説明

ガソリン用添加剤及びガソリンの製造方法

【課題】エンジンの出力性能、特に加速応答性に優れ、高オクタン価のガソリン用の添加剤、並びに、該ガソリンの製造方法を提供する。更に、芳香族炭化水素留分の配合量を減少させつつ、排気ガス中の有害成分を減少させ、エンジンの出力性能、特に加速応答性を向上させる該ガソリンの製造方法を提供する。
【解決手段】メチルシクロペンテンからなるガソリン用添加剤、並びに、ガソリンの基材に該ガソリン用添加剤を添加し、メチルシクロペンテンを0.5〜50容量%含有し、芳香族炭化水素の含有量が40容量%以下のガソリンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン出力の性能が優れており、しかも排気ガス中の有害成分の増加を防止することができる、ガソリン用の添加剤、及びかかるガソリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、排気ガスに含まれる有害物質が少なく、かつ燃費が良好なことが要求される。燃費を良くする一つの方法として、エンジンの圧縮比を高めて熱効率を向上させることが挙げられる。しかし、圧縮比の高いエンジンでは、ノッキングが起こりやすくなるため、オクタン価の高いガソリンが必要となる。高オクタン価のガソリンを製造するため、過去には、アンチノック剤であるアルキル化鉛をガソリンに添加してオクタン価を高める方法が採用されていた。しかし、いわゆる鉛公害問題に端を発して、アルキル化鉛の使用が問題になった。また、昭和50年から自動車に装着されるようになった触媒浄化装置の浄化性能に影響を及ぼさないガソリンが、要求されるようになった。このため、ガソリン中の成分を調整することによって製造した高オクタン価ガソリンが、生産・販売されるようになった。具体的には、ガソリンのオクタン価を向上させるため、高オクタン価を示す成分である芳香族炭化水素留分の配合量を増加させてきた。
【0003】
しかし、近年、芳香族炭化水素成分が人体に及ぼす影響が問題となり、ガソリン中の芳香族炭化水素留分の配合量を減少させることが要求されてきている。このため、脂肪族炭化水素系の軽質でかつ高オクタン価を有する成分を配合したガソリンや、さらにはメチル−t−ブチルエーテル等の含酸素有機化合物を配合したガソリンが市販されるようになった。
【0004】
また、一般のガソリンにおいても、高オクタン価ガソリンと同様に、芳香族炭化水素成分が問題となってきており、芳香族炭化水素留分の配合量を減少させることが要求されてきている。このため、脂肪族炭化水素系の軽質成分を配合したガソリンが市販されるようになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、軽質な脂肪族炭化水素原料は、高オクタン価のものを大量に生産するのが難しい。また、軽質な脂肪族炭化水素や含酸素有機化合物をガソリン中に含有させると、芳香族炭化水素を含有させた場合と比較して発熱量が小さくなるため、エンジンの出力が低下しがちである。さらに、エンジン中での火炎速度が遅くなり、特に加速時には、軽質な脂肪族炭化水素や含酸素有機化合物が、重質な成分よりも優先してエンジン内に供給される結果、加速応答性が低くなることが判明してきた。
【0006】
本発明の課題は、オクタン価が高く、かつエンジンの出力性能、特に加速応答性に優れたガソリン用の添加剤、並びに、かかるガソリンの製造方法を提供することである。本発明の課題は、更に、芳香族炭化水素留分の配合量を減少させつつ、または排気ガス中の有害成分を減少させつつ、エンジンの出力性能、特に加速応答性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための手段としての本発明のガソリン用添加剤は、メチルシクロペンテンからなることを特徴とする。また、本発明のガソリンの製造方法は、ガソリンの基材に上記ガソリン用添加剤を添加することを特徴とし、メチルシクロペンテンを0.5〜50容量%含有し、芳香族炭化水素の含有量が40容量%以下のガソリンを製造することが好ましい。
【0008】
上記ガソリンの基材としては、原油の常圧蒸留により得られる直留ガソリンまたは軟質ナフサ、接触分解法、水素化分解法または熱分解法等で得られる分解ガソリン、接触改質法等で得られる改質ガソリン、イソブタン等の低級炭化水素にプロピレン等の低級オレフィンを付加してアルキル化することにより得られるアルキレート、軟質ナフサの異性化により得られるアイソメート等を使用することができる。さらには、ガソリンの基材中に、メチル−t−ブチルエーテル等の含酸素化合物等を包含させることができる。
