説明

ガス遮断器

【課題】中小電流から大電流に至るまで、小さな駆動エネルギーで優れた遮断性能を得るガス遮断器を提供する。
【解決手段】シリンダ13内に、ガス流路となる開口部33bを備えシリンダ13と摺動可能に構成された浮動隔壁Wが挿入されており、シリンダ13内部空間を、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32に区分するとともに、バネSにて常時前方に付勢される。[熱的昇圧室の圧力]−[機械的圧縮室の圧力]>0.2〜2.2MPaのとき、浮動隔壁Wは後方へ移動するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置に用いるガス遮断器に係り、特に、小電流から大電流まで遮断可能なガス遮断器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉装置は、SF6 ガスなどの絶縁性及び消弧性に優れた媒体を充填した容器内に、遮断器及び断路器等の機器や母線を収納することによって構成されている。このガス絶縁開閉装置は、気中絶縁方式の開閉装置に比べて、著しく小形に構成することが可能である。近年では、地価高騰による用地取得の困難性から、小形化が可能なガス絶縁開閉装置が多くの電気開閉所において採用され設置されている。
【0003】
このようなガス絶縁開閉装置に用いるガス遮断器の一例として、小電流から大電流まで遮断可能で、駆動エネルギーを増大させることなく遮断性能向上のために消弧室に改良を施したものを図6に示す(特許文献1及び2参照)。ここで、図6(a)は遮断動作前の投入状態を示す断面図、図6(b)は遮断動作初期の状態を示す断面図、図6(c)は遮断動作が進み開極後の電流ピーク付近の状態を示す断面図、図6(d)及び図6(e)はさらに遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図である。なお、図6(d)は遮断電流が大きい場合に相当し、図6(e)は遮断電流が小さい場合に相当する。
【0004】
図6に示すように、消弧性のガスが充填された容器(図示せず)内には、可動接触子部1として定義される第1接触子部、固定の対向接触子部2として定義される第2接触子部が対向配置されている。なお、以下、可動接触子部1の位置関係について、対向接触子部2側の方向を前方、その反対側を後方と定義して説明する。また、ここで消弧性ガスの種類は任意のガスとすることができる。
【0005】
可動接触子部1は、中空の操作ロッド11と、この操作ロッド11の周囲に配置されて前端部で操作ロッド11に連結されたフランジ12と、フランジ12の後方に連結されたシリンダ13と、このシリンダ13内部に挿入された固定ピストン14と、を備える。
【0006】
可動接触子部1は、また、シリンダ13内部を二分するようにシリンダ13に固着して設けられた隔壁Tと、フランジ12の前方に連結された中空かつ指状の可動アーク接触子15とその周囲に配置された可動通電接触子16と、可動アーク接触子15を包囲しスロート部18を有する絶縁ノズル17から構成されている。
【0007】
対向接触子部2は、開口部22を備えたフランジ21と、フランジ21に固定された対向アーク接触子23と、その周囲に配置され同様にフランジ21に固定された対向通電接触子24から構成されている。
【0008】
以上のような可動接触子部1のうち、可動アーク接触子15と絶縁ノズル17との間には、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32で形成された圧縮ガスをガス流として、フランジ12に設けられた連通穴33aを経て、アーク空間に導くための上流側ガス流路Xが形成されている。また、操作ロッド11は、図示しない駆動装置によって、その軸方向に往復運動するように構成されており、その中程に、操作ロッド11の中空部と充填ガス雰囲気空間である機械的圧縮室32とを連通する複数の開口部33bを有している。
【0009】
固定ピストン14は、円形平板状に形成されており、その内周面で操作ロッド11の外周面に対して摺動すると共に、その外周面でシリンダ13の内周面に対して摺動するように構成されている。固定ピストン14は、その後方に一体的に設けられて軸方向に伸びるピストン支持部14aによって、図示しない容器内に固定されている。また、固定ピストン14は開口部33cを有し、開口部33cにはバネ14bで閉方向に蓄勢された放圧弁C2が設けられている。
【0010】
また、開口部33bの熱的昇圧室31側には、浮動の逆止弁C1が設けられており、逆止弁の動作は、ストッパQと隔壁Tによって制限される。
【0011】
