説明

ガス遮断器

【課題】製品の長寿命化ならびに環境負荷の低減化に寄与すると共に、コンパクト化および低コスト化を実現して、高い遮断性能および信頼性を発揮することができるガス遮断器を提供する。
【解決手段】絶縁ノズル6の内部に、絶縁ノズル6と同心を保つようにして円筒形のノズル内絶縁部材32aが設けられている。ノズル内絶縁部材32aは、固定アーク接触子7aにおいて可動アーク接触子7bと向かい合う側を先端側として、その先端側端面に強固に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークに絶縁ガスを吹き付けて消弧するパッファ形のガス遮断器に係り、特に、絶縁ガスを噴射する絶縁ノズルの構成に改良を施したガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器は、絶縁ガスを充たした密閉容器内に一対の接点を配置した機器であり、電力送配電系統にて電流の開閉スイッチとして多用されている。以下、パッファ形のガス遮断器の従来例について、図6および図7を参照して具体的に説明する。
【0003】
図6はパッファ形ガス遮断器の断面図、図7はアーク8近傍の拡大断面図であって、共に遮断動作途中の状態を示している。これらの図に示すガス遮断器の各部品は基本的に同軸円筒形状であり、図7では中心線の上側半分のみを描いている。
【0004】
図6に示すように、パッファ形ガス遮断器には接地された金属あるいは碍子等からなる密閉容器1が設けられている。密閉容器1内には、絶縁ガスであるSF6ガス(六弗化硫黄ガス)などの消弧性ガス2が充填されている。SF6ガスは、消弧性能や電気絶縁性能に優れており、これを充たした電流開閉装置が高電圧送電系統では主流となっている。
【0005】
密閉容器1内には一対の接点として、固定接触部21および可動接触部22が互いに対向して接離自在に配置されている。固定接触部21が密閉容器1内に固定されているのに対し、可動接触部22は図示しない操作ロッドを介して駆動機構に連結されており、図6の左右方向に移動自在に設けられている。これら接触部21、22は運転時に高電圧が印加される部分であり、支持絶縁物12(図6では固定接触部21側のみに図示)によって絶縁性を確保しつつ機械的に密閉容器1内に支持されている。
【0006】
また、固定接触部21および可動接触部22にはそれぞれ固定アーク接触子7aおよび可動アーク接触子7bが設けられている。これらアーク接触子7a、7bは、通常運転時では接触導通状態にあり、遮断動作時では可動接触部22に伴う可動アーク接触子7bの移動によって両者は開離するようになっている。これらアーク接触子7a、7b同士が離れるとき、両アーク接触子7a、7b間の空間にはアーク8が発生する。
【0007】
続いて、固定接触部21の構成について説明する。固定接触部21において、可動接触部22と向かい合う側と反対側(図6の左側)には、金属製の排気筒9が取付けられている。排気筒9にはアーク8の発生空間から固定接触部21側に向かって流れる固定側熱ガス流10aが通過するようになっている。この固定側熱ガス流10aはアーク8付近を上流として排気筒9を抜け、密閉容器1の内部空間側が下流となっている。
【0008】
また、可動接触部22の構成は次の通りである。可動接触部22には、可動アーク接触子7bに連なって中空ロッド11が設けられている。中空ロッド11は固定接触部21と向かい合う側と反対側(図6の右側)に向かって延びて形成される。この中空ロッド11にはアーク8の発生空間から可動接触部22側に向かって流れる可動側熱ガス流10bが通過するようになっている。すなわち、可動側熱ガス流10bも固定側熱ガス流10aと同様、アーク8の発生空間を上流とし、中空ロッド11を抜けて密閉容器1の内部空間側が下流側となっている。
【0009】
さらに可動接触部22には、パッファ形ガス遮断器の特徴的な構成部としてガス流発生手段が設けられている。ガス流発生手段は、パッファ室5からガス流10cを発生させる手段であって、このガス流10cがアーク8に吹付けられるガスの流れとなり、アーク8に吹き付けられた後、上記ガス流10a、10bに分流する。
【0010】
ガス流発生手段の主たる構成部材は、密閉容器1に固定されるピストン3と、ピストン3を摺動自在に収納するシリンダ4であり、シリンダ4の内部空間がパッファ室5となり、シリンダ4の先端側(図6の左側)にパッファ室5と連通する絶縁ノズル6を配置している。このうち、シリンダ4は可動接触部22に取り付けられている。また、絶縁ノズル6は、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐熱性の絶縁物からなり、パッファ室5内の消弧性ガス2を前記ガス流10cとして噴射する部分であって、ガス流路6aが最も狭まった部分がスロート部6bとなっている。
【0011】
次に、絶縁ノズル6とアーク接触子7a、7bとの径寸法の関係について説明する。前述したように、図6および図7は遮断動作途中の状態を示しているので、アーク接触子7a、7bは互いに離れているが、ガス遮断器が投入状態すなわちスイッチとして接点が「閉」状態となる時には、両アーク接触子7a、7bは接触導通状態となる必要がある。
【0012】
そこで、図7に示すように固定アーク接触子7aの外径φF1と、可動アーク接触子7bの内径φM1との大きさはφF1>φM1の関係となり、必ず、移動する可動アーク接触子7bが、固定アーク接触子7aに当接するようになっている。
【0013】
また、絶縁ノズル6は、アーク接触子7a、7b間に発生したアーク8に向かってガス流10cを吹付けるので、絶縁ノズル6がアーク接触子7a、7bを取り囲む形状となっているので、当然ながら、スロート部6bの内径φN1は、固定アーク接触子7aの外径φF1よりも大きく設定しなくてはならない。つまり、絶縁ノズル6とアーク接触子7a、7bとの径寸法の関係をまとめると、径の大きさは絶縁ノズル6、固定アーク接触子7a、可動アーク接触子7bの順になっており、φN1>φF1>φM1といった関係が成立している。
【0014】
続いて、以上の構成を有するガス遮断器のアーク遮断過程について、図7を参照して説明する。ガス遮断器の遮断過程では、図示されない駆動機構が動作することで、可動接触部22が固定接触部21から離れるように図7の右方向に移動し、これに伴って可動接触部22に固定されたシリンダ4もまた図7の右方向に移動する。
