説明

ガラス組成物、結晶化ガラス組成物及びそれらの製造方法

【課題】電子材料や光学材料として有用なバルク状のガラス組成物を提供する。
【解決手段】下記の配合条件1又は2を満たす、成分(A)〜(C)を含有する混合物を、1300〜1800℃で溶解する工程を含む、ガラス組成物の製造方法。
・配合条件1
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
・配合条件2
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、結晶化ガラス組成物及びそれらの製造方法に関し、特に、インジウム系酸化物ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料は、それを構成する組成成分を適宜選択し、かつ、各成分の割合を変化させることによって、所望の物性を実現することが可能である。このため、ガラス材料は、電気・光学等の様々な技術分野で用いられている。
一般的にガラス材料は、セラミックスや白金の坩堝に原料を投入して高温の炉で原料を熔融させてガラス化することで製造される。しかしながら、この方法では、原料組成によっては、結晶の析出や相分離が発生するため、均質にガラス化することが困難な場合がある。また、高温にしても熔融せず、未熔融固体となって残る成分もある。さらに、粉体状や薄片状のガラスを得ることはできるが、粉体や薄片よりも嵩高い塊(バルク状)のガラスを得ることができない場合が多い。
【0003】
ガラス材料として、例えば、特許文献1には酸化チタン(TiO)を主成分とした高屈折率のガラス材料が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には酸化スズや酸化インジウム等の導電性酸化物を混入させたガラスが提案されている。このガラスでは、導電性酸化物の割合が25重量%以下であり、ガラスの主成分はSiOである。本文件では、導電性微粒子を高温で溶融させていないため、導電性微粒子が均一に分散しないおそれがある。
【特許文献1】特開2008−69047号公報
【特許文献2】特開2002−156501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料や光学材料として有用なバルク状のガラス組成物を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ガラス組成物の原料として酸化インジウムに代表されるインジウム化合物に着目した。従来、酸化物ガラスはSiO等のネットワークフォーマー(ガラス形成酸化物)と呼ばれる酸化物が必須であった。また、酸化インジウムを用いた原料では、ガラス化できる組成範囲が極めて狭いと考えられていた。
しかしながら、本発明者らはインジウム化合物と他の化合物とを組み合わせてガラス化することにより、インジウム化合物を主成分とするバルク状のガラス組成物が得られることを見出した。また、ネットワークフォーマーを全く使用せずに、又は少量の使用にてガラス組成物が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のガラス組成物の製造方法等が提供できる。
1.下記の配合条件1又は2を満たす、成分(A)〜(C)を含有する混合物を、1300〜1800℃で溶解する工程を含む、ガラス組成物の製造方法。
・配合条件1
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
・配合条件2
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
2.さらに、前記混合物がSn元素を含む化合物を含有する1に記載のガラス組成物の製造方法。
3.上記1又は2に記載の製造方法により製造したガラス組成物。
4.上記3に記載のガラス組成物を熱処理により結晶化した結晶化ガラス組成物。
5.下記(A)〜(C)を含む、ガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。
(A)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
6.下記(A’)〜(C’)を含む、ガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。
(A’)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B’)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C’)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
7.さらに、前記混合物がSn元素を含む化合物を含有する5又は6に記載のガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス組成物の製造方法により、インジウム系であってバルク状のガラス組成物が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガラス組成物の製造方法は、成分(A)〜(C)を含有する混合物を、1300〜1800℃で溶解する工程を含む。
