説明

ガソリン基材の製造方法及びガソリン

【課題】接触分解ガソリンをオクタン価の低下を実用上問題とならない程度まで抑制して水素化脱硫し、サルファーフリーガソリンの基材とし得る硫黄分含有量が10質量ppm以下であるガソリン基材の製造方法、及び、得られるガソリン基材を含有するガソリンの提供。
【解決手段】本発明の製造方法は、接触分解ガソリンを、該接触分解ガソリン中に含有されるオレフィンの水素化率が25モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が20質量ppm以下、チオフェン類及びベンゾチオフェン類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下、かつ、チアシクロペンタン類に由来する硫黄分が0.1質量ppm以下となるように水素化脱硫する第1の工程と、第1の工程の生成油を、第1の工程におけるオレフィンの水素化率と本工程におけるオレフィンの水素化率との合計が30モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が10質量ppm以下、かつ、チオール類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下となるようにさらに水素化脱硫する第2の工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガソリン基材の製造方法及びガソリンに関する。
【背景技術】
【0002】
接触分解ガソリンは、オレフィンを20〜40容量%含有するためにオクタン価が高く、製品ガソリンへの混合比率が大きい重要なガソリン混合基材である。接触分解ガソリンは減圧軽油や常圧残油等の重質石油類を流動接触分解装置(FCC)で接触分解して製造されるが、この製造工程でこれら重質石油類に含まれる硫黄分も様々な反応を受けて軽質化するため、接触分解ガソリンには硫黄化合物が含有される。接触分解ガソリンの硫黄分含有量を低く抑えるために、通常減圧軽油や常圧残油等は水素化脱硫した後接触分解の原料油として用いられるのが一般的である。これら重質油の水素化脱硫装置は高温・高圧の装置であり、環境対策のための相次ぐ硫黄含有量に関する規制値強化に対応してこれら設備の新設、増設あるいは能力強化を図ることは、設備面、運転面を含めたコストの大きな上昇をもたらし、大きな負担となる。
【0003】
一方、接触分解ガソリンに含有される硫黄化合物は、比較的低温・低圧の装置で水素化脱硫できるため、接触分解ガソリンを直接水素化脱硫できれば設備投資が比較的安価であるばかりでなく、運転費用も重質油の水素化脱硫に比較しても低減できる利点がある。しかし、従来の技術、すなわちナフサの水素化脱硫装置において接触分解ガソリンを水素化脱硫すると、接触分解ガソリンに含まれているオレフィンが水素化されてオクタン価が低下する問題がある。これを解決するために接触分解ガソリンのオクタン価低下を抑制しつつこれを水素化脱硫する技術がいくつか考案されている。例えば、原料油を蒸留によって軽質分と重質分に分けてそれぞれを別々の条件で水素化脱硫する技術(例えば下記特許文献1を参照。)、モリブデンとコバルトの担持量及び担体の表面積を制御した触媒を用いる方法(例えば下記特許文献2を参照。)、ゼオライト触媒と組み合わせてオクタン価の低下を防止する方法(例えば下記特許文献3を参照。)、一定の前処理を施した触媒を使用する方法(下記特許文献4を参照。)などが提案されている。また、硫黄分含有量の低いガソリンの製造方法として、不飽和硫黄含有化合物の水素化工程と、飽和硫黄含有化合物の分解工程とを含むガソリンの製造方法(下記特許文献5を参照。)が提案されている。しかし、これらの方法は、硫黄分の高い接触分解ガソリンの処理には適するが、極めて低硫黄分含有量のガソリンを製造する方法には適していない。
【0004】
一方、最近、硫黄分含有量をさらに低減させた所謂サルファーフリーガソリンの必要性が議論されている。リーンバーンエンジンや直噴エンジンはエネルギー効率が高く、二酸化炭素排出量低減に貢献するといわれている。しかし、これらのエンジンは空気/燃料の比率が高い領域で燃焼を行うためNOxの発生量が増加し、従来の排気ガス浄化触媒が有効に働かないという問題がある。そこで、これらのエンジンには、排気ガス浄化触媒としてNOx吸蔵型の触媒の適用が検討されており、トヨタテクニカルレビュー50巻2号28〜33ページ(2000年12月)の記載によれば、製品ガソリン中の硫黄分濃度が8質量ppm以下であれば触媒の失活が許容できる範囲であり、NOx吸蔵型触媒が適用可能であることを示唆している。上記の従来のガソリン脱硫技術は、接触分解ガソリンの水素化脱硫に関して一定の示唆を与える技術ではあるが、8質量ppm以下という極めて低い硫黄分含有量の製品ガソリンを提供できる水準には至っていない。わずかに、下記非特許文献1に硫黄分含有量を8質量ppmまで脱硫した結果が示されているが、ロードオクタン価(リサーチ法オクタン価とモーター法オクタン価の平均値)が脱硫処理前に比較して3.8低下しており、実用的な技術とは言い難い。
