ガラス材とその製造方法
【課題】 薄型・軽量化に適用可能な高強度ガラス材を提供する
【解決手段】 希土類元素を含有するガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に希土類元素の高濃度含有層を有するものとした。
【解決手段】 希土類元素を含有するガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に希土類元素の高濃度含有層を有するものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐破砕性を格段に向上した高強度のガラス材に係り、薄型・軽量化しても耐破砕性が要求される各種の構造部材、ガラス製品、その他のガラス利用製品に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、身近にある食器や窓ガラスの類からディスプレイやストレージ等の電子デバイス、各種車両、航空機等の運搬手段に至るまで、極めて広範囲な分野に利用されている。ガラスは脆く、割れ易い材料であるとの認識が一般的であり、割れないガラスの実現は夢であった。従来から、ガラスの高強度化処理として、化学強化、風冷強化、結晶化強化、等が知られている。しかし、これらの高強度化処理を施した、所謂強化ガラスでも、その強度向上効果は未強化処理ガラス(一般ガラス)の2乃至3倍程度に留まっている。なお、この分野では、FPD(フラット・パネル・ディスプレイ)用途として、通常ガラスの4倍以上の高強度化ガラスの開発が進められている。
【0003】
ガラスの破砕(割れ)は、ガラスの表面に無数の微小クラック(マイクロクラック)が存在し、曲げ応力の印加でマイクロクラックが大きなクラックに進展して起こると考えられている。このようなマイクロクラックをガラスの表面から無くすことは不可能である。そのため、一般ガラスの製造後に上記したような種々の高強度化処理が施されて、所謂強化ガラスを得るようにしているのである。
【0004】
ガラスの高強度化処理の例として、一般ガラスに希土類酸化物(La2O3,Y2O3,CeO2)を1wt%以下で含ませて化学強化処理するものが特許文献1に開示されている。また、特許文献2には、化学強化ガラスの表面部を脱アルカリ処理した後、Zn2+の2価金属イオンを注入してガラス表面からのアルカリイオンの溶出を抑制してクラックの進展を抑制するものが開示されている。
【0005】
風冷強化は、高温状態のガラス表面に冷風を当てて該表面に圧縮強化層を形成することにより、クラックの発生を抑制する処理である。このような処理の対象は、車両や建材用途に代表される4mm厚以上の大型板ガラスが主たるものである。また、結晶化強化は、非晶質であるガラスの内部に100nm以上の結晶粒子を形成して全体を強化するもので、表面のマイクロクラックからのクラックの進展を結晶粒子で抑制するものである。
【特許文献1】特開2001−302278号公報
【特許文献2】特開2003−286048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の強度向上の一例である化学強化では、加熱溶融した硝酸塩中で一般ガラスの表面部のLiイオンをNaイオンに、また一般ガラスの表面部のNaイオンをKイオンに置換するアルカリイオン交換を施すことでガラス表面に圧縮強化層を形成するものである。‘割れないガラス’は、強度向上効果が一般ガラスの数倍から10倍程度であることが要求される。しかし、従来の化学強化による強度向上効果は一般ガラスの2乃至3倍程度に留まり、‘割れないガラス’には程遠い。さらに耐熱性が低い(加熱により強度が低下)といった課題がある。また、従来の強度向上の他例である結晶化強化を施した強化ガラスの強度向上効果は一般ガラスの2倍程度で、かつ透明性が低いという性質を有する。この様に、従来の手法では割れないガラスの実現は極めて困難であった。
【0007】
本発明の目的は、薄型・軽量化に適用可能な高強度ガラス材を提供することにある。本発明による高強度ガラス材は、一般ガラスの6〜10倍程度の強度向上効果を実現でき、FPD用の基板を始め、各種のガラス利用製品の分野、建材、その他の前記した広い応用分野に適用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガラス材は、希土類元素を含有するガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に希土類元素の高濃度含有層(以下、単に高濃度層とも称する)を有するものとした。また、高濃度含有層の希土類元素の濃度が、ガラス材の最表面から深さ方向で前記表面部より深い内央部の濃度より高くした。ここで、最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部を表面部とも称する。また、ガラス材の最表面から深さ方向で表面部より深い内央部を内部とも称する。
【0009】
また、本発明のガラス材は、希土類元素として、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの少なくとも一種とする。また、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luとし、より好ましくはGdとした。
【0010】
また、本発明のガラス材は、ガラス全体に対し希土類元素がLn2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%、好ましくは、2〜7重量%を含ませた。
【0011】
そして、本発明のガラス材の製造方法は、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する皮膜形成工程と、
表面に前記希土類金属皮膜を形成した前記原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に拡散すると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする加熱拡散工程とを少なくとも含むものとした。
【0012】
また、本発明のガラス材の製造方法における皮膜形成工程では、原ガラス材を浸漬した希土類金属溶液に、減圧状態と常圧状態を繰り返すことで所用の皮膜を形成する。
【0013】
また、本発明の原ガラス材には希土類元素を含有しないもの、含有するものの何れかとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
ガラス材の表面部での希土類元素の含有濃度を高めることにより表面部が高度に強化され、曲げ応力の印加時にマイクロクラックから大きなクラックへの進展が抑制される。ガラス材の強化に希土類元素が有効である。希土類元素としては、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが使用でき、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu、より好ましくはGdである。Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luを含有させたガラス材は可視光域の光透過性が高く、特に、Gdを用いたものでは、強度向上効果と可視光域の良好な光透過性の両立が著しい。
【0015】
前記希土類元素をガラス全体に対し、Ln2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%を含ませる。含有量が1重量%未満では強度向上効果が少なく、10重量%を超えると失透(結晶化)し易くなる。そのため、2〜7重量%が好ましい範囲である。
【0016】
本発明は、表示装置用の構造材や磁気ディスクの基板等の電子機器用ガラス構造部材に限るものではなく、薄型化、軽量化とともに高強度化が要求される建物物の構造材や窓ガラス(2層ガラス、合わせガラス等も含む)、太陽電池用の基板、車両、航空機、宇宙船などの構造材やその窓ガラスなどの広い用途にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明のガラスの高強度化処理の手段を説明する図である。図1において、ガラスは部分断面で示し、同図で各断面の左右両側が表面である。通常ガラスの主成分は酸化珪素(SiO2)からなる酸化物系ガラスである。図1に示したように、本発明では、酸化珪素SiO2の原ガラスHIGの中の希土類元素(希土類酸化物(Ln2O3))の濃度を調整して該表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成した。すなわち、表面部の希土類元素濃度が内部のそれよりも高くした。
【0019】
ここでは、原ガラスに希土類酸化物(Ln2O3)を添加することでガラス全体を強化した高強度ガラス素材HIGとし、この希土類元素の濃度を表面部で高くした上記高濃度層RRLを形成した。この高濃度層RRLにより、ガラス表面に存在するマイクロクラックMCに起因する破砕の発生が抑制される。本発明により、強度が通常ガラスの6〜12倍、あるいはそれ以上の超強度ガラス、所謂“割れないガラス”UIGが得られる。
【0020】
高強度ガラス素材HIGに添加する希土類酸化物は、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの酸化物(Ln2O3)、好ましくはEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種の酸化物(Ln2O3)、より好ましくはGdの酸化物である。このような希土類酸化物をガラスに含有させることで、ガラス全体の高強度化が図られ、かつ両表面に高濃度層RRLを形成することで、極めて高い強度のガラス材を得ることができる。
【0021】
上記のような希土類酸化物含有の高強度ガラス素材HIGを用いることに代えて、希土類酸化物を含有しない原ガラスの表面に希土類元素を塗布し、熱処理を施すことで希土類元素を拡散させて表面部に高濃度層RRLを形成することができる。
【0022】
具体的には、先ず、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。その後、上記した表面に希土類金属皮膜を形成した原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(すなわち、表面部)に拡散させ、当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。この皮膜形成工程では、原ガラス材を浸漬した希土類金属溶液に減圧状態と常圧状態を繰り返す処理を施す。
【0023】
図2は、本発明による希土類元素の含有による高強度ガラス素材の高強度化メカニズムを説明する模式図である。ガラスを形成するための主要成分はSiO2であり、図2に示した酸素骨格構造となっている。この中に希土類酸化物Ln2O3を添加することで、酸素骨格構造の酸素原子Oが矢印PSで示したように添加された希土類元素Lnの電場により引き付けられることによって、ガラスが全体的に強化されるものと考えられる。
【0024】
希土類酸化物Ln2O3の添加で全体が強化された高強度ガラス素材HIGの表面部に上記した希土類元素の高濃度層RRLを形成する。これにより、ガラス材の表面が高強度化され、マイクロクラックに起因する破砕を防止した超強度ガラスUIGが得られる。以下、本発明の超強度ガラスにおける希土類元素の含有による各種効果を説明する。
【0025】
図3は、希土類元素を含まない原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図3では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素を含まない原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約100nmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0026】
図3に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0027】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―9Na2O―2K2O―16Al2O3―2ZnO(重量%(wt%))