(A)In元素を含む化合物
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物
【0010】
上記の各化合物としては、各元素の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩、金属アルコキシド等が挙げられる。例えば、インジウム元素を含む化合物としては、酸化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウム、水酸化インジウム、インジウムアルコキシド等が挙げられる。
各元素の化合物のうち、溶融工程で、化合物成分の蒸発の際に、インジウムを蒸散防ぐことから、酸化物が好ましい。
【0011】
原料化合物は、粉末状であることが好ましい。本発明において「粉末」とは、平均粒径は100μm以下のものをいう。特に、平均粒径が5μm以下であれば溶融時に均質になるので好ましい。尚、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−300V(島津製作所製)で測定した値である。
各化合物の純度は99%以上であることが好ましい。
【0012】
上記化合物を所定量秤量し、均一に混合する。化合物の蒸散率等が予め分かっている場合は、その蒸散率に応じて原料を秤量する。混合は一般的な混合方法でよく、乾式又は湿式方法が使用できる。コストを考えると乾式方法が好ましい。例えば、ボールミルによる混合が好ましい。秤量した化合物混合体とミル用ボールとを容器に入れ、ボールミル撹拌装置にて撹拌する。
【0013】
本発明では、成分(A)〜(C)を含む原料混合物の配合が下記の条件1又は2を満たす。
・配合条件1
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素(M)を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素(M)を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
配合条件1では、ネットワークフォーマーである(B)を少量配合することにより、In元素を含む化合物の比率が高い原料系であってもガラス化することが可能となる。
【0014】
上記(A)の配合量について、混合物全体に占める量は、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下である。好ましくは、72重量%以上88重量%以下であり、特に好ましくは75重量%以上85重量%以下である。
尚、本願において酸化物換算とは、In元素を含む化合物を、Inに換算して計算した値を意味する。
【0015】
上記(B)について、金属元素(M)を含む化合物は、ネットワークフォーマーに該当する。これらの成分はガラスを作製する際にガラスの溶解温度を下げ、ガラスの失透を抑える効果がある。
金属元素(M)を含む化合物の配合量について、混合物全体に占める量が酸化物換算で25.0重量%以下である。含有量が多すぎる場合は屈折率を下げたり電気抵抗を上げるため光学特性や電気特性を下げる可能性がある。Mを含む化合物の配合量は、さらに、10.0重量%以下であることが好ましく、特に、8.0重量%以下であることが好ましい。下限は1.0重量%以上であり、好ましくは2.0重量%以上である。
尚、酸化物換算とは、金属元素(M)を含む化合物を、Mの酸化物に換算して計算した値を意味する。具体的には、各M化合物を、SiO、GeO、B、P、As又はTeOとみなして計算する。後述する各M化合物等も同様である。
【0016】
SiO成分、B成分、P成分は、失透に対する安定性を向上させ、ガラスの化学的耐久性及び表面硬度を改善する効果を有する。
As成分は、ガラス溶融時の脱泡効果がある。
GeO成分は、ガラスの溶融性、安定性を改善する成分である。
【0017】
上記(C)について、金属元素(M)を含む化合物は、ガラスの透明性に関係する成分である。これらはガラスの形成を促進する。
金属元素(M)を含む化合物の配合量について、混合物全体に占める量が酸化物換算で30.0重量%以下である。添加量が多すぎると屈折率を下げるおそれがある。Mを含む化合物の配合量は、好ましくは28.0重量%以下であり、特に好ましくは25.0重量%以下である。
一方、M化合物の含有量が少ない場合、ガラス化が困難になったり、光学特性や電気特性が著しく劣化する可能性がある。M化合物の含有量は1重量%以上が好ましい。より好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%以上である。
【0018】
尚、ZnO成分は、ガラスの溶融性、安定性と加工性の向上に効果的な成分である。
Ga成分は、ガラスの溶融性、安定性と透過性を改善する成分である。
【0019】
・配合条件2
