説明

ガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉

【課題】未焼結部を無くすとともに、種棒の過度の加熱を防止して引き伸びを無くすことができるガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉を提供する。
【解決手段】ガラス母材を製造する焼結炉10によれば、位置調整可能な下部治具22を有する遮熱治具20を直接出発種棒3に固定して、下部治具22をガラス微粒子堆積体1上部のテーパ部2近傍に配置した。これにより、ヒータ12からの熱が出発種棒3へ伝わらないように遮熱できるので、出発種棒3の引き伸びを確実に防止することができる。また、ガラス微粒子堆積体1の上部をヒータ12に近づけることができるので、ガラス微粒子堆積体1の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。また、下部治具22は、ガラス微粒子堆積体1の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体1に接触することなく、ガラス微粒子堆積体1毎に遮熱板の位置調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス微粒子堆積体を加熱炉内で加熱焼結させるガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス母材を製造する焼結炉には、例えば、特許文献1に記載されているようなものが知られている。図8に示すように、焼結炉である焼結装置100は、蓋109を有する炉心管106と、炉心管106の周囲に配置され熱源104を有する加熱炉105とを備えている。焼結装置100は、種棒である出発棒112にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体である多孔質ガラス母材111を炉心管106内に挿入して、多孔質ガラス母材111を回転させながら降下させて加熱炉105により焼結させる。焼結装置100は、炉心管106の下端にHeガス等を供給する不活性ガス導入管102を備え、炉心管106の上方に排気装置108を備えている。
【0003】
上記焼結装置100では、多孔質ガラス母材111の上方に上部熱遮蔽具107を設置して、多孔質ガラス母材111の焼結完了部位116である下方に下部熱遮蔽具103が設置されている。上部熱遮蔽具107は多孔質ガラス母材111の上方のコーン体113に載っており、下部熱遮蔽具103は炉心管106に固定されている。上部熱遮蔽具107及び下部熱遮蔽具103は、石英ガラスからなり、多孔質ガラス母材111の上下に設置されることで、コーン体113からの輻射熱の逃散を制御して炉心管106の温度ムラや自然対流を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−219519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質ガラス母材111を焼結させる工程では、熱がうまく伝わらなかったり散逸することにより多孔質ガラス母材111の上部が未焼結となったり、逆に必要以上に熱せられることにより出発棒112が引き伸ばされることがある。多孔質ガラス母材111の上端部が未焼結であると、焼結部との収縮の違いにより割れが入り、多孔質ガラス母材111が落下してしまうことがある。また、後工程の線引き工程で未焼結部分が焼結され、多孔質ガラス母材111が線引き炉内で曲がったりする。また、未焼結部のスス粉が落下して焼結部に付着することで線引き時に断線することもある。その他、火炎研磨時にも、未焼結部と焼結部の境界で、熱膨張率の差により割れて落下するなどの問題が生じる。
【0006】
また、必要以上に多孔質ガラス母材111の上部が熱せられると、出発棒112に過度に熱が加わり、出発棒112が引き伸ばされる。出発棒112に引き伸びが生じると、多孔質ガラス母材111の曲がりや落下などの問題が生じる。なお、多孔質ガラス母材111は、大型化の傾向にあり、重量が重くなって出発棒112の引き伸びが発生し易くなっている。
【0007】
特許文献1に記載の焼結装置100では、上部熱遮蔽具107によりコーン体113からの輻射熱の逃散を制御しているが、多孔質ガラス母材111を炉心管106内へ挿着する前に、少なくとも上部熱遮蔽具107を多孔質ガラス母材111の上方から貫入してコーン体113に載せる必要がある。この取付け作業時に、熱遮蔽具107とスス体が接触するため、多孔質ガラス母材111を傷付けるなどの不具合が生じる可能性がある。
【0008】
また、上記焼結装置100では、多孔質ガラス母材111によって熱遮蔽具107の設置位置が固定されてしまい、ヒートゾーンに対する熱遮蔽具103,107の位置調整が母材毎にはできないので、焼結時の出発棒112の引き伸びや多孔質ガラス母材111の上端部の未焼結の防止を完全に解決するのは難しい。
【0009】
本発明の目的は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、未焼結部を無くすとともに、種棒の過度の加熱を防止して引き伸びを無くすことができるガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス母材の製造方法は、出発種棒にガラス微粒子を堆積させ、種棒部、テーパ状ガラス微粒子堆積部、ガラス微粒子定常堆積部からなるガラス微粒子堆積体をヒートゾーンからの熱により加熱焼結させるガラス母材の製造方法であって、前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を配置することにより、前記ヒートゾーン及び前記ガラス母材から前記種棒部へ伝わる熱を遮熱しながら、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することを特徴としている。