【0015】
このとき、シリンダ4内のピストン3は相対的に図7の左方向に移動してパッファ室5を圧縮するので、パッファ室5内の消弧性ガス2の圧力は上昇する。その結果、パッファ室5内の消弧性ガス2が高圧力のガス流10cとなって絶縁ノズル6に導かれる。そのため、絶縁ノズル6はアーク接触子7a、7b間に発生したアーク8に対しガス流10cを強力に吹付ける。このガス流10cにより、導電性のアーク8は消滅し、電流を確実に遮断する。
【0016】
高温のアーク8に吹付けられたガス流10cは、高温状態となり、固定側熱ガス流10aおよび可動側熱ガス流10bに分流して、両アーク接触子7a、7b間のアーク8の発生空間から遠ざかるように流れていき、それぞれ排気筒9、中空ロッド11を通過して、最終的には密閉容器1内へと放散する。
【0017】
上述したアーク遮断過程における、ガス流10cの吹付けによるアーク8遮断の物理メカニズムは、次の通りである。なお、ここでは前記図7に加え、図8を用いて説明する。図8上段は絶縁ノズル6のスロート部6bにおける径方向断面図であり、図8下段ではスロート部6b内の温度分布を示している。
【0018】
高圧力となっているパッファ室5から絶縁ノズル6へ流れ込んだガス流10cは、絶縁ノズル6のガス流路6aのうち最も狭まったスロート部6bにて最も流速が速くなる。また、アーク8には電流が流れているため、ジュール発熱により高温状態となっている。
【0019】
つまり、ガス流10cをアーク8に吹付けているときの状態は、高温であるアーク8の周囲に、それよりも低温のガス流10cが高速で流れていることになる。したがって、アーク8の遮断時における絶縁ノズル6のスロート部6b内の温度分布は、図8下段に示すように、中心であるアーク8付近では高くなり、周辺であるスロート部6bの壁面に近づくほど低くなっており、その温度勾配は非常に急峻である。
【0020】
このため、アーク8から周辺の低温かつ高速で流れるガス流10cの中では、中心部から周縁部へと向かって、熱の流れ41(図8に図示)が生じており、アーク8は熱を奪われて冷却される。アーク8の導電率は温度低下に対して単調に減少するので、アーク8の冷却に伴いその導電性は著しく低下する。その結果、アーク8は絶縁物となるまで冷却され、確実な電流遮断が可能となる。
【0021】
また、アーク8の温度は過電流ピーク付近で数万Kに達するが、この点も、電流遮断に寄与している。すなちわ、アーク8の遮断過程中、絶縁ノズル6は極めて高温のアーク8に曝され続けるため、絶縁ノズル6の構成材料であるポリテトラフルオロエチレンなどの絶縁物が、溶融、ガス化することになる。その結果、図7に示すようにスロート部6bの内壁面から溶発ガス31を発生することが知られている。
【0022】
したがって、絶縁ノズル6からアーク8に向かって吹付けられるガス流10cの成分は、消弧性ガス2単体ではなく、消弧性ガス2と溶発ガス31との混合ガスとなる。固体である絶縁ノズル6の構成材料がガス化すると、その体積は大幅に増大するので、溶発ガス31の体積は大きい値となる。
【0023】
つまり、絶縁ノズル6からの溶発ガス31の発生はパッファ室5の圧力をさらに上昇されることができ、ガス流10cの高圧化を促し、アーク遮断に好ましい作用を与えることができる。以上が、パッファ形ガス遮断器の代表的な構成およびアーク遮断原理である。
【0024】
上記のようなパッファ形ガス遮断器は、パッファ室5内に存在する消弧性ガス2を、電流遮断時に生じるアーク8に吹付けることによって、高い消弧性能を発揮することができる。したがって、72kV以上の高電圧送電系統において保護用開閉器として広く使用されており、その改良も種々進められている。
【0025】
例えば特許文献1〜3などの従来技術が知られている。ここでは、図示による詳細な説明は省略するが、前記図7を参照して概略を説明する。特許文献1は、可動接触部22側の中空ロッド11の周囲に穴を形成したものである。アーク8の発生により可動側熱ガス流10bは高熱となるので、アーク8の遮断動作初期に、中空ロッド11の穴(図7では図示せず)を通じて、高熱の可動側熱ガス流10bをパッファ室5内に積極的に取り込むことができる。これにより、パッファ室5内の高圧化を図っている。
【0026】
また、特許文献2記載のガス遮断器では、パッファ室5を軸方向に2分割して、アーク8に近い方のパッファ室5の容積を限定することで、特に大電流遮断時にアーク8への高い吹付け圧力を獲得するようになっている。しかも、パッファ室5の分割部に逆止弁(図7では図示せず)を設けている。これによりピストン3に直接高い圧力が作用するのを避けており、可動接触部22の駆動力が増大することを防止している。
【0027】
さらに、特許文献3記載のガス遮断器の特徴はアーク8の径方向に流れ成分を発生するガス流発生手段に加えて、アーク8の径方向に磁気圧を発生する磁界発生手段(図7では図示せず)を設置した点にある。このようなガス遮断器によれば、アーク8の発生空間の一部で、アーク8を径方向に絞りながら消弧することが可能となる。
【0028】
すなわち、特許文献3の技術では、ガス流による流体的な作用と、磁界による電磁気的な作用という互いに干渉しない独立した2つの作用の相乗効果を得ることができ、効率よくアーク径を絞ってアーク時定数を小さくすることが可能である。このため、アーク8を迅速に消弧することができる。
【0029】
以上のような特許文献1〜3の従来技術によれば、ピストン3による機械的な圧縮作用に加えて、パッファ室5の圧力を上昇させるエネルギーとして、アーク8の熱エネルギーや、磁界による電磁エネルギーを積極的に活用することにより、消弧性ガス2の吹付け圧力を高めることができ、さらなる遮断性能の向上が図れる。
【0030】
また、同じパッファ室5の圧力上昇が得られるガス遮断器と比較すると、他のエネルギーを利用する分だけ、ピストン3による機械的圧縮への依存度が相対的に低減することになる。このため、小形のピストン3でも電流遮断に必要な圧力上昇を得ることが可能となる。
【0031】
したがって、ガス遮断器の小形化、ひいては密閉容器1に充填されるガス容量の低減に貢献することができる。また、小形ピストン3の導入は、可動接触部22の駆動に必要なエネルギーが低減することにもなり、駆動機構の小形化、低コスト化の寄与することになり、機械的な信頼性ならびに経済性を高めることができる。