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO(重量%)
溶融量:約3Kg
溶融条件:1500〜1600℃で3時間、内2時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で3時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0028】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記のガラスブロックから3mm×4mm×40mmの試験片を作製する。これを、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液中に浸漬し、減圧、常圧を何度か繰り返して試験片の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。これを530℃で1〜2時間加熱して希土類元素を当該試験片の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(表面部)に拡散させると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。ここでは、希土類元素としてPr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを使用した。
【0029】
(3)曲げ強度試験
図4は、試験片を用いた曲げ強度試験の配置を説明する図である。図4に示したように、この曲げ強度試験は、スパンsで離間して平行配置した2本の下部円柱B1,B2と、下部円柱B1,B2の配置空間の上方の中間位置に下部円柱B1,B2と平行に配置した1本の上部円柱B3を使用する。ここでは、下部円柱B1,B2のスパンs=30mmとした2本の下部円柱B1とB2の上に希土類元素の高濃度層RRLを形成した面を上下に向けて試験片TGを載置し、試験片TGの上面の中間位置に上部円柱B3を乗せ、矢印W方向に荷重をかける。そして、試験片TGが破壊したときの荷重をwとして、次式(1)で算出する。
σ=(3s・w/2a・t2)・・・・・式(1)
σ(MPa)は3点曲げ強度、sは下部スパン、wは破壊荷重、aは試験片の幅、tは試験片の厚さである。
【0030】
図5は、コーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類酸化物膜をコーティングしないガラス材の平均曲げ強度も○で囲んだ「なし」として示した。「なし」として示したガラス材の平均曲げ強度は150MPaである。これに対し、図5中に大きな楕円で囲んで示したように、希土類酸化物膜をコーティングしたものは200MPaを超える大きな平均曲げ強度を有する。○で囲んだ希土類元素を用いたものでは可視光で透明性が高い。
【0031】
中でも、図5中に小さな楕円で囲んで示した範囲の希土類元素(Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを)を用いて表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成したものの平均曲げ強度の向上は著しい。そして、特にGdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0032】
図6は、低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図6では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素として低濃度の希土類(Gd)を含んだ原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約100nmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0033】
図6に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0034】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(Gdは希土類、wt%)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Gd2O3(wt%、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量:約3Kg
溶融条件:1500〜1600℃で3時間、内2時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で3時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0035】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記のガラスブロックから3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片を作製する。これを、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液中に浸漬し、減圧、常圧を何度か繰り返して試験片の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。これを530℃で1〜2時間加熱して希土類元素を当該試験片の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(表面部)に拡散させると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。ここでは、希土類元素としてPr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを使用した。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0036】
図7は、低濃度の希土類元素含有の原ガラス材にコーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類酸化物膜をコーティングしないガラス材の平均曲げ強度も○で囲んだ「なし」として示した。「なし」として示したガラス材の平均曲げ強度は200MPaを若干上回っている。これに対し、図7中に大きな楕円で囲んで示したように、希土類酸化物膜をコーティングしたものは300MPaを超える大きな平均曲げ強度を有する。○で囲んだ希土類元素を用いたものでは可視光で透明性が高い。
【0037】
中でも、図7中に小さな楕円で囲んで示した範囲の希土類元素(Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを)を用いて表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成したものの平均曲げ強度の向上は著しい。そして、特にGdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0038】
図8は、低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図8では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素を含んだ原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約2μmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0039】
図8に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0040】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Ln2O3(wt%、Lnは希土類元素)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Ln2O3(wt%、CeのみCeO2で使用、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量:Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの希土類をそれぞれ含むガラスを約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で1時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0041】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各ガラスブロックから3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。これを、希土類イオン含有条件(硝酸エルビウム[Er(NO3)3]中に450℃で4時間浸漬した。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0042】
図9は、希土類元素含有の原ガラス材にコーティングし、希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成したガラス材の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類元素の高濃度層を形成しないガラス材についても同様の試験を行い、その結果を図9中に△のプロットを繋いだグラフに示す。高濃度層を形成しないガラス材の平均曲げ強度は200MPa前後である。これに対し、希土類元素の高濃度層を形成したガラス材は、400MPa前後以上である。そして、図9中に楕円で囲んで示したように、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを用いたものは500MPa以上となる。
【0043】
中でも、○で囲んだ希土類元素(Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu)を用いたものでは可視光で透明性が高く、特に、Gdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0044】
次に、曲げ強度試験用のガラス材を作成する際に、磁場をかけながら過熱溶融したガラス材の平均曲げ強度の第1例について説明する。希土類元素はプラスイオンとなって原ガラス材中に含有している。ここでは、原ガラス組成、ガラス原料を次にようなものとした。
【0045】
(1)原ガラス組成:62SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―6Ln2O3(wt%、Lnは希土類元素)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Ln2O3(wt%、Ln: Gd,Tb,Er、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量: Gd,Tb,Erをそれぞれ含むガラスを約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
【0046】
これを500℃に加熱した鋳型に、厚みが3mmになるように流し込み、即座に630℃に保持した磁場印加炉に鋳型ごと入れ、2時間保持した後に冷却速度1℃/分で徐冷し、厚みが3mmのガラス板を作製した。これを、磁場をかけないで作製した試験片と比較した。
【0047】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各ガラス板から、3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。このとき、ガラス板の表面が試験片の表面となるようにする。試験片の表面部には約100μmの希土類元素の高濃度層が形成されていた。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0048】
