説明

ガラス基板のスクライブ方法

【課題】強化ガラスに対して、容易に内切りスクライブを行うことができるようにする。
【解決手段】このスクライブ方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を含む。第1工程はガラス基板W上のスクライブ予定ラインSLから離れた開始位置にスクライビングホイール32を圧接する。第2工程は開始位置S0からスクライブ予定ラインSLに向かってスクライビングホイール32をガラス基板Wに対して圧接しながら移動させる。第3工程は、スクライビングホイール32がスクライブ予定ラインSLに到達した時点で、ガラス基板Wに対するスクライブホイール32の移動方向をスクライブ予定ラインSLに沿った方向に変更し、スクライビングホイール32をガラス基板Wに対して圧接しながらスクライブ予定ラインSLに沿って移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板のスクライブ方法、特に、表面に強化層を有するガラス基板上のスクライブ予定ラインに沿ってスクライビングホイールを移動させ、ガラス基板をスクライブするスクライブ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクライビングホイールを用いてガラス基板をスクライブする方法として、ガラス基板の外側から外側までをスクライブする外切りスクライブと、ガラス基板の内側からスクライブを開始して内側で終了する内切りスクライブとがある。
【0003】
外切りスクライブでは、スクライビングホイールを、ガラス基板の端部から外側の位置にセットし、さらにその最下端がガラス基板の上面よりわずかに下方になるように降下させる。そして、スクライビングホイールをガラス基板に対して圧接しながらスクライブ予定ラインに沿って移動させ、ガラス基板の逆側の端部から外側まで移動した時点で加工を終了する。
【0004】
また、内切りスクライブでは、スクライビングホイールを、ガラス基板の上方において一方の端部の内側にセットし、次にガラス基板上に降下させる。そして、スクライビングホイールをガラス基板に対して圧接しながらスクライブ予定ラインに沿って移動させ、ガラス基板の逆側の端部の内側の位置で加工を終了する。
【0005】
また、特許文献1には、以上のような外切りスクライブ及び内切りスクライブを任意に選択して、ガラス基板をスクライブする方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−208237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外切りスクライブでは、スクライブラインが基板の両端に達しているために、スクライブ後の分断工程において、容易に分断できるという利点がある。しかし、スクライブの開始端側において、スクライビングホイールがガラス基板に乗り上げる際にスクライビングホイールがガラス基板の端部に衝突する。このため、ガラス基板の端部が欠けたり、スクライビングホイールが損傷したりするおそれがある。
【0008】
一方、内切りスクライブでは、外切りスクライブで生じるような問題は生じない。しかし、内切りスクライブでは、スクライブ開始端において、スクライビングホイールがガラス基板の表面で滑り、ガラス基板の内部に刃先が食い込まないという現象が生じる。このような現象は、FPD(フラットパネルディスプレイ)業界で用いられている強化ガラスにおいては、特に顕著となる。
【0009】
なお、ここでの「強化ガラス」とは、表面に強化層が形成された化学強化ガラス等である。例えば化学強化ガラスは、イオン交換処理によって表面に圧縮応力を持たせた層(強化層)を有し、内部には引張応力が存在している。
【0010】
本発明の課題は、強化ガラスに対して、容易に内切りスクライブを行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係るガラス基板のスクライブ方法は、表面に強化層を有するガラス基板上のスクライブ予定ラインに沿ってスクライビングホイールを移動させ、ガラス基板をスクライブする方法であって、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を含む。第1工程はガラス基板上のスクライブ予定ラインから離れた開始位置にスクライビングホイールを圧接する。第2工程は開始位置からスクライブ予定ラインに向かってスクライビングホイールをガラス基板に対して圧接しながら移動させる。第3工程は、スクライビングホイールがスクライブ予定ラインに到達した時点で、ガラス基板に対するスクライブホイールの移動方向をスクライブ予定ラインに沿った方向に変更し、スクライビングホイールをガラス基板に対して圧接しながらスクライブ予定ラインに沿って移動させる。
【0012】
ここでは、スクライビングホイールがスクライブ予定ラインから離れた位置にセットされる。そして、スクライビングホイールは、ガラス基板に圧接されながら、開始位置からスクライブ予定ラインに向かって移動させられる。すなわち、スクライビングホイールは、スクライブ予定ラインに対して所定の角度を持った方向から移動が開始される。そして、スクライビングホイールがスクライブ予定ラインに到達すると、スクライビングホイールの移動方向がスクライブ予定ラインに沿った方向に変えられる。このスクライビングホイールの方向転換時に、スクライビングホイールの刃先が回転し、ガラス基板に食い込む。その後、スクライビングホイールはスクライブ予定ラインに沿って、ガラス基板に圧接されながら移動させられる。
【0013】