【0005】
上述の製品ガソリンとしての硫黄分含有量8質量ppm以下を達成するためには、これを構成する基材のひとつである接触分解ガソリンの硫黄分含有量を10質量ppm程度以下とする必要があり、この製造技術の開発がサルファーフリーガソリンの製造、供給のキーテクノロジーとして期待されている。
【特許文献1】米国特許4990242号公報
【特許文献2】特表2000−505358号公報
【特許文献3】米国特許5352354号公報
【特許文献4】米国特許4149965号公報
【特許文献5】特開2000−239668号公報
【非特許文献1】NPRA Annual Meeting,AM−00−11(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、接触分解ガソリンをオクタン価の低下を実用上問題とならない程度まで抑制して水素化脱硫し、サルファーフリーガソリンの基材とし得る硫黄分含有量が10質量ppm以下であるガソリン基材の製造方法、及び、得られるガソリン基材を含有するガソリンの提供にある。なお、水素化脱硫に伴うオクタン価の低下については、水素化脱硫処理前の接触分解ガソリンを基準として、リサーチ法オクタン価の低下幅を1程度以下とすることが好ましい。前記低下幅が1程度以下であれば、別なガソリン基材である改質ガソリンを製造するリフォーマーの運転温度の上昇によってそのオクタン価を向上することによって補うことができるからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の課題を解決するため、原料となる接触分解ガソリンに含まれる硫黄化合物の構造、脱硫反応の機構、これらに対する各水素化脱硫触媒の適否等に関して鋭意研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、接触分解ガソリンを、該接触分解ガソリン中に含有されるオレフィンの水素化率が25モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が20質量ppm以下、チオフェン類及びベンゾチオフェン類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下、かつ、チアシクロペンタン類に由来する硫黄分が0.1質量ppm以下となるように水素化脱硫する第1の工程と、第1の工程の生成油を、第1の工程におけるオレフィンの水素化率と本工程におけるオレフィンの水素化率との合計が30モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が10質量ppm以下、かつ、チオール類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下となるようにさらに水素化脱硫する第2の工程と、を備えることを特徴とするガソリン基材の製造方法を提供する。
【0009】
本発明において「接触分解ガソリン」とは、FCCにて重質石油類を分解することにより製造されるガソリン留分のことで、沸点領域がおよそ30〜210℃の範囲にあるFCCガソリンと呼ばれるものを意味する。
【0010】
また、各成分の分析は以下に記載の方法によった。全硫黄分含有量の測定は電量滴定法、各硫黄化合物由来の硫黄分濃度はGC−SCD法(SulfurChemiluminescence Detector、硫黄化学発光検出器)、生成油中の硫黄化合物及び炭化水素成分の定性はGC−MS法により分析を行った。
【0011】
本発明に係る第1の工程及び第2の工程に使用される触媒は、それぞれコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選択される1種又は2種以上の金属を含む触媒であることが好ましい。
【0012】
さらに、第1の工程に使用される触媒は、アルミナを主成分とし、該アルミナを修飾するアルカリ金属、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、スカンジウム及びランタノイド系金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属成分を含む金属酸化物を含有する担体に、コバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選択される1種又は2種以上の金属を担持してなる触媒であることが好ましい。
【0013】
また、第1の工程の反応条件は、反応温度200〜270℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV2〜7h−1、水素/油の比100〜600NL/Lであり、前記第2の工程の反応条件が、反応温度300〜350℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV10〜30h−1、水素/油の比100〜600NL/Lであることが好ましい。
【0014】
