説明

ガラスファイバーの巻取装置

【課題】 元リールに巻かれたガラスファイバーを巻取リールに巻き取る際、ガラスファイバーの張力の変動を減少させて、破断あるいは巻線解けを防止する共にガラスファイバーの性能を確保し、且つ巻取作業の人工が低減できる巻取装置を提供すること。
【解決手段】送線モータ4を有する元リール3に巻いたガラスファイバー2を固定滑車21〜25と動滑車31〜35とに係回して5段の複合動滑車ユニット100を構成し、動滑車31〜35の孔31a〜35aの各々に重り系40の自重を共通に作用させ、複合動滑車ユニット100から引き出したガラスファイバー2を巻取モータ7を有する巻取リール6で巻取る。この際、動滑車31〜35に挿入した軸39の往復動する上限位置Aと下限位置Bを上限側及び下限側リミットスイッチ41、42で検知し、検知結果に基づき制御装置60で送線モータ4及び巻取モータ7の少なくともいずれか一方を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元リールに巻かれたガラスファイバーを巻き取るガラスファイバーの巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の線材巻取装置として、溝付プーリーで送られる線材を巻取機で巻き取る工程で、前後の溝付プーリーの間に線材のたるみ付け部分を設け、この線材のたるみ量を検知する装置において、前後の溝付プーリーに前処理工程の影響を受けないように一定の張力で引くことのできる電動駆動式溝付プーリーを用い、線材のたるみ付け部分のたるみ下限方向に非接触アナログ距離センサーを対峠させ、このセンサーで検知した線材のたるみ量の増減に関する信号を巻取機の回転駆動用可変モーターに送るようにした線材のたるみ量検出装置が開示されている。このたるみ量検出装置は、ロッドを介して取付けたバランスウエイトを配備したダンサープーリーをたるみ部分に設け、巻線張力を得ている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、線材巻取用のボビンに対峠して設けられ、ボビンの鍔際で反転させる線材案内用のトラバースガイドの反転位置調整装置に関し、トラバースガイドの上流側にダンサーを設け、このダンサーにおける可動プーリーの上下動を検知するセンサーを設け、このセンサーによる検知結果を反転位置調整装置の駆動系に反映させるようにした、線材巻取装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、光ファイバー母材から縦置きの製造装置の素線製造部により光ファイバー素線が製造され、製造装置の素線巻取部により光ファイバー素線はターンプーリーによって横向きに向きを変え、引き取り機、ダンサーを通過した後、巻き取り機によって巻き取られる光ファイバー素線の製造装置が開示されている。この製造装置は、引き取り機が通常、定常速度で作動しているが、光ファイバー母材の外径変動や光ファイバー素線の微妙な外径変動に対応するため、ダンサーを備え、ダンサーによって光ファイバー素線の貯蔵量を変更し、巻き取り機の線速もこれに追随するようになっている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2001−341941号公報
【特許文献2】特開2001−2319号公報
【特許文献3】特開2003−206156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によれば、非接触アナログ距離センサーで検知したたるみ付け部分までの距離に応じた速度指令信号によって巻取機の回転駆動用可変モーターを回転制御して巻取速度を制御しているが、バランスウエイトの揺動に基づく慣性力により巻取張力が変動する。この巻取張力の変動により、巻取張力が小さいと巻線が緩み、大きいと破断する問題がある。また、線材がガラスファイバーであれば光が洩れ性能が低下する問題がある。
【0006】