【0032】
ところで、アーク8の熱エネルギーを積極的に利用するタイプのガス遮断器では、パッファ室5内に十分な量の消弧性ガス2が存在しなければ、パッファ室5内の圧力が上昇しにくい、または、パッファ室5内の圧力が上昇してもすぐに低下してしまう。
【0033】
これでは、パッファ室5にアーク8の熱エネルギーを取り込んだとしても、アーク8による熱的な圧縮作用を効果的に引き出すことができなくなる。また、アーク8による熱的な圧縮作用の利用度が減れば、機械的な圧縮作用を相対的に低減させることも困難となる。その結果、駆動力の低減やガス容量の増大防止といった、機器のコンパクト化につながる効果を得ることも難しくなる。
【0034】
したがって、アーク8の熱エネルギーをパッファ室5に取り込むタイプのガス遮断器では、絶縁ノズル6のスロート部6bにおけるガス流路6aの流路断面積S1(図7に図示)を小さく構成して、絶縁ノズル6から噴射されるガス流量を絞ることによって、パッファ室5から排出されるガス流量を抑制することが重要となっている。
【0035】
しかしながら、ガス流路6aの流路断面積S1を単純に小さくすると、新たな問題が生じることになる。すなわち、ガス流路6aの流路断面積S1の縮小化は絶縁ノズル6のスロート部6bの内径φN1の小径化にほかならない。上述したように、絶縁ノズル6と、アーク接触子7a、7bにおける径寸法に関しては、接触子7a、7b間の接触導通状態の確実性を踏まえて、φN1>φF1>φM1という関係は動かない。
【0036】
したがって、絶縁ノズル6のスロート部6bの内径φN1を細くすると、固定アーク接触子7aの外径φF1および可動アーク接触子7bの内径φM1は、それよりも、さらに細くせざるを得なくなる。つまり、アーク接触子7a、7bは非常に細い部材から構成されることになる。その結果、アーク接触子7a、7bは電流遮断時に損耗し易くなり、部材としての耐久性(具体的にはアーク接触子7a、7bを交換なしで遮断できる回数)が低下した。
【0037】
また、ガス遮断器が開極している状態では、両アーク接触子7a、7b間には高電圧が印加され、それに対し電気絶縁状態を保たねばならない。このとき、アーク接触子7a、7bの径が細いと、同部先端の電界が高くなる。したがって、高電界に抗して確実な遮断動作を実現するためには、アーク接触子7a、7bの開離距離や開離スピードを増大させる必要がある。
【0038】
すなわち、アーク8の熱エネルギーをパッファ室5の圧力上昇に利用することで、せっかく駆動エネルギーの低減化を図ったとしても、アーク接触子7a、7bが小径化することで開離距離や開離スピードが増大させてしまえば、その分だけ駆動エネルギーの低減効果が薄まることになり、機器のコンパクト化が鈍化することになった。
【0039】
上記の問題点を解消するための従来技術としては、例えば特許文献4記載のガス遮断器が提案されている。この技術では、絶縁ノズル6内部のガス流路断面積を変更するために、写真機などに使われる虹彩絞り構造を持つガス流路調節機構(図示せず)を設けており、このガス流路調節機構の働きによって、接触部の開極動作に応じて絶縁ノズル6のガス流路6aの流路断面積S1を縮小するように構成している。
【0040】
つまり、特許文献4記載のガス遮断器では、ガス流路調節機構によりガス流路6aの流路断面積S1を縮小させることで、接触部の開極動作時に絶縁ノズル6から流れるガス流10c流量を抑制している。これにより、パッファ室5にアーク8の熱エネルギーを取り込んだ時点でパッファ室5内に十分な量の消弧性ガス2が存在させることができ、パッファ室5の圧力上昇に対するアーク8の熱エネルギーの寄与度を高めることが可能となる。
【0041】
しかも、ガス流路調節機構を絞って絶縁ノズル6におけるガス流路6aの流路断面積S1を調節するので、絶縁ノズル6のスロート部6bの内径φN1自体は細くしないで済む。このため、アーク接触子7a、7bの径寸法もまた、細くする必要が無く、小径化によるアーク接触子7a、7bの耐久性低下ならびにアーク接触子7a、7b先端部の電界上昇といった不具合を回避することができる。したがって、アーク接触子7a、7b先端部の電界抑制が可能となり、接触子7a、7bの開離距離や開離スピードの増大は不要となる。その結果、駆動エネルギーの低減化や機器のコンパクト化を進めることができる。
【0042】
以上述べたように、特許文献4記載のガス遮断器では、ガス流路調節機構を設けたことで、絶縁ノズル6を通じてパッファ室5から排出されるガス流量を抑制することができ、アーク8の熱エネルギーを利用してパッファ室5の圧力上昇を図って、遮断性能のさらなる向上を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特公平7−97466号公報
【特許文献2】特公平7−109744号公報
【特許文献3】特開2001−283693号公報
【特許文献4】特開2004−39312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
しかしながら、従来のパッファ形ガス遮断器には次のような課題が指摘されていた。すなわち、パッファ形ガス遮断器は、消弧性ガス2をアーク8に吹き付ける構成なので、消弧性ガス2の持つ冷却性が遮断性能を大きく左右する。従来、消弧性ガス2としては、冷却性に優れたSF6ガスを広く用いているが、このSF6ガスの使用には昨今、次のような問題がある。
【0045】
SF6ガスは地球温暖化への影響が高い人工ガスと認識されており、環境面への配慮から、その使用量の削減が望まれている。このため、SF6ガスの代替ガスとして、環境への負荷が少ない自然由来のガス、例えばN2ガスやCO2ガスなどが検討されている。
【0046】
しかしながら、これらの代替ガスを使用した場合、ガスの物理化学的性質の違いからSF6ガスに比べて冷却性が低く、アーク8の冷却効果が低下することが問題となっていた。そこで、たとえN2ガスやCO2ガスを使用した場合に、消弧性ガス2の冷却性能に頼るのではなく、構造的にアーク8の冷却効果を高めることが急務となっていた。
【0047】