また、第1の工程に供される前記接触分解ガソリンは、蒸留によって軽質留分が分離された重質留分であり、その沸点範囲が80〜210℃であり、前記接触分解ガソリンの質量を基準とする全硫黄分の含有量が200質量ppm以下であることが好ましい。
【0015】
また、第2の工程に使用される触媒は、担体に担持されたニッケルを含む触媒であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記本発明の製造方法により得られたガソリン基材を含有することを特徴とするガソリンを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、オクタン価の低下が抑制され、硫黄分含有量が10質量ppm以下の低硫黄分ガソリン基材を効率良く製造することができ、得られたガソリン基材はサルファーフリーガソリンの基材として使用することができる。本発明の製造方法は、従来の技術では達成し得なかった、10質量ppm以下という極めて低い硫黄分含有量のガソリン基材の製造を可能にする点で画期的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のガソリン基材の製造方法に使用する原料である接触分解ガソリンに特に制限はないが、沸点領域はおよそ30〜210℃の範囲にあるのが通常である。接触分解ガソリンを分留して得られる軽質留分には硫黄分があまり含まれないため、分留によって軽質留分を分離し、硫黄分を多く含む重質留分だけを脱硫すると効率が良い。その場合、重質留分の沸点領域はおよそ80〜210℃の範囲が最適である。
【0019】
使用する接触分解ガソリンの硫黄分含有量に制限はないが、接触分解ガソリンの質量を基準として1000質量ppm以下、好ましくは700質量ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下であると、水素化脱硫時に併発するオレフィンの水素化によるオクタン価の低下を抑制しつつ、硫黄分含有量10質量ppm以下のガソリン基材をより製造し易い。接触分解ガソリンの重質留分を原料とする場合も、その硫黄分含有量は前記と同様であることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法に係る第1の工程において、接触分解ガソリン中に含有されるオレフィンの水素化率は25モル%以下であり、好ましくは20モル%以下である。オレフィンの水素化率が25モル%を越える場合には第2の工程を経て得られる生成油のオクタン価の低下が大きく、ガソリン基材として好ましくない。なお、オレフィンの水素化率は、ガスクロマトグラフィー法及びGC−MS法により分析、定量した原料接触分解ガソリン中及び生成油中に含有されるオレフィン含有量から算出され、下記式:
オレフィン水素化率(%)=100×(1−(生成油中のオレフィンのモル数/原料中のオレフィンのモル数))
により定義される。
【0021】
また、本発明の製造方法に係る第1の工程において、生成油中に含有される、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量は20質量ppm以下であり、チオフェン類及びベンゾチオフェン類に由来する硫黄分の含有量は5質量ppm以下であり、チアシクロペンタン類(ベンゾチアシクロペンタン類を含む)に由来する硫黄分の含有量が0.1質量ppmである。これらの各硫黄分含有量がそれぞれの前記上限を超える場合には、第2の工程を経て得られる生成油中に含有される全硫黄分含有量を10質量ppm以下とすることが困難となる。なお、チアシクロペンタン類、ベンゾチアシクロペンタン類は本発明の製造方法に係る第2の工程において、チオフェン類およびベンゾチオフェン類に再転換されることにより脱硫の阻害となり、またチオール類の生成も脱硫率低下の要因となる。さらに、前記第1の工程の生成油中に含有されるチオール類に由来する硫黄分の含有量は、20質量ppm以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法に係る第2の工程におけるオレフィンの水素化率は、第1の工程におけるオレフィンの水素化率と本工程におけるオレフィンの水素化率との合計が30モル%以下、好ましくは25モル%以下であるという要件を満たす。当該水素化率の合計が30モル%を越える場合には、得られる生成油のオクタン価の低下が大きく、ガソリン基材として好ましくない。
【0023】
また、本発明の製造方法に係る第2の工程の生成油中に含有される、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量は10質量ppm以下である。さらに第2の工程の生成油中に含有されるチオール類に由来する硫黄分含有量は5質量ppm以下であり、3質量ppm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法に係る第1の工程及び第2の工程に使用される触媒は、それぞれコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選ばれる1種または2種以上の金属を含む触媒を使用することができる。通常これら金属は多孔質アルミナ等の担体に担持され、硫化物状態で活性を呈する。あるいは、金属塩から共沈法等で調製した触媒を還元して使用することもできる。
