説明

ガラス管の切断方法及び切断装置

【課題】ガラス管の端面付近のように外面と内面との応力差が小さい部位であっても、切断面の面精度及び切断長さをそれぞれ高精度にすること。
【解決手段】中空状のガラス管1の内周面1aにカッター2により周方向A全周に亘って直線状の内周傷3を付与し、その後、ガラス管1の外側から加熱手段4により内周傷3と反対側の外周部分1bを局部的に加熱するガラス管の切断方法及び切断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蛍光灯用ガラス管を正規寸法に切断するためのガラス管の切断方法及び切断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のガラス管の切断方法として、連続成形されるガラス管の管引き速度と同調して往復台により切断装置全体をガラス管の移動方向と同一方向に同一速度で移動させると共に、その移動する間にカッターによりガラス管の外周面の周方向全周に亘って直線状の切り傷を入れ、この切り傷近傍に直接、冷却空気噴射ノズルから冷却用空気を吹き付けて急冷することで、切り傷を起点としたクラックを発生させてガラス管をカットする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ガラス管は、製造時に溶融状態から固化する際に、外面から冷却されていくが、外面と内面との温度降下の速度が大きい部位では、内面の温度降下の速度は外面に比べて遅くなるため、外面に圧縮応力、内面に引張応力を残した状態となり、外面と内面の応力差が大きいものであり、上記特許文献1に見られる従来例はこの応力差を利用して切り傷を起点としたクラックを発生させてガラス管をカットするものである。
【0004】
しかしながら、ガラス管の端面付近のように外面と内面との温度降下の速度が近い部位では、外面と内面の応力差が小さく、このように外面と内面の応力差の小さい部位においては、従来のような外面と内面の応力差を利用したカット方法では、切り傷を起点として引き起こされるクラックの進展方向にばらつきが生じやすくなり、切断面の面精度や切断長さにばらつきが生じて、製品歩留まり及び品質を低下させるという問題があった。
【特許文献1】特開平9−67136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、切断面の面精度及び切断長さをそれぞれ高精度にでき、製品歩留まり及び良品率が向上するガラス管の切断方法及び切断装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1記載のガラス管の切断方法は、中空状のガラス管1の内周面1aにカッター2により周方向A全周に亘って直線状の内周傷3を付与し、その後、ガラス管1の外側から加熱手段4により上記内周傷3と反対側の外周部分1bを局部的に加熱することを特徴としている。
【0007】
また請求項4記載のガラス管の切断装置は、ガラス管送り装置6で把持された中空状のガラス管1の内側に挿入されて該ガラス管1の内周面1aに周方向A全周に亘って直線状の内周傷3を付与するためのカッター2と、ガラス管1の外側から上記内周傷3とは反対側の外周部分1bを局部的に加熱するための加熱手段4とを具備していることを特徴としている。
【0008】
上記請求項1記載の切断方法又は請求項4記載の切断装置を採用することで、つまり、内周傷3とは反対側の外周部分1bを局部的に加熱することで外周部分1b付近に引張応力Mを発生させることができ、この引張応力Mを利用して内周傷3を起点として外周部分1bに至る垂直クラック5を容易に発生・進展させることができる。従って、ガラス管1の端面付近のように外面と内面との応力差が小さい部位であっても、ガラス管1を精度良くカットできるものである。
【0009】
また、請求項2記載のガラス管の切断方法は、上記内周傷3を付与する前に、ガラス管1の内周面1aを冷却手段7により予め冷却することを特徴としており、これにより、冷却による収縮によって局部的に圧縮応力を発生させた状態で内周傷3が付与されることとなり、内周傷3を付与した後に予め冷却した部位が常温に戻ると、冷却によって収縮した部分が膨張して元の体積に戻る。このとき内周傷3近傍に引張応力m´が発生することにより、垂直クラック5の発生・進展が一層容易となる。
【0010】