また、特許文献2の線材巻取装置及び特許文献3の製造装置の素線巻取部は、特許文献1と同じようにダンサー(ダンサープーリー)を備えているので、特許文献1と同様に巻取張力が小さいと巻線が緩み、大きいと破断し、線材がガラスファイバーであれば光が洩れ性能低下の問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、元リールに巻かれたガラスファイバーを巻取リールに巻き取る際、ガラスファイバーの張力の変動を減少させて、破断あるいは巻線解けを防止する共にガラスファイバーの性能を確保し、且つ巻取作業の人工が低減できるガラスファイバーの巻取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、送線モータを有しガラスファイバーが巻回された元リールと、元リールからのガラスファイバーが係回して複数の固定滑車と複数の動滑車とで構成される複合動滑車ユニットと、垂直方向に移動可能で固定滑車と動滑車の間の距離を変更する重りと、複合動滑車ユニットからのガラスファイバーを巻き取とる巻取モータを有する巻取リールと、動滑車の上限位置を検知する第1位置検知手段と、動滑車の下限位置を検知する第2位置検知手段と、第1位置検知手段と第2位置検知手段からの検知信号が入力される制御装置と、を備え、制御装置は、検知信号により送線モータ及び巻取モータの少なくともいずれか一方の回転速度を制御する。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、巻取モータは一定速度で回転する。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、複合動滑車ユニットと巻取リールの間にガラスファイバーが係回する測長プーリーを設け、制御装置は測長プーリーが所定の回転数に達すると送線モータ及び巻取モータの回転を停止する。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、元リールと巻取リールの間にガラスファイバーが係回するテンションプーリーと、テンションプーリーに作用する力を測定するテンション測定手段と、を備える。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、巻取リールに巻回されるガラスファイバーを巻取リールの巻軸方向に移動させるファイバー用ガイドを有するトラバース機構を備え、制御装置はトラバース機構を巻取モータと同期して制御する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明では、巻取リールに巻き取る巻取張力は重りの自重Wgによって設定される。巻取張力設定値Fsは、複合動滑車ユニットの段数(以下、段数)をn段、動滑車に共通に作用する重りの重量(軸と軸に連結するガイド部材及び重りの合計重量)をWgとすると、Fs=Wg/(2×n)になる。巻取張力設定値Fsは、動滑車が静止している時の張力、又は、重りの慣性力の影響が無視出来る極めて低い加速度で重りおよび動滑車が移動した時の巻取張力で、重りの慣性力の影響を含まない。しかし、動滑車と重りは、第1位置検知手段と第2位置検知手段とで検知されるそれぞれの限界位置の間を適正な速度で往復動すように制御される。この往復動により重りには、慣性力(=重りの質量M×重りの加速度α)が生じる。この慣性力はガラスファイバーの巻取張力Fに外乱ΔFとして作用し、巻取張力FはF=(巻取張力設定値Fs+外乱ΔF)となり、外乱ΔF=重りの慣性力/(2×n)=Mα/(2×n)である。1段の慣性力による外乱ΔF1はΔF1=(M/n)×(nα)/2=Mα/2になり、本発明のn段の外乱ΔFは従来技術の1段の外乱ΔF1のn分の1に減少する。また、複合動滑車ユニットの段数を適性に設定することで、巻取張力設定値Fsに殆ど影響を及ばさない値に減少できる。以上により、ガラスファイバーの破断あるいは巻線緩みが防止されと共に、光ファイバーとしての性能を確保するガラスファイバーの巻取装置を提供できる。
【0014】
