説明

ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板、および発光装置

【課題】耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有する発光ダイオード素子用基板を得ることのできるガラスセラミックス組成物を提供すること。
【解決手段】30〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末、35〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜20質量%のジルコニア粉末を含み、発光ダイオード素子を搭載するための基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物であって、前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを45〜65質量%、Bを5〜20質量%、Alを5〜25質量%、およびCaOを15〜35質量%含有し、LiO、NaO、およびKOを含有しない、あるいはLiO、NaO、およびKOの合計した含有量が0.5質量%未満であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス組成物、発光ダイオード素子用基板、および発光装置に係り、特に発光ダイオード素子を搭載する基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物、ならびにこのガラスセラミックス組成物からなる発光ダイオード素子用基板および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(以下、LEDと記すことがある。)素子の高輝度化、高効率化に伴い、携帯電話や大型液晶TV等のバックライト、一般照明等にLED素子を用いた発光装置が使用されるようになっている。これに伴い、LED素子周辺の部材についてもより高性能なものが求められるようになっている。従来、LED素子を搭載するためのLED素子用基板として樹脂材料からなるものが使用されているが、LED素子の高輝度化に伴う熱や光により劣化しやすく、無機材料からなるもの、例えばセラミックスからなるものの使用が検討されている。
【0003】
セラミックス基板としては、例えば配線基板に使用されるアルミナ基板や窒化アルミニウム基板が挙げられる。セラミックス基板は、樹脂基板に比べて熱や光に対する耐久性が高く、LED素子用基板として有望である。しかしながら、セラミックス基板は、樹脂基板に比べて反射率が低く、LED素子からの光が基板の後方へ漏れるために、前方の光度が低下する問題がある。また、セラミックス基板は、一般に難焼結性であるために1500℃を超える高温焼成が必要となり、プロセスコストが高くなるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、低温同時焼成セラミックス(以下、LTCCと記すことがある。)基板の使用が検討されている。LTCC基板は、一般にガラスとアルミナ等のセラミックスフィラーとの複合物からなり、ガラスの低温流動性によって焼結するために、従来のセラミックスよりも低い850〜950℃程度で焼成することができる。これにより、配線導体となるAg導体と同時に焼成することができ、従来のセラミックス基板に比べてコストを低減することができる。また、ガラスとセラミックスフィラーとの界面で光が拡散反射するために、従来のセラミックス基板よりも高い反射率を得ることができる。さらに、無機物からなるために、熱や光に対して十分な耐久性を得ることができる。
【0005】
このようなLTCC基板の表面には配線導体が設けられることが多く、この配線導体を保護するために、あるいはボンディングワイヤとの接続を容易にするためにメッキが行われている。しかし、一般にメッキ液は強い酸性を有しており、LTCC基板の耐酸性が低いとメッキ液に溶解し、メッキ液を汚染させやすい。結果として、メッキ液の交換等が必要となり、LTCC基板の生産効率が低下する。このため、LTCC基板には、耐酸性に優れることが求められている。
【0006】
また、LTCC基板は、LED素子用基板とするために切れ目を入れて割ったり、あるいは切断したりすることにより所定の大きさに加工されるが、抗折強度が低いと切断等の際に割れや欠けが発生しやすくなる。このため、LTCC基板には、抗折強度が高いことも求められる。
【0007】