また、特許文献4記載のガス遮断器では、アークの熱エネルギーをパッファ室の圧力上昇に積極的に利用するタイプにあって、ガス流路調節機構を備えたことにより、絶縁ノズルから流れるガス流量を効果的に抑制することができ、パッファ室の圧力上昇に対するアーク熱の寄与度を高めることが可能であるが、ガス流路調節機構として、写真機などに利用される虹彩絞り構造を採用している。そのため、ガス流路調節機構は構成部材数が多くなり、しかも各部が連動する構造なので連動部分がスムーズに動作するように調整作業や組立作業に時間がかかる。すなわち、絶縁ノズルからのガス流量を抑制する部材に関して、製造コストが高いといった不具合があった。
【0048】
本発明は、以上のような課題を解決するために提案されたものであり、製品の長寿命化ならびに環境負荷の低減化に寄与すると共に、コンパクト化および低コスト化を実現して、高い遮断性能および信頼性を発揮することができるガス遮断器を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記目的を達成するために、本発明は、ガスで充たされた密閉容器内に1対の接点を接離自在に配置し、前記接点同士を開離させた時に発生するアークに前記ガスを吹付けるガス流発生手段を有し、前記ガス流発生手段は、少なくとも1つの蓄圧空間と、前記蓄圧空間の圧力を上昇せしめる少なくとも1つの圧力上昇手段と、前記蓄圧空間と前記アークとを結ぶ少なくとも1つのガス流路と、前記蓄圧空間からのガスを整流し前記アークに導くための絶縁ノズルとからなるガス遮断器において、前記絶縁ノズルの内部に当該絶縁ノズルと同心状にノズル内絶縁部材を配置し、前記絶縁ノズルの内壁部と前記ノズル内絶縁部材の外壁部との隙間に前記アークが発生し且つ前記ガスが流れるように構成したことを特徴としている。
【0050】
以上の構成を有する本発明では、絶縁ノズル内にノズル内絶縁部材を配置したことで、遮断動作時に発生する高温のアークが、絶縁ノズルの内壁部だけでなく、ノズル内絶縁部材の外壁部とも接触することで、構造的にアークを冷却することができる。これにより、冷却性の低いガスを使用した場合でも優れた遮断性能を確保することができ、環境負荷の低いガスを利用することが可能となる。したがって、環境調和性と良好な遮断性能を両立させることができる。
【0051】
また、絶縁ノズルは、ノズル内絶縁部材を組み込んだ分、ガス流路断面積を縮小化することができ、蓄圧空間から排出されるガス流量を抑制することが可能となり、蓄圧空間の圧力上昇に関するアーク熱の利用度を高めることができる。しかも、絶縁ノズルの内径自体は細くしなくて済むため、絶縁ノズルの内側に位置する部材の小径化は不要となる。
【0052】
その結果、絶縁ノズルの内側に位置する部材の耐久性を確保することができ、製品寿命を延ばすことができる。しかも、極端に小径化する部材が存在しないので、高電界の発生を回避することができ、開離距離や開離速度を抑えて、コンパクト化や駆動エネルギーの低減化が可能となる。さらに、以上のような作用をもたらすノズル内絶縁部材は、絶縁ノズルと同心状のシンプルな構成でよく、虹彩絞り構造をとるガス流路調節機構などと比べて部材数は格段に少なく、可動部分も無いため、製造コストは非常に安価で済み、良好な経済性を獲得することができる。
【発明の効果】
【0053】
以上のような本発明のガス遮断器によれば、絶縁ノズルの内部に同心状のノズル内絶縁部材を設けるといった極めて簡単な構成により、製品の長寿命化ならびに環境負荷の低減化に寄与すると共に、コンパクト化および低コスト化を実現して、高い遮断性能および信頼性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明に係るガス遮断器の実施形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。なお、図6〜図8に示した従来技術と同様の部材に関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0055】
(1)第1の実施形態
(構成)
本発明に係る第1の実施形態について、図1および図2を用いて説明する。図1はガス遮断器の遮断動作途中のアーク近傍の状態を示しており、各構成部材は回転軸対称形状であるため、中心線の上側半分のみを描いている。
【0056】
図1において図示されていない部分は、アーク8の熱エネルギーをパッファ室5の圧力上昇に積極的に利用するタイプの従来のガス遮断器と同様とする。また、図2上段は絶縁ノズル6のスロート部6bにおける径方向断面図であり、図2下段ではスロート部6b内の温度分布を示している。
【0057】
第1の実施形態において、従来のガス遮断器の構成と最も顕著に異なる点は、絶縁ノズル6の内部に、絶縁ノズル6と同心を保つようにして円筒形のノズル内絶縁部材32aが設けられた点にある。また、本実施形態における絶縁ノズル6のガス流路61aは、ノズル内絶縁部材32aの外径φIと絶縁ノズル6のスロート部6bの内径φN2から挟まれてパイプ状となり、ここに発生するアーク8の形状はリング状に近くなる。
【0058】
ノズル内絶縁部材32aは、絶縁ノズル6と同じく、高温のアーク8への耐久性がある絶縁物、例えばポリテトラフルオロエチレンなどから構成される。ノズル内絶縁部材32aは、固定アーク接触子7aにおいて可動アーク接触子7bと向かい合う側を先端側として、その先端側端面に強固に接合されている。ノズル内絶縁部材32aと固定アーク接触子7aとの接合面の周囲には、可動アーク接触子7b側に延びる先端部7cが形成されている。
【0059】
つまり、ノズル内絶縁部材32aと固定アーク接触子7aとの接合面には、金属である固定アーク接触子7aと、絶縁物であるノズル内絶縁部材32aと、消弧性ガス2という3種類の媒体が接触する三重点部33が存在し、この三重点部33は固定アーク接触子7aの先端部7cよりも奥まった側(図1において先端部7cの左側)に位置するように構成されている。
【0060】
また、ノズル内絶縁部材32aの外径φIの寸法は、可動アーク接触子7bの内径φM2の寸法よりも小さく設定されている。本実施形態における絶縁ノズル6のスロート部6b内径をφN2、固定アーク接触子7aの外径をφF2とした場合、アーク接触子7a、7b間の接触導通状態の確実性を鑑みて、φN2>φF2>φM2という関係は動かないので、φN2>φF2>φM2>φI(部材名で言えば、絶縁ノズル6>固定アーク接触子7a>可動アーク接触子7b>ノズル内絶縁部材32a)という関係が成立することになる。
【0061】