また、巻取張力の変動が抑制され安定した巻取張力でガラスファイバーを巻き取ることができるので、巻き取り調整と、巻き取りの異常監視と、巻き取り不具合の対応に要する作業者数を減少できる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明では、第1位置検知手段及び第2位置検知手段の検知信号により送線モータを制御し、巻取モータは一定速度で回転されるので、巻取モータのトルクは制御せずに一定となる。これにより、ガラスファイバーを巻取リールに巻き取る張力も一定になるので、破断あるいは巻線緩みが防止されと共に、ガラスファイバーの所定性能を確保できる。さらに、送線モータおよび巻取モータは、起動と停止以外、特別な制御を必要としないので送線モータおよび巻取モータの制御が容易になる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明では、測長プーリーの1回転当たりのガラスファイバーが送られる長さを事前に測定する。この測定値に基づき、測長プーリーの回転数を例えばロータリーエンコーダでカウントし、測長プーリーの回転数が所定の回転数に達した時点で送線モータおよび巻取モータの回転を停止する。これにより、ガラスファイバーを巻取リールに正確な長さで巻き取ることが出来る。
【0017】
また、請求項4に記載の発明では、ガラスファイバーはテンションプーリーに係回され、係回角度を180度に設定することで、軸にはガラスファイバーの張力Fの2倍の力2Fが作用し、力2Fをテンション測定器で測定する。結果、ガラスファイバーの巻取張力が所定値の範囲内であることが確認でき、良品率が向上する。また、テンションプーリーの軸を重力方向に配置することで、テンションプーリーの自重の影響が取り除かれるので、測定値精度が向上する。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、トラバース機構のモータを巻取モータに同期して制御する。ファイバー用ガイドは、ファイバー用ガイドを通過したガラスファイバーを巻取リールの巻軸方向の移動させてガラスファイバーをガイドする。結果、ガラスファイバーが巻取リールに整列に巻き取られ、不整列巻きに起因したガラスファイバーへのストレスを抑制でき、ガラスファイバーの所定性能が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係わるガラスファイバーの巻取装置の説明図である。図1に示すように、ガラスファイバーの巻取装置1は、元リール3に巻かれたガラスファイバー2を巻取リール6に所定の張力で巻き取る装置である。元リール3には、既に巻かれているガラスファイバー2を解く送線モータ4と、手動操作用のハンドル5を備え、送線モータ4はベース(図示せず)に固定される。元リール3に巻かれたガラスファイバー2は、略垂直に立ち上がり方向変更プーリー11に係回し略水平に方向が変えられ、連結プーリー部20の1段目のプーリー21に係回し、次にダンシング部30の1段目のプーリー31へと係回する。方向変更プーリー11は、軸(図示せず)が固定部材(図示せず)を介しベース(図示せず)に固定され、この軸を回転軸にして自在に回転できる。
【0021】
連結プーリー部20は、5個のプーリー21〜25(固定滑車)が順次軸27に挿入され、さらにガラスファイバー2の引き出し方向を変える方向変更プーリー26も軸27に挿入される。軸27は固定部材28を介しベース(図示せず)に略水平に固定され、各プーリー21〜26は軸27を回転軸にして各々に自在に回転する。
【0022】
ダンシング部30は、5個のプーリー31〜35と、重り系40と、スライドレール36と、上限側ミットスイッチ41、下限側ミットスイッチ42とから構成される。5個のプーリー31〜35(動滑車)が、各プーリー31〜35の回転軸30aの各孔31a〜35a(図2)に順次軸39が挿入され、軸39は軸27に平行に配置される。そして、各プーリー31〜35は、各々に自在に回転できるが、軸39方向の移動は阻止される。また、軸39はスライド部材37に連結され、スライド部材37には重り38が固定される。更に、スライド部材37はベース(図示せず)に固定されたスライドレール36に装着され、重力方向に自在に昇降できる。
【0023】
重り系40はスライド部材37(重り)、重り38と、軸39(重り)から構成され、重り系40の重量はスライド部材37と、重り38と、軸39の各重量の合計値である。尚、スライド部材37、重り38、軸39のいずれか一つ又は二つがスライド部材37、重り38、軸39の三つの機能を兼ねても良い。
【0024】