耐酸性に優れ、また抗折強度も高いLTCC基板として、例えばモル分率表示でSiOを57〜65%、Bを13〜18%、Alを3〜8%、KOおよびNaOの少なくともいずれか一方を合計で0.05〜6%含有するガラス粉末と、セラミックスフィラーとを含有するガラスセラミックス組成物からなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、セラミックスフィラーとしては、アルミナ粉末が典型的に用いられ、アルミナ粉末とともにジルコニア粉末も用いられる。また、光学特性を向上させたLTCC基板として、例えば10重量%以下のチタニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物からなるものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、発光装置を大量生産する場合、多数のLTCC基板に効率的にメッキを施す必要があり、LTCC基板にはこれまで以上の耐酸性が求められている。また、LTCC基板には、耐酸性とともに、実用上十分な反射率や、配線導体の硫化を抑制できる十分なガスバリア性、すなわち緻密さも求められている。さらに、LTCC基板には、焼成時の反りが少なくなるようにガラス相の結晶化が抑制されていることが好ましく、また従来と同様に配線導体となるAg導体と同時焼成できることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2009/128354 A1
【特許文献2】特開2007−129191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、特に耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板が得られるガラスセラミックス組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板を提供することを目的としている。さらに、本発明は、耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板を用いた発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特にアルカリ成分であるLiO、NaO、およびKOの含有量が少ないホウケイ酸系ガラス粉末を用いるとともに、高屈折フィラーとして10〜20質量%のジルコニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物とすることで、耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0012】
すなわち、本発明のガラスセラミックス組成物は、30〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末、35〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜20質量%のジルコニア粉末を含み、発光ダイオード素子を搭載するための基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物であって、前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを45〜65質量%、Bを5〜20質量%、Alを5〜25質量%、およびCaOを15〜35質量%含有し、LiO、NaO、およびKOを含有しない、あるいはLiO、NaO、およびKOの合計した含有量が0.5質量%未満であることを特徴とする。
【0013】
本発明の発光ダイオード素子用基板は、発光ダイオード素子を搭載するための基板であって、上記した本発明のガラスセラミックス組成物を成形および焼成してなることを特徴とする。また、本発明の発光装置は、発光ダイオード素子用基板と、前記発光ダイオード素子用基板に搭載された発光ダイオード素子とを具備する発光装置であって、前記発光ダイオード素子用基板が上記した本発明の発光ダイオード素子用基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板が得られるガラスセラミックス組成物を提供することができる。また、本発明によれば、耐酸性に優れ、かつ十分な反射率や緻密さを有するLED素子用基板を提供することができる。さらに、本発明によれば、このようなLED素子用基板を用いることにより光学特性や生産性に優れる発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のLEDパッケージの一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、LED素子を搭載するためのLED素子用基板の製造に用いられるものであって、30〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末、35〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜20質量%のジルコニア粉末を含有する。
【0017】
また、このホウケイ酸系ガラス粉末は、酸化物換算で、SiOを45〜65質量%、Bを5〜20質量%、Alを5〜25質量%、およびCaOを15〜35質量%含有し、LiO、NaO、およびKOを含有しない、あるいはLiO、NaO、およびKOの合計した含有量が0.5質量%未満である。
【0018】