【0009】
現在のところ、通常用いられているガソリン基材には、メチルシクロペンテンが最大限でも0.1容量%程度しか含まれていない。また、メチルシクロペンテンは、ガソリンの基材の精製の過程で混入ないし生成したものであって、特に添加剤として認識されていなかった。しかし、本発明者は、メチルシクロペンテンをガソリン中に0.5容量%以上添加し、ガソリンの排気試験および加速性能の試験を行ったところ、双方共に予想外に改善された特性を示すことを見い出し、本発明に到達した。即ち、メチルシクロペンテンを芳香族炭化水素の代わりにガソリン中に添加することによって、エンジンの排気ガスからの有害物質を減少させることができ、しかも加速性能を向上させうることを発見した。
【0010】
さらに、メチルシクロペンテンのリサーチ法オクタン価は、「Technical Data Book,Petroleum Refining English Edition Volume I」(American Petroleum Institute)によれば94である(1−メチルシクロペンテン、過去には、ASTM No.225(1958年)に184という値が記載されている)。本発明者らが通常のガソリンにメチルシクロペンテン(本発明者が合成したもの、1−メチルシクロペンテンが約65%)を添加したところ、リサーチ法オクタン価が約110の基材となっていることを発見した。このように、メチルシクロペンテンをガソリン中に配合することによって、ガソリンのオクタン価を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガソリン用添加剤が添加されたガソリンは、メチルシクロペンテンを含有させたことにより、排気ガス中の有害成分を増加させることなく、オクタン価を向上させ、更にエンジンの出力性能、特に加速応答性を著しく向上させることができるという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のガソリンの製造方法では、上記の通常用いられるガソリン基材に対して、別の工程で製造したメチルシクロペンテンを添加し、混合する必要がある。メチルシクロペンテンは、メチルシクロペンタンの脱水素化反応における生成物の一つである〔天野ら;旭硝子工業技報奨励会研究報告Vol.25,269(1974).〕。シクロヘキセンの異性化によっても、製造が可能である(特開昭47−031955号公報等)。また、メチルシクロペンタジエンを水素化することによって得ることも可能である。これらの反応による反応生成物をそのままガソリン基材に添加することができ、または、これらの反応生成物からメチルシクロペンテンを分離、精製し、ガソリン基材へと添加することができる。
【0013】
この場合、メチルシクロペンテン以外のアルキルシクロペンテン、シクロヘキセン、アルキルシクロヘキセン(メチルシクロヘキセン等)をガソリン中に含有させても良いが、沸点が高いものは、ガソリンのエンジン出力の改善には、さほど効果を奏しない。
【0014】
排気ガス中の有害物質を増大させることなく、ガソリンのオクタン価と発熱量を向上させ、特にその加速性能を向上させるという観点からは、ガソリン中のメチルシクロペンテン濃度を少なくとも0.5容量%とすることが必要である。より一層加速性能を向上させるためには、2容量%以上含有させることが好ましく、5容量%以上含有させることが、より好ましい。
【0015】
0.5容量%以上の範囲では、メチルシクロペンテンの含有量を多くするほど、ガソリンの出力は一層向上すると共にオクタン価も向上する。しかし、夏期の運転性(ベーパーロック現象の発生)に影響する分留性状を考慮すると、その上限は50容量%程度である。しかしながら、メチルシクロペンテンを多量に添加すると、ガソリンのコストが上昇するため、40容量%以下が好ましく、30容量%以下とすることが一層好ましい。但し、夏期の運転性とコストの問題がなければ、50容量%程度まで添加しても良いし、この条件では、オクタン価と発熱量向上の相乗効果により高いエンジン出力が得られることは言うまでもない。
【0016】