【0025】
本発明の製造方法に係る第1の工程及び第2の工程において同一の触媒を使用してもよいが、それぞれの工程でより性能を発揮するように異なる触媒が好ましく使用される。第1の工程に使用される触媒としては、オレフィン及びチオフェン類に対する水素化活性が低い触媒が好ましい。オレフィンの水素化抑制はオクタン価の維持につながる。前記特許文献5には、工程aとして不飽和硫黄含有化合物の水素化活性が高い触媒が使用されているが、この方法は硫黄分の高い接触分解ガソリンの処理には適するが、比較的低い硫黄分含有量の原料接触分解ガソリンから硫黄分含有量10質量ppm以下のガソリン基材を製造する方法としては適していない。
【0026】
また、本発明に係る第1の工程においては、接触分解ガソリンに含まれているオレフィンと脱硫によって生成した硫化水素とからチオール類が副生するが、この副生反応の活性が低く、副生するチオール類に由来する硫黄分の含有量が、第1の工程の生成油の質量を基準として20質量ppm以下にできる触媒を使用することが望ましい。
【0027】
本発明に係る第1の工程に使用する触媒として、上記のような条件を満たすものとして、アルミナを主成分とし、該アルミナを修飾するアルカリ金属、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、スカンジウム及びランタノイド系金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属成分を含む金属酸化物を含有する担体に、コバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選択される1種又は2種以上の金属を担持してなる触媒が好ましい。さらに、前記アルミナを主成分とする担体を修飾する金属酸化物が、カリウム、銅、亜鉛、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム及びイッテルビウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属成分を含む金属酸化物である場合により好ましい。これらの金属酸化物によるアルミナを主成分とする担体の修飾は、アルミナの前駆体にこれらの金属酸化物あるいはその前駆体を混合し、焼成する等の方法により行うことが好ましい。
【0028】
本発明に係る第2の工程において使用される触媒も、オレフィンの水素化活性が低い触媒であることが好ましい。さらに、前記第1の工程で副生するチオール類の水素化脱硫活性が高い触媒であることが好ましい。具体的な触媒としては、低活性のコバルト・モリブデン触媒や沈殿法で製造したニッケル触媒等が使用できる。中でもアルミナ等の担体にニッケルを担持した触媒が特に好ましい。
【0029】
本発明の製造方法に係る第1の工程の反応条件は、反応温度200〜270℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV2〜7h−1、水素/油の比100〜600NL/Lとすることが好ましい。前記第1の工程においては、なるべく反応温度を低くし、小さいLHSVにおいて反応を行うとオレフィンの水素化を抑制しつつ高い脱硫率を得ることができる。しかしながら、あまり低温で反応を行うとオレフィンと脱硫により発生する硫化水素とからチオール類が生成する反応が促進されてしまうので注意が必要である。
【0030】
一方、本発明の製造方法に係る第2の工程の反応条件は、反応温度300〜350℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV10〜30h−1、水素/油の比100〜600NL/Lとすることが好ましい。前記第2の工程においては、反応温度が高い方が前記第1の工程で副生したチオール類の水素化分解が促進されるので、高温・高LHSVが好ましいが、触媒寿命との関係から最適な条件を決定することとなる。特にLHSVの設定は重要で、10h−1未満の場合はオレフィンの水素化が促進されるので注意が必要である。
【0031】
本発明の製造方法に係る第1の工程及び第2の工程を経て得られる接触分解ガソリン中には、数質量ppmのチオール類が含まれているが、これらチオール類はスウィートニングによりジスルフィドに転換してドクター試験結果を陰性とすることができる。スウィートニングプロセスとしては、マロックス法に代表される既知のプロセスが使用できる。このプロセスでは、コバルトフタロシアニン等の鉄族キレート触媒下で酸化反応によってチオールをジスルフィドへ転換する。チオール類に由来する硫黄分含有量を3質量ppm以下にできれば、ドクター試験結果は陰性となるので、スウィートニングすることなく製品ガソリンの基材として使用できる。
【0032】
