説明

ガラス用撥水性コーティング組成物

【課題】拭き取り作業を必要としないガラス用撥水性コーティング組成物を提供。
【解決手段】表面張力が25mN/m以下の溶剤中に、化学式CF3(CF2)nCHSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、nは2〜9である。)で表されるフルオロアルキルシラン、又は化学式CH3(CH2)mSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、mは2〜17である。)で表されるアルキルシランのいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなる主剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌用、船舶用、航空機用、或いは建築用などの窓ガラスに有用なガラス用撥水性コーティング組成物に関する。詳細には拭き取り作業を必要としないガラス用撥水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス用撥水性コーティング組成物としては、シリコーンオイル、フッ素シラン、或いはアルキルシランを主剤とし、これに酸触媒を配合し、さらに水及びアルコール類を配合してなるものがあった(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1に記載のガラス用撥水性コーティング組成物は、下記構造式に示すシリコンオイルと、酸触媒と、前記シリコンオイルを溶解する溶剤とを含有することを特徴とするものである。
【0004】
【化1】

(ただし、式中Rは水素原子、水酸基、またはアルコキシ基であり、nは0または1以上、mは1以上である)
【0005】
このガラス用撥水性コーティング組成物は、該組成物中のシリコンオイルの反応性が高く、ガラス面上のOH基と反応して撥水性及び耐久性に富む撥水被膜を形成するようになっている。
【0006】
特許文献2に記載のガラス用撥水性コーティング組成物は、フルオロアルキルシランを撥水成分として用いたものであり、前記撥水成分をアルコール水溶液中に酸触媒と共に分散したコーティング液をガラス面上に塗布し、乾燥させることにより、撥水成分として用いたフルオロアルキルシランの一部が酸触媒と水とによって加水分解してシラノール基となり、これがガラス面上のOH基と反応し、優れた耐久性を有する撥水被膜が形成されるようになっている。
【0007】
特許文献3に記載のガラス用撥水性コーティング組成物は、一般式 CH3(CH2)nSi(OCH33又はCH3(CH2)nSi(OC253(但し、式中nは5〜17 )で表されるアルキルシランと、酸触媒と、前記アルキルシランを溶解する溶剤とを含有していることを特徴とするものである。このガラス用撥水性コーティング組成物にあっては、これをガラス面上に塗布したとき、該組成物に含まれるアルキルシランの分子中のアルコキシ基が加水分解して、ガラス面上のOH基と反応し強固に結合することになり、ガラス面上に耐久性に優れた撥水膜を形成するようになっている。また、このアルキルシランは親水性を持っているので、塗布後、ガラス面上に残存する余剰分は水拭きすることで容易に除去することができるというメリットも有している。
【0008】
一方、本出願人は、酸触媒を用いないで撥水被膜をガラス表面に形成できるガラス用撥水性コーティング組成物を提案している(特許文献4参照)。このガラス用撥水性コーティング組成物は、化学式 CF3(CF2)nCH2CH2Si(OR)3(ただし、式中のRはCH3又はC25、nは0〜9である。)で表されるフルオロアルキルシラン、又は化学式 CH3(CH2)mSi(OR)3(ただし、式中のRはCH3又はC25、mは5〜18である。)で表されるアルキルシランからなる主剤と、アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド、又はキレート化合物と、を含むことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−278870号公報
【特許文献2】特開2001−26464号公報
【特許文献3】特開平11−92754号公報
【特許文献4】特開2002−38092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、従来より提案されているガラス用撥水性コーティング組成物をさらに改良し、拭き取り作業を必要としないガラス用撥水性コーティング組成物を提案すべく、鋭意研究の結果、本発明を完成させるに至ったのである。
【0011】
すなわち本発明は、拭き取り作業を必要としないガラス用撥水性コーティング組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、表面張力が25mN/m以下の溶剤中に、化学式 CF3(CF2)nCHSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、nは2〜9である。)で表されるフルオロアルキルシラン、又は化学式CH3(CH2)mSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、mは2〜17である。)で表されるアルキルシランのいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなる主剤が含まれていることを特徴とするガラス用撥水性コーティング組成物をその要旨とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス用撥水性コーティング組成物(以下、単に組成物という)は、表面張力が25mN/m以下の溶剤を採用していることから、該組成物をガラス表面に塗布したとき、予想外の作用効果を奏することが確認された。以下、その作用効果を図1及び図2に従って前述の特許文献4に示す組成物と対比しつつ説明したい。
【0014】
本発明の組成物に含まれる主剤は、該組成物をガラス表面に塗布したとき、空気中に含まれる水分との接触により、以下の反応式(1)及び(2)に示す加水分解及び重合反応が進行し、当該組成物はゲル化や沈殿を生じることになる。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
図1の(a)〜(d)に示すように、特許文献4に示す組成物は、これをガラス面上に塗布したとき、該組成物中の溶剤が蒸発する過程で部分的に主剤の上記(2)の反応が進行し、これによりガラス面上で撥水・撥油効果が生じ、主剤を含む溶剤をはじく現象が生じる。このため、ガラス面上には、図1の(b)に示すように水滴状に盛り上がった部分が造られることになる。
【0018】
水滴状に盛り上がった部分は、溶剤の蒸発に伴ってその形状を残して硬化し、ガラス面上には、主剤の(2)の反応が進行して単層で硬化した平坦な部分と水滴状に盛り上がって硬化した余剰部分とで凹凸形状が造り出される。