また、請求項3記載のガラス管の切断方法は、上記加熱手段4による加熱終了後に、ガラス管1の内側から冷却手段により内周傷3近傍を局部的に急冷することを特徴としており、これにより、ガラス管1の内周傷3近傍において急激な温度変動を引き起こすと共に内周傷3の部位に応力が集中することで垂直クラック5の発生・進展が一層容易となる。
【0011】
また請求項5記載のガラス管の切断装置は、上記カッター2が、ガラス管1の内周面1aに向けてバネ付勢される超硬ローラ2A又はダイヤモンドバイトで構成されていることを特徴としており、これにより、内周傷3の付与を容易にできると共に、カッター2の加工寿命を長くでき、加工コストの低減を図ることができる。
【0012】
また請求項6記載のガラス管の切断装置は、上記内周傷3を付与する前にガラス管1の内周面1aを予め冷却する第1の冷却手段7、又は、加熱手段4による加熱終了後に、ガラス管1の内側から内周傷3近傍を局部的に急冷するための第2の冷却手段8のうち少なくとも一方の冷却手段を備えることを特徴としており、これにより、第1の冷却手段7による冷却により内周傷3近傍に応力集中が引き起こされて垂直クラック5の発生・進展が一層容易になる効果、或いは、第2の冷却手段8による急冷により内周傷3に沿って急激な温度変動が発生して垂直クラック5の発生・進展が一層容易になる効果の少なくとも一方の効果が得られるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、従来のような外面と内面の応力差を利用してカットする方法ではなく、内周傷とは反対側の外周部分を局部的に加熱することにより外周部分に引張応力を発生させ、この引張応力を利用して内周傷を起点として外周部分に至る垂直クラックを容易に発生・進展させることができる。従って、ガラス管の端面付近のように外面と内面との応力差が小さい部位であっても、切断面の面精度及び切断長さをそれぞれ高精度にできる結果、製品歩留まり及び良品率を向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0015】
本発明のガラス管の切断装置は、図1に示すように、ガラス管送り装置6にて把持される中空状のガラス管1の内周面1aに周方向A全周に亘って直線状の内周傷3を付与するためのカッター2と、ガラス管1の外側から上記内周傷3とは反対側の外周部分1bを局部的に加熱するための加熱手段4とで主体が構成されている。なおガラス管送り装置6は、ガラス管1を把持してガラス管1をその軸芯回りに回転させる機構であればよく、その構造は特に限定されない。
【0016】
上記カッター2は、ガラス管1の内側に挿入されてガラス管1の内周面1aに沿って直線状の切り傷(以下「内周傷3」という)を付与するためのものであり、本例では、ガラス管1の内周面1aに向けてバネ付勢される超硬ローラ2A又はダイヤモンドバイトで構成されている。超硬ローラ2Aの一例を図2に示す。超硬ローラ2Aは、横軸型のリング状の刃10と、刃10を回転自在に保持する刃ホルダー11と、ローラ軸12に固定されるバネ支持部13と、バネ支持部13と刃ホルダー11との間に介在されて刃ホルダー11に保持された刃10をガラス管1の内周面1aに向けて押圧するバネ14とで構成されている。超硬ローラ2Aの刃10は例えばダイヤモンドや酸化タングステンなどの硬い材料からなる。本例ではガラス管1を回転させることにより、超硬ローラ2Aの刃10がガラス管1の内周面1aに対して摩擦摺動して内周傷3を付与するようにしている。また超硬ローラ2Aの刃10はガラス管1をカットする機能は持たず、切り傷である内周傷3を付与する機能のみを持つものである。なお、ガラス管1の厚みが例えば2〜3mmの場合は、内周傷3の深さを1mm以下となるように刃10の押圧力を調整するのが好ましい。
【0017】
上記加熱手段4は、ガラス管1の内周傷3とは反対側の外周部分1bを局部的に加熱するためのもので、本例ではガスバーナ4Aで構成されている。このガスバーナ4Aの火炎による局部的加熱によって外周部分1b付近に大きな引張応力Mが発生し、この引張応力Mによって内周傷3を起点として外周部分1bに至る垂直クラック5が容易に発生・進展するものである。この垂直クラック5の進展方向はガラス管1の面方向と垂直な方向Bである。なお加熱手段4としては、ガスバーナ4Aには限らず、例えば熱風を吹き付ける熱風噴射ノズル、或いは電熱ヒータなどであってもよい。
【0018】