このようなガラスセラミックス組成物によれば、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるアルカリ成分であるLiO、NaO、およびKOの含有量が少ないために、耐酸性に優れる焼結体(LED素子用基板、以下同様)を得ることができる。また、反射率を向上させる高屈折フィラーとして主としてジルコニア粉末を含有するために、全体として高い反射率を有する焼結体を得ることができ、また主としてチタニア粉末を含有する場合のような400nm付近における光の吸収による反射率の低下が少ない焼結体を得ることができる。
【0019】
ここで、ジルコニア粉末は焼結性を低下させる成分である。また、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるLiO、NaO、およびKOは焼結性を向上させる成分である。従って、ジルコニア粉末を用いるとともに、LiO、NaO、およびKOの含有量が少ないホウケイ酸系ガラス粉末を用いた場合、耐酸性は向上するが、焼結性は低下しやすくなる。しかし、この実施形態のガラスセラミックス組成物によれば、ジルコニア粉末の含有量が一定値以下であるために、焼結性の低下が抑制され、十分に緻密な焼結体を得ることができる。また、ジルコニア粉末の含有量が一定値以上であるために、実用上十分な反射率を有する焼結体を得ることができる。
【0020】
さらに、このようなガラスセラミックス組成物によれば、焼成時のガラス相の結晶化が抑制されるために、反りの少ない焼結体を得ることができる。なお、ガラスセラミックス組成物におけるガラス粉末を主としてBiからなるものとすることで耐酸性に優れる焼結体が得られる可能性もあるが、このようなものについては過度に原材料費が高くなるおそれがある。上記組成を有するガラスセラミックス組成物によれば、比較的安価に耐酸性に優れる焼結体を得ることができる。
【0021】
以下、ガラスセラミックス組成物について具体的に説明する。
ガラスセラミックス組成物におけるホウケイ酸系ガラス粉末の含有量は30〜50質量%である。ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量が30質量%未満の場合、緻密な焼結体を得ることができない。より緻密な焼結体を得る観点から、ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量は、33質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。
【0022】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量が50質量%を超える場合、抗折強度の高い焼結体を得ることができない。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、ホウケイ酸系ガラス粉末の含有量は、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0023】
ホウケイ酸系ガラス粉末の50%粒径(D50)は0.5〜5μmが好ましい。D50が0.5μm以上の場合、工業的に製造しやすく、また凝集しにくくなるために取り扱いが容易となり、ガラスセラミックス組成物中にも分散しやすくなる。D50は、0.8μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。一方、D50が5μm以下の場合、焼成により緻密な焼結体を得やすくなる。D50は、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。なお、本明細書におけるD50は、レーザ回折散乱法で測定された値である。
【0024】
アルミナ粉末は、焼結体の抗折強度を向上させるために添加されるものであり、ガラスセラミックス組成物中、35〜60質量%添加される。アルミナ粉末の含有量が35質量%未満の場合、抗折強度の高い焼結体を得ることができない。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、アルミナ粉末の含有量は、40質量%以上が好ましく、42質量%以上がより好ましい。
【0025】
一方、アルミナ粉末の含有量が60質量%を超える場合、緻密な焼結体を得ることができず、また表面の平滑性が低下した焼結体が得られやすい。より緻密かつ表面の平滑な焼結体を得る観点から、アルミナ粉末の含有量は、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0026】
アルミナ粉末のD50は0.3〜5μmが好ましい。D50が0.3μm以上の場合、抗折強度の高い焼結体を得やすくなる。より抗折強度の高い焼結体を得る観点から、D50は0.6μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。一方、D50が5μm以下の場合、緻密かつ表面の平滑な焼結体を得やすくなる。より緻密かつ表面の平滑な焼結体を得る観点から、D50は4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0027】