【0011】
このように構成されたガラス母材の製造方法によれば、位置調整可能な遮熱治具をガラス微粒子堆積体上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に配置するので、種棒部をヒートゾーンぎりぎりまで近づけても種棒部側へ伝わる熱を遮熱できる。これにより、種棒部の引き伸びを確実に防止できるとともに、ガラス微粒子堆積体の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。また、遮熱治具は、ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体に接触することなく、ガラス微粒子堆積体毎に遮熱治具の位置調整を行うことができる。
【0012】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス母材を製造する焼結炉は、出発種棒にガラス微粒子を堆積させ、種棒部、テーパ状ガラス微粒子堆積部、ガラス微粒子定常堆積部からなるガラス微粒子堆積体を収容する炉心管と、前記ガラス微粒子堆積体を加熱焼結させる加熱炉と、を有し、前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を設けたことを特徴としている。
【0013】
このように構成されたガラス母材を製造する焼結炉によれば、位置調整可能な遮熱治具をガラス微粒子堆積体上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に配置したので、種棒部をヒートゾーンぎりぎりまで近づけても種棒部側へ伝わる熱を遮熱できる。これにより、種棒部の引き伸びを確実に防止することができる。また、ガラス微粒子堆積体の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。また、遮熱治具は、ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体に接触することなく、ガラス微粒子堆積体毎に遮熱治具の位置調整を行うことができる。
【0014】
前記ガラス母材を製造する焼結炉において、前記遮熱治具は、前記炉心管又は前記種棒部に固定されていることが好ましい。
【0015】
前記構成のガラス母材を製造する焼結炉によれば、遮熱治具は、例えば、炉心管の一部である上蓋や種棒部を嵌合させる支持棒、嵌合部、又は種棒部自体に固定され、ガラス微粒子堆積体自体には接触することがないので、ガラス微粒子堆積体を傷付けるなどの不具合を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉によれば、位置調整可能な遮熱治具をガラス微粒子堆積体上部のテーパ上部近傍に配置するので、遮熱治具をテーパ状ガラス微粒子堆積部と種棒部との間の最適な位置に調整することができる。したがって、種棒部をヒートゾーンぎりぎりまで近づけても種棒部側へ伝わる熱を遮熱治具で確実に遮熱することができ、種棒部の引き伸びを確実に防止できるとともに、ガラス微粒子堆積体の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。
【0017】
また、遮熱治具は、ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体に接触することなく、ガラス微粒子堆積体毎に遮熱治具の位置調整を行うことができるとともに、ガラス微粒子堆積体を傷付けるなどの不具合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るガラス母材を製造する焼結炉の第1実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の遮熱治具周辺の要部拡大図である。
【図3】図2の下部治具の嵌合前の状態を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図4】図2の下部治具の嵌合後の状態を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】図2の下部治具の変形例を示し、(a)は嵌合前の平面図、(b)は嵌合後の平面図である。
【図6】図2の上部治具であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図7】本発明に係るガラス母材を製造する焼結炉の第2実施形態を示す遮熱治具周辺の要部拡大図である。
【図8】従来のガラス母材の焼結炉を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉の実施形態について、図1〜図7を参照して詳細に説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態であるガラス母材を製造する焼結炉10は、上部を蓋部13により閉塞され、出発種棒3にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体1を収容する炉心管11と、炉心管11の外周側にガラス微粒子堆積体1を加熱焼結させる熱源であるヒータ12とを備えている。
【0021】