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素(M)を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素(M)を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
配合条件2では、ネットワークフォーマーである(B)を必須としない。この配合により、ネットワークフォーマーを使用しなくてもガラス化することが可能となる。尚、ネットワークフォーマーを配合してもよい。
【0020】
上記(A)の配合量は、混合物全体に対して酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満である。好ましくは、27.0重量%以上66.7重量%以下であり、特に好ましくは30.0重量%以上65.0重量%以下である。
【0021】
上記(B)について、金属元素(M)を含む化合物の配合量は、混合物全体に対して酸化物換算で20.0重量%以下である。含有量が多すぎる場合は屈折率を下げたり電気抵抗を上げるため光学特性や電気特性を下げる可能性がある。Mを含む化合物の配合量は、さらに、10重量%以下であることが好ましい。
【0022】
上記(C)について、金属元素(M)を含む化合物の配合量は、混合物全体に対して酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下である。含有量が多すぎる場合は屈折率を下げたり電気抵抗を上げるため光学特性や電気特性を下げる可能性がある。一方、M化合物の含有量が少ない場合、ガラス化が困難になったり、光学特性や電気特性が著しく劣化する可能性がある。M化合物の配合量は、酸化物換算で25.0重量%以上67.0重量%以下であることが好ましく、特に、27.0重量%以上65.0重量%以下であることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明では原料混合物にSn元素を含む化合物を配合してもよい。Sn元素を含む化合物は、ガラス組成物を結晶化するときに、酸化インジウム相に固溶し、結晶化ガラス組成物の導電性を上げる効果がある。
一方、ガラス組成物を製造する際にはガラス化を阻害する。従って、Sn化合物の配合量は、混合物全体に対して酸化物換算で30重量%以下が好ましい。より好ましくは20重量%、さらに好ましくは15重量%以下である。下限は、1.0重量%以上、より好ましくは2.0重量%以上である。
Sn元素を含む化合物としては、酸化スズが好ましい。
【0024】
また、本発明では原料混合物に下記の(D)成分を配合してもよい。
(D)Sc、Y、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Fe、Co、Ni、Mn、V、Mo、W、Cr、Sb、Cu、Ag、Al、Bi、Cd、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される金属元素(R)を含む、1又は2以上の化合物
尚、(D)の化合物は、Mn及びSbから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物であることが好ましい。
【0025】
原料混合物に金属元素(R)を含む化合物を配合することにより本発明のガラスに種々の機能を付加することができる。例えば、ガラスの屈折率を上げたり、ガラス化を促進したり、着色する効果がある。
また、ガラス組成物を結晶化させた場合、金属元素(R)がInを主成分とする結晶相に含まれることにより、光学特性や電気特性を高める効果がある。尚、(D)成分は任意成分である。
【0026】
金属元素(R)を含む化合物の含有量は、混合物全体に対して酸化物換算で、好ましくは40重量%以下であり、より好ましくは35重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。金属元素(R)を含む化合物が多すぎると、ガラス化が困難になったり、結晶化が困難になる場合がある。
【0027】
金属元素(R)を含む化合物について、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Tm、Yb、Lu及びEr成分は、ガラスの密度を高め、ガラスの屈折率や表面硬度を向上する成分である。また、ガラスを着色する成分もある。特に、化学的耐久性の向上のためには、Laが好ましい。Laを使用すれば、他の成分よりも少量の配合で効果が得られる。
WO成分、MoO成分は、ガラスの安定性、化学耐久性、電気特性に向上に効果がある成分である。
【0028】
ZrO成分、HfO成分は、ガラスの表面の硬さの向上、及び結晶化の際の核生成剤として効果がある成分である。
【0029】
ニオブ(Nb)及び酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、ガラスの溶解を容易にする効果がある成分である。