ジルコニア粉末は、焼結体の反射率を向上させるために添加されるものであり、ガラスセラミックス組成物中、10〜20質量%添加される。ジルコニア粉末の含有量が10質量%未満の場合、実用上十分な反射率、具体的には85%以上の反射率を有する焼結体を得ることができない。なお、本発明における反射率は波長460nmにおけるものである。より反射率の高い焼結体を得る観点から、ジルコニア粉末の含有量は、11質量%以上が好ましい。
【0028】
一方、ジルコニア粉末の含有量が20質量%を超える場合、緻密な焼結体を得ることができない。すなわち、このガラスセラミックス組成物では、焼結体の耐酸性を向上させるために、ホウケイ酸系ガラス粉末における焼結性を向上させる成分であるLiO、NaO、およびKOの含有量が低減されている。そして、ジルコニア粉末は焼結性を低下させる成分であることから、上記したホウケイ酸系ガラス粉末とともに用いた場合、その含有量が20質量%を超えると緻密な焼結体を得ることができない。より緻密な焼結体を得る観点から、ジルコニア粉末の含有量は、19質量%以下が好ましい。
【0029】
ジルコニア粉末としては、安定化されていないジルコニアであってもよいが、通常はY、CaO、またはMgOの添加により少なくとも一部が安定化された部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアが好ましい。部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアとすることで、例えば高温下での相転移が抑制され、諸特性の安定した焼結体を得ることができる。部分安定化ジルコニアの種類については、必ずしも限定されるものではないが、工業的に安価に入手することが容易な、Y添加ジルコニアが好ましい。特にYの添加量としては、0.1〜10mol%であることが好ましい。
【0030】
ジルコニア粉末のD50は、0.05〜5μmであることが好ましい。D50が0.05μm以上の場合、光の波長(本発明では460nm)に対してジルコニア粉末の大きさが過度に小さくならないために、高い反射率を得ることができる。より高い反射率を得る観点から、D50は、0.1μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。一方、D50が5μm以下の場合、光の波長に対してジルコニア粉末の大きさが過度に大きくならないために、高い反射率を得ることができる。より高い反射率を得る観点から、D50は、3μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0031】
なお、工業的に入手可能なジルコニア粉末の中には、非常に小さい1次粒子(典型的には0.05μm以下)が凝集することにより比較的大きな2次粒子(典型的には0.05μm〜5μm程度)を形成するものがある。高い反射率を得るためには1次粒子径よりも2次粒子径が重要となることから、ジルコニア粉末が2次粒子からなる場合、2次粒子のD50が0.05〜5μmであることが好ましい。より高い反射率を得る観点から、2次粒子のD50は、0.1μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。一方、高い反射率を得る観点から、2次粒子のD50は、3μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0032】
ガラスセラミックス組成物は、基本的にジルコニア粉末以外の高屈折フィラーを含まないことが好ましいが、ジルコニア粉末以外の高屈折フィラーを合計で3質量%以下含有してもよい。ジルコニア粉末以外の高屈折フィラーとしては、屈折率が1.95を超えるものが挙げられ、例えばチタニアの他、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム等のチタン化合物、チタンやジルコニウムを主成分とするその他の複合材が挙げられる。
【0033】
ジルコニア粉末以外の高屈折フィラーについても、ジルコニア粉末と同様にD50は0.05〜5μmが好ましい。ジルコニア粉末以外の高屈折フィラーのD50は、0.1μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。また、ジルコニア粉末以外の高屈折フィラーのD50は、3μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0034】
次に、ホウケイ酸系ガラス粉末の各成分について説明する。
【0035】
SiOは、ガラスの結晶化を抑制して安定性を向上させるとともに、耐酸性を向上させる成分であり必須成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるSiOの含有量は45質量%以上である。45質量%未満の場合、焼成時に結晶が析出して焼結体が反りやすく、また耐酸性も十分でなくなるおそれがある。より安定性、耐酸性に優れたものとする観点から、SiOの含有量は47質量%以上が好ましい。
