示している。
【0042】
第1の実施形態の構成上の特徴は、逆止弁41の内周側に、円筒形状のフローガイド部46を一体的に設けた点にある。フローガイド部46は軸方向、つまり操作ロッド26の軸方向の沿面に平行方向に、伸びるように形成されており、円形平板形状の逆止弁41とは所定の曲率を持って滑らかに接続されている。なお、フローガイド部46の長さ寸法aは、逆止弁41の外径長と内径長の差bよりも小さく設定されている(符号a、bは図3に図示)。
【0043】
また、本実施形態では、逆止弁41のストッパ42aの形状及び固定位置が、図7〜図11に示した従来のストッパ42とは異なっている。すなわちストッパ42aは、従来のストッパ42のように操作ロッド26外周面に固定されるのではなく、リング状の部材からなり、隔壁35の熱的昇圧室31側で、逆止弁41を囲むようにして固定されている。ストッパ42a前端面の内径寸法は逆止弁41の外径寸法より小さく設定されており、ストッパ42a前端面が逆止弁41の外周部に当接することで、逆止弁41の動作を制限するようになっている。
【0044】
[作用及び効果]
以上の構成を有する第1の実施形態の作用効果は次の通りである。なお、本実施形態における遮断動作開始時点の動作に関しては、図8に示した従来例のそれと同じなので、従来例と重複する部分に関しては説明を省略する。ただし、遮断動作開始時点で、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31に低温高密度のガス流39aが供給される際、隔壁35の隔壁開口部34bを抜けた後のガス流39aに対しては、フローガイド部46による方向付けといった作用が現れる。この点に関しては、後段の中小電流遮断時の説明部分において詳しく述べる。
【0045】
遮断動作が進行し、対向アーク接触子7と可動アーク接触子6が開離すると、アーク空間にアーク38が発生するので、アーク空間は熱的昇圧室31より圧力が上昇する。そのため、絶縁ノズル8のスロート部9からガス流路11及びフランジ27の開口部34aを経て熱的昇圧室31に至る、高温のガス流39bが生じる。
【0046】
ガス流39bが生じるまでの動作に関しても、図9に示した従来例と同様であるが、フローガイド部46を設置しても、ガス流39bの流れが影響を受けないようになっている。すなわち、隔壁35近傍に位置するフローガイド部46は、熱的昇圧室31の中でアーク空間から最も離れた位置にあり、しかも、フローガイド部46の長さ寸法aは極めて短いので、アーク空間側から流れるガス流39bを方向付けていない。つまり、アーク空間側から熱的昇圧室31内へ流入するガス流39bに関して、フローガイド部46がそれを誘導することはない。そのため、ガス流39bは、熱的昇圧室31内の比較的低温のガスとスムーズに撹拌、混合することができる。
【0047】
仮にフローガイド部46を軸方向に長く設置した場合、このようなガスの撹拌、混合を阻害することになるので、ガス流39bが熱的昇圧室31内の操作ロッド26外周面近傍に滞留し、熱的昇圧室31内のガス温度が局所的に高くなる。その結果、アークへ吹き付ける際のガス流39cの温度が高温になってしまう。
【0048】
これに対して、本実施形態では、フローガイド部46を設置しても、それがガス流39bに与える影響がないため、加熱昇圧作用が大きい大電流遮断時であっても、アーク38へ吹き付けることになる熱的昇圧室31内のガス温度が過度に上昇することがない。したがって、従来と同等の優れた遮断性能を確実に発揮することができる。
【0049】
以上のような熱的昇圧室31へのガス流39b流入の後、さらに遮断動作が進むと、電流零点に至る。図1〜図3ではこの状態を示している。ここでは、大電流アーク38が減衰し、残留アークプラズマ状態となって、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、絶縁ノズル8のスロート部9は十分に開口し、ガス流39cが、熱的昇圧室31からフランジ27のフランジ開口穴34aを経てガス流路11に向かって流れる。
【0050】
ガス流39cは、可動アーク接触子6と絶縁ノズル8との間のガス流路11から対向アーク接触子7に向かって流れるガス流39fと、操作ロッド26の中空部から、操作ロッド26に設けられたロッド開口部34cに向かって流れるガス流39gとなる。これらの2方向のガス流39f、39gによって、アーク38は相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。
【0051】
図1に示す大電流遮断時には、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32に比べて圧力が高い状態にあり、隔壁35に取り付けられた逆止弁41は閉状態である。一方、固定ピストン33に設けられた放圧弁44は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により開状態となって、機械的圧縮室32から充填ガス雰囲気空間14へと流れるガス流39dが発生する。したがって、機械的圧縮室32の過剰圧力が遮断動作を妨害する反力になることを回避できる。
【0052】
また、図2、図3に示す中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回る。そのため、逆止弁41は開状態となり、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へと向かって低温高密度のガス流39aが流れる。ガス流39aは隔壁開口部34bを抜けてフローガイド部46に当たり、操作ロッド26の外周面に向かって方向付けされる。