スライドレール36は、プーリー31〜35が重り系40の自重により受ける力の方向のみ移動できるようにガイドする。即ち、本実施形態では、プーリー31〜35が垂直方向に移動できるようにガイドする。そして、スライドレール36には、ダンシング部30の軸39が上限位置Aに達すると検知信号を出す上限側リミットスイッチ41(第1位置検知手段)と、下限位置Bに達すると検知信号を出す下限側リミットスイッチ42(第2位置検知手段)が設けられる。図1の二点鎖線のダンシング部30は上限位置Aに位置する状態を示し、実線のダンシング部30は下限位置Bに位置する状態を示す。上限側リミットスイッチ41と下限側リミットスイッチ42の検知信号に基づき、ダンシング部30は上限位置Aと下限位置Bの間を往復動する。これにより、巻取線ストック量をストック部43で示される長さ以内に確保可能になる。
【0025】
図2は、複合動滑車ユニット100を展開した説明図である。図2に示すように、連結プーリー部20のプーリー21〜25は固定滑車として機能し、ダンシング部30のプーリー31〜35は動滑車として機能する。複合動滑車ユニット100は、固定部材28に固定した軸27に回転可能に挿入されるプーリー21〜25と、プーリー31〜35をガラスファイバー2で係回して5段の複合動滑車ユニット100が構成される。即ち、1段目のプーリー21に係回したガラスファイバー2は、1段目のプーリー31に係回し、次に2段目のプーリー22に係回し、同じように順次2段目のプーリー32、3段目のプーリー23、3段目のプーリー33、4段目のプーリー24、4段目のプーリー34、5段目のプーリー25、5段目のプーリー35、そして方向変更プーリー26に係回される。1段目のプーリー21と1段目のプーリー31とは、幅が同じで端面からの位置が幅の半分ずらして配置する。他のプーリー22〜26と、32〜35についても同じ位置関係である。そして、重り38と軸39とスライド部材37を合計した重量系40の重量Wによってガラスファイバー2に張力が生じる。
【0026】
方向変更プーリー26は、5段目のプーリー35から引き出るガラスファイバー2の向きを変え測長プーリー12に引き込む。測長プーリー12に引き込まれたガラスファイバー2は、測長プーリー12に1周巻かれてから、軸17が水平に配置されたテンションプーリー14に引き込まれる。測長プーリー12の回転数はロータリーエンコーダー8によってカウントされる。測長プーリー12の1回転で送り出されるガラスファイバー2の長さを事前に測定しおく。この測定値とロータリーエンコーダー8のカウント数とから巻取リール6の巻取長さが判り、規定の回転数に達すると送線モータ4、巻取モータ7、トラバース用モータ57を停止する。尚、方向変更プーリー26を設けず、5段目のプーリー35から引き出るガラスファイバー2を測長プーリー12に引き込んでも良い。
【0027】
テンションプーリー14に水平に引き込まれたガラスファイバー2は、180度係回され水平に引き出され、方向変更プーリー16に係回される。テンションプーリー14の回転軸14bは重力方向に位置し、回転軸14bの孔14aに設けた軸17の両端側は取付金具19が固定され、そして取付金具19にはテンション測定器9(テンション測定手段)が接続される。方向変更プーリー16には、軸(図示せず)が挿入され、ベース(図示せず)に固定した固定部材(図示せず)に固定される。方向変更プーリー16は自在に回転できる。
【0028】
方向変更プーリー16から引き出されたガラスファイバー2は、トラバース機構50ヘ引き込まれる。トラバース機構50は、トラバースプーリー51と、トラバースプーリー51を備えた移動台52と、一対の円筒形状のファイバー用ガイド53、54と、ファイバー用ガイド53、54を備えた移動台55と、移動台52、55をスライドさせトラバース用モータ57を備えたリニア駆動手段56から構成される。リニア駆動手段56により、移動台52、55は、巻取リール6の巻軸6a方向に移動でき、これによりトラバースプーリー51と、ファイバー用ガイド53、54も巻軸6a方向に移動する。
【0029】
