説明

ガバペンチンの調製方法

本発明はガバペンチンの改良された調製方法に関し、より詳細には、ガバペンチンの調製の中間体として用いられる1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの調製反応の改良に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガバペンチン調製のための改良された方法に関し、より詳細には、ガバペンチン調製の中間体として用いられる1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの調製反応の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ガバペンチン(1−(アミノメチル)−シクロヘキサン酢酸)(非特許文献1)は、抗てんかん活性と抗けいれん活性を有することが知られている薬剤であり、文献初出はワーナーランバート社による特許文献1である。
【0003】
ガバペンチンの調製方法は、数種が文献に報告されている(特許文献1(前述)、特許文献2及び特許文献3(いずれもグーデッケ(Goedecke)A.G.名義)等参照)。
【0004】
特許文献1は、ガバペンチン或いは次式:
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1は水素原子又は低級アルキルを表し、nは4、5又は6である)で表される類似化合物の各種調製方法を開示しており、これら方法は、第一級アミン類又はアミノ酸類の従来の調製方法(例えば、適切なアジドのクルチウス転位、適切なモノアミドのホフマン転位、適切なヒドロキサム酸のロッセン転位)を使用することを特徴とする。
【0007】
特に、上述のワーナーランバート社による特許(実施例4の変法A(カラム5))は、ガバペンチンの低級環状同族誘導体である1−(メチルアミノ)−1−シクロペンタン酢酸の合成を開示している。この合成においては、対応する酸無水物を20%NH3水溶液と反応させてシクロペンタン二酢酸モノアミドを調製し、得られたモノアミドをホフマン転位させ、酸性化及び抽出と、塩基性イオン交換樹脂による溶出とアルコールからの再結晶化からなる最終精製段階に付す。
【0008】
特許文献4(ハンチョウ・ショウシン(Hangzhou Shouxin)Fine Chem)[World Patent Index(オンライン)の抄録、ダーウェントパブリケーションズ、ロンドン、抄録番号2001−497525]は、シュウ酸の1,1−シクロヘキシルモノアミドの調製を開示している。これは、有機溶媒存在下で、1,1−シクロヘキシルモノアミドに対応する酸無水物をアンモニア水溶液又はアンモニアガスと反応させて行う調製である。
【0009】
これら公知の各種合成技法のうち、ブロミンコンパウンズ(Bromine Compounds)社による特許文献5は、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの合成方法を開示しており、この合成方法は、
a)アンモニア水による1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化と、
b)反応液の中和による粗製1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの析出と濾過と、
c)粗製1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの溶媒から結晶化による精製とを含む。
【0010】
上述の方法は、ワーナーランバート社の特許に記載された実験室レベルの方法から工業規模への転換を試みたものであるが、この方法は工業的観点から効率がよいとは言えない。
【0011】
特に、この方法は試薬や溶媒を大量に使用する。例えば、結晶化段階では溶媒を大量に使用し、またアミノ化には大量のアンモニア性溶液が必要である。そして、アンモニア性溶液には事後処理が必要であり余分なコストや処理時間がかかる。
【0012】
更にこの特許は、純度99.5%超の1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミド(特許文献4(先に引用)の抄録の記載により既に製造可能)を記載し権利請求している。しかし、このような高い生成物純度は、ガバペンチン合成における生成物への転換にとって不必要な迄の方法時間やコストをかけて得たものである。
【特許文献1】米国特許第4024175号
【特許文献2】米国特許第5068413号
【特許文献3】米国特許第5091567号
【特許文献4】中国特許CN1297885号
【特許文献5】国際出願第WO03/002517号
【非特許文献1】メルクインデックス第12版、733ページ、No.4343
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、この方法を工業的に適用するという観点から、より好ましい条件で反応を行える別法の研究が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、驚くべきことに本発明者らは、従来開示されている方法の問題点を克服し、ガバペンチンの調製における中間体である1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドを工業レベルで合成するための改良された反応条件を見出した。
【0015】
従って本発明は、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの調製と、このモノアミドのホフマン転位と、ガバペンチン塩の精製と、有機溶媒からの結晶化とを含むガバペンチン合成方法において、前記酸モノアミドの調製が、
a)1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物とNH3水とを30℃未満でNH3/酸無水物のモル比を3未満として反応させるアミノ化と、
b)反応液の酸性化による生成物の析出
とを含むことを特徴とするガバペンチン合成方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物は公知の技法に従って調製され、例えば、フランス特許第1248764号(Centre de Lyophilisation Pharmaceutique名義)に記載の方法やカラハン(Callahan)らによる「J.Org.Chem.1988、第53巻、1527〜1530」に記載の方法に従って調製される。
【0017】
一般に、1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換は、工業方法に通常使用される有機溶媒の存在下で酸無水物と反応させることによって行われる。
【0018】
使用される有機溶媒の具体例としては、メチルtert−ブチルエーテルやトルエン、テトラヒドロフラン、塩化メチレンが挙げられる。
【0019】
好ましくは、1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換は、トルエン存在下で無水酢酸と反応させることによって行われる。