このような構成のガス遮断器において遮断動作が開始すると、後方の操作ロッド11が移動し、この操作ロッド11を含む可動接触子部1が一体的に移動する。これにより、固定された固定ピストン14に対し、操作ロッド11とシリンダ13が一体的に移動することになり、シリンダ13と固定ピストン14が相対移動し、シリンダ13内部後方に形成される機械的圧縮室32が圧縮される。
【0012】
このように遮断動作が開始した場合において、図5(b)に示すように、浮動の逆止弁C1は、可動接触子部1と一体に動作することはなく、慣性力により開き、開口部33bが開口する。さらに、機械的圧縮室32は昇圧し、ガスが、機械的圧縮室32から開口部33bを経て熱的昇圧室31に供給されるようになる(図5(b)のガス流G1参照)。
【0013】
次に、図5(c)に示すように遮断動作が進行し、対向アーク接触子23と可動アーク接触子15が開離すると、両アーク接触子15、23間のアーク空間には大電流アークAが発生する。このとき、大電流アークAにより、アーク空間は高温高圧の状態にある。例えば大電流アークAの電流が50kAの場合、その温度は容易に10000K以上に達する。このため、アーク空間は、後方の熱的昇圧室31より圧力が上昇し、操作ロッド11の内部空間から連通穴33aを経て熱的昇圧室31に至るガス流G2が生じる。つまり、大電流アークAのエネルギーのうち一部が熱的昇圧室31に取り込まれることになる。
【0014】
このような状態において、大電流遮断時には、熱的昇圧室31は著しく昇圧し、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の間に逆差圧が発生すると、逆止弁C1には後方への力が作用し、開口部33bは閉となる。中小電流遮断時(例えば20kA以下)には、熱的昇圧室31は急速に昇圧しないため、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の圧力は比較的均衡した状態にあり、逆止弁C1の動作は状態により変化する。
【0015】
さらにストロークが進み、図5(d)及び図5(e)に示すように電流零点に達すると、大電流アークAは減衰し、残留アークプラズマ状態となって、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、ノズル17のスロート部18は十分に開口し、可動アーク接触子15と絶縁ノズル17との間のガス流路から対向アーク接触子23に向かって流れるガス流G6と、可動アーク接触子15の中空部から、操作ロッド11に設けられた開口部22に向かって流れるガス流G7が発生する。これらの2方向のガス流によって、相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。
【0016】
ここで、図5(d)に示す大電流遮断時には、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32に比べ圧力が高い状態にあり、逆止弁C1は閉状態であり、一方、放圧弁C2は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により開となり、機械的圧縮室32から下流空間Rへガス流G5が発生する。
【0017】
また、図5(e)に示す中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回るため、逆止弁C1は開状態となり、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へのガス流が発生する。
【0018】
このようなガス遮断器においては、熱的昇圧室と機械的圧縮室が相補的に作用する。すなわち、アークエネルギーが小さく熱的昇圧室の圧力上昇が期待できない場合、機械的圧縮室からガス流が供給される。強力な吹付けが必要な大電流遮断時には、熱的昇圧室の圧力が極めて高くなり強力なガス流が供給される。この際、熱的昇圧室は逆止弁により、機械的圧縮室から切り離されるため、熱的昇圧室は効率的に昇圧する。また、機械的圧縮室へのアークエネルギーの流入が抑制されるため、機械圧縮室の昇圧もある程度抑制され、遮断動作を妨害する反力が抑制される。なお、熱的昇圧室においては、構成部材に作用する圧力は相殺されるため、遮断動作を妨げることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2009−99499号公報
【特許文献2】特開2005−276614号公報
【特許文献3】特願平11−67025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、中小電流遮断時に熱的昇圧室の圧力上昇が充分でない場合、機械的圧縮室からガス流を供給しようとすると、熱的昇圧室を経てアークに吹付けられるため、吹付けの効率が低下する。すなわち、機械的圧縮の視点においては、熱的昇圧室は機械的圧縮室のデッドボリュームとして作用するため、全体として吹付け圧力が低下してしまう。このため、機械的圧縮室の断面積を大きくするか、熱的昇圧室の体積を小さく構成する必要があった。