方向変更プーリー16から引き出されたガラスファイバー2は、トラバースプーリー51に係回し、そこからファイバー用ガイド53と54との隙間を通過して巻取リール6で巻き取られる。巻取リール6は、ベース(図示せず)に固定された巻取モータ7が取付けられ、巻取モータ7が回転することによりガラスファイバー2が巻き取られる。トラバース用モータ57は、制御装置60により巻取モータ7に同期して回転する。ファイバー用ガイド53、54は、巻取リール6に巻き取られるガラスファイバー2が巻方向に合うように巻軸6a方向に移動するので、巻取リール6に巻き取られるガラスファイバー2は、巻取リール6に整列に巻き取られる。
【0030】
本発明の図1のガラスファイバー2の巻取装置1は、上限側リミットスイッチ41と下限側リミットスイッチ42の検知信号で送線モータ4を制御しているが、巻取モータ7を制御しても良い。この場合、送線モータ4を一定速度で回転し、巻取モータ7を制御してストック部43の軸39を上限位置Aと下限位置Bの間に維持しつつ、ガラスファイバー2を巻取リール6に巻き取る。また、送線モータ4と巻取モータ7の両方を制御しても良い。
【0031】
また、上限側リミットスイッチ41と下限側リミットスイッチ42は軸39の中心で上限と下限の限界位置A及びBを検知しているが、スライド部材37、重り38、プーリー31〜35のいずれかで限界位置A及びBを検知しても良い。
【0032】
また、巻取装置1のスライド部材37は重力方向に昇降するが、水平方向にスライドしても良い。
【0033】
尚、本実施形態では、動滑車であるプーリー31〜35は垂直方向に移動するので、重り系40の重量は、スライド部材37と、重り38と、軸39の各重量の合計値であるが、例えば、プーリー31、31、32、33、34、35が水平方向に移動する場合、重り系はライド部材37と、軸39の重量を含まれず、重り38の重量のみで、重り38の自重がプーリー31〜35に作用する。
【0034】
次に本発明の実施形態に係るガラスファイバー巻取装置の作動と効果について説明する。図3は、図1に示す複合動滑車ユニット100の作動の説明図で、図中、(a)は複合動滑車ユニット100が下限位置Bに位置する状態、(b)は上限位置Aに位置する状態を示す。
【0035】
送線モータ4は回転しており元リール3からガラスファイバー2が解かれている状態を継続しつつ、ダンシング部30の軸39の中心が一点鎖線で示される下限位置Bに向かう。そして、軸39の中心が下限位置Bに至ると、下限側リミットスイッチ42は軸39の中心が下限位置Bに至ったことを検知する。下限側リミットスイッチ42の検知信号は制御装置60に送信され、制御装置60により送線モータ4を停止し、元リール3に巻かれたガラスファイバー2の解きを停止する。一方、巻取モータ7は巻取が終了するまで所定の一定速度で回転しガラスファイバー2を巻取リール6に巻き取る。従って、重り38と軸39とスライド部材37を合計した重り系40の重量Wgによって生じるガラスファイバー2の張力に抗して、軸39の中心が一点鎖線で示す上限位置Aに向いストック部43のガラスファイバー2のストック長さを減少しつつ移動し、一点鎖線で示す上限位置Aに至る。すると、上限側リミットスイッチ41は、軸39が上限位置Aに至ったことを検知し、上限側リミットスイッチ41の検知信号を制御装置60に送信する。制御装置60はこの検知信号を受け、送線モータ4を回転させて元リール3に巻かれたガラスファイバー2を解く。これにより、重り系40の重量Wgの作用で軸39の中心は下限方向に移動して再び下限位置Bに至る。このようにして、上限側リミットスイッチ41と下限側リミットスイッチ42の検知信号により送線モータ4の運転、停止を制御して、軸39の中心を下限位置Bと上限位置Aの間に位置するように維持しつつ、巻取リール6にガラスファイバー2を巻き取る。ガラスファイバー2は常に張力が作用した状態を維持しつつ、ストック部43のガラスファイバー2のストック量がなくなると元リール3からガラスファイバー2が補給され、ストック量が所定量あると元リール3からの補給は停止される。
【0036】