図10は、磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片と磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片は、図中に△のプロットをつないだグラフ(比較例と表示)に示されたように、曲げ強度試験は200〜250MPa程度である。これに対し、磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片では、図中に○のプロットをつないだグラフ(実施例と表示)に示されたように、500MPa以上の値を示した。
【0049】
次に、曲げ強度試験用のガラス材を作成する際に、磁場をかけながら過熱溶融したガラス材の平均曲げ強度の第2例について説明する。希土類元素はGdを用い、含有濃度を0から2%刻みで16wt%に変化させた。ここでは、原ガラス組成、ガラス原料を次にようなものとした。(1)原ガラス組成:(68―x)SiO2―15Al2O3―2ZnO―6Li2O―7Na2O―2K2O―xGd2O3(wt%)。
原ガラス原料:SiO2、Al2O3、ZnO、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Gd2O3(wt%、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)。
溶融量:各Gd濃度について約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを500℃に加熱した鋳型に、厚みが3mmになるように流し込み、即座に630℃に保持した磁場印加炉に鋳型ごと入れ、2時間保持した後に冷却速度1℃/分で徐冷し、厚みが3mmのガラス板を作製した。
【0050】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各濃度のガラス板から、3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。このとき、ガラス板の表面が試験片の表面となるようにする。試験片の表面部には約100μmの希土類元素の高濃度層が形成されていた。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0051】
図11は、希土類元素(Gd2O3)の含有量に対する磁場印加有りの試験片と磁場印加無しの試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。磁場印加無しの場合は、図中に△のプロットをつないだグラフ(比較例と表示)に示されたように、曲げ強度試験は300MPaに達せず、約15wt%付近で失透となる。これに対し、磁場印加有りのものは、図中に○のプロットをつないだグラフ(実施例と表示)のうち、大きい楕円で囲んだ1〜10wt%付近において曲げ強度試験は300MPa以上となる。特に、小さい楕円で囲んだ2〜7wt%付近の濃度では、450MPa以上の値を示した。
【0052】
次に、本発明のガラス材における耐熱性について説明する。ガラス材の表面強化の従来手段の一つである化学強化(ガラス表面のアルカリイオン交換)を施したものでは、300℃以上に加熱するとアルカリイオンが表面へ拡散し、強度が低下する。本発明による希土類元素の高濃度層を表面部に形成したmのでは、このような加熱による強度低下を抑制できる。特に、製造プロセスに熱処理が必要なFPDや、磁気ディスク装置等の構造材に有効である。
【0053】
耐熱性向上試験では、ガラス材の組成として、
Aガラス:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(重量%)、
Bガラス:71SiO2―2Li2O―13Na2O―1K2O―1Al2O3―3MgO―9CaO(重量%)、
ガラス原料は、、SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZNO、Gd2O3、MgCO3、CaCO3(清澄剤としてSb2O3を0.5w%添加)
溶融量:各3Kg
溶融条件:1500〜1600℃、3時間(内、2時間は攪拌―ガラスの均質化)
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、550℃―1時間過熱し、冷却速度1℃/分で序冷して歪取りを施した。
【0054】
試験片のサイズは、厚さt=3mm、幅a=4mm、長さh=40mmである。この試験片の強化は、
Aガラスに図6と同様にして希土類元素高濃度含有層を形成し、これを「実施例a」とする。
Bガラスに図8と同様にして希土類元素高濃度含有層を形成し、これを「実施例b」とする。また、比較例として、
Bガラスにアルカリイオン交換(化学強化処理)を施し、80〜100μmの圧縮応力層を形成し、これを「比較例a」とする。
Bガラスに強化処理を施さないで通常のガラス材とし、これを「比較例b」とする。
【0055】
試験片の熱処理条件は、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で、それぞれ10分とした。試験片の数は、上記各熱処理温度毎に5枚作製した。曲げ強度試験の条件は、図4での説明と同じとした。
【0056】
図12は、熱処理温度に対する平均曲げ強度の関係を説明する図であり、上記の「実施例a」、「実施例b」、「比較例a」、「比較例b」について試験した結果を示す。図12において、「実施例a」、「実施例b」は加熱による影響がほとんど認められない。試験片の表面部の希土類元素の高濃度層は、熱処理により消滅し難く、そのために強度低下がほとんどない。本発明により、高強度と耐熱性が両立できる。
【0057】
これに対し、「比較例a」は300℃以上で顕著な強度低下が発生する。これは、熱処理リによりイオン交換したアルカリイオンが表面に拡散することが原因である。また、「比較例b」は加熱による強度低下は無いが、もともと強度が低いもので、問題外である。
【0058】
次に、本発明によるガラス材の鋼球落下試験について説明する。この試験に用いるガラス材の組成は次のとおりである。
Cガラス:67SiO2―4Li2O―8Na2O―1K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(wt%)、
Dガラス:62SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―6Gd2O3(wt%)、
Eガラス:71SiO2―2Li2O―14Na2O―3MgO―10CaO(wt%)、
Fガラス:62SiO2―5Al2O3―4Na2O―8K2O―4MgO―4CaO―9SrCO3―4BaO(wt%)、
ガラス原料は、SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZNO、Gd2O3、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3(清澄剤としてSb2O3を0.5w%添加)
溶融量:各約10kg
溶融条件:1500〜1600℃、5時間(内、3時間は攪拌してガラスを均質化。
これを幅150mm、厚み2.5mmのガラス板とし、150mm×150mm角に切断して、550℃〜650℃で2時間加熱し、冷却速度1℃/分で序冷して歪取りを施した。
【0059】
上記した厚み2.5mmで150mm×150mm角のガラス板を光学研磨して試験片とした。この試験片について、次のような強化処理を施した。
Cガラスに図6と同様の希土類元素(Gd)の高濃度層を形成し、これを「実施例c」とした。
Dガラスに図8と同様の希土類元素(Er)の高濃度層を形成し、これを「実施例d」とした。
Dガラスに前記磁場印加の第1例と同様の希土類元素(Gd)の高濃度層を形成し、これを「実施例e」とした。
Eガラスに化学強化処理(アルカリイオン交換)し、厚みが80〜100μmの圧縮応力層を形成し、これを「比較例c」とした。
また、Eガラスそのものを「比較例d」、Fガラスそのものを「比較例e」とした。
【0060】
上記の各ガラス材について、JISC8917に準じた衝撃試験を実施した。用いた鋼球の質量は450g、鋼球の落下高さは、25cm、50cm、75cm、100cm、125cmとし、高さ毎に各3枚の試験片を用いて行った鋼球落下試験の結果を表1に示す。表1中の○印、△印、×印はそれぞれ、破損無し、一部破損、全部破損を意味する。
【表1】
【0061】
表1の結果から、本発明にかかる希土類元素含有ガラス材に高濃度層の形成による高強度化を施したもの(実施例c、d、e)は、75cmの高さからの鋼球落下に対しては全て破損なし、100cmの高さからの鋼球落下に対して実施例cでは1枚のみが破損した。比較例c、d、eでは75cmの高さからの鋼球落下に対しては比較例cで2枚破損、それ以上では全て破損した。このことからも、本発明にかかる希土類元素の高濃度層形成ガラス材は格段の強度を有していることが分る。
【0062】
このように、本発明によるガラス材は、薄くしても必要な強度を有し、厚いままでは安全性、信頼性が格段に向上する。そのため、FPDのパネルガラス、太陽電池のパネルガラスなどの電子デバイスに限らず、建築物、車両、航空機、宇宙船等の広い分野に適用できる。
【0063】
本発明によるガラス材の耐衝撃破壊性を積層ガラス(ガラス積層体)についても試験した結果を説明する。試験片の組成は、上記した一枚ガラス材のCガラス(67SiO2―4Li2O―8Na2O―1K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(wt%))と同じとし、原料は前記の一枚ガラスの衝撃破壊試験のものと同じである。但し、溶解量は約17kg、溶解条件は1500℃で6時間(内、3.5時間は攪拌で、ガラスの均質化)。これを鋳型に流し込み、約150mm×150mm×220mmのガラスブロックを作製する。このガラスブロックを550℃で3時間、冷却速度1℃/分で徐冷して歪取りした。
【0064】
上記のガラスブロックから次のような3種類の試験片を切り出し、光学研磨して作製した。すなわち、
単層用試験片:150mm×150mm×3.0mm
二層用試験片:150mm×150mm×1.5mm
三層用試験片:150mm×150mm×1.0mm
強化処理は、前記Cガラスと同じで、ガラス材の表面部に希土類元素(Gd)の高濃度層を形成した。
【0065】
化学強化層の形成後、二層の積層ガラスは、二層用試験片の間に合成樹脂EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)を挟んで圧着し、これを「実施例v」とし、三層の積層ガラスは、三層用試験片の相互間に合成樹脂EVAをそれぞれ挟んで圧着して、これを「実施例x」とした。圧着層の厚みは約0.3mmである。なお、単層用試験片は、積層ガラスとの比較用であり、二層の積層ガラスのガラス厚みである(1.5mm+1.5mm=3.0mm)、三層の積層ガラスのガラス厚みである(1.0mm+1.0mm+1.0mm=3.0mm)と樹脂を除くガラスの総和厚みを同じとしたもので、これを「実施例u」とした。
【0066】
表2に二層および三層のガラス積層体の鋼球落下による衝撃破壊紙面の結果を同じ厚みの単層用試験片の試験結果と共に示す。なお、使用した鋼球の質量は1.2kgである。この試験も、JISC8917に準じた試験であり、前記した配置で質量1.2kgの鋼球をガラス材の上方25cm、50cm、75cm、100cm、125cm、150cmの高さから落下させて行った。試験片はそれぞれの高さ試験で各3枚を使用した。表2中、○は破損なし、△は一部破損、×は全部破損を意味する。
【表2】
【0067】
表2の結果から、本発明にかかる希土類元素含有ガラス材(実施例v、x)を用いて形成した積層ガラスは、同じ厚さの単層ガラス(実施例u)に比べて強化されており、かつ破損しても破片の飛散はないことが分る。
【0068】
以上説明した本発明をまとめると、次のようになる。すなわち、本発明は、希土類元素を含有するガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成する。この希土類元素を含む高密度層により、曲げ応力の印加時にマイクロクラックから大きなクラックへの進展が抑制される。この高密度層の形成は、化学強化処理のようなガラス材表面部のアルカリイオンの交換によるものではないので、強化前のガラス材にアルカリを含ませる必要はない。
【0069】
希土類元素としては、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが使用でき、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu、より好ましくはGdである。Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luを含有させたガラス材は可視光域の光透過性が高く、特に、Gdを用いたものでは、強度向上効果と可視光域の良好な光透過性の両立が著しい。