【0020】
アミノ化は、通常25〜35%濃度で水溶液として使用されるNH3との反応によって起こり、好ましくは約28%濃度のアンモニア水溶液と反応させる。
【0021】
酸性化段階は、一般的な有機酸や無機酸を使用して行い、これらの例としては、塩酸や臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、酢酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸が挙げられる。
【0022】
有機酸及び無機酸は通常水溶液として使用するが、気相で使用できるものもある。
【0023】
好ましくは、酸性化段階は濃塩酸又は塩酸ガスを用いて行い、より好ましくは、約31%濃度の塩酸水溶液を用いる。
【0024】
アンモニアと1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物とのモル比は通常2.2〜2.9であるが、収率を最適とし且つ廃棄物を制限するためには2.5〜2.7が好ましい。
【0025】
アミノ化反応中、温度を30℃以下に維持することにより、不純物の生成を最小限にすることができる。
【0026】
実際的観点から、アンモニア性溶液を含む反応器を温度30℃未満の恒温、好ましくは10〜25℃の恒温として、これに酸無水物を添加する。
【0027】
1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドを析出させる酸性化段階は、本発明の重要なアスペクトであると共に更なる目的である。この析出方法は、40〜45℃で酸性化してpH6.3〜6.5(結晶が成長)とし、更に同温にて酸性化を続けpH3.8〜4.2(析出に最適である)とし、最後に、温度を約40〜45℃に維持して析出物を濾過することを含む。
【0028】
従って、本発明の第二の目的は、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドのアンモニア性溶液を40〜45℃で酸性化してpHを約6.3〜6.5とし、同温にて反応液の酸性化を続けpHを約3.8〜4.2とし、最後に、温度を40〜45℃に維持して析出物を濾過することを含む、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの析出方法を提供することである。
【0029】
本発明に係る改良方法を実施することによって、高純度の生成物(純度99%以上、ガバペンチン調製の後段階に好適である)が極めて高収率(約95%)で得られるので、特に、生成物自身の結晶化方法が不要となる。
【0030】
高純度の生成物を得るために、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドを例えば結晶化して精製する方法は当業者には明らかであるが、本合成方法において高価な追加段階はなんら工業上の利益をもたらさない。
【0031】
本発明の方法により、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドをより少ない合成段階数で得ることができ、結果として時間とコストを低減できる。
【0032】
更に、試薬と溶媒の使用を大幅に低限し、産業廃棄物処理の観点からも更なる利点を有する。
【0033】
実際に、ガバペンチン合成における1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの本発明に係る調製の改良により、前記従来法を用いて得られる生成物と比べ、もし良くなくても、これと同等の類似の性質を有する生成物が得られる。本方法は、アンモニア消費量が低く且つ生成物を結晶化して精製する必要がないためより効率的である。
【0034】
従来技術、特に国際出願第WO03/02517号(前述)と比較した場合、実質的な相違点を次のように指摘できる。
−NH3使用量の低減(上述の先行技術ではNH3/無水物のモル比が5〜10(好ましくは7)であるのに対し、NH3/無水物のモル比が3未満)、
−1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの結晶化を必要とせず、ガバペンチン調製の後段階に使用するのに好適な生成物が得られる。結果的に、本方法は先行技術より合成段階が一段階少なくなり、このため実施時間の短縮や使用溶媒量の低減、使用労働力の削減、反応器の占有時間の短縮等の利益が得られる。
【0035】
更に、本方法の収率は、ブロミンコンパウンズ(Bromine Compounds)社による特許出願(前述)の実施例に記載の方法に比べ非常に高い。
【0036】
本発明の方法の一実施形態においては、1,1−シクロヘキサン二酢酸をトルエン中で無水酢酸と反応させて対応する無水物に転換する。一部のトルエンと生成された酢酸の大部分とを蒸留により除去した後で、トルエンに溶解している中間体をアンモニア水溶液に添加する。トルエンを分相により除去し、酸性水溶液を遠心分離してモノアミドを単離する。次いで、得られた生成物をホフマン転位等によりガバペンチンに転換し、得られたガバペンチン塩をイオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーに付し、更にアルコール性溶媒から結晶化する精製段階を行う。
【0037】
以下、本発明を実施例により更に説明する。
【実施例】
【0038】
実施例1
窒素気流中、トルエン(3246kg(3748L))と1,1−シクロヘキサン二酢酸(1874kg)とを攪拌しつつ反応器に装荷した。
濃厚な懸濁液を得、この懸濁液を80℃に加熱し、ここに無水酢酸(1146kg(1064L))を2〜3時間かけて添加した。
添加に際し、若干吸熱がみられた。添加中、内温を約80度に維持した。
添加の進行に伴い、反応混合物は流動化し完全に溶解した。この混合物を攪拌下、内温約80℃で約30分間放置し、次いで徐々に真空状態とし内温を80℃以下に維持して蒸留を行い、残渣体積を約2600Lとした。
【0039】
混合物(酢酸/トルエン、約25/75(w/w))(約3800kg)を焼却装置に移し蒸留に付した。
蒸留残渣を約40〜50℃で結晶化して、次いで50〜60℃で溶解状態を維持した。
【0040】
一方、脱塩水(demineralized water)(656kg)と約28%のアンモニア溶液(1500kg(1670L))を第二の反応器に装荷してアンモニア性溶液を調製した。
内温を10〜25℃に維持し、50〜60℃で溶解状態の上で得た蒸留残渣を添加した(添加は発熱)。
添加中及び添加終了時にpH8超となるようにpHを調節した。
【0041】
得られた二相溶液を約20分間20〜30℃で攪拌し、次いで1時間デカントした。
水相(下相)を室温にて分離し、一方、トルエン相は焼却装置に移した。
水相を徐々に真空状態とし、微量の存在し得るトルエンやアンモニアを除去した。
この水溶液に脱塩水(3000kg)を添加し、内温を40〜45℃に調整した。
【0042】
次いで、内温を40〜45℃に維持して、塩酸溶液(約1596kg(1386L))を添加した。
