説明

ガラス母材の製造方法

【課題】クラックの発生を極力抑えつつ、迅速にガラス母材を火炎研磨して製造コストを低減する。
【解決手段】ガラス微粒子堆積体を焼結して透明ガラス化したガラス母材4の長手方向に沿ってバーナ6の火炎を相対移動させながらガラス母材4の外周面を加熱することにより、ガラス母材4の外周面を火炎研磨する。ガラス母材4における未焼結部分を含む脆弱部Aで低速の火炎の相対移動速度Vaとし、脆弱部A以外の正常部Bで高速の火炎の相対移動速度Vbとする。脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaに対する正常部Bでの火炎の相対移動速度Vbの比率の範囲を1.2〜5とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ等の母材となるガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを得るための光ファイバ母材は、出発棒にガラス微粒子(これをススと呼ぶ)を堆積させてガラス微粒子堆積体を形成し、これを脱水及び焼結させて透明ガラス化することにより得られる。
このようにして得られたガラス母材の表面は数μm程度の凹凸が存在したり、塵などが付着していることがあるため、このガラス母材に対して、その長手方向に沿ってバーナによって火炎を吹き付けることにより、外周面を火炎研磨して平滑で清浄な表面を得ることが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−247735号公報
【特許文献2】特開平8−310823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の火炎研磨を行う際、ガラス母材とバーナとの相対速度を大きくすれば、火炎研磨にかかる時間を短縮して製造コストの低減を図ることができるが、この場合、ガラス母材の表面の温度が急上昇することにより、火炎研磨終了後に、端部における未焼結部分を含む脆弱な部分でクラックが発生するおそれがあった。
【0005】
本発明は、クラックの発生を極力抑えつつ、極めて迅速にガラス母材を火炎研磨して製造コストを低減することが可能なガラス母材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明に係るガラス母材の製造方法は、ガラス微粒子堆積体を焼結して透明ガラス化したガラス母材の長手方向に沿って火炎を相対移動させながら前記ガラス母材の外周面を加熱することにより、前記外周面が火炎研磨されたガラス母材を製造する製造方法であって、前記火炎の相対移動速度を、前記ガラス母材における未焼結部分を含む脆弱部より、前記脆弱部以外の正常部を高速とすることを特徴とする。
【0007】
また、前記脆弱部の火炎の相対移動速度に対する前記正常部の火炎の相対移動速度の比率の範囲を1.2〜5とすることが好ましい。
さらに、前記火炎の相対移動速度を、前記脆弱部と前記正常部との間で連続的、もしくは段階的に変化させることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス母材の製造方法によれば、火炎研磨によるクラックの発生を極力抑えつつ、迅速にガラス母材を火炎研磨して製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るガラス母材の製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明のガラス母材の製造方法が適用可能な製造装置の概略構成図である。
図1に示す製造装置11は、鉛直に立設された支柱1を備えており、この支柱1の上端近傍には、側方へ延在する支持フレーム2が設けられている。この支持フレーム2は、昇降機構(図示省略)によって支柱1に沿って昇降可能とされている。
【0010】
この支持フレーム2には、把持具3が設けられており、この把持具3は、ガラス母材4の出発ロッド5を把持し、ガラス母材4を吊り下げるとともに、この吊り下げたガラス母材4をその中心軸回りに回転させる。
支柱1には、その中間部に、バーナ6が設けられており、このバーナ6は、把持具3によって吊り下げられたガラス母材4へ向けて配置されている。
【0011】
このバーナ6は、酸素(O)及び水素(H)が供給されて、酸水素火炎を発生させるものであり、このバーナ6によって発生した酸水素火炎によりガラス母材4が加熱される。
そして、上記構造の製造装置11は、制御装置(図示省略)によって昇降機構、把持具3及びバーナ6が制御される。
なお、酸水素火炎を発生させるバーナ6以外の熱源(例えばプラズマバーナ等)を使用することもできる。
【0012】