上記の方法で処理された接触分解ガソリンは、改質ガソリン(リフォーメート)等の他基材と混合して、所謂サルファーフリーの製品ガソリンとすることができる。混合に際して制約は特にないが、各基材の性状を見定めて、製品ガソリンの規格に合致するように混合比率を調整することが好ましい。本発明の製造方法により製造されたガソリン基材を含有する製品ガソリンは、硫黄分含有量を8質量ppm以下とすることが容易であり、またオクタン価が実用上問題のない領域とすることも容易である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例、比較例及び参考例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
[参考例1]
<触媒の製造>
市販のアルミナゾル(固形分10重量%)200gに水酸化カリウム0.29gを加えてよく攪拌混合し、水分を蒸発させ、1/32インチ柱状に押し出し成型した。これを100℃で乾燥した後、500℃で2時間焼成し、カリウムを1質量%含有するアルミナ担体を調製した。この担体7.85gに、硝酸コバルト6水塩1.75g、モリブデン酸アンモニウム4水塩2.09gを含む水溶液を常法により含浸させ、100℃で乾燥した後500℃で4時間焼成して酸化カリウム修飾アルミナ担持コバルト・モリブデン触媒を得た。分析の結果、触媒の組成は、いずれも触媒の質量基準でMoO:17.0質量%、CoO:4.5質量%、Al:77.5質量%、KO:1.0質量%であり、表面積は258m/g、細孔容積は0.45ml/gであった。以下、得られた触媒を「触媒A」と呼ぶ。
【0035】
<モデル反応>
接触分解ガソリンのモデルとなる原料を用いて、本発明の有効性を確認した。トルエン80容量%とジイソブチレン20容量%とからなる混合液に、該混合液の質量を基準としてチオフェンを硫黄分濃度として100質量ppmとなるように溶解した。チオフェンは接触分解ガソリン中の硫黄化合物を模擬しており、ジイソブチレンは接触分解ガソリン中のオレフィンを模擬している。
【0036】
2つの固定床反応器を用い、第1の反応器には触媒Aを充填し、第2の反応器にはCrosfield社製担持ニッケル系触媒HTC−200(商品名)を充填し、これらを直列に配管にて連結した。これらの触媒の使用に際し、硫化処理を施した後、コーキング処理を施して水素化活性をさらに低下させた。前記モデル原料及び水素ガスを第1反応器側より連続的に供給して脱硫反応を行った。第1反応器及び第2反応器における生成油をサンプリングし、全硫黄分含有量の測定は電量滴定法、各硫黄化合物由来の硫黄分濃度はGC−SCD法(SulfurChemiluminescence Detector、硫黄化学発光検出器)、生成油中の硫黄化合物及び炭化水素成分の定性はGC−MS法により分析を行った。第1反応器及び第2反応器の反応条件を表1に、それぞれの生成油の分析結果を表2に示す。各硫黄化合物物由来の硫黄分及び全硫黄分含有量は、各生成油の質量基準であり、脱硫率は下記式:
脱硫率(%)=100×(1−生成油中の全硫黄分含有量)/原料中の全硫黄分含有量
で定義される。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
第1反応器ではチオフェンの脱硫が進行した。水素化活性が低い触媒を使用しているため、チオフェンの水素化生成物であるチアシクロペンタンとブチルチオールの生成は認められない。また、脱硫によって生じた硫化水素とジイソブチレンの反応によってオクチルチオールが生成した。第2反応器においては、第1反応器において生成したオクチルチオールが水素化脱硫され、全硫黄分10質量ppm以下の模擬ガソリン基材が得られた。
【0040】
[実施例1]
原料として重質接触分解ガソリン(15℃密度:0.793g/cm、沸点:初留点79〜終点205℃、リサーチ法オクタン価:90.3、オレフィン含有量:32容量%、硫黄分:121質量ppm)を用いたこと、及び第1反応器の反応温度を250℃とした以外は参考例1と同様の条件及び操作により、脱硫反応を行った。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
[比較例1]
第1反応器のみを使用し、その反応温度を265℃とした以外は実施例1と同様の条件及び操作により重質接触分解ガソリンの脱硫反応を行った。結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
[比較例2]
第1反応器の触媒を一般的な水素化脱硫触媒であるProcatalyse社の市販触媒HR306C(商品名)とし、その反応温度を250℃に、また第2反応器におけるLHSVを2とした以外は前記実施例1と同様の条件及び操作により重質接触分解ガソリンの脱硫反応を行った。表5に反応条件を、表6に結果を示す。
【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
実施例1では、オレフィンの水素化によるオクタン価の低下を抑制しながら、硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材が得られた。これは第1反応器にオレフィン水素化活性の低い触媒を使用していることと、第2反応器においてオレフィン水素化を極力抑制しつつチオール硫黄分を低減できる反応条件を選択していることによる。