ここで、絶縁ノズル6のスロート部6b内径φN2について、従来の絶縁ノズル6のスロート部6b内径φN1と同等の大きさとすると、絶縁ノズル6の内部にノズル内絶縁部材32aを組み込んでいる分だけ、ガス流路61aの流路断面積S2は、従来のガス流路6aの流路断面積S1と比べて小さく設定される。
【0062】
なお、絶縁ノズル6、アーク接触子7a、7bおよびノズル内絶縁部材32aは、全て回転軸対称形状(すなわち断面が円形)である必要はない。ただし、前記部材を回転軸対称形状としない場合でも、その寸法は、上記の通りφN2>φF2>φM2>φIの関係を概ね維持して、ガス遮断器の投入動作を保証するように構成される。
【0063】
(作用効果)
以上の構成を有する第1の実施形態の作用効果としては、まずアーク8の冷却性を高めた点、それも消弧性ガス2の冷却性能に依存するのではなく、構造的な改良によりアーク8の冷却性を高めた点にある。すなわち、アーク接触子7a、7b間を閃絡するアーク8は、絶縁ノズル6およびノズル内絶縁部材32aの間で構成されるパイプ状のガス流路61a中で点弧する。このとき、絶縁ノズル6およびノズル内絶縁部材32aは互いに同心を保つように強固に固定保持されている。
【0064】
そのため、アーク8は一方向に偏ることはなく、図2上段に示すようにガス流路61a内に同心円状に点弧する。つまり、ガス流路61a内で点弧するアーク8はリング状となり、その外周側と内周側からガス流10cが接触する。この場合の絶縁ノズル6のスロート部6bにおける温度分布を図2下段に示す。
【0065】
すなわち、アーク8の冷却は、アーク8高温部と、その周囲を流れる低温のガス流10cとの接触面積が大きいほど顕著に行われる。図8に示した従来構造が絶縁ノズル6の内壁面と、アーク8の外周部とが接触していたのに比べて、第1の実施形態では、同じく絶縁ノズル6の内壁面とアーク8の外周側との接触に加えて、ノズル内絶縁部材32aの外壁部の表面とアーク8の内表側が接触している。つまり、アーク8による高温部と周囲の低温ガスとの接触面積は、従来と比べてほぼ倍増し、遮断性能は飛躍的に向上する。
【0066】
第1の実施形態では、以上のようにして構造的にアーク8の冷却性を高めることができ、優れた遮断性能を発揮することができる。また、アーク8の冷却性を高めた遮断性能を向上させたということは、従来と同程度の遮断性能を得ようとするならば、アーク8への吹付け圧力、すなわちパッファ室5の圧力を低くすることが可能となる。パッファ室5の圧力低減は、ピストン3に作用する駆動反力を低くすることができ、駆動エネルギーの低減が図れる。
【0067】
さらに、第1の実施形態における主たる作用効果としては、極めてシンプルな構成を持つノズル内絶縁部材32aにより流路断面積S2の縮小化を図った点にある。すなわち、流路断面積S2の縮小化を実現する部材として、上記特許文献4記載の従来技術における虹彩絞り構造といった複雑な部材を用いるのではなく、絶縁ノズル6に同心状に組み込んだ円筒形状のノズル内絶縁部材32aを採用しているため、製造コストを安くすることができ、経済性が向上する。
【0068】
また、流路断面積S2の縮小化により、パッファ室5から排出されるガス流10cのガス量を抑制しているので、パッファ室5の圧力上昇へのアーク8の熱エネルギーの寄与度を高めることができる。このため、第1の実施形態では、アーク8の熱エネルギーの寄与度を十分に確保可能である。
【0069】
しかも、第1の実施形態に係るガス遮断器は、φN2>φF2>φM2(部材名で言えば、絶縁ノズル6>固定アーク接触子7a>可動アーク接触子7b)となるように構成している。このため、可動接触部22を開極状態から閉極状態に投入動作させても、各部品は互いに干渉せず、問題なく投入動作を行うことができる。
【0070】
さらに、第1の実施形態では、流路断面積S2の縮小化に際してアーク接触子7a、7bの径φF2、φM2を小径化させていないので、パッファ室5の圧力上昇に関するアーク8の熱エネルギーの利用度を高めつつ、小径化によるアーク接触子7a、7bの耐久性低下を回避することができる。
【0071】
したがって、アーク接触子7a、7bの耐久性が向上する。と同時に、アーク接触子7a、7b先端の電界上昇を抑制することができ、従来のようにアーク接触子7a、7b間の開離距離を広げたり、開離スピードを速くする必要がなくなる。
【0072】
その結果、アーク8の熱エネルギーをパッファ室5の圧力上昇に積極的に利用可能なガス遮断器において、可動接触部22の駆動距離の伸長を避け、開離スピードも従来と同等並みとすることができ、機器のコンパクト化および駆動エネルギーの低減化を進めることが可能となる。このように、第1の実施形態によれば、アーク8の熱利用による駆動エネルギーの低減と、アーク接触子7a、7bの耐久性低下という背反する問題を同時に解決することができ、コンパクト化と長寿命化を両立させることが可能である。
【0073】
なお、第1の実施形態において、ガス流路61aの流路断面積S2の大きさは、次のような理由で、従来のガス遮断器における流路断面積S1よりも若干大きく設定される。これは、第1の実施形態の絶縁ノズル6において、ガス流路61aを流れるガス流10cは、従来と同じ絶縁ノズル6のスロート部6bの内壁側との摩擦に加えて、ノズル内絶縁部材32aの外壁側との摩擦の影響を受けるからである。
【0074】
そこで、摩擦の影響分も考慮した上で、流体力学的にガス流10cの実効流量が従来のガス流路6aの断面積S1と同等となるように、断面積S2は大きめに設定されることが望ましい。この点からも、アーク接触子7a、7bの径φF2およびφM2は、径寸法を細くするといった制約を受けずに済み、部材の耐久性と径寸法の最適な組合せを実現させることができ、経済性および信頼性がいっそう向上する。
【0075】
また、第1の実施形態においては、高温のアーク8が絶縁ノズル6だけでなく、ノズル内絶縁部材32aとも接するので、従来のガス遮断器に比べて、アーク8の熱に曝される絶縁物が多くなり、溶発ガス31の発生量も増えることになる。したがって、アーク8の熱エネルギーに加えて、溶発ガス31の発生量増大によっても、パッファ室5の圧力をより一層上昇させることができる。その結果、同じ吹付け圧力を得るための機械的圧縮作用の寄与度は減り、駆動エネルギーの低減化をさらに進めることができる。
【0076】