【0021】
しかしながら、機械的圧縮室の断面積を大きくする場合には、駆動エネルギーが大きくなる問題がある。また、熱的昇圧室の体積を小さくする場合には、中小電流遮断性能は向上するものの、大電流遮断時には、圧力が過度に上昇し、熱的昇圧室から流れ出るガス量が多くなるため、特に長アーク時間において熱的昇圧室のガス密度及び圧力が低下してしまうという課題があった。
【0022】
この点、シリンダ内部に固定のピストンとバネにより位置規制された浮動のピストンとの2種類のピストンを設け、シリンダ内部の空間を開極動作の初期には両方のピストンによって圧縮し、開極動作の途中からは固定ピストンのみによってガスを圧縮するように構成し、遮断時の圧力低下を抑止した技術がある(特許文献3参照)。
【0023】
しかし、上記の従来技術は、開極動作後半の可動部の受ける反力を低減して、駆動エネルギーの低減を図ることを目的とするものであり、大電流遮断時と中小電流遮断時の相違に着目したものではなく、また、遮断時の圧力低下を抑止するための具体的な手段を提供するものではなかった。
【0024】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、中小電流から大電流に至るまで、小さな駆動エネルギーで優れた遮断性能を得るガス遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため、本発明は、消弧性ガスが充填された密閉容器内に第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、前記第1接触子部には第1通電接触子及び第1アーク接触子が設置され、前記第2接触子部には前記第1通電接触子及び前記第1アーク接触子に対し接離自在な第2通電接触子及び第2アーク接触子が設置され、前記第1アーク接触子及び前記第2アーク接触子は、通常運転時は接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するよう構成され、さらに前記第1接触子部には、遮断動作時に機械的圧縮作用により蓄圧される機械的圧縮室と、遮断動作時に前記アーク空間から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される熱的昇圧室とが配置され、前記機械的圧縮室及び前記熱的昇圧室との間には両室を連通させる開口部が形成され、前記熱的昇圧室には隔壁が配置され、前記アーク空間と前記熱的昇圧室とを接続するガス流路が設けられたガス遮断器において、以下のような特徴を有する。
【0026】
すなわち、前記隔壁は、前記熱的昇圧室の体積を増減させる方向へ移動可能に構成されるとともに、前記熱的昇圧室の体積の増加を妨げる方向に荷重Fsで付勢され、前記熱的昇圧室のガス圧力値から前記機械的圧縮室のガス圧力値を差し引いた値が、0.2MPaから2.2MPaのときに、前記隔壁に作用する前記熱的昇圧室のガス圧力が前記荷重Fsを上回り、前記隔壁が前記熱的昇圧室の体積を増加させる方向へ移動するように前記荷重Fsが設定されている。
【0027】
また、前記隔壁は、前記熱的昇圧室の体積を増減させる方向へ移動可能に構成されるとともに、前記熱的昇圧室の体積の増加を妨げる方向に荷重Fsで付勢され、前記密閉容器の充填ガス圧力値から前記熱的昇圧室のガス圧力値を差し引いた値が、0.5MPaから2.5MPaのときに、前記隔壁に作用する前記熱的昇圧室のガス圧力が前記荷重Fsを上回り、前記隔壁が前記熱的昇圧室の体積を増加させる方向へ移動するように前記荷重Fsが設定されたことも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0028】
以上のような本発明によれば、熱的昇圧室の圧力と機械的圧縮室の圧力との差が0.2MPa〜2.2MPaを上回った場合、又は熱的昇圧室の圧力上昇が0.5〜0.25MPaを上回った場合に、隔壁は移動を開始し、熱的昇圧室の体積は次第に大きくなる。このため、熱的昇圧室の圧力上昇は従来構造に比べピークが緩和されるとともに流量が抑制され圧力の低下も遅れる。したがって、長アーク時間であっても十分な吹きつけ圧力が得られる。このように、隔壁の移動をその付勢力を圧力値に基づいて設定することで、熱的昇圧室の体積を、隔壁の初期位置において中小電流遮断時に適した値とし、大電流遮断時に適した値とすることが可能となる。
【0029】