【0070】
本発明によるガラス材は、フラット・パネル・ディスプレイ(FPD)等の表示装置用の構造材や磁気ディスクの基板等の電子機器用ガラス構造部材に限るものではなく、薄型化、軽量化とともに高強度化が要求される建物物の構造材や窓ガラス(2層ガラス、合わせガラス等も含む)、太陽電池用の基板、車両、航空機、宇宙船などの構造材やその窓ガラスなどの広い用途にも適用できる。
【0071】
次に、本発明のガラス材の有力な応用分野の一つであるフラット・パネル・ディスプレイの一例を説明する。
【0072】
マトリクス状に配置した電子源を有する自発光型FPDの一つとして、微少で集積可能な冷陰極を利用する電界放出型画像表示装置(FED:Field Emission Display)や電子放出型画像表示装置が知られている。これらの冷陰極には、スピント型電子源、表面伝導型電子源、カーボンナノチューブ型電子源、金属―絶縁体―金属を積層したMIM(Metal−Insulator−Metal)型、金属―絶縁体―半導体を積層したMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)型、あるいは金属―絶縁体―半導体−金属型等の薄膜型電子源などがある。
【0073】
自発光型FPDは、上記のような電子源を備えた背面パネルと、蛍光体層とこの蛍光体層に電子源から放出される電子を射突させるための加速電圧を形成する陽極を備えた前面パネルと、両パネルの対向する内部空間を所定の真空状態に封止する封止枠とで構成される表示パネルを有する。背面パネルは背面基板上に形成された上記の電子源を有し、前面パネルは前面基板上に形成された蛍光体層と電子源から放出された電子を蛍光体層に射突させる電界を形成するための加速電圧を形成する陽極を有する。この表示パネルに駆動回路を組み合わせて構成される。通常、背面パネル、前面パネル、封止枠はガラス材で構成される。これらのガラス材に前記した本発明によるガラス材を用いることで、薄型・軽量、かつ破壊に強いFPDを実現することができる。
【0074】
個々の電子源は対応する蛍光体層と対になって単位画素を構成する。通常は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の単位画素で一つの画素(カラー画素、ピクセル)が構成される。なお、カラー画素の場合、単位画素は副画素(サブピクセル)とも呼ばれる。
【0075】
また、背面パネルと前面パネルの間隔は隔壁あるいはスペーサと称する部材で所定間隔に保持される。この隔壁はガラスやセラミックスなどの絶縁材あるいは幾分かの導電性を有する部材で形成した板状体からなり、通常、複数の画素ごとに画素の動作を妨げない位置に設置される。この隔壁にも本発明によるガラス材を用いることで、薄型・軽量化に加えて破壊に強いFPDを実現することができる。
【0076】
図13は、本発明にかかるガラス材を用いて構成した表面装置の構成例を説明する模式平面図である。背面パネルを構成する背面基板SUB1は本発明によるガラス材からなり、その内面上には画像信号配線d(d1,d2,・・・dn)が形成され、その上に走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)が交差して形成されている。画像信号配線dは画像信号駆動回路DDRで駆動される。走査信号配線sは走査信号駆動回路SDRで駆動される。図13では、走査信号配線s1の上に隔壁SPCを有し、この隔壁SPCの垂直走査VSの方向下流側に電子源ELSが設けられ、接続電極ELCで走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)から給電される。隔壁SPCも本発明によるガラス材で形成される。
【0077】
前面パネルを構成する前面基板SUB2は本発明によるガラス材からなり、その内面上には陽極電極ADが設けられており、この陽極電極ADの上に蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が形成されている。この構成では、蛍光体PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が遮光層(ブラックマトリクス)BMで区画されている。なお、陽極電極ADはベタ電極として示してあるが、走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)と交差して画素列ごとに分割されたストライプ状電極とすることもできる。電子源ELSから放射される電子を加速して対応する副画素を構成する蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))に射突させる。これにより、該蛍光体層PHが所定の色光で発光し、他の副画素の蛍光体の発光色と混合されて所定の色のカラー画素を構成する。
【0078】
図14は、図13で説明したFEDの全体の構造を示す斜視図、図15はその断面を示す図である。なお、図15は隔壁SPCに平行に切断した断面であり、隔壁SPCは図示していない。背面パネルPNL1を構成する背面基板SUB1の内面には、画像信号配線dと、走査信号配線sのマトリクスの交差部近傍に電子源を有する。画像信号配線dは封止枠MFLの外側に引き出されて引出端子dtを形成している。同様に、走査信号配線sも封止枠MFLの外側に引き出されて引出端子stを形成している。一方、前面パネルPNL2を構成する前面基板SUB2の内面に陽極ADと蛍光体層PHが成膜されている。陽極ADはアルミニウム層を用いている。
【0079】
この前面パネルPNL2と背面パネルPNL1とを対向させ、対向間を所定の間隔を保つために幅約80μm,高さ約2.5mmのリブ状の隔壁SPCを走査信号配線の上、かつ走査信号配線の延在方向に沿ってフリットガラスなどを用いて固定する。この際、両パネルの周辺部にはガラスからなる封止枠MFLを設置し、両パネルに挟まれた内部空間が外部と隔絶された構造となるように図示しないフリットガラスを用いて固着する。
【0080】
フリットガラスを用いた隔壁の固定の際には、400〜450℃での加熱を行なう。その後、装置内部を約1μPaまで排気管303を通して排気した後に封じ切る。動作の際には、前面パネルPNL2上の陽極ADに約5〜10kVの電圧を印加する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のガラスの高強度化処理の手段を説明する図である。
【図2】本発明によるガラスの高強度化メカニズムを説明する模式図である。
【図3】希土類元素を含まない原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図4】試験片を用いた曲げ強度試験の配置を説明する図である。
【図5】コーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図6】低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図7】低濃度の希土類元素含有の原ガラス材にコーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図8】低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図9】希土類元素含有の原ガラス材にコーティングし、希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成したガラス材の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図10】磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片と磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。
【図11】希土類元素(Gd2O3)の含有量に対する磁場印加有りの試験片と磁場印加無しの試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。
【図12】熱処理温度に対する平均曲げ強度の関係を説明する図である。
【図13】本発明にかかるガラス材を用いて構成した表示装置の構成例を説明する模式平面図である。
【図14】図13で説明したFEDの全体の構造を示す斜視図である。
【図15】図14の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
HIG・・・高強度ガラス素材、RRL・・・高濃度、MC・・・マイクロクラック、UIG・・・超強度ガラス、NR・・・希土類含有無しガラス材、RP・・・希土類含有有りガラス材、PNL1・・・背面パネル、PNL2・・・前面パネル、SUB1・・・背面基板、SUB2・・・前面基板、s(s1,s2,・・・sm)・・・走査信号配線、d(d1,d2,d3,・・・)・・・画像信号配線、ELS・・・電子源、ELC・・・接続電極、AD・・・陽極、BM・・・ブラックマトリクス、PH(PH(R), PH(G), PH(B))・・・蛍光体層、SDR・・・走査信号線駆動回路、DDR・・・画像信号線駆動回路、SPC・・・隔壁。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐破砕性を格段に向上した高強度のガラス材に係り、薄型・軽量化しても耐破砕性が要求される各種の構造部材、ガラス製品、その他のガラス利用製品に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、身近にある食器や窓ガラスの類からディスプレイやストレージ等の電子デバイス、各種車両、航空機等の運搬手段に至るまで、極めて広範囲な分野に利用されている。ガラスは脆く、割れ易い材料であるとの認識が一般的であり、割れないガラスの実現は夢であった。従来から、ガラスの高強度化処理として、化学強化、風冷強化、結晶化強化、等が知られている。しかし、これらの高強度化処理を施した、所謂強化ガラスでも、その強度向上効果は未強化処理ガラス(一般ガラス)の2乃至3倍程度に留まっている。なお、この分野では、FPD(フラット・パネル・ディスプレイ)用途として、通常ガラスの4倍以上の高強度化ガラスの開発が進められている。
【0003】
ガラスの破砕(割れ)は、ガラスの表面に無数の微小クラック(マイクロクラック)が存在し、曲げ応力の印加でマイクロクラックが大きなクラックに進展して起こると考えられている。このようなマイクロクラックをガラスの表面から無くすことは不可能である。そのため、一般ガラスの製造後に上記したような種々の高強度化処理が施されて、所謂強化ガラスを得るようにしているのである。
【0004】
ガラスの高強度化処理の例として、一般ガラスに希土類酸化物(La2O3,Y2O3,CeO2)を1wt%以下で含ませて化学強化処理するものが特許文献1に開示されている。また、特許文献2には、化学強化ガラスの表面部を脱アルカリ処理した後、Zn2+の2価金属イオンを注入してガラス表面からのアルカリイオンの溶出を抑制してクラックの進展を抑制するものが開示されている。
【0005】
風冷強化は、高温状態のガラス表面に冷風を当てて該表面に圧縮強化層を形成することにより、クラックの発生を抑制する処理である。このような処理の対象は、車両や建材用途に代表される4mm厚以上の大型板ガラスが主たるものである。また、結晶化強化は、非晶質であるガラスの内部に100nm以上の結晶粒子を形成して全体を強化するもので、表面のマイクロクラックからのクラックの進展を結晶粒子で抑制するものである。
【特許文献1】特開2001−302278号公報
【特許文献2】特開2003−286048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の強度向上の一例である化学強化では、加熱溶融した硝酸塩中で一般ガラスの表面部のLiイオンをNaイオンに、また一般ガラスの表面部のNaイオンをKイオンに置換するアルカリイオン交換を施すことでガラス表面に圧縮強化層を形成するものである。‘割れないガラス’は、強度向上効果が一般ガラスの数倍から10倍程度であることが要求される。しかし、従来の化学強化による強度向上効果は一般ガラスの2乃至3倍程度に留まり、‘割れないガラス’には程遠い。さらに耐熱性が低い(加熱により強度が低下)といった課題がある。また、従来の強度向上の他例である結晶化強化を施した強化ガラスの強度向上効果は一般ガラスの2倍程度で、かつ透明性が低いという性質を有する。この様に、従来の手法では割れないガラスの実現は極めて困難であった。