また、本発明の製造方法で製造されるガソリン中のベンゼン含有量は、1容量%以下にすることが、排気ガス中の有害成分を減少させるという観点から好ましい。この下限は特になく、0容量%としても良い。また、本発明の製造方法で製造されるガソリン中の芳香族炭化水素の含有量は、やはり排気ガス中の有害物質を削減するために40容量%以下とすることが好ましく、35容量%以下とすることが、より一層好ましい。
【実施例】
【0017】
(メチルシクロペンテンの合成方法)
試薬のメチルシクロペンタンを用いて、前述の天野等の方法により脱水素反応を行い、得られた生成物を蒸留することによって、メチルシクロペンテンを分離し、純度93%のメチルシクロペンテン(1−メチルシクロペンテンは約83%)を得た。以下の実験は、このメチルシクロペンテンを用いて行なった。
【0018】
(実験例1:火災速度およびエンジン出力の測定)
「ASTM−CFR」ガソリンエンジンを用い、このエンジンの燃焼室内圧力を圧力ピックアップ(AVL社製、「8QPC」)で検出し、図示出力(エンジン出力)を燃焼解析装置(小野測器社製、「CB−466」)で測定した。更に、燃焼室側壁面に設置したスパークプラグ(日本電装社製)を用い、このスパークプラグに24Vの電圧を印加し、火炎の到達によりこのプラグに発生したイオン電流をオシロスコープにより検出し、点火プラグの発火時からイオン電流の検出されるまでの時間(火炎速度)を測定した。「ASTM−CFR」ガソリンエンジンの諸元を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
試料としては、イソオクタン90容量%に、メチルシクロペンテン、ベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサン、ヘキサンをそれぞれ10容量%加えたものを用意し、またイソオクタンのみのものを用意した。各試料について、前記のように、火炎速度およびエンジン出力を測定し、測定結果を表2に示した。表2において、「λ」は空気過剰率を示す。また、表2に示す値は、イソオクタンのみの試料については、絶対値で示した。他の試料については、次の相対値で示した。
〔(各試料についての火炎速度またはエンジン出力−イソオクタン試料についての火炎速度またはエンジン出力)/イソオクタン試料についての火炎速度またはエンジン出力〕
【0021】
【表2】

【0022】
表2の結果から分かるように、メチルシクロペンテンを添加した試料は、イソオクタンのみの場合やシクロヘキサン、ヘキサンをそれぞれ添加した試料と比較して、火炎速度もエンジン出力も大きく向上している。しかも、重質の添加剤であるベンゼンを添加した試料と比較して、火炎速度及びエンジン出力は、同等の効果を示すことが分かった。
【0023】
(実験例2:排気ガス中の有毒物質の測定)
電子燃料噴射制御装置および三元触媒が装備されている平成5年度登録の市販乗用車(排気量1.49リットル)を用い、シャーシダイナモメータ上で運転を行い、排気ガス中の有害物質の測定を行なった。この測定を実施する際には、「TRIAS 23−1991」に記載されている「ガソリン自動車1リットルモード排気ガス試験法」に則った方法で、排気ガスをコンスタントボリュームサンプラー(堀場製作所、「CVS−9100S」)でサンプリングし、ベンゼン量を、ガスクロマトグラフィー〔ヒューレット・パッカード社製、HP5890シリーズII;無極性キャピラリーカラム(0.32mmφ、長さ60m、膜厚1μm)、水素炎イオン検出器〕で定量し、11モード走行中の排出ベンゼン量を算出した。
【0024】
実験例1で調製した各試料に対して、蒸気圧を高めるため、更にそれぞれイソペンテンを3容量%添加して本実施例用の各試料を調製し、各試料について上記の測定を行なった。この結果を、表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
ベンゼンを添加した試料については、排気ガス中に385mgもの量が検出されたが、メチルシクロペンテンを含有したガソリンを使用すると、この約1/8程度のベンゼンしか検出されておらず、これは、シクロヘキサンやシクロヘキセンを使用した場合と比べても大差なく、メチルシクロペンテンを使用した場合には排出ベンゼン量が顕著に減少した。このように、メチルシクロペンテンを含有したガソリンを使用すると、排気ガス中の有害物質の量は比較的少なくでき、特に重質の芳香族添加剤を使用した場合と比較すると、顕著に低減できる。