この方法では、スクライビングホイールをスクライブ予定ラインに向かって移動させ、スクライビングホイールがスクライブ予定ラインに到達したときにスクライビングホイールの移動方向を変えるので、この方向転換の際に、スクライビングホイールの刃先がガラス基板表面に食い込みやすくなる。このため、容易に内切りスクライブを行うことができる。
【0014】
第2発明に係るガラス基板のスクライブ方法は、第1発明のスクライブ方法において、第3工程におけるスクライビングホイールの移動方向が変更された部分の変曲点の軌跡は、半径5mm未満である。
【0015】
ここでは、スクライビングホイールがスクライブ予定ラインに到達した時点で急激に方向が変えられるので、スクライビングホイールの刃先がよりガラス基板に食い込みやすくなる。
【0016】
第3発明に係るガラス基板のスクライブ方法は、第1又は第2発明のスクライブ方法において、第1工程における開始位置は、第2工程におけるスクライブ予定ラインまでの移動軌跡の長さが1mm以上3mm以下になるように設定される。
【0017】
開始位置からスクライブ予定ラインまでの距離が3mmを越えると、ガラス基板が載置されたテーブルやスクライビングホイールの移動時における加減速によってスクライビングホイールの動きに与える影響が大きくなる。この場合は、スクライビングホイールの移動方向変更時において、刃先がガラス基板に食い込みにくくなる。また、前述の距離が1mm未満の場合は、開始位置をスクライブ予定ライン上にセットした場合と同様になり、この場合も刃先がガラス基板に食い込みにくい。
【0018】
そこで、この第3発明では、開始位置からスクライブ予定ライン上までの移動軌跡の長さを1mm以上3mm以下にしている。
【0019】
第4発明に係るガラス基板のスクライブ方法は、第1から第3発明のいずれかのスクライブ方法において、ガラス基板の強化層は圧縮応力を有し、ガラス基板の内部は引張応力を有する。
【0020】
本発明の方法では、以上のような強化ガラスに対して、内切りスクライブを容易に実行することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のような本発明では、表面が強化された強化ガラスに対して、スクライビングホイールの刃先の食い込みが容易になり、内切りスクライブが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態によるスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の概略構成図。
【図2】ヘッドの外観斜視図。
【図3】ヘッドの一部拡大断面図。
【図4】スクライブ方法を説明するためのスクライビングホイールの動きを示す図。
【図5】スクライブ方法を説明するためのスクライビングホイールの別の動きを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態によるスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の外観斜視図を図1に示す。
【0024】
[スクライブ装置の全体構成]
この装置は、強化ガラス基板Wが載置されるテーブル1と、門型フレーム2と、スクライビングホイールが装着されたヘッド3と、それぞれ2つのカメラ4及びモニタ5と、を備えている。
【0025】
テーブル1は水平面内で任意の角度に回転可能である。また、門型フレーム2は水平面内において図1のY方向に移動可能である。なお、図1では、ヘッド3の概略の外観を示しており、ヘッド3の詳細は後述する。
【0026】
門型フレーム2は、移動支持機構6と、1対の支持柱7a,7bと、1対の支持柱7a,7b間にわたって設けられたガイドバー8と、ガイドバー8に形成されたガイド9を駆動するモータ10と、を有している。ヘッド3は、ガイド9の駆動によって、ガイドバー8に沿って水平面内でY方向に直交するX方向に移動可能である。
【0027】
2つのカメラ4はそれぞれ台座12に固定されている。各台座12は支持台13に設けられたX方向に延びるガイド14に沿って移動可能である。2つのカメラ4は上下動が可能であり、各カメラ4で撮影された画像が対応するモニタ5に表示される。
【0028】
[ヘッド]
ヘッド3は、ガラス基板Wのスクライブ予定ラインに沿って溝を形成する(スクライブする)ために用いられる。図2及び図3に示すように、ヘッド3は、内部に旋回モータ組立体やボールネジ等の機構(図示せず)が配置されたベース部材21と、ベース部材21の上部に装着された押圧用モータ22と、ホルダ保持部材23と、ホルダ24を有するキングピン組立体25(図3参照)と、を備えている。
【0029】
ホルダ保持部材23は、図3に示すように、円筒部材28と、円筒部材28の内面に挿入されたカラー29と、ヘッドカバー30と、を有している。円筒部材28はヘッド部材21の下方に支持されている。ヘッドカバー30は、中央部に貫通孔を有し、円筒部材28の下端に固定されている。
【0030】
ホルダ24は、キングピン組立体25の構成部材の1つとして設けられている。ホルダ24の下端部にはホイール保持部24aが設けられている。ホイール保持部24aは、キングピン組立体25に回転自在に支持されており、一方の側面視で、先端部分が三角形状に形成されている。ホイール保持部24aの先端部には、下方から所定長さの切込みが形成されており、この切込みの下端部にスクライビングホイール32が装着されている。
【0031】
図3に示すように、スクライブヘッドの移動方向と直交する方向から視て、スクライビングホイール32の取付中心C1と、ホルダ24の中心C2とは、距離δだけオフセットされている。このオフセットδによって、ヘッド3の移動方向が変更されると、ホルダ保持部24a及びスクライビングホイール32がそれに倣って回転されることになる。
【0032】
[加工方法]
まず、ガラス基板Wがテーブル1上に載置される。ガラス基板Wには、図4に一点鎖線で示すスクライブ予定ラインSLが設定されている。