【0007】
本発明の目的は、薄型・軽量化に適用可能な高強度ガラス材を提供することにある。本発明による高強度ガラス材は、一般ガラスの6〜10倍程度の強度向上効果を実現でき、FPD用の基板を始め、各種のガラス利用製品の分野、建材、その他の前記した広い応用分野に適用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガラス材は、希土類元素を含有するガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に希土類元素の高濃度含有層(以下、単に高濃度層とも称する)を有するものとした。また、高濃度含有層の希土類元素の濃度が、ガラス材の最表面から深さ方向で前記表面部より深い内央部の濃度より高くした。ここで、最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部を表面部とも称する。また、ガラス材の最表面から深さ方向で表面部より深い内央部を内部とも称する。
【0009】
また、本発明のガラス材は、希土類元素として、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの少なくとも一種とする。また、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luとし、より好ましくはGdとした。
【0010】
また、本発明のガラス材は、ガラス全体に対し希土類元素がLn2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%、好ましくは、2〜7重量%を含ませた。
【0011】
そして、本発明のガラス材の製造方法は、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する皮膜形成工程と、
表面に前記希土類金属皮膜を形成した前記原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に拡散すると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする加熱拡散工程とを少なくとも含むものとした。
【0012】
また、本発明のガラス材の製造方法における皮膜形成工程では、原ガラス材を浸漬した希土類金属溶液に、減圧状態と常圧状態を繰り返すことで所用の皮膜を形成する。
【0013】
また、本発明の原ガラス材には希土類元素を含有しないもの、含有するものの何れかとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
ガラス材の表面部での希土類元素の含有濃度を高めることにより表面部が高度に強化され、曲げ応力の印加時にマイクロクラックから大きなクラックへの進展が抑制される。ガラス材の強化に希土類元素が有効である。希土類元素としては、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが使用でき、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu、より好ましくはGdである。Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luを含有させたガラス材は可視光域の光透過性が高く、特に、Gdを用いたものでは、強度向上効果と可視光域の良好な光透過性の両立が著しい。
【0015】
前記希土類元素をガラス全体に対し、Ln2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%を含ませる。含有量が1重量%未満では強度向上効果が少なく、10重量%を超えると失透(結晶化)し易くなる。そのため、2〜7重量%が好ましい範囲である。
【0016】
本発明は、表示装置用の構造材や磁気ディスクの基板等の電子機器用ガラス構造部材に限るものではなく、薄型化、軽量化とともに高強度化が要求される建物物の構造材や窓ガラス(2層ガラス、合わせガラス等も含む)、太陽電池用の基板、車両、航空機、宇宙船などの構造材やその窓ガラスなどの広い用途にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明のガラスの高強度化処理の手段を説明する図である。図1において、ガラスは部分断面で示し、同図で各断面の左右両側が表面である。通常ガラスの主成分は酸化珪素(SiO2)からなる酸化物系ガラスである。図1に示したように、本発明では、酸化珪素SiO2の原ガラスHIGの中の希土類元素(希土類酸化物(Ln2O3))の濃度を調整して該表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成した。すなわち、表面部の希土類元素濃度が内部のそれよりも高くした。
【0019】
ここでは、原ガラスに希土類酸化物(Ln2O3)を添加することでガラス全体を強化した高強度ガラス素材HIGとし、この希土類元素の濃度を表面部で高くした上記高濃度層RRLを形成した。この高濃度層RRLにより、ガラス表面に存在するマイクロクラックMCに起因する破砕の発生が抑制される。本発明により、強度が通常ガラスの6〜12倍、あるいはそれ以上の超強度ガラス、所謂“割れないガラス”UIGが得られる。
【0020】
高強度ガラス素材HIGに添加する希土類酸化物は、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの酸化物(Ln2O3)、好ましくはEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種の酸化物(Ln2O3)、より好ましくはGdの酸化物である。このような希土類酸化物をガラスに含有させることで、ガラス全体の高強度化が図られ、かつ両表面に高濃度層RRLを形成することで、極めて高い強度のガラス材を得ることができる。
【0021】
上記のような希土類酸化物含有の高強度ガラス素材HIGを用いることに代えて、希土類酸化物を含有しない原ガラスの表面に希土類元素を塗布し、熱処理を施すことで希土類元素を拡散させて表面部に高濃度層RRLを形成することができる。
【0022】
具体的には、先ず、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。その後、上記した表面に希土類金属皮膜を形成した原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(すなわち、表面部)に拡散させ、当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。この皮膜形成工程では、原ガラス材を浸漬した希土類金属溶液に減圧状態と常圧状態を繰り返す処理を施す。
【0023】
図2は、本発明による希土類元素の含有による高強度ガラス素材の高強度化メカニズムを説明する模式図である。ガラスを形成するための主要成分はSiO2であり、図2に示した酸素骨格構造となっている。この中に希土類酸化物Ln2O3を添加することで、酸素骨格構造の酸素原子Oが矢印PSで示したように添加された希土類元素Lnの電場により引き付けられることによって、ガラスが全体的に強化されるものと考えられる。
【0024】
希土類酸化物Ln2O3の添加で全体が強化された高強度ガラス素材HIGの表面部に上記した希土類元素の高濃度層RRLを形成する。これにより、ガラス材の表面が高強度化され、マイクロクラックに起因する破砕を防止した超強度ガラスUIGが得られる。以下、本発明の超強度ガラスにおける希土類元素の含有による各種効果を説明する。
【0025】
図3は、希土類元素を含まない原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図3では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素を含まない原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約100nmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0026】
図3に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0027】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―9Na2O―2K2O―16Al2O3―2ZnO(重量%(wt%))
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO(重量%)
溶融量:約3Kg
溶融条件:1500〜1600℃で3時間、内2時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で3時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0028】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記のガラスブロックから3mm×4mm×40mmの試験片を作製する。これを、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液中に浸漬し、減圧、常圧を何度か繰り返して試験片の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。これを530℃で1〜2時間加熱して希土類元素を当該試験片の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(表面部)に拡散させると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。ここでは、希土類元素としてPr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを使用した。
【0029】
(3)曲げ強度試験
図4は、試験片を用いた曲げ強度試験の配置を説明する図である。図4に示したように、この曲げ強度試験は、スパンsで離間して平行配置した2本の下部円柱B1,B2と、下部円柱B1,B2の配置空間の上方の中間位置に下部円柱B1,B2と平行に配置した1本の上部円柱B3を使用する。ここでは、下部円柱B1,B2のスパンs=30mmとした2本の下部円柱B1とB2の上に希土類元素の高濃度層RRLを形成した面を上下に向けて試験片TGを載置し、試験片TGの上面の中間位置に上部円柱B3を乗せ、矢印W方向に荷重をかける。そして、試験片TGが破壊したときの荷重をwとして、次式(1)で算出する。
σ=(3s・w/2a・t2)・・・・・式(1)
σ(MPa)は3点曲げ強度、sは下部スパン、wは破壊荷重、aは試験片の幅、tは試験片の厚さである。
【0030】
図5は、コーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類酸化物膜をコーティングしないガラス材の平均曲げ強度も○で囲んだ「なし」として示した。「なし」として示したガラス材の平均曲げ強度は150MPaである。これに対し、図5中に大きな楕円で囲んで示したように、希土類酸化物膜をコーティングしたものは200MPaを超える大きな平均曲げ強度を有する。○で囲んだ希土類元素を用いたものでは可視光で透明性が高い。
【0031】
中でも、図5中に小さな楕円で囲んで示した範囲の希土類元素(Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを)を用いて表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成したものの平均曲げ強度の向上は著しい。そして、特にGdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0032】