このような本発明では、小さな駆動エネルギーであっても、小電流から大電流に至るすべての電流領域で良好な遮断性能を発揮することのできる大容量のガス遮断器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガス遮断器の構成を示す模式図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るガス遮断器の作用効果を示すグラフ図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るガス遮断器の構成を示す断面図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るガス遮断器の構成を示す断面図。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るガス遮断器の構成を示す断面図。
【図6】従来のガス遮断器の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための代表的な形態(以下、「実施形態」という。)について、図1〜図5を参照して具体的に説明する。なお、従来技術と同様の構成には、適宜同様の符号を付し説明を省略する場合がある。
【0032】
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1は、本発明の第1実施形態におけるガス遮断器を示す断面模式図である。図1(a)は、遮断動作前の投入状態を示す図、図1(b)は遮断動作初期の状態を示す図、図1(c)は遮断動作が進み開極後の電流ピーク付近の状態を示す図、図1(d)及び図1(e)はさらに遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す図である。また、図1(d)は遮断電流が大きい場合を示し、図1(e)は遮断電流が小さい場合を示す。
【0033】
[(1)全体構成]
図1に示すように、消弧性のガスが充填された容器(図示せず)内には、可動接触子部1として定義される第1接触子部と、固定の対向接触子部2として定義される第2接触子部が対向配置されている。以下では、可動接触子部1の位置関係について、対向接触子部2側の方向を前方(図中左側)、その反対側を後方(図中右側)と定義して説明する。また、ここで消弧性ガスの種類は任意のガスとする。
【0034】
可動接触子部1は、中空の操作ロッド11と、この操作ロッド11の周囲に配置されて前端部で操作ロッド11に連結されたフランジ12と、フランジ12の後方に連結されたシリンダ13と、シリンダ13内部に挿入された固定ピストン14と、フランジ12の前方に連結された中空かつ指状の可動アーク接触子15とその周囲に配置された可動通電接触子16と、可動アーク接触子15を包囲しスロート部18を有する絶縁ノズル17と、から構成される。
【0035】
可動接触子部1のうち、操作ロッド11は、図示しない駆動装置によって、その軸方向に往復運動するように構成されており、その中程に、その中空部と充填ガス雰囲気空間とを連通する複数の開口部33bを有している。また、その中空部は、アーク空間と下流空間Rを連通する下流側ガス流路Yとして構成されている。下流側ガス流路Yと下流空間Rは、複数の開口部33bを通じて連通している。
【0036】
固定ピストン14は、円形平板状に形成されており、その内周面で操作ロッド11の外周面に対して摺動すると共に、その外周面でシリンダ13の内周面に対して摺動するように構成されている。この場合、固定ピストン14は、その後方に一体的に設けられて軸方向に伸びるピストン支持部14aによって、図示ない容器内に固定されている。また、固定ピストン14は開口部33cを有し、開口部33cにはバネ14bで閉方向に蓄勢された放圧弁C2が設けられている。
【0037】
可動アーク接触子15と絶縁ノズル17との間には、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32で形成された圧縮ガスをガス流として、フランジ12に設けられた連通穴33aを経て、アーク空間に導くための上流側ガス流路Xが形成されている。
【0038】
一方、対向接触子部2は、開口部22を設けたフランジ21と、フランジ21に固定された対向アーク接触子23と、その周囲に配置され同様にフランジ21に固定された対向通電接触子24と、から構成されている。
【0039】
[(2)浮動隔壁の構成]
本実施形態のガス遮断器では、シリンダ13内に、ガス流路となる開口部33bを備えシリンダ13と摺動可能に構成された浮動隔壁Wが挿入されており、この浮動隔壁Wが、バネSにて常時前方に付勢されるようになっている。そして、この隔壁Wの前方への極限位置を、ストッパQにより位置決めするようになっている。この隔壁Wにより、シリンダ13内部空間を、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32に区分している。
【0040】