【0033】
次に、テーブル1及びヘッド3のいずれか、あるいは両方を移動させて、スクライビングホイール32の刃先を図4に示すスクライブ開始位置S0にセットする。この開始位置S0は、スクライブ予定ラインSLから所定距離dだけ離れた位置である。この距離dは、1mm以上3mm以下が好ましい。距離dが3mmを越えると、テーブル1やヘッド3の移動時における加減速がスクライビングホイール32の刃先に与える影響が大きくなり、後工程での刃先の基板への食い込みが弱くなる。また、距離dが1mm未満の場合は、開始位置をスクライブ予定ライン上にセットした場合と同様になり、この場合も刃先がガラス基板に食い込みにくくなる。
【0034】
スクライビングホイール32の刃先を開始位置S0にセットした後、所定の圧接力で刃先をガラス基板Wに対して圧接する。そして、この状態で、スクライビングホイール32をスクライブ予定ラインSLに向かって移動させる。この実施形態では、門型フレーム2を移動させることによって、ヘッド3すなわちスクライビングホイール32を、スクライブ予定ラインSLに向かって垂直に(Y方向に)移動させる。
【0035】
なお、スクライビングホイール32のスクライブ予定ラインSLまでの移動軌跡が、スクライブ予定ラインSLに垂直ではなく、図5に示すように、90°未満の角度θで傾斜するようにしてもよい。この場合は、移動軌跡の長さ(距離d)が1mm以上3mmmになるように、開始位置S0及び角度θを設定する必要がある。また、図5の場合は、門型フレーム2及びヘッド3の両方を移動させる必要がある。
【0036】
そして、スクライビングホイール32の刃先がスクライブ予定ラインSLに到達すると、門型フレーム2の移動を停止し、ガイド9を駆動することによってヘッド3をスクライブ予定ラインSLに沿ってX方向に移動させる。
【0037】
ここで、ホイール保持部24aは回転自在であるので、ヘッド3のガラス基板Wに対する移動方向が変更されると、ホイール保持部24aは図4に示すように90°回転する。すなわち、スクライビングホイール32が90°回転する。この回転によって、スクライビングホイール32の刃先がガラス基板Wに食い込む。このようにして、スクライビングホイール32は、刃先がガラス基板Wに食い込んだ状態で、スクライブ予定ラインSLに沿って走査される。
【0038】
ここで、スクライビングホイール32の方向が変えられることによって、変曲点の軌跡は曲線又は直線になる。軌跡が曲線になる場合は、軌跡の半径r(図4及び図5参照)は5mm未満にするのが好ましい。半径が5mm以上になると、開始点をスクライブ予定ライン上にセットした場合と同様に、刃先がガラス基板に食い込みにくくなる。
【0039】
そして、スクライビングホイール32がガラス基板Wの端部近傍の終端まで走査されると、ヘッド3の移動は停止される。
【0040】
以上のようにしてスクライブされたガラス基板Wは、次工程である分断工程でスクライブ加工された溝の両側が押圧され、分断される。
【0041】
以上のような加工方法では、スクライブの開始位置を、スクライブ予定ライン上ではなくスクライブ予定ラインから離れた位置にセットし、スクライビングホイール32の刃先をスクライブ予定ライン上で回転させるようにしたので、この回転時にスクライビングホイール32の刃先がガラス基板Wに食い込みやすくなる。このため、特に表面に強化層を有する強化ガラスに対して良好にスクライブを行うことができる。
【0042】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0043】
加工時において、門型フレーム及びヘッドの移動については、前記実施形態は一例であり、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 スクライブ装置
24 ホルダ
32 スクライビングホイール
SL スクライブ予定ライン
S0 開始位置
W ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に強化層を有するガラス基板上のスクライブ予定ラインに沿ってスクライビングホイールを移動させ、ガラス基板をスクライブするスクライブ方法であって、
ガラス基板上の前記スクライブ予定ラインから離れた開始位置に前記スクライビングホイールを圧接する第1工程と、
前記開始位置から前記スクライブ予定ラインに向かって前記スクライビングホイールを前記ガラス基板に対して圧接しながら移動させる第2工程と、
前記スクライビングホイールが前記スクライブ予定ラインに到達した時点で、前記ガラス基板に対する前記スクライビングホイールの移動方向を前記スクライブ予定ラインに沿った方向に変更し、前記スクライビングホイールをガラス基板に対して圧接しながら前記スクライブ予定ラインに沿って移動させる第3工程と、
を含むガラス基板のスクライブ方法。
【請求項2】
前記第3工程における前記スクライビングホイールの移動方向が変更された部分の変曲点の軌跡は、半径5mm未満である、請求項1に記載のガラス基板のスクライブ方法。
【請求項3】
前記第1工程における開始位置は、前記第2工程における前記スクライブ予定ラインまでの移動軌跡の長さが1mm以上3mm以下になるように設定される、請求項1又は2に記載のガラス基板のスクライブ方法。
【請求項4】
前記ガラス基板の強化層は圧縮応力を有し、前記ガラス基板の内部は引張応力を有する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス基板のスクライブ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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