【0053】
このとき、フローガイド部46は逆止弁41と所定の曲率を持って滑らかに接続しているため、ガス流39aは熱的昇圧室31へスムーズに流れていき、確実に所望の方向に誘導されて、熱的昇圧室31内でガス流39aが四散することがない。そして、ガス流39aは操作ロッド26の外周面に沿って流れ、フランジ27の開口穴34aを経てガス通路11に向かうガス流39cとなる。
【0054】
以上のように、ガス流39aは熱的昇圧室31内部で拡散することがなく、ガス流39cとして、効率よくガス流路11へと到達することが可能である。したがって、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31を経てガス通路11に至るまで、低温高密度を維持したまま、ガス流39a、39cを一連の流れとして流すことができる。これにより、加熱昇圧作用が小さい中小電流遮断時であっても、高い吹付け圧力を確保可能であり、良好な遮断性能を獲得することができる。
【0055】
上述した第1の実施形態によれば、中小電流遮断時には、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へ流入した低温高密度のガス流39aを、フローガイド部46により熱的昇圧室31内部で拡散させることなく、滑らかに上流側ガス流路11へと誘導する流路を構成することができるため、良好な遮断性能を得ることができる。
【0056】
また、大電流遮断時には、フローガイド部46は、アーク空間側から熱的昇圧室31内部に流入する高温ガス流が、冷たいガスと撹拌混合する流れ空間を遮ることのない形状をしている。そのため、加熱昇圧作用が大きい大電流遮断時であっても、アーク38へ吹き付けることになる熱的昇圧室31内のガス温度の過度の上昇を抑止でき、従来の消弧室と同等の遮断性能を得ることができる。したがって、小さな駆動エネルギーであっても、小電流から大電流に至るすべての電流領域で良好な遮断性能を示す、大容量ガス遮断器を実現することができる。
【0057】
(2)第2の実施形態
[構成]
続いて、本発明に係る第2の実施形態に関して、図4を参照して具体的に説明する。図4は中小電流遮断時で電流零点に至った状態での拡大断面図である。
【0058】
第2の実施形態は、基本構成は上記第1の実施形態と同様であるが、開口部34bの熱的昇圧室31側端部に曲率部47を設けた点に特徴がある。曲率部47は、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へ流入するガス流39aを、フローガイド部46に向かって方向付ける傾斜面又は湾曲面を有している。
【0059】
[作用及び効果]
以上の構成を有する第2の実施形態においては、前記第1の実施形態の持つ作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。すなわち、開口部34bの熱的昇圧室31側端部に曲率部47を設けたので、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へガス流39a流入する際、ガス流39aは曲率部47に沿って、より滑らかに開口部34bを流れることができる。したがって、フローガイド部46へとスムーズに流れることが可能となる。これにより、中小電流遮断のさらなる向上が望める。
【0060】
(3)第3の実施形態
[構成]
次に図5を用いて、本発明に係る第3の実施形態を説明する。図5は中小電流遮断時で電流零点に至った状態での拡大断面図である。第3の実施形態は、基本構成は上記第1及び第2の実施形態と同様であり、その構成上の特徴は、熱的昇圧室31の内壁を構成する操作ロッド26の外周面に、前方に傾くテーパー面48を形成した点にある。テーパー面48は、フローガイド部46により方向付けられたガス流39aをガス通路11へと導くようになっている。
【0061】
[作用及び効果]
以上の構成を有する第3の実施形態では、前記第2の実施形態の持つ作用効果に加えて、以下のような独自の作用効果が得られる。すなわち、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へ流入するガス流39aは、フローガイド部46により流れをガイドされて、アーク空間に流れるガス流39cとなるが、その間の流れであるガス流39hは、操作ロッド26外周面のテーパー面48に沿って流れ、ガス通路11へ誘導する。
【0062】
このため、ガス流39hは熱的昇圧室31へ流入してからガス流路11に至るまで、非常にスムーズに流れることができ、ガス流39cを安定してアーク空間へ供給することができる。このように、本実施形態では、操作ロッド26外周面にテーパー面48を設けたことで、効率よくガス流39cを流すことができ、アーク空間に効果的に機械圧縮室32の低温高密度ガスを供給することができる。これにより、中小電流遮断性能をいっそう向上させることが可能である。
【0063】
(4)他の実施形態