ここで、バネSの荷重をFsとし、浮動隔壁Wの断面積をSとすると、FsとSとの関係は、以下の式1を満たす。
[数1]
Fs/S=0.2MPa〜2.2MPa … 式1
すなわち、
[熱的昇圧室の圧力]−[機械的圧縮室の圧力]>0.2〜2.2MPa
のとき、浮動隔壁Wは後方へ移動するようになっている。なお、熱的昇圧室31の平常時体積をV1とする。また、浮動隔壁Wが後方へ最大限動いたときの付加的な体積をV2とする(図1(a)及び(d)参照)。
【0041】
開口部33bの熱的昇圧室31側には、浮動の逆止弁C1が設けられている。逆止弁C1の動作は、ストッパQと隔壁Wによって制限される。
【0042】
[1−2.作用]
上記の構成からなる本実施形態のガス遮断器は、次のように作用する。図1(a)に示すガス遮断器の閉状態から、遮断動作が開始すると、図1(b)に示すように、操作ロッド11が後方(図中右方向)に移動し、この操作ロッド11を含む可動接触子部1が一体的に移動する。これにより、固定された固定ピストン14に対し、操作ロッド11とシリンダ13が一体的に移動することになり、シリンダ13と固定ピストン14が相対移動し、シリンダ13内部後方に形成される機械的圧縮室32が圧縮されるようになっている。
【0043】
このとき、図1(b)に示すように、浮動の逆止弁は慣性力により、可動接触子部1と一体に動作しないため、開口部33bが開口する。さらに、機械的圧縮室32が昇圧し、機械的圧縮室32から開口部33bを経て、ガスが熱的昇圧室31に供給される。
【0044】
次に、遮断動作が進行し、図1(c)のように対向アーク接触子23と可動アーク接触子15が開離すると、両アーク接触子23と15との間のアーク空間には、アークAが発生する。このとき、アークAにより、アーク空間は高温高圧の状態にある。例えばアークAの電流が50kAの場合、その温度は容易に10000K以上に達する。このため、アーク空間は、熱的昇圧室31より圧力が上昇し、操作ロッド11の内部空間から連通穴33aを経て熱的昇圧室31に至るガス流G2が生じる。すなわち、アークAのエネルギーのうち一部が熱的昇圧室に取り込まれることになる。
【0045】
ここで、大電流遮断時には、熱的昇圧室31は著しく昇圧し、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の間に、逆差圧が発生する。すると、逆止弁C1には、後方への力が作用し、開口部33bは閉となる。
【0046】
また、さらに熱的昇圧室31の圧力が上昇し、熱的昇圧室31の圧力と機械的圧縮室32との圧力差(熱的昇圧室31の圧力>機械的圧縮室32の圧力)が、0.2MPaから2.2MPaを上回ると、浮動隔壁Wは後方(図中右方向)へ移動を開始する。これにより、図1(d)に示す熱的昇圧室31に、追加的な体積V2が生じる。
【0047】
熱的昇圧室31の圧力上昇が顕著な場合、浮動隔壁Wは移動を続け、バネS及び突起Pで規定される最大ストロークで停止する(図1(d)参照)。このとき、熱的昇圧室31の体積は最大V1+V2となる。
【0048】
一方、中小電流遮断時(例えば20kA以下)には、熱的昇圧室31は昇圧するものの、熱的昇圧室31の圧力上昇が小さいと機械的圧縮室32の間に、逆差圧がほとんど発生しない。このため、図1(e)に示すように、浮動隔壁Wは、ストッパQにて規定される平常時位置からほとんど動かない。したがって、熱的昇圧室31の体積はV1のままとなる。
【0049】
図1(d)及び図1(e)に示すように、ガス遮断器のストロークが進み、電流零点に達すると、アークAは減衰し、残留アークプラズマ状態となって、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、ノズル17のスロート部18は十分に開口し、可動アーク接触子15と絶縁ノズル17との間のガス流路から対向アーク接触子23に向かって流れるガス流G6と、可動アーク接触子15の中空部から、操作ロッド11に設けられた開口部22に向かって流れるガス流G7が発生する。これらの2方向のガス流によって、相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。
【0050】
ここで、図1(d)に示す大電流遮断時には、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32に比べ圧力が高い状態にあり、逆止弁C1は閉状態である。一方、放圧弁C2は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により、開となり、機械的圧縮室32から下流空間Rへガス流が発生する。
【0051】