タンタル(Ta)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、ガラスの化学的安定性の向上に効果がある成分である。
【0030】
CeO成分は、化学的耐久性の向上、結晶化の際の核生成剤として効果がある成分である。
バナジウム(V)酸化物成分は、ガラスの溶融性、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、黄色系に着色する効果がある成分である。
クロム(Cr)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、ガラスを緑色系に着色する効果がある成分である。
マンガン(Mn)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、ガラスを著しく茶黒色系に着色する効果がある成分である。
鉄(Fe)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性又は磁気特性の向上に効果があり、ガラスを着色する効果があり、ガラスを茶色系の着色する効果がある成分である。
コバルト(Co)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性又は磁気特性の向上に効果があり、ガラスを紫色系あるいは緑色系の着色する効果もある成分である。
ニッケル(Ni)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性又は磁気特性の向上に効果があり、ガラスを緑色系の着色する効果もある成分である。
銅(Cu)酸化物成分は、ガラス及び結晶化ガラスの電気特性の向上に効果があり、ガラスを茶色あるいは黄色あるいは青緑色に着色する効果があり、結晶化の際の核生成剤にも効果がある成分である。
銀(Ag)酸化物成分は、ガラスを茶色に着色する効果があり、結晶化の際の核生成剤として効果がある成分である。
Al成分は、ガラスの化学的耐久性の安定性と透過性を改善する成分である。
Sb成分は、ガラス溶融時の脱泡効果がある。
PbO、Bi成分は、ガラス形成を安定化させる効果と屈折率を上げる効果がある任意成分である。
【0031】
尚、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
また、フッ素成分は、ガラス溶融の際に揮発する問題があり、さらに脈理発生の原因となるため、本発明のガラス組成物においては、実質的に含まないことが好ましい。
尚、「実質的に」とは、1重量%、好ましくは0.5重量%、より好ましくは0.1重量%を限度として不純物の存在を許容する趣旨である。
【0032】
本発明では原料混合物に、上述した化合物の他、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種の元素(R’)を含む化合物(E成分)を配合してもよい。これらの化合物は、ガラス化を容易にするガラス修飾酸化物である。尚、これらの化合物はガラスを作製する際にガラスの溶解温度を下げ、ガラスの失透を抑える効果もある。
(R’)を含む化合物の配合量は、混合物全体に対して酸化物換算で、10重量%以下であることが好ましい。含有量が多すぎると、屈折率を下げたり、又は上げ過ぎたりすることや、電気抵抗が高くなり光学特性や電気特性を下げるおそれがある。
【0033】
元素(R’)を含む化合物について、LiO成分、NaO成分は、ガラスの溶融性を改善する成分である。
O成分は、ガラスの溶融性、安定性を改善する成分である。
MgO成分、CaO成分は、ガラスの溶融性を改善させ、透明性を向上するのに効果的な成分である。
SrO成分、BaO成分はガラスの溶融性、安定性及び屈折率の向上に効果がある。
【0034】
尚、本発明において原料混合物にカレットと呼ばれるガラス溶解物を配合してもよい。
【0035】
上述した原料混合物を、加熱して溶解しガラス組成物とする。
加熱は、通常の溶解炉にて実施すればよい。原料混合物を、石英坩堝、アルミナ坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で加熱し溶解する。溶解前に、必要であれば脱水工程や脱炭酸工程等を設ける。
溶解温度は1300〜1800℃である。この温度範囲であれば、原料粒子を十分に溶解することができるため、原料が粒子状のままガラス内に残存することを防止できる。溶解温度は、好ましくは1400〜1700℃、特に好ましくは1450〜1650℃である。
また、溶解時間は、好ましくは0.1〜200時間、より好ましくは0.5〜100時間、特に好ましくは1〜72時間である。溶解時間を1〜72時間とすれば、原料混合物を溶融状態で均質に混合でき、また、ガラス中の気泡を除去できるため好ましい。
尚、炭酸ガスレーザー等の加熱装置で、原料混合物を瞬間的に加熱溶融する場合、溶解温度及び時間は上記の限りではない。その場合には均質性を高めるため、混合工程は十分な混合が必須となる。
【0036】
溶融物を撹拌して均質化した後、適当な温度に下げてガラス組成物を得る。溶融物を急冷することで、結晶化していないガラス組成物が得られる。冷却及び成型は、例えば、以下のように行えばよい。