【0036】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるSiOの含有量は65質量%以下である。65質量%を超える場合、溶解性が低下するために均質なガラスを安価に生産することが難しく、またガラスの焼結性も低下するために緻密な焼結体を得られないおそれがある。より生産性、焼結性に優れたものとする観点から、SiOの含有量は60質量%以下が好ましい。
【0037】
はガラスの焼結性を向上させる成分であり必須成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるBの含有量は5質量%以上である。5質量%未満の場合、ガラスの焼結性が低下するために緻密な焼結体を得られないおそれがある。より焼結性に優れたものとする観点から、Bの含有量は、6質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましい。
【0038】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるBの含有量は20質量%以下である。20質量%を超える場合、ガラスが分相しやすくなるために焼結体を安定して量産することができないおそれがあり、また耐酸性も十分でなくなるおそれがある。より安定して量産でき、耐酸性に優れたものとする観点から、Bの含有量は、15質量%以下が好ましく、11質量%以下がより好ましい。
【0039】
Alはガラスの分相を抑制して安定性を向上させる成分であり必須成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるAlの含有量は5質量%以上である。Alの含有量が5質量%未満の場合、ガラスが分相しやすくなるために焼結体を安定して量産することができないおそれがある。より分相しにくいものとする観点から、Alの含有量は、6質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましい。
【0040】
一方、ホウケイ酸系ガラス粉末におけるAlの含有量は25質量%以下である。Alの含有量が25質量%を超える場合、焼成時にアノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出して焼結体が反りやすくなり、また耐酸性も十分でなくなるおそれがある。より結晶の析出が少なく、また耐酸性に優れたものとする観点から、Alの含有量は、22質量%以下が好ましく、19質量%以下がより好ましい。
【0041】
CaOはガラスの溶融温度を低下させるとともに、焼結性を向上させる成分であり必須成分である。ホウケイ酸系ガラス粉末におけるCaOの含有量は15質量%以上である。CaOの含有量が15質量%未満の場合、ガラスの焼結性が低下するために緻密な焼結体を得られないおそれがある。より緻密な焼結体を得る観点から、CaOの含有量は、18質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0042】
一方、CaOの含有量は35質量%以下である。CaOの含有量が35質量%を超える場合、焼成時にアノーサイトに代表される結晶が析出するために焼結体が反りやすくなり、また耐酸性も十分でなくなるおそれがある。より結晶の析出が少なく、また耐酸性に優れたものとする観点から、CaOの含有量は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0043】
ホウケイ酸系ガラス粉末には、CaOとともにSrOおよびBaOから選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。SrO、BaOは、CaOと同様に溶融温度を低下させるとともに、焼結性を向上させる成分である。しかし、SrO、BaOはCaOよりも耐酸性を悪化させる傾向が強い。このため、SrO、BaOの含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、それぞれ6質量%以下であり、それぞれ3質量%以下が好ましい。さらに好ましくは、1質量%以下である。なお、CaO、SrO、およびBaOの合計した含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、15質量%以上35質量%以下である。
【0044】
また、ホウケイ酸系ガラス粉末には、CaO、SrO、およびBaOとともに、MgOやZnOを含有させることができる。MgOやZnOは、CaO等と同様に焼結性を向上させる成分である。しかし、MgOやZnOはCaO等よりも、結晶化を促進する傾向が強い。MgO、ZnOの含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、それぞれ3質量%以下であり、それぞれ1質量%以下が好ましい。なお、CaO、SrO、BaO、MgO、およびZnOの合計した含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、15質量%以上35質量%以下である。
【0045】