また、図1(e)に示す中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回るため、逆止弁C1は開状態となる。そして、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へのガス流が発生する。
【0052】
[1−3.効果]
本実施形態によれば、次のような効果が得られる。中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の体積はV1であり、アークエネルギーを用いて十分に昇圧することができるため、良好な遮断性能を得ることができる。
【0053】
大電流遮断時には、熱的昇圧室31の体積はV1+V2となり、過度の圧力上昇を抑制することができるため、長アーク時間であってもガス密度及び圧力の低下が抑制され、良好な遮断性能を得ることができる。
【0054】
大電流遮断時の圧力の変化を図2にて説明する。図2で、ガス遮断器が開極し、アーク接触子間にアークが発生すると、熱的昇圧室31の圧力が上昇し始める。熱的昇圧室の圧力と機械的圧縮室の圧力との差が0.2MPaから2.2MPaを上回ると、浮動隔壁Wは移動を開始し、熱的昇圧室の体積は次第に大きくなる。
【0055】
このため、熱的昇圧室の圧力上昇は従来構造に比べピークが緩和されるとともに流量が抑制され、圧力の低下も遅れる。したがって、長アーク時間であっても十分な吹きつけ圧力が得られる。
【0056】
本実施形態の遮断器の場合、熱的昇圧室の体積につき、V1を中小電流遮断時に適した値とし、V1+V2を大電流遮断時に適した値とすることで、小さな駆動エネルギーであっても、小電流から大電流に至るすべての電流領域で良好な遮断性能を発揮することのできる大容量のガス遮断器を実現することができる。
【0057】
[2.第2実施形態]
[2−1.構成]
本発明の第2実施形態におけるガス遮断器について、図3を用いて説明する。図3(a)及び図3(b)は、図1(d)及び(e)に相当する状態を示すものであり、遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図である。また、図3(a)は遮断電流が大きい場合を示し、図3(b)は遮断電流が小さい場合を示す。
【0058】
本実施形態のガス遮断器は、基本構成を第1実施形態と共通にしつつ、熱的昇圧室31が大径のシリンダ41内部に構成され、機械的圧縮室32が小径のシリンダ42内部に構成されている点に特徴を備えるものである。また、上記の熱的昇圧室31及び機械的圧縮室32の配置構成により、浮動隔壁Wは、熱的昇圧室31及び機械的圧縮室32の間の小径のシリンダ42の内面を摺動するように構成されている。
【0059】
[2−2.作用効果]
以上のような本実施形態のガス遮断器では、第1実施形態の作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。すなわち、熱的昇圧室31の形状を、機械的圧縮室32及び浮動隔壁Wと独立して形成可能なため、アーク空間より流入した熱ガスと熱的昇圧室31に初めから存在していた冷ガスの混合に適した形状とすることができる。このため、熱的昇圧室31からの吹付けガス流G3の温度を抑制することが可能となり、大電流遮断時の遮断性能の向上を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、機械的圧縮室32を小径のシリンダ42内部に構成することで、浮動隔壁Wも小径化できるので、軽量化することが可能となる。このため、遮断動作時に、浮動隔壁Wを速やかに移動させることが可能となり、大電流遮断時に、熱的昇圧室の体積を速やかにV1+V2とすることができる。さらに、機械的圧縮室32の断面積を小さくすることができるため、機械的圧縮室32の圧力上昇による反力を低減できる。
【0061】
[3.第3実施形態]
[3−1.構成]
本発明の第3実施形態におけるガス遮断器について、図4を用いて説明する。図4(a)は、投入状態における断面図であり、図4(b)及び図4(c)はさらに遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図である。また、図4(b)は遮断電流が大きい場合を示し、図4(c)は遮断電流が小さい場合を示す。
【0062】
本実施形態のガス遮断器は、基本構成を第1実施形態と共通にしつつ、以下の構成に特徴を有する。すなわち、本実施形態のガス遮断器は、第1のシリンダ51と、この第1のシリンダ51の内部にフランジ部53を介して固定された第2のシリンダ52と、第1のシリンダ51の内周面と第2のシリンダ52の外周面との間を摺動するように挿入された固定ピストン55とを備える。
【0063】
このようなガス遮断器において、熱的昇圧室31(V1)が、第1のシリンダ51の内部に形成され、第1のシリンダ51と第2のシリンダ外周によって形成される空間に機械的圧縮室32(V3)が形成され、フランジ部53に設けられた連通穴54により熱的昇圧室31と機械的圧縮室32とは連通している。