pH3.8〜4.2となるまで、内温を更に40〜45℃に維持し攪拌した。添加終了後、約20分間攪拌してpHを再度調節した。
温度を40〜45℃に維持して濾過を行い、4回脱塩水で洗浄した(1回当り約255kg使用)。
【0043】
湿った生成物(約2000kg)を得、これを乾燥させた。
本方法の収率は95%超であった。
反応生成物の力価をHPLC法で評価したところ99%超であった(未知不純物の総量は0.1%未満)。
【0044】
得られた1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドを公知の方法、例えばホフマン転位によってガバペンチンに転換させ、酸性化と、抽出と、強カチオン性イオン交換樹脂を用いたガバペンチン塩酸塩水溶液の精製と、再結晶化とを行った(同一出願人による国際出願第WO02/34709号に記載)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの調製と、該モノアミドのホフマン転位と、ガバペンチン塩の精製と、有機溶媒からの結晶化とを含むガバペンチン合成方法において、前記酸モノアミドの調製が、
a)1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物とNH3水とを30℃未満でNH3/酸無水物のモル比を3未満として反応させるアミノ化と、
b)反応液の酸性化による生成物の析出
とを含むことを特徴とするガバペンチンの合成方法。
【請求項2】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は、通常25〜35%濃度の水溶液として使用されるNH3と反応させることによって起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は、約28%濃度のアンモニア水溶液と反応させることによって起こる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性化段階は、濃塩酸又は塩酸ガスを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性化段階は、約31%濃度の塩酸水溶液を用いて行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アンモニアと1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物との前記モル比が2.2〜2.9である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アンモニアと1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物との前記モル比が2.5〜2.7である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は10〜25℃で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドのアンモニア性溶液を40〜45℃で酸性化してpHを約6.3〜6.5とし、同温にて反応混合物の酸性化を続けpHを約3.8〜4.2とし、最後に、温度を40〜45℃に維持して析出物を濾過することを含む、1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの析出方法。
【請求項10】
前記酸性化段階は、濃塩酸又は塩酸ガスを用いて行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性化段階は、約31%濃度の塩酸水溶液を用いて行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換は、有機溶媒存在下で無水酢酸と反応させて行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶媒はトルエンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
a)1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物とNH3水とを30℃未満でNH3/酸無水物のモル比を3未満として反応させるアミノ化と、
b)反応液の酸性化による生成物の析出とを含む、
1,1−シクロヘキサン二酢酸モノアミドの調製方法。
【請求項16】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は、通常25〜35%濃度の水溶液として使用されるNH3と反応させることによって起こる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は、約28%濃度のアンモニア水溶液と反応させることによって起こる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酸性化段階は、濃塩酸又は塩酸ガスを用いて行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記酸性化段階は、約31%濃度の塩酸水溶液を用いて行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
アンモニアと1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物との前記モル比が2.2〜2.9である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
アンモニアと1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物との前記モル比が2.5〜2.7である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物のアミノ化は10〜25℃で行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
1,1−シクロヘキサン二酢酸の対応する酸無水物への転換は、有機溶媒存在下で無水酢酸と反応させて行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記有機溶媒はトルエンである、請求項24に記載の方法。

【公表番号】特表2007−510695(P2007−510695A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538854(P2006−538854)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052894
【国際公開番号】WO2005/044779
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(593201822)ザンボン グループ エス.ピー.エー. (9)
【氏名又は名称原語表記】ZAMBON GROUP S.p.A.
【Fターム(参考)】