図6は、低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図6では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素として低濃度の希土類(Gd)を含んだ原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約100nmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0033】
図6に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0034】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(Gdは希土類、wt%)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Gd2O3(wt%、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量:約3Kg
溶融条件:1500〜1600℃で3時間、内2時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で3時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0035】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記のガラスブロックから3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片を作製する。これを、希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液中に浸漬し、減圧、常圧を何度か繰り返して試験片の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する。これを530℃で1〜2時間加熱して希土類元素を当該試験片の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部(表面部)に拡散させると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする。ここでは、希土類元素としてPr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを使用した。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0036】
図7は、低濃度の希土類元素含有の原ガラス材にコーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類酸化物膜をコーティングしないガラス材の平均曲げ強度も○で囲んだ「なし」として示した。「なし」として示したガラス材の平均曲げ強度は200MPaを若干上回っている。これに対し、図7中に大きな楕円で囲んで示したように、希土類酸化物膜をコーティングしたものは300MPaを超える大きな平均曲げ強度を有する。○で囲んだ希土類元素を用いたものでは可視光で透明性が高い。
【0037】
中でも、図7中に小さな楕円で囲んで示した範囲の希土類元素(Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを)を用いて表面部に希土類元素の高濃度層RRLを形成したものの平均曲げ強度の向上は著しい。そして、特にGdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0038】
図8は、低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。図8では高強度ガラス材UIGの一方の表面側の半分のみを示す。希土類元素を含んだ原ガラス材NRの表面部の最表面から厚み方向の内部約2μmの範囲に高濃度の希土類元素を含んだ層(高濃度層)RRLが形成されている。この高濃度層RRLの確認は、当該断面を電子顕微鏡で観察することで行った。
【0039】
図8に示した高強度ガラス材UIGの上記高濃度層RRL形成による強度向上効果を確認するために、次のようなガラスブロックから試験片を作製し、強度(曲げ強度)を試験した。
【0040】
(1)ガラスブロックの作製
原ガラス組成:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Ln2O3(wt%、Lnは希土類元素)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Ln2O3(wt%、CeのみCeO2で使用、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量:Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの希土類をそれぞれ含むガラスを約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、作製したがブロックを550℃で1時間かけて冷却した(冷却速度は1℃/分として徐冷)。
【0041】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各ガラスブロックから3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。これを、希土類イオン含有条件(硝酸エルビウム[Er(NO3)3]中に450℃で4時間浸漬した。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0042】
図9は、希土類元素含有の原ガラス材にコーティングし、希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成したガラス材の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。なお、希土類元素の高濃度層を形成しないガラス材についても同様の試験を行い、その結果を図9中に△のプロットを繋いだグラフに示す。高濃度層を形成しないガラス材の平均曲げ強度は200MPa前後である。これに対し、希土類元素の高濃度層を形成したガラス材は、400MPa前後以上である。そして、図9中に楕円で囲んで示したように、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを用いたものは500MPa以上となる。
【0043】
中でも、○で囲んだ希土類元素(Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu)を用いたものでは可視光で透明性が高く、特に、Gdを用いた場合には、可視光での透明性と平均曲げ強度が最も両立する。
【0044】
次に、曲げ強度試験用のガラス材を作成する際に、磁場をかけながら過熱溶融したガラス材の平均曲げ強度の第1例について説明する。希土類元素はプラスイオンとなって原ガラス材中に含有している。ここでは、原ガラス組成、ガラス原料を次にようなものとした。
【0045】
(1)原ガラス組成:62SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―6Ln2O3(wt%、Lnは希土類元素)
原ガラス原料:SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZnO、Ln2O3(wt%、Ln: Gd,Tb,Er、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)
溶融量: Gd,Tb,Erをそれぞれ含むガラスを約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
【0046】
これを500℃に加熱した鋳型に、厚みが3mmになるように流し込み、即座に630℃に保持した磁場印加炉に鋳型ごと入れ、2時間保持した後に冷却速度1℃/分で徐冷し、厚みが3mmのガラス板を作製した。これを、磁場をかけないで作製した試験片と比較した。
【0047】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各ガラス板から、3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。このとき、ガラス板の表面が試験片の表面となるようにする。試験片の表面部には約100μmの希土類元素の高濃度層が形成されていた。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0048】
図10は、磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片と磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片は、図中に△のプロットをつないだグラフ(比較例と表示)に示されたように、曲げ強度試験は200〜250MPa程度である。これに対し、磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片では、図中に○のプロットをつないだグラフ(実施例と表示)に示されたように、500MPa以上の値を示した。
【0049】
次に、曲げ強度試験用のガラス材を作成する際に、磁場をかけながら過熱溶融したガラス材の平均曲げ強度の第2例について説明する。希土類元素はGdを用い、含有濃度を0から2%刻みで16wt%に変化させた。ここでは、原ガラス組成、ガラス原料を次にようなものとした。(1)原ガラス組成:(68―x)SiO2―15Al2O3―2ZnO―6Li2O―7Na2O―2K2O―xGd2O3(wt%)。
原ガラス原料:SiO2、Al2O3、ZnO、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Gd2O3(wt%、清澄剤としてSb2CO3を0.2wt%添加)。
溶融量:各Gd濃度について約300g作成。
溶融条件:1500〜1600℃で1.5時間、内0.5時間攪拌(ガラスの均質化)した。
これを500℃に加熱した鋳型に、厚みが3mmになるように流し込み、即座に630℃に保持した磁場印加炉に鋳型ごと入れ、2時間保持した後に冷却速度1℃/分で徐冷し、厚みが3mmのガラス板を作製した。
【0050】
(2)試験片の作製(JISR1601に準拠)
上記の各濃度のガラス板から、3mm(厚さ)×4mm(幅)×40mm(長さ)の試験片をそれぞれ作製する。このとき、ガラス板の表面が試験片の表面となるようにする。試験片の表面部には約100μmの希土類元素の高濃度層が形成されていた。
(3)曲げ強度試験
上記の試験片を用いた曲げ強度試験の配置を図4と同様にして行った。
【0051】
図11は、希土類元素(Gd2O3)の含有量に対する磁場印加有りの試験片と磁場印加無しの試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。磁場印加無しの場合は、図中に△のプロットをつないだグラフ(比較例と表示)に示されたように、曲げ強度試験は300MPaに達せず、約15wt%付近で失透となる。これに対し、磁場印加有りのものは、図中に○のプロットをつないだグラフ(実施例と表示)のうち、大きい楕円で囲んだ1〜10wt%付近において曲げ強度試験は300MPa以上となる。特に、小さい楕円で囲んだ2〜7wt%付近の濃度では、450MPa以上の値を示した。
【0052】
次に、本発明のガラス材における耐熱性について説明する。ガラス材の表面強化の従来手段の一つである化学強化(ガラス表面のアルカリイオン交換)を施したものでは、300℃以上に加熱するとアルカリイオンが表面へ拡散し、強度が低下する。本発明による希土類元素の高濃度層を表面部に形成したmのでは、このような加熱による強度低下を抑制できる。特に、製造プロセスに熱処理が必要なFPDや、磁気ディスク装置等の構造材に有効である。
【0053】
耐熱性向上試験では、ガラス材の組成として、
Aガラス:65SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(重量%)、
Bガラス:71SiO2―2Li2O―13Na2O―1K2O―1Al2O3―3MgO―9CaO(重量%)、
ガラス原料は、、SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZNO、Gd2O3、MgCO3、CaCO3(清澄剤としてSb2O3を0.5w%添加)