図4は、本発明の原理を説明するための一般的な固定滑車ユニット及び動滑車ユニットの説明図で、図中、(a)は固定滑車ユニット、(b)は1段の動滑車ユニット、(c)は2段の複合動滑車ユニットを示す。(a)に示すように固定滑車ユニット80aは、重量Wgの重り85を吊り下げた紐86を固定滑車81に係回する。この場合、紐86の張力F1は重り85の重量に等しくWgである。(b)動滑車ユニット80bは、固定滑車81と、重り85が吊り下げられた動滑車83とを緋86で係回して1段の動滑車ユニットを構成する。この場合、紐86の張力F2は重り85の重量の半分に等しくWg/2である。(c)の動滑車ユニット80cは、固定滑車81、82と動滑車83、84とを順次緋86で係回して2段の複合動滑車ユニットを構成する。この場合、重り85は動滑車83、84の両方の動滑車で吊り下げられるので、紐86の張力F3は重り85の重量の1/4に等しくWg/4である。n個の固定滑車とn個の動滑車とを緋で係回したn段の複合動滑車ユニットでは、重り85の重量Wgが各動滑車に共通にWg/nが作用するので、張力FnはWg/(2n)になる。
【0037】
図2に示すように、複合動滑車ユニット100は、プーリー21〜25、プーリー31〜35に作用するガラスファイバー2の張力Fの値は同じで、複合動滑車ユニット100の段数(以下、段数)は5段(n=5)であるので、ガラスファイバー2の張力Foは、重り38と軸39とスライド部材37を合計した重り系40の重量Wgの1/10でFo=Wg/10である。張力Foは、ダンシング部30が静止している時の張力、又は、重り系40の慣性力が無視できる極めてゆっくりした速度で移動している時の張力で、慣性力の影響を含まない。巻取リール6の巻取張力は、プーリー21〜25、プーリー31〜35のガラスファイバー2の張力に等しい。従って、Fo=Wg/10は、巻取リール6が静止している時の張力、又は、重り系40の慣性力が無視できる極めてゆっくりした速度で巻き取っている時の張力で、巻取張力設定値Fsである。従って、Fs=Wg/10で、重り系40の慣性力の影響は含んでいない。n段の複合動滑車ユニットでは、巻取張力設定値Fsn=Wg/(2×n)になる。
【0038】
しかし、ガラスファイバー2を巻取リール6に適正な速度で巻き取っているので、ダンシング部30は上限位置Aと下限位置Bの間を適正な速度で往復動している。このため、巻取中の巻取張力Fは、重り系40の往復動による慣性力(=重り系40の質量M×重り系40の加速度α)の影響が加わり、この慣性力は変動しているため、巻取張力Fには慣性力の影響は外乱ΔFとなる。即ち、巻取中の巻取張力Fは、F=巻取張力設定値Fs+外乱ΔFになる。n段では外乱ΔFn=重り系40の慣性力/(2×n)=(M×α)/(2×n)で、複合動滑車ユニット100は5段(n=5)であるので外乱ΔFは、ΔF=M×α/10になる。
【0039】
本発明の5段の巻取装置1と従来技術の1段の巻取装置を比較すると、同じ巻取張力設定値Fs、同じ巻取速度の下では、従来技術の1段の巻取装置は、重り系の重力が重り系40の重量Wの5分の1で、重り系の質量も重り系40の質量Mの5分の1、ダンシング部の速度がダンシング部30の5倍になるのでダンシング部の加速度αはダンシング部30の5倍になる。従って、従来技術の巻取張力の外乱ΔF1は、ΔF1=(M/5)×(5α)/2=M×α/2になる。上述したように、本発明の巻取装置1の外乱ΔFは、ΔF=M×α/10であるので、従来技術の巻取張力の外乱ΔF1の5分の1に減少し、巻取装置1は巻取張力の変動が低減され安定した巻取張力が確保できる。また、n段の複合動滑車ユニットでは、巻取張力の外乱ΔFnは、ΔFn=(M×α)/(2n)になるので、複合動滑車ユニット100の段数を適性(例えば、5段)に設定することで、巻取張力設定値Fsに殆ど影響を及ばさない値に減少できる。以上により、ガラスファイバー2の破断あるいは巻線解けが防止されと共に、光ファイバーとしての所定性能を確保するガラスファイバー2の巻取装置1を提供できる。
【0040】
尚、本実施形態では、プーリー31〜35の重量は、無視できる程度小さいものとしたが、重量が無視できない場合は、以下に述べるプーリーの重量に基づく力と慣性力を前述した巻取張力Fに加算すれば良い。即ち、プーリー31〜35の各重量が同じでUgの場合、プーリーの重量に基づく力Ug/2が巻取張力Fに加算され、プーリー31〜35の慣性力に基づく外乱=(プーリー35の質量×加速度/2)が加算される、従って、プーリー31〜35の重量は小さい方が好ましい。
【0041】