ガラス微粒子堆積体1は、円柱状のガラス微粒子定常堆積部4と、ガラス微粒子定常堆積部4の上下端部にテーパ状ガラス微粒子堆積部2,5と、上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部部分でガラス微粒子が堆積されていない種棒部8と、を有し、連結部材14によって炉心管11内に吊り下げられている。炉心管11の下部には、Heガス等の不活性ガスを供給するガス供給部15と、上部にガス排出部16を備えている。
【0022】
図2に示すように、焼結炉10は、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2近傍に、該ガラス微粒子堆積体1の長手方向の位置調整が可能なカーボン製の遮熱治具20を備えている。遮熱治具20は、出発種棒3の所定位置に固定される上部治具21と、遮熱機能を有する円板状の下部治具22と、3本の吊りボルト23と、各吊りボルト23に螺合された調整ナット26A,26Bと、から構成されている。上部治具21を固定する出発種棒3の中間部には、上部治具21を係合する種棒段部7を有している。
【0023】
遮熱治具20の外径D1は、炉心管11の内径をD0とすると、0.3D0<D1<0.98D0の範囲内に収まる外径寸法に設定されている。例えば、内径D0が210mmであると、略外径D1は、63mm〜206mmの範囲内に設定される。遮熱治具20の高さH1は、下部治具22の位置H0が出発種棒3の上端から例えば300mmであると、約200mm程度に設定される。
【0024】
図3の(a)及び(b)に示すように、下部治具22は、切欠部27を有する第1遮熱板24と、第1遮熱板24に嵌合する第2遮熱板25と、から構成されている。第1遮熱板24は、その中央部に種棒部8が貫通する種棒貫通孔28を有し、種棒部8への取り付け時用の切欠部27と、吊りボルト23を挿通する3つのボルト貫通孔29とを有している。切欠部27は、種棒部8への取り付け時に、第2遮熱板25を取り外すことで、この切欠部27から種棒部8を種棒貫通孔28内に配置させるためのものであり、両端縁に嵌合用の第1段差部24Aを有している。
【0025】
第2遮熱板25は、第1遮熱板24の切欠部27の上方から嵌合させることで切欠部27を覆うような、例えば扇形状となっている。切欠部27の切欠形状は、扇形状に限らず、例えば、図5(a)のように、切欠部27が略長方形であっても良い。第2遮熱板25は、第1遮熱板24上の切欠部27の両端部に載るように切欠部27より幅広に形成され、両端縁に第2段差部25Aを有している。この第2段差部25Aが第1遮熱板24の第1段差部24Aに嵌め合わされることで、第2遮熱板25が第1遮熱板24に固定される。
【0026】
なお、第1段差部24Aの一部に凹部24Bを作成し、第2段差部25Aと嵌め合わせる際、この凹部24Bに相当する第2段差部25Aの位置に凸部25Bを作成することにより、第2遮熱板25が滑り落ちることのないように固定することができる。この凹凸部24B,25Bの位置は、図3(a)に示すような切欠部27の端部に作成しても良いし、図5(a)に示すような切欠部27の中央部付近にあっても良い。中央部付近であれば、前後方向にも固定できるので、より強固に固定することができる。
【0027】
切欠部27が扇形状の場合、第1遮熱板24の切欠部27の切欠角度θ1は、例えば130°程度であり、第2遮熱板25の中心角度θ2は、切欠角度θ1より広角(θ2>θ1)の例えば、135°〜140°の範囲に設定される。
【0028】
図4の(a)及び(b)に示すように、第1遮熱板24上に第2遮熱板25を嵌合させた状態では、円形の種棒貫通孔28が形成され、切欠部27が完全に覆われる。下部治具22の外径D2は、遮熱治具20の外径D1に等しく、種棒貫通孔28の内径D3との比D2/D3は、1.25<D2/D3<5となる範囲内に設定され、好ましくは3≦D2/D3≦4が最適である。例えば、外径D2が200mmであると、種棒貫通孔28の内径D3は、約50mm〜66mmの範囲内に設定される。
【0029】
図6(a)に示すように、上部治具21は、3方に延設され、各々先端部近傍にボルト貫通孔33を有する3本の連結片31と、出発種棒3に直接固定するための取付孔32を中心に有している。各連結片31の両側には、熱の逃げ空間が形成されており、種棒部8付近に熱がこもらず、炉心管11の上方にヒータ12からの熱を逃がすようになっている。図6(b)に示すように、取付孔32は、上側が小径で下側が大径である取付孔段部34を有しており、この取付孔段部34が上記出発種棒3の種棒段部7に係合することで、遮熱治具20が出発種棒3の所定位置に固定される。
【0030】
次に、遮熱治具20のガラス微粒子堆積体1への取り付け手順を説明する。
【0031】
(遮熱治具の組立)
図2〜図6に示すように、先ず、下部治具22の第1遮熱板24の下方側から3本の吊りボルト23を貫入させる。次に、第1調整ナット26Aを各吊りボルト23に螺合させ、上部治具21のボルト貫通孔33に吊りボルト23を貫入させる。さらにその後、第2調整ナット26Bを各吊りボルト23に螺合させる。調整ナット26A,26Bの螺合位置は、遮熱治具20を出発種棒3に係合させたときに、下端の第1遮熱板24がガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部近傍に配置されるように調整される。
【0032】
(遮熱治具の取付)