ところで、ノズル内絶縁部材32aと固定アーク接触子7aの接合部においては、絶縁物であるノズル内絶縁部材32a、金属である固定アーク接触子7a、および消弧性ガス2の3種類の媒体が接触する三重点部33が存在する。この三重点部33に電圧を印加した場合、電界が極めて高くなるので、電気絶縁上の弱点となる。
【0077】
そこで、上記第1の実施形態によれば、三重点部33は固定アーク接触子7aの先端部7cよりも奥まるように位置させたことで、固定アーク接触子7aの先端部7cの静電シールド効果によって電界の上昇を防ぐことができる。これにより、優れた安全性を獲得することが可能である。
【0078】
以上述べたような第1の実施形態によれば、低コストで済むノズル内絶縁部材32aを絶縁ノズル6内部に設けるといった構成によって、優れた冷却性能を獲得可能であり、さらにアーク接触子7a、7bの小径化を抑えて製品の長寿命化を図ることができる。
【0079】
(2)第2の実施形態
(構成)
続いて、本発明に係る第2の実施形態について、図3を用いて具体的に説明する。図3はガス遮断器の遮断動作途中のアーク近傍の状態を示しており、各構成部材は回転軸対称形状であるため、中心線の上側半分のみを描いている。
【0080】
第2の実施形態における基本的な構成は、第1の実施形態と同様であるが、下記の点に特徴がある。すなわち、図3に図示するように、固定アーク接触子7aの先端部中央には電界緩和シールド36が設けられている。この電界緩和シールド36はノズル内絶縁部材32bに埋め込むようにして構成されている。なお、符号35は中空ロッド11に取り付けられるロッド支えである。
【0081】
第2の実施形態のノズル内絶縁部材32bは、穴37が形成された中空構造であって、この穴37に沿って、可動接触部22に固定されたガイド棒34が摺動可能に設置されている。ガイド棒34、ノズル内絶縁部材32bの穴37、ノズル内絶縁部材32bの外周面、絶縁ノズル6のスロート部6bは全て同心円状に配置されている。
【0082】
ノズル内絶縁部材32bの材質は、従来と同じく、絶縁物であるポリテトラフルオロエチレンなどをベースとするが、ノズル内絶縁部材32bには、アークから放射される紫外光に対する反射作用の大きいBN(窒化ホウ素)などの粉末が添加されている。また、ノズル内絶縁部材32bには、可視光領域の吸収性に優れた顔料系添加物、たとえばTi2−CoO−NiO−ZnOやCoO−Al2O3−Cr2O3などの粉末が添加されている。これらの添加物がノズル内絶縁部材32bの特徴となっている。
【0083】
さらに、消弧性ガス2としては、従来一般的に用いられるSF6ガスよりも地球温暖化係数(CO2ガスを1とした地球温暖化への影響を示す指標)が低いガスが使用されている。環境への影響が小さくSF6の代替となりうる候補ガスは多々考えられるが、ここでは一例として、地球環境への影響が極めて小さく、毒性や可燃性もなく、かつ安価なガスであるN2ガスを使用している。
【0084】
(作用効果)
第2の実施形態では、ノズル内絶縁部材32bを備えたことで、構造的にアーク8の冷却性を高めることができるため、消弧性ガス2として冷却性能の低いN2ガスやCO2ガスといった代替ガスを使用した場合であっても、SF6ガス並に優れた遮断性能を確保することができる。つまり、環境負荷の低いガスを消弧性ガス2として利用可能であり、良好な遮断性能を維持しつつ、SF6ガスの使用量を削減して環境調和性を高めることができる。
【0085】
また、第2の実施形態では以下の点でも好ましい作用効果が得られる。すなわち、固定アーク接触子7aの先端部中央に設けた電界緩和シールド36の静電シールド効果により、固定アーク接触子部7aの先端部7cおよび三重点部33の電界はさらに低減される。これにより、必要となるアーク接触子7a、7bの開離距離すなわち可動接触部22の駆動距離およびアーク接触子7a、7bの開離スピードに関して、いっそう低減することができ、駆動エネルギーの低減効果がより向上する。
【0086】
また、可動接触部22の駆動や高圧のガス流10cの影響によって、アーク8の遮断時に各部品はかなりの振動を受けることになるが、第2の実施形態ではガイド棒34がノズル内絶縁部材32b内の穴37に沿って摺動するので、遮断動作時にノズル内絶縁部材32bを確実に支持することができる。したがって、ノズル内絶縁部材32bと絶縁ノズル6のスロート部6bを互いに同心となるように常時保つことができる。
【0087】
このため、アーク8の遮断時に各部品が振動を受けたとしても、アーク8が一方向に偏ることはなく、安定した遮断性能を得ることができる。また、投入動作時にガイド棒34による支持により固定アーク接触子7aの位置がぶれないので、先端部7cが絶縁ノズル6のスロート部6bを擦って損傷される可能性が無く、優れた安全性を発揮することができる。
【0088】
また、アーク8の遮断過程において、過電流ピーク付近では数万Kにも達する高温のアーク8に曝されて、ノズル内絶縁部材32bは溶融、ガス化して溶発ガス31が発生することは先にも記した通りである。この際、アーク8からの強力な紫外光により絶縁ノズル6に含まれる炭素が遊離化して析出する可能性がある。ノズル内絶縁部材32bに遊離炭素が析出した場合、その導電性によりアーク接触子7a、7b間の電気絶縁性が脅かされる。
【0089】
そこで第2の実施形態では、ノズル内絶縁部材32bに紫外線に対する反射作用の大きいBN(窒化ホウ素)などの粉末を添加することにより、アーク8からの紫外光がノズル内絶縁部材32b内に進入するのを防ぐことが可能となる。このため、遊離炭素の発生を抑制することが可能となり、アーク接触子7a、7b間の電気絶縁性が向上する。
【0090】
さらに、第2の実施形態においては、可視光領域の吸収性に優れた顔料系添加物(たとえばTi2−CoO−NiO−ZnOやCoO−Al2O3−Cr2O3など)を添加することで、可視光領域のアークエネルギーをノズル内絶縁部材32bに効果的に吸収することが可能となる。
【0091】
このため、さらに多量の溶発ガス31が発生することになり、パッファ室5の圧力上昇に寄与することができる。したがって、同じ吹付け圧力を得るための機械的圧縮の寄与率はいっそう低減されることになって、駆動エネルギーの低減化をさらに進めることができる。
【0092】