また、上限側リミットスイッチ41及び下限側リミットスイッチ42の検知信号により送線モータ4を起動、停止し、巻取モータ7は一定速度で回転されるので、巻取モータ7のトルクは一定となる。これにより、ガラスファイバー2を巻取リール6に巻き取る張力も一定になり、破断あるいは巻線緩みが防止されと共に、巻取リール6に巻き取ったガラスファイバー2の所定性能が確保できる。また、送線モータ4および巻取モータ7は、巻き始めの起動と巻き終りの停止以外、特別な制御をしなくて良いので送線モータ4および巻取モータ7の制御装置60は簡単で低コストになる。
【0042】
また、巻取張力の変動が抑制され安定した巻取張力でガラスファイバー2を巻き取ることができるので、巻き取り調整と、巻き取りの異常監視と、巻き取り不具合の対応に要する作業者数を減少できる。
【0043】
さらには、所定の巻取張力設定値の下、巻取張力の変動値を巻取張力設定値に比べ十分減少できるので、巻取リール6の巻き始めの径は、ガラスファイバー2の性能を正常に保持できる最小径近くにすることが可能である。結果、巻取リール6に巻き取られたガラスファイバー2の外径が減少する。
【0044】
また、複合動滑車ユニット100と巻取リール6との間に測長プーリー12を設け、方向変更プーリー26からのガラスファイバー2を1周巻く。そして、測長プーリー12の1回転当りのガラスファイバー2の送り長さを事前に調べておき、測長プーリー12の回転数をロータリーエンコーダー8でカウントし、このカウント数が規定値に達した時点で、巻取モータ7、送線モータ4、トラバース用モータ57の回転を停止する。これにより、ガラスファイバー2を巻取リール6に正確な長さで巻き取ることが出来る。尚、測長プーリー12は、元リール3と複合動滑車ユニット100との間に設けても良いが、好ましくは巻取リール6に近い位置に設ける方が測定精度の関点から好適である。
【0045】
また、複合動滑車ユニット100と巻取リール6との間のガラスファイバー2をテンションプーリー14に180度係回している。テンションプーリー14は、軸17が重力方向になるように配置される。そしてテンションプーリー14の引き込み側のガラスファイバー2の張力Fとテンションプーリー14の送り出し側のガラスファイバー2の張力Fとを足し合せた張力(=2×F)をテンション測定器9で常時測定している。この測定値は、軸17が重力方向になるように配置され、テンションプーリー14の自重の影響が取り除かれるので、精度が高い。以上により、巻取リール6に巻き取られるガラスファイバー2の巻取張力が正確に測定できると共に、所定値の範囲内であることが確認でき良品率が向上する。尚、テンションプーリー14は、元リール3と複合動滑車ユニット100との間のガラスファイバー2をテンションプーリー14に180度係回しても良いが、好ましくは巻取リール6に近い位置に設ける方が精度の関点から好適である。
【0046】
巻取リール6の手前のガラスファイバー2は、巻取リール6の手前に設けたトラバース機構50を通過して巻取リール6に巻き取られる。トラバース機構50により、巻取リール6の回転に同期してトラバース用モータ57を回転制御し、ガラスファイバー2が巻取リール6の巻かれる方向に導くようにトラバースプーリー51とファイバー用ガイド53、54を移動させる。これにより、ガラスファイバー2は巻取リール6に整列に巻かれるので、巻き取られたガラスファイバー2は不整列巻きに起因したガラスファイバーへのストレスが抑制され、ガラスファイバー2の所定性能が確保できる。
【0047】
表1は、巻取装置1に於いて、重り38の重量により巻取張力設定を変えた場合の巻取リール6に巻き取ったガラスファイバー2の品質検査の調査結果を示す。表1に示すように、巻取張力設定が低過ぎると(重り系40の重量が軽過ぎると)性能は確保できるが、巻解け、不整列巻線、巻線形状不適が発生する。巻取張力設定が高過ぎると(重量が重過ぎると)、性能が確保できず、また巻線切れも発生する。調査番号2、3、5は性能が確保でき、各種の外観検査も合格であり、総合評価が良好である。
【0048】
表2は、巻取装置1に於いて、重り系40の重量を一定にし、複合動滑車ユニットの段数を1段から6段まで変えた場合のガラスファイバー2の張力の変動幅の調査結果を示す。表2に示すように、段数が少ないと張力の変動幅は増大し、段数が多いと張力の変動幅は減少する。複合動滑車ユニットの段数は、構成の単純さを考慮して5段が好適である。