次に、ガラス管1の切断工程を説明する。ここではガラス管1の外面と内面とに製造時の一様な引張応力mがそれぞれ残留しているものとする。
【0019】
先ず、ガラス管送り装置6で把持されたガラス管1内部に図1(a)の矢印イ方向から超硬ローラ2Aを挿入し、超硬ローラ2Aの刃10がガラス管1の所望のカット位置Pにくるように刃10の管軸方向位置を調整すると共に刃10を図1(a)の矢印ロ方向に移動してカット位置Pにおける内周面1aに押し当てた状態とし、この状態でガラス管1を図1(a)の矢印ハで示す軸芯廻りに回転させる。これにより、ガラス管1の内周面1aに周方向A全周に亘って直線状の内周傷3が付与される。このとき、ガラス管1の内周面1aは、図2に示すように、微小なうねりを持っているので、これに追随しながら超硬ローラ2Aの刃10がバネ14によって一定の押圧力で保持されながら摺動摩擦して内周傷3が確実に付与されるようになる。
【0020】
その後、超硬ローラ2Aをガラス管1内部から引き出し、図1(c)のようにガラス管1の外側からガスバーナ4Aで上記内周傷3と反対側の外周部分1bを局部的に加熱する。これにより内周傷3近傍で急激な温度変動を引き起こすと同時に、外周部分1bには残留引張応力mよりも大きな引張応力M(>m)が発生することで、内周傷3の部位に応力が集中して垂直クラック5が発生・進展するようになる。
【0021】
しかして、従来のような外面と内面の応力差を利用してカットする方法ではなく、本発明では、上記のように内周傷3と反対側の外周部分1bを局部的に加熱することにより外周部分1bに引張応力Mを発生させ、この引張応力Mを利用して内周傷3を起点として外周部分1bに至る垂直クラック3を容易に発生・進展させることができる。従って、ガラス管1の端面付近のように外面と内面との応力差が小さい部位であっても、切断面の面精度及び切断長さをそれぞれ高精度にできる効果が得られ、製品歩留まり及び良品率を向上させることができるものである。
【0022】
また本例ではカッター2を構成する超硬ローラ2Aを、回転するガラス管1の内周面1aに対してバネ14で刃10を押し当てる簡易な構造にでき、しかもガラス管1の内周面1aの微小なうねりに追随しながら超硬ローラ2Aの刃10で内周傷3を容易にしかも確実に付与できる利点もある。
【0023】
なお本例では、カッター2及びガスバーナ4Aをそれぞれ固定式とし、ガラス管1を回転させる構造を説明したが、例えば、ガラス管1を固定式とし、ガラス管1の外周面に沿って移動可能なロータリーカッター、或いはロータリーバーナーを用いることも可能である。
【0024】
図3及び図4は本発明の他の実施形態の説明図である。本例では、内周傷3を付与する前にガラス管1の内側から内周面1aを予め冷却するための第1の冷却手段7と、加熱手段4による加熱終了後にガラス管1の内側から内周傷3近傍を局部的に急冷するための第2の冷却手段8とを備えた場合を示している。なお、カッター2及びガスバーナー4Aの各構成、及び、ガラス管1の端面付近のように外面と内面の応力差が小さい部位をカットする点は前記図1の実施形態と同様である。図1の実施形態と対応する部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。なお第1の冷却手段7による予冷却と第2の冷却手段8による後冷却の両工程を備える場合に限らず、いずれか一方の冷却工程を省略することも可能である。本例では、第1及び第2の冷却手段7,8による両方の冷却工程を備えると共に各冷却手段7,8として、回転するガラス管1の内周面1aに向けて冷却用空気を吹き付けるためのブロワノズル7A,8Aを例示する。
【0025】
先ず、図3(a)のようにガラス管送り装置6に把持したガラス管1内部にブロワノズル7Aを挿入しガラス管1を回転させて、ガラス管1の内周傷3を付与する内周面部分をブロワノズル7Aからの冷風噴射により予め局部的に冷却する。
【0026】
その後、ブロワノズル7Aをガラス管1内部から引き出して、図3(b)に示すカッター2による内周傷3の付与工程と、図3(c)に示す内周傷3と反対側の外周部分1bをガスバーナ4Aにて局部的に加熱する加熱工程とを順次行なう。これら内周傷3の付与工程と加熱工程は前記図1(b)及び(c)と同様である。その後、ガスバーナ4Aの加熱を停止してから、図3(d)のようにガラス管1内部にブロワノズル8Aを挿入しガラス管1を回転させて、内周傷3近傍を冷風噴射により急冷する。例えば20℃のエアを噴射させる。
【0027】