次に、上記製造装置11によって、ガラス母材4を火炎研磨する方法について説明する。
VAD法あるいはOVD法などにより形成したガラス微粒子堆積体を、加熱炉で焼結して透明ガラス化した後、そのガラス母材4の出発ロッド5を把持具3に把持させて吊り下げる。
このとき、支持フレーム2を上方に配置することにより、バーナ6がガラス母材4の下方側に配置された状態とする。
【0013】
この状態で、バーナ6へ酸素及び水素を供給して酸水素火炎を生じさせるとともに、把持具3によってガラス母材4を軸回りに回転させながら、支持フレーム2を下降させる。
これにより、ガラス母材4の外周面には、長手方向に沿ってバーナ6の酸水素火炎が当てられて、ガラス母材4の外周面が酸水素火炎によって火炎研磨されて平滑かつ清浄な表面とされる。
【0014】
ここで、上記の火炎研磨を行う際、ガラス母材とバーナの火炎との相対移動速度を速くすれば、火炎研磨にかかる時間を短縮して製造コストの低減を図ることができる。
ところが、ガラス母材4は、そのテーパ形状となった端部では、焼結工程中、残留したガスにより焼結が不十分となる脆弱部分が存在する場合がある。
したがって、前述のように、火炎の相対移動速度を速くすると、ガラス母材4の表面における温度が急上昇することにより、火炎研磨終了後に、端部における未焼結部分を含む脆弱部でクラックが発生するおそれがある。
【0015】
このため、制御装置は、火炎研磨後におけるクラックの発生を抑えつつ火炎研磨時間を短縮すべく、支持フレーム2の下降速度を制御することにより、ガラス母材4に対する火炎の相対移動速度を途中で変更する。
つまり、図2に示すように、未焼結部分を含むガラス母材4の端部の脆弱部Aにおける火炎の相対移動速度Vaを比較的に低速とし、脆弱部A以外の正常部Bにおける火炎の相対移動速度Vbを比較的に高速とする。すなわち、脆弱部Aの火炎の相対移動速度Vaに対して、正常部Bの火炎の相対移動速度Vbを高速とする。
【0016】
なお、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaは、火炎研磨後で未焼結部分がクラックを生じることがない速度以下の速度であり、また、正常部Bでの火炎の相対移動速度Vbは、火炎研磨が十分に行える最高の速度以下の速度である。
そして、このように、正常部Bにおける火炎の相対移動速度を脆弱部Aよりも速くすることにより、火炎研磨後におけるクラックの発生を抑えつつ、火炎研磨に要する時間を大幅に短縮させることができる。これにより、ガスの消費量の低減及び生産性の向上を図ることができ、良好な品質を確保しつつガラス母材4の製造における低コスト化を図ることができる。
【0017】
例えば、正常部Bの直径120mmのガラス母材4に対して、バーナ6への酸素の供給量を120L/分、水素の供給量を400L/分として火炎研磨を行う場合は、脆弱部Aにおける火炎の相対移動速度Vaを低速の10mm/分とし、脆弱部A以外の正常部Bにおける火炎の相対移動速度Vbを高速の25mm/分とするのが好ましい。
このようにすると、火炎研磨後におけるクラックの発生率を0.5%以下に抑えつつ、火炎研磨に要する時間を大幅に低減することができる。
【0018】
これに対して、バーナ6へのガスの供給量を上記と同様にし、10mm/分である低速の火炎の相対移動速度Vaで直径120mmのガラス母材4の全長にわたって火炎研磨した場合、火炎研磨後におけるクラックの発生率は0.5%以下に抑えることができるものの、火炎研磨に長時間を要してしまい、ガスの消費量が嵩むとともに、良好な生産性が望めない。
また、バーナ6へのガスの供給量を上記と同様にし、25mm/分である高速の火炎の相対移動速度Vbで直径120mmのガラス母材4の全長にわたって火炎研磨した場合、火炎研磨に要する時間を短縮することができるものの、火炎研磨後におけるクラックの発生率が15.0%と増加してしまい、生産効率が大幅に低下してしまう。
【0019】
図3は、テーパ形状となった端部(脆弱部A)の火炎の相対移動速度Vaに対する、火炎研磨後におけるガラス母材4のクラックの発生頻度を示すものである。