次に、組み立てた遮熱治具20を持ち上げ、第2遮熱板25を外した状態で上部治具21の取付孔32に下方側から種棒部8の上端部6を挿入させる。ガラス微粒子堆積体1は重いため、これを連結部材14にセットする際、バランサーなどで種棒部8を保持しながらセットする必要があるが、このとき、第1遮熱板24の切欠部27を種棒部8側に向けて、第1遮熱板24をガラス微粒子堆積体1に接触させないように種棒部8側に移動させる。これにより、種棒部8の下方を、バランサーなどでガラス微粒子堆積体1を保持した状態でも、第1遮熱板24の切欠部27から種棒貫通孔28内に配置させることができる。その後、遮熱治具20をガラス微粒子堆積体1のガラス微粒子定常堆積部4側に下降させることで、上部治具21が出発種棒3の種棒段部7に係合する。
【0033】
このとき、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2と種棒部8との境界部分に、第1遮熱板24が水平に配置されるように3組の調整ナット26A,26Bを調整して位置決めする。最後に、第1遮熱板24上に第2遮熱板25を嵌合させることで、遮熱治具20の取付けが完了する。
【0034】
(ガラス微粒子堆積体の取付)
この後、遮熱治具20を取り付けたガラス微粒子堆積体1を連結部材14に連結し、焼結炉10内に吊り下げる。
【0035】
次に、ガラス母材の製造方法として、ガラス微粒子堆積体の焼結工程について説明する。
【0036】
(ガラス微粒子堆積体の焼結工程)
ヒータ12により炉心管11内を約1600℃に加熱することで、ガラス微粒子堆積体1を焼結して透明化する。このとき、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2と種棒部8との境界部分に、遮熱治具20の下部治具22が配置される。これにより、ヒータ12及び透明化されたガラス母材などから種棒部8へ伝わる熱を遮熱しながら、ガラス微粒子堆積体1を焼結する。
【0037】
これにより、ヒータ12の熱による出発種棒3の引き伸びを確実に防止することができるとともに、ガラス微粒子堆積体1上部の未焼結部の領域を小さくすることができる。また、遮熱治具20の下部治具22は、ガラス微粒子堆積体1の長手方向に調整ナット26によって位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体1に接触することなく、各々ガラス微粒子堆積体1毎に下部治具22の位置調整ができる。
【0038】
上述したように本実施形態のガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉によれば、位置調整可能な下部治具22を有する遮熱治具20を直接種棒部8に固定して、下部治具22をガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部近傍に配置した。これにより、下部治具22の上方側へ、ヒータ12などからの熱が種棒部8へ伝わらないように遮熱できるので、種棒部8の引き伸びを確実に防止することができる。また、下部治具22の下方側では、テーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部をヒートゾーンに近づけることができるので、ガラス微粒子堆積体1の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。
【0039】
また、下部治具22は、ガラス微粒子堆積体1の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体1に接触させることなく、ガラス微粒子堆積体1毎に最適な位置へ、遮熱板の位置調整を行うことができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態であるガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉を図7に基づいて説明する。なお、上記第1実施形態と同一構成の部材には同一符号を付すことで、詳細な説明は省略する。また、遮熱治具の組立と焼結工程は第1実施形態と同じなので説明は省略する。
【0041】
(遮熱治具の取付)
図7に示すように、第2実施形態の焼結炉40は、遮熱治具50が出発種棒3を接続する連結部材41に固定される点が第1実施形態と異なっている。遮熱治具50は、連結部材41が炉心管11内に貫入される前に、予め連結部材41に固定される。上部治具51は、取付孔52が段部を有さないストレート孔である以外は第1実施形態と同じ構成である。連結部材41は、遮熱治具50を係合する係止部42を有している。上部治具51の取付孔52が連結部材41の上方から係止部42に係合される。
【0042】
(ガラス微粒子堆積体の取付)
本実施形態の焼結炉40は、予め遮熱治具50が連結部材41に固定されている状態で、ガラス微粒子堆積体1を炉心管11内に吊り下げる。即ち、下部治具22の第2遮熱板25は外れており、連結部材41に出発種棒3と一体のガラス微粒子堆積体1が連結され、炉心管11内に吊り下げられる。
【0043】
このとき、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2と種棒部8との境界部分は、予め炉心管11内に係合されている第1遮熱板24の切欠部27付近に配置される。第1遮熱板24がガラス微粒子堆積体1に接触せず、且つ境界部分に正確に配置されるように、3組の調整ナット26A,26Bによって位置調整を行う。最後に、第1遮熱板24上に第2遮熱板25を嵌合させて、焼結前のガラス微粒子堆積体1の取付けが完了する。
【0044】
ガラス微粒子堆積体1の取り外し時は、第2遮熱板25を取り外すことができるので、遮熱治具50を取り付けたままの状態で、ガラス微粒子堆積体1を連結部材41から取り外すことができる。
【0045】