【0064】
浮動隔壁Wは、第2のシリンダ52の内面と摺動するように構成され、上記実施形態における場合と同様、ストッパQにより、前方方向の位置規制がなされている。隔壁Wの摺動を補助するバネSは、熱的昇圧室の圧力上昇(密閉容器の充填ガス圧力を差し引いた値)が0.5〜0.25MPaを超えると、浮動隔壁Wが後方へ移動開始するよう設定されている。
【0065】
[3−2.作用効果]
以上のような本実施形態のガス遮断器では、第1実施形態の作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。すなわち、浮動隔壁Wの動作圧力を、機械的圧縮室32の圧力変化と独立し、熱的昇圧室31の圧力のみに依存するよう設定できるため、設計が容易であり、ロバスト性の高い設計を実現できる。
【0066】
[4.第4実施形態]
[4−1.構成]
本発明の第4実施形態におけるガス遮断器について、図5を用いて説明する。図5(a)及び図5(b)は遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図であり、図5(a)は遮断電流が大きい場合、図5(b)は遮断電流が小さい場合に相当する。
【0067】
本実施形態のガス遮断器は、図5に示すように、基本構成を第1実施形態と共通にしつつ、機械的圧縮室32を排除したことにより、第1〜第3実施形態の固定接触子部と可動接触子部とを入れ換え、可動接触子部と固定接触子部とを反転して構成したものである。
【0068】
[4−2.作用効果]
以上のような本実施形態のガス遮断器によれば、第1実施形態と同一の効果が得られる。また、本実施形態では、第1〜第3実施形態のような機械的圧縮室32のサポートがない。そのため、中小電流遮断時の熱的昇圧室31の圧力上昇の確保が難しく、中小電流遮断に適した熱的昇圧室31の体積V1を設定できる効果は非常に大きくなる。
【0069】
[5.第5実施形態]
[5−1.構成]
本発明の第5実施形態は、第1〜第4実施形態の構成においても実現可能なものであり、本実施形態では、浮動隔壁Wの質量をm、バネSのバネ定数をkとした場合の振動周期T(式2参照)が、10msより大きくなるように構成されたものである。
[数2]
T=2π√(m/k) …式2
【0070】
[5−2.作用効果]
以上のような本実施形態では、図2に示すように、浮動隔壁Wは電流零点後しばらく経過した後、隔壁Wにて規定される平常時の位置へ復帰する。このとき、熱的昇圧室31はわずかに圧縮されるため、熱的昇圧室31の密度は若干回復する。
【0071】
ここで、高速再閉路は、一旦事故電流を遮断した後も事故を除去できなかった場合等に、数十ms〜数百msの後に投入動作を行い、続いて再度電流遮断を行うものである。熱的昇圧室を有するガス遮断器の場合、一度目の遮断時に熱的昇圧室のガス温度が上がり(したがってガス密度が下がる)、さらに高速再閉路時の投入動作で熱的昇圧室に冷ガスが取り込まれることはない。そのため、熱的昇圧室のガス密度が低下したまま、2度目の電流遮断を行うこととなる。
【0072】
この点、本実施形態のように、1度目の電流遮断の後、浮動隔壁Wが復帰することにより、熱的昇圧室が圧縮され密度回復を図ることができると、2度目の電流遮断時も優れた遮断性能を得られる。すなわち、本実施形態のガス遮断器の構成は、高速再閉路遮断で非常に効果的である。
【符号の説明】
【0073】
1…可動接触子部(第1接触子部)
2…対向接触子部(第2接触子部)
11…操作ロッド
12…フランジ
13…シリンダ
14…固定ピストン
14a…ピストン支持部
14b…バネ
15…可動アーク接触子
16…可動通電接触子
17…絶縁ノズル
18…スロート部
21…フランジ
22…開口部
23…対向アーク接触子
24…対向通電接触子
31…熱的昇圧室
32…機械的圧縮室
33a…連通穴
33b…開口部
33c…開口部
41,42,51,52…シリンダ
53…フランジ部
54…連通穴
55…固定ピストン
A…大電流アーク
C1…逆止弁
C2…放圧弁
G1〜G7…ガス流
Q…ストッパ
R…下流空間
S…バネ
W…隔壁
X…上流側ガス流路