【0027】
(実験例3:ベースガソリンを使用した加速応答性の試験)
表4に示した性状を有するベースガソリンに対して、メチルシクロペンテンを5.0容量%または20.0容量%添加して、本発明例のガソリン試料3.1または3.2を調製し、これらのガソリンについて加速応答性を試験した。また、比較のため、表4に示した性状を有するベースガソリンについて、メチルシクロペンテンを加えることなく、同様の試験を行った。
【0028】
【表4】

【0029】
なお、表4から明らかなように、メチルシクロペンテンを添加すると、オクタン価が向上しているが、この向上した数値からメチルシクロペンテンのオクタン価を逆算すると、110.2となった。このことから、通常のガソリンにメチルシクロペンテンを添加すると、ガソリンのオクタン価を大きく向上できることが明らかになった。
【0030】
表5に記載した諸元からなる市販型エンジンを恒温室に設置し、直流ダイナモメータにより制御しつつ、図1に示すモードでエンジンを運転した。ただし、図1の運転モードグラフにおいて、縦軸はスロットル開度(%)を表し、横軸は時間を(秒)を表す。エンジンを運転して、エンジンが十分に暖機した後の最大トルク(Tmh)と、コールドスタート時(エンジン冷間時)の最大トルク(Tmc)とを測定し、これらの比Tr(Tr=Tmc/Tmh)を求めて、加速応答性を評価した。これらの結果を表6に示した。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
この結果から明らかなように、メチルシクロペンテンを添加することにより、加速応答性が急激に良くなることが分かる。また、表4の試料3−1、3−2から、メチルシクロペンテン添加量を増やすと密度が増加しており、重質な成分として作用していることがわかる。
【0034】
(実験例4:接触改質ガソリンを使用した加速応答性の試験)
表7に示した性状を有する接触改質ガソリン90容量%に対して、メチルシクロペンテンを10容量%添加して、本発明例のガソリンを調製し、このガソリンについて加速応答性を試験した。また、比較のため、表7に示した性状を有する接触改質ガソリンに対して、メチルシクロペンテンの代わりに、ベンゼン、2,4−ジメチルペンテン、1−ヘキセンを添加することによって、各比較例のガソリンを調製し、各ガソリンについて同様の試験を行った。
【0035】
【表7】

【0036】
表5に記載した諸元からなる市販型エンジンを恒室温に設置し、実験例3と同様にして、加速応答性を評価した。ただし、加速性のデータは5回続けて測定した。これらの結果を表8に示す。
【0037】
【表8】

【0038】
この結果からわかるように、ガソリン中に特にメチルシクロペンテンを添加することによって、ベンゼンやジメチルペンテンを添加した場合と比較して、加速応答性が顕著に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実験例3及び4で行なった加速応答性評価のためのエンジンの運転モードを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルシクロペンテンからなるガソリン用添加剤。
【請求項2】
ガソリンの基材に請求項1に記載のガソリン用添加剤を添加することを特徴とするガソリンの製造方法。
【請求項3】
メチルシクロペンテンを0.5〜50容量%含有し、芳香族炭化水素の含有量が40容量%以下のガソリンを製造することを特徴とする請求項2に記載のガソリンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−77255(P2006−77255A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291461(P2005−291461)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【分割の表示】特願平8−121463の分割
【原出願日】平成8年5月16日(1996.5.16)
【出願人】(591054554)株式会社ジョモテクニカルリサーチセンター (14)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】