しかして本例では、内周傷3が付与される前にその内周面1aを予め冷却することにより、図4(a)のように、冷却領域eにおける収縮によって局部的に圧縮応力nを発生させた状態で内周傷3が付与されるようになり、その後、内周傷3を付与した後に冷却された部分が常温に戻ると、冷却によって収縮した部分が膨張して元の体積に戻る。このとき図4(b)のように、内周傷3近傍には引張応力m´が発生することにより、その後の図3(c)及び図4(c)のガスバーナ4Aによる加熱によって外面側に大きな引張応力Mが発生することとあいまって、垂直クラック5の発生・進展が一層容易となる。
【0028】
さらに本例では、ガスバーナ4Aの加熱を停止してから、図3(d)のように内周傷3近傍を急冷することにより、内周傷3近傍で急激な温度変動を引き起こすと共に内周傷3の部位に応力が集中する。つまり内周傷3近傍に圧縮応力が発生し、内周傷3から離れた外周部分1bに加熱による大きな引張応力Mが発生しているので、内周傷3を起点とした垂直クラック5の発生・進展がより一層容易となり、結果、ガラス管1のカットを、より一層、精度良く行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)はガラス管の切断装置の説明図であり、(b)は同上のカッターにより内周傷が付与されたガラス管の断面図であり、(c)は同上の内周傷と反対側の外周部分を加熱手段により局部的に加熱する状態を説明する断面図である。
【図2】同上のカッターにより内周傷を付与する際のガラス管の軸直角断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示し、(a)は内周傷を付与する前にガラス管の内周面を予め冷却する工程説明図であり、(b)は同上のカッターにより内周傷を付与する工程説明図であり、(c)は同上の内周傷と反対側の外周部分を加熱手段により局部的に加熱する工程説明図であり、(d)は加熱終了後にガラス管の内側から内周傷近傍を局部的に急冷するための工程説明図である。
【図4】(a)は図3(b)に示すカッターにより内周傷を付与する場合に内周傷近傍に発生する圧縮応力の説明図であり、(b)は同上の内周傷を付与した後に内周傷付近に発生する引張応力の説明図であり、(c)は図3(c)に示すガスバーナによる加熱により外周部分に発生する引張応力の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ガラス管
1a 内周面
1b 外周部分
2 カッター
2A 超硬ローラ
3 内周傷
4 加熱手段
5 垂直クラック
6 ガラス管送り装置
7 第1の冷却手段
8 第2の冷却手段
A 周方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のガラス管の内周面にカッターにより周方向全周に亘って直線状の内周傷を付与し、その後、ガラス管の外側から加熱手段により上記内周傷と反対側の外周部分を局部的に加熱することを特徴とするガラス管の切断方法。
【請求項2】
上記内周傷を付与する前にガラス管の内周面を冷却手段により予め冷却することを特徴とする請求項1記載のガラス管の切断方法。
【請求項3】
上記加熱手段による加熱終了後に、ガラス管の内側から冷却手段により内周傷近傍を局部的に急冷することを特徴とする請求項1記載のガラス管の切断方法。
【請求項4】
ガラス管送り装置で把持された中空状のガラス管の内側に挿入されて該ガラス管の内周面に周方向全周に亘って直線状の内周傷を付与するためのカッターと、ガラス管の外側から上記内周傷とは反対側の外周部分を局部的に加熱するための加熱手段とを具備してなることを特徴とするガラス管の切断装置。
【請求項5】
上記カッターは、ガラス管の内周面に向けてバネ付勢される超硬ローラ又はダイヤモンドバイトで構成されていることを特徴とする請求項4記載のガラス管の切断装置。
【請求項6】
上記内周傷を付与する前にガラス管の内周面を予め冷却する第1の冷却手段、又は、加熱手段による加熱終了後にガラス管の内側から内周傷近傍を局部的に急冷するための第2の冷却手段のうち少なくとも一方の冷却手段を具備することを特徴とする請求項4又は請求項5記載のガラス管の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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