【0049】
また、従来、二人の作業者が常時必要であったが、本発明により元リール3と巻取リール6のセット時のみ一人の作業者を要し人工が低減できた。以上の調査結果により、本発明の効果が実証できた。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係わるガラスファイバーの巻取装置の説明図である。
【図2】図1に示す巻取装置の複合動滑車ユニットを展開した説明図である。
【図3】ダンシング部が限界位置に位置する状態の巻取装置の部分説明図である。
【図4】一般の固定滑車ユニットと一般の動滑車ユニットの説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 巻取装置
2 ガラスファイバー
3 元リール
4 送線モータ
6 巻取リール
6a 巻軸
7 巻取モータ
9 テンション測定器(テンション測定手段)
12 測長プーリー
14 テンションプーリー
21、22、23、24、25 プーリー(固定滑車)
31、32、33、34、35 プーリー(動滑車)
30 ダンシング部
37 スライド部材(重り)
38 重り
39 軸(重り)
41 上限側リミットスイッチ(第1位置検知手段)
42 下限側リミットスイッチ(第2位置検知手段)
50 トラバース機構
53、54 ファイバー用ガイド
57 トラバースモータ
60 制御装置
100 複合動滑車ユニット
A 上限位置(一方の限界位置)
B 下限位置(他方の限界位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送線モータを有しガラスファイバーが巻回された元リールと、
前記元リールからの前記ガラスファイバーが係回して複数の固定滑車と複数の動滑車とで構成される複合動滑車ユニットと、
垂直方向に移動可能で前記固定滑車と前記動滑車の間の距離を変更する重りと、
前記複合動滑車ユニットからの前記ガラスファイバーを巻き取とる巻取モータを有する巻取リールと、
前記動滑車の上限位置を検知する第1位置検知手段と、
前記動滑車の下限位置を検知する第2位置検知手段と、
前記第1位置検知手段と前記第2位置検知手段からの検知信号が入力される制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記検知信号により前記送線モータ及び前記巻取モータの少なくともいずれか一方の回転速度を制御する、ことを特徴とするガラスファイバーの巻取装置。
【請求項2】
前記巻取モータは一定速度で回転する、ことを特徴とする請求項1に記載のガラスファイバーの巻取装置。
【請求項3】
前記複合動滑車ユニットと前記巻取リールの間に前記ガラスファイバーが係回する測長プーリーを設け、前記制御装置は前記測長プーリーが所定の回転数に達すると前記送線モータ及び前記巻取モータの回転を停止する、ことを特徴とする請求項1又は2の少なくともいずれかに記載のガラスファイバーの巻取装置。
【請求項4】
前記元リールと前記巻取リールの間に前記ガラスファイバーが係回するテンションプーリーと、前記テンションプーリーに作用する力を測定するテンション測定手段と、を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3の少なくともいずれか一項に記載のガラスファイバーの巻取装置。
【請求項5】
前記巻取リールに巻回される前記ガラスファイバーを前記巻取リールの巻軸方向に移動させるファイバー用ガイドを有するトラバース機構を備え、前記制御装置は前記トラバース機構を前記巻取モータと同期して制御する、ことを特徴とする請求項1乃至4の少なくともいずれか一項に記載のガラスファイバーの巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−126396(P2010−126396A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302671(P2008−302671)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】