図3に示すように、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaが5mm/分であるとクラックの発生頻度は0.4%であり、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaが10mm/分であるとクラックの発生頻度は0.5%であり、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaが15mm/分であるとクラックの発生頻度は3%である。したがって、脆弱部Aでのクラックの発生頻度が低く抑えるためには、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaを10mm/分以下とすることが好ましい。但し、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaを下げすぎると、加熱しすぎて火炎研磨が良好に行われなくなり、また、作業時間も増加する。そのため、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaを10mm/分以下であって10mm/分に近い速度とすることが好ましい。
【0020】
そして、正常部Bでの火炎の相対移動速度Vbを脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaより1.2倍以上とすることで、火炎研磨時間を効果的に短縮することができる。また、クラックの発生頻度を考えると、正常部Bでの火炎の相対移動速度Vbは50mm/分以下とする必要があり、脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaを10mm/分程度にすることを考えると、正常部Bでの火炎の相対移動速度Vbを脆弱部Aでの火炎の相対移動速度Vaより5.0倍以下とすることが好ましい。
【0021】
また、火炎の相対移動速度Va,Vbの間では、速度差が大きくなるため、図4に示すように、連続的に緩やかに速度を変化させることが好ましい。もしくは、図5に示すように、段階的に徐々に速度を変化させることが好ましい。このようにすれば、ガラス母材4への加熱の変化による影響を極力抑えることができ、ガラス母材4の品質を高めることができる。
【0022】
なお、上記実施形態では、ガラス母材4の上端付近の未焼結部分を含む部分を脆弱部Aとし、この脆弱部Aの下方側を正常部Bとして火炎の相対移動速度を変更したが、ガラス母材4の下端付近でも、未焼結部分が存在する場合がある。この場合は、ガラス母材4の下端部分の未焼結部分を含む範囲も脆弱部Aとし、この上下端部分での脆弱部Aで低速の火炎の相対移動速度Vaとし、その間の正常部Bで高速の火炎の相対移動速度Vbとするように、ガラス母材4の長手方向において、火炎の相対移動速度を3つの領域でそれぞれ変更することがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガラス母材に火炎研磨処理を施す製造装置を示す概略構成図である。
【図2】ガラス母材の脆弱部及び正常部を示す側面図である。
【図3】火炎の相対移動速度に対する火炎研磨後におけるガラス母材のクラックの発生頻度を示すグラフ図である。
【図4】ガラス母材の長手方向に対する火炎の相対移動速度の変化の例を示すグラフ図である。
【図5】ガラス母材の長手方向に対する火炎の相対移動速度の変化の例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0024】
4 ガラス母材
6 バーナ
11 製造装置
A 脆弱部
B 正常部
Va,Vb 火炎の相対移動速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス微粒子堆積体を焼結して透明ガラス化したガラス母材の長手方向に沿って火炎を相対移動させながら前記ガラス母材の外周面を加熱することにより、前記外周面が火炎研磨されたガラス母材を製造する製造方法であって、
前記火炎の相対移動速度を、前記ガラス母材における未焼結部分を含む脆弱部より、前記脆弱部以外の正常部を高速とすることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記脆弱部の火炎の相対移動速度に対する前記正常部の火炎の相対移動速度の比率の範囲を1.2〜5とすることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記火炎の相対移動速度を、前記脆弱部と前記正常部との間で連続的に変化させることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記火炎の相対移動速度を、前記脆弱部と前記正常部との間で段階的に変化させることを特徴とするガラス母材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−167026(P2009−167026A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4177(P2008−4177)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】