溶融量:各3Kg
溶融条件:1500〜1600℃、3時間(内、2時間は攪拌―ガラスの均質化)
これを鋳型に流し込んでガラスブロックを作製し、550℃―1時間過熱し、冷却速度1℃/分で序冷して歪取りを施した。
【0054】
試験片のサイズは、厚さt=3mm、幅a=4mm、長さh=40mmである。この試験片の強化は、
Aガラスに図6と同様にして希土類元素高濃度含有層を形成し、これを「実施例a」とする。
Bガラスに図8と同様にして希土類元素高濃度含有層を形成し、これを「実施例b」とする。また、比較例として、
Bガラスにアルカリイオン交換(化学強化処理)を施し、80〜100μmの圧縮応力層を形成し、これを「比較例a」とする。
Bガラスに強化処理を施さないで通常のガラス材とし、これを「比較例b」とする。
【0055】
試験片の熱処理条件は、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で、それぞれ10分とした。試験片の数は、上記各熱処理温度毎に5枚作製した。曲げ強度試験の条件は、図4での説明と同じとした。
【0056】
図12は、熱処理温度に対する平均曲げ強度の関係を説明する図であり、上記の「実施例a」、「実施例b」、「比較例a」、「比較例b」について試験した結果を示す。図12において、「実施例a」、「実施例b」は加熱による影響がほとんど認められない。試験片の表面部の希土類元素の高濃度層は、熱処理により消滅し難く、そのために強度低下がほとんどない。本発明により、高強度と耐熱性が両立できる。
【0057】
これに対し、「比較例a」は300℃以上で顕著な強度低下が発生する。これは、熱処理リによりイオン交換したアルカリイオンが表面に拡散することが原因である。また、「比較例b」は加熱による強度低下は無いが、もともと強度が低いもので、問題外である。
【0058】
次に、本発明によるガラス材の鋼球落下試験について説明する。この試験に用いるガラス材の組成は次のとおりである。
Cガラス:67SiO2―4Li2O―8Na2O―1K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(wt%)、
Dガラス:62SiO2―6Li2O―7Na2O―2K2O―15Al2O3―2ZnO―6Gd2O3(wt%)、
Eガラス:71SiO2―2Li2O―14Na2O―3MgO―10CaO(wt%)、
Fガラス:62SiO2―5Al2O3―4Na2O―8K2O―4MgO―4CaO―9SrCO3―4BaO(wt%)、
ガラス原料は、SiO2、Li2CO3、Na2CO3、KNO3、Al2O3、ZNO、Gd2O3、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3(清澄剤としてSb2O3を0.5w%添加)
溶融量:各約10kg
溶融条件:1500〜1600℃、5時間(内、3時間は攪拌してガラスを均質化。
これを幅150mm、厚み2.5mmのガラス板とし、150mm×150mm角に切断して、550℃〜650℃で2時間加熱し、冷却速度1℃/分で序冷して歪取りを施した。
【0059】
上記した厚み2.5mmで150mm×150mm角のガラス板を光学研磨して試験片とした。この試験片について、次のような強化処理を施した。
Cガラスに図6と同様の希土類元素(Gd)の高濃度層を形成し、これを「実施例c」とした。
Dガラスに図8と同様の希土類元素(Er)の高濃度層を形成し、これを「実施例d」とした。
Dガラスに前記磁場印加の第1例と同様の希土類元素(Gd)の高濃度層を形成し、これを「実施例e」とした。
Eガラスに化学強化処理(アルカリイオン交換)し、厚みが80〜100μmの圧縮応力層を形成し、これを「比較例c」とした。
また、Eガラスそのものを「比較例d」、Fガラスそのものを「比較例e」とした。
【0060】
上記の各ガラス材について、JISC8917に準じた衝撃試験を実施した。用いた鋼球の質量は450g、鋼球の落下高さは、25cm、50cm、75cm、100cm、125cmとし、高さ毎に各3枚の試験片を用いて行った鋼球落下試験の結果を表1に示す。表1中の○印、△印、×印はそれぞれ、破損無し、一部破損、全部破損を意味する。
【表1】
【0061】
表1の結果から、本発明にかかる希土類元素含有ガラス材に高濃度層の形成による高強度化を施したもの(実施例c、d、e)は、75cmの高さからの鋼球落下に対しては全て破損なし、100cmの高さからの鋼球落下に対して実施例cでは1枚のみが破損した。比較例c、d、eでは75cmの高さからの鋼球落下に対しては比較例cで2枚破損、それ以上では全て破損した。このことからも、本発明にかかる希土類元素の高濃度層形成ガラス材は格段の強度を有していることが分る。
【0062】
このように、本発明によるガラス材は、薄くしても必要な強度を有し、厚いままでは安全性、信頼性が格段に向上する。そのため、FPDのパネルガラス、太陽電池のパネルガラスなどの電子デバイスに限らず、建築物、車両、航空機、宇宙船等の広い分野に適用できる。
【0063】
本発明によるガラス材の耐衝撃破壊性を積層ガラス(ガラス積層体)についても試験した結果を説明する。試験片の組成は、上記した一枚ガラス材のCガラス(67SiO2―4Li2O―8Na2O―1K2O―15Al2O3―2ZnO―3Gd2O3(wt%))と同じとし、原料は前記の一枚ガラスの衝撃破壊試験のものと同じである。但し、溶解量は約17kg、溶解条件は1500℃で6時間(内、3.5時間は攪拌で、ガラスの均質化)。これを鋳型に流し込み、約150mm×150mm×220mmのガラスブロックを作製する。このガラスブロックを550℃で3時間、冷却速度1℃/分で徐冷して歪取りした。
【0064】
上記のガラスブロックから次のような3種類の試験片を切り出し、光学研磨して作製した。すなわち、
単層用試験片:150mm×150mm×3.0mm
二層用試験片:150mm×150mm×1.5mm
三層用試験片:150mm×150mm×1.0mm
強化処理は、前記Cガラスと同じで、ガラス材の表面部に希土類元素(Gd)の高濃度層を形成した。
【0065】
化学強化層の形成後、二層の積層ガラスは、二層用試験片の間に合成樹脂EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)を挟んで圧着し、これを「実施例v」とし、三層の積層ガラスは、三層用試験片の相互間に合成樹脂EVAをそれぞれ挟んで圧着して、これを「実施例x」とした。圧着層の厚みは約0.3mmである。なお、単層用試験片は、積層ガラスとの比較用であり、二層の積層ガラスのガラス厚みである(1.5mm+1.5mm=3.0mm)、三層の積層ガラスのガラス厚みである(1.0mm+1.0mm+1.0mm=3.0mm)と樹脂を除くガラスの総和厚みを同じとしたもので、これを「実施例u」とした。
【0066】
表2に二層および三層のガラス積層体の鋼球落下による衝撃破壊紙面の結果を同じ厚みの単層用試験片の試験結果と共に示す。なお、使用した鋼球の質量は1.2kgである。この試験も、JISC8917に準じた試験であり、前記した配置で質量1.2kgの鋼球をガラス材の上方25cm、50cm、75cm、100cm、125cm、150cmの高さから落下させて行った。試験片はそれぞれの高さ試験で各3枚を使用した。表2中、○は破損なし、△は一部破損、×は全部破損を意味する。
【表2】
【0067】
表2の結果から、本発明にかかる希土類元素含有ガラス材(実施例v、x)を用いて形成した積層ガラスは、同じ厚さの単層ガラス(実施例u)に比べて強化されており、かつ破損しても破片の飛散はないことが分る。
【0068】
以上説明した本発明をまとめると、次のようになる。すなわち、本発明は、希土類元素を含有するガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成する。この希土類元素を含む高密度層により、曲げ応力の印加時にマイクロクラックから大きなクラックへの進展が抑制される。この高密度層の形成は、化学強化処理のようなガラス材表面部のアルカリイオンの交換によるものではないので、強化前のガラス材にアルカリを含ませる必要はない。
【0069】
希土類元素としては、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが使用でき、好ましくは、Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Lu、より好ましくはGdである。Eu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luを含有させたガラス材は可視光域の光透過性が高く、特に、Gdを用いたものでは、強度向上効果と可視光域の良好な光透過性の両立が著しい。
【0070】
本発明によるガラス材は、フラット・パネル・ディスプレイ(FPD)等の表示装置用の構造材や磁気ディスクの基板等の電子機器用ガラス構造部材に限るものではなく、薄型化、軽量化とともに高強度化が要求される建物物の構造材や窓ガラス(2層ガラス、合わせガラス等も含む)、太陽電池用の基板、車両、航空機、宇宙船などの構造材やその窓ガラスなどの広い用途にも適用できる。
【0071】
次に、本発明のガラス材の有力な応用分野の一つであるフラット・パネル・ディスプレイの一例を説明する。
【0072】
マトリクス状に配置した電子源を有する自発光型FPDの一つとして、微少で集積可能な冷陰極を利用する電界放出型画像表示装置(FED:Field Emission Display)や電子放出型画像表示装置が知られている。これらの冷陰極には、スピント型電子源、表面伝導型電子源、カーボンナノチューブ型電子源、金属―絶縁体―金属を積層したMIM(Metal−Insulator−Metal)型、金属―絶縁体―半導体を積層したMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)型、あるいは金属―絶縁体―半導体−金属型等の薄膜型電子源などがある。
【0073】
自発光型FPDは、上記のような電子源を備えた背面パネルと、蛍光体層とこの蛍光体層に電子源から放出される電子を射突させるための加速電圧を形成する陽極を備えた前面パネルと、両パネルの対向する内部空間を所定の真空状態に封止する封止枠とで構成される表示パネルを有する。背面パネルは背面基板上に形成された上記の電子源を有し、前面パネルは前面基板上に形成された蛍光体層と電子源から放出された電子を蛍光体層に射突させる電界を形成するための加速電圧を形成する陽極を有する。この表示パネルに駆動回路を組み合わせて構成される。通常、背面パネル、前面パネル、封止枠はガラス材で構成される。これらのガラス材に前記した本発明によるガラス材を用いることで、薄型・軽量、かつ破壊に強いFPDを実現することができる。
【0074】
個々の電子源は対応する蛍光体層と対になって単位画素を構成する。通常は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の単位画素で一つの画素(カラー画素、ピクセル)が構成される。なお、カラー画素の場合、単位画素は副画素(サブピクセル)とも呼ばれる。
【0075】
また、背面パネルと前面パネルの間隔は隔壁あるいはスペーサと称する部材で所定間隔に保持される。この隔壁はガラスやセラミックスなどの絶縁材あるいは幾分かの導電性を有する部材で形成した板状体からなり、通常、複数の画素ごとに画素の動作を妨げない位置に設置される。この隔壁にも本発明によるガラス材を用いることで、薄型・軽量化に加えて破壊に強いFPDを実現することができる。
【0076】
図13は、本発明にかかるガラス材を用いて構成した表面装置の構成例を説明する模式平面図である。背面パネルを構成する背面基板SUB1は本発明によるガラス材からなり、その内面上には画像信号配線d(d1,d2,・・・dn)が形成され、その上に走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)が交差して形成されている。画像信号配線dは画像信号駆動回路DDRで駆動される。走査信号配線sは走査信号駆動回路SDRで駆動される。図13では、走査信号配線s1の上に隔壁SPCを有し、この隔壁SPCの垂直走査VSの方向下流側に電子源ELSが設けられ、接続電極ELCで走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)から給電される。隔壁SPCも本発明によるガラス材で形成される。