【0048】
比較例1のように1工程のみの脱硫では、オレフィンの水素化によるオクタン価低下が大きく、この低下を実用上問題にならない程度に抑制しつつ、硫黄分10重量ppm以下のガソリン基材を製造することは困難である。
【0049】
比較例2においては、第1反応器で使用した触媒が、触媒Aに比較してオレフィン水素化活性が高いため第1反応器でのオクタン価低下が大きいことに加え、脱硫活性も低く第1反応器での脱硫率が低い。さらに、第2反応器の反応条件も実施例1と異なり同反応器におけるオクタン価低下も大きい。すなわち、この方法ではオクタン価低下が大きく、かつ硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材を製造することが困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触分解ガソリンを、該接触分解ガソリン中に含有されるオレフィンの水素化率が25モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が20質量ppm以下、チオフェン類及びベンゾチオフェン類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下、かつ、チアシクロペンタン類に由来する硫黄分が0.1質量ppm以下となるように水素化脱硫する第1の工程と、
前記第1の工程の生成油を、前記第1の工程におけるオレフィンの水素化率と本工程におけるオレフィンの水素化率との合計が30モル%以下、生成油の質量を基準とする全硫黄分の含有量が10質量ppm以下、かつ、チオール類に由来する硫黄分の含有量が5質量ppm以下となるようにさらに水素化脱硫する第2の工程と、
を備えることを特徴とするガソリン基材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程及び第2の工程に使用される触媒が、それぞれコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選択される1種又は2種以上の金属を含む触媒であることを特徴とする請求項1記載のガソリン基材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程に使用される触媒が、アルミナを主成分とし、該アルミナを修飾するアルカリ金属、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、スカンジウム及びランタノイド系金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属成分を含む金属酸化物を含有する担体に、コバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンから選択される1種又は2種以上の金属を担持してなる触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリン基材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程の反応条件が、反応温度200〜270℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV2〜7h−1、水素/油の比100〜600NL/Lであり、前記第2の工程の反応条件が、反応温度300〜350℃、反応圧力1〜3MPa、LHSV10〜30h−1、水素/油の比100〜600NL/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガソリン基材の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程に供される前記接触分解ガソリンは、蒸留によって軽質留分が分離された重質留分であり、その沸点範囲が80〜210℃であり、前記接触分解ガソリンの質量を基準とする全硫黄分の含有量が200質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガソリン基材の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程に使用される触媒が、担体に担持されたニッケルを含む触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガソリン基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られるガソリン基材を含有することを特徴とするガソリン。

【公開番号】特開2009−96830(P2009−96830A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267031(P2007−267031)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】