LiO、NaO、およびKOは、焼結性を向上させる成分であるが、ガラスの耐酸性を低下させる成分でもある。このためホウケイ酸系ガラス粉末におけるLiO、NaO、およびKOの合計した含有量は0.5質量%未満とする。より耐酸性に優れたガラスとする観点から、LiO、NaO、およびKOの合計した含有量は0.3質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましく、特にLiO、NaO、およびKOの全てを含有しないことが好ましい。なお、LiO、NaO、およびKOの含有量が少ないと焼結性が低下しやすくなるが、上記したように焼結性を低下させるジルコニア粉末の含有量を、ガラスセラミックス組成物中、20質量%以下に抑制することで、実用上十分な反射率を有するものとしつつ、十分な焼結性を有するものとすることができる。
【0046】
ホウケイ酸系ガラス粉末は、例えばFeを含有していてもよい。しかし、Feは460nmの光を吸収することから、過度に含有量が多くなると、この波長の反射率が低下する。このためFeの含有量は0.05質量%以下であり、0.03質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましく、実質的にFeを含有しないことが好ましい。
【0047】
また、ガラスの化学的耐久性を向上させるために、ホウケイ酸系ガラス粉末にZrO、La、Gd等を含有させることもできる。これらの成分の合計した含有量は、ホウケイ酸系ガラス粉末中、5質量%以下であり、4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。なお、環境への負荷を考慮して、ホウケイ酸系ガラス粉末はPbOを含有しないものとする。
【0048】
ホウケイ酸系ガラス粉末は、通常、溶融法によって上記組成を有するガラスを製造した後、このガラスを粉砕することによって製造することができる。粉砕方法は、特に限定されるものではなく、乾式粉砕でもよいし湿式粉砕でもよい。湿式粉砕の場合には溶媒として水を用いることが好ましい。また粉砕にはロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を適宜用いることができる。ガラスは粉砕後、必要に応じて乾燥し、分級してもよい。
【0049】
ガラスセラミックス組成物は、ホウケイ酸系ガラス粉末、アルミナ粉末、およびジルコニア粉末、必要に応じてその他の成分を所定の質量割合で配合し、混合することによって調製することができる。ガラスセラミックス組成物は、通常、グリーンシート化して使用される。すなわち、ガラスセラミックス組成物、ポリビニルブチラールやアクリル樹脂等の樹脂、必要に応じてフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等の可塑剤等を配合、混合する。次に、この混合物にトルエン、キシレン、ブタノール等の溶剤を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法等によってポリエチレンテレフタレート等のフィルム上にシート状に成形する。さらに、シート状に成形されたものを乾燥させて溶剤を除去することによりグリーンシートとする。
【0050】
グリーンシートには必要に応じて、Agペースト等を用いたスクリーン印刷等によって配線パターンや貫通導体であるビア等が形成される。また、配線パターンの焼成により形成される配線導体等を保護するためのオーバーコートガラスをスクリーン印刷等によって形成してもよい。
【0051】
グリーンシートは、焼成後、所望の形状に加工することによってLED素子用基板とすることができる。ここで、LED素子用基板は、1枚のグリーンシートを焼成したものとしてもよいし、複数枚のグリーンシートを重ねて焼成したものとしてもよい。焼成は、通常、850〜950℃で20〜60分間保持して行われる。より好ましい焼成温度は860〜940℃である。Agの融点が960℃程度であることから、950℃以下で焼成することで、焼成時のAgの軟化を抑制し、配線パターンやビア等の形状を維持しやすくなる。
【0052】
LED素子用基板には、必要に応じて配線導体の保護等のためのメッキを行うことが好ましい。LED素子用基板は、メッキ液の汚染による生産性の低下を抑制する観点から、後述する測定方法によって求められる耐酸性(溶出量)が600μg/cm以下であることが好ましく、300μg/cm以下であることがより好ましい。また、LED素子用基板は、配線導体の硫化を抑制することのできる十分なガスバリア性を有するものとする観点から、後述する測定方法によって求められる吸水率が3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0053】