1.溶融物を金型等に鋳込み冷却する。
2.溶融物をステンレス鋼に流し出し冷却する。ステンレス鋼に挟み込むことによって急冷する。
3.ステンレス製の双ローラーに溶融物を流し出して急冷する。
4.溶融物を線引きしてファイバー化しながら冷却する。
【0037】
本発明の製造方法では、バルク状のガラスを得ることができるため、様々な用途への応用が考えられる。例えば、ファイバー等の形状とすることにより、電子材料分野や光電子材料分野への応用が可能となる。尚、本明細書において、バルク状とは薄膜を除く趣旨であり、繊維状では長さが1μm以上(好ましくは5μm以上)である形状であり、塊状では、最小サイズが0.1μm以上(好ましくは1μm以上)(より好ましくは5μm以上)である。
【0038】
続いて、本発明のガラス組成物及び結晶化ガラス組成物について説明する。
本発明のガラス組成物は、下記(A)〜(C)又は(A’)〜(C’)を満たす。
・ガラス組成物1
(A)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
・ガラス組成物2
(A’)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B’)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C’)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
【0039】
ガラス組成物は、さらにSn元素を含む化合物を含有していてもよく、また、上述した(D)成分や(E)成分を含有していてもよい。
本発明のガラス組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の製造方法により製造することができる。各成分の好ましい含有率は、上述した製造方法の配合と同じである。
各化合物の組成物全体に占める量(酸化物換算値)は、ガラス組成物を溶解しその溶液をICP分析により測定できる。
【0040】
尚、本明細書において、「ガラス」とは、XRD回折において明らかな回折ピークを持たない物質をいう。
本発明のガラス組成物とは、溶融物を種々の方法で冷却して得られた物質をいう。
【0041】
本発明のガラス組成物1は、上記成分(A)、(B)及び任意に(C)、Sn化合物から実質的になっていてもよく、また、これらの成分のみからなっていてもよい。「実質的になる」とは、上記組成物が、主に上記成分(A)、(B)及び任意に(C)、Sn化合物からなることであり、これらの成分の他に上記の成分(D)、(E)等を含み得ることである。
同様に、本発明のガラス組成物2は、上記成分(A’)、(C’)及び任意に(B’)、Sn化合物から実質的になっていてもよく、また、これらの成分のみからなっていてもよい。「実質的になる」とは、上記組成物が、主に上記成分(A’)、(C’)及び任意に(B’)、Sn化合物からなることであり、これらの成分の他に上記の成分(D)、(E)等を含み得ることである。
【0042】
本発明の結晶化ガラス組成物は、上述したガラス組成物を結晶化したものである。尚、結晶化ガラスとは、XRD回折により何らかの結晶に由来する回折ピークが確認されるものをいう。
ガラス組成物を結晶化することで、結晶の持つ特性、例えば、強度、電気伝導性、誘電性、圧電特性等を付与することができる。
尚、本発明のガラス組成物は非常に結晶化しやすい。例えば、ガラス組成物を500℃で1時間熱処理することで、Inを主成分とする結晶相(例えば、Inビクスバイト相)が析出する。この結晶相を含んだ結晶化ガラスは、その結晶の特有な性質により電気特性を上げる効果があり、電気伝導性や半導体特性、圧電性、誘電性を付与することができる。
【0043】
ガラス組成物を結晶化させる方法として、上述したガラス組成物を加熱する方法がある。結晶化ガラスを作製する場合、原料混合物に予め核生成剤を混入させてガラス組成物を作製してもよい。核生成剤としては、貴金属や酸化物、窒化物等を用いることができる。
【0044】
結晶を析出させる温度は200℃〜900℃が好ましい。より好ましくは300℃〜800℃、さらに好ましくは380℃〜700℃である。200℃以下では結晶が析出しない可能性があり、900℃以上ではガラスの軟化が起こるため目的形状を維持しないおそれがある。
【0045】
結晶化は、核形成段階と結晶成長段階の2段階で行っても良い。
核生成温度は、ガラスの組成により異なるが、200〜600℃で0〜5時間、結晶成長は、300℃〜800℃、1〜72時間で行うのが好ましい。
結晶化させる雰囲気は、特に限定はなく、大気下や酸素雰囲気、窒素等不活性雰囲気又は真空雰囲気でよい。コスト等を考えると大気、酸素雰囲気下が好ましい。
【0046】
本発明のガラス組成物及び結晶化ガラス組成物は、ファイバー状又は所望の形状とすることで、電気導電デバイス、電気半導体デバイス、電圧信号記憶素子、光感知素子及び光伝達素子、屈折率を制御した光学材料等に応用することができる。また、板状の成型も容易なことから薄膜作製用の材料としても使用できる。