【0019】
ガラス面上に造り出される組成物由来の凹凸形状は、光の乱反射の原因となるため、図1(c)に示すように、組成物が硬化する前に水滴状に盛り上がった部分を削り取る、所謂拭き取りという作業が必要となる。拭き取り作業を行った後は、図1の(d)に示すようにガラス面上には、平滑な撥水被膜が形成されるのである。
【0020】
これに対して、本発明の組成物は、表面張力が25mN/m以下の溶剤を採用しているため、ガラス面上に塗布された組成物の表面張力は低く、該組成物中の溶剤の蒸発が進んでも、ガラス面上の組成物は、図2の(b)に示すように、平坦な形状が保持されるようになっている。この結果、平坦な形状が保持されたまま、該組成物中の主剤の上記(2)の反応が進行し、図2の(c)に示すようにガラス面上には、拭き取り作業を行っていないにも拘わらず、平滑な撥水被膜が形成されるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の組成物を用いてガラス面上に撥水被膜を形成する過程を示した模式図。
【図2】本発明の組成物を用いてガラス面上に撥水被膜を形成する過程を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の組成物をさらに詳しく説明する。本発明の組成物のガラス面上に撥水被膜を形成する主剤には、化学式 CF3(CF2)nCHSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、nは2〜9である。)で表されるフルオロアルキルシラン、又は化学式CH3(CH2)mSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、mは2〜17である。)で表されるアルキルシランのいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなるものを用いることができる。
【0023】
フルオロアルキルシランとしては、例えばCF3(CF2)7CH2CH2Si(OC25)3 、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3CH2CH2Si(OCH3)3などを挙げることができる。アルキルシランとしては、例えばCH3(CH25Si(OCH33、CH3(CH217Si(OCH33、CH3(CH217Si(OC253 、CH3(CH211Si(OC253 、CH3(CH215Si(OC253などを挙げることができる。
【0024】
前記主剤の含有量としては、0.001〜1重量%が好ましい。主剤の含有量が0.001重量%よりも少なくなると、被膜形成が困難となり、1重量%を越えて多くなると、越えた分だけの主剤は被膜形成に関与せず、不経済となるからである。
【0025】
上記主剤は表面張力が25mN/m以下、好ましくは15mN/m以下の溶剤に配合される。溶剤は、該組成物の表面張力を低下させ、上述の作用効果を導き出すものである。このような溶剤には、主剤がフルオロアルキルシランの場合には、フルオロエーテルなどの分子中にフッ素を含有する化合物からなる表面張力が15mN/m以下の溶剤を用いるのが望ましい。主剤がアルキルシランの場合には、上記の分子中にフッ素を含有する化合物の他、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系の溶剤及びエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系容剤の中から選ばれるいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなり、表面張力が25mN/m以下である溶剤を用いるのが好ましい。
【0026】
上記主剤と溶剤とは、0.001:99.999〜1:99の重量比で配合されていることが望ましい。主剤と溶剤の配合割合が上記範囲外の場合、該組成物の表面張力を低下させ、上述の作用効果を導き出すことが困難となったり、撥水被膜の形成が困難となったりする恐れがあるからである。
【0027】
本発明の組成物は、酸又はアルカリ、或いはアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物を含む形態を採ることができる。酸又はアルカリは、上述の反応式(1)に示す主剤の加水分解反応を効果的に進行させる成分であり、例えば塩酸、硫酸、硝酸、芳香族スルホン酸、脂肪族スルホン酸、フッ素化スルホン酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを挙げることができる。
【0028】
アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物は、該組成物中において上述の反応式(2)に示す主剤の重合反応の進行を抑制する機能を持ち、該組成物をガラス表面に塗布し、組成物中の溶剤が乾燥した後は、主剤の重合反応を進行を抑制する働きを失い、該主剤の重合反応が進行するように作用する成分である。具体的には、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(エチルアセチルアセテート)、トリエトキシアルミニウム、トリ−イソ−プロキシアルミニウム、テトラ−イソ−プロキシチタン、テトラ−イソ−プロポキシジルコニウム、テトラ−イソ−ブトキシジルコニウム、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(トリエタノールアミン)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセトアセトネート)、ジルコニウムトリス(n−ブトキシ)モノ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(n−ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)などを挙げることができる。
【0029】
特には、主剤がフルオロアルキルシランの場合、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)のいずれかが好ましく、主剤がアルキルシランの場合、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(エチルアセチルアセテート)のいずれかが好ましい。
【0030】
アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物は、単独で使用してもよいが、水と併用する形態を採ることもできる。この場合、主剤の加水分解反応及び重合反応は以下の経緯を辿り、アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物の存在下で主剤の加水分解反応及び重合反応が効果的に進行することになる。すなわち主剤は、該組成物中において、アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物と共に含まれる水との接触により、反応式(1)の加水分解反応まで進行することになる。しかし主剤は、該組成物中(詳しくは溶剤中)に溶解しているアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物の影響で反応式(2)の重合反応が進行しないように抑制される。
【0031】
ところが、該組成物をガラス表面に塗布したとき、組成物中の溶剤は素早く蒸発し、残った水中に溶解している主剤は、水に不溶なアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物と分離される。この結果、アルコキシド又はキレート化合物による主剤の重合反応の抑制能が働かなくなり、主剤は、該組成物中に残存する水及び空気中に含まれる水分との間で反応が進行し、ガラス表面に撥水被膜が形成されるようになる。
【0032】
これら酸又はアルカリ、或いはアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物は、前記主剤100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含まれるのが望ましい。酸又はアルカリ、或いはアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物の含有量が上記範囲外の場合、上述した機能が十分に発揮されなくなったり、不経済となったりすることになるからである。
【0033】
尚、本発明の組成物には、必要に応じて凍結防止剤、pH調整、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤などを添加することができる。
【実施例】
【0034】
下記表1に実施例1〜3、並びに比較例1〜3に係る組成物の組成を示し、同じく表1には、実施例1〜3の各組成物を図2の(a)〜(c)の手順でガラス面上に塗布して撥水被膜を形成し、その被膜上の乱反射の有無を目視により確認した結果、並びに比較例1〜3の各組成物を図1の(a)〜(d)の手順でガラス面上に塗布して撥水被膜を形成し、その被膜上の乱反射の有無を目視により確認した結果を示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、比較例1の組成物によりガラス面上に形成された撥水被膜には、水滴状の跡が残り、乱反射が確認された。比較例2及び3の各組成物によりガラス面上に形成された撥水被膜には、いずれも水滴状の跡は確認されなかったが、過剰の主剤が載ることにより乱反射が確認された。
【0037】
一方、実施例1〜3の各組成物によりガラス面上に形成された撥水被膜には、いずれにも水滴状の跡や乱反射は確認されず、拭き取り作業を行わなくても、拭き取り作業を行った場合と同様な平滑な撥水被膜が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の組成物は、車輌用、船舶用、航空機用、或いは建築用などの窓ガラスだけでなく、洗面所や浴室などの鏡、その他、家庭用または産業用の各種製品に対して、広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力が25mN/m以下の溶剤中に、化学式 CF3(CF2)nCHSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、nは2〜9である。)で表されるフルオロアルキルシラン、又は化学式CH3(CH2)mSi(OR)3(但し、式中のRはCH3又はC25、mは2〜17である。)で表されるアルキルシランのいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなる主剤が含まれていることを特徴とするガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項2】
主剤がフルオロアルキルシランの場合、分子中にフッ素を含有する化合物からなる表面張力が15mN/m以下の溶剤を用いることを特徴とする請求項1に記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項3】
主剤がアルキルシランの場合、分子中にフッ素を含有する化合物、炭化水素系の溶剤及びアルコール系容剤の中から選ばれるいずれか1種、若しくは2種以上の混合物からなり、表面張力が25mN/m以下である溶剤を用いることを特徴とする請求項1に記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項4】
主剤と溶剤とが0.001:99.999〜1:99の重量比で配合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項5】
酸又はアルカリ、或いはアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項6】
酸又はアルカリ、或いはアルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物が、主剤100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項7】
アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物が、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、又はアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(エチルアセチルアセテート)、又はチタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)のいずれかであることを特徴とする請求項5又は6のいずれかに記載のガラス用撥水性コーティング組成物。
【請求項8】
アルミニウム、ジルコニウム及びチタニウムのアルコキシド又はキレート化合物と共に水が含まれていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のガラス用撥水性コーティング組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213813(P2011−213813A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81850(P2010−81850)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】