【0077】
前面パネルを構成する前面基板SUB2は本発明によるガラス材からなり、その内面上には陽極電極ADが設けられており、この陽極電極ADの上に蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が形成されている。この構成では、蛍光体PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が遮光層(ブラックマトリクス)BMで区画されている。なお、陽極電極ADはベタ電極として示してあるが、走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)と交差して画素列ごとに分割されたストライプ状電極とすることもできる。電子源ELSから放射される電子を加速して対応する副画素を構成する蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))に射突させる。これにより、該蛍光体層PHが所定の色光で発光し、他の副画素の蛍光体の発光色と混合されて所定の色のカラー画素を構成する。
【0078】
図14は、図13で説明したFEDの全体の構造を示す斜視図、図15はその断面を示す図である。なお、図15は隔壁SPCに平行に切断した断面であり、隔壁SPCは図示していない。背面パネルPNL1を構成する背面基板SUB1の内面には、画像信号配線dと、走査信号配線sのマトリクスの交差部近傍に電子源を有する。画像信号配線dは封止枠MFLの外側に引き出されて引出端子dtを形成している。同様に、走査信号配線sも封止枠MFLの外側に引き出されて引出端子stを形成している。一方、前面パネルPNL2を構成する前面基板SUB2の内面に陽極ADと蛍光体層PHが成膜されている。陽極ADはアルミニウム層を用いている。
【0079】
この前面パネルPNL2と背面パネルPNL1とを対向させ、対向間を所定の間隔を保つために幅約80μm,高さ約2.5mmのリブ状の隔壁SPCを走査信号配線の上、かつ走査信号配線の延在方向に沿ってフリットガラスなどを用いて固定する。この際、両パネルの周辺部にはガラスからなる封止枠MFLを設置し、両パネルに挟まれた内部空間が外部と隔絶された構造となるように図示しないフリットガラスを用いて固着する。
【0080】
フリットガラスを用いた隔壁の固定の際には、400〜450℃での加熱を行なう。その後、装置内部を約1μPaまで排気管303を通して排気した後に封じ切る。動作の際には、前面パネルPNL2上の陽極ADに約5〜10kVの電圧を印加する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のガラスの高強度化処理の手段を説明する図である。
【図2】本発明によるガラスの高強度化メカニズムを説明する模式図である。
【図3】希土類元素を含まない原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図4】試験片を用いた曲げ強度試験の配置を説明する図である。
【図5】コーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図6】低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図7】低濃度の希土類元素含有の原ガラス材にコーティングした希土類酸化物膜の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図8】低濃度の希土類元素を含んだ原ガラス材の表面部に希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成した高強度ガラス材の要部模式断面図である。
【図9】希土類元素含有の原ガラス材にコーティングし、希土類元素の比較的厚い高濃度層を形成したガラス材の希土類元素の種類に対する平均曲げ強度の試験結果を説明する図である。
【図10】磁場印加による希土類元素の高濃度層を表面部に形成した試験片と磁場印加なしで高濃度層を表面部に形成した試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。
【図11】希土類元素(Gd2O3)の含有量に対する磁場印加有りの試験片と磁場印加無しの試験片の平均曲げ強度試験の結果を示す図である。
【図12】熱処理温度に対する平均曲げ強度の関係を説明する図である。
【図13】本発明にかかるガラス材を用いて構成した表示装置の構成例を説明する模式平面図である。
【図14】図13で説明したFEDの全体の構造を示す斜視図である。
【図15】図14の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
HIG・・・高強度ガラス素材、RRL・・・高濃度、MC・・・マイクロクラック、UIG・・・超強度ガラス、NR・・・希土類含有無しガラス材、RP・・・希土類含有有りガラス材、PNL1・・・背面パネル、PNL2・・・前面パネル、SUB1・・・背面基板、SUB2・・・前面基板、s(s1,s2,・・・sm)・・・走査信号配線、d(d1,d2,d3,・・・)・・・画像信号配線、ELS・・・電子源、ELC・・・接続電極、AD・・・陽極、BM・・・ブラックマトリクス、PH(PH(R), PH(G), PH(B))・・・蛍光体層、SDR・・・走査信号線駆動回路、DDR・・・画像信号線駆動回路、SPC・・・隔壁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類元素を含有するガラス材であって、
前記ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に前記希土類元素の高濃度含有層を有していることを特徴とするガラス材。
【請求項2】
前記高濃度含有層の前記希土類元素の濃度が、前記ガラス材の最表面から深さ方向で前記表面部より深い内央部の濃度より高いことを特徴とする請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
前記希土類元素が、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項4】
前記希土類元素がEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項5】
前記希土類元素がGdであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項6】
前記ガラス全体に対し、前記希土類元素がLn2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス材。
【請求項7】
前記ガラス全体に対し、前記希土類元素がLn2O3の酸化物換算で2〜7重量%を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス材。
【請求項8】
希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する皮膜形成工程と、
表面に前記希土類金属皮膜を形成した前記原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に拡散すると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする加熱拡散工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする耐破砕性を向上したガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記皮膜形成工程では、前記原ガラス材を浸漬した前記希土類金属溶液に、減圧状態と常圧状態を繰り返すことを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項10】
前記原ガラス材には希土類元素を含有しないことを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項11】
前記原ガラス材に希土類元素を含有することを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項12】
前記希土類元素は、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【請求項13】
前記希土類元素がEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【請求項14】
前記希土類元素がGdであることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【請求項1】
少なくとも希土類元素を含有するガラス材であって、
前記ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に前記希土類元素の高濃度含有層を有していることを特徴とするガラス材。
【請求項2】
前記高濃度含有層の前記希土類元素の濃度が、前記ガラス材の最表面から深さ方向で前記表面部より深い内央部の濃度より高いことを特徴とする請求項1に記載のガラス材。
【請求項3】
前記希土類元素が、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項4】
前記希土類元素がEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項5】
前記希土類元素がGdであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス材。
【請求項6】
前記ガラス全体に対し、前記希土類元素がLn2O3(Ln:希土類元素)の酸化物換算で1〜10重量%を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス材。
【請求項7】
前記ガラス全体に対し、前記希土類元素がLn2O3の酸化物換算で2〜7重量%を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス材。
【請求項8】
希土類金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した希土類金属溶液に原ガラス材を浸漬して当該原ガラス材の表面に前記希土類金属溶液を塗布して希土類金属皮膜を形成する皮膜形成工程と、
表面に前記希土類金属皮膜を形成した前記原ガラス材を加熱して希土類元素を当該原ガラス材の最表面から深さ方向で浅い表面近傍内部に拡散すると共に当該表面に希土類酸化物膜をコーティングする加熱拡散工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする耐破砕性を向上したガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記皮膜形成工程では、前記原ガラス材を浸漬した前記希土類金属溶液に、減圧状態と常圧状態を繰り返すことを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項10】
前記原ガラス材には希土類元素を含有しないことを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項11】
前記原ガラス材に希土類元素を含有することを特徴とする請求項8に記載のガラス材の製造方法。
【請求項12】
前記希土類元素は、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【請求項13】
前記希土類元素がEu,Gd,Dy,Tm,Yb,Luの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【請求項14】
前記希土類元素がGdであることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載のガラス材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−83043(P2006−83043A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272228(P2004−272228)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]