【0047】
本発明のガラス組成物は結晶化しやすい。例えば、ガラス組成物にレーザー光を照射することで、特定の部位に結晶相を析出することが可能である。ガラス組成物にナノ結晶粒子を形成することができるため、フォトニクス物質としての応用も考えられる。
また、ファイバー化したガラス組成物を部分的に結晶化し、光非線形を持たせた物質を作ることで、光スイッチング素子等の光学素子としても応用できる。
また、任意形状のガラス組成物を熱処理して析出する結晶を制御することにより、電気導体から半導体又は絶縁体まで制御することが可能なため、電気導電デバイスとして使用できる。
また、析出する結晶中にFe等の遷移金属を混入させることにより磁気的性特性も制御できるため、電磁気記憶素子にも使用できる。
【実施例】
【0048】
[配合条件1]
実施例1−12、比較例1−5
表1に示す原料混合物の配合となるように各化合物(酸化物)を秤量した。尚、各酸化物は、工業用に市販されているものを使用した。
原料混合物を乾式ボールミルにより混合することにより均一に混合した。原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、1350〜1600℃で2時間溶解した。その後、下記A〜Cのいずれかの方法により冷却してガラス組成物を作製した。尚、Aは最も冷却速度が遅く(除冷)、Cが最も冷却速度が速い(急冷)。一般に、冷却速度が速いとガラス化しやすく、除冷した場合は結晶を生じやすい。
A:加熱停止後に坩堝を炉内で放冷した。
B:加熱停止後に炉内から坩堝を取り出し、室温にて冷却した。
C:炉内から坩堝を取り出し、ステンレス製の板で挟むことで急冷した。
【0049】
表1に実施例及び比較例のガラス化の有無を示す。ガラス化の判定はX線回折(XRD)装置(リガクUltimaIII)によりXRDの回折ピークの有無によって、以下のように判定した。
◎: 上記Aの冷却条件でガラス化した場合
○: 上記Bの冷却条件でガラス化した場合
△: 上記Cの冷却条件でガラス化した場合(一部結晶がある場合も含む)
×: 上記A〜Cの冷却条件でガラス化しなかった場合
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1で作製したガラス組成物のXRD回折パターンを図1に、比較例1で作製したガラス組成物のXRD回折パターンを図2に示す。図1では、結晶の回折ピークが見られないことから実施例1の組成物はガラス化していると判定した。一方、図2では、結晶の回折ピークが見られることから、結晶の析出が確認された。従って、比較例1では、ガラス組成物は得られなかった。
【0052】
[配合条件2]
実施例13−29、比較例6−8
表2に示す原料混合物の配合で出発原料を秤量した他は、実施例1と同様にして、バルク状のガラス組成物を作製した。
表2に実施例及び比較例のガラス化状態を示す。
【0053】
【表2】

【0054】
[ファイバーの作製]
実施例30
(1)ファイバー状ガラス組成物の作製
実施例1と同じ原料混合物を、実施例1と同様に坩堝にいれ、電気炉内1600℃で、途中に白金棒で攪拌しながら、2時間溶融した。その後、坩堝を900℃で加熱したアルミナ製の板上に取り出した。石英ガラス棒を溶融物につけ、引き上げることによりファイバー状に成形した。成形物を冷却して、透明なガラスファイバーを作製した。
このファイバーの平均径は1.23ミクロンであった(ノギスにより5点測定した平均値)。
このファイバーを粉砕してX線回折測定したところ、ピークは見られなかったことからガラス組成物であると判定した。
【0055】
(2)ファイバー状結晶化ガラス組成物の作製
(1)で作製したファイバー状ガラス組成物を、加熱炉(大気雰囲気)で500℃、1時間加熱処理をして、ファイバー状結晶化ガラス組成物を作製した。ファイバーの形状は維持され、透明であった。
結晶化ガラス組成物を粉砕してX線回折を測定したところ、Inのビクスバイト型の結晶構造が観測され、結晶化していることが確認できた。
【0056】
(3)部分的に結晶化させたファイバー状ガラス組成物の作製
ガラスファイバー用の赤外集光炉を使用し、(1)で作製したファイバー状ガラス組成物の一部を加熱した。加熱条件は大気雰囲気中で600℃1分とした。
加熱部分をTEM観察で観察したところ結晶相が観察された。加熱部分の電子線回折像からInのビクスバイト相であることが確認できた。一方、加熱していない部分に関しては、結晶化が起こっておらず非晶質であることが確認された。
【0057】
[スパッタリングターゲット]
実施例31
(1)スパッタリングターゲットの作製
実施例1と同じの原料混合物500gを白金坩堝にいれ、電気炉内で1600℃、途中に白金棒で撹拌しながら、10時間に溶融した。溶融体を坩堝から、300℃で加熱したカーボン製の金型(直径110cm、厚さ1cm)に流し出した。室温まで冷却後、固化物を金型から取り出し、アルミナ製の板上に置いた。この状態で、加熱炉にて昇温速度10℃/分で600℃まで昇温した。600℃で5時間加熱処理し、結晶化させた。冷却後、得られた試料を研削、研磨して、直径10cm、厚み5mmのスパッタリングターゲットを得た。