遮熱治具50の寸法は、焼結炉40及びガラス微粒子堆積体1によって決まる。例えば、下部治具22の位置H0が出発種棒3の上端から300mmであると、遮熱治具50の高さH1は、約400mm程度となる。それ以外の寸法は、第1実施形態と同じなので説明は省略する。
【0046】
上述したように第2実施形態のガラス母材の製造方法およびガラス母材を製造する焼結炉によれば、位置調整可能な下部治具22を有する遮熱治具50を連結部材41に固定して、下部治具22をガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部近傍に配置した。これにより、下部治具22の上方側へ、ヒータ12などからの熱が種棒部8へ伝わらないように遮熱できるので、種棒部8の引き伸びを確実に防止することができる。また、下部治具22の下方側では、ガラス微粒子堆積体1の上部をヒートゾーンに近づけることができるので、ガラス微粒子堆積体1の上端部の未焼結部の領域を小さくすることができる。
【0047】
また、下部治具22は、ガラス微粒子堆積体1の長手方向に位置調整できるので、ガラス微粒子堆積体1に接触させることなく、ガラス微粒子堆積体1毎に最適な位置へ、下部治具22の位置調整を行うことができる。
【0048】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0049】
例えば、上記実施形態では焼結工程について説明したが、線引工程での線引炉にも適用することができる。また、遮熱治具の取付位置は、出発種棒や連結部材以外に、焼結炉の炉心管や蓋部であっても良い。
【実施例】
【0050】
次に、本発明に係るガラス母材の製造方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0051】
使用焼結炉の内径D0:210mm
使用多孔質ガラス母材:外径180mmのガラス微粒子堆積体
焼結温度:1600℃
(実施例)
使用遮熱治具:出発種棒に直接固定するカーボン製タイプ(第1実施形態を参照)
遮熱治具の外径D1:200mm
遮熱治具の高さH1:220mm
下部治具の位置H0:出発種棒の上端から320mm
下部治具の外径D2:200mm、内径D3:55mm
(比較例)
使用遮熱治具:なし
【0052】
遮熱治具を取り付けた状態で、1ヶ月間ガラス微粒子堆積体を焼結炉内で焼結した実施例と、遮熱治具を取り付けない状態で、1ヶ月間ガラス微粒子堆積体を焼結炉内で焼結した比較例とで、焼結、線引き及び火研時に不良事態(母材の落下、母材上端の偏芯、ファイバ断線、母材クラック)が発生する頻度を集計した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、実施例では、母材の落下及び母材クラックが全く発生しなかった。また、母材上端の偏芯及びファイバ断線も低く抑えることができた。これは、遮熱治具の下部治具より下方側では、下部治具を最適な位置に調整できたことにより、ガラス微粒子堆積体の上端部が確実に焼結され、また、下部治具より上方側へは、遮熱治具により遮熱されたため、種棒部の引き伸びが抑えられたことによると推察できる。なお、上記第2実施形態に記載の遮熱治具を使用した場合も、ほぼこれと同じ結果が得られた。
【0055】
これに対して比較例では、母材の落下及び母材クラックが発生しており、母材上端の偏芯及びファイバ断線も実施例の発生頻度に比べて10倍以上多く発生していることがわかる。したがって、遮熱治具を取り付けることによる顕著な効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0056】
1…ガラス微粒子堆積体、2…テーパ状ガラス微粒子堆積部、3…出発種棒、8…種棒部、10,40…焼結炉、11…炉心管、12…ヒータ、14,41…連結部材、20,50…遮熱治具、21,51…上部治具、22…下部治具、23…吊りボルト、24…第1遮熱板、25…第2遮熱板、26…調整ナット、27…切欠部、28…種棒貫通孔、31…連結片、32,52…取付孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発種棒にガラス微粒子を堆積させ、種棒部、テーパ状ガラス微粒子堆積部、ガラス微粒子定常堆積部からなるガラス微粒子堆積体をヒートゾーンからの熱により加熱焼結させるガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を配置することにより、前記ヒートゾーン及び前記ガラス母材から前記種棒部へ伝わる熱を遮熱しながら、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項2】
出発種棒にガラス微粒子を堆積させ、種棒部、テーパ状ガラス微粒子堆積部、ガラス微粒子定常堆積部からなるガラス微粒子堆積体を収容する炉心管と、
前記ガラス微粒子堆積体を加熱焼結させる加熱炉と、を有し、
前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を設けたことを特徴とするガラス母材の焼結炉。
【請求項3】
前記遮熱治具は、前記炉心管又は前記種棒部に固定されていることを特徴とする請求項2に記載のガラス母材の焼結炉。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−82127(P2012−82127A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196791(P2011−196791)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】