また、第2の実施形態では、消弧性ガスとしてN2ガスを使用するが、この場合、ガスの物理化学的性質の違いからSF6ガスに比べてアーク8の冷却効果が大幅に低下するおそれがある。しかしながら、第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したようにアーク8高温部と周囲の低温ガスとの接触面積が従来構造に比べて大幅に増大するので、アーク8の冷却性は飛躍的に向上し、N2ガスを使用した場合でも、遮断性能の低下を防ぐことができる。
【0093】
以上述べた第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態の持つ効果に加えて、消弧性ガス2としてN2ガスなどを使用したことによる環境負荷の低減効果や電界緩和シールド36の静電シールド効果、さらにはガイド棒34による動作安定効果を獲得しており、環境調和、駆動エネルギーの低減化および安全性が向上する。
【0094】
さらに、ノズル内絶縁部材32bに紫外線の反射作用の大きい粉末を添加したことで遊離炭素の発生を抑制でき、良好な絶縁信頼性を獲得している。また、ノズル内絶縁部材32bへの顔料系添加物の添加により可視光領域のアークエネルギーを効率よく吸収したので溶発ガス31の発生量が増えるため、パッファ室5の圧力上昇が実現して、遮断性能のさらなる向上が図れる。
【0095】
(3)第3の実施形態
(構成)
次に本発明に係る第3の実施形態について、図4を用いて説明する。図4は、ガス遮断器の遮断動作途中のアーク近傍の状態を示しており、各構成部材は回転軸対称形状であるため、中心線の上側半分のみを描いている。
【0096】
第3の実施形態の特徴的な構成は、テーパ38を有するノズル内絶縁部材32cを備えた点にある。テーパ38はノズル内絶縁部材32cの中央付近の径が太り、端部付近に近づくに従って径が細くなるようなカーブを描いて形成されている。
【0097】
つまり、テーパ38が形成されたノズル内絶縁部材32cは、軸方向に沿って、径が不均一となっている。このため、第3の実施形態における絶縁ノズル6のガス流路61cは、ノズル内絶縁部材32cの外径の変化に伴って、その大きさが変化するようになっている。
【0098】
(作用効果)
上記の第3の実施形態では独自の作用効果として次のような点を得ている。前述した第1の実施例におけるノズル内絶縁部材32aは、円筒形状であるため、アーク接触子7a、7bの開離度に関係なく、ノズル内絶縁部材32aの外径φIと絶縁ノズル6スロート部6bの内径φN2で構成される円筒状の流路断面積S2は、常に一定である(図1参照)。
【0099】
これに対して、第3の実施形態では、ノズル内絶縁部材32cにテーパ38を形成したことで、アーク接触子7a、7bの開離度に応じて、ノズル内絶縁部材32cの外径およびガス流路61cの大きさが変わる。そのため、流路断面積S2を任意に変化させることができる。すなわち、絶縁ノズル6内の流路構造を時々刻々フレキシブルに変化させることが可能となり、所望のタイミングで、絶縁ノズル6のガス流路61cを流れるガス流量について調整することが可能になり、遮断性能のさらなる向上が図れる。
【0100】
例えば、アーク接触子7a、7bが開極したばかりの開離度の小さい状態では、固定アーク接触子7a側へのガス流路6cを絞り、パッファ室5へのアーク8の熱の取込みを促進する。そして、アーク接触子7a、7bの開離度が大きくなった後半の過程では、一気に固定アーク接触子7a側、可動アーク接触子7b側とも大きくガス流路61cを開き、アーク8からの排熱を促進することができる。このようにしてアーク8の冷却性をさらに高めることができ、遮断性能を向上させることが可能である。
【0101】
なお、ノズル内絶縁部材32cにおけるテーパ38の形状は適宜変更可能であり、ガス流路61cの構造を各開離度に応じて適正に設計することにより、アーク8からの排熱による構成部材の焼損を低減させるなど、様々な好ましい作用効果を得ることができる。
【0102】
(4)第4の実施形態
(構成)
さらに、本発明に係る第4の実施形態について、図5を用いて具体的に説明する。図5において、各構成部材は回転軸対称形状であり、中心線の上側半分はガス遮断器が投入した状態(すなわち「閉」状態)、下側半分が遮断途中の状態を示している。
【0103】
上記第1〜第3の実施形態では、ノズル内絶縁部材32a〜32cを固定アーク接触子7aに接合するように構成したが、可動接触子部22側に接合しても同様の機能を得ることが可能である。そこで、第4の実施形態では、ノズル内絶縁部材32dは、可動部分である中空ロッド11に支え35により強固に固定した点にある(図5参照)。なお、ノズル内絶縁部材32dは、上記第1〜第3の実施形態と同じく、絶縁ノズル6のスロート部6bと同心となるように構成している。
【0104】
さらに第4の実施形態では従来の固定アーク接触子に相当する部材として、対向アーク接触子7dを設けている。この対向アーク接触子7dは、ノズル内絶縁部材32dを利用して、可動接触部22の反対方向に駆動するように構成する。このような具体的構造は多々考えられる。ここでは、図5に示すように、ノズル内絶縁部材32dと対向アーク接触子7dにラック38を施し、ピニオン37で可動アーク接触子7bと反対方向に対向アーク接触子7dが動くように構成している。
【0105】
(作用効果)
上記の構成を有する第4の実施形態により得られる基本的な作用効果は、上記第1〜第3の実施形態と同様であるが、次のような独自の作用効果がある。すなわち、両アーク接触子7b、7dが相対動作するために、アーク接触子7b、7d間の同じ開離速度を得るために必要となる駆動エネルギーを低減することができる。例えば、一秒間に「100」の開離速度が必要な場合、可動アーク接触子7bと対向アーク接触子7dがそれぞれ「50」ずつ、開離すればよく、必要となる駆動エネルギーの低減に寄与することができる。
【0106】
また、以上のような構成とするためには、対向駆動する機械的機構が不可欠となるので、両側に駆動機構を設けるか、あるいは複雑なリンク機構が必要となるが、本実施形態においては、ガス遮断器中央に位置するノズル内絶縁部材32dを利用して機械的機構を設けることができる。そのため、対向駆動する機械的機構を非常にシンプルに構成することが可能となり、構成の簡略化を進めることといったメリットがある。
【0107】
(5)他の実施形態