【0058】
(2)スパッタリングターゲットの評価
(1)で作製したスパッタリングターゲットを用いて、膜厚50nmの薄膜を作製した。具体的に、スパッタリング装置(島津製、HSM−552)を使用し、Ar雰囲気、スパッタリング圧力0.2Pa、RF出力100Wの条件で成膜した。
得られた薄膜は透明であった。比抵抗をロレスタ(三菱化学製)で測定したところ、2×10−3Ωcmであり導電膜であった。
薄膜をX線回折測定した結果、明確なピークが観測されず非晶質であった。
薄膜の表面をAFM装置(JSPM−4500、日本電子製)で10ミクロン×10ミクロン角の平均表面粗度を測定したところ、0.4nmと非常に平坦であった。
【0059】
[結晶化ガラスの作製]
実施例32
実施例1で作製したガラス組成物を600℃1時間で熱処理した。
熱処理後のガラス組成物のXRD回折パターンを図3に示す。図3から、ビクスバイト相が析出していることがわかる。尚、結晶化したが、目視による変化はなく試料は透明であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のガラス組成物は、酸化インジウムを含み、バルク状で得ることが可能なため、所望の大きさ・形状のインジウム系酸化物ガラスを製造することができる。
ガラス組成物及び結晶化ガラス組成物は、優れた抵抗発熱性、静電気防止性、電磁波シールド性、電界シールド性等の機能を有することができる。従って、光学材料、建材、抵抗発熱材、静電気防止材、電磁波シールド材、電界シールド材等として種々の分野に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1で作製したガラス組成物のX線回折パターンである。
【図2】比較例1で作製したガラス組成物のX線回折パターンである。
【図3】実施例32で作製した結晶化ガラス組成物のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の配合条件1又は2を満たす、成分(A)〜(C)を含有する混合物を、1300〜1800℃で溶解する工程を含む、ガラス組成物の製造方法。
・配合条件1
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
・配合条件2
(A)In元素を含む化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:混合物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
【請求項2】
さらに、前記混合物がSn元素を含む化合物を含有する請求項1に記載のガラス組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造したガラス組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のガラス組成物を熱処理により結晶化した結晶化ガラス組成物。
【請求項5】
下記(A)〜(C)を含む、ガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。
(A)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で70.0重量%以上90.0重量%以下
(B)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で1.0重量%以上25.0重量%以下
(C)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で30.0重量%以下
【請求項6】
下記(A’)〜(C’)を含む、ガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。
(A’)In元素を含む化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%未満
(B’)Si、Ge、B、P、As及びTeから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で20.0重量%以下
(C’)Zn、Ga及びTiから選択される金属元素を含む、1又は2以上の化合物:組成物全体に占める量が、酸化物換算で25.0重量%以上70.0重量%以下
【請求項7】
さらに、前記混合物がSn元素を含む化合物を含有する請求項5又は6に記載のガラス組成物又は結晶化ガラス組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−89984(P2010−89984A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260702(P2008−260702)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】