さらに、LED素子用基板は、実用上十分な光学特性とする観点から、後述する測定方法によって求められる反射率が85%以上であることが好ましく、86%以上であることがより好ましく、87%以上であることがさらに好ましい。また、LED素子用基板は、焼成時(製造時)の反りを抑制する観点から、ガラス相の結晶化率が体積比で60%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。ここで、結晶化率とは、ガラス相における結晶質領域の存在割合(体積割合)を指す。結晶化率は、例えば、作製したLED素子用基板のX線回折を測定し、アルミナ粒子(あるいはジルコニア粒子)による回折ピーク強度と、ガラス相から析出した結晶による回折ピーク強度の比率を評価することによって求めることができる。あるいは、作製したLED素子基板の断面を、電子顕微鏡で観察し、析出した結晶と、非晶質領域の面積比を評価することによっても結晶化度を求めることが可能である。
【0054】
このようなLED素子用基板は、LEDパッケージ(発光装置)の製造に好適に用いることができる。LEDパッケージは、少なくとも上記したLED素子用基板と、このLED素子用基板に搭載されたLED素子とを具備するものである。このようなLEDパッケージは、例えば携帯電話や大型液晶TV等のバックライトに好適に用いることができる。
【0055】
図1は、上記したLED素子用基板を有するLEDパッケージの一例を示す断面図である。LEDパッケージ1は、例えば略平板状のLED素子用基板2を有しており、その略中央部に設けられる搭載部21に接着剤3を介してLED素子4が搭載されている。LED素子用基板2は、搭載部21の周辺に一対の接続端子22を有しており、この接続端子22にLED素子4の図示しない一対の電極がボンディングワイヤ5を介して電気的に接続されている。
【0056】
LED素子用基板2の内部には、一対の接続端子22と電気的に接続するように通電用ビア23が厚さ方向に貫通して設けられており、この通電用ビア23と電気的に接続するように一対の外部電極端子24が設けられている。また、搭載部21の直下には、サーマルビア25が貫通して設けられている。さらに、LED素子4や接続端子22を覆うようにしてモールド材6が設けられることによって、LEDパッケージ1が構成されている。
【0057】
このようなLED素子用基板2における接続端子22には、例えば接続端子22を保護するために、あるいはボンディングワイヤ5との接続を容易にするためにメッキが施される。このLED素子用基板2によれば、上記したガラスセラミックス組成物からなるために耐酸性に優れており、メッキ液の汚染による生産性の低下を抑制することができる。また、このLED素子用基板2によれば、実用上十分な反射率を有するためにLEDパッケージ1に好適に用いることができる。さらに、このLED素子用基板2によれば、十分な緻密さ(ガスバリア性)を有しており、配線導体の硫化等を有効に抑制することができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
表1のガラス粉末の欄に示す質量割合となるように原料を配合、混合し、この混合物を白金ルツボに入れて1500〜1600℃で60分間溶融後、溶融ガラスを冷却してガラスブロックを得た。ガラスブロックをアルミナ製ボールミルにより水を溶媒として20〜60時間粉砕し、ホウケイ酸系ガラス粉末を得た。島津製作所社製のレーザ回折式粒度分布測定装置(SALD2100)を用いてホウケイ酸系ガラス粉末のD50を測定したところ、いずれも2.0μmであった。
【0059】
次に、表1のガラスセラミックス組成物の欄に示す質量割合となるようにホウケイ酸系ガラス粉末、アルミナ粉末、およびジルコニア粉末を配合、混合して混合物を得た。なお、アルミナ粉末は、昭和電工社製のAL47−H(D50=2.1μm)を用いた。また、ジルコニア粉末は、部分安定化ジルコニア粉末である第一稀元素化学工業社製のHSY−3F−J(D50=0.56μm)を用いた。
【0060】
この混合物50gに、有機溶剤(トルエン、キシレン、2−プロパノール、2−ブタノールを質量比4:2:2:1で混合したもの)15g、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)2.5g、樹脂(デンカ社製ポリビニルブチラールPVK#3000K)5g、および分散剤(ビックケミー社製DISPERBYK180)を混合してスラリーとした。このスラリーをPETフィルム上にドクターブレード法により塗布し、乾燥して厚さが0.2mmのグリーンシートを得た。
【0061】
次に、このようなグリーンシートからなる焼結体について、以下に示す方法によって反射率、吸水率、および耐酸性の評価を行った。結果を表1に併せて示す。
【0062】
(反射率)
反射率は以下の方法で測定した。すなわち、一辺が30mm程度の正方形のグリーンシートを1枚としたもの、2枚積層したもの、3枚積層したものについてそれぞれ925℃で30分間保持する焼成を行い、厚みが、140μm、280μm、420μm程度の3種類の焼結体を得た。これらの焼結体の反射率を、オーシャンオプティクス社の分光器USB2000と小型積分球ISP−RFを用いて測定し、厚みに関して線形補完することで、厚み300μmの焼結体の反射率(単位:%)を算出した。反射率は波長460nmにおけるものとし、リファレンスとしては硫酸バリウムを使用した。
【0063】
(吸水率)