Y,Z…下流側ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器内に第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、前記第1接触子部には第1通電接触子及び第1アーク接触子が設置され、前記第2接触子部には前記第1通電接触子及び前記第1アーク接触子に対し接離自在な第2通電接触子及び第2アーク接触子が設置され、前記第1アーク接触子及び前記第2アーク接触子は、通常運転時は接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するよう構成され、さらに前記第1接触子部には、遮断動作時に機械的圧縮作用により蓄圧される機械的圧縮室と、遮断動作時に前記アーク空間から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される熱的昇圧室とが配置され、前記機械的圧縮室及び前記熱的昇圧室との間には両室を連通させる開口部が形成され、前記熱的昇圧室には隔壁が配置され、前記アーク空間と前記熱的昇圧室とを接続するガス流路が設けられたガス遮断器において、
前記隔壁は、前記熱的昇圧室の体積を増減させる方向へ移動可能に構成されるとともに、前記熱的昇圧室の体積の増加を妨げる方向に荷重Fsで付勢され、
前記熱的昇圧室のガス圧力値から前記機械的圧縮室のガス圧力値を差し引いた値が、0.2MPaから2.2MPaのときに、前記隔壁に作用する前記熱的昇圧室のガス圧力が前記荷重Fsを上回り、前記隔壁が前記熱的昇圧室の体積を増加させる方向へ移動するように前記荷重Fsが設定されたことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
消弧性ガスが充填された密閉容器内に第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、前記第1接触子部には第1通電接触子及び第1アーク接触子が設置され、前記第2接触子部には前記第1通電接触子及び前記第1アーク接触子に対し接離自在な第2通電接触子及び第2アーク接触子が設置され、前記第1アーク接触子及び前記第2アーク接触子は、通常運転時は接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するよう構成され、さらに前記第1接触子部には、遮断動作時に前記アーク空間から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される熱的昇圧室が配置され、この熱的昇圧室には隔壁が配置され、前記アーク空間と前記熱的昇圧室とを接続するガス流路が設けられたガス遮断器において、
前記隔壁は、前記熱的昇圧室の体積を増減させる方向へ移動可能に構成されるとともに、前記熱的昇圧室の体積の増加を妨げる方向に荷重Fsで付勢され、
前記密閉容器の充填ガス圧力値から前記熱的昇圧室のガス圧力値を差し引いた値が、0.5MPaから2.5MPaのときに、前記隔壁に作用する前記熱的昇圧室のガス圧力が前記荷重Fsを上回り、前記隔壁が前記熱的昇圧室の体積を増加させる方向へ移動するように前記荷重Fsが設定されたことを特徴とするガス遮断器。
【請求項3】
前記第1接触子部には、遮断動作時に機械的圧縮作用により蓄圧される機械的圧縮室が配置され、前記機械的圧縮室及び前記熱的昇圧室の間には両室を連通させる開口部が形成されたことを特徴とする請求項2記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記隔壁は、前記機械的圧縮室と前記熱的昇圧室との間に設けられ
前記開口部は、この隔壁に形成されるとともに、前記開口部にはこれを閉塞する逆止弁が取り付けられたことを特徴とする請求項1又は3記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記熱的昇圧室は、大径のシリンダ内部に設けられ、
前記機械的圧縮室は、小径のシリンダ内部に設けられ、
前記隔壁は、前記熱的昇圧室及び前記機械的圧縮室の間の小径のシリンダの内面を摺動するように構成されたことを特徴とする請求項1又は3記載のガス遮断器。
【請求項6】
大径のシリンダと、前記大径のシリンダの内部にフランジにより固定して形成された小径のシリンダと、前記小径のシリンダ内部に摺動するように設けられた前記隔壁とにより、前記熱的昇圧室と前記機械的圧縮室とが形成されており、
前記機械的圧縮室は、前記大径のシリンダの内周と小径のシリンダの外周との間に形成され、
前記熱的圧縮室は、前記大径のシリンダの内面と前記フランジと前記隔壁とにより、形成されたことを特徴とする請求項1又は3記載のガス遮断器。
【請求項7】
前記隔壁は、弾性体により付勢されており、
前記隔壁の質量をm、前記弾性体のバネ定数をkとした場合、前記隔壁の振動周期T=2π√(m/k)は、10msより大きくなるように構成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−198641(P2011−198641A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64708(P2010−64708)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】