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、各部材の構成や配置数等は適宜選択可能である。例えば、密閉容器内に充填されるガスに関しては、環境への負荷に配慮して、SF6ガスよりも地球温暖化係数が低い単体ガスもしくは混合ガスであり、かつ、少なくとも1気圧以上の圧力かつ摂氏20度以下の状態で気相であることが望ましい。また、ノズル内絶縁部材に添加される材料として、紫外線に対する反射作用又は可視光から紫外光領域の吸収性に優れたものとしては、ポリテトラフルオロエチレンよりも大きい添加物を配合させた耐熱性樹脂が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の第1の実施例を示すガス遮断器の構造図。
【図2】本発明の第2の実施例を示すガス遮断器の構造図。
【図3】本発明の第3の実施例を示すガス遮断器の構造図。
【図4】本発明の第4の実施例を示すガス遮断器の構造図。
【図5】従来のパッファ形ガス遮断器の全体構造図。
【図6】従来のパッファ形ガス遮断器のアーク近傍拡大図。
【図7】従来のパッファ形ガス遮断器のアーク近傍拡大図。
【図8】上段は従来のパッファ形ガス遮断器における絶縁ノズルスロート部の径方向断面図、下段はスロート部内の温度分布を示す図。
【符号の説明】
【0109】
1…密閉容器
2…消弧性ガス
3…ピストン
4…シリンダ
5…パッファ室
6a…絶縁ノズル
6、61a、61c…ガス流路
6b…スロート部
7a…固定アーク接触子
7b…可動アーク接触子
7c…固定アーク接触子の先端部
7d…対向アーク接触子
8…アーク
9…排気筒
10a…固定側熱ガス流
10b…可動側熱ガス流
10c…ガス流
11…中空ロッド
12…支持絶縁物
21…固定接触部
22…可動接触部
31…溶発ガス
32a〜32d…ノズル内絶縁部材
33…三重点部
34…ガイド棒
35…支え
36…電界緩和シールド
37…ピニオン
38…ラック
41…熱の流れ
φN1…従来の遮断器におけるノズルスロートの内径
φF1…従来の遮断器における固定アーク接触子の外径
φM1…従来の遮断器における可動アーク接触子の内径
φN2…本発明におけるノズルスロートの内径
φF2…本発明における固定アーク接触子の外径
φM2…本発明における可動アーク接触子の内径
φI…本発明における内ノズルの外径
S1…従来の遮断器におけるノズルスロート部の実効流路断面積
S2…本発明におけるノズルスロート部の実効流路断面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスで充たされた密閉容器内に1対の接点を接離自在に配置し、前記接点同士を開離させた時に発生するアークに前記ガスを吹付けるガス流発生手段を有し、前記ガス流発生手段は、少なくとも1つの蓄圧空間と、前記蓄圧空間の圧力を上昇せしめる少なくとも1つの圧力上昇手段と、前記蓄圧空間と前記アークとを結ぶ少なくとも1つのガス流路と、前記蓄圧空間からのガスを整流し前記アークに導くための絶縁ノズルとからなるガス遮断器において、
前記絶縁ノズルの内部に当該絶縁ノズルと同心状にノズル内絶縁部材を配置し、
前記絶縁ノズルの内壁部と前記ノズル内絶縁部材の外壁部との隙間に前記アークが発生し且つ前記ガスが流れるように構成したことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記1対の接点と、前記絶縁ノズル内のガス流路と、前記ノズル内絶縁部材は、略回転軸対称形状であり、
一方の接点の外径をφF、もう一方の接点の内径をφM、前記絶縁ノズル内のガス流路の径をφN、前記ノズル内絶縁部材の外径をφIとした時、φN>φF>φM>φIとなるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記圧力上昇手段の少なくとも1つは、前記アークにおいて発生する熱エネルギーによりもたらされるように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記ノズル内絶縁部材を前記接点の一方に接合保持し、
当該接合部における金属と絶縁物とガスという3種類の媒体が接触する三重点を、当該接点の外周部よりも奥まった位置に配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記ノズル内絶縁部材を前記接点の一方に差し込んで接合保持し、
当該接点の中心軸上に、前記ノズル内絶縁部材の内部に突き出るように電界緩和シールドを配置し、
前記電界緩和シールドは前記ノズル内絶縁部材が差し込まれた前記接点と同電位になるように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記ノズル内絶縁部材には軸方向に穴を形成し、
軸方向以外には動かないガイド棒を前記ノズル内絶縁部材の穴に沿って摺動可能となるように設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項7】
前記ノズル内絶縁部材は、紫外光に対する反射作用が少なくともポリテトラフルオロエチレンよりも大きい添加物を配合させた耐熱性樹脂からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項8】
前記ノズル内絶縁部材は、可視光から紫外光領域の吸収性が少なくともポリテトラフルオロエチレンよりも大きい添加物を配合させた耐熱性樹脂からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項9】
前記ノズル内絶縁部材は回転軸対称形状であり、且つ軸方向に沿って径が不均一となるようにテーパ部を形成したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項10】
前記ノズル内絶縁部材を前記接点のどちらか一方と同じ動きをするように接合保持し、同時にもう一方の接点とも機械的に結合されており、互いに逆方向に動くように構成したことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項11】
前記ガスは、六弗化硫黄ガスよりも地球温暖化係数が低い単体ガスもしくは混合ガスであり、かつ、少なくとも1気圧以上の圧力かつ摂氏20度以下の状態で気相であるガスであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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