吸水率は以下の方法で測定した。すなわち、一辺が40mm程度の正方形のグリーンシートを6枚積層したものに対して925℃で30分間保持する焼成を行って焼結体を得た。この焼結体を0.1気圧以下の減圧下において水に1時間浸漬し、その吸水量を焼結体(浸漬前)の質量に対する割合として求めた。吸水率は、焼結体の焼結性、すなわち緻密さ(ガスバリア性)を簡易に評価する指標となる。通常、吸水率が3%以下、より好ましくは1%以下であれば、十分な緻密さを有しており、例えば表面に形成された配線導体の硫化を十分に抑制することができる。
【0064】
(耐酸性)
一辺が40mm程度の正方形のグリーンシートを6枚積層したものに対して925℃で30分間保持する焼成を行って、厚さが0.85mm程度の焼結体を得た。この焼結体の質量を測定した。次に、焼結体を温度が85℃、pHが1.68のシュウ酸溶液に1時間浸漬した後、取り出して超音波洗浄を行い、さらに120℃で1時間乾燥させて質量を測定した。シュウ酸溶液への浸漬前の質量から浸漬後の質量を減じ、さらに焼結体の表面積で除した値を耐酸性の指標とした。この耐酸性の値が小さいほど、シュウ酸溶液への溶出が少なく、耐酸性が良好であることを示している。メッキが施されたLED素子用基板を大量生産する場合のメッキ液の汚染を有効に抑制する観点から、耐酸性の値は600μg/cm以下が好ましく、300μg/cm以下がより好ましい。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、特定組成のホウケイ酸系ガラス粉末、アルミナ粉末、およびジルコニア粉末を所定の範囲内で含有するガラスセラミックス組成物からなる実施例1〜5の焼結体については、85%以上の反射率を得られることがわかる。また、実施例1〜5の焼結体については、緻密さ、耐酸性も十分であることがわかる。
【0067】
一方、実施例1と同様のホウケイ酸系ガラス粉末を用い、ジルコニア粉末を含有しないガラスセラミックス組成物からなる比較例1の焼結体については、緻密さおよび耐酸性は十分であるものの、85%以上の反射率を得られないことがわかる。また、実施例1と同様のホウケイ酸系ガラス粉末を用い、過度のジルコニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物からなる比較例2の焼結体については、85%以上の反射率を得られ、耐酸性も十分であるが、緻密さが低下することがわかる。
【0068】
さらに、実施例2と同様のホウケイ酸系ガラス粉末を用い、ジルコニア粉末を含有しないガラスセラミックス組成物からなる比較例3の焼結体については、緻密さおよび耐酸性は十分であるものの、85%以上の反射率を得られないことがわかる。また、NaOおよびKOを含有するホウケイ酸系ガラス粉末を用い、過度のジルコニア粉末を含有するガラスセラミックス組成物からなる比較例4の焼結体については、85%以上の反射率を得られ、緻密さも十分であるが、耐酸性が大幅に低下することがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1…LEDパッケージ(発光装置)
2…LED素子用基板
4…LED素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末、35〜60質量%のアルミナ粉末、および10〜20質量%のジルコニア粉末を含み、発光ダイオード素子を搭載するための基板の製造に用いられるガラスセラミックス組成物であって、
前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを45〜65質量%、Bを5〜20質量%、Alを5〜25質量%、およびCaOを15〜35質量%含有し、LiO、NaO、およびKOを含有しない、あるいはLiO、NaO、およびKOの合計した含有量が0.5質量%未満であることを特徴とするガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
前記ジルコニア粉末が、安定化ジルコニアまたは部分安定化ジルコニアからなることを特徴とする請求項1記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
発光ダイオード素子を搭載するための基板であって、
請求項1または2記載のガラスセラミックス組成物を成形および焼成してなることを特徴とする発光ダイオード素子用基板。
【請求項4】
発光ダイオード素子用基板と、前記発光ダイオード素子用基板に搭載された発光ダイオード素子とを具備する発光装置であって、
前記発光ダイオード素子用基板が請求項3記載の発光ダイオード素子用基板であることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−230964(P2011−230964A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103422(P2010−103422)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】