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、各部材の形状や寸法、配置数等は適宜変更可能であり、各実施形態を自由に組合せても良い。例えば、開口部34bに対する改良として、図6に示すように、軸方向に対して傾けた傾斜開口部49を隔壁35に設けても良く、上記第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の断面図であり、大電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図2】第1の実施形態の断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図3】図2の拡大断面図。
【図4】本発明に係る第2の実施形態の拡大断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図5】本発明に係る第3の実施形態の拡大断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図6】本発明に係る他の実施形態の拡大断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図7】従来のガス遮断器の断面図であり、遮断動作前の投入状態を示す。
【図8】従来のガス遮断器の断面図であり、遮断動作初期の状態を示す。
【図9】従来のガス遮断器の断面図であり、開極後の大電流期間における状態を示す。
【図10】従来のガス遮断器の断面図であり、大電流遮断において電流零点に至った状態を示す。
【図11】従来のガス遮断器の断面図であり、中小電流遮断において電流零点に至った状態を示す。
【符号の説明】
【0065】
1…可動接触子部
2…対向接触子部
4…可動通電接触子
5…対向通電接触子
6…可動アーク接触子
7…対向アーク接触子
8…絶縁ノズル
9…スロート部
11…ガス流路
14…充填ガス雰囲気空間
26…操作ロッド
27、40…フランジ
28…シリンダ
31…熱的昇圧室
32…機械的圧縮室
33…固定ピストン
34a…フランジ開口穴
34b…隔壁開口部
34c…ロッド開口部
35…隔壁
38…アーク
39a〜39h…ガス流
41…逆止弁
42、42a…ストッパ
44…放圧弁
45…バネ
46…フローガイド部
47…曲率部
48…テーパー面
49…傾斜開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器内の中心軸上には、それぞれ通電接触子及びアーク接触子を有する第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、
前記第1接触子部及び第2接触子部の各アーク接触子は、通常運転時は互いに接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するように構成され、
前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、その内部にはアーク消弧用のガス流を発生させる蓄圧空間が形成され、さらに前記蓄圧空間内のガス流をアークに吹き付ける絶縁ノズルが設置され、
前記蓄圧空間には、遮断動作過程において、機械的圧縮作用により蓄圧される第1蓄圧空間と、前記アーク空間と連通してそこから取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される第2蓄圧空間とが、隔壁を介して設けられ、
前記隔壁には隣接する前記第1蓄圧空間及び前記第2蓄圧空間を空間的に接続する隔壁開口部が形成され、
前記隔壁開口部には該隔壁開口部の閉塞及び開放を行う逆止弁が取り付けられ、
前記絶縁ノズルの内部には、前記第2蓄圧空間と前記アーク空間とを空間的に接続するガス通路が設けられたガス遮断器において、
前記隔壁開口部近傍には、該隔壁開口部を経て前記第1蓄圧空間から前記第2蓄圧空間へ流入したガス流が前記ガス通路に向かって流れるように、前記ガス流を方向付けるフローガイド部が設置されたことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記フローガイド部は、前記隔壁開口部と前記ガス通路を結ぶ経路上に配置された円筒状又はリング状の部材から構成されたことを特徴とする請求項1記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記フローガイド部は、所定の曲率を持って前記逆止弁に一体的に設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記フローガイド部は、前記隔壁開口部の前記第2蓄圧空間側の端部に形成された傾斜断面部又は湾曲断面部から構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記第2蓄圧空間の内壁には、前記フローガイド部により方向付けられたガス流を、前記ガス通路へと導くための傾斜面又は湾曲面が設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記隔壁開口部の内周部には、前記第1蓄圧空間から前記第2蓄圧空間へ流入するガス流を、前記フローガイド部に向かって方向付ける傾斜面又は湾曲面が設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−289614(P2009−289614A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141305(P2008−141305)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】